健康情報

2021年11月11日木曜日

『漢方薬の実際知識』の生薬の配剤からみた薬方解説

 まえがき

 昨今、日増しに伝えられる公害問題や薬の副作用などによって、漢方薬が見なおされ、いわゆる副作用のない薬として、一般大衆の漢方への関心がたかまってきている。これらのことを反映して、漢方薬関係書が数多く出版されている。したがって、近時一般大衆の漢方薬への知識は、かなりたかくはなっているが、まだ民間薬との区別さえわからない人がほとんどといってよい。そのため、なまはんかな勉強をした一般大衆による素人療法がまかりとおっている。しかし、漢方薬も誤った使い方をすれば、死への転帰をたどったり、あるいは病気が悪化したり、下痢が止まらなくなったりすることもまれではない。一般素人がいだいている”漢方薬だから作用はおだやかである”という考えだけで使用することは、おそろしい結果を招くことにもなる。

 一般素人のかたが漢方薬を使用する際には、専門家の指導を受ける必要のあることはいうまでもないことである。

 ところで、漢方薬を系統的に記した書物は、あんがい、みあたらないようである。そこで本書は、これらのことを考え、漢方薬の薬方を構成する意義から説き起こし、各薬方の関連性についてのべ、主要漢方生薬の解説を行なった。さらにその内容については、一般素人にもわかりやすく、正しい漢方薬の知識がえられ、また、漢方薬について知識のある人にとっても、薬方の整理をする一助ともなれるように心がけたつもりである。

 昭和四七年一一月

 

増補によせて

 本書は「まえがき」で記しているように、漢方薬が薬方を構成する意義から説き起こし、各薬方の関連性について述べ、主要薬方解説を記したが、漢方薬が薬方を構成する理由のところでほんの一部を記したにすぎないため、主要薬方解説での、1 柴胡剤、2 順気剤、3 駆瘀血剤、……などの区分がなぜなされているかの理由を明瞭には記していない。したがってともすればこの区分を、ただ単なる薬方の羅列であると思い、安易に見過ごしがちである。

 しかし本書の区分はただ単に薬方を分類するためにあるのではなく、一面では生薬の配剤による変化を追うとともに、他面では類似の薬効(薬方の効く部位、病人の体力、病勢)を追って区分されている。いいかえれば本書の区分の意図は、薬方の方意を正しく把握し、随證療法を単純化することにある。

 随證療法の単純化は次のようにして行なわれる。すなわち、患者の病状により得られた各種の情報を気、血、水に分類し、それが主に気だけの場合には気順剤を、主に水だけの場合には駆水剤を、主に血だけあるいは気と血、血と水、気と血と水の場合には駆瘀血剤(気と血と水の場合には解毒剤、下焦の疾患、その他の項に記された薬方を用いることもある)を用いる。しかし、それが気と水の場合には複雑で、患者の症状によって種々のものが用いられる。すなわち、1 胸脇苦満あるいはそれに類する症状があれば柴胡剤を、2 症状が表証のみであれば、表証、麻黄剤を、3 中焦の症状が主であれば建中湯類を、4 裏証の症状が主であれば裏証Ⅰ(冷え)、裏証Ⅱ(冷えと新陳代謝の低下)を、5 便秘なら承気湯類を、6 心下痞があれば瀉心湯類を、7 以上のいずれにも該当しなければ解毒剤、下焦の疾患、皮膚疾患、その他の項に記載の薬方を用いる。

 いうまでもないことであるが、合病であるならば同じことを再度繰り返して薬方を合わせて使用すればよいのである。しかし、生薬は組み合わせて用いれば薬効が変化することがあり、いま、合方した薬方がはたして目的とする薬効を発現させるかどうかを見きわめなければ使用することはできない。このためにも組合わせによる変化を正しく把握しておかなければならない。

 このような理由により、「第九章 生薬の配剤からみた薬方解説」を追加したものである。

 昭和五六年六月

 

2 漢方薬が薬方を構成する理由

 生薬を二種以上、同時に使用した場合、そのときに現われる薬効が、単にそれぞれ単独で使用したときに起こる作用を合わせただけ(相加作用という)であるならば、症状をみて各症状に有効な生薬を加え合わせればよいことになる(漢方薬以外の薬は、このような考え方で組み合わされている)。

 しかし、二種以上の生薬をまぜて服用したときに起こる現象は、ただ単にそれぞれの生薬によって起こる作用を加え合わせたということでは、説明のつかないことが多い。あるときはその作用が、ただ単に加え合わせたと考えられる以上に強くなり(相乗作用という)、あるときは弱くなり(相殺作用という)、またあるときは、まったく別の作用を示す(方向変換という)。たとえば、麻黄(まおう)を例にとってみると、麻黄単独の作用は、発汗剤で皮膚の排泄機能障害を治すものである。ところが、この麻黄に桂枝(けいし)を加えると、発汗剤となり、石膏を加えると、止汗剤(方向変換)となる。さらに麻黄と桂枝と石膏の三種を合わせると、麻黄と桂枝の作用である発汗作用が助長される(相乗作用)。また麻黄に朮(じゅつ)を加えると、利尿剤(方向変換)となり、麻黄に杏仁(きょうにん)を加えると、鎮咳剤(方向変換)になる。このように、加えられる相手によってその作用が変わっていくわけである。

 附子の作用は、組み合わされた相手によって、その作用するところが異なってくる。たとえば、附子に桂枝、葛根(かっこん)、麻黄などの表(ひょう)へ行く生薬を加えると、附子の作用は表に誘導され、表の組織を温め、表皮の新陳代謝機能をたかめるが、乾姜(かんきょう)、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)など半表半裏(はんぴょうはんり)から裏(り)へいく生薬を加えると、附子の作用は半表半裏から裏に誘導されて、内臓諸器官の新陳代謝をたかめ、体表にまではその作用がおよばない(第九章参照)。また防已(ぼうい)、細辛(さいしん)、白朮(びゃくじゅつ)、芍薬(しゃくやく)など全身にいく生薬を加えると附子の作用は全身にゆきわたり、全身の新陳代謝機能をたかめるようになり、半夏(はんげ)、梔子(しし)など咽部から胸部にいく生薬を加えると、附子の作用は食道、咽部、胸部の新陳代謝機能をたかめるようになる。

 したがって、一つ一つの薬物の作用を知っているだけでは、組み合わされたものの薬効はわからない。しかし、すべての生薬の組み合わされた作用を知ることは無理であり、また実用的飛はない。ここに、発病から死にいたるまでを克明に記録し:病勢の変化をとらえ、そのときどきに必要な一連の薬方をさきにつくっておき、病人の現わした症状から、どの時期であるかをみきわめ、それに対応する薬方を与えるほうが合理的である。このように漢方では、生薬単独の作用のみならず、まぜ合わされたときの作用も明確に把握するために薬方というものがつくられたわけである。

 

第九章 生薬の配剤からみた薬方解説

 漢方治療は随證療法であることは既に述べたが、このことは言い方を変えれば、病人の現わしている「病人の證」と、生薬を組み合わさたときにできる「薬方の證」とを相対応させるこということである。 「病人の證」は四診によって得られた各種の情報を基に組み立てされ、どうすれば(何を与えれば)治るかを考えるのであるが、「薬方の證」は配剤された生薬によって、どのような症状を呈する人に与えればよいかが決定される。したがって「病人の證」と「薬方の證」は表裏の関係にある。「薬方の證」は一つの薬方では決まっており、「病人の證」は時とともに変化し、固定したものではない。

 しかし、「病人の證」、「薬方の證」いずれもが薬方名を冠しているため、あたかも證の変化がないように「病人の證」を固定化して考え、変化のない薬方の加減、合方などを極端に排除したり、あるいは反対に各薬味の相加作用のみによって薬方が成立していると考え、無責任な加減がなされるなど、間違ったことがよく行われている。本書の薬方解説は 第二章 2漢方薬が薬方を構成する理由 のことろで明記しているように、生薬の配剤を基に記しているが、配剤に関しての説明が不十分である。したがって薬方解説の各節の区分の理由を明確にし、加減方、合方などを行なうときの参考となれるよう記した。

 二種以上の生薬を組み合わせて使用したときに起こる現象は相加作用、相殺作用、相乗作用、方向変換などで言い表わされることは既に述べたが、一般の薬方のような多種類の生薬が配剤された場合においてはさらに複雑で、桂枝、麻黄、半夏、桔梗、茯苓、附子などのように個々の生薬の相互作用で理解できるものと、柴胡、黄連・黄芩、芍薬などのようにその生薬の有無、量の多少によって薬方の主證あるいは主證の一部が決定するものとがある。したがってある薬方の薬能を考えたり、薬方を合方して使用する場合にはそれらのことを注意して考えなければならない。

1 生薬の相互作用で理解できるもの

1 桂枝について

 消えしは発汗剤であるが、麻黄または防風と組み合わされれば発汗作用はさらに強くなり(相加作用)、大棗と組み合わされれば反対に止汗作用(方向変換)を現わすようになる。したがって麻黄湯(麻黄、杏仁、甘草、桂枝)では桂枝+麻黄の組合せとなり、発汗剤として働くが、桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)では桂枝+大棗の組合せとなり、止汗剤として働いている。また桂枝は芍薬と組み合わされれば緩和剤(方向変換)となり、筋肉の緊張やひきつれて痛むのを治すようになる。白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤(方向変換)となり、 地黄と組み合わされれば強壮剤(方向変換)となる。

 先の桂枝湯では桂枝+芍薬の組合せを含むため、肩こり、身体疼痛など筋肉の緊張やひきつれて痛むのを治す。したがって、そのような痛みがない場合には桂枝去芍薬湯として投薬する。痛みがなくても芍薬を入れておいてもよいのではないかと考えられる人もあるかと思うが、一般には生薬は相乗効果のある組合せを除いて考えれば、その効果は、1 単独で使用する(民間薬)、2 四~五種類を組み合わせて使用する(例、古方)、3 七種以上を組み合わせて使用する(例、後世方の順に、すわわち薬味の数が増えるにしたがって薬方の作用は弱くな識傾向がある。(相乗効果があれば、組み合わせて使用するほうが薬方の作用が強くなるのほ当然である)。

 しかし適応證の範囲、言い換えれば證の取りやすさという点で考えると、作用とは逆に薬味が増えるにしたがって安易に薬方を使えるようになる利点がある。以上のことから考えれば、先の桂枝去芍薬湯も必要でない緩和作用を除き、より強く、スムースに治癒させることを目的に行なわれているのである。

 これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証に記されている。

 

2.麻黄について

 麻黄(地上部の節を除いたもの)は、第二章 漢方薬について 2漢方薬が薬方を構成する理由のところで記したように、桂枝と同じく発汗剤となるが、石膏と組み合わせると止汗剤となる。麻黄+桂枝は先に述べたように発汗剤であったが、これと麻黄+石膏の止汗剤と組み合わせれば麻黄+桂枝+石膏の組合せとな責、発汗作用は強烈となる。このことは注意しなければならないことで、知らずに薬方を合方して使用し、失敗することは多い。たとえば桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)〔桂枝+大棗・止汗剤〕と越婢湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草)〔麻黄+石膏・止汗剤〕の二つの薬方を合方すれば麻黄+桂枝+石膏の組合せができ、非常に強い発汗剤となる。すなわち虚証の薬方どうしの組合せなのに、非常に実証の薬方へと一変する。同様なことはしばしば見られることで、同方する場合には十分注意しておかなければ失敗することはまれではない。 

 また葛根湯(葛根、麻黄、桂枝、甘草、生姜、大棗)のように、同一薬方内に麻黄+桂枝と桂枝+大棗のように相反する組合せが生じた場合には実の薬味(この場合は麻黄)の方の組合せの薬効が現われる(このとき注意しなければならないのは、附子が入っている薬方では虚の附子の薬効の方が優先することである)。したがって本方は麻黄+桂枝の組合せの発汗作用が現われるようになる。

 ここで注意しなければならないのは発汗と無汗ということ仲;ある(図36参照)。これはただ単に体表の汗の有無をいうのではなく、体表に汗を出そうとしているかどうかが問題となる。すなたい、体表よりスムーズに汗が出ている(実像の発汗)か、たとえ汗は出ていなくても森より表に水が移動してきて、表に水が溜まって浮腫を形成している過程(浮腫はおすと軟らかい)ならば(虚像の発汗)汗が出ているものとして止汗剤、たとえば越婢湯、麻杏甘石湯(麻黄、杏仁、甘草、石膏)などを与える。

 反対に浮腫が形成される傾向がなく、体表に汗が出ていない(実像の無汗)か、たとえ汗が出ているようにみえても、表に水が溜まって実腫(浮腫はおすと硬い)となっている、すなわち裏より表への水の移動がないならば、その汗の出方は水がもれ出るような感じとなる(虚像の無汗)、このような場合には発汗剤、たとえば麻黄湯、小青竜湯(麻黄、桂枝、芍薬、乾姜、甘草、細辛、五味子、半夏)などを与える。その他、麻黄は杏仁と組み合わせれば鎮咳剤となり、白朮と組み合わせれば利尿剤となる。したがって麻黄加朮湯では麻黄+桂枝(無汗・浮腫)、麻黄+杏仁(咳)、麻黄+白朮(浮腫、尿不利)の組合せとなり、それぞれの薬効が現われる。

 これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証、5麻黄剤 に記されている。

 

3 半夏について
 半夏を単独で用感れば咽喉痛を引き起こし、胃がむかむかし、強くなれば嘔吐を引き起こすようになるため、半夏は一般に単独では用いず、常に生姜(乾姜)あるいは大棗・甘草と組み合わせて使用される。しかし利膈湯(半夏、梔子、附子)などの薬方のように生姜または大棗・甘草がなくて使用されることもあるが、これらは例外的な薬方である。すなわち、半夏は生姜と組み合わされれば鎮吐作用を現わし、大棗・甘草と組み合わされれば鎮痛、鎮静磁用を現わすようになる。

 この組合せを基本薬方とし、薬効の変化がよく理解できる一連の薬方があるので以下に記す。すなわち、半夏と生姜を合わせたものは小半夏湯といわれ、鎮吐作用を目的に使用される。これに胃内停水の症状が加われば小半夏湯に茯苓を加えた、小半夏加茯苓湯として使用する。したがって胃内停水があり、ときに嘔吐する人に与えるのであるが、胃内停水が嘔吐として体外に出ることができず、咽部まで上がってきて、そこに留まるような感じ、すなわち咽部の異常感の出てくるようになったものには気(第四章 漢方の診断法 3気血水説 参照)の異常と考えて順気作用のある生薬の厚朴、蘇葉を入れ、半夏厚朴湯として与える。

 この半夏の組合せは種々の薬方に応用されるため、一つの系列としてはとりえない。

4 茯苓について
 茯苓の組合せは体の中に水の偏在を治すのを目的に作られたもので、単独あるいは組み合わされることにより種々の水の移動を生じるため、絶対的なものではないが、主な薬効は次のようになる。すなわち茯苓と白朮を組み合わせれば胃の機能を亢め、胃内停水を除くように働き、茯苓と猪苓、沢瀉を組み合わせれば尿利をよくするように働き、茯苓と桂枝・甘草を組み合わせれば心悸亢進やめまいを鎮めるように働く。

 したがって胃内停水があり、その瘀水が気の上衝とともに移動して心悸亢進やめまいを起こすようなものには茯苓+白朮(胃内停水)、茯苓+桂枝・甘草(心悸亢進、めまい)の組み合わされた苓桂朮甘湯(茯苓、桂枝、白朮、甘草)を用いるが、胃内停水が気の上衝がないため移動せず、かえって胃から腰のあたりに瘀水が溜まって冷たく感じるようになれば、体を温める乾姜と胃内停水を除く茯苓+白朮を組み合わせた苓姜朮甘湯(茯苓、乾姜、白朮、甘草)を用いるようになる。苓桂朮甘湯と同じように症状を現わすが、胃内停水がそれほど強くなければ茯苓+白朮の組合せでなくても、胃内停水を除く作用のある生姜だけの駆水作用で十分であるから、茯苓甘草湯(茯苓、桂枝、生姜、甘草)とする。

 胃内停水ではなく、気管支に水毒があれば生姜のかわりに五味子を入れた苓桂味甘湯(茯苓、桂枝、五味子、甘草)に、反対に精神的な症状が加われば、虚証の人では大棗(実証の人には大棗では効果がない)と変えた苓桂甘棗湯(茯苓、桂枝、甘草、大棗)とするなどがある。

 これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主用薬方解説 11駆水剤 に記されている。

 5.桔梗について

 桔梗は単独で用いれば膿や分泌物のあるときに使用し、膿や分泌物を除く作用がある。これに芍薬が組み合わされると作用は一変して、発赤、腫脹、疼痛に効くようになるが、誤って膿や分泌物のあるときに使用すればかえって悪化する。しかし桔梗に芍薬と薏苡仁を加えれば発赤腫脹の部分があり、しかも分泌物が多く出ている部分もある場合に効くようになる。桔梗に荊芥、連翹を加えても同様の効果がある。

 たとえば排膿湯(桔梗、甘草、生姜、大棗)は桔梗単独の作用、すなわち患部に膿や分泌物のあるときに用いるが、排膿散(桔梗、芍薬、枳実、卵黄)となれば、桔梗と芍薬の組合せとなり、発赤、腫脹、疼痛のあるものに用いるようになる。誤って使用しやすい例に葛根湯の加減方がある。すなわち葛根湯加桔梗石膏の桔梗と石膏はあたかも相反した、寒い用いる桔梗と、熱に用いる石膏が組み合わされているようにみえるが、桔梗は葛根湯の中に含まれている芍薬と組み合わされたものであり、石膏との相加作用を目的に作られたものである。したがって本方は上焦の部位に発赤、腫脹、疼痛のあるときに用いられる。もし炎症もあるが膿もたくさん出るというようになれば前記の組合せにしたがって、葛根湯加桔梗薏苡仁にしなければならい。
 これらの加減は同じ表証の薬方中では、桂枝湯にはそのまま代用できるが、麻黄湯には芍薬とともに考えなければならないことは、いまさら言うに及ばないことであろう。この桔梗の組合せは種々の薬方に応用されるため、一つの系列としてはとりえない。

6 附子について

 附子の作用は組み合わされた相手によって、その作用する位置(部位)の変わってくることとは、すてに、第二章 漢方薬について 2漢方薬が薬方を構成する理由 の項で述べた。

 いま、ここに桂枝湯(桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草)を例にとって考えると、その違いが明らかになってくる。すなわち、桂枝湯に附子を加えると桂枝加附子湯になるが、この場合は附子の作用を表に誘導する桂枝と、全身に誘導する芍薬の組合せとなる。全身に誘導するものは作用が弱いため、桂枝加附子湯の附子はほとんど表の組織に対して、麻痺、刺激、温補作用を現わす。したがって裏に近い関節に働くよりも、表の筋肉に働くようになり、筋肉に関係した症状すなわち筋肉の痛、痙攣、麻痺を主とし、芍薬の作用も加わって運動障害などを治す。

 いま、桂枝加附子湯から芍薬を除けば桂枝附子湯となるが、本方では附子の作用は桂枝にのみ誘導されるため、表の組織へのみ作用し、筋肉の痛み、痙攣、麻痺などを治すようになる。したがって本方の目標に「骨節に痛みなく、ただ身体疼痛するもの」とあるのは容易に理解できる。

 桂枝加附子湯に白朮を加えれば桂枝加朮附湯となり、附子の作用を全身に誘導するものが芍薬、白朮の二種類となるため、しだいに全身に対する作用が出始める。そのため関節に関係した症状が加わり、全身的な水毒症状も明らかとなる。したがって四肢の麻痺、屈伸困難、尿利減少などを治す。

 桂枝加朮附湯にさらに茯苓を加えれば桂枝加苓朮附湯となるが、茯苓は附子の作用を半表半裏~裏に誘導するため、表に誘導する桂枝、全身に誘導する芍薬、白朮と組み合わされて、附子の作用はどこにも偏らず、全身を温める作用となり、水毒症状を呈する人に用いるようになる。

 本方より、附子の作用を表に誘導する働きのある桂枝と、附子の作用とは関係のない大棗、甘草を除いたものが真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)であり、附子の作用は、全身に対する作用もあるが、、主に半表半裏~裏に働くようになる。したがって本方は桂枝加朮附湯と表裏が相対応する薬方である。

 また当帰芍薬散(当帰、芍薬、川芎、茯苓、白朮、沢瀉に附子を加えれば、附子の作用を全身に誘導する芍薬、白朮と、半表半裏~裏に誘導する茯苓があるため、全身に対する作用もあるが、主に半表半裏~裏に働くようになる。したがって半表半裏~裏に強い冷えがある場合によく附子を加えるのであるが、いくら冷えが強いからといっても妊婦には使用してはならない。なぜなら、胎児は裏位にあるため、附子の作用は胎児にも強く作用する。しかし、いくら母親は虚証であっても、胎児は新陳代謝がさかんな実証であるため、実証に附子を与えることになりき、危険である。このようなことは附子の温補作用のみに注意し、その作用する位置を考えなかったために起こることであり、よく注意しなければならない。

 その他、 特殊な例として、半夏や梔子は附子の作用を咽部から胸部に誘導する働きがあるため、利膈湯(半夏、梔子、附子)などでは咽喉の新陳代謝が衰えて咽喉がふさがったり、嚥下困難などを呈するようになったものに用いる。

 これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 4表証、8裏証Ⅱ に記されている。


7 その他の生薬について

 相加作用のみで考えることのできる生薬は多く、黄耆(寝汗、黄汗)、薏苡仁(皮膚を潤し、瘀血、血燥を治す)、人参(全身の水)、生姜(胃内停水)、駆瘀血生薬(当帰、芍薬、桃仁、牡丹皮、地黄など)など種々がある。

 また下剤、温補剤の関係は表裏の関係であり、便秘していても実証か虚証かによって使い分けなければならないことはいうまでもない。気のうっ滞を治す順気剤である厚朴、枳実、蘇葉と大黄+芒硝を加えたもの、たとえば大承気湯(大黄、芒硝、枳実、厚朴)は最も実証の人に用い、大黄のみを加えたもの、たとえば小承気湯(大黄、厚朴、枳実)がこれに継ぐ。気の上衝を治す順気剤である桂枝と大黄+芒硝を加えたもの、たとえば桃核承気湯(大黄、芒硝、桂枝、桃仁、甘草)はさらに弱くなり、大黄のみを加えたもの、たとえば柴胡加竜骨牡蠣湯(柴胡、半夏、茯苓、桂枝、黄芩、大棗、人参、竜骨、牡蛎、生姜、大黄)がこれに継ぐ。 順気剤のない大黄+芒硝を加えたもの、たとえば調胃承気湯(大黄、芒硝、甘草)はさらに弱くなり、大黄のみを加えたもの、たとえば三黄瀉心湯(大黄、黄芩、黄連)がこれに継ぐ。ここまでは実証の便秘に用いられる。

 次いで梔子を加えたもの、たとえば黄連解毒湯(梔子、黄芩、黄連、黄柏)が続く。虚証の便秘となると、さらに虚したときに用いる乾姜を加えたもの、たとえば人参湯(人参、白朮、甘草、乾姜)を用いる。新陳代謝がさらに衰えると附子を加えたもの、たとえば真武湯(茯苓、芍薬、生姜、白朮、附子)を用い、さらに虚になると附子+乾姜を加えたもの、たとえば四逆湯(甘草、乾姜、附子)を用いて新陳代謝機能を亢進させる。下痢の場合でも虚実によって同様に使用する。

 これらの組合せでできたものの多くは、第六章 主要薬方解説 3駆瘀血剤、9承気湯類 に記されているほか、種々の薬方に応用されている。

 

 2 生薬の有無、量の多少によって薬方の主證あるいは
 主證の一部が決定するもの

 1 柴胡について

 柴胡は三~四グラム以上(大人量)、薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は胸脇苦満として決まってしまうもので、加えられた柴胡の量が多くなれば胸脇苦満が強く認められるが、少なければ胸脇苦満としては認められない。

 たとえば小柴胡湯(柴胡、半夏、l生姜、大棗、甘草、黄芩、人参)は柴胡が七・〇グラムあり、四逆散(柴胡、芍薬、枳実、甘草)は柴胡が五・〇グラムあるためいずれも胸脇苦満を認められが、補中益気湯(柴胡、黄芩、人参、白朮、当帰、陳皮、生姜、大棗、甘草、升麻)は柴胡が二・〇グラムのため胸脇苦満はほとんど認められない。また柴芍六君子湯は六君子湯に柴胡(四・〇グラム)と芍薬(三・〇グラム)を加えたものであるが、柴胡が四・〇グラムのため胸脇苦満を強く呈するものもあるが、ほとんど認められず六君子湯證のみめだつものもある。したがって加えられた柴胡の量は薬方の薬能を知るうえで重要なことである。これらの組合せでできたものは、第六章 主要薬方解説 1柴胡剤 に記されている。 

 2 黄連・黄芩について

 黄連、黄芩がともに、あるいはいずれかが薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は心下痞として決まってしまうもので、量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に一・〇グラム以上ずつ加えると心下痞を治すようになる。

 たとえば三黄瀉心湯(大黄、黄連、黄芩)と黄連解毒湯(黄芩、黄連、黄柏、梔子)では前者は寺連、黄芩が各三・〇グラム(煎剤として長期服用する場合)であり、後者は各一・五グラムであるため、量の多少が心下痞の強さと一致するように見えるが、黄連湯(半夏、黄連、乾姜、人参、桂枝、大棗)と半夏瀉心湯(半夏、黄芩、黄連、乾姜、人参、甘草、大棗)では前者は黄連のみ三・〇グラム入っているが、後者は黄芩二・五グラムと黄連一・〇グラムが入っているため、量から見ると後者が実証のように思えるが:実際は前者が実証の薬方となる。いずれにしても、黄連、黄芩の有無は薬方の薬能を知るうえで重要である。

 これらの組合せでできたものは、第六章 主要薬方解説 10瀉心湯類 に記されている。


3 甘草について

 甘草は単独で用いると急迫症状(精神的)を緩解させる作用があるが、芍薬と組み合わせれば急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛に効くようになる。

 したがって甘草湯(甘草)は神経の興奮による各種の急迫症状を緩解するが、芍薬枝湯(芍薬、甘草)では急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛に用いる。しかし甘草のこれらの作用は他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり、ほとんど効果を期待できなくなる。このことは甘草湯や芍薬甘草湯を用いる場合に、注意しなければならない。ただ柴胡桂枝湯(柴胡、半夏、生姜、大棗、甘草、芍薬、桂枝、黄芩、人参)は例外で、家種の薬物が組み合わされたにもかかわらず鎮痛作用を現わす。しかし、この場合の痛みは急迫性の痛みというより鈍痛である。


4 芍薬について

 芍薬は少量(四・〇グラム以下)使用する場合と多量(六・〇グラム以上)使用する場合では薬方の効く位置き変化を生じる。すなわち、少量の場合には体の各所の筋肉の緊張を緩解するが、多量となると奏位(主に中焦)にのみ働き、腹満や腹部の緊張を緩解するようになる。


※證 一般的には「証」が使われるが、村上先生は旧字体である「證」を使われていた。

※『漢方薬の実際知識 増補版』の昭和五十六年頃は、まだ、白虎湯類が無い。

※その他の項 に 旧版 では排膿散及湯 があるが、増補版には無い。
 その間に、桔梗の組み合せ に気付き、排膿散及湯は使わなくなった。 

 ※長沢元夫先生は、生薬の組み合わせによる効能の変化は否定的。

※薬方
 一般的には漢方処方と言われるが、村上先生は(漢方)薬方と呼んでいた。 
処方は単に薬物を組み合わせたもの、薬方は方意のあるもの。

※病人の現わしている「病人の證」と、生薬を組み合わさたときにできる「薬方の證」とを相対応させるこということである。
いわゆる「方証相対」のこと。

※「薬方の證」は一つの薬方では決まっており
 実際に応用する際は、色々な使い方があり、「薬方の證」は一見沢山あるように見える。「余白の證」「転用」なども重要。

※白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤(方向変換)となり
 桂枝自体は尿を止める働きがあるので、注意が必要。

 

※桂枝湯と越婢湯の二つの薬方を合方
  桂枝湯と越婢湯とを合わせた薬方に桂枝二越婢一湯がある。
    太陽病、発熱悪寒、熱多寒少、脈微弱者、此無陽也、不可発汗、宜桂枝二越婢一湯。

※実像の発汗、虚像の発汗、実像の無汗、虚像の無汗
  漢方用語の虚実とは無関係なので注意。
  

※茯苓の組合せは体の中に水の偏在を治すのを目的に作られたもので、単独あるいは組み合わされることにより種々の水の移動を生じるため、絶対的なものではない
 茯苓は組み合わされることにより、作用が強調されるが、基本的に組み合わせと関係ない作用も弱いながらある。


※排膿湯と排膿散
排膿散と排膿湯とを合方したものを排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)と言い、一般には排膿散と排膿湯との両方の効果を持つもの、すなわち、発赤・腫脹・疼痛があり、膿や分泌物がある時に用いると言われているが、村上先生の理論では、排膿散及湯は、桔梗と芍薬の組み合わになるので、結局は排膿散の効果である、発赤・腫脹・疼痛のある時に使うべきもので、膿や分泌物がある時には使えない。膿や分泌物がある時に使うと、治らないばかりか悪化する可能性がある(治ることもある)。
『漢方薬の実際知識』をの初版が出た頃は、この組み合わせのことがわかっておらず、排膿散及湯を使って良い場合と効果が無い場合、悪化する場合があり、改訂版を出す頃に桔梗と芍薬の組み合わせがわかったとのこと。
発赤・腫脹・疼痛があり、膿や分泌物がある時は、桔梗+芍薬+薏苡仁の組合せか、桔梗+荊芥・連翹の組み合わせを用いる。

※本方は上焦の部位に発赤、腫脹、疼痛
葛根湯は上焦に用いる薬方なので。

※炎症もあるが膿もたくさん出るというようになれば前記の組合せにしたがって、葛根湯加桔梗薏苡仁にしなければならい。
 花粉症、アレルギー性鼻炎などに応用できるが、エキス剤に無い。

 ※桔梗の組み合わせ
 桔梗に唐辛子を組合わせると、桔梗の作用が無くなる。韓国料理のトラジ(桔梗)に唐辛子を組合せたものは、薬効が無くなるので食品として食べても問題無い。(膿や分泌物が無い時でも食べられる)。

 

※桂枝加朮附湯にさらに茯苓を加えれば桂枝加苓朮附湯となるが、……全身を温める作用となり、水毒症状を呈する人に用いるようになる。
 多くの漢方の解説書では、桂枝加苓朮附湯は、桂枝加朮附湯より、より水毒の強い関節炎などに用いるとある。村上先生の説では、桂枝加苓朮附湯は関節炎には効果が期待できない。

※柴胡は三~四グラム以上(大人量)、薬方に加えられると、その薬方の主證あるいは主證の一部は胸脇苦満

 通常、柴胡が入れば柴胡剤と呼ばれるが、柴芍六君子湯は、柴胡はあるものの、余り柴胡剤とは呼ばれない。あくまでも六君子湯の加減。 

 また、柴胡剤の中でも柴胡湯類と他の柴胡剤は分けられることがある。
四逆散や柴胡桂枝乾姜湯は柴胡剤ではあるが、柴胡湯類ではない。

 

※量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に一・〇グラム以上ずつ加えると心下痞を治すようになる。
量の変化は心下痞の強さとは一致せず、一般に合わせて一・〇グラム以上加えると心下痞を治すようになる。に訂正すべき。

 合わせて1gなので、黄連と黄芩のどちらか一方だけでも良いが、通常は黄連・黄芩を合わせて用いる。大黄黄連瀉心湯や黄連湯は、黄連のみで黄芩は含まれていない。黄芩のみで黄連が含まれていない薬方は?
一般的な生薬として考えると、黄連にはベルベリンが含まれ、黄柏にもベルベリンが含まれており、一般に代用薬として使われることがあるが、漢方的には、黄柏は心下痞に用いられず、黄連の代用とはならない。

※煎剤として長期服用する場合
 急性期に振り出して飲む際は、生薬の量は多い。


※他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり
「表」は、部位をあらわす表裏の「表」ではなく、単に「おもて」の意味。

 

※甘草のこれらの作用は他に強い作用の薬物があれば表には現われにくくなり、ほとんど効果を期待できなくなる。
甘草瀉心湯は?

2019年9月24日火曜日

誌上漢方講座 症状と治療 生薬の配剤から見た漢方処方解説 の勝手なまとめ

誌上漢方講座 症状と治療 生薬の配剤から見た漢方処方解説の勝手なまとめ

1.陰陽・虚実・寒熱・表裏・内外・上中下を理解する
2.薬味の組み合せを覚える
3.症状を血-気-水に分け、それぞれの症状に対応する系統を覚える。
4.薬方(漢方処方)の系統図を覚える
5.薬方(漢方処方)で治る(可能性のある)症状を覚える
6.実際に使ってみる


1.陰陽・虚実・寒熱・表裏・内外・上中下は『漢方薬の実際知識』参照。
  特に虚実には注意。
  発汗は基本的には虚証。ただし、虚像の発汗・実像の発汗に注意。
  麻杏甘石湯や越婢湯は、発汗している状態に用いるので虚証の薬方。
  (一般的な漢方の本では、麻杏甘石湯や越婢湯は実証の薬方)
   
2.薬味の組み合せ
相加作用、相乗作用、方向変換、相殺作用の四つ。
基本的には相加作用と考えて良いが、繁用される薬味に特殊な組み合せが多く注意が必要(組み合せによっては期待する作用と反対の場合がある)

麻黄(組み合わせなし) → 発汗作用
麻黄 + 桂枝 → 発汗作用(相加作用)
麻黄 + 石膏 → 止汗作用(方向変換)
麻黄 + 桂枝 + 石膏 → 大発汗作用(相乗作用)
麻黄 + 杏仁 → 鎮咳作用(方向変換)
麻黄 + 白朮 → 利尿作用(方向変換)

桂枝 → のぼせを抑える(組み合わされても変化しない薬効)(尿を止める)
桂枝(組み合わせなし) → 発汗作用
桂枝 + 麻黄・防風 → 発汗作用(相加作用)
桂枝 + 大棗 → 止汗作用(方向変換)
桂枝 + 芍薬 → 緩和作用(方向変換)
桂枝 + 白朮 → 利尿作用(方向変換)
桂枝 + 茯苓 → 利尿作用(方向変換)
桂枝 + 地黄 → 強壮作用(方向変換)
桂枝 + 茯苓 + 甘草 → 心悸亢進・めまいを治す(方向変換)

半夏(単独) → 胃のムカムカ(嘔)、咽喉痛を起こす
半夏 + 生姜 → 鎮嘔・鎮痛作用(方向変換・相殺作用)
半夏 + 大棗・甘草 → 鎮痛・鎮嘔作用(方向変換・相殺作用)

桔梗(単独) → 化膿・分泌物を治す
桔梗 + 芍薬 → 発赤・腫痛を治す(方向変換)
桔梗 + 芍薬 + 薏苡仁 → 化膿・分泌物も発赤・腫痛も治す (方向変換)
桔梗 + 荊芥・連翹 → 化膿・分泌物も発赤・腫痛も治す (方向変換)
桔梗 + 蕃椒(トウガラシ) →              (方向変換)

茯苓(単独) → 胃内停水を除き、心悸亢進・めまいを治し、利尿作用
茯苓 + 白朮 → 胃の機能亢進・胃内停水を除く
茯苓 + 猪苓・沢瀉 → 利尿作用
茯苓 + 桂枝 + 甘草 → 心悸亢進・めまい・筋肉の痙攣を鎮める

知母 + 石膏 → 口渇・漏水を治す

附子を表に導く 麻黄・葛根・桂枝・防風
附子を半表半裏~裏に導く 黄連・黄芩・乾姜・人参・茯苓
附子を全身に導く 防已・細辛・白朮・芍薬 → 水毒を除く
附子を食道・咽部・胸部に導く 半夏・山梔子

柴胡(4g以上) → 胸脇苦満(主証又は主証の一部)
柴胡(3g) + 順気剤 → 胸脇苦満(主証又は主証の一部)
柴胡(3g未満) → 体質改善(胸脇苦満はないかあっても弱い)

黄連・黄芩(合わせて1g以上) → 心下痞(主証又は主証の一部)
     (どちらか一方でも良いが、組み合わせた方が良い)

甘草 → 急迫症状の緩解(薬味の少ない時)
甘草湯 → 精神的な痛み、神経の興奮による各種の急迫症状を治す
芍薬甘草湯 → 急迫性の激しい筋肉の痙攣と疼痛のあるものを治す
甘麦大棗湯 → 甘草と大棗による急迫した筋肉の拘攣、神経の興奮、諸疼痛の緩解
柴胡桂枝湯 → 薬味は多いが痛みに効果がある

芍薬(4g以下) → 全身の筋肉の拘攣の緩解(緩和・鎮痛作用)
芍薬(6g以上) → 裏位の筋肉の拘攣の緩解(緩和・鎮痛作用)

黄耆 → 盗汗、黄汗を治す
薏苡仁 → 皮膚を潤し、瘀血・血燥を治す(皮膚病・いぼ・ガン・むち打ち等)
人参 → 全身の水毒を除く
生姜 → 胃内停水を除く
乾姜 → 新陳代謝機能亢進(体を温める作用) + 生姜(胃内停水を去る)
蒼朮 → 麻痺作用

駆瘀血生薬     当帰・川芎・桃仁・牡丹皮・地黄
鎮咳薬        杏仁・五味子・麦門冬・大棗
順気生薬(鬱滞)    厚朴・蘇葉・枳実・薄荷
順気生薬(上衝) 桂枝

【鎮咳剤】
                                    麻黄 + 杏仁
                                        |
                                      (麻黄)
                                        |
                                        杏仁
                                        |
                                    麻黄 + 石膏
                                        |
                                      五味子
                                        |
                                        細辛
                                        |
                                      麦門冬
                                        |
                                        大棗
                                        |
                                    麻黄 + 附子





【下剤、温補剤】
                                大黄 + 芒硝 + 順気剤(鬱滞)
                                        |
                                    大黄 + 順気剤(鬱滞)
                                        |
                                大黄 + 芒硝 + 順気剤(上衝)
                                        |
                                    大黄 + 順気剤(上衝)
                                        |
                                    大黄 + 芒硝
                                        |
                                      大黄≒センナ≒アロエ
                  |            (アロエは使わない方が良い)
                                      山梔子
                                        |
                                      車前子
                                        |
                                        乾姜≒麦芽糖(マルツエキス)≒蜂蜜
                                        |
                                        附子
                                        |
                                    乾姜 + 附子
                                         


2019年8月27日火曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(まとめ)
 村上 光太郎

 生薬の配剤を考える時、なるほど、その組み合わされた生薬の相互作用について考えるが、いざ随証療法を行なおうとした場合、もはや薬方に配剤されている個々の生薬の相互作用を考えず、薬方単位で考える事が多い。この場合、単方で投薬す識時には問題はないが、合方しなければならない時には種々の問題を惹起する事がある。このような時に生薬の配剤を考えれば多くの問題が解決する。
 例えば図52について見ると明瞭であろう。すなわち、精神不安、興奮しやすい、胃が痞えるの症状は気の症状であり、足腰の痛み(関節痛、腰痛)の症状は気または水の症状であり、多汗、涙が出やすいの症状は水の症状であり、口乾(水はほしくない)の症状は血の症状であり、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。従ってこの患者は気、血、水すべてが変調している事がわかる。しかし症状を見ると、気と血の症状より気と水の症状が多いために「気と水」と「血と気と水」の合方と考える方が合理的である(精神不安、興奮しやすいと言う症状が、この人の主訴ならば、順気剤を考えなければならないが、そうではないので「気と水」と考える。「気と水」の症状を見ると、胃が痞えるという症状を除けばすべて表の症状である。ところで、「気と水」の症状の時には順序だてて考えなければならない事はすでに述べた(生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)を参照)とおりである。①の胸脇苦満があるならば柴胡剤を用いるという項は、この人の症状には胸脇苦満がないので該当しない。
 ところで、この人はアレルギー体質である事を訴えている。このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、リンパ腺がはれるとか等訴える人には、体質改善の出来る薬方を配剤する方が望ましい。ところで体質改善できる薬方は種々あり、例えば、柴胡剤、建中湯類、駆瘀血剤、瀉心湯類、解毒剤、下焦の疾患などが主なものである。他の薬方にも体質改善の出来る薬方はあるが、漢方の薬方のすべてが体質改善できるかと言うとそうではなく、例えば、駆水剤、表証、麻黄剤、承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。従ってこれらの薬方を使用する場合に、もし前記のような症状があるならば体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。
 さて本題に帰って、②の表の症状のみあるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を用いるという項はどうであろうか。この人の症状を、表、半表半裏、裏に分けて見ると、ほとんどの症状が表で、半表半裏は口乾(水はほしくない)と胃の痞えという症状であり、裏の症状は排尿一日三~四回、夜間排尿一~二回と言う症状である。以上の事より、腰痛や関節痛が主訴であるという事と合せて考えれば、表の症状が極端に多いので、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を考えれば良い事がわかる(生薬の配剤による漢方処方解説(7)を参照)。しかし、表の症状ではあっても、皮膚に炎症、あるいは分泌物等を訴え仲いないので、まず皮膚疾患の各薬方は除かれる。ところでこの人は多汗症であり、全身に多く汗をかき、涙も出やすいと訴えている事より、発汗している状態である。従って無汗の状態の時に用いる麻黄と桂枝あるいは麻黄の配剤された、発汗剤となる薬方ではなく、桂枝と大棗あるいは麻黄と石膏の配剤された、止汗剤となる薬方が処方されなければならない事はすぐに理解できよう。すると当然、桂枝湯、麻杏甘石湯、越婢湯が考えられる。ところで、この人は咳を訴えていないので、それを主訴とする薬方の麻杏甘石湯は除かれる。更にこの人の関節に水の溜まる事を考えれば、それを除けるように加減方を考えるのは当然で、桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯という事になる。この二方は同様に虚証に用いる薬方ではあるが、麻黄剤を使用できるか否かによって使い分ける。一般に麻黄剤あるいは地黄剤、および薬方中に順気生薬の配剤されていない薬方は、胃腸の悪い人が用いれば更に悪くなる事が繁々みられる。従って、そのような時は用いないようにする事が望ましい事は言うまでもない。しかし、これは絶対に使用してはならないと言う事ではなく、どうしても使用しなければならない時は相応の処置を行う。
 この患者に桂枝加朮湯あるいは越婢加朮湯を投薬すれば治癒すると思える症状を除いて見ると、アレルギー体質、口乾(水はほしくない)、排尿一日三~四回、夜間一~二回などが残る。(精神不安、興奮しやすい、のぼせ、胃の痞えは処方によれば治るかもしれない症状である)。これらの症状は「血と気と水」の症状である。従ってそれに用いる薬方、すなわち解毒剤、駆瘀血剤、下焦の疾患、加味逍遙散を考えればよい事がわかる。しかし、この患者は多汗症であり、便通も一日一回でスッキリ出る事、および症状が激しいと言うのではないため、実証とは言えない。従って解毒剤では防已黄耆湯(清上防風湯、荊防敗毒散は皮膚の症状がないので用いない)が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散(当帰芍薬散は冷えが強い人に用いる薬方であり、この患者は冷えを訴えず、のぼせを訴えているため除かれる)が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。
 いま、仮に「気と水」の薬方を越婢加朮湯を使用すると決めると、「血と気と水」の方の薬方としては桂枝茯苓丸および八味丸を除かなければならない。なぜなら桂枝茯苓丸と越婢加朮湯あるいは八味丸と越婢加朮湯の合方は、いずれも虚証ないし虚証に近い薬方同士の組み合わせであり、一見良いように思えるのであるが、これらの二方が組み合わされれば越婢加朮湯中の麻黄と石膏の組み合わせに桂枝を配剤したことになり、強い発汗剤に変わるからである。従って、もしこの二方を投薬して何の害も起こらなければもうけものであり、害作用が起こることは十分考えておかねばならない。この時起こる害作用は、もはや瞑眩(めんけん)とか、副作用とか言えるものではなく、毒を盛っているのだとの自覚が必要であろう。従って越婢加朮湯に合方できる相手としては防已黄耆湯あるいは加味逍遙散と言う事になる。この患者の訴えが精神不安ないし、興奮しやすいという気の症状を訴えるよりは腰やひざ等の下焦の症状を強く訴えているため、順気剤的意味をもつ加味逍遙散よりは、下焦にも効果の強く及ぶ防已黄耆湯の方が良いと思える(ただし、血に対しては弱い)。従って越婢加朮湯と防已黄耆湯の合方という薬方が考えられる。一見、これで良いように思えるが、この患者は胃の痞えを訴えている。しかし、越婢加朮湯を使用すれば、含まれている麻黄、石膏によって更に胃が悪くなる可能性はある。しかし合方された防已黄耆湯ではその事は取り去れない。とすれば下焦には効果が弱いが、胃の痞えも取れるであろう加味逍遙散を合方する方が良い事になる。
 それでは、桂枝加朮湯を使用すると決めた場合はどうなるであろうか。相手の薬方は当然「血と気と水」の薬方である事は先に述べたとおりである。また虚証も当然変わる事はない。従って解毒剤では防已黄耆湯が、駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散が、下焦の疾患では八味丸が考えられる。今、桂枝茯苓丸と桂枝加朮湯の合方では主薬が共通である。このように主薬が共通である組み合わせは、特別な場合を除き避けるようにする。従って桂枝加朮湯の相手としては防已黄耆湯、加味逍遙散、八味丸が考えられる。この患者の年齢が若いならば、胃が悪くなると訴えるだけで地黄の作用を考え、八味丸を除かなければならないが、この患者は老齢であるため、八味丸による消化器系への悪影響は少ない。従って一つの薬方として考えられる。また丁度、排尿回数も少なく、かつ夜間排尿が一~二回ある事、のぼせを生じ、精神不安や興奮しやすいとの症状を訴えることも八味丸を用いる可能性を示している。従って胃の痞えを強く考えるのなら桂枝加朮湯と加味逍遙散を、強く考えないのなら桂枝加朮湯と八味丸という事になる。この患者は水はほしくないと言う瘀血の症状を訴えているが、他に瘀血を強く表わす症状を訴えていないので、瘀血がそんなに強くないとすれば、桂枝加朮湯と防已黄耆湯の合方と言う事になる。
 以上、この患者には越婢加朮湯と加味逍遙散(胃があまり強くない時)の合方を与えるか、桂枝加朮湯と八味丸(胃があまり弱くない時)または桂枝加朮湯と加味逍遙散あるいは桂枝加朮湯と防已黄耆湯(瘀血が少ない時)を再度症状を追加して聞いて与えるようにすればよい事がわかる。
 ところで、この薬方を考える時に出た事ではあるが、見かけ上は証に合っているようだが中に入っている薬味を見ると全く異なった薬方を投薬している事がある事を忘れてはならない。
 例えば、越婢加朮湯を参考にして再度考えてみよう(実際は証に従って治療しなければならないのだが、わかりやすくするために、病名や症状で表現する事を許していただきたい)。越婢加朮湯を神経痛やリウマチの時に用いようとしたが、
 (一)その患者は消化器系が弱いので麻黄剤は胃にこたえるであろうと、小建中湯あるいは安中散を合方する。
 (二)その患者は痛みが強いので柴胡桂枝湯を合方する。
 これらはいずれも良いように思われるかもしれない。しかしいずれも共通の落とし穴がある事を忘れてはいけない。すなわち越婢加朮湯は麻黄と石膏の組み合された薬方であり、止汗作用を目的に作られている。また小建中湯と柴胡桂枝湯は桂枝と大棗の組み合された薬方で止汗作用を目的に作られている。また安中散は桂枝の発汗作用を目的に配剤されているが、麻黄に比べると発汗作用は弱い薬方である。しかしこれらが合方されると麻黄と桂枝と石膏の組み合せとなり止汗作用から(あるいは弱い発汗作用から)強い発汗作用へと変わる。従ってこのような合方は避けなければならない事がわかる。
 それではこのような処方があった場合は、どのように処理したら良いであろうか。いずれの場合も随証療法をしたら良いのは当然であるが、前記のように、消化器系が弱いからとか、痛みがあるのでその部分のみ強めようと考え仲合方するだけであるだけなら、次のような解決法もあるので検討していただきたい。
 越婢加朮湯と小建中湯の合方の場合。
①小建中湯を裏証Ⅰの六君子湯に変える。
②または小建中湯と同様に、中焦に効果を現す補中益気湯に変えるなどが考えられる。
 越婢加朮湯と安中散の合方の場合。
①安中散を同じ裏証Ⅰの六君子湯に変える。
②安中散を加味逍遙散に変える。
③安中散を変えるのではなく、越婢加朮湯を桂枝加朮湯に変える(少し虚証の薬方となるるが)などが考えられる。
 越婢加朮湯と柴胡桂枝湯の場合。
①柴胡桂枝湯を小柴胡湯に変え、芍薬甘草湯を頓服とする(あるいは柴胡桂枝湯を除いて芍薬甘草湯を頓服とする)。
②越婢加朮湯を桂枝加朮湯にするなどが考えられる。
 このように種々ある処理法の中で、より患者に適した方法を取れば良いのである。
 ではもう一例、問題を考えていただこう(図53参照)。顔が赤い、胸や脇の圧迫感の症状は気の症状であり、手の痛む(筋肉痛)の症状は気または水の症状であり、汗が出にくい、涙が出やすい等の症状は水の症状であり、アザの症状は血の症状(この症状だけでは血があるとは言えない)であり、不眠、のぼせの症状は血または気の症状である。従ってこの患者も気、血、水のすべてが変調している事がわかる。しかし、主訴が上腕痛である事を考えると「気と血」の症状より「気と水」の症状が多い(重要である)と言える。従って「気と水」と「血と気と水」の合方を考えればよいのである。
 ところで「気と水」の症状と見る時は順序だてて考えなければならない事は前記と同じであるが、「気と水」の単独の薬方で処理するなら、気、気または水、水の所にあるすべての症状について考えなければならないが、「気と水」「血と気と水」の合方であるならば症状によっては「気と水」の方の症状と、「血と気と水」の方の症状とに分けて考える事が出来るのは当然である。例えばいま、拡脇苦満と言う症状を「気と水」の方の症状としれば「気と水」の方の薬方に最初の柴胡剤という事になる。しかし胸脇苦満とか、食欲不振という症状を「血と気と水」の方の症状だとすれば、残りの症状は表の症状だけとなる。従って「気と水」の薬方としては①の胸脇苦満があるならば……という項は該当せず、②の表証のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用すると感う事になる。
 いま、まず、後者の方の考え方で考えてみよう。この人は上腕痛を強く訴えているのであって、皮膚疾患を訴えているのではないので、当然皮膚疾患の各薬方は除かれる。また涙は出やすいという症状はあるが、全身の所に汗が出にくいと言う症状があること、および上腕痛が強いことより、実証である事がわかる。従って表証では麻黄湯、葛根湯を、麻黄剤では麻杏薏甘湯、大青竜湯、小青竜湯などの薬方が考えられる。今、この患者には冷えや瘀水の溜る症状が見られない事などにより、水の滞の出やすい大青竜湯、小青竜湯は除かれる。また強い筋肉痛がある事より、麻黄湯、葛根湯そのままでは効果が強い。従って加減方を考えないのであれば、麻杏薏甘湯が良い事がわかる。加減方も考えとなると、麻黄湯、葛根湯も考えられるが、この患者が腰の倦怠感も訴えているので、上焦だけに効果なある葛根湯の加減方を考えるのではなく、全身に効果のある麻黄湯を考えなくてはならない。更にこの患者にはのほせがあるが、寒を示す冷えが見えない事より、当然加減方としては麻黄湯加薏苡仁となる。さて、麻杏薏甘湯あるいは麻黄湯加薏苡仁を投薬するのであるならば、この患者は本来、食欲不振を訴えているのであるから「気と血と水」の方でそれを取り除ける薬方を考えなければならない事は当然である。従って柴胡剤(胸脇苦満、食欲不振)で瘀血も治せる薬方と言う事になり、加味逍遙散が考えられる。
 次に前者の考え方、すなわち「気と水」の方に胸脇苦満をおいた場合を考えてみよう。当然、柴胡剤が考えられ、汗が出にくいので実証ととった場合、痛み(上腕痛)が精神的なものより来ているのであれば、柴胡加竜骨牡蛎湯などを考える事もあるが、この患者は使い痛みより来ているため該当する薬方はない(痛みが胸脇苦満に由来するものであれば強くても治る。また柴胡剤としてすできあげている薬方に限定しているので該当する薬方はないのであって、加減方も考えれば対応する薬方は作れる)。とすれば涙が出やすいと言う症状を取って、虚証まで考えれば柴胡桂枝湯が考えられる。とすれば残りの症状で「血と気と水」の薬方を考えなければならない事になる。残った症状は、汗が出にくい、不眠、アザ、のぼせ、耳鳴、夜間排尿(痛みのため)であるので解毒剤、下焦の疾患、駆瘀血剤(瘀血単独の症状でないので省略)、加味逍遙散の中で該当するものは防風通聖散と八味丸が考えられる。この患者が老齢である事、やせ型である事を考えれば八味丸の方がよりよいと思える。いま、八味丸だけであるならば、食欲不振があるので使用できないが、柴胡桂枝湯が合方されるので使用できる。
 以上のように麻杏薏甘湯と加味逍遙散あるいは柴胡桂枝湯と八味丸が考えられるが農作業の使い痛みより起こった事を考えれば麻薏甘湯と加味逍遙散の方が良いと思う。




※このようにアレルギー体質であるとか、腺病質であるとか、
  原文は「線病質」であったが、「腺病質」に訂正。
  腺病質とは滲出性(しんしゅつせい)あるいはリンパ体質(アレルギー、湿疹などになりやすい体質)の小児や無力体質(体力のない体質)、神経質のこと。

※承気湯類などはほとんど体質改善を行なうことは出来ないものである。
 承気湯類の中でも、桃核承気湯は駆瘀血剤でもあるので、体質改善できる。
 ただし、桃心の品質に注意。
 また、ここで書かれている体質できない漢方薬でも飲み続けていれば、薬効とは関係なく、年齢などで、改体は変わる可能性はある。

※体質改善の出来る薬方を合方する方が良い事は言うまでもない。
 体質改善の薬方を合方すると、薬味が増え、薬効が弱まる可能性もあるので注意。
 症状が激しい時は、「先急後緩」で体質改善は後にした方が良いかも。

※相応の処置
 裏証Ⅰ(安中散等)や柴胡剤等を合方する、人参を加えるなど。

※駆瘀血剤では桂枝茯苓丸、加味逍遙散
 単に、血-気ー水 であれば、駆瘀血剤として桂枝茯苓丸も候補となるが、
 気-水 + 血=気-水 のように、合方する場合は
 血-気-水の駆瘀血剤は加味逍遙散のみのはずなので、桂枝茯苓丸は候補とはならない。

※芍薬甘草湯を頓服
 芍薬甘草湯は二味であるから効果があり、合方して薬味が増えると効果が弱くなるため頓服にする。基本的に芍薬甘草湯は合方しないのが村上先生の考え方。



 

2019年8月13日火曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(11)
 村上 光太郎
  a、調胃承気湯、防風通聖散、通聖消毒飲(図45参照)
 調胃承気湯は大黄と芒硝による下剤であるが、これに消炎作用の山梔子、連翹と、心下痞を治す黄芩、発汗、健胃生薬の薄荷を加えた薬方が涼膈散である。従って本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが、症状は激しく、実証の人に用いる薬方であることがわかる。これに駆瘀血生薬の当帰、芍薬、川芎を加え、更に体表の駆水生薬の麻黄、防風と、全身の駆水生薬の白朮、胃内停水を除く生姜、解熱作用の滑石、石膏を加え、桔梗と荊芥、連翹による消炎、排膿作用を加えたものが防風通聖散である。本方より駆水作用のある生姜、白朮、解熱作用の石膏を除いて、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが通聖消毒飲でうる(連翹を欠けている)。しかし体表の駆水生薬である防風、麻黄や、解熱作用のある滑石等は残っているため、ほとんど防風通聖散と同じ薬効果を現すことがわかる。
  f、温清飲、柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(図46参照)
 温清飲は柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)の基本となっている。温清飲はいわずもがな、四物湯(駆瘀血剤)と黄連解毒湯(心下痞、精神不安)の合方であり両方の薬能を現しているが、これに胸脇苦満を治す柴胡(量が少ないため、体質改善薬となる)、消炎、排膿作用をもつ桔梗、連翹、解熱作用の天花粉(瓜呂根)、薄荷、解毒作用のある牛蒡子を加えたものが柴胡清肝散であり、皮膚に炎症あるいは排膿があり、心下痞や精神不安と共に瘀血症状のある人の体質改善をして治そうとするものである。柴胡清肝散より天花粉と牛蒡子を除き、表の発汗剤である防風、鎮痛、鎮静剤である白芷を加え、気うつの順気剤である枳殻を加え、更に荊芥を加えて桔梗、荊芥、連翹を完全としたものが荊芥連翹湯である。従って柴胡清肝散と基本的には同じであるが、柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、鎮痛作用のある白芷を加え、体質的な病毒を除こうとしている薬方である。柴胡清肝散の柴胡、桔梗、天花粉、牛蒡子を除き、健胃剤の竜胆、利尿剤の沢瀉、木通、車前子を加えたものが竜胆瀉肝湯で、柴胡清肝散は体毒と共に体表の毒を除こうとするのに反して、体毒を利尿に導き、治そうとするものである。ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、黄連解毒湯より黄連、黄柏が除かれた薬方に、甘草と竜胆、沢瀉、木通、車前子が加えられた薬方である。従って駆瘀血作用や解毒作用は弱くなるが、駆水作用は一貫堂方と同じであることがわかる。
 以上のように考えていただければ、すべての薬方の解理ができるわけで、処方(薬方)名ばかりに目をおけるのではなく、配剤された生薬が何であるかに目を向けていただければ、合方、加減方などが誤りなく行なえる。
 ところで、これらの薬方を用いる場合には、どのようにしたら無理なく、自由に使用できるかというと、まず、病人の病変の程度を、病状より気・血・水で把握し、
 一、もし気の症状のみ、あるいは気の症状に、無視できる程度の血あるいは水の症状がある場合には気よりなっていると考え、順気剤を用いる。
 二、もし血の症状のみ、あるいは血の症状に、無視できる程度の気あるいは水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。
 三、もし水の症状のみ、あるいは水の症状に、無視できる程度の気あるいは気の症状がある場合は瘀水であると考え、駆水剤を用いる。
 気・血・水の各症状が混在する場合は、吉益南涯の気血水説に従って、次のように分類する。
 四、もし気と血の症状の時、あるいは気と血の症状に、無視できる程度の水の症状がある場合は瘀血であると考え、駆瘀血剤を用いる。
 五、もし気と血と水のすべての症状があれば、駆瘀血剤、解毒剤(図47参照)、下焦の疾患(図48参照)、加味逍遙散等より選用する。
 六、もし気と水の症状の時、あるいは気と水の症状に、無視できる程度の血の症状がある場合は気と水の病気と考え、更に表、半表半裏、裏、上、中、下等を考えて用いる。なお以下は順序どおりに使用を考えるものとする。従って上位の症状がないか、あるいはすでに上位の薬方が与えられたが症状が残った時には下位の薬方を考えるようにする。
 ①、胸脇苦満があるならば、まず柴胡剤を用いる。
 ②、表証の症状のみ、あるいは少し半表半裏の症状がある程度ならば、表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方を選用する。
 ③、中焦の症状が主な時は、建中湯類を用いる。
 ④、裏証の症状が主な時は、冷えがある程度の時は裏表Ⅰの薬方を、更に冷えが強く、新陳代謝が衰えている時は裏証Ⅱの薬方を用いる。
 ⑤、便秘の症状だけに時は、承気湯類を用いる。
 ⑥、心下痞の症状がある時は、瀉心湯類を用いる。
 ⑦、口渇、漏水の症状を主としる時は、白虎湯類を用いる。
 ⑧、以上のいずれにも属しない場合は、(血と気と水)あるいは(気と水、気と血)あるいは(気と水、血と気と水)のいずれかに考えなおし、再度、それらの薬方を考える。
 以上のようにして病人の証と薬方の証を結びつける(随証療法)のは比較的簡単であるが、病人の証の把握のためには、病人の症状を気・血・水に分類必要がある。しかし種々の症状を血にとったり、気にとったりするなど、人によりマチマチである事は少なくない。従って参考までに、私の用いている方法を記すますのでご利用ください(図49参証)。
 すなわち、全身の所の高熱、微熱、悪寒より下の、少し太い線で囲まれた、すなわち首、肩、背の所では首筋がこるから背部がだるいまで、胸の所ではつまる感じから心悸亢進まで、小便の所では無色から普通まで、などの症状群は気・血・水のいずれによっても起こらない症状か、あるいは気・血・水のいずれによっても起こる症状であるため、その症状であるため、その症状だけでは気・血・水の判断がつかない症状群である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では精神不安や興奮しやすい、のど、口、舌の所ではのどが痛いから声がかれるまで、腹の所では蠕動亢進などの症状群は気の症状であることを示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所では浮腫、蟻走感、皮膚の所では分泌物から腫物まで、のど、口、舌の所では口内炎、胸の所では喘鳴からケイレン痛、息切れまでなどの症状群、および少し離れた所にある排尿の所の出にくいから残尿感までの症状群は、気によっても起こる症状であるし、水によっても起こる症状であるため、これらの症状だけで気より起きたとか、水より起きた症状であると断定できない症状群である事を表している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではあれるから青黒いまで、全身の所では身体動揺感から多汗までと、少し離れたところにある、頭の所では頭汗、胸の所では胸水、痛む、胃の所では胸やけから嘔吐までと、更に少し離れたところにある、大便の所では下痢便から粘液便、兎糞便まで、排尿の所では一回量(多い、少ない)の症状群は水によって起こる症状である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち顔の所ではしみ、赤黒い、皮膚の所では紫斑が出来やすいからアザまで、婦人科の不妊症から月経困難(軽い、ひどい)まで、小便の所の赤味がかる、血尿などの症状群は、血によって起こる症状である事を示している。
 次の太い線でかこまれた、すなわち全身の所の不眠、手の所のマヒ感などの症状群と、少し離れた所にある頭の所ののぼせから耳鼻の所の鼻血までの症状群と、更に少し離れた所にある、腹の所の膨満感、足、腰の所のマヒ感などの症状群は血によっても起こる症状でもあるし、気によっても起こる症状でもある事を表している。従って当然、これらの症状だけで血より起きたとか、気より起きた症状であるとは断定できない症状群である事を表している。
 以上の事を頭に置いて、実際の病人にあたり、例えば気の所だけあるいは気の所の症状が多く、気または水、あるいは血または気の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気の病として順気剤を用いる。
 同様に水の所だけあるいは水の所の症状が多く、気または水、あるいは水または血の所の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は水の病として駆水剤を用いる。
 また血の所だけあるいは血の所の症状が多く、水または血、あるいは血または気の症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。
 しかし、気の所、気または水の所、水の所に症状が多く、血および血または気の所に症状がないか、またはそれほど重要な症状でない時は気と水の病と考え、各種の薬剤を考える。
 また気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。
 更に全体に症状があれば、すなわち、気の所、気または水の所、水の所、水または血の所、血の所、血または気の所に症状がちらばっていれば水と気と血の病として考え、各種の薬剤を用いる。
 これらに、先に述べた方法を組み合わせて考え正しい薬方を使用していただきたい。
 それでは実際に二~三の例にあたって見ると、図50では症状は気と水の病であるため、順番に見て行くと、まず胸脇苦満はないので①ではない。次いで症状のある位置を見るとほとんど表証であることがわかる。従ってこの人には表証、麻黄剤、皮膚疾患の薬方より選べばよい事がわかる。表証の薬方は純粋に表の症状のみに近く、麻黄剤はかなり半表半裏の症状を含み、皮膚疾患の薬方は皮膚の異常が主となるので、この人には表証の薬方を用いれば良い事がわかる。しかしこの人は多汗症であり、しかも疲労倦怠感があるので虚証である事がわかる。従って虚証の薬方である桂枝湯を用いればよいことがわかる。
 図51でも症状は気、気と水、水の所にあるため気と水の病である。従って順番に見て行くと、胸脇苦満はないので①ではない。胃の痞え、腹鳴などの症状があるため表証の症状のみあるいは多いとも言えないので②でもない。下痢、口苦い、首筋がこるなどがあるので中焦が主であるとも言えない。また裏証が主でもない。従って③、④ではない。下痢をしているので便秘ではないので⑤でもない。胸がつまる感じ、つかえるなどより考えると心下痞が考えられる。従って瀉心湯類を用いることがわかる。
 以上のようにして考えていただければ随証療法も容易になるでしょう。
                              (おわり)




※本方は心下痞があり、体表には炎症がある人に用いる薬方であるが
歯痛に用いる薬方として有名。
瀉心湯類? 承気湯類?

※通聖散毒飲
文中は通聖消毒散となっていたが、見出しと合わせ通聖消毒飲に訂正。

※柴胡清肝散、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)は、解毒証体質に使われる薬方。


※柴胡清肝散の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、
 原文は
 柴胡清肝湯の場合には直接的に牛蒡子を加えて強く排膿していたのが除かれ、
 であるが、湯を散に訂正

※ところで竜胆瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、
 原文は
 ところで竜肝瀉肝湯には一貫堂方と異なる薬方が一般には用いられており、
 であるが、肝を胆に訂正

 一般の竜胆瀉肝湯は、薛立斎(せつりつさい)のもの。
 医療用の漢方エキス剤では小太郎のものが一貫堂方で、他社の竜胆瀉肝湯は薛氏の薬方。
 
※これは四物湯より芍薬、川芎が除かれ、
 原文は
 これは温清飲より芍薬、川芎が除かれ、
 であり、間違いではないが、後で黄連解毒湯が出てくることから、四物湯の方が適当。

※⑦から⑧に移る前に、(気と水)+(気と水) で考える。

※気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は気と血の病として駆瘀血剤を用いる。
原文は、
気の所、血の所、または気の所に症状が多く、気また水、水または血の所に症状が少ないか、それほど重要な症状でない時は血の病として駆瘀血剤を用いる。
と「血の病」となっているが、訂正。
ただし、使う薬方は駆瘀血剤で同じ。

※桂枝湯を用いればよいことがわかる。
 首筋がこる、肩こりがあるので桂枝加葛根湯の方が良いのでは? と村上先生に質問したことがあるが、そこまでは必要ないだろうとのことだった。

※従って瀉心湯類を用いることがわかる。
 瀉心湯類の中の半夏瀉心湯か?
 精神不安が強ければ甘草瀉心湯か?
 嘔吐が強ければ生姜瀉心湯か?

2019年8月3日土曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(10)
 村上 光太郎

 I、駆水剤
  a、桂枝甘草湯、苓桂朮甘湯、茯苓甘草湯、苓姜朮甘湯(図36参照)
 桂枝甘草湯は、桂枝と甘草が配剤されたもので、桂枝の発汗作用、気の上衝を押える作用に甘草の急迫症状の緩解作用が加わり、心下悸が強く、自分で胸を押えなくては安心できない時に用いる薬方である。
 本方に茯苓、白朮を加えた苓桂朮甘湯は、茯苓と桂枝、甘草による心悸亢進やめまいを治す作用と茯苓白朮の胃内停水を除く作用、桂枝と白朮および茯苓の利尿作用が配剤されている。従って胃内停水があり、尿利減少しているため、その水により各種の異常を起こすものに用いる。この場合、桂枝が配剤されているため、気の上衝を治す作用があることは当然である。従って水毒は上焦へと向かっている事を表わしており、心悸亢進やめまいを生じるようになった人に用いる薬方となっている。
 これが苓姜朮甘湯になると、桂枝がないため、茯苓と白朮や乾姜の胃内停水を除く作用、乾姜による新陳代謝を亢めて温める作用だけとなるため、水毒は上焦へとは移動せず、下焦へと集まり、その部位に溜まるようになる。従って、胃部から腰部にかけて、水のため冷えを感じるようになる。本方の目標に「水中に坐せるが如く、また五千金を帯ぶるが如し」とあるのはこの水毒のためである。
 茯苓甘草湯は苓桂朮甘湯より白朮を除き、生姜を加えたもので、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、桂枝と茯苓の利尿作用、生姜の胃内停水を除く作用がある。
 基本的には苓桂朮甘湯と同じであるが、苓桂朮甘湯の方には白朮が加わるため、胃内停水、利尿作用などの症状は茯苓甘草湯よりも強い時に用いる薬方である事がわかる。言い換えれば、苓桂朮甘湯は茯苓甘草湯より実証の薬方である事がわかる。
  b、苓桂朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂味甘湯(図37参照)
 この三方の違いは白朮か大棗か五味子かの違いである。この三種の生薬のうち、白朮のみは茯苓ないし桂枝との配剤により薬効が変化する生薬であるが、大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。すでに「生薬の配剤から見た漢方処方解説(2)」の所で述べたように、鎮咳剤としては、五味子の方が大棗より実の薬味であり、大棗には精神的なものが加わる。他の薬味、すなわち茯苓、桂枝、甘草は三方とも共通であり、気の上衝のため、水毒は上焦に向かっており、心悸亢進やめまいを治す作用を持っている事は言うまでもない。
  c、猪苓湯、苓桂朮甘湯、五苓散、茯苓沢瀉湯、茯苓甘草湯、茯苓甘棗湯(図38参照)
 猪苓湯は茯苓と沢瀉、猪苓の尿利をよくする組み合わせに滑石の消炎、利尿、止渇剤と阿膠の止血剤を加えたものであり、尿の出が悪く、しかも血尿、蛋白尿など出ているものに用いる薬方である。しかし、桂枝がないため、本方の水毒は上焦には向かいにくいが、下焦の炎症が激しい時は、その熱によって気の上衝とともに水の上衝が少し加わる場合もある。
 五苓散は、苓桂朮甘湯の甘草を除き、沢瀉、猪苓を加えたもので、茯苓と甘草、桂枝の組み合わせが、茯苓と桂枝だけとなり、心悸亢進やめまいが少し弱く、反対に茯苓、沢瀉の利尿作用が桂枝と白朮または茯苓の利尿作用と重なるため、利尿作用は非常に強くなっている。従って五苓散は水毒が非常に強いため、「類は友を呼ぶ」と言われるように、水毒のため水を飲みたくなり、煩渇飲引と言われるほど、すなわち、いくら水を飲んでも飲みたりないほど強い時に用いる薬方である。
 これが茯苓沢瀉湯になると、茯苓と猪苓、沢瀉の組み合わせが茯苓と沢瀉だけとなり、利尿作用は少し弱くなるが、甘草が配剤されたため、茯苓と桂枝、甘草の組み合わせは完全となり、心悸亢進やめまいを治す作用も完全となる。また、生姜が配剤されているため、茯苓と白朮の組み合わせとともに作用して、胃内停水を治す作用は更に強くなっている。従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。本方より更に沢瀉を除いて、利尿作用を弱めた形の薬方が苓桂朮甘湯である。この事は逆に考えれば、水毒が強く、その水毒を体外に強く排泄しなければならない時は五苓散を、それに対して水毒が少し弱くなれば茯苓沢瀉湯を、更に弱くなり、桂枝と茯苓、白朮だけでたりる程度であれば、苓桂朮甘湯を用いれば良いと言う事を表わしており、水毒の事より考えれば、一番実証の薬方が五苓散、ついで茯苓沢瀉湯であり、苓桂朮甘湯が更に虚証の薬方であることがわかる。
 茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、 桂枝と白朮の利尿作用、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が除かれ、生姜の胃内停水を治す作用、桂枝と茯苓の利尿作用、茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用だけとなるため、茯苓沢瀉湯より虚証の薬方となる。
 本方と苓桂朮甘湯を比べても、本方には生姜の胃内停水を除く作用が加わっているが、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用が減少し、更に桂枝と白朮の利尿作用が除かれているため、水毒は苓桂朮甘湯よりも弱い事がわかる。
 茯苓甘草湯と苓桂甘棗湯との違いは、胃内停水を除く生姜を配剤するか、精神的(急迫的な)咳嗽を治す大棗を配剤するかの違いである。従って両方の薬方とも茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治すとともに、桂枝と茯苓の利尿作用があり、茯苓甘草湯は胃内停水が、苓桂甘棗湯は咳嗽がある場合に用いる薬方である事がわかる。また、これら両方とも苓桂朮甘湯より茯苓と白朮の利尿作用が欠けているため、茯苓甘草湯(生姜の胃内停水を除く作用はあるが、茯苓と白朮の組み合わせによって起こる胃内停水を除く作用より弱い)も苓桂甘棗湯も苓桂朮甘湯版り虚証の薬方である。
  d、苓桂甘棗湯、良枳湯(図39参照)
 苓桂甘棗湯は良枳湯に含まれている。良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用 などの苓桂甘棗湯証に更に半夏と枳実と良姜が加わった薬方となっている。従って半夏はすでに配剤されている甘草、大棗とともに鎮痛剤となり、枳実は気うつの順気剤であるため、心悸亢進、めまい、利尿、咳嗽、鎮痛のすべての作用が増強され、更に良姜による健胃作用も強まっている。
  e、平胃散、四苓湯(五苓散)、分消湯(図40参照)
 分消湯は平胃散より甘草、大棗を除き、四苓湯(五苓散より桂枝を除いたもの)と木香、香附子、枳実、大腹皮、縮砂、燈心草を加えたものであり、平胃散、四苓湯の薬効に、更に駆瘀血(香附子)、健胃(枳実、大腹皮、木香、縮砂)、利尿(大腹皮、燈心草)を加え、枳実による作用の増強が加わったものである。ところで、平胃散は蒼朮の麻痺作用に生姜の胃内停水を治す作用、陳皮の健胃作用が加わり、これらの作用が順気生薬の厚朴により強められている薬方である。また、四苓湯は五苓散より気の上衝を治す桂枝が除かれた薬方であるため、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用、茯苓と沢瀉、猪苓の利尿作用だけとなっている。しかし、これらの作用は分消湯では平胃散の厚朴と更に加えられた枳実により強められているため、分消湯の水毒は五苓散より強く、更に健胃作用と駆瘀血作用が加わった薬方である事がわかる。
 j、その他
  a、不換金正気散、藿香正気散、平胃散、二陳湯(図41参照)
 不換金気散、藿香正気散の両方とも平胃散、二陳湯(去茯苓)を含んでいる。二陳湯(去茯苓)は半夏と生姜の鎮嘔作用、半夏と甘草(不換金正気散と藿香正気散は更に大棗が加わっている)による鎮痛作用、陳皮の健胃作用が含まれている。この二陳湯(去茯苓)に更に健胃剤の藿香、順気剤の厚朴、麻酔作用のある蒼朮が加えられたものが不換金正気散である。
 言い換えれば、平胃散に半夏と藿香を加えたものであり、急に起こった痛みを蒼朮によって麻酔し、また半夏と大棗、甘草の鎮痛作用も相乗的に働かせて痛みをとるとともに、陳皮、藿香の健胃作用、半夏、生姜の鎮嘔作用によって症状の緩解を図り、これらに順気生薬の厚朴が加えられて、更に強力な薬方となっているのが不換金正気散であるといえる。従工て不換金正気散は平胃散のように体力のあまり衰えていない、急性病的な症状に用いる部分(蒼朮)と各種の健胃生薬によって慢性的な症状を治そうとする部分を含んでいる。この不換金正気散より麻酔作用のある蒼朮を除き、鎮痛、鎮静作用のある白芷、利尿作用のある大腹皮、白朮、順気剤の蘇葉、排膿作用のある桔梗を加えたものが藿香正気散である。従って、水毒は藿香正気散の方が不換金正気散よりも強く、藿香正気散には排膿作用も加わっているが、不換金正気散のような麻酔性の鎮痛作用がないため慢性的な消化器系疾患に用いる薬方であることがわかる。
  b、小半夏湯、二陳湯、温胆湯(図42参照)
 半夏の鎮嘔作用を目的にすれば、小半夏湯となり、これを胃内停水を除くために、茯苓を加えたものが小半夏加茯苓湯である。更に健胃生薬である陳皮を加えれば二陳湯となり、胃が弱く、胃内停字によって嘔吐、悪心のあるものに用いるようになる。この二陳湯に解熱、止渇作用のある竹筎を加え、順気生薬の枳実を加えて作用を強力としたものが温胆湯であり、同様に胃が弱く、胃内停水によっては嘔吐、悪心はあるが、内熱により水の上衝が非常に強く、熱と水のため不眠を訴えるようになったものに用いる薬方であることがわかる。不眠が更に強くなれば、本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。
  c、十味敗毒湯、荊防敗毒散(図43参照)
 十味敗毒湯と荊防敗毒散の違いは、十味敗毒湯には桜皮が配剤されているのに対して、荊防敗毒散には羗活、前胡、薄荷、連翹、金銀花、枳実が配剤されている事である。共通の部分は茯苓の駆水剤とともに、発汗、解熱剤の独活、防風、胃内停水を除く生姜、駆瘀血剤の川芎、桔梗と荊芥による消炎と排膿作用、柴胡の胸脇苦満を治す作用(実際は配剤量が少ないため、胸脇苦満とは現れず、胸のあたりが変だとか、アレルギー体質、虚弱体質などの体質改善が必要であるという事だけの事が多い)などがある。従って十味敗湯更には更に収れん、解毒作用、すなわち、皮膚病を治す桜皮とともに作用するので、胃内停水のみならず体表にも水毒があり、瘀血も少しあって、体表には炎症あるいは膿が溜りやすい体質傾向の人に用いる薬方である。荊防敗毒散は十味敗毒湯の桜皮を金銀花に替えて浄血、解毒作用とし、更に発汗剤となる羗活、薄荷、および鎮咳、去痰剤となる前胡を加え、更に連翹を加えることにより、桔梗と荊芥の組み合わせろ桔梗と荊芥、連翹の組み合わせとして完全とし、気うつの順気剤を加えて配剤された薬味の数の増加による作用の低減を防ぐとともに、増強された発汗作用を更に強力とした薬方である。従って、荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方となっている。
   d、大承気湯、加味承気湯、通導散(図44参照)
 通導散には万病回春に記載の薬方と、一貫堂方では芒硝の有無が般なるが、芒硝は大黄とともに配剤されている事を考えれば、万病回春方が、一貫堂方より少し実に用いる薬方である事がわかる。
 さて、これらの薬方の基本となっている大承気湯あるいは大承気湯去芒硝は、大黄と芒硝(あるいは大黄のみ)の下剤の作用が、枳実、厚朴の順気生薬によって強められている薬方であり、強烈な下剤である。これに当帰、紅花の駆瘀血生薬を加え、甘草の諸薬の調和作用を加えたものが、加味承気湯であり、当帰や紅花の駆瘀血作用を下剤および気うつの順気剤により強い駆瘀血剤として、瘀血を強く排除しようとする薬方である。この加味承気湯に更に駆瘀血生薬の蘇木、気うつの順気生薬の帰国を加えて強力とし、合わせu健胃生薬の陳皮、利尿作用の木通を加え、水毒までも治そうと考えたのが通導散である。  (以下次号につづく)


※大棗や五味子の薬効は変化せず、相加作用のみしかない。
 桂枝+大棗(止汗作用)の薬効は現れないのか?

※従って本方は利尿作用は強くなるが、胃内停水や心悸亢進、めまいなども強くなっていることがわかる。
 猪苓が無い分、利尿作用は弱くなっているのでは?

※本方より更に沢瀉を除いて
 本方より更に沢瀉(と生姜)を除いて
 
※茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮を除き、
 茯苓甘草湯は、茯苓沢瀉湯より白朮と沢瀉を除き、

※良枳湯は茯苓と桂枝、甘草の心悸亢進やめまいを治す作用と、茯苓と桂枝の利尿作用、大棗の精神的な咳嗽を治す作用iなどの苓桂甘棗湯証
桂草+大棗の止汗作用が書かれていないのは何故?

※藿香正気散
 胃腸薬や駆水剤としてよりも、夏風邪に使う漢方薬として有名。何故?

※これを胃内停水を除くために、
 これに胃内停水を除くために、

※本方に黄連と酸棗仁を加えて用いられる。
 加味温胆湯

※桜皮
 十味敗毒湯には桜皮を使うものと樸樕を使うものとがある。

※気うつの順気剤
 薄荷、枳実

※荊防敗毒散は十味敗毒湯より実証の薬方
 医療用漢方製剤には、十味敗毒湯はあるが、荊防敗毒散は無い。
 このため荊防敗毒散が使われる頻度は低いと思われる。
 『勿誤薬室方函口訣』には、十味敗毒湯は荊防敗毒散の加減方と記されている。
   荊防敗毒散は『万病回春』、十味敗毒湯は華岡青洲の創方。

※大承気湯去芒硝
 =小承気湯
 

2019年7月27日土曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(9)
 村上 光太郎

 F、裏証Ⅰ・Ⅱ
  a、半胃散、補気建中湯、四君子湯(図26参照)
 平胃散、補気健中湯、四君子湯の関係を見ると、補気建中湯、四君子湯の方意が含まれている。平胃散や補気建中湯には蒼朮が配剤されているため、この二方は痛みが激しい時に麻酔を目的に用いる薬方であることがわかる。ところでこの二方には厚朴が配剤されているため、麻酔作用は更に強くなり、また同時に配剤されている陳皮や生姜の健胃作用も強力となっていることは今更、言うに及ばない。従工てこられ二方は消化器系が悪く、消化障害を起こし、しかも痛みが激しい時に用いられる薬方であるが、麻酔作用のある薬物が配剤されているという事は、平素健康な人が暴飲暴食によって急に痛みを覚える人に用いる薬方であることがわかる(もし、これらの薬方を平素より消化器系の弱い人に用いれば、蒼朮の麻酔作用により痛みが早く止まるため、治ったものと勘違いして、再び無理をし、結果的には治らない事になるため、平素より消化器系の弱い人には用いないようにするほうがよい)。平胃散はこれらに大棗と甘草が配剤されているが、大棗の精神的なことによって起こる咳に対する鎮咳作用は、他に強い作用の生薬が配剤されれば表面には現れてこないし、甘草の鎮痛作用も同様に現われず、他の生薬の調和の意味しかない。従って平胃散は健胃作用と麻酔(鎮痛)作用が順気生薬(厚朴)によって強められた薬方である。この平胃散に四君子湯を配剤し、更に全身の水毒を協す人参、胃内停水を治す茯苓と白朮の組み合わせ、尿利をよくする茯苓と沢瀉の組み合わせがあり、心下痞を治す黄芩が配剤された薬方が補気建中湯である。また本方には更に鎮咳作用のある麦門冬が配剤されているため、補気健中湯には平胃散の消化器系の障害を治す作用に、水毒の症状が激しくなり、全身症状まで現われ、咳までも出始めた人に用いる薬方となっている。
  b、平胃散、不換金正気散、香砂六消子湯(図27参照)
 平胃散と不換金正気散を比べると、不換金正気散には平胃散には平胃散にはない半夏と藿香が配剤されているため、半夏と生姜の組み合わせによる鎮痛作用、半夏と甘草、大棗の組み合わせによる鎮痛作用が加わり、更に藿香による健胃作用が陳皮や生姜の作用と共に強力となっている。従って不換金正気散は平胃散の健胃作用が更に強くなり、嘔吐なども強くなった人に用いる薬方となっている。不換金正気散は更に色々と加減がなされ、数多くの薬方が構成されている。ところで平胃散より麻酔作用のある蒼朮、順気生薬の厚朴を除いて、茯苓を加えた(大棗も除かれている)薬方は二陳湯といい、胃内停水によって嘔吐等を発する人に用いる薬方である。本方に砂仁、香附子、人参、白朮、大棗を加えたものは香砂君子湯といい、健胃作用(砂仁)、駆瘀血作用(香附子)、全身の水毒および駆水作用(人参、白朮)が更に加わるため、水毒が強く、瘀血も少し加わった人に用いる薬方である。ところで二陳湯および香砂六君子湯には蒼朮およびそれを強力にする順気生薬(厚朴)が入っていないため、麻酔して痛みを止めるのではなく、水毒の変調を治す薬方であるから、急な暴飲暴食による痛みには効果がない事がわかる。
  c、六君子湯、半夏白朮天麻湯(図28参照)
 半夏白朮天麻湯の中には六君子湯に含まれている生薬のほか(甘草、大棗は欠けている)健胃消化薬となる麦芽、神麹、黄柏。強壮、鎮静の天麻。表虚を治す黄耆。胃内停水を治し、新陳代謝を高める乾姜。尿利をよくする沢瀉(茯苓と組み合わされて)。麻酔作用のある蒼朮が配剤されている。従って水毒の異常は消化器系はもちろん、全身に及んでおり、そのために起こる各種の症状に用いられる。
  d、人参湯、桂枝人参湯、苓姜朮甘湯(図29参照)
 人参湯と桂枝人参湯の関係ほ見ると、人参湯に気の上衝(のぼせ)をおさえる桂枝が配剤されたものが桂枝人参湯である。この場合、人参湯に配剤されている白朮には駆水作用があるが、その駆水の方法すなわち発汗するか、利尿に導くか等が不明である。従って水毒が強ければ効果が期待できないことがある。しかし順気生薬である桂枝が配剤されれば、桂枝の発汗作用と共に、桂枝と白朮が配剤されることによって起こる利尿作用が加わるので水毒の解消方法が明瞭となり、水毒が多少強い場合にも用いられるようになる。
 人参湯と苓姜朮甘湯の関係は、人参湯には人参が、苓姜朮甘湯には茯苓が配剤されている。人参湯は全身の水毒をめぐらす人参、胃内停水を除き、新陳代謝機能を亢進させる乾姜、駆水作用のある白朮が配剤されているため、水毒は胃内停水に止まらず、全身におよんでいることがわかる。一方、苓姜朮甘湯は乾姜および茯苓と白朮による胃内停水を除く作用だけとなっている。また生姜ではなく、乾姜が配剤されている事は新陳代謝機能もおとろえている事を現わす。この事は胃内停水も胃の中に停まらず、下腹部から腰部にまで及ぶようになっている事を現わしている。従って人参湯のように全身の冷えというよりも腰部の水毒のため、腰部の冷えを強く感じる時に用いる薬方であることがわかる。
  e、附子湯、真武湯(図30参照)
 附子湯と真武湯の関係を見ると、附子湯には人参が、真武湯には生姜が配剤されており、他の生薬は共通である。人参は全身の水毒を巡らせ、生姜は胃内停水を除く作用がある。従って附子湯は全身の水毒がある人に、来局名湯は胃内停水が強い人に用いる薬方である事がわかる。ところで共通部分を見ると、茯苓と白朮による胃内停水を除く作用、芍薬の筋肉の緊張を柔らげる作用があり、更に附子が配剤されている。附子の温補作用は配剤された生薬によって作用する部位が変化する事はすでに述べたが、附子湯では附子は茯苓、人参によって半表半裏から裏へ、また、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、結果的には半表半裏より裏へ強く作用する(全身に誘導された場合、附子の作用は、水毒の症状を治す作用へと変わり、新陳代謝の賦活作用は現われない)。ところが、真武湯の附子の作用は茯苓によって半表半裏から裏に誘導され、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、半表半裏から裏に強く働くが、全身にも及ぶことになり、半表半裏から裏位の新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。
  f、四逆湯、甘草附子湯(図31参照)
 四逆湯は 乾姜と附子が配剤されているため、新陳代謝の賦活作用は最も強い部類に属する。しかし甘草附子湯は附子のみが配剤されているため、四逆湯に比べると新陳代謝の賦活作用は弱い。また附子の作用する部位を見ると、四逆湯では附子の作用は乾姜によって半表半裏から裏へ誘導され、半表半裏から裏の部位の新陳代謝を亢めるが、甘草附子湯では附子の作用は桂枝によって表に誘導され、白朮によって全身に誘導されるため、結局附子は表の組織に作用し、表の部位の新陳代謝機能を亢めるようになる。従って四逆湯と甘草附子湯はいずれも新藻代謝の賦活剤であると言っても、作用する部位はまったく異なる事を知らなければならない。
 G、承気湯類
  a、大黄甘草湯、調胃承気湯、桃核承気湯(図32参照)
 大黄甘草湯の大黄は言うまでもなく下剤であり、共に配剤されている甘草は大黄により起こるであろう腹痛等の障害を少しでも緩解させるために配剤されているものである。本方に芒硝を加えて下剤の作用を強めたものは調胃承気湯であり、更にこの作用を順気生薬(桂枝)によって強め、駆瘀血生薬を配剤したものが桃核承気湯である。従って桃核承気湯が一番実証の用いる薬方であり、次いで調胃承気湯、大黄甘草湯と続いて虚証の人に用いる薬方となつている事がわかる(生薬の配剤から見た漢方処方解説(4)を参照)
  b、潤腸湯、麻子仁丸、小承気湯(図33参照)
 小承気湯に麻子仁、杏仁、芍薬が配剤された薬方が麻子仁丸であり、麻子仁丸より芍薬を除いて更に桃仁、当帰、地黄、黄芩、甘草を加えた薬方が潤腸湯である。小承気湯は大黄の下剤を気うつの順気剤(厚朴、枳実)で強めたものであり、下剤としては強力な部類に属する。それに更に緩下剤である麻子仁を加えて作用を強力としているが、芍薬によって半表半裏から裏位の痛み(芍薬の量が多いため)、すなわち腹痛等を鎮めるため、強い下剤になって起こるであろう腹痛等を鎮めると共に、薬味の数も多くなっているため、作用は緩和となっている。潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。
 H、瀉心湯類
  a、黄連湯、半夏瀉心湯、生姜瀉心湯(図34参照)
 三方の違いは黄連湯には桂枝が、半夏瀉心湯には黄芩が、生姜瀉心湯には黄芩と生姜が配剤されている。共通な部分を見ると、黄連の心下痞を治す作用(黄芩が入れば更によい)、半夏と生姜(実際は乾姜が配剤されている)の鎮嘔作用、半夏と大棗、甘草の鎮痛作用、人参の全身の水毒を治す作用、乾姜の胃内停水を除く作用があり、更に乾姜による新陳代謝の賦活作用がある。従って心下痞があり、胃内停水、全身の水毒がある。言い換えれば胃内停水が動けばそれにつれて種々の症状が出る時に用いられるもので、現わしている個々の症状に合わせて加減して薬方が作られる。すなわち、気の上衝(のぼせ)が強ければ桂枝を配剤して黄連湯として用い、心下痞が強ければ黄芩を更に配剤して黄連と黄芩の組み合わせを作り、確実性を高めた半夏瀉心湯とし、胃内停水が強ければ乾姜の量を減らし、生姜を加えた生姜瀉心湯にする。
  b、黄連阿膠湯、大黄黄連瀉心湯、三黄瀉心湯(図35参照)
 大黄黄連瀉心湯は大黄と黄連が配剤されたもので、心下痞を治す黄連(黄連にはこの他、消炎、健胃、鎮痛作用もあるのは当然である)にその作用を強めるため、下剤の大黄が配剤されている。この大黄黄連瀉心湯に心下痞を治す黄芩が配剤されれば三黄瀉心湯となり、心下痞を治す作用は更に明瞭となる。
 三黄瀉心湯は実証の薬方であるが、黄連、黄芩の作用を大黄で強力とするのではなく、筋肉の緊張をやわらげる芍薬(瘀血も巡らす)と血燥を潤し肌膚をなめらかにする作用のある阿膠と卵黄が加えられたものが黄連阿膠湯である。従って薬味の数は増えるが、下剤ないし順気剤による作用がないため、薬味の数が増えただけ、結局作用は弱くなり虚証の薬方へと変わっている。
(以下次号に続く)






※砂仁
縮砂(Amomi Semen)

※新陳代謝の賦活作用は附子湯よりも劣ることになる。
原文は
新陳代謝の賦活作用は附子よりも劣ることになる。 となっているが、附子湯に訂正。

※四逆湯
 回逆湯(かいぎゃくとう)とも。
 四逆散とは全くことなるので注意。
 薬方名に数字がある時は、薬味の数に関係あることが多いが、四逆湯は乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、附子(ブシ)、白朮(ビャクジュツ)、桂枝(ケイシ)の五味。
 四逆散は、柴胡(サイコ)、枳実(キジツ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)の四味。
 
※潤腸湯は本方に更に駆瘀血剤である桃仁、当帰、補血、強壮剤である地黄、心下痞を治す黄芩を配剤しているため、更に下剤の作用は緩和となっている。
潤腸湯から芍薬が除かれている意味は?
薬味が多くなり作用が緩和になったため、芍薬は除いたのか?

※生姜瀉心湯
 生姜は日局ショウキョウ(干生姜)ではなく、生のショウガを使うべき。
簡便な方法としては半夏瀉心湯のエキスにショウガの擦りおろしを加える
(ただし、乾姜が減量されていない点は注意)
更にショウガの擦りおろしの代わりにチューブのショウガでも?
(出始めの頃のチューブのショウガにはショウガが入っていないことがあったらしいが現在は?)


2019年3月7日木曜日

生薬の配剤から見た漢方処方解説(8)

誌上漢方講座 症状と治療
生薬の配剤から見た漢方処方解説(8)
 村上 光太郎

 C、駆瘀血剤 
  a、桃核承気湯、調胃承気湯(図・16参照)
 桃核承気湯と調胃承気湯を見ると、桃核承気湯には調胃承気湯が含まれている。今、調胃承気湯の大黄、芒硝は強い下剤であり、甘草は二薬の調和および、弱いながらも大黄、芒硝の作用発現時に起こる腹痛を防ぐ作用がある。従って桃核承気湯も強い下剤であることがわかる。桃核承気湯には調胃承気湯に更に順気生薬の桂枝と駆瘀血生薬の桃仁が加えられているため、調胃承気湯より更に下剤の作用は強くなり(順気生薬による)、駆瘀血剤の作用も強くなっている(下剤、順気生薬による)。従って桃核承気湯を駆瘀血剤として使用する場合には、常に下剤の作用がある事を忘れてはならない。
  b、四物湯、七物降下湯、八物降下湯(図・17参照)
 これら三方の関係は、四物湯を基本として七物降下湯が作られ、更に七物降下湯を基本として八物降下湯が作られたものである。従って、当然四物湯の駆瘀血剤の薬能は他の薬方へと受けつがれ、七物降下湯では更に黄耆の表虚を治す作用、釣藤の鎮静、鎮痙作用、黄柏の消炎性健胃の作用が加わる。また八物降下湯では釣藤と黄耆の組み合わせによる降圧作用を目的にするだけでなく、更に降圧作用のある杜仲を加えることによって作用の増強が図られている。
  c、十全大補湯、連珠飲、八物湯(図・18参照)
 十全大補湯と連珠飲との関係は連珠飲に人参(全身の水毒)と黄耆(表虚、寝汗)が加えられたものが十全大補湯であり、十全大補湯と八物湯(別名八珍湯)との関係は八物湯に桂枝(気の上衝を治す、茯苓と甘草と共に心悸亢進やめまいを治す)と黄耆が加えられたものが十全大補湯である。また連珠飲と八物湯の関係は桂枝が入るか、人参が入るかの違いとなる。すなわち上焦の症状が多くなれば連珠飲であり、全身の症状なら八物湯であるとも言える。これらの関係をさらに単純な薬方で見ると更に明瞭となる。すなわち連珠飲は四物湯と苓桂朮甘湯の合方よりなっており、八物湯は四湯物と四君子湯の合方よりなっているからである。
  d、胃風湯
 胃風湯は八物湯去甘草、地黄に桂枝、粟を加えたものとして考えることが出来る。また前記のCの関係図を考え合わせると、連珠飲去甘草、地黄に人参、粟を加えたとも考えることができる。すなわち、十全大補湯の黄耆を除いて粟を加え、更に地黄、甘草を除いたものであると言える。地黄の強壮作用がなくなっているという事は、胃風湯が十全大補湯より少し実証の人に用いる薬方である事を現わしており、甘草が除かれている事は、薬味の数が多いので薬効にはほとんど関係はない。また黄耆が除かれているので表虚(寝汗)もなく、粟が配剤されているので裏虚(特に腸管の弛緩)を治す作用がある。言い換えれば胃風湯は十全大補湯より表実裏虚証の人に用いる薬方であるといえる。
  e、柴胡清肝散、荊芥連翹湯(図・20参照)
 柴胡清肝散と荊芥連翹湯の関係はいずれも温清飲に桔梗と連翹の組み合わせと、柴胡、および薄荷、甘草が配剤されており、荊芥連翹湯には発汗解熱作用のある防風と、桔梗、荊芥・連翹と共に排膿作用のある白芷が配剤されており、これらの作用を枳殻によって増強させている。従って柴胡清肝散と荊芥連翹湯は非常に良く似た薬効をもった薬方であることがわかる。ただ牛蒡子は先天的な体毒を、桔梗、荊芥、連翹と白芷の組み合わせは蓄積された体毒を治すとする区別もある。
  D、表証、麻黄剤
   a、桂枝湯、真武湯(図・21参照)
 まず、桂枝湯およびその加減方についてそれらの関係を見ると、桂枝湯は桂枝と芍薬による筋肉の緊張緩和作用と、桂枝と大棗による止汗作用があり、更に桂枝の気の上衝を押える作用と、生姜の胃内停水を除く作用があるため、頭痛、身疼痛、自汗を治し、l気の上衝によって起こる乾嘔、心下悶などにも用いられる薬方である。本方に新陳代謝の賦活作用を有する附子を加えた桂枝加附子湯では、附子の作用は桂枝によって表に、芍薬によって全身に誘導されるが、全身への誘導は弱いため、ほとんど表の組織すなわち筋肉の新陳代謝を亢めるように働く薬方となり、桂枝湯によって治す症状に、更に冷えや筋肉の新陳代謝障害によって起こる麻痺感や四肢の運動障害などが加わる。
 桂枝加附子湯に更に白朮を加えた桂枝加朮附湯では、附子の作用は芍薬と白朮によって全身に誘導される量が多くなり、表の少し深い部位、すなわち関節にも働くようになる。また白朮が入ったため桂枝と白朮による利尿作用も加わる。従って更に関節の腫痛や尿利減少と共に四肢の麻痺感、屈伸困難なども加わる。桂枝加朮附湯には更に茯苓を加えた桂枝加苓朮附湯では、附子の作用は桂枝によって表へ、芍薬と白朮によって全身へ、茯苓によって半表半裏から裏に誘導されるため、結局附子は全身に同じように働くことになり、新陳代謝の賦活作用と言うよりは駆水作用の意味合いが強くなり、心悸亢進、めまい、尿利減少、筋肉の痙攣などを訴えるようになる。
 桂枝湯より桂枝を除き、茯苓と白朮を加えた桂枝去桂加茯苓白朮湯では、芍薬の筋肉をやわらげる作用と、生姜および茯苓と白朮による胃の機能を亢め、胃内停水を去る作用が加わるため、頭痛、項背痛があり、胃部の水毒によって胃部が虚し、心下満や心下微痛を呈するようになったものに用いられる薬方である。ところで本方は桂枝をわざわざ抜いているのはなぜであろうか。桂枝は白朮や茯苓と組み合わされれば利尿剤となり、また茯苓は桂枝と甘草が組み合わされれば心悸亢進やめまいを治す作用が加わるので、本薬方のように桂枝を除いて本薬方のように桂枝を除いて桂枝去桂としなくてもよいように思えるであろう。
 ここで傷寒論の条文を引き出して見ると、理由がよくわかるので次に引用しておく。
 「服桂枝湯、或下之、仍頭項強痛、翕翕発熱、無汗、心下満微痛、小便不利者、桂枝去桂加茯苓白朮湯主之」
 すなわち、桂枝湯を服用し、また下剤を服用して下したが、なお頭項強痛、熱は体表に集まって発熱し、無汗で心下満微痛、小便不利の者は桂枝去桂加茯苓白朮湯これを主るというのであ音¥このことは無汗であるので桂枝加苓朮湯のような桂枝と大棗の組み合わせはあってはならない。また桂枝は茯苓と組み合わされれば利尿作用となるが、また一方、桂枝は発汗剤として働く場合には利尿を妨げる逆の作用もあるので、症状として小便不利が明らかにある場合には桂枝が配剤されるのは良くない。従って桂枝を除いた薬方とされたのである。
 この桂枝去桂加茯苓白朮湯と反対に、桂枝のかわりに大棗を除き、更に芍薬、生姜を除いた薬方は苓桂朮甘湯といい、桂枝と茯苓による利痢作用(桂枝による逆の作用も一応頭に置いておく)と、桂枝と茯苓、甘草による心悸亢進各まめいを治す作用、茯苓と白朮の胃内停水を除く作用を持つ薬方である。従って本方には小便不利の症状は少なく、あっても尿利減少程度であるが、心悸亢進、めまい、立ちくらみ、胃内停水など水毒症状を激しく訴える事を目標とすることがわかる。
 また桂枝加苓朮附湯と真武湯との関係を見ると、桂枝加苓朮附湯より桂枝、大棗、甘草が除かれた薬方が真武湯である。従って、先に述べた桂枝加苓朮湯と桂枝去桂加茯苓白朮湯の関係と同様な関係が桂枝加苓朮附湯と真武湯の間になりたち、更に附子の作用する部位は表に誘導する桂枝がなくなり、全身に誘導する芍薬と白朮、半表半裏から裏に誘導する茯苓となるため、附子の作用は半表半裏から裏に誘導され、その部位の冷えを治し、新陳代謝を亢めている。従って腹痛、胃内停水(生姜、茯苓と白朮)を基本とし、これが附子の新陳代謝の賦活作用と共に働き、心悸亢進、嘔吐、浮腫、水様性下痢、四肢全体の麻痺と疼痛(筋肉よりも関節に強く働くので運動失調なども治す)などの症状を目標とする。
  b、葛根加朮附湯、桂芍知母湯(図・22参照)
 葛根湯加術附湯は葛根湯に白朮と附子を加えたものであり、附子の作用は葛根、麻黄、桂枝により表に誘導され、芍薬、白朮により全身に誘導されるため、多くは表の新陳代謝を盛んにする。桂芍知母湯の場合でも附子の作用は麻黄、桂枝、防風によって表に誘導され、芍薬、白朮によって全身に誘導されるため、多くは表の新陳代謝を盛んにする。このように二方とも表の部位に働き、筋肉の新陳代謝によって起こる麻痺感や四肢の運動障害に用いられる事がわかる。ただ桂芍知母湯には知母による内熱をさます働きがあるため、内熱により起こる関節の腫痛を治す作用が加わる。
    c、葛根湯、桂枝湯(図・23参照)
 葛根湯と桂枝湯の関係は今更言うには及ばないかもしれないが、桂枝湯に葛根と麻黄が加えられたものが葛根湯である。この二方の薬効の違いをただ単に葛根及び麻黄の単独の薬効に帰因させてはならない事はすでに述べて来た事であり、麻黄の配剤により、桂枝と大棗の組み合わせに変わり、従って薬方の虚実も変わって虚証の薬方の桂枝湯が、実証の薬方の葛根湯へと変わっている。
  d、小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯(図・24参照)
 小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯は細辛(鎮咳・胃内停水)、半夏と乾姜(鎮嘔)、半夏と甘草(鎮痛)、五味子(鎮咳)の共通する部分もあるが、小青竜湯には更に麻黄、桂枝、芍薬が配剤されており、苓甘姜味辛夏仁湯には杏仁、茯苓が配剤されている。
 小青竜湯に配剤された麻黄と桂枝は発汗剤であり、桂枝と芍薬は筋肉の緊張を和らげる作用がある。従って小青竜湯は共通の部分より考えられる水毒を、発汗して治そうとした薬方である。これに対して、苓甘姜味辛夏仁湯に配剤された杏仁には鎮咳作用があり、茯苓には駆水作用がある。従って苓甘姜味辛夏仁湯は共通の部分より考えられる水毒を、利尿(完全に利尿に限定するのは、茯苓だけであるので少し不十分であるが)して治そうとした薬方である事がわかる。
 E、建中湯類
  a、桂草湯、当帰建中湯、当帰四逆湯(図・25参照)
 これら三方のうち、桂枝湯、当帰四逆湯の芍薬は三ないし四グラムであるのに対し、当帰建中湯の芍薬は六グラムである。従って桂枝湯、当帰四逆湯は表位の痛みを目標とするのに対し、当帰建中湯は裏位の痛みを目標とする薬方である。桂枝湯と当帰四逆湯を比べれば、桂枝湯にある生姜(胃内停水)が欠ける代わりに、当帰(瘀血)、木通(利尿)、細辛(鎮咳、胃内停水)が加わるため、桂枝湯より利尿作用が強くなり、また駆瘀血作用も加わる。当帰四逆湯に更に生姜と呉茱萸(胃内停水、冷え症)を加えた当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、水毒が更に強くなり、冷めも強くなって起こる各種の水毒症状に用いる。
(次号に続く)












※釣藤と黄耆の組み合わせによる降圧作用?
 今までこの組み合わせの説明無し

※胃風湯

『漢方の臨床』三巻二号に「胃風湯について」と題して細野史郎氏が発表してから慢性下痢に良く使われるようになった。
真武湯でも止まらないような下痢に効くことがある。

※粟(あわ)
栗(くり)ではないので注意。


※柴胡清肝散
本来は柴胡清肝散が正しいが、最近は柴胡清肝湯と呼ばれることが多い。
同名異方が多く、更に柴胡清肝湯は別にあるので注意。

※柴胡清肝散と荊芥連翹湯は非常に良く似た薬効をもった薬方であることがわかる。
一貫堂の解毒証体質で使用される。
解毒証体質には、竜胆瀉肝湯(一貫堂方)も使われるが、一般的な竜胆瀉肝湯(薛立斎方)とは異なるので注意。
医療用漢方のエキス剤では、小太郎の竜胆瀉肝湯が一貫堂方。

※、桔梗、荊芥、連翹と白芷の組み合わせ
桔梗、荊芥・連翹の組み合わせは、桔梗の項で説明があったが、桔梗、荊芥、連翹と白芷との組み合わせの説明はなかった。

※復下之 仍頭強痛 → 或下之 仍頭項強痛  に訂正
  ただし、大塚敬節先生の本では、柳田子和の説を採り、「或」を「復」に改め、「また」と読んでいる。
【参考】
桂枝湯を服し、或は之を下し、仍(な)お頭項強ばり痛み、翕翕(きゅうきゅう)として発熱(ほつねつ)し、汗無く、心下満微痛(しんかまんびつう)、小便不利の者は、桂枝去桂加茯苓白朮湯 之を主(つかさど)る。


※桂枝は発汗剤として働く場合には利尿を妨げる逆の作用もあるので、症状として小便不利が明らかにある場合には桂枝が配剤されるのは良くない。
五苓散には桂枝が含まれ、目標は口渇、尿利減少なのは?
五苓散から桂枝を除いた薬方に四苓湯がある。
何故か「湯」。