健康情報: 漢方の勉強方法

2008年12月15日月曜日

漢方の勉強方法

「醫之学也。方焉耳。」(医の学たるや方なり)『類聚方』という言葉があるように、
日本の漢方を学ぶとは極言すれば薬方の使い方を学ぶことになります。
特に「方証相対」という場合、方と証(證)を覚えることになります。

その方法としてはおおまかに、
1.薬方の證を覚える
2.病名・症候名からの薬方の使い方を覚える
の二つになります。

二者の中間的なものとして類方鑑別があります。

薬方の勉強には、薬味(生薬)単味の作用や組み合せの作用についても学ぶ必要があります。

薬方を学ぶには、単独に覚えると効率が悪いので、各薬方をグループ化して覚えると良いと思います。
例えば、柴胡剤として、大柴胡湯 → 柴胡加龍骨牡蠣湯 → 小柴胡湯 → 柴胡桂枝湯 → 柴胡桂枝乾姜湯 → 加味逍遥散 → 補中益気湯 を一連のグループとして覚えると便利です。
グループ分けについては、『漢方薬の実際知識』や『漢方処方応用の実際』などを参考にして下さい。

http://ww7.tiki.ne.jp/~onshin/zakki09.htm も参考になります。



日本の漢方と特長として、口訣(くけつ)があります。口訣とはノウハウとかコツとかいったものです。
口の悪い人は、日本の漢方は「口訣漢方」であり、理論が無いと言ったりしますが、口訣も薬方を学ぶのに重要です。


治験例を学ぶのは、病名・症候名からの薬方の使い方を覚えるのにもつながります。

多くの薬方の證(証)を覚えることは、多くの病気・症状に対応できるように思えますが、江戸時代の名医、和田東郭は、「方(薬方)を用いること簡なる者は、その術、日に精(くわ)し。方を用いること繁なる者は、その術、日に粗(あら)し。世医ややもすれば、すなわち簡を以って粗となし、繁を以って精となす。哀れなるかな」と戒めています。

基本となる薬方については、流派や使う方の好みなどがあり、一概には決められませんが、最初のうちは、基本となる薬方の使い方を徹底的に学ぶのが良いようです。



病名や症候名から薬方を出すことは、「病名漢方」と呼ばれ、本格的に漢方をやられている先生には異論があると思います。

確かに、風邪に葛根湯や痔に乙字湯のような一つ覚えでは問題です。ただ、病名や症候名を薬方決定の手掛りの一つとして扱うことまでは否定されるものではないと思います。現に、『傷寒論』と並ぶ湯液の古典である『金匱要略』は、(症候名に近い)病名別に対応する薬方を示したもので、いわば病名漢方の元祖とも言えます。傷寒論にしても、傷寒という病名についてより詳しく論じたものと考えられなくもないと思います。


入門
1.『漢方医学』 大塚敬節著 創元社
2.『漢方医学の基礎と診療』 西山英雄著 創元社
3.『漢方薬と民間薬』 西山英雄著 創元社(2,3は、2冊セットが望ましい)
4.漢方事始め 織部和宏著 日本医学出版
5.漢方入門 中村謙介著 丸善

新樹社書林の和田社長は、大塚敬節先生の『漢方医学』を何回も読むのが良いと仰っています。
不妊治療で有名な寺師睦宗先生は、この『漢方医学』を何冊も擦り切れるまで読まれたそうです。

『漢方事始め』は薄い本でサラッと読めてしまいますが、現代医学的な知識を持った方が漢方の全体的なことを把握するには良いと思います。



総論的なもの
1.『漢方診療の實際』 大塚・矢数・清水・木村 南山堂 →  『漢方診療医典』 大塚・矢数・清水 南山堂
2.『漢方概論』 藤平健・小倉重成 創元社

『漢方診療の実際』は、絶版で入手困難ですが、山田光胤先生は、『漢方診療医典』よりも『漢方診療の実際』の方が良いとおっしゃています。



薬方の勉強に役立つ書物
1.『臨床応用漢方処方解説』 矢数道明著 創元社
2.『漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂
3.『漢方処方応用のコツ』 山田光胤著 創元社(絶版)
4.『和漢薬方意辞典』 中村謙介著 緑書房
5.明解漢方処方 西岡一夫著 浪速社(絶版)
6.『漢方常用処方解説』 高山宏世著 泰晋堂
7.『古今名方 漢方処方学時習』 高山宏世著 泰晋堂
  6.7.は一般の書店では購入が難しいですが、
  新樹社書林(株)や(株)漢方医学図書 などで購入可能です。
  漢方の本としては、比較的安価ですので、セットでの購入がお勧めです。


病名・症候名による漢方治療に役立つ本
1.『症候による漢方治療の実際』 大塚敬節著 南山堂
2.『漢方処方類方鑑別便覧』 藤平健著 リンネ社
3.『病名漢方治療の実際 ―山本巌の漢方医学と構造主義―』 坂東正造著 メディカルユーコン

辞書類
1.漢方医語辞典 西山英雄著 創元社
2.漢方用語大辞典 創医会学術部 燎原


雑誌
1.『漢方の臨床』 東亜医学協会
2.『月刊 漢方療法』 谷口書店
3.『月刊 東洋医学』 緑書房
4.『漢方と漢薬』 (廃刊 漢方の臨床へ引き継がれる)
  昭和50年1月、復刻版(全28巻).発行、春陽堂 (中古として時々見かける)
5.『東亜医学』 東亜医学協会
  1939年(昭和14年2月1日)-第1号--- 1941年(昭和16年3月15日)-第26号
  機関誌「東亜医学」は戦時下雑誌統合令により廿六号を以て
  「漢方と漢薬」に合併して廃刊、戦後「漢方の臨床」として再出発した。
  『東亜医学』は、下記サイトにて、閲覧可能。
http://aeam.umin.ac.jp/a/dennou.html


また、『漢方の臨床』、『漢方と漢薬』、『東亜医学』については、目次のデータベースが有ります。
http://aeam.umin.ac.jp/siryouko/zassidb.html




傷寒論の解説書
1.『臨床応用傷寒論解説』 大塚敬節著 創元社
2.『傷寒論入門』 森田幸門 (絶版)
3.『傷寒論講義』 奥田謙蔵著 医道の日本社(オンデマンド版有)
  →傷寒論演習 緑書房
     奥田謙蔵氏の『傷寒論講義』をテキストとし、
     高弟である藤平健氏が5年以上にわたって講師を勤めた
     「賢友会」の講義録をもとに一冊にまとめた傷寒論の解説書。
     『傷寒論講義』の内容がそのまま入っています。
4.『臨床傷寒論』 細野史郎 現代出版プランニング
1,4はいわゆる康平本、2,3は、宋本の解説書になります。
『現代比較傷寒論』は、お得な本です。

康平本や宋本とは異なるもので、康治本と呼ばれるものもあります。
康治本傷寒論については、もっとも原始的な傷寒論であるという意見と
古書に見せかけた偽書であるとの意見があります。
どちらが本当かはわかりませんが、条文が少ないので、最初に学ぶには簡単かもしれません。


康治本傷寒論の解説書
1.『康治本傷寒論の研究』 長沢 元夫著 健友館(絶版)
2.『康治本傷寒論要略』 神 靖衛、越智 秀一、長沢 元夫著 たにぐち書店
3.『傷寒論再発掘』 遠田裕政著 東明社
4.『ステップアップ傷寒論―康治本の読解と応用』 村木毅著 源草社
5.『康治本傷寒論解説』 森山健三著 入手困難
  (範疇理論を基に解説をしたもの)


沢山の本を上げましたが、流派や好みのようなものもあり、本によって異なる主張をしていることがあるので、まずは一人の先生のものから入って、ある程度自信がついてから、他の先生の著書を研究した方が良いかもしれません。
『老子』にも、「多ければ則ち惑う(おおければすなわちまどう)」とあります。


大塚敬節先生も、「散木になるな」と戒めていらっしゃいます。


最後に、大塚敬節先生著「漢方療法」からの漢方を学ぶ基本的な心がまえの抜粋です。


(一)志をたてること。
たいへん古めかしい言葉で恐縮だが、まず漢方医学を研究しようとする志を立てることからはじまる。志の立て方が厚くて、真剣であれば、研究の道はおのずからひらけ、そのテンポも速いが、ちょっとした好奇心で、漢方の世界をのぞいてみようという態度であれば、十年やっても、二十年やっても、この深くて広い漢方を自分のものにすることはむずかしい。

(二)白紙になって、漢方ととりくめ。
漢方医学を研究する場合に、はじめから近代西洋医学の立場で批判しながら研究したのでは、漢方を正しく理解することはむずかしい。漢方が一応自分のものになるまで、白紙になって、この医学と取り組むことが必要である。近代医学の立場で批判するのは、漢方が自分のものにしてから、のちのことである。


(三)散木になるな。
散木は、中心になる幹がなくて、薪にしかならない小木の集まりである。漢方の世界は広いから、研究の態度を誤ると、まきにしかならない散木のようなものになってしますおそれがある。まず一本の幹になるものをえらんで、これをものにするまでは、あれこれと心を動かさないことが必要である。幹がていていと空にそびえるようになれば、枝、葉は自然に出てくる。病気を治療する方法はいろいろあり、それを巧みに応用して、病気を治すということは結構なことであるが、中心になるものがなくて、「あれもよし、これもよし」と、こじき袋のようなものになってしまう人がある。
鍼灸も漢方の一分野であり、私(大塚)は湯本先生の門人になるまでは、これにも手をつけるつもりでいたところ、先生は、傷寒論を中心にした古医方をまず自分のものにせよといわれたので、鍼灸の研究をおあずけにして、薬物で病気をなおす方面の研究に没頭するようになった。


(四)師匠につくこと
漢方のような伝統ある学術の研究には、師匠について、伝統を身につけることが必要である。はじめから伝統を無視した自己流では、天才は別として、普通の場合は、問題とするに足りない。しっかり伝統を身につけたうえでは、その殻を破って自分で自分の道をきりひらいて進むのがよい。師匠を乗り越えて、進むだけの気概がなけらばならない。
ところで、現在の日本では、師匠につきたくても、その師匠がない。師匠はあっても、いろいろの事情で制約をうけて、師匠につくことができない。このような人たちは、講習会に出るようにするとよい。東京や大阪あたりでは、ときどき講習会が開かれる。ところで、いつどこで、講習会が開かれるかは、「漢方の臨床」「漢方研究」「活」「和漢薬」などのように、月々刊行されている漢方の雑誌に、ニュースとして報道されるから、これらの雑誌の読者になっておくと便利である。これの雑誌の発行所は別項に出ているので参照してほしい。

(五)研究グループに加入すること。
漢方には各地に、研究グループがり、随時例会や総会を開いて、互いに意見を交換したり、研究を発表したりしているから、これらの会の一員になっておくと、いろいろの知見をうることもできるし、はげましにもなる。どこにどんな研究会があるかは、別項に一括してあげておく。


(六)読むべき書物。
漢方医学の根幹となるのは傷寒論と金匱要略とであるから、オーソドックスの漢方の研究は、この古典の研究に始まって、この古典の研究に終わるといってもよいほどである。ところで初心者が手軽に読んで理解できるような、これらの古典の現代人向きの注解書がないのは遺憾である。来年になれば、私が執筆中の傷寒論の入門書が刊行される予定。
はじめから難解なこの古典ととりくむのは、(一)のところで述べたように、志を立てることの厚い人でなければ、とうていやりとげることはむずかしい。そこでまず実際の診断、治療を書いた現代人の書物から読み始めるのがよい。これらの書物で入手しやすいものを別項にあげておいたから、自分で選択して読むとよい。
現代人のものを読んだら、次になるべくわれわれの時代に近い人のものから、逆に古い時代の人のものにさかのぼるのがよい。
とくに浅田宗伯の勿誤薬室方函とその口訣、橘窓書影、古方薬義、尾台榕堂の類聚方広義と方伎雑誌、本間棗軒の内科秘録、和田東郭の蕉窓雑話、有持桂里の方輿輗、稲葉文礼の腹証奇覧、和久田叔虎の腹証奇覧翼、吉益東洞の薬徴などは、ぜひ読んでおく必要がある。