健康情報: 生薬(しょうやく)と漢方薬(かんぽうやく)の関係

2009年2月19日木曜日

生薬(しょうやく)と漢方薬(かんぽうやく)の関係

 生薬(しょうやく)とは、薬用に供する目的をもって、植物・動物・鉱物などの自然物の一部を乾燥し、または、これに簡単な加工を施して得た製品を生薬といいます。

 生薬(しょうやく)を原料により分類しますと、1.植物性生薬、2.動物性生薬、3.鉱物性生薬の3つに分類できます。
 このうち、植物性生薬が生薬の大部分を占めています。薬という文字が草冠(くさかんむり)になっていることからも、薬と植物の関係が深いことが容易に想像できます。
 また、薬用植物(やくようしょくぶつ)という言葉があります。これは、もともと生薬(しょうやく)の原料になる植物のことです。また、薬草とは、本来は薬用植物のうち、草本性(そうほんせい)のものをいいます。草本(そうほん)とは、いわゆる柔らかい「草」の事で、堅い「木」の事を木本(もくほん)と言います。竹は普通、草本(そうほん)として扱われます。薬草の意味は本来このような「薬用植物のうち草本性のもの」という意味ですが、一般には植物性生薬のことを指したり、もっと広く生薬全部を意味して使ったりしているようで、言葉の混乱がみられます。
 なお、従来菌類は、植物の一種とされてきていましたが、近年では動物とも植物とも別のグループに分類にする考え方が多くなっています。
 菌類に属する生薬としては、茯苓(ブクリョウ)、猪苓(チョレイ)、冬虫夏草(とうちゅうかそう)などがあげられます。

次に動物性生薬ですが、植物性生薬に比べ使用が少ないようです。仏教の影響で殺生(せっしょう)が禁じられていたことなどが理由としてあげられることもありますが、実際は、植物に比べ個体数が少なく、逃げることから採取(さいしゅ)が困難なことと、保存も難しかった(腐り易い)からだと思われます。
動物性生薬の特徴としては、
 1.作用が強烈で使用量が少なくても効果が期待できるものが多い。
 2.保存に不便なものが多い。
 3.価格の高いものが多い。
 4.日本の漢方薬方での使用は少ない。
 5.味やにおいに注意しなくてはならないものが多い。
があげられます。

3番目に鉱物性生薬(こうぶつせいしょうやく)があります。
 「薬石効無く」という言葉があるように、鉱物性生薬である石薬(せきやく)は通常の植物性の生薬とは別に扱われることがありました。腐ったりせずに永久性があることから、神仙系(しんせんけい)の医学では特に重要視されました。なお、薬石の「石」はいしばりのことで、古代の医療器を意味し、薬石という言葉はいろいろの薬や治療法の意味であるともいいます。
 今日では使用される種類は少ないものの、石膏(せっこう)、滑石(かっせき)、芒硝(ぼうしょう)など、重要な薬物があります。

 生薬を分類する方法として、産地による分類もあります。
通常、日本で使われている生薬は和漢薬(わかんやく)と呼ばれていますが、これは和薬(わやく)と漢薬(かんやく)を合わせた呼び方です。
 このうち、和薬(わやく)とは日本で古くから使われていた生薬のことで、ゲンノショウコやセンブリなどがあげられます。
 一方、漢薬(かんやく)とは、中国で古くから使われていた生薬のことです。この「漢」の文字は『漢字』の「漢」と同じで、いわゆる中国を指します。
  現代の中国では、中草薬(ちゅうそうやく)、草薬(そうやく)と呼ばれています。
 この和漢薬は更に使用方法によって漢方薬(かんぽうやく)と民間薬(みんかんやく)、及びこれを製剤化した売薬に分けられます。

 漢方薬とは、漢方医学の理論の上にたって使われる生薬の配合剤で、證(しょう)に隨(したが)って使用されるもので、多くは複合剤(ふくごうざい)で、単味(たんみ;一味(いちみ))で用いることは少なく、生薬の組み合わせはすでに薬方(やくほう)として決まっています。
 また、民間薬(みんかんやく)は、病名又は一つの症状に対して、局所的効果を期待して、経験的に使用されるもののことで、一般には単味(たんみ)、すなわち一種類の生薬(しょうやく)で用いられ、他の生薬(しょうやく)と組み合わせて使用される場合でも、薬味、組み込まれる生薬の数は、せいぜい二~三種であり、しかも組み合わせる相手の生薬(しょうやく)は決まっていません。
 なお、黄柏(おうばく)や決明子(けつめいし)等のように漢方薬(かんぽうやく)の薬味としても、民間薬(みんかんやく)としても用いられる生薬(しょうやく)があります。また、甘草(かんぞう)などは漢方薬としても、民間薬(みんかんやく)としても、西洋生薬(せいようしょうやく)としても用いられています。
 更に時代とともに、民間薬(みんかんやく)や、西洋生薬(せいようしょうやく)が漢方薬の中に取り入れられていっています。例えば、伯州散(はくしゅうさん)という処方は日本古来の処方、いわゆる和方(わほう)で、漢方に取り入れられ、吉益東洞(よしますとうどう)が愛用したことでもしられています。
 また、サフランやセンナはそれぞれ、蕃紅花(バンコウカ)、蕃瀉葉(バンシャヨウ)と呼ばれ、本草書(ほんぞうしょ)に収載されています。


 生薬製剤(しょうやくせいざい)とは、広義では、生薬(しょうやく)を配合した製剤と考えられますが、通常は東洋医学的基盤にたたず、生薬の個々の薬効を主に考え配合したものを指します。
複合剤(ふくごうざい)なので、一見漢方処方のように見えますが、證(しょう;証)の概念はなく、風邪(かぜ)や腹痛(ふくつう)などといった病名や症状に対して使用されます。
 生薬製剤(しょうやくせいざい)のうち、江戸時代に和漢薬(わかんやく)や民間薬(みんかんやく)のうちで著効(ちょこう)のあるものを参考にして、つくられたものが、家庭薬(かていやく)・売薬(ばいやく)・家伝薬(かでんやく)と呼ばれるものです。反魂丹(はんこんたん、はんごんたん)、実母散(じつぼさん)などが知られています。多くは複合剤ですが、使用方法は民間薬的で、病名や症状名に対して使用されます。
 また、中国で製造されております、中成薬(ちゅうせいやく)も、生薬製剤の一種で、病名や症状名に対して使用されることが多く、中国版家伝薬とでもいうべきものです。伝統的な漢方処方に基づき、服用しやすい様に丸剤やカプセル剤などにしたものもあります。牛黄清心丸(ゴオウセイシンガン)、健歩丸(ケンポガン)などが良く知られています。
 なお、「成薬(せいやく)」とは、生薬を原料として加工した製剤の総称です。

 漢方薬(かんぽうやく)と他の民間薬(みんかんやく)、生薬製剤(しょうやくせいざい)との違いを再度確認致しますと、その使い方、則ち證(しょう)の把握にあり、風邪に葛根湯(かっこんとう)、肝炎に小柴胡湯(しょうさいことう)、痔には乙字湯(おつじとう)では、漢方とは呼べず、単なる生薬製剤(しょうやくせいざい)となってしまいます。

 西洋生薬(せいようしょうやく)とは、西洋で古くから使われていた生薬のことで、センナ、アロエなどがあり、また近年日本でもハーブが注目されています。
 その他、インドネシアのジャムウや、インドのヴェーダ医学、アラブのユナーニ医学など、その地域に根ざした伝統医学があり、それぞれ特有の生薬が使われています。