健康情報: 熊胆などの動物胆(獣胆)について

2009年3月16日月曜日

熊胆などの動物胆(獣胆)について

中国における動物胆(獣胆)の薬物利用は、『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)に「牛胆」(ぎゅうたん)、「牡狗胆」(ぼくたん)、「鯉魚胆」(りぎょたん)が見られ、また『名医別録』(めいいべつろく)には「豚胆」(とんたん)、「烏雄鶏胆」(うゆうけいたん)、「蝉蛇胆」(せんだたん)、「蝮蛇胆」(ふくだたん)がみられます。このうち、蝮蛇は一般にクサリヘビ科のマムシ及びハブのことを指しますので、蝮蛇胆(ふくだたん)はジャタンに該当すると考えられます。

 『旧約聖書』には、ある種の魚の胆汁が化膿性眼病に外用されるとしており、また古代より西域(ギリシャ~インド~サラセン)では、動物の胆汁を内服して用いていることから、胆汁の薬物利用は広く世界各地で行われていたと考えられ、これが唐の時代に中国へ伝来したものと思われます。これは、『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)の上品に熊脂(ゆうし)を収録しながら熊胆(ゆうたん)は収載せず、『唐本草』(とうほんぞう)に初めて収載してこれを注解していることから推測されます。同じ唐代の『薬性論』(やくせいろん)に「小児の五疳(ごかん)を主治し、虫を殺し、悪瘡(あくそう)を治す」とあり、『唐本注』(とうほんちゅう)には「熊胆、味苦寒、無毒。時気の熱が盛んで黄胆に変じたもの、暑気の久痢、疳 、心痛、客忤を主治する」とあります。また、『千金翼方』(せんきんよくほう)にも熊胆(ゆうたん)の記載が見られます。
 熊胆の漢薬製剤中の使用も民間療法的なものに多く、唐・宋代を経て、漸次、丸剤などの製剤に配合する例がみられるようになったと言われています。
 西域から中国に動物胆の使用が伝わった頃は、日本では遣唐使(630~894)などによる大陸文化摂取の最盛期に当たり、この頃動物胆の利用も我が国にもたらされたと考えられています。特に熊胆はクマノイと称せられ、民間薬的に胃腸病の万能薬として重視されてきました。他の動物胆と異なり、室温で湿潤せず、製剤が便利であったため、特に重視されたともいわれています。国内産の熊胆の記録としては、奈良時代に書かれた『延喜式』(えんぎしき)(905~927)があり、美濃、信濃、越中から熊胆が献上されていたことがうかがえます。江戸時代になり、医薬品が売薬として普及するにつれ、熊胆を記載した薬物書や、熊胆を配合した薬(奇応丸、反魂丹等)が数多く見られるようになりました。
 
 『第十二改正日本薬局方』においては、熊胆は「Ursus arctos Linne又はその他近縁動物の胆汁を乾燥したものである。」となっています。『第九改正日本薬局方』においては、ツキノワグマSelenarctos thibetanusも規定していましたが、ワシントン条約(絶滅のおそれある野生動植物)の付属書Ⅰに掲げられて規制され、また他の動物胆で代用できる場合もあるので、この種は基原規定から削除されました。これらの近縁の動物としては、日本産のニホンツキノワグマSelenarctos thibetanusu japonica SchlegelやエゾヒグマUrsus arctos yesoensis Lydekker等が知られています。なお、北氷洋生息するホッキョクグマ(シロクマ)Thalarctos maritimus Phippsは所属を異にしており、近縁種の範囲外となっています。
 先に述べましたように、熊胆はワシントン条約規制対象品目に該当するため、他の動物胆(獣胆)での代用が推奨されています。
 熊胆をはじめとする動物胆の主成分は胆汁酸で、これら動物胆の胆汁酸の組成の比較については、難波恒雄ら(第11回生薬分析討論会講演要旨集p51、1982年8月6日)の「各種動物胆の品質評価」において発表されています。
 これによると、蛇胆(ジャタン)の主成分はタウロコール酸(TC)が主成分であり、タウロケノデオキシコール酸(TCDC)、タウロデオキシコール酸(TDC)が含まれるとしています。豚胆(とんたん)は、グリコヒオデオキシコール酸(GHDC)が主成分で、コール酸(C)、グリコケノデオキシコール酸(GCC)、グリコデオキシコール酸(GDC)、グリコリソコール酸(GLC)、タウロケノデオキシコール酸(TCDC)、及びタウロリソコール酸(TLC)等が含まれるとしています。牛胆(ぎゅうたん)は、グリココール酸(GC)が主成分で、コール酸(C)、グリコデオキシコール酸(GDC)、タウロコール酸(TC)、タウロデオキシコール酸(TDC)等が含まれるとしています。熊胆(ゆうたん)については、タウロウルソデオキシコール酸(TUCD)が主成分であり、さらに2つのタイプに分けられ、1つはグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)が多く、グリコケノデオキシコール酸(GCDC)タウロケノデオキシコール酸(TCDC)が少量含まれるタイプで、もう1つはタウロケノデオキシコール酸(TCDC)が多くグリコウルソデオキシコール酸(GUDC)が認められないタイプであると述べられています。

 このことから、一口に動物胆(獣胆)といいながらも、それぞれ異なる胆汁酸組成をしており、さらには同じ熊胆においても胆汁酸の組成が異なる場合のあることがわかります。にもかかわらず、豚胆も牛胆も熊胆の代用として使用されるのは、胆汁酸に共通した同様の作用があるためだと考えられます。これに関しましては、難波恒雄氏もその著『原色和漢薬図鑑(下)』(p279)の中で「熊胆の薬効を代表する成分はtauro-ursodesoxycholec acidと考えられるが、他の胆汁との薬理作用において、その主成分をなす胆汁酸に関する限り、目下のところ積極的な相違点は見いだせない。」と述べています。

熊胆、牛胆、豚胆は、『医』に指定されていますので、健康食品・サプリメントに配合することは原則としてできません。

その他の動物(蛇、羊、鯉)などは、特に指定されていないようですので、健康食品・サプリメントに使用可能です。

鯉の胆嚢は、鯉胆(りたん)や鯉魚胆(りぎょたん)と呼ばれ昔から医薬品などにも利用されていました。
他の動物胆(獣胆)と同様に利胆作用や苦味健胃剤として用いられることもありますが、眼に良いと言われて使われることもあります。

【参考文献】
参考文献
 財団法人日本公定書協会(監修):第十二改正日本薬局方解説書.D-977-D-980.ユウタン. (1991)
 財団法人日本公定書協会(監修):第 九改正日本薬局方解説書.D-891-D-893.ユウタン. (1976)
 三好みや子:生薬の選品と評価〔Ⅰ〕129-136.熊胆.(1993)
 難波恒雄 :原色和漢薬図.熊胆 下巻275-279.(1980)
              反鼻 下巻288-289. (1980)  
 赤松金芳 :新訂和漢薬.蝮蛇 855-856. (1980)
 浜田善利ら:意釈神農本草経.154,293,295,309,14,20,21. (1887)
 宇治 昭ら:薬学雑誌. 95(1)114-119 熊胆に関する研究(第1報)
       ガスクロマトグラフィーによる熊胆中の胆汁酸の定量.(1975)
 宇治 昭 :薬学雑誌. 95(2)214-218 熊胆に関する研究(第2報)
    薄層児童検出装置による熊胆中の抱合胆汁酸の定量.(1975)
 宇治 昭 :生薬学雑誌.29:22-30 熊胆に関する研究(第3報) 
       熊胆および関連生薬の胆汁酸組成について.(1975)
 難波恒雄ら:第11回生薬分析討論会講演要旨集 51 各種動物胆の品質評価.(1982) 
川原一仁ら:Natural Medicines 49(2), 158-163 「活体引流熊胆」の生産と品質に関する報告 (1995)