健康情報: 康治本傷寒論 第五十四条 少陰病,身体疼,手足寒,骨節痛,脈沈者,附子湯主之。

2010年6月5日土曜日

康治本傷寒論 第五十四条 少陰病,身体疼,手足寒,骨節痛,脈沈者,附子湯主之。

『康治本傷寒論の研究』
少陰病、身体疼、手足寒、骨節痛 脈沈者、附子湯、主之。

 [訳] 少陰病、身体疼き、手足寒く、骨節痛み 脈は沈なる者は、附子湯、これを主る。

『入門』三八○頁では冒頭の少陰病という句を「少陰病に於いて」と読んで「本条も亦発病の頭初より少陰の証候複合をもって現れ来る」と解釈しているが、ここに表現された症状の病人が私は少陰病ですがと言って相談に来るのではなく、症状を尋ねた後に、この病人は少陰病であるかないかを医者が判断を下さなければならないのである。この条文の症状は第一五条(麻黄湯)の太陽病の症状に似ていて判断に述う程でもあるので、脈診で最後の決断を下さなければならなくなり、脈沈者という句が最後に置いてあるのである。従って「少陰病に於いて」と読むことは間違いなのである。『解説』四二三頁で「少陰病でからだが痛み云々」と解釈していることも同様に正しくない。即ちこの条文は第五二条第五三条と読み方を変えなければならない。ということは、この条文は少陰病の変証であることを示したものとな識。
 身体痛は『弁正』に「一身手足これを身体と謂う」とあるのがよく、それが痛むのは陽病でも陰病でもあり得る症状である。
 手足寒も『弁正』に「其の人、自ら其の寒を覚ゆるを謂う」とあるのがよく、悪寒の一種と見ればこれは陰病であることを示す。しかし典型的な悪寒ではないので疑問として残しておく。
 骨節痛は骨節とは節々のことであるから、節部が痛むのは水毒によるものである。しかしこの症状は陽病にも陰病にも起る。
 そこで陰陽は脈によって決定するほかにないので、脈診をして沈であるから陽病でないことがはじめてわかったのである。
 脈沈である陰病であるからと言って直ちに処方がきまるのではなく、水毒が関与しているという認識が加わってはじめて附子湯主之となるのである。処方中の白朮、茯苓の組合わせと附子、芍薬の鎮痛作用がこの場合問題になる。

 この条文は、少陰病が裏寒という認識だけでは処理できないことを示したものである。裏寒即ち腎の障害がもとになって水分代謝の異常から種種の症状を引起すのである。
 『講義』では症状の説明をした後で「此れ皆陰寒の為す所なり、これを附子湯の主治と為す」とし、『解説』と『入門』でも「…は裏寒の症であるから附子湯の証である」としているが、水毒にふれないでこの条文の症状を理解することはできない筈である。『傷寒論講義』(成都中医学院主編)では寒湿凝滞によって起きた症状であることを論じているし、『漢方診療の実際』三三四頁に本方は「神経痛、リウマチ並びに急性熱性病の経過中に使用することがある」とあるのを見れば一層明らかである。



『傷寒論再発掘』
54 少陰病、身体疼、手足寒、骨節痛 脈沈者 附子湯主之。
    (しょういんびょう、しんたいうずき、しゅそくさむく、こっせついたみ、みゃくちんのもの、ぶしとうこれをつかさどる。)
   (少陰病で、身体がずきずき痛み、手足が冷たく感じ、節々が痛み、脈が沈であるものは、附子湯がこれを改善するのに最適である。。)

 少陰病 でという意味は、定義条文第51条でそのおおよその姿を示している如く、要するに歪回復力(体力あるいは抵抗力)がかなり減退しているような全体的な状態であって、というようなことです。
 身体疼 というのは、手足を含めて身体全体のうずく感じを言うわけです。
 手足寒 というのは、自分自身の手足に冷えを感じることです。
 骨節痛とは、節々すなわち関節に痛みを感じることです。
 脈沈というのは、指を深く圧してようやく触れるような脈です。その人の体質的な差で、沈の人も浮の人もある筈ですが、このような条文に書かれている時は、その人のいつもの時よりも脈が沈になっている状態を表現して、体力(歪回復力)が減退していることを意味していると解釈しておいてよいでしょう。これを個体病理学の立場で考察してみれば、血管内の減少している状態と考えてよいと思います。こういう場合は一般に、まず体内に水分をとどめて、血管内水分の減少を改善してのち、おのづから利尿がついてく識ように作用する薬方(和方湯)が適応となるわけです。附子湯は和方湯のうちの一種です。附子も芍薬も人参も体内に水分をとどめる作用を持った生薬ですし、白朮も茯苓も勿論同様な作用を持った生薬です。附子や芍薬や白朮は鎮痛作用を持っていますので、附子湯が種々の痛みを伴った病態の改善に活用されるのも、十分に納得されることです。



『康治本傷寒論解説』
第54条
【原文】  「少陰病,身体疼痛,手足寒,骨節痛,脉沈者,附子湯主之.」
【和訓】  少陰病,身体疼(ウズ)き痛み,手足寒(コゴ)え,骨節痛み,脉沈なる者は,附子湯これを主る.
【訳文】  少陰の中風(①寒熱脉証 沈微細 ②寒熱証 手足厥冷 ③緩緊脉証 緩 ④ 緩緊症 小便自利) で,身体重く痛み,骨節疼痛する場合は,附子湯でこれを治す.
【解 説】  この条は,太陽傷寒の麻黄湯証との症候が類似しているが,寒熱の違いのあることを脉で論じています.そして“寒”の場での痛みは附子が主ることを示しています。



証構成
  範疇 肌寒緩病(少陰中風)
 ①寒熱脉証   沈微細
 ②寒熱証    手足厥冷
 ③緩緊脉証   緩
 ④緩緊証    小便自利
 ⑤特異症候
   イ骨節痛(附子)
  ロ身体疼






『康治本傷寒論要略』
第54条 附子湯
「少陰病身體疼手足寒骨節痛脉沈者附子湯主之」
「少陰病、身体疼き、手足寒く、骨節痛み、脈沈なる者、附子湯これ を主る」


 (15条)「太陽病、頭痛発熱、身疼腰痛、骨節疼痛、悪風無汗、而して喘する者麻黄湯これを主る」


 目前の患者が、身体があちこち痛がって、節々が痛いと訴えた時は、この両状を思い浮かべる。陽病か陰病か判断に苦しむ時、最後に置かれている脈状で判断するのが傷寒論の立場である。脈沈であれば 附子湯と診断できる。

附子湯の漢方病理(長沢元夫先生)
 麻黄湯の身体腰痛・骨節疼痛は、水毒が関与している。同じように陰病でも同じ症状を起こすということは水毒が関与していると考えられる。
 即ち附子湯は裏寒と水毒が関与しているという認識が必要である。
 千金方の附子湯(附子・芍薬・桂心・甘草・茯苓・人参・白朮)は濕痺、即ちRA・神経痛で身体が痛く折れそうな気がするとか、肉に針や刀を刺しこまれたような痛みがある時に使う処方である。つまり附子湯の鎮痛作用をよりもっと強くするために鎮痛作用の強い桂心と甘草を加えた形をとっている。

           附子
       温補
           白朮      裏水  
       利水
 温補       茯苓             鎮痛

           芍薬
     補気
           人参      健胃




臨床応用
 感冒・流感等で脈沈・背部悪寒するもの・惡寒するもの・神経痛・筋肉RA・関節炎・関節RA・湿疹・蕁麻疹・下腹冷痛・腹膜炎・ネフローゼ・浮腫・腹水・口内炎・舌赤裸無皮状・舌乳頭消失・腰冷痛・腦溢血・半身不随・妊娠腹痛・知覚麻痺・脊椎弯曲・両脚攣急・嚥下困難・冬期冷水により手の掻痒を訴えるもの。(漢方処方解説 492p 矢数)


(コメント)
『康治本傷寒論の研究』
p.276 漢方診療の実際は、本来は、漢方診療の實際

【参考】漢方診療の實際よる附子湯の解説
附子湯(ぶしとう)
 附子○・五~一・ 茯苓 芍薬各四・  朮五・ 人参三・
 本方は真武湯の生姜の代りに、人参を加えたもので悪寒・手足の寒冷等を目標とすることは、真武湯と同様であるが、此方は下痢に 用いることは少く、却って身体の疼痛・関節痛等に使用する。脈は沈んでいるものが多い。
 本方中の人参は、朮・附子と組むことによって、疼痛を治 する効がある。
 神経痛・リウマチ並びに急性熱性病の経過中に使用することがある。

『漢方診療の實際』は、現在は絶版。
現在はその改訂版である『漢方診療医典』がある。


『康治本傷寒論解説』では、身体疼を身体疼痛としている。
原文は、痛の文字は無い

湿=濕
脳=腦
悪=惡
実=實


康治本傷寒 論の条文(全文)