健康情報: 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) の 効能・効果 と 副作用(2)

2012年4月2日月曜日

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) の 効能・効果 と 副作用(2)

(傷寒論)
傷寒,若吐,若下後,心下逆満,気上衝胸,起則頭眩,脈沈緊,発汗則動経,身為振々揺者,本方主之(太陽中)

(金匱要略)
心下有痰飲,胸脇支満,目眩,本方主之(痰飲)
夫短気有微飲,当従小便去之,本方主之



漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)
茯苓六・ 桂枝四・ 五味子三・ 甘草二・
本方は眩暈と身体動揺感及び心悸亢進とを目標にし諸病證に応用される。患者の顔色はやや貧血性で、脈は沈緊、或は沈緊でなくても相当に力がある。腹部は屡々振水音を聞き、また動悸の亢進を触れ、尿利減少がある。
處方中の茯苓と朮は水分の循流を計り、桂枝は血行を盛んにする。故に両者相協力して眩暈を治し、心悸亢進を鎮めるのである。甘草は諸薬の調和剤である。本 方は眩暈・心悸亢進のみならず、水分の不循流・血行の不調に由る眼疾・脚弱症その他の諸症に応用される。従ってその応用は心臓弁膜症・慢性腎臓炎・高血圧 症・喘息・神経衰弱・結膜炎・角膜炎・網膜炎等である。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の 項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。

6 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔茯苓(ぶくりょう)六、桂枝(けいし)四、朮(じゅつ)三、甘草(かんぞう)二〕
本方は、胃の機能が衰え、瘀水が胃部に停滞し、その瘀水が気の上衝とともに移動して起こるめまい、息切れ、心悸亢進などに用いられる。した がって、上衝、頭痛、めまい(起立性眩暈)、身体動揺感、心悸亢進、胃内停水、尿利減少、足の冷えなどを目標とする。また、筋肉の痙攣(眉、腕、顔などの 筋肉がピクピクと動くもの)や血圧が変動するものなどを目標にすることもある。
〔応用〕
駆水剤であるために、五苓散のところで示したような疾患に、苓桂朮甘湯證を呈するものが多い。
その他
一 神経質、神経衰弱、ノイローゼ、ヒステリー、精神分裂症などの精神、神経系疾患。 一 心臓弁膜疾、心不全、高血圧症、低血圧症その他の循環器系疾患。
一 眼底出血その他の眼科疾患。
一 そのほか、バセドウ氏病、冷房病、蓄膿症、脚気、水虫など。
苓桂朮甘湯の加味方
(1) 連珠飲(れんじゅいん)  (本朝経験)
〔苓桂朮甘湯と四物湯(しもつとう)の合方〕
本方は、瘀水を貧血をかねており、血虚、めまい、心下逆満(下方より心下部に向かっておし上げられる充満感)に用いられるもので、諸出血後の 貧血によるめまい、耳鳴り、動悸、息切れ、顔面浮腫などを目標とする。本方は、四物湯(前出、駆瘀血剤の項参照)の適さない体質者には用いられない。

増補版 現代漢方治療の指針 漢方をよりよく より多くの人に』 小太郎製薬株式会社 薬学の友社 
苓桂朮甘湯 レイケイジュツカントウ 傷寒論
適応症
肺結核、不整脈、心臓神経症、心臓弁膜症、高血圧症、低血圧症、ノイローゼ、ヒステリー、結膜炎、フリクテン、角膜炎、涙嚢炎、白内障、眼底出血、鼻炎、蓄膿症、メニエル氏症候群

目標
立ちくらみやめまい、あるいは動悸がひどく、のぼせて頭痛がし、顔面やや紅潮したり、あるいは貧血し、排尿回数多く尿量減少して口唇部がかわくもの。

構成
茯苓 桂枝 朮 甘草

備考
本方は急に立ち上った時とか、うつむいていた顔を急にあげたりした時、あるいは入浴時にふらふらとしてめまいをするような身体動揺感がひどい症状によく用いられる。自律神経不安定症で前記のような症状がある場合の奏効するが、頭汗、胸内苦悶、食欲不振などがあれば柴胡桂枝干姜湯が、咽喉に異物があ改a希子成二置すぐれない場合は半夏厚朴湯が適する。
本方は頭痛薬を常用する慢性患者に劇的な効果を示し、長年常用した頭痛薬を廃薬させることが多い。桂枝茯苓丸を投与しても効果の少ない頭痛にも一度試みるべきである。また外見上卒中体質でもないのに血圧が高く尿量減少するものに本方と当帰芍薬散との合方を用いて効果がある。
また眼底出血その他の眼科疾患に応用されることも多く、耳鳴を伴なった鼻づまり、蓄膿症には本方単独もしくは柴胡剤と合方して与えるとよい。
本方適応症で食欲不振を伴なう場合は大柴胡湯あるいは小柴胡湯合方する。
五苓散との鑑別は一方に著しい口渇、浮腫あるいは悪心、嘔吐、下痢などの症状(五苓散適応症)他方に身体動揺感、心悸亢進が著明(本方適応症)であれば容易であるが、実際上きわめて困難な場合もある。このような時は本方を与えて悪心や浮腫が起れば五苓散に、逆に五苓散を与えてめまいがひどくなれば本方に転方するとよい。あるいは初めからこの両者を合方して与えることも考えられる。この合方はまた漢方治療における誤治の応急処置に広く使われる。


漢方処方応用の実際  山田光胤著  南山堂刊
240.苓桂朮甘湯 りょうけいじゅつかんとう(傷寒・金匱)
茯苓6.0 桂枝4.0 朮3.0 甘草2.0

目標〕 心下に停水(水毒)かあって動悸,めまい(眩暈)の激しいものに用いる.
たちくらみ,めまい,身体動揺感など程度の差はあるが,めまいが主訴である.同時にに息切れと心悸亢進,頭痛,上衝 などがあり,尿利が減少する.脈は沈緊で,腹部は全体に軟弱で心下部に振水音をみとめたり,膨満ぎみになったりする。また臍の近くで腹部大動脈の拍動が亢進するものが多い.


説明〕 茯苓,朮,甘草に更に一味を加えた処方が3方ある.乾姜が加わると,苓姜朮甘湯 となり,大棗が加わると 苓桂甘棗湯 となり,桂枝が加われば本方となる。その目標は,苓姜朮甘湯は腰以下の甚だしい 冷えであり,苓桂甘棗湯は激しい心悸亢進であり,苓桂朮甘湯はめまい(眩暈)である.これらの3方は,いずれもその基礎に水毒のある証で,僅か1味の薬の 違いによって,その薬効の方向が異なる例である.
桂枝は,上衝 すなわち 気の上逆を引き下げる働きがある,本方証のめまいは,水毒の上衝である.


応用〕  胃下垂症,メニエール症候群,神経性心悸亢進,不安神経症,ヒステリー,血の道症,心臓弁膜症 その他の心疾患,バセドウ病,結膜炎,慢性軸性視神経炎,翼状贅片 などの眼疾患に車前子を加えて用いる.腎炎,ネフローゼ,高血圧症,喘息,蓄膿症,貧血症 などに広く用いられる.
鑑別〕 炙甘草湯の項 参照.

15.炙甘草湯 しゃかんぞうとう
本方の証は 心悸亢進が主で,これに息切れが加わり 脈の結代がある.
また 四肢の煩熱や甲状腺腫を伴うことがある.
1) 木防已湯(もくぼういとう) 息切れ (呼吸促迫) が主で,動悸 (心悸亢進) を伴う.浮腫,尿利減少のあることが多い.
2) 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) めまいを主とし,心悸亢進を従とするほか,尿利が減少することもある.
3) 苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう) 下腹からおこって,上の方へつき上がり,咽喉にまで到って,咽喉をふさぐほど激しい動悸である.一種の神経症状で,ヒステリー発作 などにみられる劇的症状である. 大塚氏は,「発作の激しい時な人事不省に陥るものもある.このさい腹全体で動悸がし,ことに臍下に強く,みぞおちは塞ったようで,気が胸につき上がり,発作の時は呼吸も促迫して四肢を痙攣さすものである」といっている(漢方治療の実際).
4) 苓桂五味甘草湯(りょうけいごみかんぞうとう) 動悸,上衝があって,咳がひどくでるものに用いる.
5) 茯苓甘草湯(ぶくりょうかんぞうとう) よく似ているが,嘔きけを伴うことが多い.
6) 桂枝甘草竜骨牡蛎湯(けいしかんぞうりゅうこつぼれいとう) 火逆 すなわち 火傷や熱射病による心悸亢進である.
7) 桂枝甘草湯(けいしかんぞうとう) 突然の激しい心悸亢進に頓服として用いる.持続して長期間服用するには,苓桂甘棗湯 や 苓桂朮甘湯 があるが,本方の加味方である.



臨床応用 漢方処方解説 矢数 道明著 創元社刊
152 苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) 〔傷寒・金匱〕
茯苓 六・〇  桂枝四・〇  白朮三・〇  甘草二・〇

応用〕  胃の元気が衰え、水飲が中焦(胃部)に停滞し、気の上逆や、上衝頭眩等を発するものに用いる。本方の運用を新撰類聚方に従って類別列挙すると、次のごとくである。
(1) 神経性疾患 神経衰弱・神経質・ノイローゼ・ヒステリー・分裂症・血の道症等
(2) 心臓疾患 心臓弁膜症・心不全・心臓喘息・神経性心悸亢進症(動悸・貧血・浮腫)・バセドー病
(3) 眼疾患 カタル性結膜炎・フリクテン性結膜炎・角膜パンヌス・翼状贅片・角膜乾燥症・慢性軸性視神経炎・中心性視神経萎縮(羞明・充血・流涙・眼痛をともなう)
(4) 運動神経系 運動失調・痿躄・脚弱・眼球振盪症・メニエール症候群・小脳および錐体外路疾患・癲癇(眩暈・身体動揺感・耳鳴・腹部動悸をともなう)
(5) 腎疾患 慢性腎炎・ネフローゼ・萎縮腎
(6) その他、高血圧症・喘息・蓄膿症・難聴・咽中炙肉感・貧血症・禿髪症・水虫等に広く応用される。

目標〕 いわゆる虚証で水毒によって起こる。主訴は眩暈・身体動揺感・起立性眩暈・息切れと心悸亢進・上衝・頭痛等である。尿利減少と足冷がある。脈は沈緊で、腹部は軟弱のほうで、胃内停水があり、あるいは膨満することもある。

方解〕 心下部の停水が、気の上逆とともに上部に動いて起こる症状であるから、本方は停水を去り、気の上逆を下して動揺症状を治すものである。
茯苓は胃内の停水を去り、気の上衝による動揺性症状を治すもので、白朮がこれに協力し、水分の順行をよくする。桂枝は気の上逆を引き下げる。甘草は桂枝とともに気を順らし、裏の虚を補うものである。

変方〕 後世方の四物湯(当帰・芍薬・川芎・地黄)と本方を合方して聯珠飲(れんじゅいん)(本間棗軒の家方)と名づけ、貧血による動悸、息切れ、顔面浮腫状などに用いる。
本方に東洞の応鐘散(おうしょうさん)(川芎・大黄二味)加え、血圧亢進などに起こる上気・肩こり・めまい・頭痛・動悸・便秘などに用いた。
また本方に鍼砂・牡蛎・人参を加えて原南陽は鍼砂湯(しんしゃとう)と名づけ、心臓弁膜症・貧血・神経症による動悸・眩暈・呼吸困難などに用いた。
また本方に呉茱萸・牡蛎・李根皮を加えて定悸飲(ていきいん)と名づけ、胃腸虚弱で神経質の者に現われる発作性心悸亢進症に用いた。
さらに本方に車前子・細辛・黄連を加えて明朗飲(めいろういん)と名づけ、眼科一般・視力障害・網膜炎などに用いてよいことがある。

主治
傷寒論(太陽病中篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、心下逆満、気胸ニ上衝シ、起テバ則チ頭眩ス。脈沈緊、汗ヲ発スルトキハ則チ経ヲ動カシ、身振々トシテ揺ヲナス者、苓桂朮甘湯之ヲ主ル」とあり、
金匱要略(痰飲病門)に、「心下ニ痰飲アリ、胸脇支満、目眩スルモノ、苓桂朮甘湯之ヲ主ル」「夫レ短気、微飲アリ、当サニ小便ヨリ之ヲ去ラシムベシ、苓桂朮甘湯之ヲ主ル、腎気丸之ヲ主ル」とあり、 餐英館療治雑話には、「此方癇症、腹内動悸ツヨク、少腹ヨリ気上リテ胸ニ衝キ、呼吸短息、四肢拘急ナドスル証ニ効アリ。又心下逆満シテ、起テバ頭眩シ、動悸アルヲ標的トスレドモ、顔色鮮明ニシテ表ノシマリ宜シカラズ、第一脈沈緊ナル者ニ非ザレバ効ナシト云フ、是レ和田家ノ秘訣ナリ」とある。

鑑別
五苓散41(小便不利水毒・脈浮、渇、水逆吐あり) ○真武湯75(心下悸眩暈・脈沈弱、陰虚証、手足厥冷) ○当帰芍薬散107(心悸眩暈・脈弱、血症、貧血) ○苓姜朮甘湯150(心下悸・腰脚寒冷、小便自利、脈沈弱)
※下線は共通の症候 もとは傍点(○)

参考
木村長久氏、苓桂朮甘湯について(漢方と漢薬 二巻四号)
藤平建氏、慢性軸性視神経炎患者の全身症状知見補遺(日本眼科学会雑誌 五五巻四号)
慢軸患者一九七例に現われた全身症状を観察し、眼精疲労・注意力散漫・感情不安状態・頭痛・頭重・起首時眩暈等は、苓桂朮甘湯の証に該当するもの多きを知り、本方製剤投薬により、視力の良転せるもの九五%、偽性近視の軽減または治癒せるもの七一%、調節時間の正常に復帰せるもの六〇%、諸種総合症状の軽快せるもの八八%、治癒せるもの一二%、慢軸の治療に相当効果を収めたと報告している。

治例
(一) 神経衰弱 
一八歳の中学生。近ごろ気分がすぐれず、学校の成績思わしからず、頭が変になったという。
脈は沈んで力がない。胃内停水のあることを告げ、診ると拍水音著明、角膜反射消失、瞳孔が大きい。神経質の患者によく見る所見である。膝蓋腱反射も亢進している。腹直筋の攣急も甚だしく、小便頻数、苓桂朮甘湯を投薬し、尿量増加とともに三週間で全治した。
(竹内達氏、漢方と漢薬 七巻二号)

(二) 発作性心搏動頻数症
三三歳の男子。数年前に心臓肥大を指摘されたが元気であった。二年前、野球試合中に気分が悪くなり、心動悸脈頻数となり倒れた。以来胸部の重圧感・狭窄感・心搏頻数・結滞が起こり、動悸・呼吸困難・起立時めまい・嘔気・頻尿・多汗症が起こるようになった。
 苓桂朮甘湯に牡蛎四・〇を加え、漸次好転し、三ヵ月にて出勤した。
(著者治験、和漢薬 一三一号)

(三) 眩暈を主訴とする神経症
 下総国小見川西雲寺の僧、臍下に動悸があって、時々心下に迫り、眩暈卒倒せんとする。頭の中は常に大石を載せたようで、上盛下虚(上吊ってのぼせ、下が虚脱する)して脚が弱くなり、しっかり歩くことができない。国中の医が手を尽したが効かない。余は苓桂朮甘湯に妙香散を兼用として与えたが、これを服すること数十日で、数年来の宿痾がすっかりよくなった。
 (浅田宗伯翁、橘窓書影)

(四) 眼疾(角膜実質炎?)
 一女が初め頭瘡を患ったが、それが治国工たら両眼に雲がかかり、すっかり見えなくなってしまった。上逆と心煩があり、時々小便不利がある。よって苓桂朮甘湯に芎黄散を兼用し、時々紫円を以てこれを攻めた。すると雲が去って左眼が少し見えるようになった。
 このとき医を変えて緩補の剤をのんでいたら再び雲がかかって見えなくなってしまった。そこで再び先生に懇願してきた。先生は前方を以て押し通されたが、服用すること数ヵ月で両目ともに見えるようになった。
(吉益東洞翁、建珠録)

(五) 耳聾
 京都効外西岡の良山和尚は、年七十になり、数年前から耳がきこえなくなった。先生に治を求めてきたが、心胸部が苦しく、上気がひどい。そこで苓桂朮甘湯に芎黄散を兼用させること数ヵ月及んだが効果がない。和尚は嫌になって服薬を中止してしまった。
 すると数日して来ていうのに、薬をやめてから、よく聞こえるようになったと、とてもよろこんでいる。先生は診察していうのに、まだまだ治ってはいない、再び薬を飲むと復聞えなくなるであろう。服薬を続けていてそれで聞えるようになったら、それはほんとうに毒がとれたのであると。因て更に前方を服すること数ヵ月に及ぶと、果して先生の言の如くであった。
(吉益東洞翁、建珠録)

※妙香散(みょうこうさん)
和剤局方
木香 山薬 茯神 茯苓 黄耆 遠志 人参 桔梗 甘草 辰砂 麝香
【功用】補気寧神,行気開鬱。
【主治】心気不足,志意不定,驚悸恐怖,悲憂惨戚,虚煩少睡,喜怒无常,夜多盗汗,飲食无味,頭目昏眩,梦遺失精。



漢方概論 藤平健 小倉重成著 創元社刊

茯苓桂枝白朮甘草湯(苓桂朮甘湯)
茯苓4 桂枝3 白朮2 甘草1
以上の四味を約五〇〇mlの水で煎じ、約二〇〇mlとし、滓を去り、一日二回に温服する。

本方証
『傷寒論』所載の主なるものを摘録すれば、
『若しくは吐し、若しくは下して後、心下に逆満し、気、胸に上衝し、起てば則ち頭眩し、身、振々として動揺す。」(太陽病中篇)また、『金匱要略』では、
①「心下に痰飲あり、胸脇支満し、目眩めく。」(痰飲咳嗽病篇)
②「短気して、微飲有り」

以上の要約
「心下悸し、上衝し、起てば則ち頭眩し、小便不利の者を治す。」(『方極附言』)
〔病位〕少陽の変位で虚証。
〔脈候〕浮弱時により浮。
〔舌候〕著変がない。
〔腹候〕腹力やや軟、ほとんどに胃部拍水音を認額る。胃部に按圧に対して抵抗を示すこと、及び動機を認めることがある。
〔応用の勘どころ〕 起立性眩暈(起テバ則チ頭眩シ)、逆上、心悸亢進し、胃部拍水音がある。

鑑別
五苓散。苓桂甘棗湯。瀉心湯など。

応用
胃アトニー、起立性調節障害、ポロプシー、神経衰弱、神経性心悸亢進、眩暈、メニエル症候群、慢性球起視束炎など。



類聚方広義〉 尾台 榕堂先生
○飲家,眼目雲翳ヲ生ジ,昏暗疼痛,上衝頭眩シ,瞼腫レ眵涙多キ者ヲ治ス,芣茨ヲ加エテ尤モ奇効アリ,当に心胸動悸,胸脇支満,等ノ症ヲ以テ,目的ト為スベシ(中略)雀目症にも,亦奇効アリ。 ※雲翳(うんえい)


明解漢方処方 西岡 一夫著 浪速社刊
苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) (傷寒論,金匱)
処方内容 茯苓六・〇 桂枝 朮各四・〇 甘草二・〇(一六・〇)

必須目標 ①胃内停水 ②尿書減少 ③神経質 ④目眩

確認目標 ①脉は沈緊脉 ②心悸亢進 ③眼病(涙目が多い) ④汗無し

初級メモ ①本方証の性格は,陰証の半夏厚朴湯に似て甚だ気迷い性が多い。
五苓散と本方は,その処方内容が類似しているが,五苓散は裏熱があるため吐下,口渇の症を伴うが,本方は熱症なく,ただ胃部の停水が上衝するだけであって,苦情は主として上半身の水毒症として現れる。
③呼吸困難(短気)に用いる茯苓杏仁甘草湯と本方との区別は,増補処方篇の茯苓杏仁肺草湯の項を参照して頂きたい。
④瞼腫れ,涙目などの眼病には,車前子三・〇を加えるか,または明朗飲を用いる。なお慢性軸性視神経炎には本方証が多く,即ち水毒の上衝が主な原因であるとの藤平健氏の発表は,水毒の現代医学的解明に曙光を投げている。(漢方の臨床誌二巻一号)。

中級メモ ①東洞は本方使用の際は常に芎黄散(大黄一・〇 川芎二・〇 以上を粉末とし,酒で服す)を兼用している。これは血毒の上衝を傍治するためと思われる。
②南涯「裏病にして心下に在り。心下に水滞して気外発するを得ず上逆する者を治す。その症に曰く逆満,支満,短気,これ水滞して気外発するを得ざるなり。曰く胸に上衝,目眩,頭眩,これ気上逆なり。茯苓甘草湯症は気上逆して水を動かす、故に悸して満せず生姜を加えてその気を逐うなり。この方の症は水,気を閉じる故に満して悸せず汗出でず朮を加えて以って水を逐うなり。」

適応症 自律神経不安定症。心臓弁膜症、眼病。難聴。

類方 鍼砂湯(原南陽)
本方に牡蛎四・〇 鍼砂(還元鉄で代用)一・五 人参二・〇を加えた処方で心臓弁膜症。心臓肥大症。黄胖病(悪性貧血の一種)に長期連用する。

56 茯苓杏仁甘草湯 ぶくりょうきょうにんかんぞうとう (金匱)
茯苓六・〇 杏仁四・〇 甘草一・〇(一一・〇)
心臓性の咳嗽で,先ず呼吸困難を主目標にし、そのほか浮腫,喘咳,狭心症などの症ある者に用いる。老人で顔色のすぐれない者にこの証が多い。
南涯「この方は水、胸にあって気を塞さぐ者を治す。面色青く短気するものに応じるなり」と。また曰く「この方、上より気を閉じるもの故、最初より短気あり,苓桂朮甘湯は心下の痰飲によって、先ず胸脇支満、目眩、気上衝などあって、次に短気を発す。これ両者の違いなり」と。狭心症。心臓喘息。心臓性浮腫。

60 明朗飲 めいろういん (和田東郭)
苓桂朮甘湯に車前子三・〇 細辛 黄連各一・五を加えた処方で水毒が上逆して眼疾を発し、眼痛み赤脉を生じ、流涙して開くことの出来ない症に用いる。慢性。急性結膜炎。



-考え方から臨床の応用まで- 漢方処方の手引き 小田 博久著 浪速社刊
苓桂朮甘湯 りょうけいじゅつかんとう (傷寒論)
茯苓:六、桂枝:四、白朮:三、甘草:二。

(主証)
脈沈緊。めまい。胃内停水。上半身の水毒症状。尿量減少。

(客証)
心悸亢進。息切れ。頭痛。

(考察)
実証ではない。
脈浮、口渇、嘔吐→五苓散。脈沈弱、小便自利、足腰の冷え→苓姜朮甘湯
脈沈弱、手足厥冷→真武湯

傷寒論(太陽病中篇)
「傷寒、もしくは吐し、もしくは下して後、心下逆満、気胸に上衝し、起てば則ち頭眩す。脈沈緊、汗を発するときは則ち経を動かし、身振々として揺をなす者、苓桂朮甘湯之を主る。」

金匱要略(痰飲病門)
「心下に痰飲あり、胸脇支満、目眩するもの苓桂朮甘湯之を主る。」
「それ短気、微飲あり、まさに小便より之を去らしむべし、苓桂朮甘湯之を主る。腎気丸(八味丸)之を主る。」
 「それ短気、微飲あり、まさに小便より之を去らしむべし、苓桂朮甘湯之を主る。腎気丸(八味丸)之を主る。」

連珠飲 れんじゅいん (本間棗軒経験方)
四物湯と苓桂朮甘湯の合方。
(主証) 脈沈。貧血。めまい。胃弱くない。
(客証) ひどい貧血でない。顔面浮腫。頭重。
(考察) 瘀血による血行障害と上半身の水毒。
勿誤方函口訣
「この方は、水分と血分の二道にわたる症を治す。婦人出血、あるいは産後、男子痔疾、下血の後、腹部浮腫、あるいは両脚微腫して心下、および水分に動悸あり、頭痛、眩暈を発し、または周身青黄、浮腫、黄胖状をなすものに効あり。」


漢方処方の応用法 改訂版 小太郎生薬生理化学研究所編
大阪大学助教授 高橋真太郎先生 医学博士 西山英雄先生 校閲

苓桂朮甘湯 レイケイジュツカントウ (傷寒論) 「レイジット」
応用 頭痛 のぼせ 目めい 耳鳴り 蓄膿症 喘息 心臓弁膜症 神経衰弱 胃アトニー 胃炎 慢性腎炎 低血圧症 高血圧症 内耳炎 結膜炎 メニエル氏症候群症状

目標 
時にはのぼせたり顔のほてることがあって腹部はしばしば振水音を聞き動悸がある
尿量は少ないか又は尿意頻繁である
目まいや身体動揺感があり 心機亢進するなどのもの 
口のかわくもの

構成 茯苓 桂枝 朮 甘草

備考
本方は低血圧症に多い目まい、頭痛、のぼせ、耳鳴、心機亢進に最も多く使われるもので、それが更に強度となった神経衰弱、ヒステリー等によく奏効する。急に立上がったときふらふらしたり、目まいするのは本方の適応症であり、頭痛薬を常用する慢性患者に本方を与えて快癒することが多い。外見上卒中体質でないのに血圧が高く尿量少ないものに用いて効果がある。
また眼底出血その他の眼科に応用されることも多く、蓄膿症に本方と柴胡剤を合方して効果がある。








【一般用漢方製剤承認基準】
苓桂朮甘湯
〔成分・分量〕
茯苓4-6、白朮2-4(蒼朮も可)、桂皮3-4、甘草2-3
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度以下で、めまい、ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸があるものの次の諸症:
立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴り、動悸、息切れ、神経症、神経過敏



【添付文書等に記載すべき事項】
してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位
症 状
皮 膚
発疹・発赤、かゆみ
まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。
症状の名称
症 状
偽アルドステロン症、ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以
上)含有する製剤に記載すること。〕
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)高齢者。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(4)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(5)次の症状のある人。
むくみ
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)次の診断を受けた人。
高血圧、心臓病、腎臓病
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕