健康情報: 10月 2012

2012年10月28日日曜日

白朮附子湯(びゃくじゅつぶしとう)  の 効能・効果 と 副作用

一般用漢方製剤承認基準

21.白朮附子湯(びゃくじゅつぶしとう)
〔成分・分量〕 白朮2-4、加工ブシ0.3-1、甘草1-2、生姜0.5-1(ヒネショウガを用いる場合1.5-3)、大棗2-4

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力虚弱で、手足が冷え、ときに頻尿があるものの次の諸症:
筋肉痛、関節のはれや痛み、神経痛、しびれ、めまい、感冒



和訓 類聚方広義 重校薬徴』 吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳
一五、桂枝附子去桂枝加朮湯56
 桂枝附子湯証にして、大便鞕く、小便自利し、上衝せざる者を治す。
 桂枝附子湯の方内に於て、桂枝を去り、朮四両を加う。
 朮(八分) 附子(六分) 甘草(四分) 大棗生姜(各六分)
右五味、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、分け温めて三服す。
 (煮ること桂枝附子湯の如し。)一服して身痺することを覚ゆ。半日許りにして再服し、三服都く尽す。其の人冒状の如し。怪しむ勿れ。即ち是れ朮附竝んで皮中を走り、水気を逐うて、未だ除くことを得ざるのみ。
 ○「傷寒八九日、風湿相搏り、」身体疼煩し、自ら転側する能わず。嘔せず満せず。「脈浮にして濇なる者は、」桂枝附子湯之を主る。若し其の人大便鞕にして、小便自利する者は57(本方にて主治す。)
 為則按ずるに、桂枝附子湯の証にして衝逆なき者なり。


頭註
56、此の方は脈経、玉函、千金翼の皆、朮附子湯と名づく。古義を失わざるに似る。金匱には白朮附子湯と名づく。外台には附子白朮湯と名づく。而して金匱には其量を半折す。倶に古に非らざるなり。朮の蒼と白に分つは陶弘景以後の説のみ。
 按ずるに、金匱の白朮附子湯は其の量、桂枝附子湯に半折し而して朮二両を加う。故に水三升を以て煮て一升を取るなり。今桂枝附子湯の全方中に朮四両を加えるときは則ち煎法まさに水六升を以て煮て二升を取るべし。此れ中村亨の校讎(校正)の粗なり。

57、小便自利は猶お不禁と曰うごとし。朮、附子、茯苓は皆小便不利、自利を治す。猶お桂、麻の無汗、自汗を治すが如し。


※都く(ことごとく)


傷寒論演習』 藤平健講師 中村謙介編 緑書房刊
一八一 傷寒。八九日。風湿相搏。身体疼煩。不能自転側。不嘔。不渇。脈浮虚而濇者。桂枝附子湯主之。若其人大便硬。小便自利者。去桂枝加白朮湯主之。

傷寒、八九日、風湿相搏り、身体疼煩して、自ら転側すること能はず、嘔せず、渇せず、脈浮虚にして濇なる者は、桂枝附子湯之を主る。若し其の人大便硬く、小便自利する者は、去桂枝加白朮湯之を主る。

藤平 「傷寒。八九日」となりますと少陽から陽明の時期です。その頃に外来の風邪と内在していた湿邪とが相からみ合って、身体が疼き痛む。そのため自分で体位を変えることができない。
 「不嘔」で少陽の証を否定し、「不渇」で陽明でもないといっているわけです。そして脈は浮いていて力がない。「濇」はなめらかでなくしぶる様子をいいますが、そのような脈の場合は桂枝附子湯の主るところである。
 桂枝附子湯は一般に大便軟で小便不利であるのに、もし大便硬くて、小便が出すぎるほどである場合には、桂枝を去って白朮を加えた桂枝附子湯去桂加白朮湯がよろしいというのです。

傷寒八九日 この章は、第一一二章の「傷寒八九日、云々」を承け、且前二章に於ける胸腹の証に対し、更に水気の変を現はせる者を挙げ、以て桂枝附子湯の主治を論じ、而して傍ら其の去加方に及ぶなり。

風湿相搏 風とは中風の熱、即ち風熱なり。湿とは湿邪也。搏は薄に古字通用す。即ち迫るの意、或は又搏撃の義に解する者もあり。

藤平 湿は水毒と同じです。「搏り(せまり)」とルビをうっていますが、奥田先生はいつも「アイウチ」と読んでおられたと思います。

身体疼煩 身体疼み、且煩するの意なり。

不能自転側 転側とは動き倚るの義なり。凡そ太陽に於ける疼痛に在りては、其の甚しき者と雖も、未だ自ら転側する能はざるには至らず。今、他人の扶助を得ざれば自由にならざると言ふは、漸く其の陰位に陥れるを示すなり。

藤平 疼痛の程度で病位が決まるとはあまりいいませんがね。本条の疼痛は水毒と風によってひき起こされたものと考えられます。

不嘔 不渇 此の証、傷寒八九日と言ふ。八九日は通常少陽位以後の日数也。故に嘔せずと言ひて先ず柴胡湯の証を否定す。又身体疼煩すと言ふ。故に渇せずと言ひて又白虎湯証を否定す。
脈浮賦而濇者 脈沈ならずして浮、実ならずして虚、滑ならずして濇也。此れ陰陽両位に渉る者、即ち所謂風湿相搏る者にして、発熱有りと雖も又頗る湿邪多き証也。之を桂枝附子湯の主治と為す。故に、
桂枝附子湯主之 と言ふなり。此の章に拠れば、桂枝附子湯は、能く外邪を解し、湿水を逐ひ、身体疼煩を治するの能ありと謂ふべく、而して是亦双解の治法なり。

 此の証は、太陽の裏虚を挟める者にして、即ち表熱裏虚相混じ相兼ぬる証なり。故に又兼治の法に従ひ、分治の法に従はず。

若其人大便硬 小便自利者 元来桂枝附子湯証は、大便軟にして小便不利也。今、小便自利の証を挙ぐ。故に若しと言ふ。凡そ小便自利する者は、内の津液乾燥し、大便をして硬からしむ。今大便硬きは、其の小便自利の致す所なり。故に本方中の桂枝を去り、朮を加へてその主治と為す。是桂枝は上部及び表に向つて汗を散ず。汗を散ずれば内益々乾燥するが故なり。又朮を加ふるは、其尿利を調へんが為なり。之を桂枝加白朮湯の主治と為す。依つて、
去桂枝加白朮湯主之 と言ふなり。此れ其の本方に就きて、更に去加の方略を示せるなり。
桂枝附子湯方 桂枝四両 附子三枚 生姜三両 甘草二両 大棗十二枚
 右五味。以水六升。煮取二升。去滓。分温三服。
 桂枝附子去桂加白朮湯は、金匱要略に出ず。金匱に白朮附子湯と名づくる者是也。

藤平 ここで桂枝を去っているのは桂枝去桂加茯苓白湯の場合と似ています。 桂枝去桂加茯苓朮湯証は裏に水毒があ改aて起きるものですから、茯苓と朮を加えて尿から水毒を取り去ろうとするのです。その場合に桂枝が一緒にありますと他の生薬の働きを上半身にひきつけますので、茯苓、朮の下半身から利尿させる働きが半減されると考えられているのです。それと同じ理由でここでも桂枝を去っているのですね。
 桂枝湯の君薬である桂枝を去るということは考えられないと江戸時代の人も議論のあったところです。さすがの尾台榕堂先生も、『類聚方広義』の桂枝去桂加茯苓朮湯の個所で「桂枝を去るはずがない。これは桂枝去芍薬加茯苓朮湯の誤りである」という意味のことを頭註に書かれています。しかしそれは尾台先生の誤りであろうと思います。
 桂枝附子湯を奥田先生は「而して是亦双解の治法なり」といわれています。まァ併病と解釈したほうが説明しやすいでしょうね。
 「不能自転側」とありますから、よほど強い疼痛でなければ使えないのではないかと考えられますが、それほどでなくても使ってよいのです。慢性関節リウマチ、神経痛等に有効です。

会員A 奥田先生は「脈沈ならずして浮、実ならずして虚、滑ならずして濇弧。此れ陰陽両位に渉る者」と説明されています。ここで浮虚を陽とするのはよいのですが、濇を陰とされているようです。濇は虚を意味すると思いますが、陰も示唆するのでしょうか。

藤平 いやー虚ですね。虚証を意味し、陰とはならないと思いますよ。

会員A 以前から私は『傷寒論』で白虎加人参湯黄芩湯黄連湯と進んだ後に桂枝附子湯の本条が出てくる点、非常に唐突に感じていたのです。最近こんなふうに考えて一人で納得しているのですが。
 つまり大塚敬節先生は『傷寒論解説』の中で、桂枝附子湯証の「身体疼煩。不能自転側」は、第一一二条の「一身尽重。不可転側者」の柴胡加竜骨牡蛎湯証と、第二二八条の「身重。難以転側」の三陽合病の白虎湯証によく似ているといわれています。
 一般的に、桂枝附子湯証と柴胡湯類、白虎湯類とでは類似しているとは思えません。それを「不嘔。不渇」と鑑別してみても意味をなしません。しかし大塚先生のいわれるように桂枝附子湯証と柴胡加竜骨牡蛎湯証と三陽の合病の白虎湯証では類似することがあるとなると、この「不嘔。不渇」は明瞭な意味を持ってきます。単に茫洋としてあまり関係のなさろうな少陽柴胡湯、陽明白虎湯を否定したのではなく、明確に第一一二条の柴胡加竜骨牡蛎湯証と、第二二八条の白浜湯証は本条の状態によく似ているので鑑別しているとする大塚先生の説は説得力があります。
 本条が白虎加人参湯にひき続いて『傷寒論』で述べられる理由がここにあると思うのです。この後に甘草附子湯、そしてまた白虎湯と続きます。この一連の並びが首尾一貫すると思うのです。

藤平 なるほどそうですね。おっしゃる通り本条の桂枝附子湯証は第一一二条の柴胡加竜骨牡蛎湯証と第二二八条の白虎湯証と似ていますね。「不嘔」でその柴胡加竜骨牡蛎湯を、そして「不渇」でその白虎湯を否定したと考えるのが正しいようですね。




2012年10月27日土曜日

半夏散及湯(はんげさんきゅうとう)  の 効能・効果 と 副作用

明解漢方処方』 西岡一夫著 浪速社刊
半夏散及湯(傷寒論)
 処方内容 半夏 桂枝 甘草各三・〇(九・〇)
以上三味を末とし、一回一・〇~一・五宛一日三回服する。もし半夏あって、服用を嫌う者は煎液として用いる。
 必須目標 ①声枯れ ②寒冷刺戟によるもの ③発熱なし。
 確認目標 ①平常胃腸の弱い体質
 初級メモ ①本方の名称が散及湯となっているが排膿散及湯のような二方合方の意味でなく、散でも湯でもどちらを服しても良いとのことである。まず散与え、それをのみ得ない者には湯を与えるのが原典に示された服用方法である。しかし実際問題として半夏末はのめたものではない。
 中級メモ 「咽痛とは左、右どちらかの一個所痛み、咽中痛とは咽中皆痛む」との説は、医宗金鑑に出ており、浅田宗伯もこれに従っているが、どうも余りに“中”の文字にこだわった解釈のようで、南涯、山田正珍らは咽痛と咽中痛は原因の異りを指すのであらうという。南涯は咽痛は血証、咽中痛は痰飲証なりとしている。即ち咽中痛の本方は痰飲体質(半夏を必要とする)の人が寒冷刺戟によって声枯れを起した場合に用いる。
 適応証 冷房病の声枯れ。寒風による声枯れ。

康平傷寒論解説(44)』 室賀昭三
半夏散及湯
 次に移ります。「少陰病、咽中痛、半夏散及湯これを主る。」
 半夏、洗う。桂枝、皮を去る。甘草、炙る。右三味、等分、各々別に擣き篩い已わって、合わせてこれを治めて、白飲にて和し、方寸匕を服す。日に三服す。若し散服する能わざる者は、水一升を以て煮て七沸し、散両方寸匕を内れ、更に煮ること三沸、火より下し、少し冷さしめ、少持:これを嚥む」。
 解釈しますと、「少陰病でのどが痛むものは半夏散または半夏湯の主治である」。咽中痛と咽痛とは違うのだという説もあります。ある先生は、咽中痛というのはのどが全面的に痛むのであって、咽痛はのどの一部が痛むのだとおっしゃっておられますが、現在では咽中痛も咽痛も差はないであろうといわれています。


傷寒論演習』 藤平健講師 中村謙介編 緑書房刊
三二三 少陰病。咽中痛。半夏散及湯主之。

      少陰病、咽中痛むは、半夏散及び湯之を主る

藤平 少陰病に似て咽の中が深く痛む場合には半夏散、及び湯がよい。咽中痛があるが、潰瘍や瘡傷のないものに適応があります。

少陰病 此の章は、前章を承けて、其の苦酒湯証よりは、緩易なるも、甘草湯及び桔梗湯よりは急激なる者を挙げ、以て半夏散及湯の主治を論じ、而して以上の少陰病の類証にして、咽喉の補証を挟める者の論を茲に一たび結ぶ也。

咽中痛 「咽中痛む」は、之を「咽痛」に比ぶれば急激にして、又「咽中傷れて瘡を生ず」に比ぶれば緩易なり。是、畢竟、少陰病の類証にして、邪熱、痰飲、上逆の証を挟み、之が為に咽中腫れ塞がりて痛を発し、飲食、咽に下り難き証也。之を半夏散及湯の主治と為す。故に、
 半夏散及湯主之 と言ふ也。

 此の章に拠れば、半夏散及湯は、邪熱、及び痰飲の上逆を去り、咽中の腫痛を治するの能有りと謂ふ可き也。

   病勢沈滞の外観を呈し、邪気及び痰飲を本として咽中痛み、膿血及び瘡傷に与からざる者、是を本方証と為すなり。

○以上の三章は一節也。少陰病の類証にして、咽喉疼痛の証を挟める者を挙げ、各々其の緩急劇易を論じたる也。

半夏散及湯方 半夏 桂枝 甘草以上各等分
 已上三味。各擣篩已。合治之。白飲和。服方寸匕。日三服。若不能散服者。以水一升。煎七沸。内散両方寸匕。更煎三沸。下火。令小冷。少少嚥之。

藤平 半夏の末をそのまま飲んでしまったら、ノドが腫れふさがってしまってたいへんでしょうね。「少少嚥之」というのは、少しずつうがいでもするように飲んでいくことを意味します。
 「白飲和」とは温いおもゆに混ぜて飲むのでしようが、それでものどが腫れ苦しんで、飲みにくいものと思います。そのために「若不能散服者」とあるのだと思います。

会員A 半夏は温薬、桂枝は熱薬ですが、この薬方は局所に炎症があっても使えるのでしょうか。

藤平 私はこの半夏散及湯を使ったことがないのですが、疼痛を主にして用いれば、ある程度炎症があっても使えるだろうと思います。病位は少陽病でしょう。脈はまァ弦というところ。舌は乾湿中間の白苔が中等度、腹力は中等度前後でしょう。
 

2012年10月26日金曜日

八味疝気方(はちみせんきほう)  の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
96 八味疝気方(はちみせんきほう) 〔福井楓亭〕
  桂枝・桃仁・延胡・木通・烏薬・牡丹 各三・〇 牽牛・大黄・ 各一・〇(便通あれば大黄を去る)  「寒疝臍を繞って痛み、及び脚攣急するを主治す。或は陰丸腫痛、或は婦人瘀血、血塊痛みを作し、或は陰戸突出(子宮脱出)、腸癰等、凡そ小腹以下諸疾、水閉瘀血に属する者並びに治す。」
  疝気・腸疝痛・脚攣急・下肢血栓性静脈炎・睾丸痛・精系痛・腎石疝痛・子宮脱出などに応用される。

勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
八味疝気方
此の方は疝気血分に属する者を主とす。当帰四逆加呉姜は和血の効 あり。此の方は攻血の能ありて虚実の分とす。また婦人血気刺痛を治す。福井にては、小腹に瘀血の塊あって脚攣急し寒疝の形の如き者、或は陰門に引き時々痛 みあり、或は陰戸突出する者、また腸癰等にも用ゆ。楓亭の識見は疝は本水気と瘀血の二つに因りて痛を作す者の病名とす。故に大黄牡丹皮湯、牡丹五等散、無 憂散、四烏湯、烏沈湯等の薬品を採択して一方となすなり。此の意を体認して用ゆべし。『観聚方』烏薬を烏頭に作る。誤なり。



勿誤薬室方函口訣解説(103)』  藤井美樹
八味疝気方
 八味疝気方は、福井楓亭の処方であります。福井楓亭先生は一七二四-一七九二年の方で、優れた名医であります。
『方函』の文章は、「寒疝、臍をめぐりて痛み、及び脚攣急、或は陰丸腫痛、或は婦人瘀血、血塊痛みをなし、あるいは陰戸突出、腸癰等を主治し、凡そ小腹以下の諸疾、水閉瘀血に属する者を並びに治す」とあります。
 処方内容は、「桂枝、桃仁、延胡索、木通、大黄、烏薬、牡丹、牽牛子、右八味」で、「服するに臨み、牽牛子末を点ず。腹痛する者は大黄を去り、七味疝気方と名づく」とあります。
 寒疝という病気は下腹に主に痛みがくる病気でありまして、とくに下腹から腰にかけて冷えたり、冷たいものを摂って内臓を冷やしたりすると痛んでくる病気をいいます。臍をめぐりて痛むという症状は、現在でいえば腸疝痛のようなものに当たると思います。脚攣急は坐骨神経痛などに相当するかと思います。陰丸腫痛は睾丸が腫れ痛む、陰戸突出は子宮の脱出、腸癰は虫垂炎を中心にしてその類の病気です。
 延胡索はエンゴサクの塊茎であり、鎮痛、通経に用います。木通はアケビの茎で消炎、利尿作用があります。烏薬はテンダイウヤクであり、クスノキ科のウヤクの根で、鎮痛、健胃、整腸作用があり、腹痛、下痢などに用います。牽牛子はアサガオの種子で、黒色のものが良品とされており、瀉下、利尿作用があり、尿閉、むくみ、脚気などに使うことがあります。桂枝は有名なもので、ケイの枝の皮です。桃仁、牡丹皮はいずれも駆瘀血剤、大黄は瀉下作用のほかに駆瘀血作用があります。
 『口訣』の文は「此の方は、疝気血分に属する者を主とす。当帰四逆加呉姜は和血の効あり。此の方は攻血の能ありて虚実の分とす。また婦人血気刺痛を治す。福井にては小腹に瘀血の塊あって脚攣急し、寒疝の形の如き者、或は陰門に引き時々痛みあり、或は陰戸突出する者、また腸癰等にも用う」とあります。
 陰戸突出とか、陰門に引きつられるような痛みがあるとか、足が突っ張るとか、要するに小腹に瘀血がある場合に使うし、また腸癰のような場合にも使うということです。ここに当帰四逆加呉茱萸生姜湯が出てきますが、これは和血の功があり、八味疝気方は攻血の働きがあって、虚実の違いがあるということです。すなわち、より実証の方に八味疝気方を使うし、虚証の方に当帰四逆加呉茱萸生姜を使い、そしてそれぞれの働きの違いがあるといっているわけです。
 「福井楓亭は識見の高い人であり、疝は水気と瘀血の二つによって痛みをなすものの病名であるという見解をもっていた」といっております。そういう識見から、「大黄牡丹皮湯、牡丹五等散、無憂散、四烏湯、烏沈湯等の薬品を採択して一方を作った」と述べております。「この方意を体認して用いた方がよい。また『観聚方』に烏薬を烏頭と間違えて書いてある」といっております。
 このように八味疝気方は、福井楓亭の家方であり、楓亭の見識のもとに作られた薬であり、現代医学的には腸疝痛、坐骨神経痛、時には足の血栓性静脈炎、睾丸が痛んだり腎臓の結石痛にも応用できるのではないかと思います。また子宮脱などに応用される薬方であります。私はこの薬方は臨床に使ったことはありませんが、当帰四逆加呉茱萸生姜湯はよく使います。

2012年10月25日木曜日

大防風湯(だいぼうふうとう)  の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
95 大防風湯(だいぼうふうとう) 〔和剤局方〕
 当帰・芍薬・熟地黄・黄耆・防風・杜仲・白朮・川芎各三・〇 人参・羗活・牛膝・甘草・大棗各一・五 乾生姜一・〇 附子〇・五~一・〇

〔応用〕
 慢性に経過して虚状を帯び、貧血気味となった下肢の運動麻痺と疼痛に用いる。
 すなわち本方は主として慢性関節リウマチ・脊髄炎・半身不随・脚気・産後の痿躄(下肢運動麻痺)等に応用される。

〔目標〕
 慢性に経過して体力衰え、貧血性となり、熱状なく、下肢の運動障害を起こし、栄養も障害されて削痩して食欲衰え、または下痢する傾向のあるものには桂枝加芍薬知母等を試みるがよい。

〔方解〕
 補血強壮を主として四物湯に人参・白朮・黄耆を配し、血行をよくし、肌肉を強め、冷えを去る。防風・羗活は諸風を袪り、骨関節の麻痺強直を治し、牛膝・杜仲は腰脚の筋骨を強壮にし、疼痛を緩解する。

〔主治〕
 和剤局方(諸風門)に、「風ヲ袪リ、気ヲ順ラシ、血脈ヲ治シ、筋肉ヲ壮ニシ、寒湿ヲ除キ、冷気ヲ逐フ。又痢ヲ患フノ後、脚痛ミ痿弱ニシテ行履スルコト能ハズ、名ヅケテ痢風ト曰フ。或ハ両脚膝腫レテ大イニ痛ミ、髁脛枯腊シテタダ皮骨ヲ存シ、拘攣跧臥シテ屈伸スルコト能ハズ、名ヅケテ鶴膝風ト曰フ。之ヲ服シテ気血流暢シテ肌肉漸ク生ジ、自然ニ行履故ノ如シ」とある。
 勿誤方函口訣には、「此ノ方百一選方ニハ鶴膝風ノ主剤トシ、局方ニハ麻痺痿軟の套剤(常用方剤のこと)トスレドモ、其目的ハ脛枯腊トカ風湿挾虚トカ云フ気血衰弱ノ候が無ケレバ効ナシ、若シ実スルモノニ与フレバ却テ害アリ」とあり、
 梧竹楼方函口訣(百々漢陰)には、「大防風湯は鶴膝風(関節リウマチで膝関節が腫れ、下肢は鶴の脚のように細くなったもの)の主方である。しかし初期に用いてはいけない。発病初期で熱性症状のあるときは麻黄左経湯(羗活・防風・麻黄・桂枝・朮・乾姜・細辛・防已・甘草)を用いて、発汗させるがよい。この方は熱が去って、腫脹、疼痛だけが残って、筋肉が痩せ細り、歩行困難となり、年を経て治らないものによい。つまり気血の両虚を補う手段を兼ねたものである。その他一切の脚・膝の痛み、或は拘攣などがあって、夜分にだるく痛み、日に日に痩せ細り、寒冷に逢うと痛みがひどくなり、すべての容体が気血の両方が虚しているということを目標として用いるがよい」とある。(漢方治療の実際より引用)。大塚敬節氏、大防風湯三例(「活」一九巻一一号)

〔鑑別〕
 ○桂枝芍薬知母湯常32(膝腫痛・この方は軽く気血の虚が少ない)

〔治例〕
(一) 脚気下肢痿弱
 一男子、脚気を患い両脚が痿弱し、後には手も足も細って、ついに痿躄(下肢麻痺)となってしまった。これに大防風湯を与えたところ、数日で起きて歩けるようになった。
 脚気で虚里の動悸(心尖搏動)が奔馬の如くいめるものは、大抵急変するものである。
(浅田宗伯翁、橘窓書影巻一)

(二) 関節リウマチ
 いま私の治療している女人の患者で、三年あまり大防風湯をのみつづけているリウマチの患者がいる。初診のことは歩くのも骨が折れたが、このごろは家庭内の起居動作はできるようになった。
 この方は桂枝芍薬知母等よりもさらに一段と衰弱が加わり、気血両虚というところが目あてである。桂枝芍薬知母湯に四物等を合方して用いたいというようなところに用いる。(大塚敬節氏、漢方治療の実際)
医療用漢方
製品名 規格 単位 薬価 製造会社 販売会社
三和大防風湯エキス細粒  1g 16.2 三和生薬  大杉製薬 
ツムラ大防風湯エキス顆粒(医療用)  1g 13.5 ツムラ  ツムラ 
三和生薬株式会社
本品1 日量(9g)中、下記の大防風湯水製エキス6.5gを含有する。
日局 ト ウ キ 3.0g
日局 ニンジン 1.5g
日局 シャクヤク 3.0g
日局 キョウカツ 1.5g
日局 ジ オ ウ 3.0g
日局 ゴ シ ツ 1.5g
日局 オ ウ ギ 3.0g
日局 カンゾウ 1.5g
日局 ハマボウフウ 3.0g
日局 ショウキョウ 0.5g
日局 トチュウ 3.0g
日局 タイソウ 1.5g
日局 ビャクジュツ 3.0g
日局 加工ブシ 0.5g
日局 センキュウ 2.0g

効能又は効果
関節がはれて痛み、麻痺、強直して屈伸しがたいものの次の諸症
下肢の慢性関節リウマチ、慢性関節炎、痛風

慎重投与内容とその理由
慎重投与(次の患者には慎重に投与すること)
(1)体力の充実している患者 [副作用があらわれやすくなり、その症状が増強されるおそれが
ある。]
(2)暑がりで、のぼせが強く、赤ら顔の患者 [心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等があら
われるおそれがある。]
(3)著しく胃腸の虚弱な患者 [食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等があらわれるおそれ
がある。]
(4)食欲不振、悪心、嘔吐のある患者 [これらの症状が悪化するおそれがある。]


重要な基本的注意とその理由及び処置方法
(1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。
なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避ける
こと。
(2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認め
られた場合には投与を中止すること。
(3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。
ブシを含む製剤との併用には、特に注意すること。

7.相互作用
(1) 併用禁忌とその理由
特になし

(2) 併用注意とその理由
併用注意(併用に注意すること)

1) 重大な副作用と初期症状
1)偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加
等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分
に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2)ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十
分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の
投与等の適切な処置を行うこと。





2012年10月23日火曜日

大黄附子湯(だいおうぶしとう) の 効能・効果 と 副作用

勿誤薬室方函口訣 浅田宗伯著
大黄附子湯
 此の方は偏痛を主とす。左にても右にても拘ることなし。胸下も広く取りて胸助より腰までも痛に用ひて宜し。但し烏頭桂枝湯は腹中の中央に在りて夫より片腹に及ぶものなり。此の方は脇下痛より他に引きはるなり。蓋し大黄附子と伍する者、皆尋常の症にあらず、附子瀉心湯、温脾湯の如きも亦然り。凡そ頑固偏僻抜き難きものは皆陰陽両端に渉る故に非常の伍を為す。附子、石膏と伍するも亦然りとす。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
89 大黄附子湯(だいおうぶしとう) 〔金匱要略〕
 大黄一・〇~二・〇 附子〇・五~一・〇 細辛二・〇

応用
 寒によって起こった疼痛を治すのであるが、病は実していて熱状があり、片側の脇下や脚腰に疼痛を発するものに用いる。
 本方は主として腎臓結石・胆石症・坐骨神経痛・遊走腎・膵臓炎等に用いられ、また慢性虫垂炎・偏頭痛・肋間神経痛・いわゆる腸疝痛・腸の癒着による疼痛・椎間板ヘルニア・陰嚢ヘルニア・会陰部打撲による尿閉等に応用される。

〔目標〕
 脇下や腰脚の片側が、つかえて冷えて実しているため疼痛を発し、便秘していて、脈は緊で弦のことが多く、腹はそれほど緊張や充実はなく、舌には多く苔がある。

方解
 三味より成っている。附子は表裏十二経を温め、寒による痛みを鎮める効果がすぐれている。細辛はよく温めて停水をめぐらし、附子とともに寒と水とによる疼痛を除く。大黄は実を瀉し、血行をよくし疼痛を緩解する。

主治
 金匱要略(腹満寒疝宿食病門)に、「此方ハ実ニ能ク偏痛ヲ治ス。然レドモ特リ偏痛ノミナラズ、寒疝、胸腹絞痛、延テ心胸腰脚ニ及ビ、陰嚢焮腫シ、腹中時々水声アリ、悪寒甚シキ者ヲ治ス。若シ拘攣劇ナル者ニハ、芍薬甘草湯ヲ合ス」とあり、
 勿誤方函口訣には、「此ノ方ハ偏痛ヲ主トス、左ニテモ右ニテモ拘ルコトナシ、胸下ニモ広ク取テ、胸助ヨリ腰マデモ痛ムニ用テ宜シ。但シ、烏頭桂枝湯ハ、腹中ノ中央ニ在リテ、夫ヨリ片腹ニ及ブモノナリ。此方ハ脇下痛ヨリ他ニ引ハルナリ」とあり、
 餐英館療治雑話には、「積聚疝気一切ノ腹痛殊ノ外切痛ス。積癖顕レ出テ手ニ応ジ、或ハ否ラズ。上ニ攻上レバ嘔ヲナシ、下ニ攻下レバ窘迫甚シク、痢ノ如ク、裏急後重シ、或ハ大便小便共ニ快利セズ、腹満痛シ、イカニモ附子ヲ用ユベキ証ト見エ、小品蜀椒湯、附子粳米湯ノ類用ユレドモ寸効ナキ者、此方ヲ用テ大便快利シテ愈エ、又ハ三日モ五日モ用ユル内ニ、裏急後重除キ治スル証アリ。但シ、大小便不利スルカ、又ハ痢ノ如ク裏急窘迫スルガ標的ナリ。金匱治脇下偏痛其脈沈緊者トアレドモ偏痛ヲ必トセズ。心下又ハ少腹ノ正中ニテ痛ムモノモ、以上ノ標的アラバ用ユベシ、甚ダ効アリ。又腹証奇覧ニ此方ニ芍薬甘草湯ヲ合シ用ユルコトヲイヘリ、拘急甚シキ証ハ芍薬甘草湯ヲ合スベシ。若シ此方ヲ用テ下利セズバ難治ト知ルベシ」とある。
 また古方薬嚢には、「脇下偏痛が目的なり。脈は緊弦を目標となす。しかして脇下の偏痛は左あるいは右に現われ、場所も唯脇下に限らず、時には腰にまたは腿にも及ぶものあり。しかし本方は必ず脇下に在り、便は秘する者あり、よく通ずる者もありて一様ならず。一様ならざれども便秘の者を目的とする方が歩多し。熱もはっきり出るものもあり、余り気の付かぬ程度の者もあり、拘り難し。本方は肋間神経痛、肋膜炎、或は坐骨神経痛の如きものに広く使用すべき価値あり、其の他の病にても、若し脇下偏痛があり、脈が緊弦なる者には試みて宜しかるべし。脇下偏痛とは、片方の脇腹が痛むことなり。緊脈とは堅く成てクリクリとする脈なり。弦脈とは楽器のピンと張った糸または弓のつるを撫でたような感じの脈を言う」とある。

主治
当帰四逆加呉生106(腰痛腹痛・手足寒冷、腹筋拘急、脈沈細)

苓姜朮甘湯150(腰痛・腰脚冷却、小便不利、脈沈)
○解急蜀椒湯127(腹痛・蠕動不安、腹鳴)
○附子粳米湯127(腹痛・劇痛、嘔吐、腹鳴、気上衝)
芍薬甘草湯61(腹痛腰脚拘急・腹筋攣急、急迫)

参考
 藤平健氏は日東洋医学会誌一二巻三号に、「大黄附子湯に版る諸疼痛の治療経験」と題する研究を発表されている。その投剤目標を「(1)陰証に属する実証で、(2)自覚症状は激しい疼痛、(3)便秘があり、(4)手足の冷えがある。他覚的には、(1)腹力中等度よりやや軟かで、(2)腹筋の拘攣を認めることが多い、(3)脈は緊張のつよいことが多い、(4)老人の便秘で時々強い腸疝痛様の発作のある患者には本方は特効がある」といっている。
 細野史郎氏は「漢方の臨床」五巻一〇号で、「芍甘黄辛附湯と胆嚢疾患」と題して、「体格や健康度が中等度以下で、慢性で遷延性の、緩慢な病的反応を現わす胆嚢、または胆道疾患にこの方を用いてよい結果を収めた」四例の報告を行なっている。細野氏の症例では便秘していなかったこと、胆道疾患の場合には発熱もありうるとしている。
 著者は五一歳の男子が、膵臓癌で猛烈左胸背痛を発し、一年余苦しみ、痩せ衰えたものに大黄附子湯を用い、やや疼痛の軽快したものがあった。また六〇歳の男、ヘルペスより左肋間神経痛を起こし、年余にわたって激痛に悩んでいたものに芍甘黄辛附湯を用いたが効がなかった。この人の脈は弱であった。

治例
(一) 坐骨神経痛
 五八歳の男子。左側の坐骨神経痛で数ヵ月苦しんでいる。肥満体質で便秘がひどい。大黄附子湯(大黄五・〇グラム)を与え、一日四~五回の下痢があって、疼痛大いに減じ、三週間で全治した。大黄や石膏のような寒薬と、附子のような熱薬とを同時に配した処方は、頑固で動きにくい病気を揺り動かす力を持っている。病気が寒熱にまたがって、治りにくいものにしばしば用いられる。(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(二) 胆石の疝痛発作
 平素は頑丈な体質で肉つきも血色もよく、胆石疝痛を起こし、大柴胡湯一服で止まったことがある。一ヵ年後再び胆石疝痛を起こしたので、同じく大柴胡湯を与えたところ、今度は吐いておさまらず、痛みはますます強くなった。体温は三八度、大便は秘結している。
 強い痛みのとき脈を診ると緊弦となり、軽い痛みのときは大きい脈になる。
 そこで大黄附子湯(大黄一・〇、附子〇・五、細辛〇・五)を一回量として頓服させたところ、五分ぐらいで痛みが楽になり、寝返りができるようになり、便通があって全く疼痛が去った。
 同じ患者が同じような病気にかかっても、寒下薬(大柴胡湯)のよいことがあり、温下薬(大黄附子湯)のよいことがある。(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(三) 右上腹部の発作性疼痛
 一婦人。右上腹部の発作性疼痛を主訴として来院、数ヵ月前より毎日痛み、背に水をそそぎかけられるような感じがするという。胃痙攣、または胆石症といわれた。発作時以外は訴えがなく、食事も正常、胸脇苦満はなく、腹部は一体に軟弱でやや陥没し、腹直筋の拘攣はない。大便は秘結して三日に一回で硬い。脈は沈小で舌苔はない。大黄附子湯二週間で発作は全くやんだ。 (大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(四) 肋間神経痛
 七一歳の男子。右側の胸痛を甚だしく訴えて来院。顔色は悪く、貧血している。また足がもつれて歩行が不自由である。脈は洪大、舌は潤っていて苔はない。腹力は中等度で、やや軟かい方である。腹直痛が攣急している。便秘がちで四~五日に一方しかない。大黄附子湯(大黄二・五、附子一・五)を与えたが、経過良好で、服薬二五日で全治した。 (藤平健氏、日東洋医会誌 一二巻三号)

(五) 椎間板ヘルニア
 二八歳の男子。腰痛を主訴としてきた。疼痛の程度はそれほど著しくはない。脈は弦でやや細く、舌白苔中等度でやや湿っている。腹力は軟弱の方で、軽い腹直筋の攣急がある。大便は二~三日に一回しかない。そこで大黄附子湯(大黄・附子各一・〇)を与えたところ、経過良好で、前後一二〇日を要したが、腰痛は全く治癒した。  (藤平健氏、日東洋医会誌 一二巻三号)


和訓 類聚方広義 重校薬徴 吉益東洞原著 尾台榕堂校註 西山英雄訓訳
 九二、大黄附子湯 343
 腹絞痛し、悪寒する者を治す。
 大黄三両附子三枚(各九分)細辛二両(六分)
右三味、水五升を以て、煮て二升を取り、分ち温めて三服す。(水一合五勺を以て、煮て、六勺を取る。) 「若し強人は煮て二升半を取り、分ち温めて三服す。服して後一服を進む」一の行くこと四五里如りにして。
 ○胸下偏痛し、発熱し、其の脈緊弦なるは、「此れ寒344なり。温薬を以て之を下す。」(本方に宜し。)

343、此の方は実に能く偏痛を治す。然して特に偏痛のみならず寒疝にして胸腹絞痛し胸腰脚に延及し、陰嚢焮腫し、腹中時々水声あり。悪寒甚だしき者を治す。若し拘攣劇しき者は芍薬甘草湯を合す。

344、水毒を謂うなり。


類聚方広議広説(45) 温知堂室賀医院院長 室賀 昭三
■大黄附子湯
 次は大黄附子湯(ダイオウブシトウ)です。

 大黄附子湯 治腹絞痛。惡寒者。

  「大黄附子湯。腹絞痛成、悪寒するものを治す」。
 おなかが絞られるように痛んで、寒気がするというのですが、これは熱が出なくても、寒気がしておなかが痛むということです。熱があって寒気がする場合と、あまり痛いと寒気を感じることがあります。
ですから寒気がするほど強い、おなかが絞られるような痛みというようにも解釈できると思います。

 大黄三兩附子三我各九分 細辛二兩六分
 右三味。以水五升。煮取二升。分溫三服。以水一合五勺。煮取六勺。
 『若強人煮取二升半。分溫三服。服後如人行四五里。進一服。』
 脇下偏痛。發熱。其脈緊弦。『此寒也。以溫薬下之。』

 「大黄三両、附子三枚、細辛(サイシン)二両。
 右三味、水五升をもって、煮て二升を取り、分かち温めて三服す。
 もし強人は煮て二升半を取り、分かち温め三服す。服して後、人の行くこと四、五里ばかりにして、一服を進む。
 脇下偏痛し、発熱し、その脈緊弦なるは、これ寒なり。温薬をもってこれを下せ」。
 大黄、附子、細辛を水五升で煮て二升を取り、分温三服するというのは、普通の飲み方と同じですが、もし体の丈夫な人ならば、煮て二升半を取りとありますから、薄く煎じるわけです。この理由はわかりません。服用後、人が四、五里行く頃もう一度飲みなさい、ということです。日本の一里は4kmですが、漢代の一野は約400mといわれていますから、四、五里は1.6~2kmになり、三〇分くらいですから、しばらくしてからもう一度飲みなさい、という指示になるわけです。
 次の条文は『金匱要略(きんきようりゃく)』のものです。脇腹が痛んで熱が出て、脈は緊張が強く、弓の弦を張ったようである。弦脈は体の中が冷えていることを意味しているので、これは寒があるのであるから、温める薬の附子と細辛を使い、腹が痛むのは停滞しているものがあるからで、これを大黄で下しなさい、といっているわけです。
 頭註を読んでいかます。
 「この方は実によく偏痛を治す。しかして特(ひと)り偏痛のみならず、胸疝ににして脇腹絞痛し、心胸腰脚に延及し、陰嚢焮腫し、腹中時々水声あり、悪寒はなはだしきものを治す。もし拘攣劇しきものは、芍薬甘草湯を合す」。
 「寒は水毒を謂うなり」。
 この処方は実によく腹痛を治す。とくに脇腹の痛みのみならず、冷えによって脇腹が絞痛して心胸腰脚にも痛みが及んでいて、陰嚢が腫れて痛み、腹中に水毒があり、悪寒がはなはだしいものを治すといっています。この場合、悪寒はなくてもよいように思います。もし筋肉の痙攣が強い場合には芍薬甘草湯を合わせて使いなさい、といっています。
 寒とは、水毒をいっているのであるということです。寒があると水分が溜まりやすくなって、水毒を伴いやすくなります。芍薬甘草湯を合方して使うと、さらに効果があるというわけです。この処方は時々使われている例をみます。


勿誤薬室方函口訣解説(80)  日本東洋医学会評議員 小倉重成
 次は大黄附子湯(ダイオウブシトウ)です。薬方は大黄(ダイオウ)、附子(ブシ)、細辛(サイシン)各一、以上の三味を約500mlの水で煎じ、約200mlとし、滓を去り、一日二回分服します。本方証は、『金匱要略』腹満寒疝宿食病篇に出ているものでは、「脇下偏痛、発熱し、其の脈緊弦なるは、此れ寒なり。温薬を以て之を下せ」とあります。
 『勿誤薬室方函口訣』には次のように載っています。「此の方は偏痛を主とす。左にても右にても拘ることなし。胸下も広く取りて胸肋より腰までも痛むに用いて宜し。但し烏何桂枝湯(ウズケイシトウ)は腹中の中央に在て夫より片腹に及ぶもの也。此の方は脇下痛より他に引ぱるなり。蓋し大黄附子と伍する者皆尋境の症にあらず。附子瀉心湯(ブシシャシントウ)、温脾湯(ウンピトウ)の如き亦然り。凡そ頑固偏僻(片寄っている)抜き難きものは皆陰陽両端に渉る故に非常の伍を為す。附子石膏(セッコウ)と伍するも亦然りとす」とあります。
 附子とセッコウが一緒になっているものには、たとえば桂枝二越婢一湯加朮附などはその一例になると思います。これはよくリウマチなどに用いられます。片側と書いてありますが、臨床経験からは、必ずしも片側痛でなくてもよい場合が多くあります。烏鳥桂枝湯も腹の中央部の痛みといっておりますが、これも必ずしもそうではありません。慢性関節リウマチ、三叉神経痛、腰痛などにも用いられることがあります。
 病位は太陰の位で実証であります。脈候は緊弦、あるいはやや沈緊、または緊、あるいは少しく数、舌候は著変がありません。腹候は著変はありませんが、やや力があります。
 応用の勘どころは、側胸部、側腹部、もしくは腰脚部等の寒冷疼痛、脈緊弦、便秘傾向、下肢寒冷等が考えられます。
 鑑別としては、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)は、冷えのぼせと腹痛、自汗、易疲労はありますが、便秘はありません。附子瀉心湯(ブシシャシントウ)は便秘、全身の冷え、心下痞があります。桂枝加大黄湯(ケイシカダイオウトウ)は便秘のほかに、腹満、腹痛を伴います。
 応用としては腰痛、座骨神経痛、腸の疝痛、胆嚢炎、腎結石、肋間神経痛、腎盂膀胱炎、慢性虫垂炎、膝関節炎、慢性関節リウマチなどに用いられます。一例経験として、座骨神経痛の激痛で、歩行不能の老婆に、本方と芍薬甘草湯との合方を用い、回虫と絛虫が二日にわたり便所を白くうずめつくすほど出て、疼痛が快癒した経験があります。


【一般用漢方製剤承認基準】
〔成分・分量〕 大黄1-3、加工ブシ0.2-1.5、細辛2-3
〔用法・用量〕 湯
〔効能・効果〕 体力中等度以下で、冷えて、ときに便秘するものの次の諸症: 腹痛、神経痛、便秘
  


【添付文書等に記載すべき事項】

してはいけないこと
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1.次の人は服用しないこと
 生後3ヵ月未満の乳児。
 〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.本剤を服用している間は、次の医薬品を服用しないこと
  他の瀉下薬(下剤)

3.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること
相談すること
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
(5)のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
関係部位  症 状   
消化器    はげしい腹痛を伴う下痢、腹痛
その他    動悸、のぼせ、ほてり、口唇・舌のしびれ

3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
下痢

4.1ヵ月位(腹痛、便秘に服用する場合には5~6日間)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載すること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
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3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」をしてはいけないことに記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕
保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること
3.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
(5)のぼせが強く赤ら顔で体力の充実している人。
3´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。

大黄:下痢・腹痛・食欲不振の症状が現れることがあります。
附子: 動悸・のぼせ・舌や口周囲のしびれ・悪心・嘔気・嘔吐・呼吸困難、などの症状が出現することがあります。

2012年10月21日日曜日

喘四君子湯(ぜんしくんしとう) の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
喘四君子湯(ぜんしくんしとう)
〔成分・分量〕 人参2-3、白朮2-4、茯苓2-4、陳皮2、厚朴2、縮砂1-2、紫蘇子2、沈香1-1.5、桑白皮1.5-2、当帰2-4、木香1-1.5、甘草1-3、生姜1、大棗2(生姜、大棗なくても可)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力虚弱で、胃腸の弱いものの次の諸症:
気管支ぜんそく、息切

勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
喘四君子湯
此の方は其の人、胃虚して時々喘息を発する者に宜し。熱なくして短気が主になる症なり。若し熱あれば、一旦、麻杏甘石の類を用ひて解熱すべし。当帰を痰に用ゆること粉々説あれども、『千金』紫蘇子湯、清肺湯、蔞貝養栄湯の類、皆降気を主とするなり。本草を精究すべし。


勿誤薬室方函口訣解説(76)』 細野八郎
喘四君子湯
 喘四君子湯は『万病回春』の喘急門に四君子湯として出ている処方です。その主治によりますと、「気短くして喘するものは、呼吸短促して痰声なきなり。四君子湯、短気を治す」と述べてあります。
 喘は呼吸困難のことで、喘がはげしくなると鼻をヒクヒクと動かしたり、口を開けて肩をもたげ、起坐呼吸をするようになります。また喘鳴があるのを哮(こう)といいます。哮の時は必ず喘(呼吸困難)を伴ってきますが、喘の時は喘鳴(哮)を必ずしも伴ってきません。ですから発作で呼吸困難と喘鳴があれば哮喘といい、呼吸困難だけなら喘といいます。一般に喘は虚証の喘息にみられ、哮喘は実証によくみられます。
 『方函』に、まず「短気を治す」とあります。短気とは呼吸が途切れ途危れになる状態をいいます。ですから「気短くして喘する者」とは、いいかえますと、咳や喘鳴がなく、呼吸困難を起こしている虚証の喘息の状態に喘四君子湯は用いられるわけです。
 『万病回春』の喘急門の初めに「喘するものは脾胃に痰がある」とあります。呼吸困難なら気管の機能異常をすぐ考えますが、脾胃の痰と喘とは、どう結びつければよいのでしょうか。このことについて少し考えてみましょう。もちろん東洋医学でも喘は、肺にまったく異常がないとは考えていません。ただ喘鳴がないだけで少量の痰があるとしています。そして痰の原因が脾胃の中の痰、すなわち脾胃の機能低下にあると考えています。そもそも、脾胃は「生痰の源」で、肺は「貯痰の器」といって、痰は脾胃の機能異常から生じ、肺の機能低下があると、この痰が肺に貯ってくると考えています。そのため喘四君子湯には脾胃の機能異常を治す生薬がたくさん入っています。人参、白朮、茯苓、甘草、陳皮は六君子湯から半夏をとった処方になります。縮砂、木香はさらに消化力を強くします。
 先ほどから痰の話をしましたが、この痰は現代医学の痰と少し違っています。痰というのは脾胃の中にある生体に必要な液状物質が、機能異常のために代謝されず、粘度を増してきて、生体に有害になったものをいいます。一般に液体は熱が加わると粘度を増します。痰も生体の中に発生した異常な熱でできてきます。この異常な熱を火といいますが、火にはいろいろのものがあります。
 喘息では腎の機能異常から発生する火が、痰の生成に関係して重要になってきます。ですから喘息は、腎の機能の悪い小児期とか、老年期に多発し、腎の機能が最盛期になる壮年期に治るので、この腎の火の消長で喘息を説明しようとする学者もあります。ところでこの火が体の弱っている時に発生したのを虚火といっていますが、喘四君子湯は、虚火による喘息に効果があります。処方の中の当帰は肝の火を、沈香は腎の火を、桑白皮は肺中の火を鎮火します。
 喘息の発作の時に一番問題になるのは、肺の中の火です。これが激しいと、痰は粘っこくなり、切れにくく黄色になって、呼吸困難が強くなります。桑白皮はこんな時に効果的で、たとえば麻杏甘石湯に桑白皮を加えた「万病回春」の五虎湯麻杏甘石湯で発作が止まらない場合でも、痰の切れをよくして発作を鎮めてくれます。
 また喘息は精神的興奮から発作を起こしてくることがよくあります。喘息患者は神経過敏の人が多く、怒りやすく、いらつきやすいものです。このような人を肝火が亢進しているといいます。実証であれば、柴胡、黄芩のある小柴胡湯で肝の火を処理するのですが、虚証ではこのような寒性の薬を用いることができません。そこで当帰で肝の機能を亢め、発生した肝の火を間接的に鎮火させようとしています。
 そもそも病的な火は、その臓器の機能が正常であれば発生しないものです。脾胃も当然、火が発生していますが、黄連や石膏などの寒性の強い薬で消すわけにはいきません。そこで当帰の肝の火を鎮火させたように、脾胃の機能を人参、甘草、茯苓、白朮、陳皮、縮砂、木香などで強めて、脾胃の火を鎮火する方法をとっています。このように喘四君子湯は痰の発生する原因を治して喘息を治す処方です。ですから発作の時に即効性はありません。そのことを「方函口訣』では、「熱なくして短気が主なる症なり、もし熱あれば一旦麻杏甘石の類を用いて解熱すべし」と書いています。
 この場合の熱は肺の中で、しかも熱の勢いの強い実熱のことをいっています。肺の実熱による発作はよく見られます。麻黄で発表し、石膏で清熱する必要があります。それが「麻杏甘石の類で解熱すべし」の意味です。また、虚証でも喘鳴、咳、切れにくい痰、呼吸困難がある発作であれば、肺に実熱がある実証の発作として麻杏甘石湯で肺熱をとる必要があります。そして発作が鎮まれば喘四君子湯を用います。
 江戸時代中期に、京都に和田東郭という名医がいました。東郭は喘息の治療に苦心して、次のような治療方法を考えたと『蕉窓方意解』の中で述べています。それによりますと、「生まれつき壮実で脈や腹に力がある人は麻杏甘石湯で即効する。しかし虚弱な人で脈や腹に力がない時は、麻杏甘石湯を用いると悪化することがある。こんな時には『局方』の蘇子降気湯を用いる。もっと虚の状態が強ければ喘四君子湯がよい。喘四君子湯は老人、虚人、あるいは大病後など全身状態が悪い時の短気や喘咳にも効果がある」といっています。
 この東郭の考えでもわかるように、喘四君子湯は体力や気力の衰えているような状態に用いる処方です。私どもの診療所の統計によりますと、自覚的には食欲がなく、胃がもたれたり、胃のところがチャブチャブと音をたてるなど、胃の症状や足が冷えると訴える人が多くみられました。他覚的には骨細の体格で、顔は青白く、あるいは黄色味を帯び、痩せて神経過敏で、脈の力が弱く、舌苔はほとんどなく、湿りが強くやや赤味を帯びた舌状をしています。腹部は軟弱か、あるいは薄い板を張りつめたような、心下部または両側の薄い弱い腹直筋の緊張などがみられます。また肋骨弓角は狭く心下部に振水音がみられます。胸部は呼吸困難があるのに喘鳴や乾性ラ音が少なく、実証の喘息と大分違っています。これが短気の客観的な証拠であろうと思います。
 以上のような自他覚的症状のある患者に、喘四君子湯はよく効きます。この処方を飲んでいると体力がつき、次第に発作が起きなくなります。しかし時には実証性の激しい発作が起こることがありますが、こんな時には麻杏甘石湯で一時的に処置したり、麻杏甘石湯を併用して治療します。
 喘四君子湯につ感ていろいろ述べてきましたが、この処方は虚弱者の、虚証の喘息に用いる薬です。虚証の時には、麻黄や石膏など、強い薬で攻撃できないので、まず生体のもとである脾胃の調理より行ないます。そのため、六君子湯を中心とした、この処方は非常に役立ちます。また六君子湯から半夏をとってあるのは、半夏が虚証のきれにくい痰の発作に悪影響を与えるためです。虚証になっていると神経過敏になって、少しの刺激でも発作を起こすので、沈香、蘇子、木香で亢ぶった精神状態を鎮静しながら、呼吸困難を軽減します。またこれらの薬は脾胃の機能を促進する作用もあるので、当帰や沈香の肝の火を鎮火する作用と共同して、脾胃の機能は喘四君子湯服用によって正常化してゆきます。そして脾胃の正常化は肺の機能の正常化につながり、喘息の体質改善へとなってきます。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
57 四君子湯(しくんしとう) 〔和剤局方〕
 人参・朮・茯苓各四・〇 甘草一・五
 この四味の性は温、味は甘で、君子中和の徳に似ているから四君子湯と名づけたという。古方の人参湯の類似方で、人参湯の方中より乾姜を去って茯苓を加えたものである。一般には乾生姜〇・五~一・〇、大棗一・〇を加えて用いることが多い。

〔加減〕
 喘四君子湯 人参・厚朴・蘇子・陳皮 各二・〇、茯苓・朮・当帰 各四・〇、縮砂・木香・沈香・甘草 各一・〇、桑白皮 一・五
 胃腸虚弱者の喘鳴と呼吸困難の激しいときに用いる。他の薬方が胃にもたれて受けつけないというとき、肺結核の末期・肺気腫・気管支喘息・気管支拡張症などで胃障害をともない症状激しいときに用いる。



漢方医学 Ⅲ 病名別解説篇(その1)』 財団法人日本漢方医学研究所 (山田光胤)
b.虚弱体質で麻黄剤を用いがたい場合
6.喘四君子湯
 胃下垂,胃アトニーが甚しく,胃腸が弱く,常に食欲不振,下痢しやすい人が,喘息症状で苦しむときによい。やせて元気がなく,顔色がわるく,冷え症で,常に食欲が減退し,下痢しやすい。腹部は皮下脂肪が少なく,腹力がなく,心下部に振水力が著明にみとめられる。
 この薬方は,胃腸の機能を改善し,体力をつけつつ,喘息症状を軽快させる効がある。



2012年10月17日水曜日

洗肝明目湯(せんかんめいもくとう)・洗肝明目散(せんかんめいもくさん) の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
洗肝明目湯(せんかんめいもくとう)〔成分・分量〕 当帰1.5、川芎1.5、芍薬1.5、地黄1.5、黄芩1.5、 山梔子1.5、連翹1.5、防風1.5、決明子1.5、黄連1-1.5、荊芥1-1.5、薄荷1-1.5、羗活1-1.5、蔓荊子1-1.5、菊花 1-1.5、桔梗1-1.5、蒺梨子1-1.5、甘草1-1.5、石膏1.5-3

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度のものの次の諸症:
目の充血、目の痛み、目の乾燥


漢方後世要方解説』 医道の日本社刊 矢数道明著
方名及び主治  三三 洗肝明目湯(センカンメイモクトウ) 万病回春 眼目門
○一切の風熱、赤腫、疼痛を治す。
千葉医大実験処方
 南天実、木賊各一・五 茯苓、黄芩、黄連、連翹、当帰、川芎、山梔、桔梗、柴胡、石膏各一、大黄、甘草各〇・五
処方及び薬能 当帰 芍薬 川芎 地黄 黄芩 梔子 連翹 防風 決明子各一・五 黄連 荊芥 メンタ 羗活 蔓荊 菊花 桔梗 蒺梨 甘草各一 石膏三
 蔓荊=肝経に入り、血を凉まし、目赤を治す。
 木賊=肝胆の経に入り、目翳を去る。
 菊花=肝を平らにし、目を養い翳膜を去る。
 蒺梨子=肝を散じて補し、目を明らかにす。
 決明=肝経に入り風熱を除く、一切目疾を治す。
 石膏=熱を清め、火を降す。
 南天実=筋骨を強め、気力を益す。
解説及び応用 ○実証にして炎症、充血、疼痛等刺激症状のある角膜結膜の疾患に広く応用される。経過の長びく難治とされている角膜疾患には特に必要の剤である。

千大眼科に於いて鈴木宜民教授の研究が発表されている。防風、羌活、黄連、黄芩等は眼部の充血、腫脹、疼痛には不可欠とされ、更に当帰、山梔、連翹、川芎、地黄等もこれを補助する。

○応用
① 硬化性角膜炎、② 角膜実質炎、③ 鞏膜炎、④ 春季カタル、⑤ 虹彩炎。




『衆方規矩解解(43)』 藤平 健
眼目門(一)
洗肝明目散
「眼目門。洗肝明目散。一切の風熱眼目に中りて、赤く腫れ、痛むを治す」。
熱があって目に炎症があって、赤く腫れて痛む場合によいということでしょうが、こういう場合は実証か虚証か、陽証か陰証かわかりませんが、中の薬味を見ますと、「沂(当帰)、芎(川芎)、【赤勺】(芍薬)、【生也】(生地黄)、連(黄連)、芩(黄芩)、丹(山梔子)、羔(石膏)、翹(連翹)、芸(防風)、荊(荊芥)、荷(薄荷)、羌(きょうかつ)、蔓(まんけいし)、菊(菊花)、蒺(蒺藜子)、桔(桔梗)、決(決明子)、甘(甘草)」の一九味です。この中には黄連や黄芩のような冷薬もありますし、当帰、川芎というような温薬も入っていますし、いろいろのものが入っておりまして、実証か虚証か判断しにくいですが、「赤く腫れ痛むを治す」ということから考えますと、これは実証であろうと、あるいは少なくとも虚実間くらいにはなるだろうと思われます。
 この薬方は私も使います。といいますのは、私が終戦後間もなく眼科に帰ってきまして、教室で研究生活をしていた時に、その時の講師が眼科だけの漢方をやっておりましたが、『傷寒論』や『金匱要略』などを基本にした使い方ではないのです。ですから私どもがやっている漢方とは違うのですが:その方が洗肝明目散を、眼の赤くなる病気で、角膜にも時には変化が来たりするという病気に使って、実際に相当よくなるということを経験しまして、これを学位論文にしたのです。これを使って、当時結核性の疾患と思われていた角膜の疾患で、角膜のはじから濁りが出てくる硬化性角膜炎という病気をよく治したということです。
 そんなわけで、私も充血していて赤い目にこれを使ってみますと、皆が皆よくなるわけではありませんが、かなりよくなるものがあるという経験をしました。私か使った経験からいいますと、実証か虚実間によく、あまり虚証のものにはよくないようです。実証の充血というのは、赤味が鮮明で、痛みも強いことが多いのです。そういうものを目当てにして使いますと、硬化性角膜炎のみならず、外眼部から虹彩、毛様体、およびブドウ膜などの炎症にまで効くことがあります。洗肝明目散は、私もそういう経験がありますから、実証に近い疾患で、角膜あるいは虹彩などに及ぶような場合で、西洋医学的になかなか治りにくいという場合に使ってみる価値のある薬方であると思います。
 「痛み忍び難きには川(川芎)、烏(烏頭)を加う」。「翳障ある(角膜に濁りがある)には芍(芍薬)を去って蒺(蒺藜子)、賊(木賊)を加う」。「風熱肝火甚しくば荷(薄荷)を去って游(竜胆)、柴(柴胡)を加う」。「大便実せば芎(川芎)、虎(大黄)、桔(桔梗)を加う」とありますが、こういうふうにすれば効くかもしれませんが、私は洗肝明目散だけを使っております。これはエキス剤になっておりますが、エキス剤で使ってもしばしばよい場合があります(※)。
 「按ずるに眼暴に赤く痛むを治するの方なり」とありますが、こういうところが洗肝明目散の一番の眼目というところかもしれません。時間の関係で飛ばして読みます。
 「暴に眼赤く、初発に升麻葛根湯を用いて蟬(蟬脱)を加え、三貼を与う。もし退かざるには敗毒散を用い虎(大黄)を加う。尚退かざるには却って五膈寛中湯を用いて酒にて調え下す」とありますが、五膈寛中湯は170頃に出ております。これは使ったこともありませんし、使い方も明確にされておりませんが、なかなか治らない場合にこういうものを使ってよい場合があるということでしょう。

※ 「これはエキス剤になっておりますが、エキス剤で使ってもしばしばよい場合があります」の
エキス剤になっているの部分は、何か別の漢方薬方と勘違いされているのでは?



ウチダの洗肝明目湯
株式会社 ウチダ和漢薬 東京都荒川区東日暮里4-4-10
※エキス剤ではなく、煎剤(煎じ薬)
添付文書(2012 年1 月改訂(記載要領変更に伴う改訂 第1 版)1 )

 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。

 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

(1)医師の治療を受けている人.
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人.
(3)胃腸が弱く下痢しやすい人.
(4)胃腸虚弱で冷え症の人.
(5)高齢者。 
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人.
(7)次の症状のある人.
    むくみ 
(8)次の診断を受けた人.
    高血圧、心臓病、腎臓病 

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ
消化器吐き気・嘔吐,食欲不振,胃部 不快感,腹痛

まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。


3.服用後,次の症状があらわれることがあるので,このような症状の持続又は増強が見られた場合には,服用を中止し,医師,薬剤師又は登録販売者に相談すること
   下痢

4.1ヵ月位服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し,この文書を持って医師,薬剤師又は登録販売者に相談すること

5.長期連用する場合には,医師,薬剤師又は登録販売者に相談すること



効能・効果
炎症,充血,疼痛などの刺激症状のある角膜,結膜の疾患硬化性角膜炎,角膜実質炎,春季カタル,虹彩炎

用法・用量
年齢 1日量
大人(13 才以上) 1袋(1日分)につき水600mL(約3合3勺)を加え,あまり強くない火にかけ300mL(約1合7勺)に煮つめ,袋をとり出し,2~3回に分けて食前1時間または食間空腹時に温服する。
13 才未満5 才迄 大人の煎液の1/2 量を2~3回に分けて食前1時間または食間空腹時に温服する。
5 才未満 大人の煎液の1/3 量を2~3回に分けて食前1時間または食間空腹時に温服する。

〈用法・用量に関連する注意〉
(1)小児に服用させる場合には,保護者の指導監督のもとに服用させること.
(2)1歳未満の乳児には,医師の診療を受けさせることを優先し,止むを得ない場合にのみ服用させること.

成分・分量
本品1袋中
トウキ(当帰)       1.5g
ケイガイ(荊芥)     1.0g
センキュウ(川芎)    1.5g
ハッカ(薄荷)       1.0g
シャクヤク(芍薬)     1.5g
トウドクカツ(唐独活)   1.0g
ジオウ(地黄)        1.5g
マンケイシ(蔓荊子)    1.0g
オウゴン(黄芩)       1.5g
キクカ (菊花)        1.0g
サンシシ(山梔子)     1.5g
キキョウ(桔梗)      1.0g
ハマボウフウ(浜防風) 1.5g
シツリシ(蒺藜子)        1.0g
レンギョウ(連翹)         1.5g
カンゾウ(甘草)            1.0g
ケツメイシ(決明子)      1.5g
セッコウ(石膏)            3.0g
オウレン(黄連)          1.0g

保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい所に保管すること.
(2)小児の手の届かない所に保管すること.
(3)他の容器に入れ替えないこと.(誤用の原因になったり品質が変わる.)

本剤は生薬を原料としていますので,製品により多少色が異なることがありますが,効能・効果にかわりはありません.

2012年10月14日日曜日

神仙太乙膏(しんせんたいつこう) の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
神仙太乙膏(しんせんたいつこう)
〔成分・分量〕 当帰1、桂皮1、大黄1、芍薬1、地黄1、玄参1、白芷1、ゴマ油30-48、黄蝋12-48

〔用法・用量〕 外用

〔効能・効果〕 切り傷、かゆみ、虫刺され、軽いとこずれ、やけど





訓註和剤局方』 陳師文編纂 吉富兵衛訓註 緑書房刊

八発擁疽, 一切の悪瘡軟痛を治す。年月の深遠を問わず, 已に膿を成すにも, 未だ膿を成さざるにも,之を貼れば即ち 効あり。蛇,虎,蜴,犬.湯火,刀斧に傷付けられるに,並びに内服,外貼すべし。背に発するには,先ず温水を以て瘡を洗い,拭き乾かし,吊子 を用い薬を灘げ貼り,傍,水を用いて一粒を下す。血気には,木通酒にて下す。赤白帯下は当帰酒にて下す。咳漱・喉閉・纏喉風には,並びに綿に裏み含み化す。一切の赤眼には,太陽穴に貼 り,後に山楯子湯を用いて下す。打撲傷損には,薬を貼り,傍, 橘皮湯を用い下す。腰膝痛には,之を貼り,塩湯にて下す。唾血には,桑白皮湯に て下す。諸漏には,先ず塩湯を以て其の諸瘡痴を洗う。並びに大小を量り,紙を以て薬を灘げ之を 貼り,並びに毎服一粒。桜桃大に旋円し,蛤粉を以て衣と為す。其の薬は十年を収めても壊れざるべし。愈久しく愈烈し,神効具に述ぶべからず。
川当帰(去藍), 玄参, 肉桂(去粗皮), 生乾地 黄, 赤右薬, 白苗, 大黄各一両
上七味を到み松子大の如くし, 麻油二斤を用い て浸すこと, 春は五日, 夏は三日, 秋は七日, 冬 は十日澤を濾し去り, 油熱して所を得せしめ, 次 に黄丹一斤を下し, 以て油を滴らして水中に在り て散ぜざるを度となす。


一般用漢方製剤承認基準では、外用となっていますが、
原典である和剤局方では、外用のみならず、
内服の方法も書かれています。

また、もともとは、硬膏ですが、
現在市販されているものは、軟膏になっています。



既存の神仙太乙膏
製造販売元 メルスモン製薬株式会社
商品名:タイツコウ

使用上の注意
 [相談すること] 
①次の人は使用前に医師又は薬剤師に相談してください。 
1.医師により治療をうけている人 
2.本人又は家族がアレルギー体質の人 
3.今までに薬や化粧品等によるアレルギー症状(例えば、発疹・発赤、かゆみ、かぶれ等)を起こしたことがある人 
4.湿潤やただれのひどい人 
5.傷口が化膿している人 
6.患部が広範囲の人 

②次の場合は、直ちに使用を中止し、この文書を持って医師または薬剤師に相談してください。 
1.使用後、次の症状があらわれた場合 

 関係部位     症状
 皮ふ  発疹、発赤、かゆみ

 2. 5-6日間使用しても症状の改善がみられない場合  

【効能・効果】  
きりきず(切傷)、虫さされ(蚊傷)、とこずれ(褥瘡)、やけど及びその他の肉芽形成(火傷)  

【用法・用量】  
外用、適量を患部に塗布する。  

(用法及び用量に関連する注意)  
(1)小児に使用させる場合には、保護者の指導監督のもとに使用させてください。 
(2)目に入らないように注意して下さい。万一目に入った場合には、すぐに水又はぬるま湯で洗ってください。 なお、症状が重い場合には、眼科医の診察を受けてください。 
(3)外用にのみ使用してください。  

【タイツコウ軟膏はこのようにご使用ください。】  
(1)患部を清潔にしてから、1日2-3回皮膚をいためないように静かに塗布してください。 
(他の軟膏剤のように患部にスリ込むのではなく、患部の上に置いておくといった感じでご使用ください。) 
 (2)患部の傷口、はれがひどい場合は、患部をつつみこむように厚めに塗るか、ガーゼに塗って患部にはって下さい。 
(3)直射日光下で使用の際、日やけするおそれがありますので患部をガーゼ等でおさえてご使用ください。  

【成分・分量】 
103g中 
トウキ、ケイヒ、ダイオウ、シャクヤク、ジオウ、ゲンジン、ビャクシ:各1g 
ゴマ油、ミツロウ:各48g   

【保管及び取り扱い上の注意】
 1.高温・直射日光をさけ、なるべく湿気の少ないなるべく涼しい所に、必ず密栓して保管してください。 
2.小児の手のとどかない所に保管してください。 
3.誤用をさけ、品質を保持するため、他の容器に入れかえないようにしてください。 
4.本剤は生薬(薬用の草根木皮)を用いた製品ですので、製品により、軟膏の色調が多少異なる事がありますが、効果に変わりありません。  

【製造販売元】
メルスモン製薬株式会社 
〒171-0014 東京都豊島区池袋2丁目39番1号 堀越ビル3階
048-223-1755(代表)


『漢方薬の選び方・使い方』 木下繁太朗著 土屋書店刊
神仙太乙膏
症状
広く万能的に使え効果があるところから、神仙の名がついたもので、家庭常備薬として便利なものです。消炎、鎮痛、解毒、肉芽形成作用があって、外傷、やけど、虫刺されをはじめ、広く皮膚疾患に応用します。患部に直接塗るか、ガーゼなどにのばして貼ります。制菌作用があるので、擦り傷、軽い切り傷にも使えます。

適応
やけど(第一、二、三度を通じて使えます。)外傷(切り傷、擦り傷)、虫刺され(かゆみが止まります)、打撲、打ち身、捻挫(布にのばして貼る)、瘭疽(布にのばして貼っておく)、湿疹、口内炎、歯槽膿漏(口の中にも塗れる)、結膜炎、鼻炎、口角炎、下腿腫瘍、褥瘡(とこずれ)。

【処方】胡麻油480ml。蜜蠟480ml。
     当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、唐大黄(とうだいおう)、芍薬(しゃくやく)、玄参(げんじん)、熟地黄(じゅくじおう)、白芷(びゃくし) 各10g。   

2012年10月13日土曜日

梔子柏皮湯(ししはくひとう) の 効能・効果 と 副作用

《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
31.梔子柏皮湯(ししはくひとう) 傷寒論
梔子3.0 甘草1.0 黄柏2.0

(傷寒論)
傷寒、身黄発熱,本方主之(陽明)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 肝臓部の緩和な圧迫感,軽微な黄疸症状、あるいは皮ふの瘙痒や炎症充血があるもの。症状が緩和で大黄剤が適しない虚弱者または軽症のものに用いられている。
カタル性黄疸〉 茵蔯蒿湯と同様に利胆作用があって肝臓疾患に用いられるが,皮ふ粘膜の発黄が緩和で胸部苦悶感なども著しくないもの。

ジンマ疹,皮ふ瘙痒症〉 発赤や腫脹または瘙痒を訴えるが,その他の所見が少ないもの。

打撲,捻挫〉 本方エキス散に卵白を加え撹拌したうえ,徐々に水を加え,適度の泥状としたものを布地にのばし,患部に繃帯しかわくごとに更新すると,痛みや腫脹をすみやかに好転させる。
 
結膜炎〉 本方を稀釈した水溶液で温罨法すると,炎症,充血などに奇効を奏することがある。肝炎,黄疸,ジンマ疹などに使うとき茵蔯蒿湯との鑑別は,本方適応症は前記のとおり,全般的に緩和であるのに対し,茵蔯蒿湯は著しい口渇,胸内苦悶,頭汗,発黄が著明で便秘する点で区別できる。黄連解毒湯はのぼせ,充血,出血その他神経症状を伴い本方の証には,これらの点が少ないことで鑑別すればよい。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 黄疸があっても腹満や胸脇苦満の腹証がなく,悪心,嘔吐,口渇,尿利減少などのないものに用いる。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用 1. 黄疸
 「傷寒,身黄発熱するは梔子柏皮湯之を主る。」
 (傷寒論陽明病)身熱,発黄,或は瘀熱発黄に使う。麻黄連軺赤小豆湯の如く表証は兼ねず,茵蔯蒿湯の如く裏実して下すべき証なく,大小便普通のものに用いる。多少心熱煩躁の気味がある。

 運用 2. 痒み
 黄疸でも皮膚が痒くなるが,皮膚炎,じん麻疹,その他の皮膚病でも発赤乾燥熱感のある痒みに使う。梔子豉湯との区別は必ずしも容易でないが黄疸なら本方を使うのが普通の仕方であり,本方は小便が赤いことも参考になる。黄柏が湿熱を去り,香豉が潤す所より見れば梔子柏皮湯はかゆき皮膚面に湿り気あるべく,梔子豉湯は乾燥強きことが察せられるが,今後の経験によってその是非を確めたい。

 運用 3. 眼の充血
 尾台榕堂先生は,「眼球黄赤熱痛甚しきを洗ふに効あり。又胞瞼糜燮痒痛及び痘瘡落痂以後眼ナホ開かざるものは枯礬少許を加へて之を洗踊。皆妙なり」(類聚方広義)と経験を述べている。この他梔子豉湯の適応症を参照して応用の途を考えたい。


医療用漢方製剤
コタロー梔子柏皮湯エキス細粒
Shishihakuhito


〔有効成分〕
1日量6.0g(分包品:2.0g×3包)中、
  日局 サンシシ 3.0g
  日局 カンゾウ 1.0g
  日局 オウバク 2.0g
上記の混合生薬より抽出した梔子柏皮湯の水製乾燥エキス1.2gを含有する。

〔添加物〕
ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプン、乳糖、プルラン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム。
*保存剤、安定剤、溶媒、溶解補助剤、基剤等は使用していない。


〔効能・効果〕
肝臓部に圧迫感があるもの。黄疸、皮膚痒症、宿酔。

〔用法・用量〕
通常、成人1日6.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
なお、年齢、体重、症状により適宜増減する。


〔使用上の注意〕
(1)重要な基本的注意
1)本剤の使用にあたっては、患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること。なお、経過を十分に観察し、症状・所見の改善が認められない場合には、継続投与を避けること。
2)本剤にはカンゾウが含まれているので、血清カリウム値や血圧値等に十分留意し、異常が認められた場合には投与を中止すること。
3)他の漢方製剤等を併用する場合は、含有生薬の重複に注意すること。
(2)相互作用
併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等 臨床症状・措置方法 機序・危険因子
①カンゾウ含有製剤
②グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤
偽アルドステロン症があらわれやすくなる。
また、低カリウム血症の結果として、ミオパシーがあらわれやすくなる。(「重大な副作用」の項参照)
グリチルリチン酸は尿細管でのカリウム排泄促進作用があるため、血清カリウム値の低下が促進されることが考えられる。



(3)副作用
本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である。
1)重大な副作用
①偽アルドステロン症:低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
②ミオパシー:低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。

*2)その他の副作用

頻度不明
消化器 食欲不振、胃部不快感、下痢等


(4)高齢者への投与
一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意すること。

(5)妊婦、産婦、授乳婦等への投与
妊娠中の投与に関する安全性は確立していないので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上まわると判断される場合にのみ投与すること。

(6)小児等への投与
小児等に対する安全性は確立していない。[使用経験が少
ない。]

〔取扱い上の注意〕
(1)漢方製剤は吸湿しやすいので、湿気を避け、直射日光の当らない涼しい場所に保管してください。
特に、ポリ瓶の場合はキャップを堅く締めて保管してください。

(2)本剤は天然の生薬を原料としていますので、ロットにより色調等に異同がありますが、効能その他に変わりはありません。

【有効成分】
本剤の有効成分は特定できないが、配合生薬のサンシシ由来のゲニポシド、カンゾウ由来のグリチルリチン酸、オウバク由来のベルベリン等が含有されている。



※参考
麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうしゃくしょうずとう;まおうれんしょうせきしょうずとう)
傷寒瘀熱裏に在れば、身必ず黄、麻黄連軺赤小豆湯これを主る。
麻黄、連軺、杏仁、赤小豆g、大棗、生梓白皮、生姜、炙甘草

2012年10月10日水曜日

梔子豉湯(しししとう)  の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
梔子豉湯(しししとう)
〔成分・分量〕 山梔子1.4-3.2、香豉2-9.5

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以下で、胸がふさがり苦しく、熱感があるものの次の諸症:
不眠、口内炎、舌炎、咽喉炎、湿疹・皮膚炎



漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
梔子豉湯(しししとう)
本方は心中の懊悩と身熱 とを目標としている。心中の懊悩とは、心胸中に憂悶の感があって、如何とも名状出来ない状態で、しばしば不眠を訴え、身熱とは悪感を伴わずして身体に熱感 を覚えるのをいい、この際、体温の上昇を認めなくてもよい。またその身熱は、身体の一部分に限局されていてもよい。例えば顔面もしくは肛門の周囲にだけ訴 えることがある。腹診するに心下部には堅硬膨満等の状はないが、軟弱無力という程ではない。
本方は梔子と香豉の二味から成る。梔子には消炎・鎮静の効があり、香豉もまた、鎮静の効がある。故に二味合して心中の苦煩を去り、身熱を消すのである。
本方はカタル性黄疸で心下痞満の状のないものに用いまた食道癌の如き症状を呈するものに用い、奇効を奏することがある。その他不眠・口内炎・痔核等で灼熱感のあるものにも用いることがある。
梔子甘草豉湯は、梔子豉湯に甘草を加えた方剤で、梔子豉湯の證で急迫の状あるもの、例えば呼吸浅表のものを治し、梔子生姜豉湯は梔子豉湯に生姜を加えた方剤で梔子豉湯證で、嘔吐の状あるものに用いる。
一般に、梔子剤は下痢の傾向があるものには用いない。



漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
2 順気剤
順気剤は、各種の気の症状を呈する人に使われる。順気剤には、 気の動揺している場合に用いられる動的なものと、気のうっ滞している場合に用い られる静的なものとがある。静的なものは、体の一部に痞えや塞がりを感じるもので、この傾向が強くなるとノイローゼとなったり、自殺を考えたりする。動的なものは、ヒステリーや神経衰弱症を訴えるが、この傾向が強くなると狂暴性をおびてくる。順気剤は単独で用いられる場合もあるが、半夏厚朴湯(はんげこう ぼくとう)などのように他の薬方と併用されるのもある。
順気剤の中で、半夏厚朴湯・梔子豉湯(しししとう)・香蘇散(こうそさん)は気のうっ滞に用いられ、柴胡加竜骨牡蠣湯柴胡桂枝乾姜湯桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)は気の動揺が強いものに用いられ、釣藤散(ちょうとうさん)・甘麦大棗麦(かんばくたいそうとう)は気の動揺と気のうっ滞をかねそなえたもので、麦門冬湯(ばくもんどうとう)は気の上逆による咳嗽を、小柴胡湯加味逍遙散は、柴胡剤の項でのべたように潔癖症を 呈するものに用いられる。なおこのほか、駆瘀血剤の実証のもの、承気湯類(じょうきとうるい)などにも、精神不安を訴えるものがある。
各薬方の説明
2 梔子豉湯(しししとう) (傷寒論、金匱要略)
〔山梔子(さんしし)三、香豉(こうし)四〕
本方も、半夏厚朴湯のように気のうっ滞しているものに使われるが、半夏厚朴湯の ように咽中で気のうっ滞が起こるのではなく、胸中で気のうっ滞 が起こっているものである。したがって、胸中や食道が塞がった感じとなり、程度が強くなる痛むようになる。本方は虚証に用いられ、心中懊憹(しんちゅうお うのう)、身熱(悪寒を伴わない熱感を覚えるもの)、咽喉乾燥、口苦、喘咳、腹満、自汗、身重などを目標とする。本方の身熱は、全身的に現われる場合と局所的な場合がある。また、各種の症状は急激なものが多い。なお、本方は下痢の傾向のあるものには用いられない。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、梔子豉湯証を呈するものが多い。
一 ノイローゼ、神経衰弱、不眠症その他の精神、神経系疾患。
一 食道炎、食道狭窄、食道癌、口内炎、咽喉炎、のどのやけどその他の食道系疾患。
一 肺結核、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 心臓病、高血圧症その他の循環器系疾患。
一 急性肝炎、黄疸、二日酔い、胆嚢炎その他の肝臓や胆嚢の疾患。
一 胃酸過多症、胃酸欠乏症、胃カタル、胃潰瘍その他の胃腸系疾患。
一 喀血、吐血、下血その他各種の出血。
一 湿疹、乾癬、じん麻疹、掻痒症その他の皮膚疾患。
一 そのほか、血の道、凍傷、痔核など。

梔子豉湯の加味方
(1) 梔子甘草豉湯(ししかんぞうしとう) (傷寒論)
〔梔子豉湯に甘草二を加えたもの〕
梔子豉湯證で急迫の状を訴えるものに用いられる。呼吸促拍、掻痒のはなはだしいものを目標をする。
〔応用〕
梔子剤であるために、梔子豉湯のところで示したような疾患に、梔子甘草豉湯證を呈するものが多い。

(2) 梔子生姜豉湯(しししょうきょうしとう) (傷寒論)
〔梔子豉湯に生姜四を加えたもの〕
梔子豉湯證で、嘔吐の状を訴えるものに用いられる。
〔応用〕
梔子剤であるために、梔子豉湯のところで示したような疾患に、梔子生姜豉湯證を呈するものが多い。


臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
59 梔子豉湯(しししとう) 〔傷寒・金匱〕
 梔子三・〇 香豉四・〇

 水三〇〇ccをもって、まず山梔子を煮て二〇〇ccとし、次に香豉を布に包んで加え、再び煮て一〇〇ccとし滓を去って二回に分服する。一般にはそのまま一緒に煎じて用いている。服後吐を生じた者は後の分はのませなくてもよいとある。香豉は黒大豆を特殊の醗酵方法によって製するのであるが、中国原産のもののないときは普通の納豆を乾燥したもの、あるいは大豆を蒸してから乾燥したものを代用してもよい。

応用

 虚証に属するもので、胸中に気が塞がって、心中懊悩するものに用いる。
 本方は主としてカタル性黄疸、食道癌・食道狭窄・不眠症・口内炎等に用いられ、また舌炎・咽喉炎・痔核・二日酔い・発汗吐下の後の虚煩・喀血・吐血・下血・身熱・心中懊悩・高血圧症・神経衰弱・ノイローゼ・血の道症・心臓病・肺結核・肺炎・流行性黄疸・胆嚢炎・凍傷・湿疹・乾癬・ヘルペス・蕁麻疹などで煩熱する者、胃炎・胃酸過多症・胃酸欠乏症・胃痛・胃潰瘍・夏に四肢煩熱して眠れぬもの等に応用される。
 臨床的には胸中煩熱・不眠・出血・瘙痒・心下部の疼痛・口内の炎症・食道狭窄・黄疸等を主症として運用されるものである。

目標
 心中の懊悩と身熱とが目標である。すなわち、心胸中に憂悶の感があって、いかんとも名状しがたい状態である。しばしば不眠を訴える。身熱というのは悪寒をともなわず、身体に熱感を覚えることで、体温の上昇はなくともよい。また身体の一部に限局されるてもよみもので、たとえば手足、顔面もしくは肛門の周囲にだけ訴えることもある。心下部は緊硬膨満というほどのことはなく、またそれほど軟弱でもない。

方解
 山梔子は胸中の熱煩を治し、香豉は胸になじむ気を順らし、かつ胃の虚熱を去る働きや解毒作用があると考えられる。梔子には消炎鎮静の効があり、香豉にも鎮静の効がある。
 主治条項に掲げてある諸症状を、龍野一雄氏は次のように整理した。
(1) 胸部症状。心中懊悩・心中結痛・心憒憒、胸中窒・喘。
(2) 神経症状。不得眠。讝語・煩・煩操。
(3) 腹部症状。腹満・胃中空虚・客気動膈・不結胸・心下濡・飢不能食・口苦・舌上苔。
(4) 体症状。身熱・悪熱・煩熱・躁・煩躁・怵惕(おそれること)・反履顚倒・身重・頭汗・手足温。
(5) 熱症状。虚煩・煩熱・煩躁・外熱・咽燥。
これらの複雑な諸症状を、山梔子と香豉の二味によって好転させるというものである。
これらの症状は余邪が心胸間に鬱滞して、虚煩するもので、この二味がよく胸中の欝邪を解するものというべきである。

主治
 傷寒論(太陽病中篇)に、「発汗シテ後、虚煩眠ルコトヲ得ズ、若シ劇シキ者ハ、必ズ反履顚倒、心中懊悩(もだえ苦しむ)ス。梔子豉湯之ヲ主ル。若シ少気ノモノハ梔子甘草豉湯之ヲ主ル。若シ嘔スル者ハ、梔子生姜豉湯之ヲ主ル」とあり、
 また「発汗若クハ下シ、而シテ煩熱胸中窒ル者ハ、梔子豉湯之ヲ主ル」
 「傷寒五六日、大ニ下シテ後、身熱去ラズ、心中結瘕スル者ハ、未ダ解セント欲セザルナリ、梔子豉湯之ヲ主ル」とある。
 また陽明病篇に、「陽明病、脈浮ニシテ緊、咽燥口苦、腹満シテ喘シ、発熱汗出デ、悪寒セズ、反テ悪熱シ、身重シ、若シ汗ヲ発スレバ則チ躁シ、心憒憒(カイカイ;心思いみだれる貌)トシテ反テ譫語ス。若シ焼鍼ヲ加フレバ、必ず怵惕(ジュッテキ;おそれること)煩躁眠ルコトヲ得ズ。若シ之ヲ下セバ則チ胃中空虚、客気膈を動ジ心中懊悩ス。舌上苔アル者ハ、梔子豉湯之ヲ主ル」
 「陽明病、之ヲ下シテ、其ノ外ニ熱アリ、手足温カク、結胸セズ、心中懊悩、饑エテ食スルコト能ハズ、但ダ頭汗出ル者ハ、梔子豉湯之ヲ主ル」とあり、
 厥陰病篇には、「下痢ノ後、更ニ煩シ、之ヲ按ジテ心下濡(ナン;軟かい)ナル者ハ、虚煩ト為スナリ。梔子豉湯之ヲ主ル」とある。
 類聚方広義には、「此方梔子、香豉ノ二味ノミ、然レドモ之ヲ其ノ証ニ施スルトキハ、其効響ノ如シ。親ラ之ヲ病者ニ試ムルニアラザレバ、焉ンゾ其ノ効ヲ知ランヤ」といっている。
 古方薬嚢には、「熱のある病気にて、汗をとったり、吐かせたり、又は下剤を与えて下したりした後、胸の中が空っぽの様な、たよりない気持だして眠れず、そのひどいときには転展として落着かれない者。以上のような状態で、のどのふさがる者、或は胸の中や胃の中が痛むもの、或は手足が温かく、胸中が苦しいので、腹がへっても食べることのできない者」が梔子豉湯の証であるといっている。

加減
 梔子甘草豉湯。梔子豉湯に甘草二・〇を加えた方剤で、梔子豉湯の証で、急迫の状のあるもの、たとえば呼吸浅表のもの、瘙痒激しいものなどに用いる。
 梔子生姜豉湯。梔子豉湯に生姜四・〇(乾生姜は一・五)を加えたもので、梔子豉湯の証に嘔吐の状あるものに用いる。

治例
(一) 子宮出血
 村民金五郎の妻、年廿五歳。子宮出血が数日続き、全身倦怠・心煩・微熱、諸薬を服するも効かなかった。梔子豉湯二貼を与えると出血は半減し、更に数貼を与えて落治した。

(二) 子宮出血
 岳母某が転んで腰を打ち、その後子宮出血が続いて下腹が軽く痛いという。いろいろの薬をのんだが効がないという。余が思うに、この病は転倒して驚き惕れて起こったものである。そこで梔子豉湯を数貼与えたところ、それですっかり治った。

(三) 衂血
 月洞老妃、年七十余。鼻血がどんどん出で、止血の薬をいろいろのんだが効かない。余はその様子を訊いてみると、どうも虚煩(衰弱していて神経が興奮している)の状がある。よって梔子豉湯を作って与えたところ、すぐよくなった。 (以上三例は、腹証奇覧、松川世徳の治験)

(四) 肛門瘙痒
 五七歳の男子。痔核の手術を三回うけたが、そのあとで肛門の周囲がかゆくなった。夜はそのため眠れないという。身熱、虚煩眠るを得ず。心中懊悩等の傷寒論の条文にヒントを得て、梔子甘草豉湯を与えたが、三週間で全快した。(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(五) 食道炎
 私自身が焼きたての熱い餅を急いで食べたので、食道を痛めて困った。食道に火傷を起こしたのであろう。胸中のふさがるもの、心中の結痛するものということから、梔子豉湯を思いつき、香豉がないので、山梔子と甘草二味を煎じて一服のむと著効があり、そのすばらしさに驚いた。 (大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(六) 急性肺炎
 四九歳の婦人。四〇度を越える高熱が数日続き、脳症を発して讝語狂乱の状を呈した。患者の訴えるところによれば、胸が苦しい、胸部正中線から、右乳下部にかけて苦しい。見ていると咳嗽がある。喀痰はさび色である。舌には厚い褐色の苔があり、それほど乾燥していない。脈は沈で遅のようである。腹は右季肋心下に抵抗を触れ、圧すと苦悶し、咳嗽を誘発する。右胸全面濁音で、大小水泡音を聴取する。大葉性肺炎である。
 柴胡桂枝湯に、桃核承気湯を小服兼用したが、好転しない。翌日往診してみると口渇がある。一刻も水を離せない。苦しい息づかいで、呼気性呼吸困難ともいうべきものである。すなわち呼気するごとにクックッと異様な音声をたて、煩躁悶乱の状である。顔面は紅潮し、胸全体がいうにいわれず苦しいという。体温は三九度であった。
 「発汗吐下の後、虚煩眠を得ず、反履顛倒、心中懊悩」「急迫の状」であるので、大塚敬節氏の助言によって、梔子甘草豉湯を与えたところ、服後時余にして粘痰が音もなく流れ出し、解熱、食欲出で、咳嗽も著しく好転し、数日にして全治した。  (著者治験、漢方百話)

2012年10月9日火曜日

柴胡枳桔湯(さいこききつとう)  の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
柴胡枳桔湯(さいこききつとう)
〔成分・分量〕 柴胡4-5、半夏4-5、生姜1(ヒネショウガを使用する場合3)、黄芩3、栝楼仁3、桔梗3、甘草1-2、枳実1.5-2

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以上のものの次の諸症:
せき、たん
 


臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
41柴胡枳桔湯(さいこききつとう)〔傷寒薀要〕
 柴胡・半夏各五・〇 黄芩・瓜呂実・桔梗各三・〇 枳実一・五 甘草・乾生姜各一・〇

 「小結胸、脈弦数、口苦、心下硬痛、或は胸中硬満、或は脇下硬満、或は発熱、或は日晡潮熱、或は往来寒熱、耳聾、目眩するものを治す。(柴陥湯、柴胡半夏湯、瓜呂枳実湯と鑑別を要す)
 この方は肋膜炎・肺炎・肋間神経痛・腹石症・胆嚢炎・膵臓炎などに応用される。


勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
柴胡枳桔湯  此の方は結胸の類症にして、胸脇痛み、咳嗽短気、寒熱ある者を治す。此の類に三方あり。胸中より心下に至るまで結痛する者を柴陥湯とす。胸中満して痛み、或は肺癰を醸さんとする者を此の方とす。また両脇まで刺痛して咳嗽甚だしき者を柴梗半夏湯とす。世医は瓜蔞枳実湯を概用すれども、此の三方を弁別するに如くはなし。


勿誤薬室方函口訣解説(36)』 岡野正憲 
柴胡枳桔湯
 次は柴胡枳桔湯です。出典は『傷寒蘊要』で、「小結胸、脈弦数、口苦く、心下硬痛、あるいは胸中満して硬、あるいは脇下満して硬、あるいは発熱し、日晡所潮熱、あるいは往来寒熱、耳聾し、目眩するを治す」とあります。
 これを解釈しますと、結胸といわれる、胸郭内あるいは横隔膜下の病変のために、心下部がふくらんで、石のように硬く痛むものがある。これの症状の軽いものが小結胸、重いものが大結胸といわれますが、現代医学的に肋膜、肺、横隔博下、肝臓等に炎症などがある症状と考えられます。その小結胸の状態で、脈が弓づるを張ったような弦という状態で、数が多い脈であって、口の中は苦く、みずおちが硬くなって痛むもの、あるいは胸の中が充満したようになって硬くなっているもの、あるいは脇の下が充満してように硬いもの、あるいは発熱のあるもの、あるいは熱の上下があるもの、あるいは悪寒と発熱が交互に来たりして耳が聞こえなくなり、目がくらんで目えないものなどを治す処方であるというわけです。
 浅田宗伯は、「この処方は、小柴胡湯の中、人参、大棗を除いて、括蔞仁、枳実、桔梗を加えた形である」といっております。
 『口訣』は、「この処方は、結胸といわれる胸郭内あるいは横隔膜下の炎症の類似の症状で、胸や季肋部の痛みがあって、咳があり、呼吸促迫し、悪寒、発熱あるを治するものであります。これの類に三つの処方があって、胸の中から心下部に至るまで、しこったように痛むのは柴陥湯の症状であって、胸の中が充満して痛んだり、呼吸器系の化膿などが起ころうとするのは、柴胡枳桔湯の症状であります。また両脇まで激しく痛んで、咳が激しいものは、柴梗半夏湯の症状であります。世の中の医師は、このような類の症例に慢然と瓜蔞枳実湯を用いるようでありますが、このように三つの処方を区別して使い分けるのに越したことはありません」といっております。
 柴胡枳桔湯の応用として、肋膜炎、肺炎、肋間神経痛、胆石症、胆のう炎、膵臓炎などに用いられます。症例として『漢方と漢薬』に、三上平太氏の一例が載っております。
「患者は四四歳の男子、身体は肥満して頑健な体格、平常大酒家である。六月の初めころより次第に体が痩せてくる傾向に気づいた。また時々頭痛と軽い寒悪があったが、平常頑健な人なので、風邪くらいに考えていた。そのうち咳をすると、右の乳のあたりに痛みがあり、体温も三八・六度ほどあった。肋膜炎ではないかと思い、七月初めころ医師を訪ねた。しかし、医師は脚気であろうと注射をしたが熱は下がらず、時に三九・五~三九・六度に及ぶことがあるので、レントゲンを撮ったが、古い肺浸潤のあとを見ただけで大した所見はなかったという。七月十四日、依頼されて小生往診す。みると熱は三九・五度ほどあり、咳嗽頻発している。脈は浮緊で軽い頭痛がある。咳をすると、胸下にひびいて痛みがあるので、湿布をしていた。しかし胸部に何ら症状はないので、小生も何であろうと思案するうち、ふと患者が吐いた痰が非常に臭いのに気づいた。聞くと痰は以前から臭かったという。そこで直ちにその痰をコップに入れてみると、膿らしく見えたので、恐らくは肺膿瘍の初期であろうと思った。
薬は、まず『金匱要略』の葦茎湯に、『聖剤総録』の四順湯を合方し、

2012年10月8日月曜日

柴梗半夏湯(さいきょうはんげとう)  の 効能・効果 と 副作用


【一般用漢方製剤承認基準】
柴梗半夏湯(さいきょうはんげとう)〔成分・分量〕 柴胡4、半夏4、桔梗2-3、杏仁2-3、栝楼仁2-3、黄芩2.5、大棗2.5、枳実1.5-2、青皮1.5-2、甘草1-1.5、生姜1.5(ヒネショウガを使用する場合2.5)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以上で、かぜがこじれたものの次の症状:
腹にひびく強度のせき



 『改訂3版 実用漢方処方集』 藤平 健、山田光胤/監 日本漢方協会/編 じほう社刊
柴梗半夏湯(医学入門)

効能効果
 こじれた風邪で脇腹にひびく咳。柴陥湯は胸に響く咳で胸痛を伴うのが特徴だが、本方は脇腹あるいは腹に響く咳で鑑別する。(中田敬吾先生談)    

成分 柴胡4 半夏4 桔梗3 杏仁3 瓜呂仁3 黄芩2.5 大棗2.5 枳実2 青皮2  甘草1.5 生姜1.5

勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯著
柴胡枳桔湯
 此の方は結胸の類症にして、胸脇痛み、咳嗽短気、寒熱ある者を治す。此の類に三方あり。胸中より心下に至るまで結痛する者を柴陥湯とす。胸中満して痛み、或は肺癰を醸さんとする者を此の方とす。また両脇まで刺痛して咳嗽甚だしき者を柴梗半夏湯とす。世医は瓜蔞枳実湯を概用すれども、此の三方を弁別するに如くはなし。

柴梗半夏湯
 此の方は『蘊要』の柴胡枳桔湯に青皮、杏仁を加ふる者なり。枳桔湯の症にして、咳嗽甚だしき者に用ゆ。 


勿誤薬室方函口訣解説(35)』 寺師睦宗
柴梗半夏湯
 次は柴梗半夏湯で、『医学入門』に記載してある処方です。『方函』は「発熱して咳嗽し、胸満し、両脇が針を刺すように痛むものを治す。これは邪熱が、痰を胸の中に挟んで攻めるからである」とあります。内容は、柴胡、桔梗、半夏、黄ごん、枳実、青皮、瓜呂仁、杏仁、甘草、大棗、生姜の十一味です。
 『口訣』は「この方は『蘊要』の柴胡枳桔湯に青皮、杏仁を加えたものである。枳桔湯の症で咳嗽の甚だしいものに用う」とあります。柴胡枳桔湯は、小柴胡湯方中より人参、大棗を去り、瓜呂仁、枳実、桔梗を加えたもので、したがって、柴胡、黄ごん、甘草、生姜、半夏、瓜呂仁、枳実、桔梗ということになります。
 この柴胡枳桔湯の『方函』には、「小結胸、脈は弦数、口は苦く、心下硬痛し、あるいは胸中満硬、あるいは脇下満硬、あるいは発熱、あるいは夕方に潮熱、あるいは往来寒熱し、耳聾し、めまいするものを治す」とあります。
 また『口訣』は「この方は結胸の類症で、胸脇が痛み、咳嗽、短気、寒熱あるものを治す。この類に三方あり。胸中より心下に至るまで結痛するものは柴陥湯とする。胸中満して痛み、あるいは肺癰の出るものは柴胡枳桔湯とする。両脇まで刺痛して咳嗽の甚しいものは柴梗半夏湯がよい」といっております。
 このように結胸の類には柴陥湯、柴胡枳実桔梗湯、柴梗半夏湯があります。この処方を使ったことがありませんから、何とも申し上げられません。



東醫寶鑑』 (東医宝鑑) 
柴胡2銭、瓜蔞仁・半夏・黄芩・桔梗各1銭、青皮・杏仁各8分、甘草4分、姜3片 水煎服。

『漢方処方集』 竜野一雄著 中国漢方刊
柴胡・半夏各4.0g、桔梗・杏仁・瓜蔞仁各3.0g、黄芩・大棗各2.5g、枳実・青皮各2.0g、甘草1.5g、干姜1.5g《医学入門》



気管支喘息・気管支炎・肺気腫に応用

柴葛解肌湯(さいかつげきとう)  の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
43 柴葛解肌湯(さいかつげきとう) 〔傷寒六書〕
 柴胡四・〇 葛根・黄芩・芍薬各三・〇  羗活・白芷・桔梗・甘草・大棗 各二・〇 石膏五・〇 乾生姜一・〇

浅田家の柴葛解肌湯
 柴胡四・〇 黄芩・桂枝・半夏・葛根・芍薬 各三・〇 麻黄二・〇 石膏五・〇 乾生姜・甘草各一・〇

一般に浅田家方が用いられている。

応用
 外感で特殊の病態を呈し、麻黄湯・葛根湯の二つの証が解消せず、しかも少陽の部位に邪が進み、嘔や渇が甚だしく、四肢煩疼するものによい。
 流行性感冒・肺炎の一証・諸熱性病の一証として現われる。また肝気亢ぶり発狂するに用いることがある。

目標
 桂枝湯や麻黄湯で発表しても快癒せず、汗が出ないでかえって熱勢が加わり、柴胡の証も現われるが表証が去らず、口渇もある。陽明の証のように思われるし、また白虎湯のようにも見えるところがある。ただ熱がさかんで頭痛・身体疼痛・鼻衂などがあり、上部に熱が鬱塞して甚だしいときは、讝語狂躁の状を呈するに至ることもある。
 頭痛・口渇・不眠・鼻乾き、または衂血・悪寒して汗なく・四肢疼み・脈洪数のものが目標である。

方解
 葛根湯と小柴胡湯とを合わせて石膏を加えるもので、太陽と少陽と陽明と三陽の合病を治すものである。
 柴胡・黄芩・半夏・芍薬・甘草は心下・肝部・胸脇を緩め、少陽の趣を解し、葛根・桂枝・麻黄・芍薬等は太陽の熱を解し、石膏は陽明の熱をさます意味である。

主治
 浅田方函に「太陽少陽合病、頭痛、鼻乾、口渇、不眠、四肢煩疼、脈洪数ノ者ヲ治ス」とあり、
 蕉窓方意解(六書の柴葛解肌湯)には、「此方桂麻ノ類を用イテ発表スレドモ汗快ク出デズ、反テ熱気ジツクリト手ヅヨクアツキ様ナル勢ニナリ、柴胡ノ症モアレドモ亦表症アリテ、柴胡ニテ発汗スベキ様ニモナク、又白虎ヲ用テ用ユベキ様子ニテモナシ。唯熱気熾盛ニシテ、或ハ頭痛甚シキモノアリ、或ハ身体疼痛スルモアリ、或ハ鼻衂スルモアリ、兎角上部閉塞スル形ニテ解熱シ難ク、タマサカニハ譫語或ハ発狂同様ニ躁シキモノモアリ。(中略)外邪ナクシテ肝気亢リ、発狂スル人ニ黄連、白虎ナド夥シク用イテ寸効ナキモノ、此方ニテ即験ヲ得タルコト数度アリ。即チ独立禅師此処ニ工夫アリト見エテ、発狂ニ此方ヲ用イテ灸治を兼タルコト見エタリ」とある。

鑑別
○麻黄湯 136(発熱・太陽病で表熱実証、脈浮緊、舌苔や口渇はない)
○小柴胡湯 69(発熱・少陽病実熱、胸脇苦満、脈弦、口苦)
白虎湯 121(発熱・陽病実熱、汗出で、煩渇)

治例
(一) 流行性感冒
 六〇歳の男子。昭和三三年の流行性感冒は高熱持続するもの多く、本例も三九度五分以上の発熱が五日間続き、稽留熱に近く、頭痛甚だしく、眼球痛み、鼻衂・口渇・腹痛・四肢痛を訴え、昔なくして重病感があり、しかも神経興奮状にて訴えが強い。脈洪大数、舌白苔厚く乾燥し、腹部心下部痞し、肝部硬く胸脇苦満の状がある。すでに麻黄湯・葛根湯・小柴胡湯等を投じて解熱しなかった。そこで本方を与えたところ二日にして平熱となり、諸症漸減し治癒した。(著者治験)


明解漢方処方 西岡一夫著 ナニワ社刊
24柴葛解肌湯(浅田宗伯)
 柴胡四・〇 黄芩 桂枝 半夏 葛根 芍薬各三・〇 麻黄二・〇 石膏五・〇 生姜 甘草各一・〇(二七・〇)

 本方は葛根湯と小柴胡加石膏を合方した処方で、表位の病邪を麻黄湯などで発汗したが、なお表証が残っていて、しかも病邪が裏位にも侵入して小柴胡の証と石膏の証(口渇、煩熱)を帯びてきたものに用いる、いかにも浅田流らしい投網式の処方である。もしこの証で虚証なら柴胡桂枝湯であろう。
 主に使われるのは流行性感冒で、熱はさ程高くないが頭痛し全身倦怠を感じ、胸苦しく食慾不振の者に用いる。
 なお、神秘湯の項でも述べたが、柴胡と麻黄の組合せは古方では見られず、後世方でも本方と神秘湯のみであり、配合に疑問が感じられる。流行性感冒。

【副作用】
麻黄:
心臓疾患のある方、高血圧の方、あるいは高齢者には注意が必要です
消化器に関連して、吐き気、食欲不振、胃部不快感などが起こるおそれがあります。



柴胡・黄芩:
間質性肺炎に注意が必要です。

甘草:
低カリウム血症、僞アルデステロン症 に注意が必要です。
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなるなどの症状が出ることがあります。


皮膚に、発疹、発赤、かゆみなどが起こることがあります。


2012年10月6日土曜日

外台四物湯加味(げだいしもつとうかみ)  の 効能・効果 と 副作用

外台四物湯加味(げだいしもつとうかみ)


改訂3版 実用漢方処方集 藤平 健、山田光胤/監 日本漢方協会/編 じほう社刊
外台四物湯加味  四物湯(外台)加味 細野方

効能効果   暴咳 喘息 百日咳 嗄声

成分  桔梗3 甘草2 紫苑1.5 麦門冬9 人参1.5 貝母2.5 杏仁4.5    

解説 勿誤方函口訣に外台四物湯が記載されている。それに人参・貝母・杏仁を加味した外台四物は勿誤方函口訣には「卒に暴咳、吐乳、嘔逆を得、昼夜息を得ざるを療す。
小児暴に咳嗽を発し、声唖、息を得ざるものを主とす。故に頓嗽(百日咳)の劇症、或いは哮喘(喘息)の急症に用いて効あり。大人一時に咳  嗽、声唖するものによろし。肺痿の声唖には効なし」と書かれている。

出典 方証吟味 嗄声 (外台秘要の四物湯に人参・貝母・杏仁を加えた)    

注意 四物湯(和剤局方)の下段注に「外台四物湯とは別処方」



漢方治療の方証吟味 細野史郎編著 創元社刊
 嗄声
   ――四物湯加三味(『外台秘要』)――

患者〕 七十五歳の男子。農業。
 主訴は嗄声(させい)である。約一年前から声がかすれて出にくい。原因について本人の心当たりはない。その症状は、朝のうちは割合に楽であるが、午後から夜になるとかすれて話をしにくい。咳は出ないが、痰が少し出る。咽喉に痛みはない。体格は中背の痩せ型で、顔色は普通である。
 既往症としては特記するほどのものはない。酒、茶、タバコを好む。食欲は普通で、便通は一日一回である。気儘の強い性格の人で、村の役職に就き、年齢の割に活動的な人である。倦怠感はない。よく眠れる。

選方と経過

 以上の訴えを土台に、半夏厚朴湯(三・五g)加甘草(三・〇)を三〇日分渡した。
その後、廃薬した。ある医者に老齢のため治らないだろうと言われたので、あきらめめたのだそうである。

方証吟味

 嗄声の人は、薬局へよく来るでしよう。嗄声にもいろいろあります。第一に風邪をひいて起こった嗄声、声を使い過ぎて起こったもの、声を出したいのに嗄声が出たり、声がポツンと切れたりして、困って治療を求めてくる人の嗄声、午前中は割合なんともないけれど、午後になると嗄声が出てきて、夕方になるとだんだんきつくなるもの、原因がわからずプッツリ声が出なくなる嗄声、あるいは全く声が出ないもの、電話でも聴き取れない嗄声など、たくさんあります。それから、四季のうちでも、だんだん暖かくなって夏近くなると声がかすれて出にくいという人もあります。これは腎虚ですね。
 こういう症状は、薬局に治療を求めてくる場合もかなり多いと思いますので、治療法をものにしておくとよいと思います。
 この症例の場合は、半夏厚朴湯加甘草を自信をもってやったらしいですが、廃薬したそうですね。もしも幾らかずつでも効いていたら、恐らく医者の言うことは聞かず、続服していたでしょう。これは、半夏厚朴湯に甘草を加えたので効かなかったということです。
 それでは、この人の特徴をここで考え合わせてみましょう。午前中はよいが、午後になると声が出にくいという症状は、午前中寝ているというわけではないから、起きて仕事をしていると、だんだん疲れてきて声が出なくなるということです。年は七十五歳、腎虚もあらわれてきてもよい年です。精力が落ちて活動力が減っていく時ですね。この人は気の強い人ですから、年齢の割によく動くのですね。「肉体の健康度と気持と健康度とがつり合っていない人」には、半夏厚朴湯のような気剤では効かないと思います。もうちょっといい方法がないだろうか。そのようなことを第一ヒントにしておいて、皆さんに聞いてみたいと思います。ちょっと嗄声にもっていけそうな処方を挙げてみて下さい。

全員 八味地黄丸麦門冬湯半夏厚朴湯柴胡桂枝湯半夏厚朴湯麦門冬湯に兼用八味地黄丸小柴胡湯麦門冬湯響声破笛丸苓桂朮甘湯合黄解散。外台四物湯加人参貝母杏仁。百合固金湯。

S 十数年前のことですが、京都南座の顔見世興行のとき、市川寿海さん(俳優)が風邪をひいて全く声が出なくなって、この分では「玄冶店」(げんやだな)の主役の与三郎がつとまりません、と言って来られました。そこで、三日以内になんとかしなければと治療にかかりましたところ、二日目には声がなんとか出はじめ、三日目には全くもとのいい声になりました。その処方は『外台秘要』の四物湯という桔梗湯に紫苑・麦門冬を加えた薬方に、さらに人参・貝母・杏仁の三味を加えたもので、これを「外台の四物湯加三味」と言っていますが、大変よく効く処方ですよ。風邪で声が嗄れたり、掠れたり、声が出なくなったりしたような急場には、これでなくては駄目ですね。これを一日三服とか四服とか飲ませていくのですが、二~三服飲んでいる間に声が出はじめてきます。これは非常によく効く薬で、漢方の独壇場とも言える処置ですから、よく頭に入れておいて下さい。
 麦門冬湯は、飲むと咽がなめらかになり、確かに咽は楽になりますね。痰がからんで声がかすれてくるような人、特に清元や長唄などを謡う人にやると、痰がからまず、声が嗄れないで、よく謡えると喜ばれますよ。特に麦門冬湯半夏厚朴湯を合方した方が一層よろしい。私の経験では、麦門冬湯半夏厚朴湯の合方を用いるのが声を嗄らさないようにする一番よい工夫だと思います。声を長く使う人、講演などでエキサイトしたり、長時間に及ぶときなどは、声が嗄れてしまっては困りますからね。そんな人にもっていくと、声がいつまでも嗄れないで楽に話ができます。私の患者さんで歌舞伎座の義太夫の語り手の人がありました。その人は、この薬を用いるようになってからは声が大変よくなり、一時間以上も続けられるようになってファンをますます唸らせたものです。それまでは飴をいろいろ試みていたそうですが、以来、声が嗄れるようなときには熱湯でこの薬を溶かしておき、一回分をお茶を飲むように、舞台にかかる一〇か二〇分前ぐらいに少しずつ飲んでいました。元来美声の持主でしたが、美声が一層長持ちして、大変珍重がられました。

B この場合「咽痰切れがたく、声出でざる者」と解釈していいですか。

S 大体そのように考えてよいでしょうね。しかし「痰切れ難く云々」というと、痰切れ難くの語に気持が傾くもので、瓜呂枳実湯ではないかなどとも考えたくなりますね。しかし決して瓜呂枳実湯の感じでなく、なにかしら喉にひっかかるような感じというところでしょうね。
 一般に男性にはよくあることですが、私も四十歳ぐらいの時に声が出にくくなり、患者さん二〇人ぐらいと話をすると、喉が痛くなり困りました。友人の耳鼻科医に診てもらいましたら、「声帯が厚くなっている。ほうっておくと癌になってもいけないから手術をしよう」と言うのですが、私は煙草をやめ、麦門冬湯を飲みはじめました。粒状エキスを寝る前に少しずつつまんで口の中にほうり込んで舐めるのです。すると唾に溶けて喉に流れ、痛みもなくなり、喉の違和感もなくなります。私は患者さんにも「つまんで口に入れなさい、喉が楽ですよ」と言って渡します。から咳にもよく効きます。
 芸者さんや歌水など、歌う人はあのお薬をと希望してきます。私も喉の調子の悪い時は、うがい薬のように麦門冬湯半夏厚朴湯を用います。
 嗄声というほどでもないけれど、喉の具合が悪いというときには、単方の麦門冬湯をもっていきます。
 このように喉に薄い痰がひっかかるとか、あるいは鼻が悪くて喉に鼻汁が流れ込み、声が出にくくな識人は、日本人の三〇~四〇%ぐらいもあるでしょうね。そういうときにも良い方法だと思います。
 いわゆる腎虚の例としては、糖尿病で声が出なくなるような人もあるのですが、これには八味地黄丸も効きます。
 また、八味地黄丸に麦門冬と五味子を加えたものを与えると、もっと効果的のようです。私たちは加味腎気丸とか五味子麦門冬加味とか言っておりますがね。それをやっていると、いつのまにか疲れも少なくなって、声もよく出てくるようになり、非常に喜ばれるものです。まあ三〇日間も飲む間には、よほどましになります。文楽に、今は亡くなられましたが、綱太夫という義太夫の名人がありました。その人が晩年、声が止まってしまって浄瑠璃が語れなくなりました。そのとき私が治してあげて大変喜ばれたこともありましたが、その時も、この五味子麦門冬加味の腎気丸だったのです。
 また、声帯の迷走神経麻痺で声の出ない人を東京で経験したことがありました。いろいろやってみましたが、なかなか良くならないのですね。しかし、それにも初めから牛車腎気丸に五味子麦門冬の二味を加えて、ズーッと続けまして、一年ほどした時には、いくらか声が出てくるようになり、初めのうちは電話の声も聞き取れなかったのが、いくらか聞けるようになりました。
 今は昔の話になりましたが、私は故池田元首相のファンでした。池田さんの声は気にな改aていましたが、晩年声が出なくなったと聞き、(常々東京の診療所に連絡がありましたので)ひょっと薬を求められることがあればと思って薬の用意もしておりました。ついに求められないままに終りましたが、一度試みていただきたい薬方でした。効く効かないは別として私の心情でした。
 それはあまり使用しない薬方で、喉頭結核などに用いる百合固金湯だったのです。

B 咽にポリープができた場合はどうでしょうか。

S そんな場合にもよいのです。昔、喉頭結核の潰瘍にもっていって、よくなった例があります。
 以上のように、八味丸麦門冬湯半夏厚朴湯、あるいは麦門冬湯八味地黄丸ぐらいですね。小柴胡湯麦門冬湯苓桂朮甘湯黄連解毒湯もたま効くときもあるでしょう。
 私の経験で、脳性麻痺の子どもで、小柴胡湯をもっていって、声がかすれていたのが治りましたが、これは体を整えることによって良くなったのでしょうね。
 それからさきほど柴胡桂枝湯半夏厚朴湯と言った人がありましたね。なぜですか。

C 午後になると体がだるくなるからです。

S それで柴胡桂枝湯をやるのですか。柴胡桂枝湯の証の中にそのような症状があるのですか。人参は何を使います。あなたの思い違いじゃないですか。この半夏厚朴湯はいくらか効くでしょう。しかし、この人には、ちょっとどうかと思いますよ。もっと考えてみると、あるいは抑肝散をもっていくべきではないかとも思われます。この人は癇癖の強い人だということですからね。この癇を静めてやれば、もっともっと身も心も楽になれるかもしれませんね。その意味で抑肝散をもっていく。それに人参を加えた方が、易疲労性を少なくすることができるかもしれないと思いますよ。そのような意味で柴胡桂枝湯半夏厚朴湯と考えられたのだとしたら、理屈に合わなくもありませんね。
 漢方の薬は、どの薬味にもいろいろの作用がありますし、薬理の解明されていない今日、一言では説明できないのですが、患者さんに頼まれたら「ありません」と断わらずに、何かの薬を考えてあげてほしいと思います。
 響声破笛丸については、私は使用した経験がありませんので、嗄声の漢方での対策は、これくらいのことを御参考にしていただければよろしかろうと思います。

B 貝母の量はどのくらい使ったらよいですか。

S 私の所では一・〇gぐらいを一回量として一日二回与えます。これは質がずいぶん硬くて重いものです。一日三gぐらいでしょうね。あまり多量に与えて喀血した人もありますから、病状に注意しつつ加減して下さい。人参はその証に応じて加減すべきですが、できるだけ多い方がよいと思います。私の所では、師伝によって一回量生薬〇・六gを使っていましたが、人参の研究をしてから、できる限り多く用いていますが、その方が効果的であるように思います。粒状エキス剤にして一日一・五~三gぐらい使うこともあり、非常によく効くようです。また糖尿病では、八味丸に人参を一日一・五g(粒状エキス)を加えて用いて、どうしてもとれなかった口渇や疲れが治り、尿糖が減ることもありますからね。風邪は疲れたときにひきやすいものですが、しかし熱があるときに、たとえ嗄声がひどいからといって、直ちに『外台』四物湯加人参貝母杏仁をやったらいけませんよ。熱のあるときは、人参の多いものをやりますと、かえって具合が悪くなるときがありますから、そのときは小柴胡湯加桔梗石膏などでないとでめでしょうね。もちろん、このときの人参は竹節人参ですよ。

2012年10月5日金曜日

甘草附子湯(かんぞうぶしとう)  の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
 甘草附子湯
本方は風と湿との衝撃によって起る疼痛を治する方剤である。風は外邪を指し、湿はその人の持前の水毒を指している。従って平素に水毒のある体質の人が、外 邪に侵されて発するリウマチ及びこれに類似の症状を呈する疾患に用いられる。急性リウマチなどで疼痛が激しく、関節も腫れ、悪風・尿利減少等の症状のある ものは此方の證である。
本方は甘草・朮・附子・桂枝の四味からなり、甘草は急迫を緩和して疼痛を治し、朮は水毒を去って尿利を増すばかりでなく、鎮痛の効があり、桂枝と共に健胃 の作用もある。附子は新陳代謝を亢額、血行をよくし、疼痛を治する作用がある。桂枝は外邪を去り、血行をめぐらし、諸薬を誘導して所期の効力を達するため に協力する。本方はリウマチ・神経痛・感冒に用いられる。


漢方精撰百八方』 
65.〔方名〕甘草附子湯(かんぞうぶしとう)

〔出典〕金匱要略

〔処方〕甘草2.0 白朮4.0 桂枝3.5 附子0.5~1.0

〔目標〕自覚的 劇しい関節痛、発汗傾向、頭痛、悪寒、尿不利、ときに軽度の浮腫。 他覚的  脈 浮弱又は浮にして軟  舌 乾湿中等度の微白苔  腹 腹力は中等度又はそれ以下で、ときに上腹部に振水音を認める。心窩部に軽度の抵抗並びに圧痛を認めることがある。

〔かんどころ〕節々痛んで、寒さがひどく、頭痛し、洟出で、小便少ない。

〔応用〕
1.関節リウマチ又は神経痛
2.陽虚証の感冒の初期で背悪寒の強い場合。
3.感冒がこじれて、背悪寒だけがとれないもの。

〔治験〕原典には「風湿相博ち」とあるが、風は外からの邪であり、湿はもともとその身に備わる湿邪即ち水毒である。即ち本方証は、水毒性体質、言いかえればアトニー性体質で、平素胃部に振水音が認められるような者に、偶々外邪が襲った場合に、本方症をおこすのである。  したがって、本方は、アトニー体質の者の、激烈な関節リウマチ或いは神経痛の疼痛に偉効をおさめることが屡々であるが、本方がまた感冒の初期にも、或いはまたそのこじれた場合にも、ときに著効をおさめることがあることも忘れてはならない。  三八才の婦人。約一ヶ月前にひいたかぜがこじれて、咳とか、頭痛とかはとれたが、背中の寒さだけがどうしてもとれない。診ると脈はやや浮にして軟。腹力またやや軟。そこで本方を投じ、五日間服用して治癒した。  次は筆者自身の治験。晩秋のある日。診療中所用で一寸外出して帰ったところ、突然に猛烈なクシャミと水洟が出はじめ、はじめに小青竜湯、ついで麻黄附子細辛湯を服して変化なく、翌日頭痛の増強と、劇しい水洟並びに鼻粘膜の刺激症状と、堪え難いほどの背中のつめたさとを目標に、本方を服用したところ、十数分の後にはその大半の症状が消退し、翌日は全くの正常状態に服することが出来た。その後陽虚証(?)のこのような風邪の患者数例に本方を応用して、いずれも所期の効果をあげることが出来た。 藤平 健


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
8 裏証(りしょう)Ⅱ
虚弱体質者で、裏に寒があり、新陳代謝機能の衰退して起こる各種の疾患に用いられるもので、附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、人参によって、陰証体質者を温補し、活力を与えるものである。 
8 甘草附子湯(かんぞうぶしとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔甘草(かんぞう)二、白朮(びゃくじゅつ)四、桂枝(けいし)三、附子(ぶし)○・五〕
本方は、瘀水が外邪の進入により侵されて起こる激しい痛みに用いられる。したがって、関節や筋肉の腫れと痛みが強く、悪風、自汗、尿利減少などを目標とする。本方證の痛みは強く、四肢を動かすことも、他人がさわることもできないほどのものである。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、甘草附子湯證を呈するものが多い。
一 関節リウマチ、関節炎その他の運動器系疾患。
一 そのほか、瘭疽、脱疽、骨膜炎、腰痛、神経痛、インフルエンザなど。

臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
26 甘草附子湯(かんぞうぶしとう) 〔傷寒・金匱〕
 甘草二・〇 白朮・桂枝各四・〇  附子〇・五~一・〇

〔応用〕風(外から入った感冒、あるいは細菌ウイルスを意味する)と湿(すでに内にあった水毒)と相搏って起こる激しい関節痛に用いる。
 本方は主として急性関節リウマチの疼痛の激しいときに用いられ、また急性、慢性関節炎・淋毒性関節炎・結核性関節炎・神経痛・骨髄炎・腰痛・筋痛・瘭疽・脱疽・流感などにも応用される。

〔目標〕風と湿との衝撃によって起こる激痛を治すもので、風は外邪をさし、湿はその人の体質的にもっている水毒をさしている。すなわち平素水毒のある人が、外邪に侵されて発するリウマチおよび類似の疾患に用いられる。
 急性リウマチなどで疼痛がすごく猛烈で、骨節ともに痛み、関節が腫れ、悪風・自汗・尿利減少等の症状のあるものを目標とする。脈は大体浮で虚し、数、あるいは大きくて弱い。腹症に特有なものはない。

〔方解〕桂枝と附子が主薬であり、本来桂枝の量が最も多いものである。桂枝は風すなわち外邪を去り、表の気を順らし、附子は新陳代謝を亢め、血行をよくし、表の虚と寒とを温めて疼痛を治し、水を去る。白朮はさらに附子と協力して水毒を利尿によって逐う。甘草は急迫を緩め疼痛を緩和し、桂枝と協力して気の上衝短気を治す。
 本方は少陰病に属する薬方である。方後にある注意文の意味は、初めて薬をのんで、汗が出れば症状は緩解する。汗が止まってまた苦しく、副作用のようなものがあるときは、半分の量を服用する。規定の量で多いと思ったら、初めは六〇~七〇%に減じてのみ、副作用がなければ、規定の量にするがよい。この副作用というのは、附子(アコニチンを含む)の中毒のことを注意しているものである。

〔主治〕
 傷寒論(太陽病下篇・金匱湿病門)に、「風湿相搏チ(風邪と湿気水毒とが相戦い)、骨節疼痛、掣痛(せいつう;ひっぱり痛む)屈伸スルコトヲ得ズ、之ニ近ケバ、則チ痛ミ劇シク、汗出デ短気(呼吸促迫)、小便不利シ、悪風衣ヲ去ルコトヲ欲セズ、或ハ身微腫スル者」とある。
 古方薬嚢には、「手足の骨節痛み劇しく、少し動かすとビーンと響き、そのため動かすこと出来ず、汗が出で息切れし、小便の出悪く、衣を重ねて暖を取ればよろしきも、風にあたればゾクゾクとして気持悪しく、或は疼む場所腫れ上がる者。本方の証あるものには便秘するもの多し。便秘とまではゆかなくとも、二日に一回位の者多し。本方は神経痛、リウマチ等に極めて効あるものなり、試みらるべし。本方の疼痛は骨に在るのが主なり」とある。

〔鑑別〕
○桂枝附子湯(疼痛・身体疼煩、自動不能) 
桂芍知母湯 常32 (疼痛・関節腫痛、肉痩せ、気上衝強く、脈実) 
芍薬甘草附子湯 61 (疼痛・四肢屈伸しがたし、熱上衝なし) 
○桂枝加附子湯 34 (疼痛、軟部組織の痛み)

〔治例〕
(一) 戦傷骨疼痛
 一男子。戦地で戦車の下敷きになり、九死に一生を得たが、そのため骨に病を得、ときに大いに痛みを発し、とくに背より腰にかけて甚だしく痛み、諸治効のない者に、本方を与え、たちまち痛み去りしものがあった。(荒木性次氏、古方薬嚢)

(二) 多発性関節リウマチ
 四〇歳の婦人。約二〇日前に発病。全身の関節に痛みを発し、とくに右膝関節・右肘関節・腕関節の腫脹疼痛が甚だしく、微動することもできず、畳を歩む音にも耐えられぬ痛みを訴えている。
 右膝は大人の頭の大きさに腫脹し、手を近づけることもできないほどの痛みである。右肘と腕関節の腫脹疼痛のため脈診もできないほどであった。上半身に流れるような発汗があり、下半身は乾燥し、戸をしめ、ふとんにくるまり、少しでも風にあたると悪風を訴える。体温は三九度、脈弱で顔色は青く弱々しく、高熱があるとは思えない。小便不利で一日に一回しかない。大便秘し、八日に一回ぐらいで硬い。口渇があり冷水を欲する。腹壁軟弱、舌中央黒苔、湿潤し、手足はやや冷たい。
 猪苓湯、白虎加人参湯も一応考慮したが、脈弱で体温と平行せぬこと、自汗悪風があり、熱感なく顔色青きこと、舌黒苔、湿潤、腹壁虚軟等を目標として陰証と診定し、その証が最も甘草附子湯に合致するので、附子一日量〇・九として与えた。
 服用後、一日で便通があり、左側関節は痛みを増したが、右側はやや緩解し、発汗が甚だしくなった。三日目体温三九度、発汗滝のごとく、ふとんを濡らすほどであった。発汗中は疼痛を忘れるという。六日にして小便快利し、関節痛去り、体温三八度となる。附子を二・五グラムまで増量、九日目に平熱となり、関節痛全く去り、さらに本方二〇日関服用し、のちに舒筋立安散を二ヵ月服用して、少しの後遺症もなく完全に治癒した。(矢数有道、漢方と漢薬 四巻三号)

(三) 感冒
 日医の医学講座に出席聴講して帰宅後、突然クシャミが続いて一〇いくつも出て、それに引き続いて水洟がとめどもなく流れ出した。患者を一人診るごとに、一回ずつ鼻をかむという状態であった。
 もう一つ顕著なのは背悪寒で、セーターを一枚多く着てみたが、ヒヤヒヤして、どうにも寒くてやりきれない。間もなくかぜ声となり、脈は浮で弱い。足が冷える。
 以前、やはりこのように突然猛烈な水洟が出はじめたときに、小青竜湯の「吐涎沫」の変形とみて、同湯を服用し、たちどころに治ったことがあるので、同湯エキス末を一・〇グラムのんでみたが効かない。背悪寒がいつもと異なっているので、小青竜湯に附子一・〇を加えて服用したが全く応じない。
 翌日も同じで、さらに涙も流れ出し、まさに水毒があふれ出るといった感じである。背中は相変わらず寒く冷たい。背中に水を流し込まれるようである。今日行f頭痛が強くなっている。
 以前一ヵ月近く背悪寒がとれなかった虚証の婦人に、甘草附子湯でみごとによくなったことがある。骨節煩疼や汗出、短気はないが、「悪風して、衣を去ることを欲せず」、「まさに衝逆の証あるべし」である。すなわち甘草附子湯を作り、附子一・○として、まず三分の一をのんだ。二〇すぎると、とめどなく流れていた水洟が出なくなり、一時間ほどでますますぐあいよく、背悪寒もうすらいできたので、残り全部をのみ、正午ごろはすべての症状がほとんどよくなった。 (藤平健氏、漢方の臨床 一一巻一二号)



【一般用漢方製剤承認基準】

甘草附子湯(かんぞうぶしとう)
〔成分・分量〕 甘草2-3、加工ブシ0.5-2、白朮2-6、桂皮3-4

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力虚弱で、痛みを伴うものの次の諸症:
関節のはれや痛み、神経痛、感冒

2012年10月1日月曜日

栝楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう) の 効能・効果 と 副作用

【一般用漢方製剤承認基準】
 
栝楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)
〔成分・分量〕 栝楼実2-5(栝楼仁も可)、薤白4-9.6、白酒140-700(日本酒も可)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 背部にひびく胸部・みぞおちの痛み、胸部の圧迫感

《備考》
注)体力に関わらず、使用できる。
【注)表記については、効能・効果欄に記載するのではなく、〈効能・効果に関連する注意〉として記載する。】


『症状でわかる漢方療法』 大塚敬節著 主婦の友社刊
栝呂薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)
処方 栝呂実2g、薤白4gを白酒400mlに入れ、150mlに煮つめ、一日分とし、三回に分服する。白酒代用として上等の清酒を用いるものと、酢を用いるものとあり、酢の場合は400mlの水の中に酢40mlを入れる。

目標 せきと痰が出て、胸と背が痛み、呼吸促迫するもの。

応用 心臓性ぜんそく。狭心症。


『漢方医学 Ⅱ 症候別解説篇』 財団法人日本漢方医学研究所刊

藤井美樹
胸痛
はじめに
 胸痛は胸腔内臓器及び胸壁の疾患に起因するものが大部分であるが,腹腔内臓疾患その他によっても胸痛を訴えるので診断には慎重を期する必要がある。
漢方の金匱要略という古典に「胸痺心痛短気病の脈証と治」という篇があり,ここで今日いう「胸痛」の治療が述べられている。ここで胸痺というのは,胸の痛みが背までぬけて胸がふさがったようで呼吸促迫(短気),呼吸困難などを伴う病気である。
 胸痺の中には,心臓や大血管などの病変によっておこる胸痛も含まれていたと考えられる。心痛というのは胸の疼痛といったものを指し,心臓部の疼痛ばかりをいうものではないようである。胸痛を起す疾患群には,狭心症,心筋梗塞,心嚢炎,梅毒性大動脈炎,胸部大動脈瘤,剥離性大動脈瘤,胸膜炎,自然気胸,胸膜腫瘍,肺梗塞,肺炎,肺癌,肋骨々折,肋間神経痛,腹腔内臓器病などがある。以下,胸痛に用い現れる漢方処方をあげる。
梔子豉湯(しししとう) 略
小陥胸湯(しょうかんきようとう) 略
括楼薤白白酒湯(かろうがいはくはくしゅとう)(金匱要略)
<処方>括楼実2.0 薤白6.0
 以上を白酒400ccに入れ150ccに煎じ1日量を3回に服す。
 本方の白酒には,諸説があり,食酢を用いるもの,濁酒(白酒)を用いるもの,上等清酒を用いるもの等がある。類聚方広議では,食酢を用いている。酢をきらうものには清酒を用いるとよい。
 括楼実はキカラスウリの種子で,括楼実は気味苦寒で胸脇の異常に働き気血を順らせ痰を去り痛みを止める作用がある。
 薤白はラッキョウの乾燥品であり,漬物用のラッキョウで代用してもよい。
気味は辛温故に括楼実とともに胸中の寒血を温め陽気をめぐらす。
 金匱要略には,「胸痺の病,喘息欬唾,胸背痛み,短気す。寸口の脈沈にして遅,関上小緊数なるは括薤白白酒湯之を主る」とある。つまり,喘息で,せきと痰が出て,胸と背が痛んで,呼吸するものに用いる。
 心臓性喘息や狭心症に応用できることが考えられる。胸痺は胸がつまったように痛む病,心臓部に異常感覚ある病の総称である。
括楼薤白半夏湯(かろうがいはくはんげとう) 略 
括楼薤白桂枝湯(かろうがいはくけいしとう) 略
人参湯(にんじんとう) 略
烏頭赤石脂丸(うずしゃくせきしがん) 略
桂枝生姜枳実湯(けいししょうきょうきじつとう)略
清湿化痰湯(せいしつけたんとう) 略
括呂枳実湯(かろきじつとう) 略
当帰湯(とうきとう)(略)
枳縮二陳湯(きしゅくにちんとう)略
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) 略
柴胡疎肝散(さいこそかんさん) 略


『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
21 瓜呂薤白半夏湯(かろうがいはくはんげとう) 〔金匱要略〕
  瓜呂実三・〇 薤白四・五 半夏六・〇

本方に加える白酒は、諸説があり、食酢を用いるもの、濁酒(白酒)を用いるもの、上等清酒を用いるもの等がある。ここでは類聚方広義の説に従い、食酢を用いる。酢をきらうものは清酒を用いればよい。

右三味に食酢または清酒四〇cc、水四〇〇ccを加えて、煮て二〇〇ccとし、三回に分服する。あるいは煎じ上がる少し前に酢または清酒を一〇ccぐらい入れてのんでもよい。

〔応用〕金匱に胸痺の病というのは、狭心症様症候を呈する病態をさしている。
 本方は最もしばしば、狭心症・心臓不全・心臓神経症・心臓調節異常・心臓性喘息・心臓弁膜症・心筋梗塞症・肋間神経痛等に用いられ、また肋膜炎・胆石症・縦膈膜腫瘍等にも応用される。

〔目標〕心臓部または胸骨部、心下部に痛みを訴え、背部に放散痛があり、喘息、咳嗽、喀痰、呼吸困難、胸内苦悶等があり、または嘔吐するものを目標とする。脈沈細、または強緊、ときに結滞する。
 腹証は心下痞硬するものが多い。

〔方解〕 瓜呂仁は胸膈の鬱熱を去って、心と肺を潤し、痰飲を去り、胸痺(胸がつまったように痛む病、心臓部に異常感覚ある病の総称)を主治するものである。薤白は中を温め結を散じ気の滞りをめぐら成、心胸の痛み・喘息・痰唾を治するという。白酒は血行を促し、他の薬の効果を助長させるものである。

〔加減〕瓜呂薤白白酒湯は、本方中より半夏を去ったもので、ほとんど同様の疾患に用いられる。瓜呂薤白桂枝湯は、本方より白酒を去り、枳実・厚朴・桂枝を加えたものである。

〔主治〕
 金匱要略(胸痺心痛短気門)に、「胸痺臥スコトヲ得ズ、心痛背ニ徹スルモノハ、瓜呂薤白半夏湯之ヲ主ル」とある。
 漢方治療の実際には、「古人が真心痛といったのは、狭心症およびこれに類する病気で、瓜呂薤白白酒湯がよく効く。この痛みは、剣状突起あたりの真中で起こり、それが背に徹するもので、その痛みの様子は、口に言いがたく、どことなく凄惨にして危篤に見えるものである。真心痛の激しいものは、朝に起こって夕をまたずして死ぬものであるが、椿庭はこのような病人を一〇人ほど診たが、どれも瓜呂薤白半湯湯を多量にのんで治したという。
 その中に一人だけは、この方で効なく、附子理中湯で著効を得、他の一人はいろいろ用いたが効なく頓死したという。
 このような患者は、触診をきらい、脈は沈伏(わかりにくいほど沈む)、顔色がひどく悪く、煩燥するだけではなく、陰々と痛み、横臥できないのが特徴である。白酒は酢でよい。まず水二五〇ccを一八〇ccに煎じ、煎じ上がる少し前に猪口に一杯ぐらいの酢を入れてからのむ。のみにくい薬だが、病気の激しいときはのみにくいとは感じない」とある。

〔鑑別〕
大柴胡湯92(心胸塞・実証、胸脇苦満) 
○大陥胸湯67(心胸痛・激症・胸満、心下石硬、肩背強急) 
梔子豉湯心煩・虚証、心中懊憹、不眠)

〔治例〕
(一)狭心症
 五〇歳の男子。結核で今まで五月になるとしばしば喀血を繰り返した既往歴があった。先年むりな生活が続いた後に大喀血を起こし、同時に心臓部から背部に徹して激しい疼痛を覚え、一睡もできないほどの苦しみであった。内科医の注射も効果なく、主治医はあと二~三日の余命であるといっていたという。このときは家兄が往診して瘀血心を衝く証として通導散をもつ言て下し、奇跡的に助かった。
 その後一ヵ年して、二回目の喀血と疼痛とを発した。前年の例にならって通導散を与えたが、今度は効かない。針の治療をうけたが神経質で、治療をうけるとすぐ喀血するというので中止した。そのときは苦労して六物黄連解毒湯などを与えて、ようやく快方に向かった。今度は三度目の喀血と心臓部および背痛である。私は瓜呂薤白白酒湯を与え、かつ酢で心臓部を湿布させた。すると今度は短時日で治った。この患者は喀血しても脈は細数とはならず、弦で洪大であった。胸部の所見も大して認められなかった。(著者治験、漢方百話)

(二) 急性気管支炎
 三四歳の婦人。悪寒発熱、咳嗽、三九度の熱で、転々反側して苦しみ、口中乾燥し、汗なく、大青竜湯で発汗し、翌日は三七度まで下降したが、今度は咳嗽しきりで、咽喉にゼイゼイ痰がからんで鳴り、咳嗽のとき、錐で刺されるような胸痛を覚えるという。
 左側乳房上部にあたって疼痛が激しいので、小陥胸湯や、小青竜湯・桔梗白散まで用いたが効かない。発病後五日目に、胸痺・喘息・咳嗽・胸背痛・短気に該当しているので、瓜呂薤白半夏湯として与えたところ、服薬後胸中爽快をを覚え、三日間の服用で体部所見も一切解消して全治した。(著者治験、漢方百話)

(三) 喘息性気管支炎? 肺炎?
 四五歳の婦人。風邪をひいてむりをし、気管支炎を起こし高熱四〇度。呼吸困難、両肺野に笛声音を聞き、心下部硬く、按すと飛び上がるほどの痛みを訴える。初め大青竜湯、次に小青竜湯加杏仁・石膏、麻杏甘石湯等を与えて効なく、五日間苦悶を続け、絶えまのない咳で、じっとしておれず、起きたり、寝たり、よりかかったりしている。また左胸に刺すような痛みを起こし、背に通るという。
「胸痺の病、喘息欬唾、胸背痛み、短気」に相当するので、瓜呂薤白半夏湯を与えたところ、一日分服用して諸症状軽快し、二日後にはほとんど平熱となり、喘咳も胸痛も去り、胸部所見も消失して全治した。 (矢数有道、漢方と漢薬、八巻三号)