健康情報: 外台四物湯加味(げだいしもつとうかみ)  の 効能・効果 と 副作用

2012年10月6日土曜日

外台四物湯加味(げだいしもつとうかみ)  の 効能・効果 と 副作用

外台四物湯加味(げだいしもつとうかみ)


改訂3版 実用漢方処方集 藤平 健、山田光胤/監 日本漢方協会/編 じほう社刊
外台四物湯加味  四物湯(外台)加味 細野方

効能効果   暴咳 喘息 百日咳 嗄声

成分  桔梗3 甘草2 紫苑1.5 麦門冬9 人参1.5 貝母2.5 杏仁4.5    

解説 勿誤方函口訣に外台四物湯が記載されている。それに人参・貝母・杏仁を加味した外台四物は勿誤方函口訣には「卒に暴咳、吐乳、嘔逆を得、昼夜息を得ざるを療す。
小児暴に咳嗽を発し、声唖、息を得ざるものを主とす。故に頓嗽(百日咳)の劇症、或いは哮喘(喘息)の急症に用いて効あり。大人一時に咳  嗽、声唖するものによろし。肺痿の声唖には効なし」と書かれている。

出典 方証吟味 嗄声 (外台秘要の四物湯に人参・貝母・杏仁を加えた)    

注意 四物湯(和剤局方)の下段注に「外台四物湯とは別処方」



漢方治療の方証吟味 細野史郎編著 創元社刊
 嗄声
   ――四物湯加三味(『外台秘要』)――

患者〕 七十五歳の男子。農業。
 主訴は嗄声(させい)である。約一年前から声がかすれて出にくい。原因について本人の心当たりはない。その症状は、朝のうちは割合に楽であるが、午後から夜になるとかすれて話をしにくい。咳は出ないが、痰が少し出る。咽喉に痛みはない。体格は中背の痩せ型で、顔色は普通である。
 既往症としては特記するほどのものはない。酒、茶、タバコを好む。食欲は普通で、便通は一日一回である。気儘の強い性格の人で、村の役職に就き、年齢の割に活動的な人である。倦怠感はない。よく眠れる。

選方と経過

 以上の訴えを土台に、半夏厚朴湯(三・五g)加甘草(三・〇)を三〇日分渡した。
その後、廃薬した。ある医者に老齢のため治らないだろうと言われたので、あきらめめたのだそうである。

方証吟味

 嗄声の人は、薬局へよく来るでしよう。嗄声にもいろいろあります。第一に風邪をひいて起こった嗄声、声を使い過ぎて起こったもの、声を出したいのに嗄声が出たり、声がポツンと切れたりして、困って治療を求めてくる人の嗄声、午前中は割合なんともないけれど、午後になると嗄声が出てきて、夕方になるとだんだんきつくなるもの、原因がわからずプッツリ声が出なくなる嗄声、あるいは全く声が出ないもの、電話でも聴き取れない嗄声など、たくさんあります。それから、四季のうちでも、だんだん暖かくなって夏近くなると声がかすれて出にくいという人もあります。これは腎虚ですね。
 こういう症状は、薬局に治療を求めてくる場合もかなり多いと思いますので、治療法をものにしておくとよいと思います。
 この症例の場合は、半夏厚朴湯加甘草を自信をもってやったらしいですが、廃薬したそうですね。もしも幾らかずつでも効いていたら、恐らく医者の言うことは聞かず、続服していたでしょう。これは、半夏厚朴湯に甘草を加えたので効かなかったということです。
 それでは、この人の特徴をここで考え合わせてみましょう。午前中はよいが、午後になると声が出にくいという症状は、午前中寝ているというわけではないから、起きて仕事をしていると、だんだん疲れてきて声が出なくなるということです。年は七十五歳、腎虚もあらわれてきてもよい年です。精力が落ちて活動力が減っていく時ですね。この人は気の強い人ですから、年齢の割によく動くのですね。「肉体の健康度と気持と健康度とがつり合っていない人」には、半夏厚朴湯のような気剤では効かないと思います。もうちょっといい方法がないだろうか。そのようなことを第一ヒントにしておいて、皆さんに聞いてみたいと思います。ちょっと嗄声にもっていけそうな処方を挙げてみて下さい。

全員 八味地黄丸麦門冬湯半夏厚朴湯柴胡桂枝湯半夏厚朴湯麦門冬湯に兼用八味地黄丸小柴胡湯麦門冬湯響声破笛丸苓桂朮甘湯合黄解散。外台四物湯加人参貝母杏仁。百合固金湯。

S 十数年前のことですが、京都南座の顔見世興行のとき、市川寿海さん(俳優)が風邪をひいて全く声が出なくなって、この分では「玄冶店」(げんやだな)の主役の与三郎がつとまりません、と言って来られました。そこで、三日以内になんとかしなければと治療にかかりましたところ、二日目には声がなんとか出はじめ、三日目には全くもとのいい声になりました。その処方は『外台秘要』の四物湯という桔梗湯に紫苑・麦門冬を加えた薬方に、さらに人参・貝母・杏仁の三味を加えたもので、これを「外台の四物湯加三味」と言っていますが、大変よく効く処方ですよ。風邪で声が嗄れたり、掠れたり、声が出なくなったりしたような急場には、これでなくては駄目ですね。これを一日三服とか四服とか飲ませていくのですが、二~三服飲んでいる間に声が出はじめてきます。これは非常によく効く薬で、漢方の独壇場とも言える処置ですから、よく頭に入れておいて下さい。
 麦門冬湯は、飲むと咽がなめらかになり、確かに咽は楽になりますね。痰がからんで声がかすれてくるような人、特に清元や長唄などを謡う人にやると、痰がからまず、声が嗄れないで、よく謡えると喜ばれますよ。特に麦門冬湯半夏厚朴湯を合方した方が一層よろしい。私の経験では、麦門冬湯半夏厚朴湯の合方を用いるのが声を嗄らさないようにする一番よい工夫だと思います。声を長く使う人、講演などでエキサイトしたり、長時間に及ぶときなどは、声が嗄れてしまっては困りますからね。そんな人にもっていくと、声がいつまでも嗄れないで楽に話ができます。私の患者さんで歌舞伎座の義太夫の語り手の人がありました。その人は、この薬を用いるようになってからは声が大変よくなり、一時間以上も続けられるようになってファンをますます唸らせたものです。それまでは飴をいろいろ試みていたそうですが、以来、声が嗄れるようなときには熱湯でこの薬を溶かしておき、一回分をお茶を飲むように、舞台にかかる一〇か二〇分前ぐらいに少しずつ飲んでいました。元来美声の持主でしたが、美声が一層長持ちして、大変珍重がられました。

B この場合「咽痰切れがたく、声出でざる者」と解釈していいですか。

S 大体そのように考えてよいでしょうね。しかし「痰切れ難く云々」というと、痰切れ難くの語に気持が傾くもので、瓜呂枳実湯ではないかなどとも考えたくなりますね。しかし決して瓜呂枳実湯の感じでなく、なにかしら喉にひっかかるような感じというところでしょうね。
 一般に男性にはよくあることですが、私も四十歳ぐらいの時に声が出にくくなり、患者さん二〇人ぐらいと話をすると、喉が痛くなり困りました。友人の耳鼻科医に診てもらいましたら、「声帯が厚くなっている。ほうっておくと癌になってもいけないから手術をしよう」と言うのですが、私は煙草をやめ、麦門冬湯を飲みはじめました。粒状エキスを寝る前に少しずつつまんで口の中にほうり込んで舐めるのです。すると唾に溶けて喉に流れ、痛みもなくなり、喉の違和感もなくなります。私は患者さんにも「つまんで口に入れなさい、喉が楽ですよ」と言って渡します。から咳にもよく効きます。
 芸者さんや歌水など、歌う人はあのお薬をと希望してきます。私も喉の調子の悪い時は、うがい薬のように麦門冬湯半夏厚朴湯を用います。
 嗄声というほどでもないけれど、喉の具合が悪いというときには、単方の麦門冬湯をもっていきます。
 このように喉に薄い痰がひっかかるとか、あるいは鼻が悪くて喉に鼻汁が流れ込み、声が出にくくな識人は、日本人の三〇~四〇%ぐらいもあるでしょうね。そういうときにも良い方法だと思います。
 いわゆる腎虚の例としては、糖尿病で声が出なくなるような人もあるのですが、これには八味地黄丸も効きます。
 また、八味地黄丸に麦門冬と五味子を加えたものを与えると、もっと効果的のようです。私たちは加味腎気丸とか五味子麦門冬加味とか言っておりますがね。それをやっていると、いつのまにか疲れも少なくなって、声もよく出てくるようになり、非常に喜ばれるものです。まあ三〇日間も飲む間には、よほどましになります。文楽に、今は亡くなられましたが、綱太夫という義太夫の名人がありました。その人が晩年、声が止まってしまって浄瑠璃が語れなくなりました。そのとき私が治してあげて大変喜ばれたこともありましたが、その時も、この五味子麦門冬加味の腎気丸だったのです。
 また、声帯の迷走神経麻痺で声の出ない人を東京で経験したことがありました。いろいろやってみましたが、なかなか良くならないのですね。しかし、それにも初めから牛車腎気丸に五味子麦門冬の二味を加えて、ズーッと続けまして、一年ほどした時には、いくらか声が出てくるようになり、初めのうちは電話の声も聞き取れなかったのが、いくらか聞けるようになりました。
 今は昔の話になりましたが、私は故池田元首相のファンでした。池田さんの声は気にな改aていましたが、晩年声が出なくなったと聞き、(常々東京の診療所に連絡がありましたので)ひょっと薬を求められることがあればと思って薬の用意もしておりました。ついに求められないままに終りましたが、一度試みていただきたい薬方でした。効く効かないは別として私の心情でした。
 それはあまり使用しない薬方で、喉頭結核などに用いる百合固金湯だったのです。

B 咽にポリープができた場合はどうでしょうか。

S そんな場合にもよいのです。昔、喉頭結核の潰瘍にもっていって、よくなった例があります。
 以上のように、八味丸麦門冬湯半夏厚朴湯、あるいは麦門冬湯八味地黄丸ぐらいですね。小柴胡湯麦門冬湯苓桂朮甘湯黄連解毒湯もたま効くときもあるでしょう。
 私の経験で、脳性麻痺の子どもで、小柴胡湯をもっていって、声がかすれていたのが治りましたが、これは体を整えることによって良くなったのでしょうね。
 それからさきほど柴胡桂枝湯半夏厚朴湯と言った人がありましたね。なぜですか。

C 午後になると体がだるくなるからです。

S それで柴胡桂枝湯をやるのですか。柴胡桂枝湯の証の中にそのような症状があるのですか。人参は何を使います。あなたの思い違いじゃないですか。この半夏厚朴湯はいくらか効くでしょう。しかし、この人には、ちょっとどうかと思いますよ。もっと考えてみると、あるいは抑肝散をもっていくべきではないかとも思われます。この人は癇癖の強い人だということですからね。この癇を静めてやれば、もっともっと身も心も楽になれるかもしれませんね。その意味で抑肝散をもっていく。それに人参を加えた方が、易疲労性を少なくすることができるかもしれないと思いますよ。そのような意味で柴胡桂枝湯半夏厚朴湯と考えられたのだとしたら、理屈に合わなくもありませんね。
 漢方の薬は、どの薬味にもいろいろの作用がありますし、薬理の解明されていない今日、一言では説明できないのですが、患者さんに頼まれたら「ありません」と断わらずに、何かの薬を考えてあげてほしいと思います。
 響声破笛丸については、私は使用した経験がありませんので、嗄声の漢方での対策は、これくらいのことを御参考にしていただければよろしかろうと思います。

B 貝母の量はどのくらい使ったらよいですか。

S 私の所では一・〇gぐらいを一回量として一日二回与えます。これは質がずいぶん硬くて重いものです。一日三gぐらいでしょうね。あまり多量に与えて喀血した人もありますから、病状に注意しつつ加減して下さい。人参はその証に応じて加減すべきですが、できるだけ多い方がよいと思います。私の所では、師伝によって一回量生薬〇・六gを使っていましたが、人参の研究をしてから、できる限り多く用いていますが、その方が効果的であるように思います。粒状エキス剤にして一日一・五~三gぐらい使うこともあり、非常によく効くようです。また糖尿病では、八味丸に人参を一日一・五g(粒状エキス)を加えて用いて、どうしてもとれなかった口渇や疲れが治り、尿糖が減ることもありますからね。風邪は疲れたときにひきやすいものですが、しかし熱があるときに、たとえ嗄声がひどいからといって、直ちに『外台』四物湯加人参貝母杏仁をやったらいけませんよ。熱のあるときは、人参の多いものをやりますと、かえって具合が悪くなるときがありますから、そのときは小柴胡湯加桔梗石膏などでないとでめでしょうね。もちろん、このときの人参は竹節人参ですよ。