健康情報: 苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう) の 効能・効果 と 副作用

2012年11月9日金曜日

苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう) の 効能・効果 と 副作用


一般用漢方製剤承認基準

苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
〔成分・分量〕 茯苓1.6-4、甘草1.2-3、半夏2.4-5、乾姜1.2-3(生姜2でも可)、杏仁2.4-4、五味子1.5-3、細辛1.2-3

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度又はやや虚弱で、胃腸が弱り、冷え症で薄い水様のたんが多いものの次の諸症:
気管支炎、気管支ぜんそく、動悸、息切れ、むくみ


金匱要略解説(39)』 三潴忠道
苓甘姜味辛夏仁湯
 「水去り嘔止みて、その人、形腫るるものは、杏仁(キョウニン)を加えてこれを主る。その証まさに麻黄(まおう)を内るべきも、その人遂に痺するをもっての故にこれを内れず。もし逆してこれを内るるものは、必ず厥す。しかる所以のものは、その人血虚して、麻黄その陽を発するをもっての故なり。
 茯苓甘草五味姜辛湯(ブクリョウカンゾウゴミキョウシントウ)の方。
 茯苓(四両)、甘草(三両)、五味(半升)、乾姜(三両)、細辛(三両)、半夏(半升)、杏仁(半升、皮尖を去る)。
 右七味、水一斗をもって、煮て三升を取り、滓を去り、半升を温服す。日に三たび」。
 ここで茯苓甘草五味姜辛湯という処方名は、明らかに間違いだと思います。構成生薬を並べて方剤名としているのが、この前後の一連の方剤の命名のしかたですから、これでは半夏と杏仁を含む、この処方名としては不十分だと思うのです。133頁の苓甘五味姜辛湯との違いが明らかではありません。ここでは他の本を参考に、苓甘五味姜辛半夏杏仁湯(リョウカンゴミキョウシンハンゲキョウニントウ)としておきます。現在一般的には、ここに出ている構成生薬の一字ずつを取り、苓甘姜味辛夏仁湯と呼んで頻用されています。
 半夏の入った茯苓五味甘草去桂加姜辛夏湯(ブクリョウゴミカンゾウキョケイカキョウシンゲトウ)、すなわち苓甘姜味辛夏湯を飲んで、心下の水毒が去り、吐き気が止まり、半夏を入れた効果はあったわけです。しかし今度は水毒が身体の外表に出て、浮腫が出現したわけです。この時はさらに杏仁を加える、すなわち苓甘姜味辛夏仁湯で治しなさいということです。
 杏仁には、利水作用の一つとして、咳だけではなく浮腫を治す力があることがわかります。
 ところで本当は浮腫を取るためには麻黄を入れるべきなのに、痺するが故に麻黄は入れないで杏仁にする。もし逆らって麻黄を入れると手足が冷たく冷える。なぜかというと、患者は血虚で弱っているのに麻黄は発汗させて陽を発する、すなわち瀉法の薬剤だからののです。麻黄で攻めてはいけないので、杏仁を使うというのです。
 いま仮に杏心を入れずに麻黄を入れますと、これは先ほど出てきた小青竜湯と似た構成になってきます。小青竜湯の青竜とは麻黄のことを指すわけで、これは主として陽の病態、陽証の比較的実証に用いる方剤です。これに対して、苓甘姜味辛夏仁湯は陰の病態、陰証に用いられ、しばしば小青竜湯の裏の方剤なとといわれています。
 最近経験した二七歳くらいの慢性鼻炎の患者で当初は小青竜湯かと思っていたのですが、もう一つピンとこないので、脈をみると緊張感がなく幅も広いのです。小青竜湯証では脈は細くて緊張がよいのが普通です。そこで苓甘姜味辛夏仁湯にしたところ症状が好転しました。
 なおこの小青竜湯と苓甘姜味辛夏仁湯との鑑別に、私は常に麻黄附子辛細湯を加えます。麻黄附子細辛湯は麻黄剤ですから、脈に一筋の緊張がありますが、附子を含みますから陰証で脈の力は弱く、冷え症状も明らかです。しかし水毒はもちろんあるわけですから、苓甘姜味辛夏仁湯とは違った意味で、小青竜湯 の裏の漢方と考えられないでしょうか。私はこの小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯、麻黄附子細辛湯の三つを一連の方剤として、かぜなどで使い分けています。



 『勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯著
苓甘姜味辛夏仁湯
  此の方は小青竜湯の「心下有水気」と云ふ処より変方したる者にて、支飲の咳嗽に用ゆ。若し胃熱ありて上逆する者は後方を用ゆべし。

勿誤薬室方函口訣解説(123)』 岩下明弘
苓甘姜味辛夏仁湯
 次は苓甘姜味辛夏仁湯(リョウカンキョウミシンゲニントウ)です。これは『金匱要略』の処方で、痰飲咳嗽篇に「水去り嘔止みて、其の人、形腫るる者は杏仁(きょうにん)を加えて之を主る。その証応に麻黄(マオウ)を内るべきに、其の人達に痺するを以ての故に之を内れず。若し逆して之を内るる者は、必ず厥す。然る所以の者は、その人血虚し、麻黄其の陽を発するを以ての故なり」となっております。
 これは「咳と胸が脹り、かつ何か頭にかぶっているようなのは支飲があるからである。この支飲は苓甘姜味辛夏仁湯でその水を去りなさい」の条文の次に来るもので、「形腫るる」とは表皮の水腫で、このような時には、普通麻黄加朮湯(マオウカジュツトウ)とか小青竜湯(ショウセイリュウトウ)の麻黄剤で表水を追うのですが、体が弱く貧血の強い人は、体がかえってしびれたり痛んで、手足が冷えるので、苓甘姜味辛夏仁湯を使えというのであります。この方は小青竜湯、苓桂味甘湯(リョウケイミカントウ)、苓甘五味姜辛湯(リョウカンゴミキョウシントウ)、苓甘姜味辛夏湯、苓甘姜味辛夏仁黄湯(りょうかんきょうみしんげにんおうとう)等と一連の類方であります。とくに苓甘姜味辛夏仁湯は小青竜湯の裏の処方として有名であります。
 処方の構成は茯苓(ブクリョウ)、甘草(カンゾウ)、五味子(ゴミシ)、乾姜(カンキョウ)、細辛(サイシン)、半夏(ハンゲ)、杏仁(キョウニン)で、小青竜湯より麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、芍薬(シャクヤク)を去り、水をさばく茯苓、杏仁を加えたものです。二方とも心下部に寒性の停水があり、これが溢れ出し、上衝して諸症を起こしたもので、細辛、乾姜の熱薬で心下の水を去り、五味子、半夏で上衝する気を下すのでありますが、異なるのは、小青竜湯は表が解せず、発熱、咳嗽、喘鳴、浮腫があるため、麻黄、桂枝で表証を去るのに対し、苓甘姜味辛夏仁湯は表虚で浮腫があるので、杏仁で表水をさばくのであります。雑病では胃腸が弱く、麻黄が使えない患者の浮腫に用いるのであります。
 目標・・喘鳴、咳嗽、息切れなどがあり、浮腫を伴うもので、冷え症で貧血性の人に用います。脈は沈んで弱く、腹部は軟弱で、心下部に振水音を聞くものが多いのであります。
 応用・・気管支炎、気管支喘息、肺気腫、気管支拡張症、アレルギー性鼻炎、腎炎、ネフローゼ、心臓喘息、百日咳などに用います。
 鑑別・・小青竜湯は今まで述べた通りであります。茯苓杏仁甘草湯(ブクリョウキョウニンカンゾウトウ)は主に心臓喘息に用います。
 症例・・私の症例で二十三歳の女性で会社員です。主訴は鼻閉と水鼻で、約一年前から苦しんでおりました。体は細く顔色は悪く、脈は沈細で、腹証では軟弱で胃部振水音が著明で、とても麻黄剤を使えそうにありませんので、小青竜湯の裏の本方を使ったところ、二週間で楽になりました。