健康情報: 奔豚湯(金匱要略)(ほんとんとう・きんきようりゃく) の 効能・効果 と 副作用

2012年11月6日火曜日

奔豚湯(金匱要略)(ほんとんとう・きんきようりゃく) の 効能・効果 と 副作用

一般用漢方製剤承認基準
奔豚湯(金匱要略)(ほんとんとう・きんきようりゃく)
〔成分・分量〕 甘草2、川芎2、当帰2、半夏4、黄芩2、葛根5、芍薬2、生姜1-1.5(ヒネショウガを使用する場合4)、李根白皮5-8(桑白皮でも可)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度で、下腹部から動悸が胸やのどに突き上げる感じがするものの次の諸症:
発作性の動悸、不安神経症


臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
 105 奔豚湯(ほんとんとう)〔金匱〕
     葛根・李根皮 各五・〇 生姜(乾生姜一・五)・半夏 各四・〇 当帰・川芎・芍薬・黄芩・甘草 各二・○

 「奔豚、気上って胸を衝き、腹痛み、往来寒熱するを主る。」

 病源候論に、「それ奔豚気は腎の積気なり、驚恐憂思の生ずる所より起こる。(中略)気上下に遊走すること豚の奔るが如く、故に奔豚という。」

 臍下腹中より動悸起こって胸中に突き上がり、心下や咽喉に狭窄圧迫感を訴え苦しむという神経性心悸亢進症によ下感:
 ノイローゼ・神経質・ストレス病・血の道・ヒステリー・自律神経不安定症などに応用される。


 『勿誤薬室方函口訣』 浅田 宗伯著
此の方は奔豚気の熱症を治す。奔豚のみならず、婦人、時気に感じ熱あり、血気少腹より衝逆する者、即効あり。独嘯庵、奔豚気必ずしも奔豚湯を用ひずと謂はれたれど、余門にては奔豚湯必ずしも奔豚を治するのみならずとして活用するなり。




勿誤薬室方函口訣解説(115)』 三谷和合
奔豚湯(金匱)
 『金匱』に述べられている奔豚湯(ホントントウ)は、「奔豚にて気は胸に上衝し、腹痛、往来寒熱するものに与う」となっています。奔豚の病は、今日のヒステリー発作にあたるもので、激しい動悸と衝逆を主訴とするものです。『金匱』には「奔豚の病は、少腹より起り、上って咽喉を衝き、発作するときは死せんと欲し、復た還って止る(しばらくすると平静になる)。みな驚恐より之を得る」とあります。驚愕、恐怖が誘因となってヒステリー発作をきたすことを述べていますが、奔豚湯はこうした症候で発熱のある場合に与えます。往来寒熱のあるところから少陽病に属します。宗伯は「奔豚のみならず、婦人、時気に感じ、熱あり、血気少腹より衝逆する者、即効あり」と述べていま空¥
 半夏(ハンゲ)、葛根(カッコン)、芍薬(シャクヤク)、当帰(トウキ)、川芎(センキュウ)、黄芩(オウゴン)、甘季根白皮(かんりこんはくひ)、甘草(カンゾウ)、生姜(ショウキョウ)の七味を含み、葛根は生を用います。甘季根白皮は通常、桑白皮で代用されています。


 『金匱要略』
奔豚気病脈証治 第八 論二首 方三首
師曰,病有奔豚,有吐膿,有驚怖,有火邪,此四部病,皆従驚発得之。
(師の曰く,病に奔豚あり,吐膿あり,驚怖あり,火邪あり,此の四部の病は,皆驚従り発して之を得る。)

師曰,奔豚病,従少腹起,上衝咽喉,発作欲死,復還止,皆従驚恐得之。
(師の曰く,奔豚の病は,少腹従り起こりて,上って咽喉を衝き,発作すれば死せんと欲して,復還り止む,皆驚恐従り之を得る。)

奔豚,気上衝胸,腹痛,往来寒熱,奔豚湯主之。
(奔豚,気上って胸を衝き,腹痛,往来寒熱す,奔豚湯之を主る。 )


奔豚湯の代用(エキス剤)
1.苓桂朮甘湯甘麦大棗湯(『漢方診療のレッスン』)(急性期短期使用)
2.苓桂朮甘湯+桂枝加竜骨牡蛎湯(『症例から学ぶ和漢診療学』)(亜急性期やや長期使用)
3.桂枝加竜骨牡蛎湯(杵渕 彰 先生)


『金匱要略講話』 大塚敬節主講 財団法人 日本漢方医学研究所 編
 〔
 大塚 奔豚で、動悸が胸にまで衝き上がり、腹が痛み、熱と悪寒が出没するのは、奔豚湯の主治である。生葛は生(なま)の葛根です。
 岡野先生、奔豚湯についての経験を話してください。
 岡野 入間市(埼玉県)に住んでいる銀行員の方ですが、ちょうどこれと同じような症状がありまして、ただ腹痛はなかったのですが、往来寒熱の症状も出ていました。あるとき六階の食堂に上がっていきましたら、入口で息の止まるような感じがして、熱が出て、人事不省になって倒れてしまったので、大騒ぎになったそうです。そのときちょうど、慈恵医大から衛生管理の人が来ていたので、その人に診てもらったのですが、わからなくて、その後、慈恵医大病院に行き、いろいろと検査をしてもらったのですが、結局、検査の結果は何も出なかったのだそうです。それが一回だけでなく三回くらい起こしたのだそうですが、そのときも同じような症状で熱は三十九度くらいに上がっているのだそうで、その頃、その人の父親を私が治療していたもので、息子を診てくれと頼まれまして、往診しました。すると奔豚湯の証状でしたので、この方を与えましたところ、与えた日には、一回発作を起こしたそうですが、それ以後は発作が止まって、それから二年くらいになりますが、一回の発作もなく、現在は薬もやめていますが、全然変りなく銀行勤めをしているそうです。「漢方の臨床」に前に書きましたことですが……。
 大塚 そのとき甘李根皮はどうしました。
 岡野 桑白皮を代りに用いました。
 寺師 その人は肥(ふと)った人ですか。
 岡野 肥ってはいなかったです。
 大塚 私は子供の自家中毒に奔豚湯を使ったことがあります。