健康情報: 木防已湯(もくぼういとう) の 効能・効果 と 副作用

2012年11月8日木曜日

木防已湯(もくぼういとう) の 効能・効果 と 副作用

一般用漢方製剤承認基準
28.木防已湯(もくぼういとう)
〔成分・分量〕 防已2.4-6、石膏6-12、桂皮1.6-6、人参2-4(竹節人参4でも可)

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以上で、みぞおちがつかえ、血色すぐれないものの次の諸症:
動悸、息切れ、気管支ぜんそく、むく


医療用漢方製剤の効能
【三和】
 心臓下部がつかえて喘息を伴う呼吸困難があって浮腫、尿量減少、口渇などの傾向あるものの次の諸症。 心臓弁膜症、心臓性喘息、慢性腎炎、ネフローゼ。
【ツムラ】
  顔色がさえず、咳をともなう呼吸困難があり、心臓下部に緊張圧重感があるものの心臓、あるいは、腎臓にもとづく疾患、浮腫、心臓性喘息。
【コタロー】小太郎
  みぞおちがつかえて喘鳴を伴う呼吸困難があり、あるいは浮腫があって尿量減少し、口内または咽喉がかわくもの。
  心内膜炎、心臓弁膜症、心臓性喘息、慢性腎炎、ネフローゼ。


製品名 規格 単位 薬価 製造会社 販売会社
三和木防已湯エキス細粒 1g 24.7 三和生薬 三和生薬
ツムラ木防已湯エキス顆粒(医療用) 1g 14.1 ツムラ ツムラ
コタロー木防已湯エキス細粒 1g 15 小太郎漢方製薬 小太郎漢方製薬


漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
木防已湯(もくぼういとう)
木防已四・ 石膏一○・ 桂枝 人参各三・ 
本方は心下部痞えて堅く、顔面蒼黒・喘咳・呼吸促迫のあるものを目標とする。激しい時は横臥することが出来ず、浮腫を現わすこともあり、尿利減少の症状がある。脈は多くは沈緊で、屡々口渇を訴える。
本方は木防已・石膏・桂枝・人参の四味からなり、木防已・桂枝と伍して浮腫を去り尿利を増し、石膏・人参と伍して、煩躁・口渇・心下痞堅を治する効がある。
主として心臓もしくは腎臓の疾患で、以上の如き症状を呈する場合に用い、時として脚気に用いることもある。ただし、脈微弱・或は脈の結代するもの及び身体が甚しく衰弱したものには用いてはならない。
もし本方を用いて一旦軽快した後に、再び症状が悪化した時は、本方の石膏を去り茯苓・芒硝を加えて、木防已去石膏加茯苓芒硝湯として用いる。
【木防已湯去石膏加茯苓芒硝湯】(もくぼういとうきょせっこうかぶくりょうぼうしょうとう)
木防已湯から石膏を去り茯苓四・芒硝五・を加える。
本方に桑白皮・蘇子・生姜を加えて増損木防已湯と名づける。
【増損木防已湯】(ぞうそんもくぼういとう)
木防已湯に蘇子五・ 桑白皮 生姜各三・を加える。


『漢方精撰百八方』
17[方名] 木防已湯(もくぼういとう)

[出典] 金匱要略

[処方] 木防已4.0 石膏10.0 桂枝4.0 人参3.0

[目標]
 膈問支飲であるから心下部が張ってぜいぜいする、他覚的には胸骨下で上腹部を圧すると痞(つかえる)堅(かたい)していて、面色黧黒(れいこく)黒ずんでいて、脈は沈んで緊張しているような体質(証)のもので、病症そのものは慢性または亜急性のものに適する。要するに本方は水毒を駆うもので、皮下水腫及び組織間浮腫を治するものである。

[かんどころ]
 身体殊に下半身に浮腫のあるもので、上腹部に抵抗を蝕れるものに用いる。

[応用]
 下肢浮腫。この木防已湯が下肢の浮腫にきくことは不思議なほどである。西洋医学では下肢の浮腫を診た場合、まず何病によるかを診断することが絶対必要である。脚気か、静脈塞栓か、骨盤部の癌か、婦人科的疾患か、象皮病か、兎に角その診断をつけるだけでも容易のわざではない。ところが漢方ではまず本方をやって治療する。原因的研究はその後でもよいわけである。

  六十才男。原因不明の下腿浮腫がある。本方投与。一週間後診察した時には全然浮腫はとれていた。
  腎炎ネフローゼ。五十才女。腎炎ネフローゼで蛋白尿はほとんどとれたが、下肢に浮腫があり、歩行にも不自由である。本方を与えたところ十日間で浮腫がとれ、足が軽くなった。      冷え症。むくみはないが、腰がら下が冷えるものに本方をやったら冷えがとれた。やはり水毒のせいで冷えていたらしい。
  坐骨神経痛。五十才女。坐骨神経痛で寝たきりでいた。本方を与えたところ、十日目頃には神経痛はなおって外来に来られるようになり、家事に差支なくなった。
 足の捻挫で歩行の不自由なものに本方を与えたところ、腫れがひいて痛みも取れた。
 高血圧症で下肢の浮腫を伴うものには通常八味丸が適するものであるが、本方で下肢の浮腫を除いてやると、高血圧症も同時に治るものがある。
  痛風。六十オ男。会社々長。両足関節痛風で各大学病院で治療を受けたが無効なばかりでなく却って悪化する。歩行も出来ないものに本方をやったところ、一時は痛みがひどくなって文句を言われたが、一ヵ月分で全治に近い効果を得た。

   [類方] 防已黄耆湯、防已茯苓湯
  相見三郎

《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
77.木防已湯(もくぼういとう) 金匱要略

木防已4.0 石膏10.0 桂枝3.0 人参3.0


(金匱要略)
膈間支飲,其人喘満,心下痞堅,面色
膈間支飲、其の人喘満。心下痞堅。面色黧黒,其脈沈緊,得之数十日,医吐下之不愈、木防已湯憤主之。
虚者則愈,実者三日復発,復与不愈者,宜木防已湯去石膏加茯苓芒消湯主之。

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 みぞおちがつかえて喘鳴を伴なう呼吸困難があり,あるいは浮腫があって尿量減少し,口内または咽喉がかわくもの。
 本方は心不全による呼吸困難が著しい時によく用いられる。衰弱が甚しい患者には本方よりも柴胡桂枝干姜湯などを考慮すべきである。本方を服用後却って浮腫を増す場合は五苓散,柴胡桂枝干姜湯合方を,また食欲不振あるいは衰弱を来す場合は柴胡桂枝湯あるいは柴胡桂枝干姜湯を投与すればよい。



漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方を心臓疾患に応用する場合は,心不全(心臓衰弱)が対象になることが多い。心臓疾患は体質素因やあるいはその病名によって,高度の専門知識と熟練が要求される。同様に不心全も急性循環不全,心臓不全,などに分類されており,血管運動マヒや心筋の変性あるいは心臓弁膜の病的変化の程度による判別が困難で,店頭における視診や問診では,本方の応用はむずかしいが,いわゆる心不全症であって激しい衰弱の徴候が認められない者の,呼吸困難(安静時または運動時)起坐呼吸,心臓性喘息の発作と,胸内苦悶感,心悸亢進,口渇,夜尿などの自覚的症候群を目安に,応用する処方である。したがって心臓衰弱に伴う慢性腎炎,ネフローゼに応用されるが著しい全身的衰弱症や心臓衰弱には用いない。
類証の鑑別
 炙甘草湯, 本方症状に似て心臓症状があって,さらに発作時泡沫様の血痰や不整脈を認めるものを対象にするる。具体的には心臓衰弱時に現われる熱感,のぼせ,セキ,貧血などの症候が目安になる。
 柴胡桂枝干姜湯, 本方症状や炙甘草湯に似て,微熱や熱感,心悸亢進,胸内苦悶などの症状を呈するが,さらに衰弱が激しく,食欲不振,衰弱に伴う消化不良性下痢,軟便,動悸,盗汗,口唇部の乾きなどある点で区別すればよい。通常心臓機能が著しく不全をきたすときに肝肥大やこれに伴う腹水などを認める場合のRinger液やブドー糖,ビタカンフルなどが対象となるものに,柴胡桂枝干姜湯合五苓散で奇効を得ることが少なくない。
 苓甘姜味辛夏仁湯, 貧血,呼吸困難,喘鳴,尿量減少や浮腫などの点で,本方証に類似するが本方適応症状には認められない身体冷感などが著明なことで区別される。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 呼吸促迫して咳も出る。息ぐるしくて横臥できず,浮腫があるものに用いる。胸はつまって苦しく,少しからだを動かすと息切れしてつらくなり,喘咳があり,心下部が痞えて硬く,顔色は貧血性でうす黒く,脈は沈緊である。腹部は上腹部全体が固く板を張ったようになる。のどがかわき,尿利が減少し,夜ねると尿意がおこる。
○本方は脈が弱く,全身がひどく虚しているものには用いられない。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○この方は心下痞堅といって,上腹部が板のように堅く浮腫と喘鳴があって脈が沈緊であるものを目標として用いるのである。ここに一つの口訣がある。それは皮膚が枯燥して潤がなく,唇や舌なども乾くというのを目あてにする。虚の中に実を挟むものを,この方の証とする。木防已湯証では,息苦しくて横臥することができず,上半身を高くして坐っていると楽である。食欲はあるが,食べると腹がはって苦しいから食べるのをひかえているというものがある。この方は心臓弁膜症で代償機能の障害があって尿の不利と浮腫のあるものに用いる。

漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は心下部痞えて堅く,顔面蒼黒,喘咳,呼吸促迫のあるものを目標とする。激しい時は横臥することが出来ず,浮腫を現わすこともあり,尿利減少の症状がある。脈は多くは沈緊で,屡々口渇を訴える。本方は木防已,石膏,桂枝,人参の四味からなり,木防已,桂枝と伍して浮腫を去り尿利を増し,石膏,人参と伍して,煩躁,口渇,心下痞堅を治する効がある。主として心臓もしくは腎臓の疾患で,以上の如き症状を呈する場合に用い,時として脚気に用いることもある。ただし,脈微弱,或は脈の結代するもの及び身体が甚しく衰弱したものには用いてはならない。もし本方を用いて一旦軽快した後に,再び症状が悪化した時は,本方の石膏を去り茯苓,芒硝を加えて,木防已去石膏加茯苓芒硝湯として用いる。本方に桑白皮,蘇子,生姜を加えて増損木防已湯と名づける。

漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 運用 喘,浮腫
 「膈間の支飲,其人喘満,心下痞堅し,面色黧黒其脉沈緊,之を得て数十日,医之を吐下して愈ざるは木防已湯之を主る。虚するものは即ち愈ゆ。実するものは三日に復た発す。復た与えて愈ざるものは宜しく木防已去石膏加茯苓芒硝湯之を主るべし」(金匱要略痰飲)によって使うが,この内臨床的には喘満,心下痞堅,顔色がドス黒い,脉沈緊を目標にする。これが全部揃えば間違いはないがたとえ揃わなくても2,3の主要症状があれば使うことができる。心臓又は腎臓疾患で心臓不全を伴い心臓喘息を起したときに使うことが一番多い。その場合は肺水腫,鬱血肝を併発しているために喘も増悪されるのが普通である。気管支喘息に使った経験は私にはない。肝臓疾患や肺疾患で指示症状が現われたときも本方を使用する機会があるだろう。(後略)

漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 心下部が痞えて堅く(心臓弁膜症に起こる鬱血肝を意味する場合が多い)顔面は蒼黒く,喘息,動悸,呼吸促迫,腹満があるのを目標とする。また激しいときは横臥不能となり,踞座姿勢をとり,浮腫や尿利減少の症状が現われる。脈は多くは沈緊で,しばしば口渇を訴える。脈が浮弱で結滞するもの,身体が甚だしく衰弱したものには用いられない。心下部がそれほど堅くなくとも胸苦しいというものに用いてよいこともある。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此の方は膈間支飲ありて欬逆倚息,短気臥することを得ず。其形腫るるが如きものを治す。膈間の水気石膏に非れば墜下すること能はず。越婢加半夏湯,厚朴麻黄湯,小青竜加石膏の石膏皆同義なり,其の中桂枝人参を以て,胃中の陽気を助けて,心下の痞堅をゆるめ,木防已にて水道を利する策妙と云ふべし。