健康情報: 2013

2013年12月26日木曜日

駆風解毒湯(くふうげどくとう)の効能・効果と副作用

駆風解毒散(くふうげどくさん)(別名:駆風解毒湯(くふうげどくとう)

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.615 アンギナ・扁桃炎

28 駆風解毒湯 (くふうげどくとう) 〔万病回春・咽喉門〕
 防風・牛蒡各 各三・〇 連翹 五・〇 荊芥・羗活・甘草 各一・五 
 (右に桔梗三・〇、石膏五・〇を加えて含嗽する。)

「痄腮(さし)(扁桃炎・アンギナ・耳下腺炎)腫れ痛むを治す」
咽喉腫痛に半ばは飲用し、半ばは含嗽用として用いるとよい。桔梗・石膏を加えると効果を増す。
アンギナ(カタル性・腺窩性・濾胞性)・扁桃周囲炎・耳下腺炎などに応用される。


『勿誤薬室方函口訣解説(23)』  
日本東洋医学会理事  原 桃介

駆風解毒湯 苦酒湯 九味柴胡湯(樞要) 九味柴胡湯(枳園) 九味清脾湯

駆風解毒湯
 本日は駆風解毒湯(クフウゲトクトウ)からです。これは『済生方』の処方です。条文中の時毒は時節の毒、すなわち流行病のことです。(ささい)は耳下腺炎です。(てんこうふう)はジフテリア、あるいは扁桃炎のひどいのをいってもよいと思います。
 訳してみますと、「この方は、もと流行性の病気による耳下腺炎を治すのに効果があります。しかしこの症は、大抵は葛根湯加桔梗石膏(カッコントウカキキョウセッコウ)でよいものです。もし硬く腫れて、久しく消散しない時は、此の方に桔梗石膏を加えて用いるがよろしい。和田東郭は、ジフテリアとか扁桃炎で、炎症がひどく喉が腫れ痛んで水も薬も一滴も下がらず、ものをいうこともできないものに、この加味の方を水煎し、冷水に浸し、きわめて冷たくして嚥下せしめて奇効を得たということです。私は咽喉が腫れふさがって、炎症のひどいものにはいつもこの方を極冷にして含ましめ、口中で温めるほどにしてうがいをさせ、しばしば効を奏しました。もし、咽喉がただれ、腫れ痛む時は加味凉膈散加竹葉(かみりょうかくさんかちくよう)をこんなふうしして含ましめると効があります」という意味です。
 大塚敬節先生は、「扁桃炎または扁桃周囲炎がこじれて、なかなか効かないものによく奏効するし、この方に石膏を加えて冷服せしめた方がよろしい。この方はしばらく口に含んでから口中で薬が温まるようにして、少量ずつ飲み込むとよい」といっておられます。 この方は和田東郭や、津田玄仙などが愛用した処方で、津田玄仙は、「咽喉腫痛して諸薬効なく、腫痛ますますはなはだしいものには駆風解毒湯加石膏を冷服せしめると、その日のうちに痛みがやみ、百発百中の効がある」と述べております。
 『済生方』というのは宋の厳用和が一二五三年に出したもので、全十巻です。最初に論述がありまして、次に処方が四〇〇方載せてあります。それらは実際に治療に用いたものであります。たとえば帰脾湯(キヒトウ)や、済生腎気丸(サイセイジンキガン)(牛車腎気丸(ゴシャジンキガン))などは、今日でも臨床に重用されている処方でありま称。
 矢数道明先生処方の治験例に、喉にビー玉がつかえているような咽喉部の病気に、この駆風解毒散を使ったら非常によく効いたという例があります。それば、七五歳の男性で、一年前から咽喉が痛み、風邪のためかと思っていたがなかなか治らないので耳鼻科でみてもらいましたところ、咽喉部の左側が赤く腫れているといわれました。自分では悪性腫瘍ではないかと心配して、たびたび検査をしてもらいましたが、線維腫かも知れないが確実にはわからないといわれたそうです。それ以来患者はいつも咽喉部にビー玉がつかえているような感じがして、何となく気持ちが悪くて、何とかこのつかえが治らないものかと訴え続けてきました。のどを外から見ると全体が赤いのですが、嚥下困難はありません。咽喉から頸部全体がいかにも腫れているような感じで、左の方が右より腫れています。脈力は強く、弦脈です。こういう咽喉部の炎症で咳嗽のある時には麦門冬湯加桔梗紫苑玄参(バクモンドウトウカキキョウシオンゲンジン)がよいというので、初めはこれを使ってみたが、あまりはかばかしくないので、駆風解毒湯に転方しましたところ、だんだんよくなり、三ヵ月くらいのうちに、ビー玉が咽喉部につかえている苦痛からまったく解放されたというものです。
 駆風解毒湯の中に含まれている生薬のうち、防風(ボウフウ)は発汗、解熱、牛蒡(ゴボウ)は解熱、解毒、連翹(レンギョウ)は消炎、排膿、荊芥(ケイガイ)は発汗、解熱、解毒、独活(ドッカツ)は発汗、解熱の作用があります。甘草(カンゾウ)は鎮痛剤で咽喉痛をとり、百薬の毒を消します。そして、加減方の桔梗が排膿、袪痰、石膏(セッコウ)が解熱、鎮静、止渇というように、駆風剤と解毒剤が巧みに組み合わせた処方で、咽喉部の炎症に効く処方であります。
 要するに駆風解毒湯は、耳下腺炎、アンギナというか、扁桃腺炎、扁桃周囲炎といったものの、咽喉の腫れ痛むものに飲用したり、なかばうがい用として用いるのによい処方であります。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
 駆風解毒湯(くふうげどくとう) [厳氏済生方]

【方意】 咽喉の熱証による咽喉腫痛・発赤・発熱等のあるもの。
《少陽病.虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

咽喉の熱証


主証 ◎咽喉腫痛
◎発赤
◎発熱






客証  発語不能
 結膜充血
 顔面紅潮
 食欲不振





【脈候】 

【舌候】 白苔が厚い。

【腹候】 

【病位・虚実】 炎症の強い咽喉の熱証で少陽病であ旅。極虚証には用いられないが虚実は広く用いて良い。

【構成生薬】 防風3.0 牛蒡子3.0 荊芥1.5 羗活1.5 甘草1.5 連翹5.0 (桔梗3.0 石膏10.0)

【方解】 連翹・牛蒡子は熱証を去り、化膿に有効である。防風・荊芥・羗活は表の寒証にも表の熱証にも用いられ、抗化膿作用もあって咽喉腫痛・発赤を治す。桔梗の抗化膿、石膏の清熱作用を加味すること仲;、薬力が増強される。


【方意の幅および応用】
 A 咽喉の熱証:咽喉腫痛・発赤・発熱を目標にする。
   顎下腺炎、耳下腺炎、急性咽喉頭炎、急性扁桃炎、ベーチェット病

【参考】* 痄腮(耳下腺炎・扁桃炎)の初期は葛根湯加桔梗石膏。熱証激しく、硬腫久しく、熱気の甚だしいものは駆風解毒湯加桔梗石膏・小柴胡湯加桔梗石膏。もし咽喉糜爛して腫痛するものには加味凉膈散加竹葉。
*  和田東郭は桔梗・石膏を加えて薬効を増す。抗生剤よりもはるかに有効ともいわれ、煎液を冷やしてすすらせる。のどに止めて温まったら飲み下すのが良い。

【症例】 ビー玉が咽につかえているような感じ
 75歳の男子。7年前に胃潰瘍で手術を受けた。ちょうど1年前に咽喉が痛んで、カゼのためかと思っていた。なかなか治らないので耳鼻科で診てもらったら、左側の咽喉部が赤く腫れているといわれた。たびたび検査をして、繊維腫かもしれないが、確実には判らないといわれた。それ以来、いつもビー玉が咽喉部につかえているように感じる。何とも気持ちが悪い。
 咽を外から診ると全体が赤い。痞塞部は深く咽頭部の下方であるという。嚥下困難・嗄声はない。体格栄養は中等度、顔色は冴えない。ときどき軽い咳や痰が出て、咽喉から頚部全体がいかにも腫れているように感じ、とにかく咽喉全体が苦しいという。
 脈は力強く弦脈で、血圧は初診時190/110であった。腹は平担で特に胸脇苦満も臍傍の抵抗圧痛もない。食欲も便通も普通である。
 咽喉部の炎症で、咳嗽のあるときに麦門冬湯加桔梗、柴苑、玄参で良いことが多いので初めこれを与えてみた。1ヵ月後咳は止まり少しは良いが、どうもさっぱりしない。そのうちカゼを引いて、咽喉部の症状が増したというので、駆風解毒湯に転方した。
 この処方を煎じて冷め加減に飲ませてから、咽喉の苦しさが大分良くなったというので、3ヵ月続けた。するとビー玉が咽喉部につかえている苦痛から解放され、1年間の不快症状が治った。血圧もこのころは150/90となって元気になった。
 和田東郭は、駆風解毒湯に桔梗3.0、石膏10.0を加えて、ジフテリーに用いたという。この処方は、咽喉炎、壊疽性咽喉炎、咽喉潰爛、義膜性咽喉炎などで、咽喉の炎症の激しいとき、うがいをしながら嚥下服用させると良いといって、浅田宗伯もこれをすすめている。本症例では慢性症であったからこれを加えなかった。
矢数道明 『漢方の臨床』24・4・20

慢性扁桃炎
 57歳の婦人。体格栄養顔色等は普通である。半訴では5年前より、カゼを引きやすく、扁桃炎を繰り返し、化膿しやすく、その都度高熱を出すという。近頃は手指が震え、身体も震えることがあり、また鼻がつまり、口が苦く、口渇を訴え、肩凝り、嘔気などを訴えている。咽をみると舌には白苔があり、扁桃腺はひどくないが腫れて赤い。よって駆風解毒湯を内服させ、黄柏末の溶液でうがいをさせた。すると1ヵ月後からカゼを引かなくなり、咽の痛みを訴えなくなり、従って熱も出なくなった。3ヵ月飲み終わって、一般状態がとても快適に生活できるようになった。
矢数道明 『漢方の臨床』30・8・41



【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕



 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕 
(5)高齢者。
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
     むくみ
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
     高血圧、心臓病、腎臓病
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器 食欲不振、胃部不快感



まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  軟便、下痢
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕

4.5~6日間服用しても服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

5.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
体力に関わらず、使用できる。
 〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕


(1)本剤は熱ければ冷ましてうがいしながら少しずつゆっくり飲むこと。

(2)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(3)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

(2)小児の手の届かない所に保管すること。

(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕





【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】


注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕

(5)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
  むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
  高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕

3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと

4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

2013年12月24日火曜日

響声破笛丸(きょうせいはてきがん、けいせいはてきがん) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.652 声の出ないとき・嗄声
27 響声破笛丸(きょうせいはてきがん) 〔万病回春〕
 連翹・桔梗・甘草各二・五 大黄・縮砂・川芎・訶子各一・〇 阿仙薬二・〇 薄荷四・〇
 (原方中百薬とあるが、これを阿仙薬とした。一般には大黄を去る。)

 右細末となし、 鶏子清(卵の白味)を加えて空気銃の弾丸(たま)ぐらいの丸薬とし、一回二・〇~三・〇を服用する。
 「声音出でざる者は腎虚なし」糊丸とし卵白でのんでもよい。
 歌をうたい、演説が続き、発声過度のために声がつぶれ、嗄声を起こしたときなどに用いる。
 嗄声の特効薬として応用される。




和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
 響声破笛丸(きょうせいはてきがん) 〔万病回春〕

【方意】 咽喉の熱証による嗄声・咳嗽・咽痛等のあるもの。
《少陽病.虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

咽喉の熱証


主証 ◎嗄声
◎咳嗽
◎咽痛






客証  咽喉腫閉
 胸痛





【脈候】 

【舌候】 

【腹候】 

【病位・虚実】 本方の構成病態である咽喉の熱証は少陽病位に相当する。虚実中間で広く用いることができる。


【構成生薬】 連翹2.5 桔梗2.5 甘草2.5 縮砂1.0 川芎1.0 訶子1.0 阿仙薬(百薬)2.0 薄荷4.0 大黄1.0
 一般には大黄を去る。以上を細末となし、卵白で丸薬とし、1回に2~3gを服用する。

【方解】 連翹・桔梗・甘草は咽喉の急性熱証に版る嗄声・咳嗽・咽痛を治す。大黄・薄荷の抗熱証作用もこれを助ける。訶子・阿仙薬は咽喉を収斂、川芎の駆瘀血紙:抗化膿作用もこれに協力する。縮砂の芳香性健胃作用は他薬の脾胃への影響を穏やかにする。



【方意の幅および応用】
 A 咽喉の熱証:嗄声・咳嗽・咽痛を目標にする。
   発声過度のための嗄声

【参考】* 謳歌して音を失う者は火動なり。

【症例】 
嗄声
 9歳の男子。学校の運動会の練習や、野球の応援などで、日頃大きな声でどなったり、歌ったりしているうちにひどい嗄声になり、約1年の間、耳鼻咽喉科の医師に治療を受けたが、少しも良くならず困っているので、漢方薬を飲んでみたいと患者の母親が電話で頼んできた。漢方の先生に紹介状を書くから診察を受けに行くように勧めたが、学校の試験の関係で、ここ3週間ほど休めないと勝手なことをいる。
 この子供が幼稚園のこと診察したことはあるが、最近は診察したことがないので効くかどうか保証しかねるがと、響声破笛丸料を10日分投与したところ、「大層よく効いたから」と、あと1ヵ月分請薬して来た。そして40日間服用した後で、すっかり良くなったと報告して来た。
緒方玄芳『漢方の臨床』24・6・31

声帯の結節
 29歳の女性。声楽家(オペラ)
 この3ヵ月近く忙しく、歌いすぎて声帯に結節ができ、出血していた。初診時には出血はないという。食欲は正常、便通は1日1行、寝つきが悪感:2月にカゼを引き、咳嗽と喀痰が出るという。足が冷える。生理は順調で生理痛が少しある。
 子供はない。体格は中肉中背で、貧血もない。脈は普通で、腹診上軽度の瘀血を認める。血圧は110/70であった。特記すべき既応症はない。
 響声破笛丸料去大黄を14日分投与し、2週長服用成て来院。耳鼻科で結課が少し軟らかになったといわれたという。更に2週間同方に大黄2gを加えて投与し、便通も良くなり、更に2週間の服用で99%良いといわれ、更に4週間の服薬で略治した。
矢数圭堂 『漢方の臨床』39・2・108

声帯ポリープ
 26歳の女性。音新大学講師(ソプラノ)
 声帯にポリープができて、声が出ないという。漢方薬局で補中益気湯合麦門冬湯を20日分、次いで小柴胡湯合麻杏甘石湯を10日分服用したが、変化はないということである。食欲は正常で便通は1日1行、睡眠も良いという。月経は不順で、生理痛はない。体格は中肉中背で貧血はない。脈は普通で、腹診上特記すべき症候はない。
 響声破笛丸料去大黄を投与したところ、2週間の服薬で声も出るようになり、話すのも楽になり、ポリープも少し小さくなってきた。
 その後、薬が切れて症状が悪化し、某院でポリープの手術を受けた。
矢数圭堂 『漢方の臨床』39・2・109






【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること
〔大黄を含有する製剤に記載すること〕



 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕 
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕 
(5)高齢者。
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
     むくみ
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
     高血圧、心臓病、腎臓病
     〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕


2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器1) 食欲不振、胃部不快感、はげしい腹痛を伴う下痢1)、腹痛1)

〔1)は大黄を含有する製剤に記載すること〕

まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.服用後、次の症状があらわれることがあるので、このような症状の持続又は増強が見られた場合には、服用を中止し、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  軟便、下痢
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕

4.5~6日間服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

5.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
体力に関わらず、使用できる。
 〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注
意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

(2)小児の手の届かない所に保管すること。

(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕





【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】


注意
1.次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.授乳中の人は本剤を服用しないか、本剤を服用する場合は授乳を避けること
〔大黄を含有する製剤に記載すること〕

3.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕
(4)胃腸が弱く下痢しやすい人。
  〔大黄を含有する製剤に記載すること〕

(5)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
  むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
  高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
3´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔3.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には3´.を記載すること。〕
4.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
5.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
 体力に関わらず、使用できる。

2013年12月22日日曜日

滋陰降火湯(じいんこうかとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
滋陰降下湯(じいんこうかとう)
本方は陰を肝腎 の火を降すを以て滋陰降火湯の名がある。腎陰の水虚乏するにより、肝火・腎火共に炎上して脾肺を薫灼するのを滋潤によって消炎させるとの謂である。これを 換言すれば人体根源の元気たる腎水枯れ、消耗熱を発し、体液の虚耗したのを滋潤によって解熱させるのである。肺結核の一症に用いられるときは、乾咳・喀痰 少くかつ切れ難く、皮膚は浅黒くて枯燥し、大便は硬く、胸部の聴診上乾性ラ音の場合によく奏効し、多くは増殖型の肺結核に効果があ識。もし熱が高く、自 汗・盗汗・咳嗽・喀痰が多く、食欲不振・下痢し易い滲出型の場合には禁忌である。
当帰・芍薬・熟地黄は肝火を潤し、天門冬・麦門冬は肺を潤し、生地黄・知母・黄柏は腎中の熱を清涼し、白朮・陳皮・甘草・大棗は消化機能を調和する。
以上の目標に従って、本方は肺結核の一症、乾性胸膜炎・急性慢性気管支炎・急性慢性腎盂炎・腎臓結核・糖尿病・腎膀胱炎・夢精・遺精等に応用される。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.139
27 滋陰降火湯(じいんこうかとう) (万病回春)
 当帰 芍薬 地黄 天門冬 麦門冬 陳皮各二・五  朮三・〇 知母 黄柏 甘草各一・五 大棗 生姜各一・〇(二三・〇)

 この方は後世方の大家、元の朱丹渓の唱えた“陽余りあり陰不足す”(冷えのぼせによる上半身の虚熱症状)の説の基いて創られた処方で、後世方では著名な肺結核の薬である。古方の麦門冬湯症に似ていて、それに貧血の薬を加えたもので、微熱、空咳、粘痰、口乾、呼吸困難、盗汗、皮膚枯燥などを目標にする。故矢数有道氏は「本方の適応者は色浅黒く、便秘しており乾性ラ音を聴診することが多い。もし本方を服して一服で下痢する場合は証が合わない者と思ってよい」と述べておられる。湿性肋膜炎には禁忌であろう。肺結核、乾性肋膜炎。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.209
51 滋陰降下湯(じいんこうかとう) 〔万病回春〕

 当帰・芍薬・地黄・天門冬・麦門冬・陳皮各二・五 白朮三・〇 知母・黄柏・甘草各一・五

 原方では当帰は酒に浸し、黄柏な蜂蜜に浸して炒り、甘草は炙ることになっている。また煎じたのち、竹瀝(真竹を切り火上に炙って流れ出た汁)と童便(一二歳以下の健康な男児の尿)、生姜の絞り汁を少量ずつ加えて服用することになっているが、一般にはこれらの修治と加味を省略している。


応用〕 方名の「陰を滋(うるお)し、火を降(くだ)す」というのは、泌尿器あるいは呼吸器における高熱疾患のため、津液枯燥した場合で、腎水の欠乏を滋潤し、胸部の熱を清解する意味である。多く肺結核・腎盂炎等の消耗性高熱時に用いられる。
 すなわち本方は増殖型肺結核・乾性肋膜炎・急性、慢性気管支炎、慢性腎盂炎・糖尿病・腎臓結核・淋疾等に応用される。但し現在では抗生物質の併用が望ましい。 

目標〕 回春の主治による症状のみによって用いるときは、往々下痢を起こして諸症悪化することがある。これを肺結核や慢性気管支炎に用いる場合、咳嗽はあるが、乾咳で痰は粘稠で切れがたく、皮膚は浅黒くて枯燥し、便秘の傾向があって、乾性「ラ」音のものによく効く。
 腎盂炎・腎結核・糖尿病等に用いる場合も、この皮膚枯燥、便秘がちのものを目標とすべきである。
 これに反して皮膚蒼白で、発汗があり、咳嗽や吐痰多く、胃腸の虚弱な下痢しやすいものには禁忌である。本方を服用して下痢するものは速やかに中止し、参苓白朮散に変方すべきである。すなわち肺結核の場合は、病状が進行性で滲出型のものには禁忌で、増殖型のものによく適応するもののようである。

方解〕 王節斎が「陰を補い、火を瀉す」目的をもって創方したもので、八珍湯を加減し、潤燥を主とし、瀉火を兼ねたものである。
 陰を滋し、火を降すという意味から滋陰降下湯と名づけ、労瘵(肺結核)の主方とした。
 火とは肝腎の火で、これが上炎して脾肺を薫灼するのを、腎の水を滋して消炎させるものである。結核等の熱性病のとき、いわゆる消耗熱のために体液が虚耗し、枯燥したものを潤す作用がある。
 当帰・芍薬・地黄は肝火を潤し、天門冬・麦門冬は肺を潤し、地黄・知母・黄柏は腎中の熱を清涼し、白朮・陳息・甘草・大棗は脾胃を補い、消化器の働きを助ける。


主治
 万病回春(虚労門)に、「陰虚火動・発熱・咳嗽・吐痰・喘息・盗汗・口燥ヲ治ス。此ノ方六味丸ヲ与ヘテ相兼ネテ之ヲ服ス。大イニ虚労ヲ補フ。神経アリ」とある。
 当荘庵家方口解には、「陰虚火動(インキョカドウ)ノ主薬ナリ。 薛己、張介賓ガ丹渓ヲ相手ニシテ、陰ノ誤リヲ叱ル剤也。(中略)此剤ハ労咳ニハ宜シカラザル也。大便結スル症ニ用ヒテモ後瀉スル也。(中略)発熱・咳嗽・吐痰・盗汗ト云フ病症ノ外ニ見ワルル様ニ成リテ降火湯ヲ与フルハ実々虚々ノ誤リトナル也。降火湯ハ腎一蔵ニ火有リテ脾胃全キ者ニヨシ。(後略)」とある。
 この説は最も傾聴に値するものである。
 漢方と漢薬(五巻八号、矢数有道)に、「滋陰降火湯は経験によると、気管支炎(急性慢性)・肺結核・胸膜炎・腺病質・腎盂炎・初老期の生殖器障害・腎臓膀胱結核の初期などに偉効があるが、処方するに際しては次の条件を不可欠とする。
 (1) 皮膚の色が浅黒いこと。
 (2) 大便秘結すること。硬いこと、服薬して下痢しないこと。
 (3) 呼吸音は乾性「ラ」音であるべきこと。
 皮膚は必ずしも浅黒くなくても効きめのあることもあるが、浅黒ければ申し分がない。服薬して下痢するかしないかは、本方の適応か不適応かを決定してよいくらいで、不適応のものは一服で下痢するから中止させるべきである。下痢しない者は安心して継続してよい。胸膜炎の場合は乾性胸膜炎に限るようである。すなわち滋陰降下湯の主治を次のように書き改める。
 「陰虚火動、咳嗽吐痰、皮膚浅黒く、大便硬、之を聴診して、乾性羅音の者、滋陰降火湯之を主る」とあるのは、新しい証の改革というべきものである。


鑑別
 ○柴胡姜桂湯46(発熱咳嗽・胸腹動、往来寒熱、心煩上衝)
 ○麦門冬湯115(久痰咽喉乾燥・大逆上気)
 ○清肺湯83(肺熱咳嗽・痰切れ難し)
 ○炙甘草湯60(虚労欬逆・心悸亢進、脈結滞)
 ○黄耆別甲散11(労咳・骨承熱)

参考
 矢数有道、滋陰降火湯に就て(漢方と漢薬 五巻八号)

治例
 (一)肺結核
 一七歳の男子職工。三ヵ月前に発病、母と妹とが肺結核で死亡している。医療を受けているが、咳嗽がどうしてもとれない。皮膚の色ドス黒く、ときどき血痰・微熱・脈緊数・腹筋少しく拘攣、食欲普通、大便硬く、両肺全面に乾性「ラ」音を聴く。
 初め四物解毒加減方を与えたが効なく、漸次悪化の傾向をたどってきた。試みに滋陰降火湯を与えてみると予想外の好結果で、咳嗽やみ、諸症好転し、本方服用後一ヵ年、風邪もひかず、一日も臥床せず、本年四月より勤務を開始した。この体験より同様の病状を呈する肺結核患者にはみな本方を用い、いずれも所期の効果を得るようになった。
(矢数有道、漢方と漢薬 五巻八号)


 (二)慢性腎盂炎
 二六歳の婦人。肋膜炎、肺尖カタルの既往歴がある。約一ヵ月前急性腎盂炎にて入院加療し、退院後微熱がとれない。わずかに悪寒があり、小便はやや白濁、大便は秘結、小柴胡湯・柴苓湯いずれも効がない。小柴胡湯は肝胆の瀉火剤である。 
 胆腎の瀉火剤を考えた滋陰降火湯を与えてみた。すると効果顕著で翌日から平熱となり、小便白濁もとれ、月余の服薬で、腎盂炎も、肺尖カタルも、肋膜炎の方もすっかりよくなった。
(矢数有道、漢方と漢薬 五巻八号)



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由]  本剤には地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる 消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

 

2013年12月13日金曜日

柴朴湯(さいぼくとう) の 効能・効果 と 副作用

和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
柴朴湯(さいぼくとう) 〔本朝経験〕

【方意】 小柴胡湯証の胸脇の熱証による口苦・口粘・胸脇苦満等と、半夏厚朴湯証の上焦の気滞気滞による精神症状としての咽中炙臠・感情不安定・疲労倦怠等のあるもの。
《少陽病.虚実中間よりやや虚証》

【自他覚症状の病態分類】

胸脇の熱証 上焦の気滞
気滞による精神症状


主証 ◎口苦 ◎口粘



◎咽中炙臠
◎感情不安定
◎疲労倦怠







客証 ○胸脇苦満
○心下痞硬
  食欲不振
○目眩
  心悸亢進
  咳嗽
  喘鳴




【脈候】 弦・細にして力あり。

【舌候】 やや乾燥し、白苔または微白苔。

【腹候】 腹力中等度からわずかに軟。多くは胸脇苦満および心下痞硬がみられる。時に上腹部に振水音がある。

【病位・虚実】 胸脇の熱証が主たる病態のため少陽病のため少陽病に位する。脈力および腹力より虚実中間からやや虚証である。

【構成生薬】 柴胡8.0 半夏8.0 茯苓5.0 黄芩3.0 大棗3.0 人参3.0 甘草3.0 厚朴3.0 蘇葉2.0 生姜1.0

【方解】  小柴胡湯は柴胡・半夏・生姜・黄芩・大棗・人参・甘草であり、半夏厚朴湯は半夏・茯苓・生姜・厚朴・蘇葉であって、本方はこの二湯を合したものである。このため本方の作用も小柴胡湯証の胸脇の熱証と、半夏厚朴湯証の上焦の気滞・気滞による精神症状に対応するもので、口苦・口粘・胸脇苦満・心下痞硬と、咽中炙臠・感情不安定等を治す。

【方意の幅および応用】
 A 胸脇の熱証:口苦・口粘・胸脇苦満等を目標にする場合。
   気管支炎、気管支喘息、百日咳。

 B 上焦の気滞気滞による精神症状:咽中炙臠・感情不安定・疲労倦怠を目標にする場合。
   ノイローゼ、不安神経症、ヒステリー、術後神経症
 C 表の寒証:眼痛・耳痛・歯痛・咽痛等を目標にする場合。   眼疾患、耳痛、歯痛、開口して眠る者の咽痛

【参考】* 小柴胡湯証に咽中炙臠・感情不安定のあるものを目標にする。

【症例】出題と解答 自然気胸
 患者は48歳の男子。昭和12年に肋膜炎をやり、昭和27年に肺結核をやった。昨年秋、自然気胸を起こし、その時はかばかしくないので人の紹介で来院した。そして、ある薬を服んで楽になったが、あまり簡単に楽になったので漢方が効いたとは本人は思わなかった。
 ところが昨年春、また自然気胸を起こし、レントゲン写真によると、右肺が半分以下に縮小している。非常に息苦しくて仕事ができない。体はやや太り気味で体格のいい人。便通その他には異常がない。ただ舌が白くてややしめっており、脈は変わりなく緩脈である。
 聴診で右側の呼吸音が弱く、腹診すると右季肋下に強い抵抗がある。左の方もやや堅くなっており、圧痛はない。胸脇苦満と考えた。ある処方を与えたが、胸脇苦満ということと、息苦しいということを目標にして2つの処方の合方を用い、約1週間で呼吸困難は全くなくなった。その後も再発を恐れて時々薬は飲んでいるが、昨年5月以来はなまけてポツリポツリ飲むといった状態である。腹力は筋肉の緊張の良い人で、充実して柔らかく良い腹である。ただ肋骨弓下だけに抵抗がある。左の呼吸音は少し荒い。
 この症例に漢方薬は何が良いでしょうか。
〔解答〕小柴胡湯合小陥胸湯(3名)、柴陥湯(2名)、小柴胡湯合麻杏甘石湯(1名)、大柴胡湯合小青龍湯(1名)
〔出題者解答〕私は小柴胡湯合半夏厚朴湯を用いました。
 なぜ半夏厚朴湯にしたかと申しますと、自然気胸で気鬱滞のために呼吸困難が起こったと解釈したからです。或いは小柴胡湯だけでも良かったものか、柴陥湯でも良かったものか、また両者合方にしたのが良かったのか、その点は今でもよく分かっていません。気胸は目に見える気の鬱滞だと思ったのでした。
 寺師睦済 腹は出張っていましたか。
 山田光胤 腹は小太りの人ですから充実していました。しかし、堅くはなく、弾力のある柔らかい腹でした。化学療法は以前にやっていたようでしたが、それでも自然気胸が起きてしまったのですね。
 相見三郎 自然気胸はプンクチオンをしなくても半夏厚朴湯て治る見込みがあるということですね。
 山田 針は刺しませんでした。
 相見 呼吸器の専門医にいわせれば「そんなバカなことはない」とやられるでしょうけどね。
 山田光胤『漢方の臨床』12・1・52




臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
 (4)小柴胡 合 半夏厚朴湯
 神経衰弱・ノイローゼ、発作が起きないかと気にしすぎる気管支喘息などによく用いられる。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
小柴胡湯
③半夏厚朴湯を合して、感冒でこじれた咳や、気管支喘息の発作予防に用いる。


『重要処方解説』(88)  
柴朴湯(サイボクトウ)・小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)


日本東洋医学会副会長 細野八郎

■柴朴湯・出典・構成生脈:薬能薬理
 本日は柴朴湯(サイボクトウ)と小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)についてお話ししましょう。まず柴朴湯からお話しします。柴朴湯はわが国で作られた処方で,小柴胡湯(ショウサイコトウ)と半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)を合方したものです。いつ誰がこのような合方をしたのか,今のところわかっていません。
 文献によりますと,湯本救真(ゆもときゅうしん)先生が『漢方と漢薬』という漢方の医学雑誌の中で、「百日咳の治療には,長年の経験から小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方がよい」と述べています。これがわが国の医書に初めて記載されたものといわれています。この雑誌が出版されたのは昭和9年のことで,その後この処方が頻用されてくると、面倒なので処方の名を簡略化して柴朴湯と命名されるようになりました。湯本救真先生は,小柴胡湯と半夏厚朴湯の合方を百日咳に用いていましたが、この処方はかぜの咳とた喘息などに広く応用されるようになりました。
 では使い方を理解するために,小柴胡湯と半夏厚朴湯について考えてみましょう。小柴胡湯は,200年頃の中国の医書『傷寒論』に載っている処方です。傷寒というのは急性の発熱疾患のことで,『傷寒論』ではこの疾患の経時的な変化と,それに対処する処方を書いています。ですから,この中にある処方はかぜを引いた時に応用できます。
 さて小柴胡湯は『傷寒論』によりますと,かぜを引いて数日たって,寒け, 肩凝り,頭痛,節々の痛みなどかなくなり,発熱,食欲不振,嘔気,口の苦み,喉が渇く,めまい感がある時に用いよと書いてあります。
 この時とくに大切なことは,上腹部に胸脇苦満という現象が見られることです。胸脇苦満の現代医学的な意義はわかっていませんが,胸骨弓に沿って指を肋骨弓内に押し込むと,圧痛を伴った抵抗感と,息が詰まるような特異な苦痛を訴えます。これを胸脇苦満といっています。この現象は,かぜの場合には右側にみられることが多いので,かぜのストレスによる肝臓の腫大によるものではないかといわれています。また,胸脇苦満のある側の僧帽筋の上縁や,側頸部に圧痛や凝りがみられるので,横隔膜神経を介した内臓体壁反射として理解しようとする人もあります。いずれにしても小柴胡湯を用いる時のかぜは,扁桃炎や気管支炎を起こしていて,側頸部や胸部,上腹部の症状を訴えることが多いものです。
 では小柴胡湯構成生薬の薬効から,小柴胡湯がどのような作用をするのか考えてみましょう。
 柴胡(サイコ)は解熱,鎮痛,鎮静の作用があって,わが国では頻用される生薬です。サイコの薬理作用は,温熱中枢の興奮を鎮静させることによる解熱作用,鎮静,自発運動抑制,睡眠延長,鎮痛,抗痙攣などの中枢抑制作用,肝障害改善作用,抗炎作用,抗アレルギー作用,ステロイド様作用,あるいは抗ステロイド作用,ステロイド剤の副作用予防作用などがあるといわれています。
 黄芩(オウゴン)にも消炎解熱作用があります。そのほか利尿,利胆,抗菌作用がみられます。黄芩の有効成分にbaicaleinとbaicalinがありますが,その成分も薬理実験が詳しく行われています。抗炎作用,抗アレルギー作用,肝障害改善作用,prostaglandin生合成抑制作用などあります。柴胡と黄芩には肝障害改善作用がありますが,実験的にも臨床的にも,黄芩の方がこの作用が強いといわれています。ですから,中国では黄芩を肝炎の治療薬として用いています。
 人参(ニンジン)には,中枢神経系の興奮と抑制の作用があります。興奮作用としては,抗疲労,疲労回復,学習能力および識別能力の向上が認められています。一方,抑制作用には精神安定,解熱,鎮痛,血圧低下,抗痙攣作用があります。そのほか抗ステロイド作用,蛋白質,脂質,糖質,アミノ酸などの代謝合成に関与するとか,男性ホルモン増強作用,血液凝固抑制作用など,いろいろの薬理作用があると報告されています。
 半夏(ハンゲ)は中枢性,末梢性の嘔吐を抑制します。また鎮静,鎮咳,ストレス潰瘍の発症を防ぐ作用などが知られています。そのほか臨床では去痰や,咽喉の腫れをとるために用いています。
 甘草(カンゾウ)は鎮咳,去痰,鎮痛作用があり,そのほか甘草の主成分であるglycyrrhizinには肝細胞障害抑制作用や,抗炎,抗アレルギー作用が認められています。
 大棗(タイソウ)の薬理作用は最近注目されてきました。それは,大棗を投与するとcAMP値が増加するので,抗アレルギー作用があると考えられるからです。
 小柴胡湯は,以上述べたように生薬で構成されています。ですから小柴胡湯は急性,慢性の発熱疾患に十分対応できる薬だといえます。また発熱がなくても,肝,胆,胃疾患や,呼吸器疾患,精神不安定状態の鎮静化,アレルギー性疾患などに応用できる薬であることがわかります。
 一方,半夏厚朴湯は『金匱要略』に出ている処方です。『傷寒論』は急性発熱疾患の治療書でしたが,この本は慢性疾患の治療書です。半夏厚朴湯はこの医書の中で,婦人が咽の中に何かへばりついているように感じて,吐こうとしても吐けない,飲み込もうとしても飲み込めない,このような状態の時に用いる薬と書いてあります。現代医学でいうヒステリー球のようなものです。
 この処方の構成生薬は半夏,厚朴(コウボク),茯苓,生姜,蘇葉(ソヨウ)ですが,ほとんどの生薬の作用は述べましたので、厚朴と蘇葉の薬能について見てみましょう。
 蘇葉は解熱,発汗,鎮咳作用があります。また薬理実験で鎮静作用とかインターフェロンのinducerとしての活性があるといわれています。
 厚朴は鎮痛,鎮静作用があります。また薬理実験ではクラーレ類似作用があり,パーキンソン症候群によく用いられています。昔から腹部膨満感とか,喘息発作に用いていますが,気管支や腸の攣急がこの筋弛緩作用で緩められるためなのでしょう。咽の異物感は精神的に不安定な状態によくみられます。婦人と書いてありましたが,男性にもみられます。しかし女性の方がはるかに多いようです。この異物感は,咽の筋肉の攣急によると思われます。
 ですから蘇葉と半夏の鎮静作用で興奮状態を鎮め,厚朴で筋緊張を緩めてやれば,異物感はなくなるわけです。また,気管支喘息に半夏厚朴湯を用いることがあります。神経質で,こんな匂いを嗅ぐと発作が起こるのではないか,こんなことをすると発作になるとか,不安がっている患者に効果があります。このような喘息患者は咽に異物感を感じることが多く,よく咳払いをしています。また腹壁は薄く,上腹部の筋肉の緊張が強いので,ちょうどベニア板に触わるような手触りがします。脈も沈んでいて,脈拍も小さいことが多いようです。湯本求真先生が百日咳によいといっていましたが,これは半夏厚朴湯が気管支の痙攣を鎮めるためだと思います。
■現代における用い方
 では半夏厚朴湯と小柴胡湯を合方した柴朴湯について考えてみましょう。小柴胡湯は急性,慢性の気管支炎に効果があります。一方,半夏厚朴湯は咽喉部の異物応を治しますので,この両処方を合わせたものは,咽喉部に異物感のある咳に効くといえます。前に述べたように,咽喉部の異物感は筋肉の攣急があるためですから,気管支の攣急を伴っている咳にも応用できます。
 今一つ追加しなければならないことがあります。それはこのような筋肉の攣急を起こしてくる原因があるということです。病気が慢性化して精神的に不安定になってくる,あるいは性格的に精神的なストレスを発散できない状態であると,筋肉の攣急をひき起こしてくることが多いものです。
 ではこのような咳は,どのような病気の時にみられるのでしょうか。百日咳にも痙攣性の咳がみられます。しかし病気の初めからは用いません。まずephedrineを含んでいる麻黄(マオウ)の入っている処方を与えます。たとえば小青竜湯(ショウセイリュウトウ),麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ),あるいは射干麻黄湯(シャカンマオウトウ)などを最初に用います。病気が長びいてくると,患者に疲労感が出てきます。食欲は低下し,精神的に不安定になってきます。そのような頃から柴朴湯を用います。
 湯本求真先生は柴朴湯だけを用いていましたが,この時期になると咳嗽が激しくなり,呼吸困難もありますので,柴朴湯に桔梗(キキョウ),石膏(セッコウ),桑白皮(ソウハクヒ),山梔子(サンシシ)を加えて用いま功。この処方を滲咳湯(シンガイトウ)といいますが,百日咳ばかりでなく,小児の切れにくい痰と軽度の喘鳴を伴っている気管支炎にも用います。このように,柴朴湯は気管支炎でも初期よりも多少日数が経過している時に用います。
 その次に考えられる咳は,アレルギー性疾患の時です。アレルギー性鼻炎の咽頭部は発赤して,浮腫を伴っていることがあります。このような時には,咽喉部の異物感を訴えます。そして,しきりに咳払いをします。咳には痰がないか,あるいは少量の粘い痰が出ることもあります。柴朴湯はこのような咳にも効きます。
 柴朴湯がアレルギー性疾患に効果がある理由として,小柴胡湯にある柴胡,甘草,大棗のIgEの産生抑制作用,黄芩,大棗のmediator遊離抑制作用,黄芩,大棗,人参,生姜の抗mediator作用によるⅠ型アレルギー反応の抑制,柴胡,人参,甘草によるⅢ型反応の抑制,柴胡,人参,甘草,大棗,半夏によるⅣ型反応の抑制作用などによるといっている人もあります。また江田昭英教授は,Ⅳ型アレルギー反応モデルとしてマウスのpicryl chlorideによる接触性皮膚過敏症を用いて生薬の影響を検討し,厚朴,半夏,茯苓,大棗,甘草などに有意な抑制作用がみ現れ,とくに中国産の厚朴の作用は顕著であったと報告しておられます。厚朴,半夏,茯苓は半夏厚朴湯の構成生薬なので,柴朴湯には抗アレルギー作用のあることが実験的にも証明されました。
 さらに江田教授は,柴朴湯の水溶エキスでも同様の実験を行って,柴朴湯は効果層におけるlymphokineの遊離とlymphokineによる炎症,とくに後者を強く抑制することにより,Ⅳ型アレルギー反応関与の遅延型炎症を抑制することを明らかにされました。またステロイドの作用も増強するので,柴朴湯を併用すれば,ステロイド離脱も可能になることもわかりました。このことを裏づけるように,ステロイド使用に喘息患者が柴朴湯を長期併用していると,60%の症例にステロイドの減量や離脱が可能になったとの報告がなされています。
 Ⅳ型アレルギー反応の関与する喘息は,感染型に属するものが多いといわれています。柴朴湯は,発作の前後に発熱悪寒,咽頭痛などの感染徴候を伴う感染型の喘息に,アトピー型よりも効果があるとの塚本壮先生の報告と一致しているようです。
■症初呈示
 では2,3の症例をあげてみましょう。
 3歳になる男の子供,1年前からかぜを引くと喘息の発作が出てきます。現在リベザンを服用していますが,この数ヵ月,痰のない咳と喘鳴がよく出ます。食欲はあまりありません。痩せた神経質そうな癇の高い子供です。胸部には喘鳴が少し聞こえます。上腹部は張っていて,右側に胸脇苦満があります。口蓋扁桃は肥大しています。柴朴湯で調子がよくなり,半年後にはかぜを引いても発作が起こらなくなりました。この子供はアトビーの家系もなく,かぜを引くと発作が起こるので,感染型の喘息と考えられます。発作の程度は,現在のところでは軽いものです。柴朴湯は,癇が高くて神経質な軽症の喘息によく適応します。そして長期服用していると,体力がついてきて,性格も変わり,発作も起きなくなってきます。しかし発作が激しくなると,柴朴湯では効かなくなります。

喘息(2歳男児)
 次に2歳になる男児例をみてみましょう。夜中になると発作が起きてきます。いつも黄色の鼻汁があり,時々嘔吐を伴うような咳をします。口蓋扁桃は肥大しています。発作は,発熱が数日続いてから起こってきます。発作が起こつてくると,喘鳴と呼吸困難が起こり,母親が一晩中抱いています。柴朴湯服用後1ヵ月たちましたが,鼻閉以外は咳が少し軽くなつた程度であまり変わりません。ただ肘や膝に皮膚炎が少し出てきました。3ヵ月後,39℃の発熱後発作を起こしてきました。胸部全体に喘鳴が聞かれます。柴朴湯3回と,麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)を1日1回飲ませました。発作は数日で収まり,その後4年間この処方を飲み続けていますが,発作も起こらず,咳もなくなりました。この症例は混合型の喘息で,発作の程度は中等症と思います。
 このように発作が強くなると,麻黄(マオウ)剤を併用するとか,麻黄剤に切り替えるとよいようです。小青竜湯(ショウセイリュウトウ)はモルモット摘出気管平滑筋を弛緩させますが,サイボ決溏では前処置をしておけばhistamineによる収縮を抑制するという報告があります。この薬理実験は,発作の時は麻黄剤,発作のない時は柴朴湯で体力をつけて発作を予防する,という治療方式を支持するものだと思います。
 では柴朴湯をまとめてみましょう。神経質で,発作に対して不安を持っていて,癇が高い,体力があまり衰えていない喘息患者で,発作の程度も軽いものに,柴朴湯をまず考えます。扁桃肥大や,感染後に発作が起きやすいとか,胸脇苦満がある,上腹部が薄い板のように張っている腹証,時々咳払いをするなどの効状も参考になります。柴朴湯は体質改善薬ですから,長期にわたり服用させることが大切です。





※射干麻黄湯の通常の読みは、ヤカンマオウトウ



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎 :発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]
厚生省医薬安全局安全対策課長より通知された平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品 の使用上の注意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。

2) 偽アルドステロン症 :低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

3) ミオパシー :低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので観察  を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、  カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと

[理由]〔2)3)共〕
厚生省薬務局長よ り通知された昭和53年2月13日付薬発第158号 「グリチルリチン酸等を含有す る医薬品の取り扱いについて」 及び医薬安全局安全対策課長よ り通知された平成9年12月12日 付医薬安第51号 「医薬品の使用上の注意事項の変更について」 に基づく。


[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行う。 低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。



4) 肝機能障害、黄疸 :AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTPの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行なう。

 [理由]
本剤によると思われるAST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTPの上昇等を伴う肝機 能障害、黄疸が報告されているため。


[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用
過敏症:発疹、瘙痒、蕁麻疹

[理由]
本剤には人参(ニンジン)が含まれているため、発疹、 瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある 。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている 。

[処置方法]
原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。


消化器:口渇、食欲不振、胃部不快感、腹痛、下痢、便秘
[理由]
本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]

原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて適切な処置を行うこと。


泌尿器:頻尿、排尿痛、血尿、残尿感、膀胱炎
[理由]
厚生省薬務局安全課長より通知された平成5年9月27日付薬安第87号「医薬品の使用上の注 意事項の変更について」に基づく。
[処置方法]
直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと

2013年12月11日水曜日

清肺湯(せいはいとう) の 効能・効果 と 副作用

『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.69
除痰の剤

方名及び主治

八六 清肺湯(セイハイトウ) 万病回春 咳嗽門
○一切の咳嗽、上焦痰盛なるを治す。或は久嗽止まず或は労怯となり、若しくは久嗽声唖し、或は喉に瘡を生ずるものは、是れ火肺金を傷るなり。並びに宜しく此湯を服すべし。

処方及び薬能
茯苓 当帰 麦門冬各三 黄芩 桔梗 陳皮 桑白皮 貝母 杏仁 梔子 天門冬 大棗 竹茹各二 五味子 生姜 甘草各一

 陳皮、茯苓、桔梗、貝母、桑白皮、杏仁=皆袪痰の剤である。
 天門冬、麦門冬=肺を清うし、
 五味子=肺気を収め
 黄芩、山梔子=上熱を清うし痰火を退く、
 当帰、甘草=血脈を調え、逆気を和す。

解説及び応用
○ 此方は心火が肺金を剋して久しく咳嗽止まざるを治する剤である。上焦気管支に痰を生じ、肺熱のため咳嗽の止まらざるものに用いる。然れどもこの上焦の熱はやや虚状にして瓜蔞枳実湯の如く実熱の臓なるものではない。肺熱長びき咳嗽燥痰漸く痩羸を加え、肺結核に移行せるやを疑うときに用いて効がある。半夏を用いず、茯苓、貝母を用いて燥痰を潤す。百々漢陰は酸漿皮(サンショウヒ)(ホオズキの皮)を加えて妙なりという。

応用
①慢性気管支炎、②肺結核、③喘息。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.361 急性慢性気管支炎・肺結核・肺炎・気管支拡張症・喘息

83 清肺湯 (せいはいとう) 〔万病回春〕
 茯苓・当帰・麦門冬 各三・〇 黄芩・桔梗・陳皮・桑白皮・貝母・杏仁・山梔・天門冬・大棗 各二・〇 五味子・乾生姜・甘草 各一・〇

応用〕 慢性の経過をとった気管支炎・肺炎・肺結核等で、胸部に熱が残り、咳嗽・喀痰がやまぬものに用いるものである。
 本方は主として慢性気管支炎・慢性咽喉炎・肺炎・肺結核・気管支拡張症・気管支喘息・心臓性喘息などにも応用されることがある。

目標〕 呼吸器の内部に熱をもち、慢性の炎症を起こし、痰が沢山でき、激しい咳嗽が続き、しかも痰は粘稠でなかなか切れないというのが目標である。長びくと咽喉が痛んだり、声が彼たり、咽がムズムズするというようになる。痰の色は黄色のことも、青いことも、白いこともあるが、粘っていてなかなか切れにくく、喀出するのにも苦しむ。痰が出るまで激しい咳が続くものである。

方解〕 本方を構成している薬物は乱雑でこみ入っている。天門冬と麦門冬と五味子の三つが肺を潤し、肺熱をさまし、乾いた痰を潤して喀出を容易にさせる。また貝母・杏仁・桑白皮・桔梗・陳皮・茯苓等は協力してその袪痰の作用を強化する。黄芩と山梔子が胸中の熱をさますのである。当帰と甘草は血を潤し、気の上逆するのを和らげる。

加減〕 もしこの証で、熱が激しく、咳嗽が続いて、顔が赤くなり、身体にも熱感があって、血痰の出るときは、五味子・杏仁・貝母・桔梗を去って、芍薬・地黄・柴苑・竹茹・阿膠を加える。これを紅痰加減方と呼ぶ。古方の麦門冬湯加地黄・黄連・阿膠の証に似ている。

主治
 万病回春(咳嗽門)に、「一切ノ咳嗽、上焦痰盛ナルヲ治ス、或ハ久嗽止マズ、或ハ労怯トナリ、若クハ久嗽唖し、或ハ喉ニ瘡ヲ生ズルモノハ、是レ火肺金ヲ傷ルナリ。並ニ宜シク此湯ヲ服スベシ」とある。

鑑別
 ○麦門冬湯115 (咳嗽・粘痰切れにくい、大逆上気)
 ○小青竜湯 (咳嗽・稀薄な痰、切れやすい) 

参考
 矢数道明、清肺湯の運用について(漢方の臨床 九巻二号・続漢方百話)


治例
 (一) 気管支拡張症
 三六歳の男子。数年前より咳嗽があり、午前中、ことに起床後一時間ほどがひどい。痰も多く、たちまち痰壺が一杯になる。一年に二~三回、春秋に喀血するという。内科医からは気管支拡張症といわれていた。
 患者は色浅黒く、栄養状態はそれほど悪くはない。左背下部に「ラ」音がある。腹な中等度の弾力がある。清肺湯を与えたが、あまり変化はなく、力がついてくる感じがするという。
 三ヵ月ほどで痰が半減したので、引き続きのんでいるうちに、一日急に高熱が出た。いつもは大抵数日下がらないのに、今度は翌日平熱となり、いままでほど疲れないという。服薬後一〇ヵ月、体重も少し増し、一回も喀痰がなく、朝の痰も非常に少なくなった。それで服薬一一ヵ月目から勤務することになった。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)


 (二) 気管支喘息
 五八歳の男子。初診は昭和三九年三月二四日であった。主訴は昨年一二月初めに風邪をひき、なかなか治らないでいた。本年一月の末ごろから、呼吸が苦しくなり、せきと痰が出て苦しむようになった。左の背中が痛むことがあり、白いアワのような痰や黄色の痰が出たりする。
 この患者は数年前から血圧が高くなり、心臓が肥大しているといわれた。レントゲンで診てもらったが、結核の方は心配ないといわれたという。栄養は中等度、顔色は蒼白の方で、脈は弦、舌苔はない。腹は軟満、心下部に少し抵抗がある。胸部を診ると左側にとくにギーメンが多い。たしかに気管支喘息というものであろう。よって初めに喘息、咳嗽喀痰、泡沫様のものを目標にして、小青竜湯加杏仁・茯苓を与えた。一〇日分服用後再来のとき、ほとんど変わりがなく、せきや痰も出るという。痰の出かたをよくきいてみると、なかなか切れにくいというのである。左側の背痛を訴える所のあたりが、とくにギーメンが多い。これは気管支炎を併発しているものらしい。小青竜湯が効くはずなのに効かない。よって清肺湯に転方した。
 清肺湯にして、三日目から咳嗽喀痰が少なくなり、ほとんど出なくなり、とても楽になったということであった。患者は薬が切れたので来院したが、そのとき私は学会で休診していた。そのため三日間休薬したら、また少し痰とせきが出始めたので大急ぎでやってきたという。最近は毎日夕方、好きなテニスをやっているが、少しも苦痛がなく、快適な運動ができるようになったとよろこんでいる。
(著者治験、漢方の臨床 一一巻七号)

 (三) 心臓性喘息
 六五歳の婦人。太っているが顔色は蒼い。約三年前から心動悸と激しい呼吸困難とを訴え、咳嗽に悩まされてきた。痰はなかなか切れにくく、朝は濃い黄色い粘痰で、牛後は白い痰が出る。せき込みが激しくなると、お腹の皮が痛くなるほどで、そのようなときは顔にむくみがくる。
 三年来病名は心臓性喘息といわれていた。血圧は一七〇~一一〇、脈は沈んで力強く打っている。心臓は肥大し、心音はきわめて弱い。胸部には水泡音もギーメンも聴取されない。心下部にはお盆をのみこんだように石のように硬く張りつめて、心下痞堅ともいべきほどである。
 金匱の痰飲咳嗽篇に「膈間の支飲、その人喘満、心下痞堅、面色黎黒、其脈沈緊なる者木防已湯之を主る」とあって、本患者はこれに相当するように思われたが、患者は「私は桂枝の組み入れられた漢方の処方は必ず悪化しますから、入れない処方にして下さい」という。
 そこで私は痰が切れにくいということを唯一の目標として清肺湯を与えた。清肺湯を飲むと、四日目から非常に楽になり、痰の切れがよくなり、咳嗽喀痰がとても少なくなった。発病以来こんなに楽になったことは一度もないといって感謝された。本方を服用していると気持よく生活できるといつて服用を続けている。
(著者治験、漢方の臨床 一〇巻二号)

 (四) 老人性咳嗽・慢性気管支炎
 八五歳の男子。二年前に肺炎を病み、その後とかく痰持ちとなり、せきと痰が少しずつ出ていた。ちょうど一ヵ月前に風邪をひき、その後微熱と咳嗽が止まらない。
 体格普通、顔色は赤黒く、皮膚枯燥の状があり、痰がなかなか切れにくくて、切れるまでせきこむという。心下硬く、胸脇苦満がある。
 肺熱燥痰の証として清肺湯加柴胡を与えたところ、すっかりよくなった。今度はもうおしまいと思って観念していたが、もう少し長生きができるとよろこんでくれた。一ヵ月でほとんどよくなった。
(著者治験、漢方の臨床 九巻二号)


『勿誤薬室方函口訣解説(74)』 
北里研究所付属東洋医学総合研究所副長所 大塚恭男
清熱補気湯・清肺湯・清凉至宝飲・折衝飲

清肺湯
  次は清肺湯(セイハイトウ)です。龔廷賢の『万病回春』に出ており、「一切の咳嗽、上焦痰盛、或は久嗽止まず、或は労怯、或は久嗽声唖し、或は喉に瘡を生ずる者を治す。是れ火肺金を傷る、幷せてこの湯に宜し」とあります。
  上焦は三焦の中の上焦で、ここでは呼吸機能一般と考えてよいと思います。「呼吸器の疾患で痰が盛んに出るもの、あるいは咳が久しく続いて止まないもの、あるいは慢性の消耗した状態にあるもの、あるいは久しく咳が続くので声がかれたり、喉に傷ができたものを治すのである。これは火(炎症)が肺金をいためるものであり、そういう場合はこの湯がよろしい」といっているわけです。五行では肺は金であり、火は金を剋するという相剋の原理です。内容は「桔梗(キキョウ)、茯苓(ブクリョウ)、橘皮(キッピ)、桑白(ソウハク)、当帰(トウキ)、杏仁(キョウニン)、梔子(シシ)、黄芩(オウゴン)、枳実(キジツ)、五味子(ゴミシ)、貝母(バイモ)、甘草(カンゾウ)の十二味」です。
 『口訣』は「此の方は痰火咳嗽の薬なれども虚火の方に属す。若し痰火純実にして脈滑数(かつさく)なる者は、龔氏は瓜蔞枳実湯(カロウキジツトウ)を用うる也。肺熱ありて兎角せきの長引きたる者に宜し。故に小青竜加石膏湯(ショウセイリュウカセッコウトウ)などを用いて効なく労嗽をなす者に用う。方後の按に久嗽止まず労怯と成る者とあり。着眼すべし」とあります。
 この方は、火という表現をしており、前の熱と匹敵す識わけで、何らかの炎症症状ということですが、痰火で咳や痰が止まらない時の薬ですが、実火ではなく虚火であります。はげしい急性の炎症症状ではなく、遷延性のもので、たとえば肺気腫や気管支拡張症のようなものに使えるわけです。またたとえば肺結核など非常に長い経過をとった呼吸器疾患で、このような状態がとれないという場合にも使うことが可能であります。
 もし痰火が実の炎症である時、たとえば急性肺炎とか、その他急性疾患の炎症であって、こういう状態が起こってきたものであれば、脈は当然滑数(玉を転がすようで頻脈)であり、このような場合は『万病回春』の著者の龔廷賢氏は瓜蔞枳実湯を用いております。この処方も現在非常によく用いられる処方の一つですが、ヘビースモーカーで、がっちりした体質で咳や痰がとまらないという時に使われます。ここでいう清肺湯とは対照的なものである、といっているわけです。
 「肺に熱があり、咳の長引いたものによろしいから、小青竜加石膏湯などを用いて効果がなく、わずらわしい消耗性の咳をなすものに用いるとよい」というわけです。小青竜加石膏湯は清肺湯よりさらに慢性のケースが対象になると思います。
 現在でいうと、一番よく使われるのは気管支拡張症、肺気腫などですが、慢性気管支炎で長い経過のもの、古い肺結核で抗生物質などに抵抗して治らないものなどにも使うことがあります。天門冬(テンモンドウ)、麦門冬、五味子、枳実、梔子、桑白皮(ソウハクヒ)はいずれも呼吸器の慢性疾患によく使い、桔梗は袪痰作用があり、炎症疾患によく使います。これらがうまく配合された処方であるわけです。



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 間質性肺炎: 発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等があらわれた場合には、 本剤の投与を中止し、速やかに胸部X線等の検査を実施するとともに副腎皮質ホルモ ン剤の投与等の適切な処置を行うこと。また、発熱、咳嗽、呼吸困難等があらわれた 場合には、本剤の服用を中止し、ただちに連絡するよう患者に対し注意を行うこと。
[理由]  本剤によると思われる間質性肺炎の企業報告が集積されたため。
(平成9年12月12日付医薬安第51号「医薬品 の使用上の注意事項の変更について」)
 [処置方法]  直ちに投与を中止し、胸部X線撮影・CT・血液ガス圧測定等により精検し、ステロイド剤 投与等の適切な処置を行う。

2) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
3) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


4) 肝機能障害、黄疸: AST(GOT)、ALT(GPT)、Al‑P、γ‑GTP等の著しい上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認め  られた場合には投与を中止し、適切な処置を行う。
[理由]  本剤によると思われる肝機能障害、黄疸の企業報告の集積による。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等
[理由]  本剤には当帰(トウキ)、山梔子(サンシシ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、 下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

2013年12月8日日曜日

藿香正気散(かっこうしょうきさん)の効能・効果と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
藿香正気散
本方は消導の剤に属し、内傷と外感とを兼治し、発散の効力もある。多く夏季に用いられ、内生冷に傷けられ外暑湿に感じ、胃腸内に宿食・停水があって、そのた め腹痛・下痢・嘔吐、心下痞え、頭痛・発熱等があって汗のないものに用いられる。よく暑湿を発散し、停水・宿食を消導する効がある。これ等の諸症がなくて も、比較的実證の暑さあたりで、食欲不振・全身倦怠の者に用いて胃腸を調え、身心を軽快ならしめる効果がある。一方に於て食滞による小児の暁方の咳嗽、眼 疾・歯痛などに転され、また青年性疣贅の顔面に前発するものに、薏苡仁を加えて用いる。
方中の紫蘇葉・藿香・白芷等は表を解し、暑湿を発散し、白朮・茯苓・陳皮・半夏・厚朴等は宿食を消し、停水を去り、桔梗・大腹皮等はよく胸腹を疎通し、気を順らす。
本方は以上の目標に従って、夏季の感冒、中暑・夏季の急性胃腸カタル、小児の食滞による咳嗽及び疣贅等に応用される。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.72 夏かぜ・暑さあたり・急性胃腸炎・夏期下痢

18 藿香正気散 (かっこうしょうきさん) 〔和剤局方〕
 白朮・半夏・茯苓 各三・〇 厚朴・陳皮 各二・〇 桔梗・白芷 各一・五 
 蘇葉・藿香・大腹皮・大棗・乾生姜・甘草 各一・〇 

応用〕 あまり虚証でない体質者の中暑、または夏季の胃腸カタルなどに用いる。
 すなわち本方は主として夏の感冒・暑さあたり・吐き下し・暑さ負け・急性胃腸炎・夏の下痢等に用いられ、また婦人の産前産後の神経性腹痛・小児の食滞による咳嗽・眼疾・歯痛・咽痛に用い現れ疣には薏苡仁を大量に加えて応用される。

目標〕 内傷と外寒とを兼ねたのが目的で、外は夏期の風寒(冷房・扇風器なども含めて)に傷られ、内は生冷の飲食によって傷害され、食毒・水毒等のため頭痛・発熱・心下痞え・嘔吐・下痢・心腹痛を発し、汗なく脈腹ともに力あるものを目標とする。

方解〕 構成薬物は痰飲(水毒)を治する二陳湯が基礎で、なお表を発し、胃腸を調える芳香性揮発性の健胃剤を配剤したものである。
 脾の気を発越するという意味で正気散と名づけた。藿香は芳味の気によって胃の働きを助け社:胃口を開き胃の気を調正する。紫蘇と白芷は表を発して外感を発散し、茯苓・半夏・陳皮・甘草は二陳湯で、胃内停水を去り、嘔吐を止め、厚朴・大腹皮・桔梗等は気を順らし胃を開き、ガスによる腹満感を去るものである。

加減〕 本方の基原というべきものは、不換金正気散(半夏六・〇 蒼朮四・〇 厚朴・陳皮各三・〇 大棗・生姜各二・〇 藿香・甘草各一・〇) で、すなわちこの方に茯苓・桔梗・蘇葉・白芷・大腹皮を加えて、利尿発散の力を強化したものが藿香正気散である。
 原雲庵は不換金正気散に加減して五〇余方を作り、広く万病に応用したということで有名である。食毒と水毒による諸病に応用し、その範囲は広いものである。

主治
 和剤局方(傷寒門)に、「傷寒、頭疼、懀寒壮熱、上喘咳嗽、五労七傷、八般ノ風痰、五般ノ膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧(サンランショウギャク)、遍身虚腫、婦人産後血気刺痛、小児疳傷、並ニ皆之ヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ元(モト)嶺南方ニテ山嵐瘴気ヲ去ルガ主意ナリ、夫ヨリ夏月脾胃ニ水湿ノ気ヲ蓄ヘ、腹痛下利シテ、頭痛悪寒等ノ外症ヲ顕ス者ヲ治ス」とあり、
 餐英館療治雑話には、「霍乱ノ証ハ、外ハ暑ニ傷ラレ、内ハ生冷ニ傷ラルルニ非ザルハナシ。故ニ治療ノ法ハ内外ヲ兼治スルノ心得第一ナリ。感冒ニ用ユルモ此ノ心得ニテ、外ハ頭痛、発熱悪寒等ノ表アリ、内ハ腹痛下利、或ハ心下痞或は宿食アル等ノ内症アルモノナラバ、風寒暑湿ヲ問ハズ用フベシ、効アラザルハナシ。
 凡ソ食滞ニ因テ咳嗽スル者ニ効アリ。小児ノ咳嗽、風寒ニ感ジタル效(シルシ)モナク、咳スルモノハ多クハ食滞ノ所為ナリ。此方ニ宜シ。又小児食滞ニテ痰ヲ生ジ、五更(午前四時)ニ別シテ咳甚シキ者不換金正気散奇効アリ。食滞ハ多クハ心下ヨリ少シ右ニアリ按セバ自ラ分ルモノナリ。
 両耳腫痛ノ証、清火ノ剤ヲ用ヒテ無効ノ者ニ甚ダ効アリ。又虫牙痛ハ脾胃ノ食欝ナリ、加葛根連翹効アリ。又夜寝タル時ニ口ヲ開イテ眠ル人ハ口鼻ヨリ風邪入リテ大陰ニ中リ、咽痛スル者ニ甚だ効アリ。又大小児、顔面或ハ手足ニ夥シク疣ノ生ズル者、此方ニ大イニ薏苡仁ヲ加エテ、不日ニ払フガ如ク落ツル妙ナリ」とある。


鑑別
 ○不換金正気散 (中湿病・発散の力は弱い)
 ○五苓散 (中暑、中湿・水逆、煩躁) 

参考
 著者は本方を夏期の暑さにあたり、全身倦怠感・口渇・食欲不振を訴え、活動意欲消失のときに用いているが、暑さしのぎと食欲亢進・活動意欲の振興に効がある。


治例
 (一) 中暑
 八歳の男児。夏休中海水浴にゆき、暑気にあたり、かつ飲食度を失し、発熱頭痛嘔吐やまず、意識混濁して食を拒み、小児科病院に入院したが、飲食口に入らざること一週間に及んだ。脳膜炎の疑いありといわれ、予後不良を言いわたされた。これに対し本方を与えてよく嘔吐やみ、二日目には食欲が出て全く熱解し、一〇日間この方を続け服して全治退院した。
(著者治験)


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
藿香正気散(かっこうしょうきさん) 〔和剤局方〕

【方意】 脾胃の水毒脾胃の気滞よる心下痞・嘔吐・下痢等と、表の寒証による頭痛・悪寒・発熱等のあるもの。
《太陰病または太陽病,実証》

【自他覚症状の病態分類】

脾胃の水毒
脾胃の気滞
表の寒証・表の実証

主証 ◎心下痞
◎嘔吐
◎下痢


◎頭痛
◎悪寒
◎発熱







客証   心腹疼痛
  食欲不振
  飲食無味
  咳嗽 呼吸困難
  胸内苦悶感
  浮腫
  口渇 口粘
  疲労倦怠

○咳嗽
  眼痛
  耳痛
  歯痛
  咽痛
  無汗




【脈候】 脈力あり。時に軟緩。

【舌候】 白苔。

【腹候】 腹力あり。心下痞を伴う。

【病位・虚実】 脾胃の水毒が中心的病態であり、寒熱に片寄るところがないため太陰病に相当する。表の寒証が顕著な場合には太陽病位となる。肌力も腹力もあり、無汗のため実証である。

【構成生薬】 白朮3.0 半夏3.0 茯苓3.0 厚朴2.0 陳皮2.0 大棗2.0 桔梗1.5 大腹皮1.0 藿香1.0 白芷1.0 甘草1.0 生姜1漆 蘇葉1.0

【方解】 半夏・茯苓・白朮は脾胃の水毒を主る。生姜・大棗・陳皮はこれらに協力し、心下痞・嘔吐・下痢・食欲不振等に対応する。藿香の健胃・鎮嘔作用は半夏に協力し、一方表証に対しても有効に働く。白芷は主に頭痛を治し、蘇葉も表証に有効であり、藿香・白芷・蘇葉の組合せはすべて温性であって、協力して表の寒証を去る。厚朴・蘇葉・大腹皮は脾胃の気滞に作用し、心下痞・心腹疼痛・呼吸困難を治す。桔梗も気滞をめぐらせる補助的な作用があり、甘草は諸薬を補強し調和する。

【方意の幅および応用】
 A 脾胃の水毒脾胃の気滞:心下痞・嘔吐・下痢等を目標にする場合。
   夏負けの急性胃腸炎、小児の食滞による咳嗽、産前・産後の神経性腹痛
 B 表の寒証:頭痛・悪寒・発熱・咳嗽等を目標にする場合。
   夏の感冒
 C 表の寒証:眼痛・耳痛・歯痛・咽痛等を目標にする場合。
   眼疾患、耳痛、歯痛、開口して眠る者の咽痛

【参考】* 傷寒、頭痛、憎寒、壮熱、上端、咳嗽、五労・七傷、八般の風痰、五般の膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧、遍身浮腫、婦人産前産後血気刺痛、小児疳傷並びに皆之を治す。『和剤局方』

* 此の方は元「嶺南方」にて山嵐瘴気(山や湖沼地帯に発生する毒気)を去るが主意なり。夫より夏月脾胃に水湿の気を蓄え、腹痛下利して頭痛悪寒等の外症を顕する者を治す。世に不換金正気散と同じく、夏の感冒薬とすれども方意大いに異なれり。『勿誤薬室方函口訣』

*此方は内傷と外傷とを兼治し、発散の力がある。夏月に多く、内生冷に傷られ、外暑湿に感成;、胃腸内に食毒、水毒滞り、ために腹痛下痢、嘔吐、心下痞え、頭痛発熱して汗なきものに良い。本方の虚証は清暑益気湯である。食滞による小児の暁方の咳嗽、眼疾、牙痛、若年性疣贅(顔面手足に多発する)に転用される。 『漢方後世要方解説』

*「正気」とは脾胃の機能を奮い立たせるという意味。急性胃腸炎や夏の感冒に用いる。
  麻黄剤が胃に負担になるものの感冒で、表証が軽く、咳嗽の止まない場合に良い。


*夏負けで表証の少ない者は不換金正気散が良い。全く表証がなければ平胃散。

*疣贅に薏苡仁を大量に加えて用いることがある。

【症例】夏バテ
 我々訪中視察団が上海・蘇州・杭州・南京と中国の一番暑い地方を、一番暑い7月下旬に回って北京新橋飯店に到着したのは8月6日の朝であった。
 前夜の南京から夜行で蒸されて、疲れて、おまけに夜半に嵐で冷えこんで、調子の悪い連中は中医研究所に「患者として視察するため」出かけた。
 型の如く腹診、脈診、舌診、問診をして投薬して下さる。「針治療を希望する」というと、合谷・風池・天突に30分置針した。
 処方は藿香気正丸(ただし1日2次、毎次1丸)および六神丸(1日1回、10粒)であった。前者は蜜で錬った丸剤で拇指頭大の公私合営同仁堂製、後者は上海の公私合営雷允上国薬公司と書いてある。この治療で私は1日でほぼ治癒した。
 間中喜雄『漢方の臨床』13・11・38


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.72
消導の剤

方名及び主治

九二 藿香正気散(カッコウショウキサン) 和剤局方 傷寒門
○傷寒、頭痛、憎寒、壮熱、上喘、咳嗽、五労、七傷、八般の風痰、五般の膈気、心腹冷痛、反胃嘔悪、気瀉霍乱、臓腑虚鳴、山嵐瘴瘧、遍身虚腫、婦人産前産後血気刺痛、小児疳傷並びに皆之を治す。

処方及び薬能
白朮 半夏 茯苓各三 厚朴 陳皮各二 桔梗一・五 蘇葉一 霍香一 腹皮一 白芷一・五 甘草 大棗 生姜各一
 霍香、白朮、茯苓、陳皮、甘草、半夏、厚朴、桔梗、大腹=皆中を調える剤、
 紫蘇、霍香、白芷=表を疎す。

 杏仁=風痰喘嗽を治す。大腸の気閉を治す。
 厚朴、大腹皮=胃を開き、腹満感を去る。



解説及び応用
○此方は内傷と外感とを兼治し、発散の力がある。夏月に多く、内生冷に傷られ、外暑湿に感じ、胃腸内に食毒、水毒滞り、ために腹痛下痢、嘔吐、心下痞え、頭痛発熱して汗なきものによい。本方の虚証は清暑益気湯である。食滞による小児の暁方の咳嗽、眼疾、牙痛、小年性疣(顔面手足に多発する)に転用される。

応用
①夏月の感冒、②暑さ中り、③急性胃腸炎、④小児の食滞咳嗽、⑤疣には薏苡仁を大量加える。



【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり,副作用が起こりやすくなります)

次の人は服用しないでください
 生後3ヵ月未満の乳児。

 相談すること 

1.次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者に相談してください
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦または妊娠していると思われる人。
 (3)高齢者。
 (4)今までに薬などにより発疹・発赤,かゆみ等を起こしたことがある人。
 (5)次の症状のある人。
  むくみ
 (6)次の診断を受けた人。
  高血圧,心臓病,腎臓病
2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性がありますので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

[関係部位:症状]
皮膚:発疹・発赤,かゆみ

まれに次の重篤な症状が起こることがあります。その場合は直ちに医師の診療を受けてください。

[症状の名称:症状]
偽アルドステロン症:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
ミオパチー:手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。

3.1ヵ月位(急性胃腸炎、下痢に服用する場合には5~6回、感冒に服用する場合には5~6日間)服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

2013年12月6日金曜日

神秘湯(しんぴとう)の効能・効果と副作用

『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.57
理気の剤

方名及び主治

六一 神秘湯(シンピトウ) 外台秘要方
○久咳、奔喘、座臥することを得ず、並に喉裏呀声、気絶するものを療す。

文献
 紫蘇子湯と神秘湯及びその治験例
 漢方の臨床 第二巻 二号………高橋 道史

処方及び薬能
麻黄五 杏仁四 厚朴三 陳皮二・五 甘草 柴胡各二 蘇葉一・五
 麻黄=喘咳を治し、汗を発し、風寒を去る。
 陳皮=気を順らし、痰を消す。
 杏仁=風痰喘嗽を治す。大腸の気閉を治す。
 蘇葉=風寒、発表諸気を下す。



解説及び応用
○気管枝喘息の一般の薬方である。
 麻杏甘石湯より石膏を去り、半夏厚朴湯より半夏、茯苓、生姜を去り、これを合わせて柴胡、陳皮を加えたものである。呼吸困難を主として痰少なく、気鬱を兼ねたものによい。
 一般に腹力弱く、心下もそれほど緊張せず、喀痰少なくして呼吸困難を訴えるものに用いる。

○応用
①気管支喘息、
②肺気腫。



漢方精撰百八方
38.〔方名〕神秘湯(しんぴとう)

〔出典〕外台秘要 〔処方〕麻黄5.0 杏仁4.0 厚朴、陳皮各2.5 甘草、柴胡各4.0 蘇葉1.5(本来の神秘湯に厚朴、杏仁を加えた浅田流の処方である)

〔目標〕久咳、奔喘、坐臥するを得ず、並に喉裏呀声、気絶するものを療すとある。 喘息で呼吸困難を主とし、痰は少なく、気鬱を兼ねたもので、一般は腹力弱く、心下もそれほど緊張しないものに適用する。

〔かんどころ〕咳嗽、喘鳴があり、呼吸困難が主で、小青竜湯のような水毒症状がないものに適用される。

〔応用〕
(1)気管支喘息、麻杏甘石湯よりは呼吸困難が強く、痰が切れにくい場合に適用する。小児の喘息に適応症が多いように思われる。

(2)小児の感冒で、咳が出て喘鳴のあるものに適用する。

(3)肺気腫。強度の肺気腫には効果がないように思われる。軽度の肺気腫で、動くと呼吸困難のあるものに適用する。
伊藤清夫



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
43.神秘湯(しんぴとう) 外台秘要方
  麻黄5.0 杏仁4.0 厚朴3.0 陳皮2.5 甘草2.0 柴胡2.0 蘇葉1.5

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 やや慢性的に経過し,喀痰少なく,喘息発作と共に呼吸困難を訴えるもの。
 本方は麻杏甘石湯半夏厚朴湯合方に柴胡,陳皮を加えたような処方で,麻杏甘石湯麻黄湯で難治な神経症状や呼吸困難のひどい気管支喘息とか,あるいは以上の麻黄剤の適応する気管支喘息で長期連用の目的で用いられるものである。やや慢性に経過した症状に適し,喘息発作が著しい時期には無効で,この場合は他の適当な処方を考慮すべきである。

漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 麻杏甘石湯適応症に似て口渇や熱感がなく,半夏厚朴湯の症状にて,胃部の停滞圧重感が少ないといった両者をミックスした症候群を有し,しかも肝臓や胃腸の機能が悪い傾向のものによい。以上のことから本方は急性よりも慢性に経過するものによく適応する。患部の訴えや症状があたかも麻杏甘石湯半夏厚朴湯に見受けられるが,それは発作不安や発作時の呼吸困難なども愁訴するので混同しやすく,具体的には著しい口渇や頭汗などがなく,タンの出ないセキと呼吸困難を主訴とし,精神不安,喘鳴,胸腹部の不快感などを伴うことが多い。麻黄湯麻杏甘石湯小青竜湯などのマオウ剤不適の体質で,しかも麻黄配合処方が適応するが,前記処方が連用できないものに,本方を連続投与すればよい。
 類似症状の鑑別
麻黄湯 丈夫な体質のものの喘鳴,呼吸困難,喀痰がなく咳発作が激しい急性症状に用い,本方は若干体質が弱い慢性症状に応用する。
小青竜湯 たいして体力が低下していないものの,呼吸困難,喘鳴,咳発作,わりあい量の多い喀痰などの症候群がある急性,亜急性に用いる。
麻杏甘石湯 セキの発作が激しく,呼吸困難,喘鳴,発作時に口渇や頭部に発汗を認めるもので,丈夫な体質のものを対象に用いる。
苓甘姜味辛夏仁湯 小青竜湯の症状に全く似ているが体が弱く,貧血,冷え症で発作時に呼吸促迫の傾向があるもの。本方は内臓は弱いが,貧血,冷え症というほど極端に弱くはないものを対象にする。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○咳嗽,喘鳴,呼吸困難が目標であるが,小青竜湯証のような水毒がないもの。小児の感冒で咳が出て,喘鳴のあるものによい。

漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 呼吸困難を主訴とし,比袋的痰少く,気鬱の神経症を兼ねた気管支端息,肺気腫,小児喘息等に応用される。一般に腹力弱く,心下もそれほど緊張せず,わずかに胸脇苦満を認め,喀痰は少なく,呼吸困難を訴え,神経症を加味したものを目標とする。


勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は外台備急療久欬奔喘坐臥不得臥併喉裏呀声気絶方又名神秘湯とあるが原方にて王碩易簡方揚仁斉直指方東垣医学発明にも同名の方ありて二三味つつの加減あれば此方が尤捷効あり吾門厚朴を加る者は易簡に一名降気湯の意に本づく也。



『重要処方解説(83)』  
神秘湯(しんぴとう)・五虎湯(ごことう) 
 日本東洋医学会会長 室賀 昭三
■神秘湯・出典
外台秘要方
 神秘湯(シンピトウ)の出典は『外台秘要方(げだいひようほう)』であるといわれておりますが,それによりますと「久しく気嗽を患い,発する時は奔喘,坐臥することを得ず,並に喉裏呀声,気絶するものを療す」とあります。その意は「あまり痰の多くない咳が続いていて,発する時はぜいぜいいうこともあり,寝ていたりすわっていることができなくなる。喉の裏でぜいぜいいい,呼吸が辛くなるものを治す」ということですが,神秘湯という方名はなく「久嗽坐臥不得方」として掲げられた2方を取捨したもので,方中厚朴(コウボク)がないといわれていますが,厚朴があった方が効果があってよいだろうと思います。
 浅田宗伯(あさだそうはく)先生の書かれた『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』には「諸書同名の方があり(いろいろな本に同じ名前の処方が出ている),二,三味ずつ加減あれど(2,3味ずつ削ったり加えたりしたものがあるが),この方が最も捷効あり(この方が一番効果がある)。吾門,厚朴を加うる者は『易簡(えきかん)』に一名降気湯(コウキトウ)の意に本づくなり(浅田宗伯門下では厚朴を加えて使うけれども,『易簡』という本には降気湯という処方があって,それに基づいて浅田門では厚朴を加えて使っているのだ)』といっておられます。

■構成生薬・薬能薬理
 神秘湯は,麻黄(マオウ),杏仁(キョウニン),厚朴,陳皮(チンピ),甘草(カンゾウ),柴胡(サイコ),蘇葉(ソヨウ)からできており,神秘湯の構成生薬についてお話ししますと,主薬は麻黄であります。
 麻黄は麻黄科のEphedra cinicaあるいはその他同属植物の地上の茎を使うことになっておりますが,一説によると地下の根の方も使うということです。主成分はephedrineやmethylephedrineなどのアルカロイドを含んでおりまして,薬理作用は中枢興奮作用,呼吸中枢,血管運動中枢,大脳皮質および皮下のいろいろな中枢を興奮させる作用があるといわれておりまして,自発運動の亢進,呼吸数の増加,脳波覚醒パターンの持続など,興奮作用を示します。したがって麻黄の入っている薬を飲みますと,眠れなくなる人がありますし,また中枢性の痛覚閾値を上げて鎮痛効果をもたらします。
 またアドレナリンに似た交感神経興奮作用もありまして,散瞳,心拍出量増加,血管収縮,血圧上昇,気管支平滑筋の拡張作用があります。ですから麻黄の入っている薬を飲みますと,脈拍数がふえて,動悸が起こってきますので,重い心疾患のある人にこれを使う時は注意を要します。そのほかラットでは血圧降下作用,鎮咳作用がありますので,麻黄の入っている薬は咳の時に用います。また抗アレルギー作用もあるといわれておりますので,喘息のようなアレルギー疾患のものによく使われます。そのほかプロスタグランディン生成阻害作用やBUNの低下作用があるようであります。
 味は辛くてわずかに苦く,体の冷えを温める作用があります。喘息様の呼吸困難や咳嗽を止め,利尿作用,発汗作用があるといわれており,むくみを呈している時とか,関節の腫れている場合に,その水分を取るといわれております。それから悪寒のある場合,あるいは発汗の少ない場合,鎮痛作用を応用して身体疼痛,関節痛のあるときなど,いろいろな場合に使われます。
 次に陳皮ですが、ミカン科のウンシュウミカンまたはその近縁植物の成熟したものの果皮を乾燥させて使います。精油成分とかフラボン配糖体が含まれています。作用としては中枢抑制作用,抗痙攣作用,抗炎症,抗アレルギー作用があるといわれていますが,漢方では辛苦で温の作用があるといわれています。そして健胃剤であり,気剤であり,湿を逐うもので,気道の中や胃の中の水分を乾かす作用がありますので,いろいろな漢方によく配合されるものであります。
 柴胡はミシマサイコの根を使いまして,saikosaponinが含まれており,いろいろな研究がされています。そのほかステロール,脂肪酸が入っており,中枢抑制作用,平滑筋弛緩作用,抗消化性潰瘍,肝障害の改善作用があるといわれており,慢性肝炎のようなものには小柴胡湯(ショウサイコトウ)のような柴胡剤が頻用されます。そして抗炎症作用,抗アレルギー作用,ステロイド様作用などと,広く研究されており,われわれは1日も柴胡がなくてはいられないわけです。味は苦く微寒,すなわち微かに熱をさますといわれており,少陽病期に使われますので,熱をさます作用があります。主として心下部より季肋部にかけての膨満感を訴え,抵抗,圧痛の認められる症状を治すとか,また悪寒と熱が交互にくるもの(これは少陽病の熱型)あるいは腹痛,心窩部がつかえて硬く緊張しているものを治すといわれています。これらが肝疾患や胃疾患に柴胡を使う根拠になっているわけであります。
 厚朴はモクレン科ホオノキの樹皮であり,精油成分がたくさん入っております。作用と成ては筋肉の弛緩作用,抗痙攣作用があるといわれており,神経筋接合部の神経伝達をブロックして,クラーレ様作用が認められるということから,筋肉の緊張や痙攣する場合に厚朴の入っている薬を使います。それから鎮静作用があるといわれます。そのほか,消化性潰瘍を治す力があるとか,抗炎症,抗アレルギー作用が認められるとか,抗菌作用があるといわれており,味は苦辛で,温める作用があります。主として胸部,腹部の腫脹,膨満を治し,また腹痛も治すといわれています。私たちは神経の安定作用があるのではないかと思っております。
 杏仁はバラ科のホンアンズおよびアンズまたはその近縁植物の種子で,主要成分としてはアミグダリンが有名で,青酸配糖体があり,脂肪分,ステロイドが入っているといわれています。薬理作用としては卵胞ホルモン活性作用があるという報告があります。味は苦くて,体を温め咳をとめる,肺を潤したり,腸を潤して便通をつけるとか,また胸にたまった水分や痰などを治すとしております。したがって呼吸困難,咳嗽を治す,また息切れ,心窩部が膨満して痞えて痛むもの,胸の痛みを治すといわれています。
 蘇葉はシソの葉です。シソ科のシソの葉または近縁植物の葉および枝先を乾燥させて使います。精油成分が多く,よい香りがします。これには鎮静作用,免疫賦活作用,抗菌作用があるといわれ,味は辛く,体を温め,発汗作用があり,気を巡らす作用があります。シソの葉が入っているもので有名なのは香蘇散(コウソサン)でありまして,魚の中毒や魚に当たって蕁麻疹が出た時によく使いますが,シソの葉は魚の毒を消す妙薬であるといわれています。体の発汗によって表面にある病邪を逐ったり,気を巡らしたり,心窩部の痞えを消散する消化賦活作用があるとか,解毒作用があります。
 甘草はマメ科植物の根およびストロンで,grycyrrhizinが主成分でありまして,鎮静,鎮痙作用,鎮咳作用があります。またヨーロッパでは胃潰瘍の薬として使われまして,抗消化性潰瘍作用,あるいは胆汁排泄促進作用,肝炎に対する作用,あるいは抗炎症作用,抗アレルギー作用,ステロイドホルモン様作用など非常に多くの薬効が研究されております。これは甘くて,ほかのものと一緒に使うと,薬効を調整するとか,飲みよくなるということが認められており,急性病を治すといわれています。

■現代における用い方
 以上のような生薬の組み合わせの神秘湯はどんな時に使うかと申しますと,麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)から石膏(セッコウ)を去って,半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)より半夏(ハンゲ)と茯苓(ブクリョウ)と生姜(ショウキョウ)を去り,2方を合わせて柴胡と陳皮を加えたものであるという説明もあるくらいですので,麻杏甘石湯的な作用があると思いますし,厚朴,陳皮が入っていますから,半夏厚朴湯的な作用もあり,柴胡が入っていますので,小柴胡湯的な感じもあるということで,この薬を使えばよいのではないかと思います。
 以前に細野史郎先生のところで,神秘湯を気管支喘息に使って悪化したというご報告がありました。そのほかにもう1人報告がありました。1つは呼吸困難がひどくなって,呼吸が一時停止するくらいひどくなったといわれていますし,もう1つも咳がひどくなって,呼吸困難が加わって病気が悪化したという例も報告され,それ以来神秘湯を使う人が減ったといわれています。
 しかし私は神秘湯を大変愛用しておりまして,悪化した例を経験しておりませんし,効くという印象を持っております。鑑別で一番問題になると思うのは,小青竜湯(ショウセイリュウトウ)だろうと思います。小青竜湯も神秘湯も,ともに喘息に使いますが,小青竜湯は「心下水気あり」というのが一番の目標の1つでありまして,痰が多いというのが目標であります。ところが,神秘湯を使うのは呼吸困難が目標でありまして,腹証からいえば胸脇苦満があり,呼吸困難が強く,かぜをひいて咳が出ると喘息が悪化するというものに使って,私の感じでは非常に効果があるという印刷を持っています。ですから,患者hよく見て神秘湯を使えば,そんなに悪化を心配することはないだろうと思っております。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.89
神秘湯(しんぴとう) (外台秘要方)
 処方内容 麻黄五・〇 杏仁四・〇 陳皮二・五 柴胡二・〇 蘇葉一・五(一五・〇)
 通常浅田流処方に従って更に厚朴三・〇 甘草二・〇を加える。
 
 必須目標 ①呼吸困難 ②咳嗽 ③胃腸は丈夫

 確認目標 ①喀痰は少ない ②喘息発作恐怖症。

 初級メモ ①比較的病歴の古い喘息に用いる。同名異方が多いので治験例(ことにに古人の)を読まれるときは、内容薬味に注意する必要がある。
 ②後世方特有の投網式な内容で、陽証の麻黄、杏仁(麻杏甘石湯の主薬)に陰証の厚朴、蘇葉(半夏厚朴湯の主薬)と体質改善の意味の柴胡と胃腸薬陳皮を加え、広範囲の学管支喘息に効果のあるように計っていて,浅田流では、本方を長服すれば喘息は根治するという。
 ③ただし証を誤ると、逆に窒息寸前の呼吸困難を起すとの発表もある。そしてその原因は古方には絶対見当らない柴胡と麻黄の組合せによるのではないかという。確かにこの組合は配合禁忌の疑いがあると思われる。

 適応証 気管支喘息。肺気腫。悪阻。


 文献 「喘息を語る」 馬場 他 (漢方の臨床3、1、32。3、3、24。3、5、3)


【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3)本剤にはセッコウが含まれているため、口中不快感、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢 等の消化器症状があらわれるおそれがある。

その他の副作用
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器  食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等 
泌尿器 排尿障害等

自律神経系
[理由]
 本剤には麻黄(マオウ)が含まれているため、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興 奮等の自律神経系症状があらわれるおそれがある為。

[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


消化器
[理由]
 本剤には麻黄(マオウ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐等の消化器症状 があらわれるおそれがあり

[処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


泌尿器
[理由]
 本剤には麻黄(マオウ)が含まれているため、排尿障害等の泌尿器症状があらわれるおそれがある為。

[処置方法]   直ちに投与を中止し、適切な処置を行う。


『漢方医学』 Vol.29  No.2  2005
漢方重要処方マニュアル 基礎と実践の手引き
稲木 一元著  ( (財) 日本漢方医学研究所/青山稲木クリニック )

【付記】 神秘湯で喘息の悪化する例があるとする説について これは,細野史郎の 「大人の喘息に神秘湯を一日分与え, まさに窒息死にまで追いやらんとしたことがありました」  という発言,およびこれを追認する武藤の説 に始まるが, 細野の発言は説明不充分であり,武藤の論も解釈の分かれる 内容である.大塚敬節は 「神秘湯のせいじゃないでしょう」 と言い,矢数道明も 「私は相当数神秘湯を用いたが,まだひどい悪化例はない」  という.生薬アレルギーなども考えられるので細野の説を否定はできないが,頻度はかなり低いと思われる。

※細野史郎,大塚敬節,矢数道明,他:座談会・喘息を語 る.漢方の臨床,6 (5) :36~44,1959
※武藤敏文:神秘湯異変.漢方の臨床,7 (8) :16~17, 1960

2013年11月24日日曜日

参蘇飲(じんそいん) の 効能・効果 と 副作用

『重要処方解説Ⅰ』 47 麦門冬湯・香蘇散・参蘇飲 
日本東洋医学会/副理事長 山田光胤 先生

参蘇飲

 参蘇飲も『和剤局方』にある処方であります。
 処方の内容は,紫蘇葉(シソヨウ),枳実(キジツ),桔梗(キキョウ),陳皮(チンピ),葛根(カッコン),前胡(ゼンコ),半夏(ハンゲ),茯苓(ブクリョウ),人参(ニンジン),大棗(タイソウ), 生姜(ショウキョウ),木香(モッコウ),甘草(カンゾウ)の13種類の組み合わせになります。証の概略は,先ほど申しましたように,少陽病の時期であります。風邪,感冒でも,数日ないし1週間前後長びいた時です。そういう場合で,胃腸のごく弱い人に使うのであります。
 使用目標はしたがって,風邪をひいたり,熱が出て頭痛,咳,喀痰などを伴い,あるいは喘鳴を伴っておりますが,胃腸がふだんから弱いためと,病気が進んで少陽病の時期になっているために,心窩部がつかえたり,張ったりし,時には吐き気がしたり,水のようなものを吐いたりする時に使うわけであります。
 もう少し説明をしますと,参蘇飲が合うような人は,ふだんから胃腸が弱くて,胃内停水があるような人であります。風邪をひいて熱の出始めには香蘇散などを使うとよいのですが,それが長びいて少陽病の時期になった時に,普通ですと小柴胡湯であるとか,柴胡桂枝乾姜xzなどを使えばよろしいのですが,ふだんから胃腸虚弱症が伴って胃が悪いというような時に参蘇飲を応用するわけであります。
 したがって応用として一番使いますのは,風邪,感冒,またはそれに伴う気管支炎,あるいは胃の弱い人の気管支喘息などであります。また食欲不振を伴う神経症,たとえば神経性不食症などに使えることもあります。
 症例については省略し,鑑別を申し上げます。すでにお話ししましたように,初期の発熱でしたら香蘇散を使うわけでありますが,少し日数がたった時にこの処方を使いますので,この処方の周辺には少陽病に使う処方がいくつかあります。そこで虚実に従って使い分けるわけであります。とくにふだんから胃腸が弱いというところ目標にしますと,参蘇飲を使う機会は非常に多いのであります。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
60 参蘇飲(じんそいん) 〔和剤局方・傷寒論〕
 半夏・茯苓各三・〇 陳皮・葛根・桔梗・前胡(または柴胡)各二・〇 蘇葉・人参・枳殻・木香・大棗各一・五 甘草・乾生姜各一・〇

 「四時の感冒、発熱頭疼、咳嗽声重く、涕唾稠粘、中脘痞満して痰水を嘔吐するを治す。中を寛(ゆる)め、膈を快(こころよ)くし、痰咳喘熱に効あり。」
 胃の弱い人で、葛根湯や桂枝湯が胸に痞(つか)えるという、感冒に咳嗽を兼ねたものによい。
 感冒・気管支炎・肺炎・酒毒・気鬱・悪阻などに応用される。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
参蘇飲(じんそいん) 〔和剤局方〕

【方意】 肺の熱証による咳嗽・濃厚な喀痰等と、脾胃の虚証脾胃の水毒による悪心・嘔吐・心下痞等のあるもの。しばしば表の寒証による肩背強急・頭痛・悪寒・発熱等と,気滞による精神症状を伴う。                                                 《少陽病,虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

肺の熱証脾胃の虚証
脾胃の水毒
表の寒証

気滞による精神症状
主証 ◎咳嗽
◎濃厚な喀痰



◎悪心 ◎嘔吐
◎心下痞







客証 ○胸内苦悶感
○煩熱 肌熱
  粘痰
  乾咳


   食欲不振○頭痛
○肩背強急
○悪寒 発熱
○感情不安定
○抑鬱気分


【脈候】 浮やや緊・細数・沈数。

【舌候】 乾湿中間で微白苔。

【腹候】 腹力中等度。心下痞硬がしばしばみられる。

【病位・虚実】 正証では肺の熱証が主であるため少陽病、表の寒証も顕著であれば太陽病との併病である。脾胃の虚証・脾胃の水毒があるため消化器の虚弱者にも用いることができる。脈力および腹力より虚実中間を中心にして用いる。

【構成生薬】 半夏3.0 茯苓3.0 桔梗2.0 陳皮2.0 葛根2.0 前胡2.0 人参1.5 大棗1.5 蘇葉1.0 生姜1.0 木香1.0 甘草1.0 枳殻1.0

【方解】 人参には滋養・強壮・滋潤作用があり、茯苓には利水作用がある。人参・茯苓の組合せは脾胃の虚証を治す。一方半夏・生姜の組合せは脾胃の水毒の動揺に対応し、人参・茯苓と共に悪心・嘔吐・心下痞・食欲不振を治す。陳皮・木香・大棗にも健胃・整腸作用があり、枳殻には腹満に対応すると共に健胃作用があり、以上すべての構成生薬は脾胃の虚証に有効に働く。葛根は表位に作用し蘇葉の温性と共に表の寒証に働き、肩背強急・悪寒・発熱等を治す。前胡・桔梗は肺の熱証に対応し、咳嗽・喀痰を去る。また、蘇葉・前胡の組合せは気滞を発散させ、感情不安定・抑鬱気分を解消する。甘草は諸薬の作用を増補する。

【方意の幅および応用】
 A 肺の熱証表の寒証:咳嗽・喀痰・肩背強急・悪寒・発熱等を目標にする場合。
   感冒、アレルギー性鼻炎、インフルエンザ、気管支炎、肺炎
 B 脾胃の虚証脾胃の水毒:悪心・嘔吐・心下痞等を目標にする場合。   急性胃炎、妊娠悪阻、二日酔
 C 気滞による精神症状:感情不安定・抑鬱気分を目標にする場合。
   ノイローゼ、抑鬱気分

【参考】*感冒発熱頭疼を治す。或は痰飲凝結によって、兼ねて以って熱を為すに並びに宜しく之を服すべし。能k中を寛くし、膈を快くし、脾を傷ることを致さず。兼ねて大いに中脘痞満、嘔逆悪心を治す。胃を開き食を進むること、以って此に踰(こ)ゆることなし。小児童女亦宜しく之を服すべし。
『和剤局方』

*此の方は肺経の外感を発散し、内傷を兼ねて脾胃調和せざるを治するものである。四季の感界験信r発熱、咳嗽、痰飲を兼ね、飲食による内傷もあ責、中脘痞満、嘔吐、悪心等のあるものによい。胸膈を利して飲食を進めす。葛根湯を嫌うもの、又麻黄剤の用い難きもの、小児、老人、虚人、妊婦等の感冒、咳嗽によく用いられる。転じて気鬱、酒毒、悪阻等にも使用される。
『漢方後世要方解説』

*本方は元来脾胃の虚弱な者が感冒に罹患し、咳嗽が顕著になったが、桂枝湯や葛根湯では心下に痞えるというものに良い。

*森道伯翁がスペインカゼに本方を用いて著効を挙げている。肺熱(脈数・濃厚な喀痰・粘痰・咳嗽・肌熱の強いもの)に用い、肺寒(鼻汁・脈遅)には不適当である。胸内苦悶感・重篤感ざある。こじ罪た感冒・肺炎に良い。


【症例】肺結核と結核性腹膜炎の合併
 33歳の主婦。肺結核に腹膜炎を併発し、3ヵ月程入院生活もしたがますます衰弱を加え容態悪化するばかりなので自宅に戻っていた。右肺は全面濁音で随所に湿性のラッセルを聴取し、熱は39℃を上下し、1日中烈しい咳嗽に苦しみ、腹は太鼓のように張って腹水が蓄っている。それに自汗盗汗、食思全く不振と来ている。脈はこ英病の最も危険な沈細数という、まず以て不治の証候が悉く備わっているものである。このような患者に咳嗽を主とした胸膈の薬方ではほとんど失敗であるから、まず腹中より先にする必要がある。激剤は用いられぬからと『回春』皷張門にある行湿補気養血湯を与えた。これがある程度奏効してまず食欲が進み熱が徐々に下り、咳嗽も減少して来た。その後参蘇飲を用服しているうちに全く蘇生したように健康体になってしまったのである。2年間で廃薬して家事を切り廻して些の疲労もなかった。
 矢数道明『漢方と漢薬』7・1・54

慢性気管支炎
 60尚の女性。やや肥満型で毎日孫の子守をしている。生来元気であまり大きな病気をしたこどがない。昨年春にカゼを引いて、それ以来多少良くなったり悪くなったりして、すっかり治ることはない。
 昭和45年12月4日の初診で、熱はなく主訴は咳嗽である。痰は白く量も少なくて、喀出もあまり困難でない。胸部は呼吸音少し粗で乾性ラ音を聴く、そのほかは特別の所見なし。鎮咳袪痰剤を投与しそのうちに良くなると思ったが、1ヵ月経過しても駄目であった。そこで、胸部XP検査を行ったが、異常なかった。
 患者は、発病以来数軒の医師を転々として、その都度色々と検査をしたが異常なく、感冒とか慢性気管支炎の診断で治療を受けていた。昭和36年1月9日、参蘇飲を出し3日間の服用で非常に良くなり咳もほとんどなくなった。再発をおそれてしばらくこの薬を続けたいと希望したので、20日分与えた。その後現在まで発病していない。
山本厳『漢方の臨床』18・6-7合併号・50


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.47
表裏の剤
方名及び主治

四二 参蘇飲(ジンソイン) 和剤局方 傷寒門
○感冒発熱頭疼を治す。或は痰飲凝節に因って兼ねて以って熱を為し、並びに宜しく之を服すべし。能く中を寛くし、膈を快くし、脾を傷ることを致さず、兼ねて大いに中脘痞満、嘔逆悪心を治す。胃を開き食を進むること、以って此に踰(こゆることなし、小児童女亦宜しく之を服すべし。

文献
 参蘇飲と肺炎
 「漢方の臨床」 第五巻 五号………細野 史郎

処方及び薬能
半夏 茯苓各三 陳皮 葛根 桔梗 前胡各二 蘇葉 人参 枳殻 木香 甘草各一 大棗 生姜各一・五
 桔梗、前胡、蘇葉、生姜=肺経を発散し、
 前胡、生姜、蘇葉、茯苓、葛根=組んで脾経の風を追い、
 人参、茯苓、甘草=脾を補う。
 陳皮、半夏=痰を除き嘔を止む。
 枳殻、桔梗=膈を利し、木香気を廻らす。



解説及び応用
○此方は肺経の外感を発散し、内傷を兼ねて脾胃調和せざるものを治するものである。四季の感冒にて発熱、咳嗽、痰飲を兼ね、飲食により内傷もあり、中脘痞満、嘔吐、悪心等あるものによい。胸膈を利して飲食を進める。
葛根湯を嫌うもの、又麻黄剤の用い難きもの、小児、老人、虚人、妊婦等の感冒、咳嗽によく用いられる。転じて気欝、酒毒、悪阻色にも使用される。

○応用
①感冒、
②気管支炎、
③肺炎の軽症、
④酒毒、
⑤気欝の症、悪阻。



『活用自在の処方解説』 秋葉 哲生著 ライフサイエンス社刊

【効果増強の工夫】悪寒、呼吸困難など表寒の症候が強ければ、麻黄附子細辛湯を少量加味す る

【各種口訣の追加】
●   この方、肺熱咳嗽、肌熱の強きを標的とすべし。肺寒咳嗽の者は用ゆるこ とを禁ず。
誤り用ゆれば、即時に害は見えねども虚労に変じて死す。このこと謙斎戒められて、
参蘇飲の用い損じ、労咳になること世上に間々 あること心得べし。
肺寒の証はしばしばくさめし、鼻に清涕を流し、脈遅 なり。
( 『餐英館療治雑話』 目黒道琢)

●  この方を用いる目的は、肌熱の痰咳を目的に用いる方なり。
参蘇飲の脈は 沈数か、細数かなるべし。もし大数などには効無し。
( 『経験筆記』 津田玄仙)

●  参蘇飲の汗、汗出ずること久しくして、参耆等の薬を用いて効あらず。汗 乾けばすなわち熱す。これ風邪経絡に伏す。しばらく参蘇飲を与えれば病 やむ。 (同)

 ●  感冒に痰を挟みたる者に用ゆ。雑証すべて痰を目的にして用ゆ。中風の風 寒に感冒するに用いる定席なり。本方に中風の主治あり。また痰を目的と して用ひたるものとみゆ。
 ( 『漢陰臆乗』 百々漢陰)



上田ゆき子先生の口訣(日本大学医学部附属板橋病院)
女性であまり胃腸が丈夫でない人の風邪
香蘇散と使い分けを迷いますが、
私は香蘇散は少しの寒気やだるさなど体表の軽い症状の場合に用い、
参蘇飲は咽頭痛や胃腸症状などが明らか場合と使い分けています。
いずれにしてもやはりどちらも女性向き。


『かぜの隠れた名処方 ~その2 参蘇飲~』
織部 和宏織部内科クリニック院長

に言わせると元来、脾胃気虚体質で日頃は四君子湯や六君子湯を処方したくなる、或いはしているタイプの人が風邪をひき香蘇散の時期を過ぎ、表証はまだ残っているものの少陽病期に半分は入っている人の感冒に使用すれば良い。葛根湯合小柴胡湯加味の虚証用の方剤である。こういうタイプの人は麻黄剤は勿論の事、柴胡でも胃にくる事があり、それで前胡(セリ科のノダケなどの根)を柴胡にかえて使用していると考えられる。  よって構成生薬を分かりやすく整理すると、六君子湯から朮を抜き、前胡、葛根、蘇葉、枳実を加味した内容である。そこでツムラの手帳では、「胃腸虚弱の人(六君子湯タイプ)の感冒で、すでに数日を経て(香蘇散の時期はすでに経って)、やや長びいた場合に用いる」。  1)     頭痛、発熱。(葛根、蘇葉、前胡)、咳嗽、喀痰(半夏、桔梗)などを伴う場合。 2)     心下部の痞え、悪心嘔吐(六君子湯加枳実)となる訳である。


『勿誤薬室方函口訣解説(69)』  (※同名異方の解説なので注意)
北里研究所付属東洋医学総合研究所医長 安井広迪

参蘇飲
 まず参蘇飲ですが、宋代の『和剤局方』の中に同じく参蘇飲という処方があり、これは現在、風邪などに比較的よく使用しておりますが、ここで述べる参蘇飲はそれとはまったく別のもので使用する機会はほとんどありません。条文は、
 「産後、面黒く、すなわち悪血および肺喘を発し死せんと欲するを治す。人参(ニンジン)、蘇木(ソボク)左、二味。一名山査湯(サンザトウ)。
 此の方は血喘を主とす。また産後、瘀血、衝心のものにも用う。証によって即効あるなり」とあります。
  これで参蘇飲というのは、人参と蘇木からそれぞれ一字ずつとって名づけられたものであることがわかります。記載されている適応症は、出産後出血過多、ある いは自律神経など、何らかの理由により呼吸困難を訴えてくるもので、それに対して強力な補気薬である人参と止血、活血作用のある蘇木を組み合わせ、速やか に病態を改善しようという意図をもっていると思われます。この二味にさらに麦門冬(バクモンドウ)を加えますと、蘇木湯(ソボクトウ)という処方になり、 やはり産後の呼吸困難に、とくに中国でしばしば使用されております。


【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


その他の副作用
過敏症:発疹、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
  本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。

2013年11月19日火曜日

五虎湯(ごことう) の 効能・効果 と 副作用

和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
五虎湯(ごことう) 〔万病回春〕

【方意】 肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽等と、上焦の熱証による自汗・口渇等のあるもの。                                                 《少陽病,虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

肺の水毒上焦の熱証

主証 ◎呼吸困難
◎喘鳴
◎咳嗽


◎自汗
◎口渇







客証 ○心悸亢進

   息切れ


   手足冷
   煩悶感
   伏熱(無大熱)
   頭痛 頭重

  



【脈候】 弦・やや浮・やや緊。

【舌候】 乾燥した白苔。

【腹候】 腹力中等度。

【病位・虚実】 麻杏甘石湯と同じく、上焦の熱証と肺の水毒よりなるため少陽病に相当する。脈力も腹力もあり実証である。

【構成生薬】 麻黄4.5 杏仁4.5 甘草1.5 石膏8.0 桑白皮1.5

【方解】 本方は麻杏甘石湯に桑白皮を加えたものである。桑白皮は上焦の熱証を伴う肺の水毒に対して用い、鎮咳・利尿・消炎・解熱作用がある。本方意の構成病態は麻杏甘石湯証と同じく肺の水毒と上焦の熱証であるが、本方意では肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽が強い。

【方意の幅および応用】
 A 肺の水毒:呼吸困難・喘鳴・咳嗽等を目標にする場合。
   百日咳、喘息、気管支拡張症、肺気腫
 B 上焦の熱証:自汗・口渇・発熱等を目標にする場合。
   感冒、気管支炎、肺炎

【参考】*傷寒端息(呼吸困難)を治す。又虚喘急を治す。先に此の湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁を用う。『万病回春』

*此の方は麻杏甘石湯の変方にして喘急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風(ジフテリア)は一種の急喘にして此の方の症に非ず。別に考究すべし。『勿誤薬室方函口訣』



【症例】慢性気管支炎
  明虎湯の治験に古い思い出がある。その頃小学5年生の子供が喘息で、その父が内科医師であったが、どうしても全治せず、私の漢方治療で全治したのであった。その病状は、呼吸困難はなかったが、喘鳴甚だしく呼吸するごとに喘々として苦しがっていた。胸部には笛声や水泡音が著明であった。喘息というよりは慢性の気管支炎ともいうべき症状であったと記憶している。五虎湯を3ヵ月程度連服して全治したのである。
 ところがその時の患者から今年電話で「8歳になる子供が喘息で苦しんでいるから、昔私が載いた漢方薬を是非送ってもらいたい」とのことである。そして彼が言うには、親子三代先生の御世話を受けるとは想像もしなかったという。彼の母親もその昔、胃痙攣で解急蜀椒湯で治したことがあった。五虎湯でこの小児も快方になったとの礼状があった。 高橋道史「漢方の臨床』11・10・14

小児喘息
 5歳の男子。生まれつき弱い子であった。生まれた翌年の秋にカゼを引いて、それから咳嗽が続いて小児喘息だといわれた。あるいは慢性気管支炎かも知れないという医師もあった。平常も咳込みがあるが、カゼを引くと激しくなる。ちょうど百日咳のときのように引き続いて、咳込んできて、激しいときは前こごみになり、赤い顔をして汗ばむほど苦しむのであった。栄養は普通で、顔色もそれほど悪くはない。便通は1回、偏食で大体が食欲がない。口渇はそれほどではないという。
 このような激しい咳込みで、自汗、口渇のあるときは麻杏甘石湯の適応証である。一般にこれに二陳湯を合方し、更に桑白皮を加えて五虎二陳湯という方名として用いるのが浅田流の常套方である。即ちこの患者にもこの五虎二陳湯として用いた。
 10日分の服用により喉喘はすっかり治った。そして食欲が出て、今までは怒りやすく、興奮しやすかったのがおとの成くなったといって、本人はもちろん、家人がとても喜んでくれた。この子はそれ以来生来の咳込みから解放されて見違えるほど丈夫になった。
 麻杏甘石湯に桑白皮を加えたのが五虎湯である。これに二陳湯を加えると、胃の受け具合が良く、胸にもたれず、胃中の停痰を去り、子供は喜んで服用するようである。
矢数道明『漢方の臨床』11・6・18




『重要処方解説(83)』  
神秘湯(しんぴとう)・五虎湯(ごことう) 
 日本東洋医学会会長 室賀 昭三

■五虎湯・構成生薬・薬能薬理・用い方
 次は五虎湯(ゴコトウ)について申します。これは麻杏甘石湯という麻黄,杏仁,甘草,石膏の『傷寒論(しょうかんろん)』に出ている古方に,桑白皮を加えたものですが,麻黄はephedrineが入っているので鎮咳作用がありますし、杏仁も鎮咳作用,去痰作用があり,甘草は薬効を調和するもので,石膏は体の熱を冷やす薬でありまして,これに桑白皮を加えたものが五虎湯です。
 桑白皮は桑または同属植物の根の皮でありまして,フラボノイドやトリテルペンが入っており,鎮痛,抗炎症作用,インターフェロン誘起作用とか,血圧降下作用というものが認められ,味は甘く,辛く,冷やす作用がありまして,昔から咳を治す薬として広く使われております。ですから,麻杏甘石湯に鎮咳作用を加えて強くしたものが五虎湯であります。
 麻杏甘石湯は味があっさりして,飲みやすい薬方ですが,それに味の甘い桑白皮を加えて,さらに鎮咳作用を強くしたものです。使用目標は麻杏甘石湯も五虎湯もそれほど差はなく,大人に使う場合もありますが,子供の喘息や気管支炎に使われることが多いようです。


『勿誤薬室方函口訣解説(33)』 日本東洋医学会理事 中田敬吾
五虎湯
 五虎湯の出典は『万病回春』です。「傷寒、喘息、喘急するを治す。又虚喘急するを治す
るに先ずこの湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁(ショウセイリュウトウカキョウニン)を用いる。即ち麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)方中加桑白(ソウハク)、もと細茶(サイチャ)あり、今必ずしも用いず」と主治を述べております。とくにむずかしい言葉もありませんので、大体意味は理解できると思います。
 傷寒、いわゆる急性の症状のはげしい熱病であって、喘鳴があり、呼吸困難を来たしている状態を治し、かつまた虚証の端鳴と呼吸困難にもまずこの処方を用いて、表に存在する邪気を散じよという意味であります。虚証の場合、その急性症状期に五虎湯を用い、その後は小青竜湯加杏仁を用いよと記されています。
 『口訣』には「此の方は麻杏甘石湯の変方にして端急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風は一種の急喘にして此の方の症に非ず青:別に考究すべし」と記されています。ここでいう馬脾風とは、小児に起きる、急性に喉がつまって、呼吸困難を伴う病気で、今の咽喉ジフテリアなど、喉の炎症に相当する疾患です。これに対しては『外台秘要』の四物湯(シモツトウ)や小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)、あるいは半夏散及湯(ハンゲサンキュウトウ)などが用いられております。この口訣に関してもとくに解説は不要と思います。
 この処方は『傷寒論』の麻杏甘石湯とともに、気管支喘息に頻用され、効果の高い処方であります。処方中の麻黄は、成分中にエフェドリンを含有し、強い鎮咳効果をもっております。また桑白皮(ソウハクヒ)も袪痰鎮咳の効果にすぐれております。『口訣』中に「小児に最も効あり」と記されていますが、小児の喘息とみれば、まず五虎湯といわれるぐらいに、小児喘息に応用し、かつ有効率の高い処方であります。麻杏親石湯と本処方は、ほとんど同じ目標で用いていますが、喘息発作の時、頓服として用いる場合は、より薬味の少ない麻杏甘石湯の方がよいと思います。
 喘息の治療につ感ては、小児、成人を問わずファーストチョイスにあげられる処方がこの五虎湯あるいは麻杏甘石湯、および種々の文中に出ている小青竜湯(ショウセイリュウトウ)であります。小青竜湯については、テキスト一三五ページに記されていますので、それを参考にしていただければよいと思います。この両処方は、いずれも麻黄を含んでおりますが、構成薬味は大きく違っております。しかし実際の臨床の場ではなかなか鑑別が困難な場合が多いものです。
 以前に私たちの診療所で、喘息治療の統計調査を行なっていますが、その結果をもとに、両処方の鑑別を簡単に述べることにします。まず呼吸困難については起坐呼吸で強度の呼吸困難を症するものは、麻杏甘石湯で二二・五%、小青竜湯で一二・九%であり、麻杏甘石湯の方が強度の呼吸困難に、より効果的でした。
 一方の小青竜湯の方は、くしゃみや水鼻が多く、唾状の薄い痰が多く、小便も近いなど、麻杏甘石湯に比べると冷えや水毒状態をより強く認めたわけであります。さらに腹証においても小青竜湯の場合は、小建中湯(しょうけんちゅうとう)に似た腹直筋緊張型を呈すことが多いのですが、麻杏甘石湯は心下部に幅広く緊張を認めます。この心下部に幅広く緊張を認めるのは、喘息発作の強い時によく認められ、発作が軽減してくると、心下部の緊張がなくなってきます。
 小青竜湯の場合、心下部に振水音を認める場合も多く、この点からも麻杏甘石湯あるいは五虎湯よりも小青竜湯の方が、より水毒症状が強い時に適応することが推察できます。
 麻杏甘石湯および五虎湯と、小青竜湯の簡単な見分け方は、症状の上で痰の少ないヒィヒィという呼吸困難状の発作のある場合は、麻杏甘石湯の方で、痰が多く、ゼイゼイという喘息発作には小青竜湯がよいといえます。しかしながら、先ほども述べたようにこのように簡単に、実際の臨床では鑑別できない場合が多いものです。このような場合に、非常にうまいと申しますか、ずるいと申しますか便利な処方があります。それは、小青竜湯に杏仁(キョウニン)、石膏(セッコウ)を加えて用いる方法です。こうすれば小青竜湯と麻杏甘石湯との合方にもなり、両処方いずれの証の場合でもそれなりの効果が得られるというものです。
 この処方を最初に用いたのは江戸時代の名医本間棗軒であります。本間棗軒も喘息の治療には非常に苦労したとみえて、彼の著書の『内科秘録』の中に、「服薬にては一旦治せども、再発して根治するもの少なし。食禁を慎み、食事療法を根気よくし、長く薬を服用し根治したるものわずかに指を折るのみ」と嘆いております。
 小青竜湯加杏仁石膏(ショウセイリュウトウカキョウニンセッコウ)は、日常外来でよく用いる処方でありますが、原則として、治療はできるだけ単一の処方で治療するよう心がけるべきでしょう。合方すればするほど薬の作用は鈍ってくるものであります。本間棗軒は、喘息の治療に「食禁を慎み」と、食養生の必要性を述べておりますが、現在においても、食事の注意は決しておろそかにできません。
 簡単に食養生の注意を述べてみますと、まず第一に砂糖の摂取制限です。糖分の過剰は、現在の栄養学的においても、大いに問題となるところですが、漢方においても過剰の糖分は脾胃、すなわち消化機能を損ない、湿痰が停滞し、い愛ゆる水毒が生じ、喘息など気管支の弱い人は、気管支からの分泌が多くなり、喀痰がふえ、喘息状態を長期化させる結果になります。
 また喘息は肺に痰が過剰に分泌されている状態であります。このような病態を漢方では水毒状態といいます。 一般に水毒状態といいますと、水分が体内に偏在し、均等化されていない状態を指しますが、水毒状態になる人は、日常水分代謝が悪く、とくに水分の排泄機能の悪い場合が多いものです。喘息の患者には、この水分貯留傾向があります。水分蓄留傾向は、消化器系機能の悪い人にも良く見られます。
 このことから、喘息の食養生としては、水分摂取制限を強く行なう必要があります。現代医学では、喘息発作時は、気管支にある粘っこい痰に湿り気を与え喀出しやすくするために点滴をし、また患者にはどんどん水を飲ます治療法をとります。このことから、喘息患者に、発作が起きていない時期でも、できるだけ水を飲もうと心がける人もいます。発作時の水分摂取に関して議論はさておき、発作の起きていない時期においても、水分をよく摂取するという食養生は、漢方の立場からいえば、大きな問題があるといわざるを得ません。水分排泄の悪い人が、水分を過剰に摂るほど、体内での水分貯留傾向が増加し、弱点のある気管支からの分泌がふえ、痰を多く生ずる結果になるからです。
 私たちは、日常、喘息患者に対して、きびしい水分摂取制限を行なっております。水分と糖分の摂取制限を行なう上から、果実の摂取はほとんど全面的に中止した方がよいと思います。とくにメロンやパイナップルなど、南方、熱帯地方に産する果実を、湿気の多い日本で食することは、喘息患者にとって厳に慎む必要があります。その他の食養生についてはほぼ現代医学と同様と思われますので省略します。
 五虎湯、麻杏甘石湯は、漢方でいえば、実証の処方であり、生来、非常に虚弱な質である虚証の喘息に対してはこれら麻黄含有処方はかえって消化器を悪くしたり、症状を悪化させたりすることがあります。これら虚証の喘息に対しては、蘇子降気湯(ソシコウキトウ)、あるいは喘四君子湯(ゼンシクンシトウ)、さらに、すでに講義を受けた、テキスト四六ページの甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)などを用います。以上五虎湯とともに喘息治療の解説を簡単に申しましたが、本間棗軒もなげいたように、喘息の治療には長期にわたる服薬と食養生が必要であることを心に留めて置く必要があります。



【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3)本剤にはセッコウが含まれているため、口中不快感、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢 等の消化器症状があらわれるおそれがある。

その他の副作用
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器  食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等 
泌尿器 排尿障害等

2013年11月15日金曜日

白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2)白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)  (金匱要略)
白虎湯に桂枝三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で発熱などの表証が強く、上衝のいちじるしいものに用いられる。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加桂枝湯證を呈するものが多い。
その他
一 骨膜炎、関節炎、筋炎など。
2 消風散(前出、皮膚疾患の項参照)



『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
 白虎加桂枝湯
 次は白虎加桂枝湯(ビャッコカケイシトウ)です。出典は『金匱要略』で、白虎湯に桂枝(ケイシ)を加えたものです。『口訣』を解釈しますと、「この方は温瘧を治すものです」。温瘧とは体内に隠れた邪気がヴて、夏の時分に暑熱を受けたために起こってきた一種のオコリ病い(マラリアの類)で、発熱が先にくるといわれるものをいうので、温は温病の温と同じで、悪寒がなく、発熱するということであります。温病というものを註釈しますと、四季それぞれの温邪といわれる発病の外因に感じて起こされる多種類の急性病を指す言葉であって、熱病といわれる夏の暑気に応じて発病する熱性病に対応して設けられた言葉であります。
 原文に戻りますと、温瘧という病は関節が煩わしく、うずくというのが目標で、皮膚や筋肉の間に散らばっている邪気が、関節まできて、邪が外に出なくて煩わしくうずくので、辛く清涼の剤で邪を発散させる薬方に桂枝を加えて、体表に達する薬の力を強めているわけであります。ほかの病いであってものぼせがあって頭痛などの劇しいものには効果があります。
 ここで中風といっているのは脳出血、脳梗塞などで半身不随を起こしたものをいい、その類のものにも用いられるということであります。なお『傷寒論』に出てくる中風とは、良性の熱性病を指すもので、ここに出ている中風とは意味が違うものであります。
 「山脇東洋は、このよう場合に、白虎加黄連湯(ビャッコカオウレントウ)を与えるといっております」ということです。


『■類聚方広義解説(37)』 日本東洋医学会名誉会員 寺師睦宗

■白虎加桂枝湯
次に白虎加桂枝湯について述べます。

 白虎加桂枝湯 治白虎湯證。而上衝者。
   於白虎湯方内。 加桂枝二兩。
     知母五分 石膏一銭三分 親枝一分六厘 粳米一銭 桂枝二分五厘
    右五味。以水一斗五升。煮取八升。去滓。煮如白虎湯。
   「溫瘧者。其脈如平。』身無寒。但熱。骨節疼煩。時嘔。
   為則按。當有煩渇衝逆證。


 まず、吉益東洞先生は『方極』で、「白虎加桂枝湯。白虎湯の証にして、上衝するものを治す」といっています。
 煎じ方はまったく前方と同じです。

 「白虎湯方内に桂枝(ケイシ)三両を加う。
  知母(五分)、石膏(一銭三分)、甘草(一分六厘)、粳米(一銭)、桂枝(二分五厘)。
 右五味、水一斗五升をもって、煮て八升を取り、滓を去り、温服す(煮ること白虎湯のごとし)」とあります。
 白虎湯に桂枝を加えた薬方で、白虎湯の証でのぼせの甚だしいものに用います。条文は一つです。
 「温瘧は、その脈平のごとく、身に寒なく、ただ熱し、骨節疼煩し、時に嘔すは、(白虎加桂枝湯これを主る)」。
 これは『金匱要略』の瘧病篇に出ています。温瘧と呼ばれるマラリアは、脈が弦を帯びることは少かぬて平に似ています。身体には寒けがな決て、ただ熱だけがあって、関節が痛み、時に吐きけがあるのは白虎加桂枝湯の主治である、という意味です。
 「為則按ずるに、まさに、煩渇、衝逆の証あるべし」。
 為則、すなわち吉益東洞先生は煩渇と衝逆の症があるからだとまとめています。
 浅田宗伯先生は『薬室方函口訣』で、「この方は温瘧(マラリア)を治す。温は温病の温と同じく、悪寒なくして熱するを云う。この病は、骨節煩疼が目的にて、肌肉の間に散漫する邪が骨節まで迫り、発せずして煩疼するが故に、辛涼解散の剤に桂枝を加えて、表達の力を峻にするなり。他病にても、上衝して頭痛など劇しきものに効あり。中風たちにも用う。山脇東洋(やまわきとうよう)先生はこの処に白虎加黄連湯(ビャッコカニンジントウ)を与うると云う」といっています。

■白虎加桂枝湯による治験例
 次に『陰尚百問(いんしょうひゃくもん)』に載っている治験例を述べます。
 「一婦人、瘧を起こし、乾嘔して食することができない。悪心し、強いてこれを食すれば必ず吐く。発する時は身体疼痛して、寒が少なくして熱が多く、嘔吐ますます甚だし。試みに冷水を与えれば、嘔吐止む。ここにおいて白虎加桂枝湯を作り、熱服せしむ。忽ちにして振寒発熱し、大いに汗出で癒ゆ」とあります。
 次は大塚敬節先生の治験例です。一八歳の色白の男で、頑固な湿疹を治した症例です。幼少の頃から喘息の持病があり、近年になって湿疹に悩む。発疹は顔面、項に一番ひどく、赤みを帯び熱感があり、痒みがひどい。掻くために所々出血している。分泌物は少ない。発疹は四肢にもあって、皮膚は木の皮をさするような感じです。腹診すると、全体に緊張し、大便は一日一回あり、砂糖、コーヒー、牛乳を好みます。
 まず患者の好物を禁じ、消風散(ショウフウサン)を与えたが、七日間の服用で増悪してお化けのようになり、温清飲(ウンセイイン)を一ヵ月あまり与えたが治りません。患者は時々炎が顔に当たるような感じがするといいます。これは上衝の一種と考えて、桂枝湯(ケイシトウ)の入った薬を用いようと思いました。口渇の有無を尋ねると喉が乾くといいます。口渇と、顔に炎が当たるようだということを目標に白虎湯の証とし、これに桂枝を与えました。これがよく効いて、痒みは半減し、三〇日分飲むと八分通り軽快しました。
 しかしそれ以上はよくならないので、石膏の一日量を20gから30gに増しました。それで火のように燃えた感じはまったくなくなり、三ヵ月の服用で全治しました。ただ皮膚はまだ何となく光沢が足りない感じです、と。
 この石膏の量を20gから30gに増量されたところが、大塚先生の腕の切れ味でしょう。


【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕


 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。 
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)
(4)腸虚弱で冷え症の人
(5)高齢者。 
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕 
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。 
(7)次の症状のある人。
   むくみ 
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕 
(8)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病 
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ
消化器食欲不振、胃部不快感


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。

〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

3.1ヵ月位(消化不良、胃痛、嘔吐に服用する場合には1週間位)服用しても症状がよくならな
い場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
  しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
  〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
 〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
 〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
 〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕

保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕


【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)
(4)腸虚弱で冷え症の人。
(5)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
    むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
  しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。

2013年11月11日月曜日

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

【白虎加人参湯】(びゃっこかにんじんとう)
白虎湯に人参一・五を加える。
こ れは白虎湯の證で、体液の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い、口渇を治する力が増強する。本方 の応用は諸熱病の他に日射病・糖尿病の初期で未ば甚しく衰弱しない者、精神錯乱して大声・妄語・狂走・眼中充血し、大渇引飲する者等である。




漢方精撰百八方


75.〔白虎加人参湯〕(びゃっこかにんじんとう)

〔出典〕傷寒論、金匱要略

〔処方〕知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参1.5

〔目標〕
 自覚的  寒熱去来し、汗出でて渇し、背部に悪寒甚だしく、尿利は頻繁で、大便には著変がなく、心窩部がつかえて、食欲は欠損する。
 他覚的  脈:洪大、洪数、滑数等  舌:乾燥した白苔又は黄苔又は焦黄苔  腹:腹力は中等度以上で、心窩部に抵抗があって、圧に対して不快感又は疼痛がある。 〔かんどころ〕寒熱去来し、汗が出て、のどが乾いて、脈洪大。

〔応用〕1.諸種の急性熱性疾患で、発病後数日を経て、悪寒と高熱とが交互に去来し、発汗甚だしく、のどまた大いに乾き、しかも排尿の回数も量も減ぜず、煩悶して、身の置きどころに苦しむような場合。
2.発汗の後、脱汗やまず、身体が痛んで屈伸し難く、渇して、小便自利する症状。
3.日射病又は熱射病。
4.糖尿病又は尿崩症。
5.皮膚炎、湿疹等でソウ痒の激しいもの。
6.夜尿症。

〔治験〕本方は陽実証でしかも津液亡失の状態を兼ねたものに用いる薬方である。
  急性熱性疾患は、太陽病期から少陽病期へ、ついで少陽病期から陽明病期へと、順次移行していくのを普通とするが、ときに順当な道を進まず、太陽病期からいきなり陽明病期へと突進し、しかも太陽、少陽の症状を僅かずつ残している場合がある。これが三陽の合病と称する病情であって、本方は白虎湯とともに、そのような状態を治する代表的な薬方である。両者の鑑別点は、白虎湯はより熱状のつよい場合に用い、本方はより煩渇状のつよ状態に応用するという所である。
  本方は、かつて私自身が、かぜのために高熱を発し、顔面や、胸、腹は暑くてだらだらと汗を流しているのに、背中の方は水の中につかっているように寒く、のどがかわいて、食欲が全くない、という状態を呈したときに用いて、劇的に効いた事がある。                                   
藤平 健


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
白虎湯の加減方
(1)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)  (傷寒論、金匱要略)
白虎湯に人参三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で体液の減少が高度で、口渇がはなはだしく冷水を多量に飲みたがるものである。したがって、悪寒、悪風(おふう、身体に不愉快な冷気を感ずる意、風にふれると寒を覚える)、発汗、心下痞硬、腹満、四肢疼痛、尿利頻数などを目標とする。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加人参湯證を呈するものが多い。
その他
一 脳炎、脳出血、胆嚢炎など。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.112
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) (傷寒論)
 処方内容 知母五・〇 粳米八・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参一・五(三一・五)
 
 必須目標 ①劇しい口渇(冷水を好む) ②口舌乾燥 ③自汗または尿量増大して、体液を喪失している ④便秘なし

 確認目標 ①手足冷 ②食味を感じない ③遺尿 ④譫語(うわ語) ⑤目眩 ⑥脉は滑脉または洪大脉

 初級メモ ①日射病のように、自汗多く出て体液欠乏し、なお熱あって汗を出そうとする状態にありながら汗の原料となる水分がないため、劇しい口渇を訴え、舌の乾燥している状態が、本方の目標である。
 ②重症では身熱(身体裏部の伏熱)が盛んで体表、四肢に熱を伝えないため厥冷状態になって、一見陰証に類似してくる。これを熱厥という。 熱厥と寒厥との区別点は、熱厥には伏熱があるため口舌乾燥し尿色赤く脉は滑脉(裏の伏熱による)を呈するが、寒厥は舌湿潤し芒刺なく、尿色清白で脉は弱いことで鑑別される。
 ③「食味なし」は舌乾燥の劇症で、同じく原因は裏の伏熱である。
 ④南涯「白虎湯症(類方の項参照)にして気のびて血滑って循らざる者を治す。その症に曰く汗出、身熱これ気のびるの症なり。曰く悪寒、これ血滞ってめぐる能わざるの症なり。」

 適応証 日射病。夜尿症。糖尿病。蕁麻疹。湿疹。

 類方白虎湯(傷寒論)
 これが原方で、加人参湯症に較べて体液は缺乏するも胃内までは枯燥には到らない者を目標にするが,殆んど用 いない。南涯「病、裏にあり。血気伏して熱を作し、水行く能わざる者をを治す。その症に曰く、以って転側し難し、口不仁、逆冷、遺尿、厥、背微悪寒の者は これ血気伏するの症なり。曰く譫語、燥渇心煩、渇して水を飲まんと欲す、口乾舌燥はこれ熱を作すなり。曰く腹満身重これ水行かざるなり。しかりと雖も水は その主病に非ず、自汗出るを以ってこれを示すなり。曰く渇して水を飲まんと欲す、煩渇の二症は五苓散に疑似す、何をもって之を別つか、五苓散は水行かずし て渇なり。この方伏熱甚しくして渇なり。故に五苓散症は発熱し、この症は発熱せず。五苓散は必ず汗出でて渇、この症は口乾燥、或は身熱して渇なり。五苓散 は脉浮数こ英方は脉洪大或は滑。五苓散の症は気急の状、白虎湯の症は気逆の状、これその別なり」。
 ②白虎加桂枝湯(金匱)
 白虎湯に桂枝四・〇を加えた処方で伏熱が上衝して起す頭痛、歯痛に用いる。裏熱の上衝故、痛む個所が深く骨節煩疼の形になる。

 文献 「白虎湯及白虎加人参湯について」 奥田謙蔵 (漢方と漢薬2、9、2)

 


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.518
122 白虎加人参湯 (びゃっこかにんじんとう) 〔傷寒・金匱〕
 知母五・〇 粳米一〇・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参三・〇

応用〕 白虎湯証に似て、内外の熱甚だしく、さらに津液は欠乏し、渇して水を飲まんと欲し、転舌の乾燥の甚だしいものに用いる。
 本方は主として、(1)流感・腸チフス・肺炎・脳炎・中暑・熱射病等で高熱・煩渇・脳症を起こしたもの、(2)糖尿病・脳出血・バセドー病で煩渇し脈の洪大のもの等に用いられ、また、(3)等膚病のなかで、皮膚炎・蕁麻疹・湿疹・ストロフルス・乾癬等の瘙痒甚だしく、患部が赤く充血し、乾燥性で、煩渇をともなうものに応用される。さらに腎炎紙:尿毒症・胆嚢炎・夜尿症・虹彩毛様体炎・角膜炎・歯槽膿漏等にも転用される。

目標〕 熱症状と渇が主症状で、煩渇または口舌乾燥し、水数升を飲みつくさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。
 脈は多くは洪大で、大便硬く、腹部は大体が軟かで、心下痞硬し、表証としての汗出で、悪風・背寒・悪寒等があり、腹満・口辺の麻痺・四肢疼重・尿利頻数等のあるもの。

方解〕 白虎湯に人参三・〇を加えたもので、白虎湯の証に、体液の減少が高度とな責、口渇甚だしく疲労の状を呈したものを治すものである。すなわち知母は内熱をさまし、燥を潤し、石膏は内外の熱をさまし、鎮静の作用がある。粳米は補養の働きがあり、石膏の寒冷を緩和する。甘草は急迫を緩め、かつ粳米とともに表を補う。人参は一層裏を補い、滋潤の作用を加えたものである。
 白虎湯は、その主薬となっている石膏の色の白いことから名づけたといわれるが、本方の主体はこの石膏の解熱と鎮静にあることはうなずかれる。しかも石膏は大量でないと効かないといわれている。
 この石膏の有効成分について、中国において新しい研究の成果が発表されている。上海中医薬雑誌(一九五八、三号)に、郭参壎、陸汝陸遜両氏が、「天然石膏の初歩研究」を発表された。
 それによると、「石膏の効能は本草書の諸説を総合すると、清涼解熱、津液を生じ、煩を除くというにある。麻杏甘石湯を肺炎に、白虎湯を日本脳炎の高熱期に用いて著しい解熱作用を示している。
 石膏はCaSO4・2H2O すなわち硫酸カルシウムで、この溶解度を調べてみると、一八度では五〇〇ccの水にわずか一グラムしか溶けない。四〇度の水にはこれよりも多く溶けるが、四〇度を越すと溶ける量は減ってくる。一〇〇度の水では六五〇ccにやっと一グラム溶けるだけである。
 しかし天然の石膏には他の成分が含まれている。日本産のものには、硅酸・酸化アルミニウム・酸化鉄・炭酸カルシウム・硫酸マグネシウム等がある。上海の市場品の懸濁液中に硅酸、水酸化アルミニウム、溶液中に硫酸鉄、硫酸マグネシウム等があった。
 この天然石膏を用いてその煎汁をもって動物実験を行なってみると、明らかに解熱作用が認められた。一方九九・九%の純粋石膏を用いて同様の実験を試みたところ、解熱作用は現われなかった。これによって石膏の解熱成分は、天然石膏の夾雑物の中にあることが判明した。
 石膏の量は熱の軽重によって増減されるべきである。よく石膏は溶解度が少ないから効果がないといわれているが、実はその解熱成分は夾雑物の中に含まれていることが推定されるのである」というものである。
(漢方の臨床五巻一〇号、中国漢方医学界の動向)

主治
 傷寒論(太陽病上篇)に、「桂枝湯ヲ服シ、大イニ汗出デテ後、大煩渇解セズ、脈洪大ナルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
 同(太陽病下篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、七八日解セズ、熱結ンデ裏ニ在リ、表裏倶ニ熱シ、時々悪風、大渇、舌上乾燥シテ煩シ、水数升ヲ飲マント欲スルモノノ、白虎加人参湯之ヲ主ル」
 また、「傷寒、大熱ナク、口燥渇、心煩、背微悪寒スルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」「傷寒、脈浮、発熱、汗ナク、ソノ表解セズ、白虎湯ヲ与フベカラズ、渇シテ水ヲ飲マント欲シ、表証ナキモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
 金匱要略(暍病門)に、「太陽ノ中熱ナルモノハ暍(エツ)コレナリ。汗出テ悪寒、身熱シテ煩ス、白虎加人参湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ白虎湯ノ証ニシテ、胃中ノ津液乏クナリテ、大煩渇ヲ発スル者ヲ治ス。故に大汗出ノ後カ、誤下ノ後ニ用ユ。白虎ニ比スレバ少シ裏面ノ薬ナリ。是レヲ以テ表証アレバ用ユベカラズ」とあり、
 古方薬嚢には、「汗出で、さむけあり、大いに渇して水を呑みたがる者、熱なく唯背中ぞくぞくとして悪寒し、口中乾いて頻りに水を飲みたがる者、汗が出て悪寒するくせに、非常に熱がって水を呑む者、本方は渇が第一の証なり」とある。

参考
 奥田謙蔵氏、白虎湯及び白虎加人参湯に就て(漢方と漢薬 二巻九号)

鑑別
 ○白虎湯 121 (煩渇・高熱、津液欠乏は少ない)
 ○五苓散 41 (渇・小便不利、水逆、心下部拍水音)
 ○八味丸 116 (渇・小便不利または自利、少腹不仁、脈沈弦)

〔治例〕
 (一) 瘙痒疹
 一男子、物にかぶれたるものか、または毒虫などにさされしものか、本人もはっきり覚えざれども、急に全身に痒疹を生じ、掻くほどに、赤き斑点こんもりと持ち上り、全身汗ばみて悪寒し、全身汗ばみて悪寒し、忍ぶべからざる者、白虎加人参湯を服し、一回分にて癒えしことあり。
(荒木性次氏、古方薬嚢)

 (二) 夜尿症
 一〇歳の少年。毎夜遺尿をするという。体格、栄養、血色ともに普通である。床につく前にのどが乾くといって、水をがぶがぶのみ、どうしてもやめられないという母親の言葉にヒントを得て、白虎加人参湯を用いたところ、口渇がやみ、遺尿も治った。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)

 (三) 感冒
 一月一五日、発病後五日目、葛根湯・小柴胡湯加石膏・小柴胡湯合白虎加人参湯を服用したが好転せず、朝四時苦しさのため目をさます。非常にのどが渇き、コップ一杯の水を一口にのみほす。心臓部が苦しい。熱はまだ四〇度二分に昇っている。汗は顔といわず、からだといわず、沸々として流れ出て、しかも背中は水中にひたっているようにゾクゾクと寒い。心下は痞硬して苦しく、鳩尾(みぞおち)から臍にかけて盛り上がったような自覚があり苦しい。朝五時、夜明けを待ちきれず、奥田先生に電話をかけた。胸の中が何ともいえず苦しく、てんてん反側する。八時、熱は依然として三九度七分、ただのかぜか、チフスか、敗血症かと心は迷い乱れた。
 一〇時、奥田先生がおいでになった。脈洪大・煩渇自汗・背悪寒・心下痞硬等があった。
 まさきくこれは三陽の合病、白虎加人参湯証に間違いなしと、精診の後診断を下された。
 背微悪寒は、微は幽微の微で、身体の深い所から出てくる悪寒と考えるべきだとのお話。同方を服用して一時間、まず悪寒・心下痞硬は消退し、背中は温まり、みぞおちが軽くなってきた。三時半には体温も三七度五分に下がり、すべての症状が拭うがこどく消え去り、食欲が出て快く眠れた。
(藤平健氏、漢方の臨床、一巻四号)


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
66.白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) 傷寒論
  知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参3.0

(傷寒論)
傷寒,若吐若下後、七八j日不解,熱結在裏、表裏倶熱時々悪風, 大渇,舌上乾燥而煩欲飲水数升者,本方主之(太陽下)
傷寒無大熱,口燥渇,心煩,背微悪寒者,本方主之(太陽)
傷寒脉浮、発熱無汗,其表不解,不可与白虎湯,渇欲飲水、無表証者,本方主之(太陽)
桂枝湯,大汗出後,大煩渇不解,脉洪大者,本方主之(太陽)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 むやみに咽喉がかわいて,水を欲しがるもの,あるいは熱感の劇しいもの。
 本方は体内水分が著しく不足するため、むやみに咽喉がかわき,しかも冷水を欲しがる症状,例えば糖尿病の初期で未だ利尿障害が著しくない時期に用いられる。八味丸適応症状では口渇は前者程でもなく,且つ尿量減少もしくは増大が著明となる。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 (白虎湯) 発熱して口渇があって水をのみたがり,煩躁したり,反対に身体が重くねがえりしにくくなり、自たに汗が出る。口,舌が乾燥して舌に白苔を生じ,食物の味がわからなくなる。また腹が張ったり,顔に垢がついてきたなくなったり,譫語や尿失禁をすることがある。
白虎湯証に準じ,表裏の熱甚だしく,体液の欠乏の微候を呈して,口舌が乾燥し,煩渇して大いに水を飲みたがるものである。大便は硬く,尿利は増加し,背部に悪風(風にあたると寒けがする)があり時に発汗のひどく多いものがある。
方輿輗 「白虎加人参湯の正証は,汗じたじたと出て,微悪寒ありながら,身は熱して大渇引飲(ひどくのどがかわいて水を大量にのむ)するものなり,愚案ずるに,凡そ白虎を与うべき症ならば脈長洪であるべきに,暍(日射病)では却って虚微の状多し。是れ暍の傷寒と異なる所なり」といっている。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○私の経験では白虎湯や白虎加人参湯を与えてよい患者の舌には厚い白苔のかかることは少い。苔があまりなくて,乾燥している事が多い。舌に白い厚い苔があって,口渇のある場合には,この苔が湿っている時はなお更のこと,乾いていても,うっかり白虎湯のような石膏剤は用いないがよい。これを与えると食欲不振,悪心などを起すものがある。これには半夏瀉心湯黄連解毒湯の証が多い。



漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
白虎湯) 本方は身熱,悪熱,煩熱等と称する熱症状に用いて解熱させる効がある。この場合脈は浮滑数乃至洪大で口中乾燥,口渇がある。身熱,悪熱,煩熱等と称する症状は自覚的に身体灼熱感があって苦しく,通常悪寒を伴わず,他覚的にも病人の皮膚の掌に明てると一種灼熱感があるものである。この熱状は感冒,肺炎,麻疹その他諸種の熱性伝染病に現われる。この熱状で便秘し,燥屎を形成し,譫語を発する場合は大承気湯を用いるべきである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべきに至らない場合に用いる。本方の薬物中,知母と石膏が主として清熱に働く,粳米は栄養剤で高熱による消耗を補う。甘草は調和剤で知母と石膏の協力を強化するものと考えられる。本方の応用としては感冒,肺炎,その他の熱性伝染病である。また皮膚病で瘙痒感の甚しい場合に用いて効がある。
(白虎加人参湯) これは白虎湯の証で,体赤の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い,口渇を治する力が増強する。本方の応用は諸熱病の他に日射病,糖尿病の初期で未だ甚しく衰弱しない者,精神錯乱して大声,妄語,狂走,眼中充血し,大渇引飲する者等である。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成) 白虎湯に人参を加えたもので此処方は頻用する。前に述べた白虎湯証の熱によって津液枯涸したものに対し人参を以て滋潤し血虚を補うのが本方である。
 運用 1. 熱症状と渇を呈するもの
 熱は熱発でもよい。体温計で測って体温が上昇していなくても漢方的熱症状でもよい。即ち口渇もその1つだし,陽脉(洪,大,滑,数等)熱感,身熱,心煩,煩躁,小便赤等のどれかが組合されておれば熱症状と判断できる。その中で最も主要なのは脉洪大,煩渇とは煩しい程劇しい口渇を覚えることをいう。「桂枝湯を服し,大いに汗出でて後,大いに煩渇し解せず,脉洪大なるものは白虎加人参湯之を主る。」(傷寒論 太陽病上)発汗過多のため胃内の水分が欠乏し胃熱を帯びて煩渇するというのである。「傷寒若くは吐し,若くは下して後七・八日解せず,熱結んで裏に在り,表裏倶に熱し,時々悪風,大いに渇し,舌上乾燥して煩し,水数升を飲まんと欲するものは白虎加人参湯之を主る。」(同太陽病下)熱結在裏が本で表裏倶に熱し大渇するのが狙いである。「傷寒,大熱無く,口燥渇,心煩,背微しく悪寒するものは白浜加人参湯之を主る。」(同右)この心煩は傷寒に続けて考えて行くべきもので,傷寒により寒が体内に侵入し,腎に迫り津液を亡わしめると共に腎虚により心熱を生じ心煩を起させる。一方熱は胃にも入り,亡津液と共に口燥渇を起す原因になる。ただ胃熱だけなら口渇だが津液が欠乏しているから燥が起るのでそれを人参が治すことになる。背微悪寒は陽虚ではなく内熱による虚燥のために起ったのだというのが定説のようだ。恐らくその通りであろう。附子湯の背悪寒と比べて考うべきは矢張り腎の虚寒である。全身の悪寒ではなくただ背に限定されているのは背の膀胱経を考えたい。即ち腎が症状として膀胱経に現われたと見たいのである。痰飲の所にも心下に留飲があると背部で手大の範囲に寒冷が起るというが,之を単に胃内だけの問題でなく腎を併せ考うべきであろう。その他当帰建中湯の痛引腰背なども傍証になるが,要するに背と腎膀胱とに一定の関係があると思われるのである。(中略)
 太陽の部位即ち表に原因としての熱邪が加わったものを暍と称する。然しこの熱は表にばかり留まらずに裏に侵入して行き,表裏倶に熱する状態になる。表部位の症状として汗出があるが之は陽明病の汗出や三陽合病白虎湯の自汗出と同じく実は裏熱によるものである。熱によって血傷られ汗出も悪寒も起る。身熱は部位は表でも深い所に在り裏に属する部位で身熱と云えば胃熱によって起るものである。汗出悪寒というと太陽病らしいが太陽病には身熱や渇はなく,此等は凡て裏熱症状である。以上各条の症状を拾上げると表症状としては汗出,悪寒,時々悪風,背微悪寒などがあるが,此等は実は裏の変化に版って起ったもので,裏の変化は胃熱,心熱が主で渇,口乾舌燥,身熱などとして現われている。以上の適応証に基いて本方を応用する対象になるのは熱病,例えば流感,肺炎,麻疹,日射病等で脉洪大,煩渇,下口唇鮮紅色乾燥,煩躁などのあるもの,糖尿病で脉洪大,煩渇,尿利に著しい増減のないもの,皮膚病で痒みの劇しいもの,矢張り脉大口渇を伴うことが多い。然し口渇に拘泥せずとも瘡面が充血性,熱感があるなどでも宜い。分俸は不定で,乾燥性のこともあり,湿潤性のこともある。白虎加桂枝湯とは口渇の程度で区別し得ることが多い。専門的には桂枝,人参,の性能,作用点などの相違を考えて使分くべきである。(後略)


 〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 熱症状と渇が級症状で,煩渇または口舌乾燥し,水数升を飲みつかさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。脈は多くは洪大で,大便硬く,腹部は大体が軟かで,心下痞硬し,表証としての汗出で,悪寒,背寒,悪寒等があり,腹満,口辺の麻痺,四肢疼重,尿利頻数等のあるもの。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は白虎湯の証にして,胃中の津液乏くなりて,大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か,誤下の後に用ゆ,白虎に比すれば少し裏面の薬なり,是れを以て表証あれば用ゆべからず。



『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
 次は白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)です。出典は『傷寒論』で、白虎湯方中に人参を加えたものです。
 この薬方は白虎湯の証、つまり三陽の合病で邪が表裏にまたがっているために発熱、口渇、煩躁、自然に起こる発汗、腹満などがあり、消化器管中の分泌液が欠乏しているために大いに劇しい口の渇きを起こすものを治す薬方であります。したがって大いに汗を出したあととか、誤って下したために体液が欠乏したものに用いるわけであります。この理由で表症すなわち熱、頭痛等の表の状態だけのあるものに用いる薬ではないということです。





【副作用】
重大な副作用と初期症

1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

理由
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

処置方法
  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
  本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されているため。
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。

肝臓:肝機能異常(AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等
理由
 本剤によると思われるAST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等の肝機能異常が報告されているため。
処置方法
 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等

理由
 本剤には石膏(セッコウ)・地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、
食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等があらわれるおそれがある。
また、本剤によると 思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

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