健康情報: 抵当湯(ていとうとう)・抵当丸(ていとうがん) の 効能・効果 と 副作用

2013年5月27日月曜日

抵当湯(ていとうとう)・抵当丸(ていとうがん) の 効能・効果 と 副作用

臨床應用漢方醫學解説』 增補第八版 南江堂刊 湯本求眞著

下瘀血丸大黄蟅蟲丸抵当丸三方に関する所説は著者の心血の結晶にして新発見に係るもの鮮からず読者軽々之を看過する勿れ。


抵當丸
 大黄一五、〇 桃仁、虻蟲、水蛭各五、〇
 右丸法用法は下瘀血丸に同じ用量一回五、〇一日三回
 本方の腹證脈證等は大黄蟅蟲丸條下に於て解説すべし。
 下瘀血丸の鎭痛止作用竝大黄蟅蟲丸及抵當丸の止血作用
 下瘀血丸の疼痛を治する理由如何にも云ふに血管及之に接する部に瘀血凝滯ある時は(血塞の血管内出血性硬塞の血管外にある場合の如き之れなり)之に近接せる知覺神經を壓迫刺激して疼痛を發せしむ此際下瘀血丸を與ふるときは神經刺戟の元因たる瘀血塊除去せらるヽを以て疼痛自ら退散する所以にして西洋醫術に於ける莫此其他麻醉劑による知覺機麻痺的一時性鎭痛方法と回日の談にあらざるなり此理あるが故に臍下疼痛の症に限らず身體中何れの部分と雖も苟も血塞血栓動脈瘤靜脈瘤出血性硬塞等瘀血凝滯の因によりて發する疼痛は盡く之を治す又疼痛症無ければ用ひられざるにあらずして前記の如き瘀血だにあらんには皆之を施して可なり何となれば假令瘀血塊ありとも其位置及状態の異るによつて知覺神經を壓迫刺戟せざる場合あるを以てなり而して此方が止血藥たり得る理由如何となれば或部分の主要血管に瘀血凝滯して血液の循行を妨ぐるか或全く之を止むるときは副枝血行に血壓高まり爲に出血するに至る此際に此方を用ゆる時は血行障碍の元因たる瘀血塊を除くを以て血液順流し自然に止血すべき理明瞭なりと云はざるべからず大黄蟅蟲丸及抵當丸の止血作用も亦此理に外ならずと雖も此の二方の目的とする瘀血塊は前述のものより一層陳久にして將に組織化せんとし或組織化しつヽあるものなり是れ二者應用目的の差異點なりと雖も臨床上明白に區別し難き場合あるを以て先づ下瘀血丸を用ひて比較的新しき瘀血を下し若し效無き時は陳久瘀血あるの徴なるにより緩和治る大黄蟅蟲丸より試み效なければ抵當丸を與ふべし。右三方證には往々他覺的に下腹に於て膨滿を認めざるに病者之を訴へて止まざるの症あるとあり宜しく三方を撰用すべし。

※苟も:いやしくも

漢方診療の實際』 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
抵当湯(ていとうとう)及び(がん)
抵当湯 水蛭 虻虫 桃仁各一・ 大黄三・ 以上を細末とし、法の如く煎じ、一日三回服用する。
抵当丸 水蛭 虻虫 桃仁 大黄各一・ 以上を煉蜜で丸とし、一日三回三・ずつ服用する。

本方は陳旧の瘀血を去る力があり、小骨盤腔内の滞血・血腫・血塊・血栓等を駆逐する剤で、患者は下腹部に膨満感があり、これを按ずれば抵抗を触れ且つ圧痛があり、小便快通し、大便の色黒く、物忘れし、種々の神経症状を伴うものに用いる。脈は多く沈んでいる。
本方中の水蛭・虻虫は共に凝血・血塊を溶解する働きがあり、血塞を去り、陳旧なる非生理的血液を排除する。大黄は凝結した老廃物を通利する下剤で、且つ消炎健胃の能がある。
本方は以上の目標に従って、月経閉止・精神病・子宮筋腫の軽症・脱疽等に応用される。


漢方薬の実際知識』 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
3 駆瘀血剤
駆瘀血剤は、種々の瘀血症状を呈する人に使われる。瘀血症状 は、実証では便秘とともに現われる場合が多く、瘀血の確認はかんたんで、小腹急結 によっても知ることができるが、虚証ではかなり困難な場合がある。駆瘀血剤は体質改善薬としても用いられるが、服用期間はかなり長くなる傾向がある。
駆 瘀血剤の適応疾患は、月経異常、血の道、産前産後の諸病その他の婦人科系疾患、皮下出血、血栓症、動脈硬化症などがある。駆瘀血剤の中で、 抵当湯(ていとうとう)・抵当丸は陳旧性の瘀血に用いられる。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は瘀血の証と水毒の証をかねそなえたものであり、加味逍遙散はさらに柴胡剤、順気剤の証をかねそなえたものである。

6 抵当湯(ていとうとう)・抵当丸  (傷寒論、金匱要略)
〔水蛭(すいしつ)、虻虫(ぼうちゅう)、桃仁(とうにん)各一、大黄(だいおう)三〕
丸は湯の證で病勢の緩慢なものに用いられる。本方は陳旧性の瘀血を去る薬方で、下腹部に膨満感があり、種々の神経症状を伴うものに用いられる。婦人の場合は月経血に凝結塊を混じることもある。
〔応用〕
駆瘀血であるために、大黄牡丹皮湯や桃核承気湯のところで示したような疾患に、抵当湯(丸)證を呈するものが多い。


 『臨床応用 漢方處方解説』 矢数道明著 創元社刊
101 抵当湯(丸)(ていとうとう) 〔傷寒・金匱〕
     水蛭・虻虫 各二・〇 桃仁 一・〇 大黄 三・〇

法のごとく煎じ、三方に分け、一服して通じがなければ、さらに服用する。
丸の場合は
     水蛭・虻虫 各一・五 桃仁 一・〇 大黄 三・〇
右の割合に混合して末とし、蜂蜜で四個の丸とし、一個に水一〇〇cc加え、煮て六〇ccとして頓服する。すると晬時(さいじ)(一昼夜こと)血を下すはずである。もし下らなければ、さらに服用する。

応用〕 瘀血があって、熱が下焦に結ばれた陳旧瘀血を去るものである。小骨盤腔内の滞血・血腫・血塊・血塞・血栓等を駆逐するために用いられる。
 すなわち本方は、実証の瘀血症候群をそなえた月経閉止・月経不順・子宮筋腫・卵巣嚢腫・脱疽・発狂・コルサコフ症候群・健忘症・精神分烈症・癲癇・糖尿病・食道狭窄・眼瞼湿疹・角膜炎・運動麻痺・半身不随・肝硬変症・打撲症・眼疾患等に応用される。

目標〕下腹部に膨満感があり、これを圧迫すれば抵抗・塊状を触れ、圧痛があり、胸満・腹満・下腹硬満を訴える。顔面・口唇・歯齦・舌・四肢・爪等の鬱血斑、婦人は月経血の凝血塊を混じ、小便快通し、大便の色が黒くなる。またよく物忘れし、口燥煩渇、よく食を好んで満足せず、怒り悲しみ訴えが異常となり、精神症状をともなうものを目ととする。
 脈は多く沈である。

方解〕 水蛭(すいしつ)(スイテツとも読む。蛭(ひる)を乾燥したもの)は凝血を溶解し、陳旧瘀血を去る。ヒルジンを含有し、溶血作用がある。虻虫(ぼうちゅう)(アブ)は駆瘀血剤で、陳旧瘀血を駆逐し、血塊を軟かにする。桃仁も駆瘀血で消炎・鎮痛の作用も兼ねる。大黄は水蛭や虻虫とともに、下腹部に凝結した瘀血や老廃物を通利し、l消炎の効がある。
 これらの薬物が協力して下腹部の瘀血を下し、瘀血によって起こったいろいろの苦悩を去るものである。

主治
 傷寒論(太陽病中篇)に、「太陽病六七日、表証仍(ナオ)在リ、脈微ニシテ沈、反ツテ結胸セズ、其ノ人狂ヲ発スルハ、熱下焦ニ在ルニ以ル。少腹ハ当ニ鞕満スベシ。小便自利スル者ハ、血ヲ下セバ乃チ愈ユ。然ル所以ノ者ハ太陽経ニ随イ、瘀血裏ニ在ルヲ以テノ故ナリ。抵当湯之ヲ主ル」
「太陽病、身黄、脈沈結シ、少腹硬ク、小便不利スル者ハ、血ナシト為スナリ。小便自利シ、其ノ人狂ノ如キ者ハ、血証タルヤ諦(アキラカ)ナリ。抵当湯之ヲ主ル」
 同(陽明病篇)には、「陽明証、其ノ人喜忘スルハ必ズ畜血アリ、然ル所以ノ者ハ、本ヨリ久瘀血アリ、故ニ喜忘セシム。屎硬シト雖モ、大便反テ易ク、其ノ色必ズ黒キ者ハ、宜シク抵当湯ニテ之ヲ下スベシ」
「消穀善饑シ、六七日至リテ大便セザル者ハ、瘀血アリ、抵当湯ニ宜シ」とある。また、
 金匱要略(瘀血病門)に、「病者、熱状ノ如ク、煩満、口乾燥シテ渇シ、其ノ脈反ツテ煩無シ、此レヲ陰伏ト為ス、是レ瘀血ナリ、当サニ之ヲ下スベシ、抵当湯ニ宜シ」
「腹満セズ、其ノ人我レ満ヲ言フ、瘀血有リト為ス」
 同(婦人雑病門)に、「婦人、経水利下セザル者ハ、抵当湯憲ヲ主ル」等とある。
 古方薬嚢には、「下腹張りて小便近く、然も小便の出がよく、病人の気持が多少おかしくなり、つまらぬ言を口走ったり、或は喋ることに前後のつじつまが合わぬようなことがあったりする者、或は甚だ忘れっぽくなりて、要領を得ず、或は無暗に怒ったり、又は悲んだりする者、忘れっぽくて大便の色黒き者、無暗に大食をしたがり、幾ら喰っても喰い足りない者、大便の色黒い者、口や唇のよく燥く者、腹が余り張っても居らぬのに、甚だ腹満を訴反る者等、本方を使用せんとする時の参考に供せられるべし」とある。

加減〕丸は湯の証で、病勢緩慢のものによい。

参考
 矢数有道 婦人科領域における抵当丸の応用(漢方と漢薬、四巻四号)

治例
 (一) 癩病
 三十歳の婦人。癩病にかかって三年間、眉毛は脱落し、鼻梁は腫大し、全身も腫れ、赤い斑点は雲の如くである。手足は麻痺して、月経は閉止している。私はこれに抵当丸を作って、毎日三匁ずつ服用させたとこ犯、三十日後に数升の血を下した。そして百日の後に治ってしまった。(六角重任翁、古方便覧)

 (二) 卵巣嚢腫破裂
 二六歳の婦人。妊娠四ヵ月。一日急激に右下腹痛を訴え、七転八倒の苦しみを発し、右廻盲部より下に鶏卵大の腫塊を触れる。大黄牡丹皮湯を与えたが、翌日は漸次腹満を訴え、右下腹部の塊はみるみる腫大し、ついに小児頭大に及んだ。ところが苦しみの後、突然激痛は消散してしまった。右下腹部の腫塊はすなわち卵巣嚢腫で、妊娠子宮の増大とともに茎捻転を起こしたものであった。腫張とともに激痛を加え、一昼夜にして極度に達し、ついに破裂を起こして痛みが消失したものである。下先部には破裂による出血が充満しているわけである。これに抵当丸を与えたところ、黒便を下すこと日に数回、数日にして下腹の瘀血去り、塊は原形に復した。よって入院手術をすすめたところ、はたして嚢腫であって、これを割ってみたが、中には毛髪・歯質などがつまっていたとのことである。これではいかに抵当湯といえども、及ばなかったと思われる。いままで抵当丸を子宮筋腫や卵巣嚢腫に数多く用いてみたが、下腹部に腫瘤を触れるようになったものでは、その効果はほとんど期待できなかった。この婦人は筆者の友人の妻君で、漢方入門して三年ほどのこと、このときの児は無事出産、妻君は以後三児を生んだ。   (著者治験)

 (三) 喘息
 一婦人、三〇歳ばかり。永年の喘息があり、いろいろの治療をして根治せず。不肖も種々と方を変えたが治らなかった。この人は経水甚だ不順で、いわゆる瘀血の証に似ているので、発磁のないとき抵当丸を与えたところ、服後一時間ほどして大いに下血して驚いた。
 ところがその後、永年の喘息がすっかり治ってしま改aた。   (荒木性次氏 古方薬嚢)



明解漢方処方 (1966年)

抵当丸・抵当湯(ていとうがん・ていとうとう) (傷寒論)
 水蛭 虻虫 桃仁 大黄各一・〇 以上を煉蜜で丸となし、一日三・〇宛一日三回服用する。または丸を煎じて湯として服す。
 大黄蟅虫丸、下瘀血湯などと共に乾血の駆除剤である。本方は内位の乾血剤であるため小便自利、下腹硬満、発狂、健忘症、異常食慾増進、大便タール様黒色などの症がある。
 下瘀血湯との区別は、下瘀血湯の項でも述べたが、下瘀血湯は裏位の乾血であるため、精神正常で下腹部の硬満なく、逆に触れると腹中劇痛し 小便は減少するもので、本方とは証が違っている。
 この処方中、大黄を三・〇に増量し煎剤としたものが抵当湯で、抵当丸の重症に用いる。精神異常。子宮筋腫。脱疽。


『日本東洋醫學雜誌 51(6)』, 148, 2001-05-01 社団法人日本東洋医学会

019 抵当丸/抵当湯の使用経験
 ○野崎和也 渡辺哲郎 横山浩一 関矢信康 
   寺澤捷年(富山医学薬科大学和漢衰療学構座)
    伊藤隆(富山医科薬科大学和漢薬研究所漢方診断学部門)
  【緒言】 抵当丸は、実証の駆瘀血剤であると同時に、動物性生薬を含有し、陳旧性の瘀血に対する方剤としても、他の駆瘀血剤とは一線を画す存在でもある。今回我々は、抵当丸/抵当湯が有効だった3症例を経験したので報告する。

【症例1】 72歳女性。20年前から咳・痰・胸背痛があり、1995年に当部を受診。胸部レントゲン・CTから気管支拡張症と診断。喀痰量の減少を目的としてマクロライドを投与し、種々の漢方方剤(腸癰湯大黄牡丹皮湯、竹葉石膏湯、清肺湯など)を使用していたが、繰り返す細菌感染を予防し得なかった。2000年1月の入院を契機に小腹鞕満を目標に抵当丸を投与したところ、緑黄色の痰が黄色に改善し喀出量も減少した。その後下気道感染は著しくおさまり、マクロライドを含む抗生物質を中止したが、入院加療を要することなく外来で経過観察中である:

【症例2】 62歳女性。変形性膝関節症による両膝痛を主訴に、1998年に当部を初診。防已黄耆湯や八味地黄丸料合人参湯、五積散料などを投与したが、症状の改善は得られなかった。2000年6月、防風通聖散に併用していた桂枝茯苓丸を、小腹鞕満を目標に抵当丸に変更したところ、6年来の膝関節痛が6週間で消失した。

【症果3】52歳女性。20年前に母親の介護を始めてから出現した睡眠障害・浮動感を主訴に、2000年6月に当部に入院。心臓神経症の既往もあり、精神科で適応障害と診断。柴胡加竜骨牡蛎湯、桃核承気湯は無効で、小腹鞕満を目標に抵当湯を使用したところ、2週間で症状が自制内におさまった。退院後、浮動感は消失した。

【総括】 本方剤の目標は、一般的には精神症状と小腹鞕満であるが、上記2例のように、小腹鞕満のみを目標としても有効であり、必ずしも精神症状を伴わなくてもよいのではないかと考えられた。




【副作用・注意】
●大黄
・食欲不振、腹痛、下痢等に留意。
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。
・授乳中の婦人には慎重に投与[乳児の下痢を起こすことがある]。
・併用する場合は、含有生薬の重複に注意。

●桃仁
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。

●乾漆、虻虫、水蛭、蠐螬、蟅虫
・妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないことが望ましい。

●地黄
・食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等に留意。

※蟅虫の「蟅」は本来は「庶」が上で「虫」が下

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