健康情報: 越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) の 効能・効果 と 副作用

2013年6月8日土曜日

越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
越婢湯
麻黄剤の中には、麻黄と桂枝が同時に組合されている方剤と、そうでないものとがある。麻黄と桂枝とが同時に組合わされている麻黄湯葛根湯大青竜湯などには発汗作用があるから、自汗のあるものには用いず、汗の出ない場合に用いる。ところが越婢湯・麻杏甘石湯には麻黄があって桂枝がなく、しかも石膏が配剤されているから、表に邪があっても、悪感・発熱の状態がなくて、口渇・多汗のあるものに用いる。
本方は麻杏甘石湯の杏仁の代わりに大棗と生姜とを配したものであるから、喘鳴を治する効は麻杏甘石湯に劣り浮腫を去り、尿利をます点では優る。従って本方はネフローゼ、腎炎の初期の浮腫、脚気の浮腫などに用いられる。
【越婢加朮湯】 越婢湯に朮を加えた方剤で、浮腫を去り、疼痛を去る力が強いので、越婢湯證にして水毒の甚しいものに用いる。


『漢方精撰百八方』

64.〔方名〕越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
〔出典〕金匱要略

〔処方〕麻黄6.0 石膏8.0 生姜、大棗各3.0 甘草2.0 朮4.0

〔目標〕自覚的 浮腫、発汗傾向、渇、尿不利、脚力減弱等の傾向がある。
      他覚的 脈 沈にしてやや力があるか又は沈数。ときには浮状を帯びることもある。            舌 やや乾燥し、舌苔は白苔が軽度。
      腹 腹力は中等度で、ときに上腹部に振水音を証明する。

〔かんどころ〕むくんで、渇して、汗ばんで、小便少なく、脚弱る。

〔応用〕
1.脚気による浮腫で陽実証のもの
2.急性腎炎又はネフローゼ
3.関節リウマチ又は神経痛
4.諸種の皮膚疾患、殊に湿疹
5.眼瞼炎
6.帯状ヘルペス 7.リウマチ性紫斑病
8.丹毒
9.麻疹

〔治験〕この薬方を脚気の浮腫や腎炎に用いて効を得た例もあるが、私はこの薬方は皮膚疾患に用いる場合が一番多い。ことに湿疹には著効を得る場合が多いので、その乾性たるち湿性たるとを問わず、応用目標の中の二、三の症状が備わっていたなら、一応は試みてみる価値がある。湿潤の状態が強かったり、手足が冷えたりする場合には、附子を加えて、越婢加朮附湯として用いるとなお効果の顕著な事がある。
  45才の男子で、眼瞼周囲の湿疹、即ち眼瞼炎であるが、これが非常に高度で、眼瞼は腫れてふさがって眼を開ける事が出来ず、奥さんに手を引かれて大学の眼科、その他で治療を受けていたが全く効果の無かったものに、越婢加朮湯数貼が偉効を奏した例がある。
  また55才の婦人で、左三叉神経第一枝の走行に沿って来た帯状ヘルペスに、葛根湯その他で応ぜず、越婢加朮湯に転方した翌日から目に見えて好転し、あのみにくいあとをほとんど残さずに治癒した。以上に例とも渇と尿不利の傾向があった。しかしときには何のとらえ所もなく、ただ陽証の皮膚疾患という目標だけで応用してみて奏効した例もあるから、湿疹等で処置に窮した場合には、一度は試みてよい薬方である。
藤平 健


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
5 麻黄剤(まおうざい)
麻黄を主剤としたもので、水の変調をただすものである。したがって、麻黄剤は、瘀水(おすい)による症状(前出、気血水の項参照)を呈する人に使われる。なお麻黄剤は、食欲不振などの胃腸障害を訴えるものには用いないほうがよい。
麻黄剤の中で、麻黄湯葛根湯は、水の変調が表に限定される。これらに白朮(びゃくじゅつ)を加えたものは、表の瘀水がやや慢性化して、表よ り裏位におよぼうとする状態である。麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)は、瘀水がさらに裏位におよび、筋肉に作用 する。大青竜湯(だいせいりゅうとう)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)・越婢湯(えっぴとう)は、瘀水が裏位の関節にまでおよんでいる。

7 越婢湯(えっぴとう)  (金匱要略)
〔麻黄(まおう)六、石膏(せっこう)八、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)各三、甘草(かんぞう)二〕
本 方は、表に邪があり、瘀水が停滞しているものに用いられる。口渇、多汗を第一目標とし、悪風、自汗、喘咳、小便不利、下肢の腫痛などを目標 とする。本方は、大青竜湯から桂枝と杏仁を除いたもので、麻黄と石膏の組み合わせ(前出、薬方を構成する理由の項参照)となり、止汗作用を現わす。また、 麻杏甘石湯(前出、表証の項参照)の杏仁のかわりに、大棗と生姜を加えたものである。したがって、喘咳を治す点では、麻杏甘石湯がまさり、浮腫を去り尿利 を増す点では、越婢湯がまさっている。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、越婢湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎その他の呼吸器系疾患。
一 腎炎、ネフローゼ、夜尿症その他の泌尿器系疾患。
一 リウマチ、関節炎その他の運動器系疾患。
一 水虫、田虫、湿疹その他の皮膚疾患。
一 そのほか、神経痛、よう、瘭疽、黄疸など。

越婢湯の加減方
(1)越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
〔越婢湯に朮四を加えたもの〕
裏の水が熱のために上部に動揺し、口渇、浮腫、自汗(分泌過多)、小便不利または減少、脚部の麻痺・痙攣などをあらわすものを目標とする。越婢湯證で、水毒のはなはだしいものに用いられる。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) (金匱)

 処方内容 麻黄六、〇 石膏八、大棗、朮各四、〇 甘草二、〇 生姜一、〇 (二五、〇)

 必須目標 ①全身浮腫(とくに脚が甚しい) ②尿量減少 ③口渇 ④沈緊脉 ⑤胃腸は丈夫

 確認目標 ①表症(頭痛、悪風など)なし ②喘咳 ③皮膚病の内攻による浮腫

 初級メモ ①麻黄加朮湯(表の水滞ゆえ脉は浮)より一段と深く裏位に水滞している状態で脉は沈緊になる。
 ②本方は浮腫に繁用するが、習慣性流産症の妊婦には禁忌である。そのときは麻黄加朮湯を考える。
 ③本方の浮腫は脚が著しいが、もし本方無効のときは大柴胡湯の適することが多い。

 ④もし全身浮腫なら本方より五苓散を用いる症の方が多い。
 ⑤本方は例外の使用として時に小便自利(尿量増大)に用いることがある。(たとえば夜尿症)。が、そのときは浮腫がないことが必須目標になる。

 中級メモ  ①越婢湯の名称については古来諸説あるが、越痺湯が正しいとするのは荒木正胤氏の説である。(漢方と漢薬一〇巻八、九号)

 ②本方を皮膚病内攻の腎炎に用いるときは、薬効により皮膚病が再び表面に出てくるから予めその旨を患者に告げておくとよい。そうなったら本方に伯州散を兼用して、腎炎と皮膚病を同時に治療するようにする。
 ③本方証に似て陰証の体質のときは附子一、〇薏苡仁一二、〇を加える。主として急性多発性のリウマチに用いている。ただし一説には石膏と附子の配合は禁忌ではないかといわれている。
 ④南涯「越婢湯の症にして、表裏に水気あり外発する能わず、伏熱する者を治す。その症に曰く、一身腫、面目黄腫、脉沈、小便不利、これ裏に水あって気のびず。故に朮を加う。曰く黄腫は熱候の表に見れるなり。汗出でず悪風せざるは裏に水あるをもって、気外発する能わざるなり。病、表裏にあり」
 
 適応証 急性リウマチ(なお本方証のリウマチはプレドニゾロン系の新薬が無効の者が多い)。皮膚病(湿疹、水虫、田虫など)。夜尿症。脚気。急性腎炎。急性結膜炎(流涙多く、眼瞼はただれ、汚い外観を呈する)。

 類方 越婢湯(金匱)
 これが原方であり、加朮湯と違う点は悪風し、脉は浮脉で自汗出て口渇しない。即ち表病の薬である。南涯「表病

 文献 「越婢加朮湯」 奥田謙三(漢方の臨床1、3、22)



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集 中日漢方研究会
5.越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう) 金匱要略
麻黄6.0 石膏8.0 生姜3.0(乾1.0) 大棗3.0 甘草2.0 朮4.0

(金匱要略)
○裏水本方主之。(水気)
○裏水者,一身面目洪腫,其脉沈,小便不利,故令病水仮如小便自利,此亡津液,故令渇也,本方主之(水気)
○肉極,熱則身体津脱,腠理開,汗大泄, 厲風気,下焦脚弱,本方治之。(中風)

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 越婢湯:病邪が体表にあって且つ水分が停滞する場合の処方で浮腫,自汗,喘咳,口渇,などがあり,尿利は減少し,悪風がして脈浮となり,あるいは下肢に腫痛がおこるなどが目標とするものである。本方は越婢湯の証で小便不利のものと類聚方にある。また用方経験に風湿により疼痛し屈伸することができず,煩渇(ひどく口渇する)あ風,小便渋るもの,あるいは水病(水飲,水毒)で喘咳があり,水をさかんにのみ,小便短少(出が悪く)悪寒するもの,あるいは身体上部に症状がなく,身体下部だけ浮腫があり,あるいは鶴膝風(膝関節炎)といわれるようなものにみなよいとある。内科秘録には急に発病した表水(体表にある水毒)で悪風,微熱,脉浮数,あるいは口渇のあるものは越婢加朮湯がよいとある。

漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水三先生
 越婢湯:麻黄剤の中には,麻黄と桂枝が同時に組合されている方剤と,そうでないものとがある。麻黄と桂枝とが同時に組合わされている麻黄湯葛根湯大青竜湯などには発汗作用があるから,自汗のあるものには用いず,汗の出ない場合に用いる。ところが越婢湯,麻杏甘石湯には麻黄があって桂枝がなく,しかも石膏が配剤されているから,表に邪があっても,悪感,発熱の状態がなくて,口渇,多汗のあるものに用いる。

本方は麻杏甘石湯の杏仁の代わりに大棗と生姜とを配したものであるから,喘鳴を治する効は麻杏甘石湯に劣り浮腫を去り,尿利をます点では優る。従って本方はネフローゼ,腎炎の初期の浮腫,脚気の浮腫などに用いられる。

 越婢加朮湯:越婢湯に朮を加えた方剤で,浮腫を去り,疼痛を去る力が強いので,越婢湯證にして水毒の甚しいものに用いる。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 裏の水が表に浮んで浮腫,自汗,小便不利等を表わすものである,浮腫あるいは汗出で,小便不利を主目標とする。脈は沈で渇がない。「汗出で」を眼の流涙に用いたり,「肉極」を潰瘍,贅肉,ケロイド,ポリープ,フリクテンに当てたり,「脚弱」を下肢の麻痺に用いたりする。分泌物が多いもので,その状態がただれて,汚なく見えるのが特徴である。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 構成:大青竜湯から梗枝,杏仁を抜いたのが越婢湯で,越婢湯に朮を加えたのが本方である。越婢湯の大棗は大青竜湯よりも増量してあるが,どうもこの場合の大棗は強心的に作用するのではないかと疑っている。越婢湯は風が胃に入り,胃気熱蒸し,水を駆って表に身腫を起すと説く学者もいるが,私は風が肺に入ったもので肺水の其身腫,小便図,時々鴨溏に対応するのではないかと考えている。越婢湯の名称は古来越婢湯、起脾湯,起痺湯などの異説が未解決のまま残されている。本方はなかり頻用する。
運用 1.浮腫
 発熱の有無に拘らないが,無熱の時に本方を使うことの方が多い。脉は無熱時には沈だが,発熱時には洪にもなる得る。小便不利する。殆んど之だけを目標にして使ってもよく,時には咳嗽などあっても構わぬが脳痛,悪寒等の表証はない。「裏水のもの一身面目黄腫,其脉沈,小便利せず,故に水を病ましむ。もし小便自利するはこれ津液を亡うり。故に渇せしむ。」(金匱要略水気病)こ英裏水を皮水とした本もあるが,私は裏水でよいと思う。他の所にも裏水となっているし,処方の構成からみても皮水とは思われない。水気には風水、皮水等四種のほかに五臓の水有り,痰飲の水有り,気分血分有りで頗る繁雑だが,私は裏水とは表水(風水,皮水等)に非ざるものを広く指しているのではあるまいかと考える。その裏水の中で越婢加朮湯は正水,石水,黄汗,肺水などに応用し得るのではないかとも考える。之に就ては更に考えを練って別著漢方医学大系に於て論ずることにしたい。(中略)
 もし小便不利以下の文は本方の適応証ではなく,小便不利に対して比較的に云ったもので,小便が不利するのは身体に水分が潴溜して浮腫になっており,小便が自利するのは身体に水分か欠乏し(津液を亡ひ)渇も起るのは当然のことであろう。臨床的には各種の浮腫,腎臓炎,ネフローゼ,萎縮腎,心臓機能不全,脚気その他に応用できる。但し栄養失調生のもの,悪液質などに用い難い。脉沈の浮腫で区別すべきは凡ての虚寒証の浮腫,実証では柴胡加竜骨牡蛎湯木防已湯,木防已去石膏加苓朮湯など。

運用 2.眼病
 裏水の応用で,条文に面目黄腫とあるのを涙にとり,流涙の多いもの,後条の肉極を参照して眼瞼ただれてきたなきものを目標にして使う。充血,羞明,めやに,流涙,痛み或は痒みもある。脉は沈である。
 「眼珠膨張熱痛,瞼胞腫張,及び爛瞼風痒痛羞明,■涙多きものを治す。」(類聚方広義)を参照するとよい。眼瞼炎,結膜炎,角膜炎その他に用いる。大小青竜湯,桃核承気湯苓桂朮甘湯瀉心湯など区別を要する処方はあるが,此等は脉浮だったり,涙が少なかったりする点が違うし,その他に別に各処方に固有な症状があるから注意する。越婢加朮湯の最も特徴的な点は爛れてきたなく見えることである。
■:氵+多

運用 3.実証の脚弱
 「肉極,熱するときは則ち身体の津脱し,腠理開き汗大いに泄る。厲風気,下焦脚弱」(金匱要略中風)漢文は本当に難しい。言葉が判らぬ上に前には亡津液には使わないように書いてあり乍ら今度は津脱に使う。肉極とは外台秘要方に刪折肉極論を引用して「凡そ肉極は脾を主るなり。脾,肉に応ず。肉と脾と合し,若し脾病むときは則ち肉色を変じ云々。脾風の状,汗多く陰動じ寒に傷らる。寒なれば則ち虚す。虚せば則ち体重く怠惰し,四肢挙ることを欲せず。飲食を欲せず。食すれば則ち欬す。欬すれば則ち右脇下痛み陰々として肩背に引きして以て動転すべからず。名けて厲風と曰う。」と。註釈に註釈が要り,その註釈に又註釈が要るから厄介千万である。五行の有当から云うと肉は脾に属することになっている。五に脾が病むと肉の色が変る(之を臨床に応用して潰瘍などの肉芽の色の悪いのに越婢加朮湯を使うことにする。)脾は肉にも関係するし,体の水分にも関係する。故に脾が虚すと肉の力が衰え水分が停滞し身重とか,体重とかが起る。浮腫も起り得る。体重怠惰すれば四肢を動かすのをいやがる。脾は消化機能に関するから脾が弱れば食欲が進まない。脾は穀気に堪えず,熱を帯びてくる。その熱と脾は穀気を受けて之を肺に送るから両方が一緒になって肺に熱を生じ,(越婢加朮湯には肺熱をさます麻黄が入っている。)咳を起す(越婢加朮湯は咳にも使い得る)欬は気である。気は右血は左だから,欬によって
右の脇下が痛みを起し,それが肩背に放散し,肩胛関節若しくは上半身を動かすこともひねることも出来にくくなる。このようなものを厲風というのであって癩病のことではない。脾と肺の関係は前述の通りだが,五行の相生によると脾土肺金を生ずで関係がつく。(同様に脾土腎水を剋すで脾と腎とは相剋関係にある。今脾熱を生じたるにより腎水が剋され、小便不利,脾弱を起したとの説明がつく。)右脇下痛肩背に牽引痛を起すのは(臨床的にはむしろ小青竜湯を使うことが多いが,越婢加朮湯の適応証もあるかもしれない。私には経験がない)肺金が虚すと肝木が盛んになる。肝は胆と表裏をなすものだから胆経には故障が起る。胆経は脇下から肩へ行っている経絡ゆえ,同部に痛みが起る。右と指定したのは人体の右は気に,左は血に偏向するものであろう。(現代医学的には肝臓の反射点は右肩に在る。)
 津脱は体内の水分が脱出するとの意,腠理は皮膚の紋理で,そこから気が出入し,汗が出,邪気も入ってくる場所と考えられている。肉極や,厲風の中にもさまざまな証が分れていて,越婢加朮湯もその一つに数えられるのであろうが,越婢加朮湯の場合は内に熱があって,その熱のために津液を外に脱出させ,皮膚に於て停滞すれば浮腫になり,皮膚外に洩れれば汗になる。それが津脱だし,腠理開き汗大いに泄るであろう。たから体内の水分が欠乏したというわけではなくて,ただ水分の分配が異常なのがその本態である。水が表へ浮んで肌肉に多くなると恐らく水血症(HYDRAEMIE)か筋肉の水分過多症を起すのであろう。(之は潰瘍などからも推定できる。筋肉の水分過多症については現代医学に知見がない。)起立位に於てはどうしても下肢に力が加わり,負担が増すと共に血液の循環障害も起りやすくなる。(下腿浮腫,潰瘍や特発性脱疽からも考えられる) 従って脚弱が起って来る。脚弱とは横臥したのでは判らない。起立や歩行に際してはじめて感じる自覚症状である。下焦は部位的には下腹部,腰部,下肢等を総称したことになり,腎に属するものである。機能的には排泄であり,大小便,生殖等に与り,特に今の場合は水分の循環調節というような意味がある。前に脾と腎の関係を五行説的に述べたが,腎といえば下焦のことだし,下焦といえば症状としては,小便不利や自利や起ることも予想される。漢方はこういう風に連想的な機構によって形成されているのだ。臨床的には難解な条文の内から拾って,肉極と津液表泛から目や体表の炎症で肉の色が変り,分泌が多いもの。津液表泛から浮腫,脚弱から麻痺,運動失調,リウマチ等に応用の途を開いて行く。勿論,内熱その他の基本条件があって,その上で起る症状という点を忘れてはならぬ。脚弱の応用としては脚気で下肢の知覚麻痺は不定だが運動麻痺は必発する。下肢運動麻痺,各種の中枢神経疾患にも使う。脉沈,小便不利する。脳出血後の半身不随にも使い得る。筋肉リウマチ,前記の肉極四肢を挙ぐることを欲せずによって使う。脉,小便を参考にし,且つ他に表証なきことを確かめて使う。

運用 4.分泌のある皮膚病
 湿疹,たむし,水虫等で部位は必ずしも下半身とは限らぬが,分泌があり,その量は多くても少なくても宜しいが,何となくきたなく見えるもの,痂皮,脂漏を交えたものなどに適する。之は肉極性のものと考えられるからだ。金匱要略水気病に「腎水は其腹大臍腫,腰痛溺することを得ず,陰下湿ること牛の鼻上の汗の如くその足検冷,面反って痩す。」を参照して,いんきんたむしにも使う。勿論いんきんたむしと雖も越婢加朮湯の証ばかりとは限られず,苓姜朮甘湯小柴胡湯桃核承気湯大黄牡丹皮湯八味丸当帰芍薬散,土瓜根散,薏苡附子敗醤散等の証があるが,脉沈と瘡面が肉極性のものを狙って越婢加朮湯を用いるのである。

運用 5.下肢静脉拡張病
 青少年に多いバリックスに使う。筋痛,脉沈を参照する。バリックスはこの他に桃核承気湯,桂枝茯苓丸,当帰芍薬散当帰四逆加呉茱萸生姜湯などの証が現われる。

※バリックス(varix)(下肢静脈瘤)     下肢の静脈弁(venous valve)が壊れてしまう病気


運用 6.化膿症
 皮下膿瘍,筋炎,ひょう疽,などで痛み,腫張が強く,皮膚面の発赤はチアノーゼ様に暗赤色を呈し,発熱するも悪寒不足,脉沈数のものに使う。患部の模様が白虎加桂枝湯に似た所もあるか台脉大と沈とで区別する。その他白虎加桂枝湯には熱候強く表証を伴うことも多い。口渇も白虎加桂枝湯の方が多く見られる。桃核承気湯ではもっと鬱血的であるし表証はない。大黄牡丹皮湯は下半身で充血的である。潰瘍で分泌物がきたなく所謂やにの多いものに越婢加朮湯を使う。瘡面は水っぱく赤味が少い場合と,赤味はあってもくすんで紫がかった暗赤色を呈している場合とがある。之は肉に熱を帯びてしかも水分過剰のためと見ている。尾台榕堂先生は越婢加朮湯に附子を加え,「諸瘍久しきを経て流注となるものを治す。」という。要するに越婢加朮湯は表に於ては熱も水もありしかも発汗し難いものというのが狙いである。

運用 7. その他
 黄疸で浮腫,小便不利のもの,肺尖カタル,妊娠腎で浮腫発熱喘咳小便不利のもの,但し小青竜湯と鑑別を要す。バセドウ氏病で心悸亢進,呼吸促進,口舌乾燥渇,眼球突出し,小便不利のものなどに使った例がある。



現代漢方治療の指針
  〈漢方処方解説シリーズ抜粋
 咽喉がかわき,浮腫または水疱の甚だしいもの。あるいは分泌物の多いもの。
 本方は,通常浮腫の著しい急性腎炎,ネフローゼ,あるいは分泌物の多い湿疹に繁用される。平常強健な人で,未だ体力の衰えない時期に限り,慢性症状にも適用できるが,虚弱体質や衰弱した患者には使用してはならない。浮腫がそれ程でもなく,咽喉のかわきが甚だしくてむやみに水を欲しがる場合には本方より,五苓散の方が適し,感冒後などで,浮腫も口渇も少なく,蛋白尿が出る場合には小青竜湯がよい。また心不全などによる呼吸困難を伴う浮腫には木防已湯などを考慮すべきである。急性関節炎ではれて痛む時にはよいが,慢性なら麻杏薏甘湯が適する。夜尿症に応用する場合は,健康な小児でぐっすりと熟睡して夜尿するものに使用し,反対に虚弱児の夜尿には小建中湯を連用させるべきである。本方を服用して心悸亢進を起すときは,桂枝加竜骨牡蛎湯あるいは五苓散で,衰弱するときは小柴胡湯あるいは補中益気湯で治療すればよい。



【一般用漢方製剤承認基準】
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越婢加朮湯
〔成分・分量〕
麻黄4-6、石膏8-10、生姜1(ヒネショウガを使用する場合3)、大棗3-5、甘草1.5-2、白朮3-4(蒼朮も可)
〔用法・用量〕

〔効能・効果〕
体力中等度以上で、むくみがあり、のどが渇き、汗が出て、ときに尿量が減少するものの次の諸症:
むくみ、関節のはれや痛み、関節炎、湿疹・皮膚炎、夜尿症、目のかゆみ・痛み


【副作用】
1) 重大な副作用と初期症状     
 1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
 2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。  低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う 。

2) その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 痒等
[理由]  本剤によると思われる発疹、発赤、 痒等が報告されている(企業報告)ため、上記の副作用を記載した。 
[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等 の適切な処置を行うこと。
自律神経系:不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等  
[理由]  本剤にはマオウが含まれているため、不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興 奮等の自律神経系症状があらわれるおそれがあり、上記の副作用を記載し た。
[処置方法]  原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行うこと。
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等
[理由]  本剤にはセッコウ・マオウが含まれているため、食欲不振、胃部不快感、 悪心、嘔吐、軟便、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されている 。これらのため、上記の副作用を記 載した。  
[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行うこと
泌尿器:排尿障害等
[理由]  本剤にはマオウが含まれているため、 排尿障害等の泌尿器症状があらわれるおそれがあり、 上記の副作用を記載した。
[処置方法]  直ちに投与を中止し、適切な処置を行うこと。

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