健康情報: 11月 2013

2013年11月24日日曜日

参蘇飲(じんそいん) の 効能・効果 と 副作用

『重要処方解説Ⅰ』 47 麦門冬湯・香蘇散・参蘇飲 
日本東洋医学会/副理事長 山田光胤 先生

参蘇飲

 参蘇飲も『和剤局方』にある処方であります。
 処方の内容は,紫蘇葉(シソヨウ),枳実(キジツ),桔梗(キキョウ),陳皮(チンピ),葛根(カッコン),前胡(ゼンコ),半夏(ハンゲ),茯苓(ブクリョウ),人参(ニンジン),大棗(タイソウ), 生姜(ショウキョウ),木香(モッコウ),甘草(カンゾウ)の13種類の組み合わせになります。証の概略は,先ほど申しましたように,少陽病の時期であります。風邪,感冒でも,数日ないし1週間前後長びいた時です。そういう場合で,胃腸のごく弱い人に使うのであります。
 使用目標はしたがって,風邪をひいたり,熱が出て頭痛,咳,喀痰などを伴い,あるいは喘鳴を伴っておりますが,胃腸がふだんから弱いためと,病気が進んで少陽病の時期になっているために,心窩部がつかえたり,張ったりし,時には吐き気がしたり,水のようなものを吐いたりする時に使うわけであります。
 もう少し説明をしますと,参蘇飲が合うような人は,ふだんから胃腸が弱くて,胃内停水があるような人であります。風邪をひいて熱の出始めには香蘇散などを使うとよいのですが,それが長びいて少陽病の時期になった時に,普通ですと小柴胡湯であるとか,柴胡桂枝乾姜xzなどを使えばよろしいのですが,ふだんから胃腸虚弱症が伴って胃が悪いというような時に参蘇飲を応用するわけであります。
 したがって応用として一番使いますのは,風邪,感冒,またはそれに伴う気管支炎,あるいは胃の弱い人の気管支喘息などであります。また食欲不振を伴う神経症,たとえば神経性不食症などに使えることもあります。
 症例については省略し,鑑別を申し上げます。すでにお話ししましたように,初期の発熱でしたら香蘇散を使うわけでありますが,少し日数がたった時にこの処方を使いますので,この処方の周辺には少陽病に使う処方がいくつかあります。そこで虚実に従って使い分けるわけであります。とくにふだんから胃腸が弱いというところ目標にしますと,参蘇飲を使う機会は非常に多いのであります。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
60 参蘇飲(じんそいん) 〔和剤局方・傷寒論〕
 半夏・茯苓各三・〇 陳皮・葛根・桔梗・前胡(または柴胡)各二・〇 蘇葉・人参・枳殻・木香・大棗各一・五 甘草・乾生姜各一・〇

 「四時の感冒、発熱頭疼、咳嗽声重く、涕唾稠粘、中脘痞満して痰水を嘔吐するを治す。中を寛(ゆる)め、膈を快(こころよ)くし、痰咳喘熱に効あり。」
 胃の弱い人で、葛根湯や桂枝湯が胸に痞(つか)えるという、感冒に咳嗽を兼ねたものによい。
 感冒・気管支炎・肺炎・酒毒・気鬱・悪阻などに応用される。


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
参蘇飲(じんそいん) 〔和剤局方〕

【方意】 肺の熱証による咳嗽・濃厚な喀痰等と、脾胃の虚証脾胃の水毒による悪心・嘔吐・心下痞等のあるもの。しばしば表の寒証による肩背強急・頭痛・悪寒・発熱等と,気滞による精神症状を伴う。                                                 《少陽病,虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

肺の熱証脾胃の虚証
脾胃の水毒
表の寒証

気滞による精神症状
主証 ◎咳嗽
◎濃厚な喀痰



◎悪心 ◎嘔吐
◎心下痞







客証 ○胸内苦悶感
○煩熱 肌熱
  粘痰
  乾咳


   食欲不振○頭痛
○肩背強急
○悪寒 発熱
○感情不安定
○抑鬱気分


【脈候】 浮やや緊・細数・沈数。

【舌候】 乾湿中間で微白苔。

【腹候】 腹力中等度。心下痞硬がしばしばみられる。

【病位・虚実】 正証では肺の熱証が主であるため少陽病、表の寒証も顕著であれば太陽病との併病である。脾胃の虚証・脾胃の水毒があるため消化器の虚弱者にも用いることができる。脈力および腹力より虚実中間を中心にして用いる。

【構成生薬】 半夏3.0 茯苓3.0 桔梗2.0 陳皮2.0 葛根2.0 前胡2.0 人参1.5 大棗1.5 蘇葉1.0 生姜1.0 木香1.0 甘草1.0 枳殻1.0

【方解】 人参には滋養・強壮・滋潤作用があり、茯苓には利水作用がある。人参・茯苓の組合せは脾胃の虚証を治す。一方半夏・生姜の組合せは脾胃の水毒の動揺に対応し、人参・茯苓と共に悪心・嘔吐・心下痞・食欲不振を治す。陳皮・木香・大棗にも健胃・整腸作用があり、枳殻には腹満に対応すると共に健胃作用があり、以上すべての構成生薬は脾胃の虚証に有効に働く。葛根は表位に作用し蘇葉の温性と共に表の寒証に働き、肩背強急・悪寒・発熱等を治す。前胡・桔梗は肺の熱証に対応し、咳嗽・喀痰を去る。また、蘇葉・前胡の組合せは気滞を発散させ、感情不安定・抑鬱気分を解消する。甘草は諸薬の作用を増補する。

【方意の幅および応用】
 A 肺の熱証表の寒証:咳嗽・喀痰・肩背強急・悪寒・発熱等を目標にする場合。
   感冒、アレルギー性鼻炎、インフルエンザ、気管支炎、肺炎
 B 脾胃の虚証脾胃の水毒:悪心・嘔吐・心下痞等を目標にする場合。   急性胃炎、妊娠悪阻、二日酔
 C 気滞による精神症状:感情不安定・抑鬱気分を目標にする場合。
   ノイローゼ、抑鬱気分

【参考】*感冒発熱頭疼を治す。或は痰飲凝結によって、兼ねて以って熱を為すに並びに宜しく之を服すべし。能k中を寛くし、膈を快くし、脾を傷ることを致さず。兼ねて大いに中脘痞満、嘔逆悪心を治す。胃を開き食を進むること、以って此に踰(こ)ゆることなし。小児童女亦宜しく之を服すべし。
『和剤局方』

*此の方は肺経の外感を発散し、内傷を兼ねて脾胃調和せざるを治するものである。四季の感界験信r発熱、咳嗽、痰飲を兼ね、飲食による内傷もあ責、中脘痞満、嘔吐、悪心等のあるものによい。胸膈を利して飲食を進めす。葛根湯を嫌うもの、又麻黄剤の用い難きもの、小児、老人、虚人、妊婦等の感冒、咳嗽によく用いられる。転じて気鬱、酒毒、悪阻等にも使用される。
『漢方後世要方解説』

*本方は元来脾胃の虚弱な者が感冒に罹患し、咳嗽が顕著になったが、桂枝湯や葛根湯では心下に痞えるというものに良い。

*森道伯翁がスペインカゼに本方を用いて著効を挙げている。肺熱(脈数・濃厚な喀痰・粘痰・咳嗽・肌熱の強いもの)に用い、肺寒(鼻汁・脈遅)には不適当である。胸内苦悶感・重篤感ざある。こじ罪た感冒・肺炎に良い。


【症例】肺結核と結核性腹膜炎の合併
 33歳の主婦。肺結核に腹膜炎を併発し、3ヵ月程入院生活もしたがますます衰弱を加え容態悪化するばかりなので自宅に戻っていた。右肺は全面濁音で随所に湿性のラッセルを聴取し、熱は39℃を上下し、1日中烈しい咳嗽に苦しみ、腹は太鼓のように張って腹水が蓄っている。それに自汗盗汗、食思全く不振と来ている。脈はこ英病の最も危険な沈細数という、まず以て不治の証候が悉く備わっているものである。このような患者に咳嗽を主とした胸膈の薬方ではほとんど失敗であるから、まず腹中より先にする必要がある。激剤は用いられぬからと『回春』皷張門にある行湿補気養血湯を与えた。これがある程度奏効してまず食欲が進み熱が徐々に下り、咳嗽も減少して来た。その後参蘇飲を用服しているうちに全く蘇生したように健康体になってしまったのである。2年間で廃薬して家事を切り廻して些の疲労もなかった。
 矢数道明『漢方と漢薬』7・1・54

慢性気管支炎
 60尚の女性。やや肥満型で毎日孫の子守をしている。生来元気であまり大きな病気をしたこどがない。昨年春にカゼを引いて、それ以来多少良くなったり悪くなったりして、すっかり治ることはない。
 昭和45年12月4日の初診で、熱はなく主訴は咳嗽である。痰は白く量も少なくて、喀出もあまり困難でない。胸部は呼吸音少し粗で乾性ラ音を聴く、そのほかは特別の所見なし。鎮咳袪痰剤を投与しそのうちに良くなると思ったが、1ヵ月経過しても駄目であった。そこで、胸部XP検査を行ったが、異常なかった。
 患者は、発病以来数軒の医師を転々として、その都度色々と検査をしたが異常なく、感冒とか慢性気管支炎の診断で治療を受けていた。昭和36年1月9日、参蘇飲を出し3日間の服用で非常に良くなり咳もほとんどなくなった。再発をおそれてしばらくこの薬を続けたいと希望したので、20日分与えた。その後現在まで発病していない。
山本厳『漢方の臨床』18・6-7合併号・50


『漢方後世要方解説』 矢数道明著 医道の日本社刊
 p.47
表裏の剤
方名及び主治

四二 参蘇飲(ジンソイン) 和剤局方 傷寒門
○感冒発熱頭疼を治す。或は痰飲凝節に因って兼ねて以って熱を為し、並びに宜しく之を服すべし。能く中を寛くし、膈を快くし、脾を傷ることを致さず、兼ねて大いに中脘痞満、嘔逆悪心を治す。胃を開き食を進むること、以って此に踰(こゆることなし、小児童女亦宜しく之を服すべし。

文献
 参蘇飲と肺炎
 「漢方の臨床」 第五巻 五号………細野 史郎

処方及び薬能
半夏 茯苓各三 陳皮 葛根 桔梗 前胡各二 蘇葉 人参 枳殻 木香 甘草各一 大棗 生姜各一・五
 桔梗、前胡、蘇葉、生姜=肺経を発散し、
 前胡、生姜、蘇葉、茯苓、葛根=組んで脾経の風を追い、
 人参、茯苓、甘草=脾を補う。
 陳皮、半夏=痰を除き嘔を止む。
 枳殻、桔梗=膈を利し、木香気を廻らす。



解説及び応用
○此方は肺経の外感を発散し、内傷を兼ねて脾胃調和せざるものを治するものである。四季の感冒にて発熱、咳嗽、痰飲を兼ね、飲食により内傷もあり、中脘痞満、嘔吐、悪心等あるものによい。胸膈を利して飲食を進める。
葛根湯を嫌うもの、又麻黄剤の用い難きもの、小児、老人、虚人、妊婦等の感冒、咳嗽によく用いられる。転じて気欝、酒毒、悪阻色にも使用される。

○応用
①感冒、
②気管支炎、
③肺炎の軽症、
④酒毒、
⑤気欝の症、悪阻。



『活用自在の処方解説』 秋葉 哲生著 ライフサイエンス社刊

【効果増強の工夫】悪寒、呼吸困難など表寒の症候が強ければ、麻黄附子細辛湯を少量加味す る

【各種口訣の追加】
●   この方、肺熱咳嗽、肌熱の強きを標的とすべし。肺寒咳嗽の者は用ゆるこ とを禁ず。
誤り用ゆれば、即時に害は見えねども虚労に変じて死す。このこと謙斎戒められて、
参蘇飲の用い損じ、労咳になること世上に間々 あること心得べし。
肺寒の証はしばしばくさめし、鼻に清涕を流し、脈遅 なり。
( 『餐英館療治雑話』 目黒道琢)

●  この方を用いる目的は、肌熱の痰咳を目的に用いる方なり。
参蘇飲の脈は 沈数か、細数かなるべし。もし大数などには効無し。
( 『経験筆記』 津田玄仙)

●  参蘇飲の汗、汗出ずること久しくして、参耆等の薬を用いて効あらず。汗 乾けばすなわち熱す。これ風邪経絡に伏す。しばらく参蘇飲を与えれば病 やむ。 (同)

 ●  感冒に痰を挟みたる者に用ゆ。雑証すべて痰を目的にして用ゆ。中風の風 寒に感冒するに用いる定席なり。本方に中風の主治あり。また痰を目的と して用ひたるものとみゆ。
 ( 『漢陰臆乗』 百々漢陰)



上田ゆき子先生の口訣(日本大学医学部附属板橋病院)
女性であまり胃腸が丈夫でない人の風邪
香蘇散と使い分けを迷いますが、
私は香蘇散は少しの寒気やだるさなど体表の軽い症状の場合に用い、
参蘇飲は咽頭痛や胃腸症状などが明らか場合と使い分けています。
いずれにしてもやはりどちらも女性向き。


『かぜの隠れた名処方 ~その2 参蘇飲~』
織部 和宏織部内科クリニック院長

に言わせると元来、脾胃気虚体質で日頃は四君子湯や六君子湯を処方したくなる、或いはしているタイプの人が風邪をひき香蘇散の時期を過ぎ、表証はまだ残っているものの少陽病期に半分は入っている人の感冒に使用すれば良い。葛根湯合小柴胡湯加味の虚証用の方剤である。こういうタイプの人は麻黄剤は勿論の事、柴胡でも胃にくる事があり、それで前胡(セリ科のノダケなどの根)を柴胡にかえて使用していると考えられる。  よって構成生薬を分かりやすく整理すると、六君子湯から朮を抜き、前胡、葛根、蘇葉、枳実を加味した内容である。そこでツムラの手帳では、「胃腸虚弱の人(六君子湯タイプ)の感冒で、すでに数日を経て(香蘇散の時期はすでに経って)、やや長びいた場合に用いる」。  1)     頭痛、発熱。(葛根、蘇葉、前胡)、咳嗽、喀痰(半夏、桔梗)などを伴う場合。 2)     心下部の痞え、悪心嘔吐(六君子湯加枳実)となる訳である。


『勿誤薬室方函口訣解説(69)』  (※同名異方の解説なので注意)
北里研究所付属東洋医学総合研究所医長 安井広迪

参蘇飲
 まず参蘇飲ですが、宋代の『和剤局方』の中に同じく参蘇飲という処方があり、これは現在、風邪などに比較的よく使用しておりますが、ここで述べる参蘇飲はそれとはまったく別のもので使用する機会はほとんどありません。条文は、
 「産後、面黒く、すなわち悪血および肺喘を発し死せんと欲するを治す。人参(ニンジン)、蘇木(ソボク)左、二味。一名山査湯(サンザトウ)。
 此の方は血喘を主とす。また産後、瘀血、衝心のものにも用う。証によって即効あるなり」とあります。
  これで参蘇飲というのは、人参と蘇木からそれぞれ一字ずつとって名づけられたものであることがわかります。記載されている適応症は、出産後出血過多、ある いは自律神経など、何らかの理由により呼吸困難を訴えてくるもので、それに対して強力な補気薬である人参と止血、活血作用のある蘇木を組み合わせ、速やか に病態を改善しようという意図をもっていると思われます。この二味にさらに麦門冬(バクモンドウ)を加えますと、蘇木湯(ソボクトウ)という処方になり、 やはり産後の呼吸困難に、とくに中国でしばしば使用されております。


【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


その他の副作用
過敏症:発疹、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
  本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。

2013年11月19日火曜日

五虎湯(ごことう) の 効能・効果 と 副作用

和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
五虎湯(ごことう) 〔万病回春〕

【方意】 肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽等と、上焦の熱証による自汗・口渇等のあるもの。                                                 《少陽病,虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

肺の水毒上焦の熱証

主証 ◎呼吸困難
◎喘鳴
◎咳嗽


◎自汗
◎口渇







客証 ○心悸亢進

   息切れ


   手足冷
   煩悶感
   伏熱(無大熱)
   頭痛 頭重

  



【脈候】 弦・やや浮・やや緊。

【舌候】 乾燥した白苔。

【腹候】 腹力中等度。

【病位・虚実】 麻杏甘石湯と同じく、上焦の熱証と肺の水毒よりなるため少陽病に相当する。脈力も腹力もあり実証である。

【構成生薬】 麻黄4.5 杏仁4.5 甘草1.5 石膏8.0 桑白皮1.5

【方解】 本方は麻杏甘石湯に桑白皮を加えたものである。桑白皮は上焦の熱証を伴う肺の水毒に対して用い、鎮咳・利尿・消炎・解熱作用がある。本方意の構成病態は麻杏甘石湯証と同じく肺の水毒と上焦の熱証であるが、本方意では肺の水毒による呼吸困難・喘鳴・咳嗽が強い。

【方意の幅および応用】
 A 肺の水毒:呼吸困難・喘鳴・咳嗽等を目標にする場合。
   百日咳、喘息、気管支拡張症、肺気腫
 B 上焦の熱証:自汗・口渇・発熱等を目標にする場合。
   感冒、気管支炎、肺炎

【参考】*傷寒端息(呼吸困難)を治す。又虚喘急を治す。先に此の湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁を用う。『万病回春』

*此の方は麻杏甘石湯の変方にして喘急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風(ジフテリア)は一種の急喘にして此の方の症に非ず。別に考究すべし。『勿誤薬室方函口訣』



【症例】慢性気管支炎
  明虎湯の治験に古い思い出がある。その頃小学5年生の子供が喘息で、その父が内科医師であったが、どうしても全治せず、私の漢方治療で全治したのであった。その病状は、呼吸困難はなかったが、喘鳴甚だしく呼吸するごとに喘々として苦しがっていた。胸部には笛声や水泡音が著明であった。喘息というよりは慢性の気管支炎ともいうべき症状であったと記憶している。五虎湯を3ヵ月程度連服して全治したのである。
 ところがその時の患者から今年電話で「8歳になる子供が喘息で苦しんでいるから、昔私が載いた漢方薬を是非送ってもらいたい」とのことである。そして彼が言うには、親子三代先生の御世話を受けるとは想像もしなかったという。彼の母親もその昔、胃痙攣で解急蜀椒湯で治したことがあった。五虎湯でこの小児も快方になったとの礼状があった。 高橋道史「漢方の臨床』11・10・14

小児喘息
 5歳の男子。生まれつき弱い子であった。生まれた翌年の秋にカゼを引いて、それから咳嗽が続いて小児喘息だといわれた。あるいは慢性気管支炎かも知れないという医師もあった。平常も咳込みがあるが、カゼを引くと激しくなる。ちょうど百日咳のときのように引き続いて、咳込んできて、激しいときは前こごみになり、赤い顔をして汗ばむほど苦しむのであった。栄養は普通で、顔色もそれほど悪くはない。便通は1回、偏食で大体が食欲がない。口渇はそれほどではないという。
 このような激しい咳込みで、自汗、口渇のあるときは麻杏甘石湯の適応証である。一般にこれに二陳湯を合方し、更に桑白皮を加えて五虎二陳湯という方名として用いるのが浅田流の常套方である。即ちこの患者にもこの五虎二陳湯として用いた。
 10日分の服用により喉喘はすっかり治った。そして食欲が出て、今までは怒りやすく、興奮しやすかったのがおとの成くなったといって、本人はもちろん、家人がとても喜んでくれた。この子はそれ以来生来の咳込みから解放されて見違えるほど丈夫になった。
 麻杏甘石湯に桑白皮を加えたのが五虎湯である。これに二陳湯を加えると、胃の受け具合が良く、胸にもたれず、胃中の停痰を去り、子供は喜んで服用するようである。
矢数道明『漢方の臨床』11・6・18




『重要処方解説(83)』  
神秘湯(しんぴとう)・五虎湯(ごことう) 
 日本東洋医学会会長 室賀 昭三

■五虎湯・構成生薬・薬能薬理・用い方
 次は五虎湯(ゴコトウ)について申します。これは麻杏甘石湯という麻黄,杏仁,甘草,石膏の『傷寒論(しょうかんろん)』に出ている古方に,桑白皮を加えたものですが,麻黄はephedrineが入っているので鎮咳作用がありますし、杏仁も鎮咳作用,去痰作用があり,甘草は薬効を調和するもので,石膏は体の熱を冷やす薬でありまして,これに桑白皮を加えたものが五虎湯です。
 桑白皮は桑または同属植物の根の皮でありまして,フラボノイドやトリテルペンが入っており,鎮痛,抗炎症作用,インターフェロン誘起作用とか,血圧降下作用というものが認められ,味は甘く,辛く,冷やす作用がありまして,昔から咳を治す薬として広く使われております。ですから,麻杏甘石湯に鎮咳作用を加えて強くしたものが五虎湯であります。
 麻杏甘石湯は味があっさりして,飲みやすい薬方ですが,それに味の甘い桑白皮を加えて,さらに鎮咳作用を強くしたものです。使用目標は麻杏甘石湯も五虎湯もそれほど差はなく,大人に使う場合もありますが,子供の喘息や気管支炎に使われることが多いようです。


『勿誤薬室方函口訣解説(33)』 日本東洋医学会理事 中田敬吾
五虎湯
 五虎湯の出典は『万病回春』です。「傷寒、喘息、喘急するを治す。又虚喘急するを治す
るに先ずこの湯を用いて表を散じ、後に小青竜湯加杏仁(ショウセイリュウトウカキョウニン)を用いる。即ち麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)方中加桑白(ソウハク)、もと細茶(サイチャ)あり、今必ずしも用いず」と主治を述べております。とくにむずかしい言葉もありませんので、大体意味は理解できると思います。
 傷寒、いわゆる急性の症状のはげしい熱病であって、喘鳴があり、呼吸困難を来たしている状態を治し、かつまた虚証の端鳴と呼吸困難にもまずこの処方を用いて、表に存在する邪気を散じよという意味であります。虚証の場合、その急性症状期に五虎湯を用い、その後は小青竜湯加杏仁を用いよと記されています。
 『口訣』には「此の方は麻杏甘石湯の変方にして端急を治す。小児に最も効あり。但し馬脾風は一種の急喘にして此の方の症に非ず青:別に考究すべし」と記されています。ここでいう馬脾風とは、小児に起きる、急性に喉がつまって、呼吸困難を伴う病気で、今の咽喉ジフテリアなど、喉の炎症に相当する疾患です。これに対しては『外台秘要』の四物湯(シモツトウ)や小柴胡湯加桔梗石膏(ショウサイコトウカキキョウセッコウ)、あるいは半夏散及湯(ハンゲサンキュウトウ)などが用いられております。この口訣に関してもとくに解説は不要と思います。
 この処方は『傷寒論』の麻杏甘石湯とともに、気管支喘息に頻用され、効果の高い処方であります。処方中の麻黄は、成分中にエフェドリンを含有し、強い鎮咳効果をもっております。また桑白皮(ソウハクヒ)も袪痰鎮咳の効果にすぐれております。『口訣』中に「小児に最も効あり」と記されていますが、小児の喘息とみれば、まず五虎湯といわれるぐらいに、小児喘息に応用し、かつ有効率の高い処方であります。麻杏親石湯と本処方は、ほとんど同じ目標で用いていますが、喘息発作の時、頓服として用いる場合は、より薬味の少ない麻杏甘石湯の方がよいと思います。
 喘息の治療につ感ては、小児、成人を問わずファーストチョイスにあげられる処方がこの五虎湯あるいは麻杏甘石湯、および種々の文中に出ている小青竜湯(ショウセイリュウトウ)であります。小青竜湯については、テキスト一三五ページに記されていますので、それを参考にしていただければよいと思います。この両処方は、いずれも麻黄を含んでおりますが、構成薬味は大きく違っております。しかし実際の臨床の場ではなかなか鑑別が困難な場合が多いものです。
 以前に私たちの診療所で、喘息治療の統計調査を行なっていますが、その結果をもとに、両処方の鑑別を簡単に述べることにします。まず呼吸困難については起坐呼吸で強度の呼吸困難を症するものは、麻杏甘石湯で二二・五%、小青竜湯で一二・九%であり、麻杏甘石湯の方が強度の呼吸困難に、より効果的でした。
 一方の小青竜湯の方は、くしゃみや水鼻が多く、唾状の薄い痰が多く、小便も近いなど、麻杏甘石湯に比べると冷えや水毒状態をより強く認めたわけであります。さらに腹証においても小青竜湯の場合は、小建中湯(しょうけんちゅうとう)に似た腹直筋緊張型を呈すことが多いのですが、麻杏甘石湯は心下部に幅広く緊張を認めます。この心下部に幅広く緊張を認めるのは、喘息発作の強い時によく認められ、発作が軽減してくると、心下部の緊張がなくなってきます。
 小青竜湯の場合、心下部に振水音を認める場合も多く、この点からも麻杏甘石湯あるいは五虎湯よりも小青竜湯の方が、より水毒症状が強い時に適応することが推察できます。
 麻杏甘石湯および五虎湯と、小青竜湯の簡単な見分け方は、症状の上で痰の少ないヒィヒィという呼吸困難状の発作のある場合は、麻杏甘石湯の方で、痰が多く、ゼイゼイという喘息発作には小青竜湯がよいといえます。しかしながら、先ほども述べたようにこのように簡単に、実際の臨床では鑑別できない場合が多いものです。このような場合に、非常にうまいと申しますか、ずるいと申しますか便利な処方があります。それは、小青竜湯に杏仁(キョウニン)、石膏(セッコウ)を加えて用いる方法です。こうすれば小青竜湯と麻杏甘石湯との合方にもなり、両処方いずれの証の場合でもそれなりの効果が得られるというものです。
 この処方を最初に用いたのは江戸時代の名医本間棗軒であります。本間棗軒も喘息の治療には非常に苦労したとみえて、彼の著書の『内科秘録』の中に、「服薬にては一旦治せども、再発して根治するもの少なし。食禁を慎み、食事療法を根気よくし、長く薬を服用し根治したるものわずかに指を折るのみ」と嘆いております。
 小青竜湯加杏仁石膏(ショウセイリュウトウカキョウニンセッコウ)は、日常外来でよく用いる処方でありますが、原則として、治療はできるだけ単一の処方で治療するよう心がけるべきでしょう。合方すればするほど薬の作用は鈍ってくるものであります。本間棗軒は、喘息の治療に「食禁を慎み」と、食養生の必要性を述べておりますが、現在においても、食事の注意は決しておろそかにできません。
 簡単に食養生の注意を述べてみますと、まず第一に砂糖の摂取制限です。糖分の過剰は、現在の栄養学的においても、大いに問題となるところですが、漢方においても過剰の糖分は脾胃、すなわち消化機能を損ない、湿痰が停滞し、い愛ゆる水毒が生じ、喘息など気管支の弱い人は、気管支からの分泌が多くなり、喀痰がふえ、喘息状態を長期化させる結果になります。
 また喘息は肺に痰が過剰に分泌されている状態であります。このような病態を漢方では水毒状態といいます。 一般に水毒状態といいますと、水分が体内に偏在し、均等化されていない状態を指しますが、水毒状態になる人は、日常水分代謝が悪く、とくに水分の排泄機能の悪い場合が多いものです。喘息の患者には、この水分貯留傾向があります。水分蓄留傾向は、消化器系機能の悪い人にも良く見られます。
 このことから、喘息の食養生としては、水分摂取制限を強く行なう必要があります。現代医学では、喘息発作時は、気管支にある粘っこい痰に湿り気を与え喀出しやすくするために点滴をし、また患者にはどんどん水を飲ます治療法をとります。このことから、喘息患者に、発作が起きていない時期でも、できるだけ水を飲もうと心がける人もいます。発作時の水分摂取に関して議論はさておき、発作の起きていない時期においても、水分をよく摂取するという食養生は、漢方の立場からいえば、大きな問題があるといわざるを得ません。水分排泄の悪い人が、水分を過剰に摂るほど、体内での水分貯留傾向が増加し、弱点のある気管支からの分泌がふえ、痰を多く生ずる結果になるからです。
 私たちは、日常、喘息患者に対して、きびしい水分摂取制限を行なっております。水分と糖分の摂取制限を行なう上から、果実の摂取はほとんど全面的に中止した方がよいと思います。とくにメロンやパイナップルなど、南方、熱帯地方に産する果実を、湿気の多い日本で食することは、喘息患者にとって厳に慎む必要があります。その他の食養生についてはほぼ現代医学と同様と思われますので省略します。
 五虎湯、麻杏甘石湯は、漢方でいえば、実証の処方であり、生来、非常に虚弱な質である虚証の喘息に対してはこれら麻黄含有処方はかえって消化器を悪くしたり、症状を悪化させたりすることがあります。これら虚証の喘息に対しては、蘇子降気湯(ソシコウキトウ)、あるいは喘四君子湯(ゼンシクンシトウ)、さらに、すでに講義を受けた、テキスト四六ページの甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)などを用います。以上五虎湯とともに喘息治療の解説を簡単に申しましたが、本間棗軒もなげいたように、喘息の治療には長期にわたる服薬と食養生が必要であることを心に留めて置く必要があります。



【副作用】
重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3)本剤にはセッコウが含まれているため、口中不快感、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢 等の消化器症状があらわれるおそれがある。

その他の副作用
自律神経系 不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等
消化器  食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等 
泌尿器 排尿障害等

2013年11月15日金曜日

白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
(2)白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)  (金匱要略)
白虎湯に桂枝三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で発熱などの表証が強く、上衝のいちじるしいものに用いられる。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加桂枝湯證を呈するものが多い。
その他
一 骨膜炎、関節炎、筋炎など。
2 消風散(前出、皮膚疾患の項参照)



『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
 白虎加桂枝湯
 次は白虎加桂枝湯(ビャッコカケイシトウ)です。出典は『金匱要略』で、白虎湯に桂枝(ケイシ)を加えたものです。『口訣』を解釈しますと、「この方は温瘧を治すものです」。温瘧とは体内に隠れた邪気がヴて、夏の時分に暑熱を受けたために起こってきた一種のオコリ病い(マラリアの類)で、発熱が先にくるといわれるものをいうので、温は温病の温と同じで、悪寒がなく、発熱するということであります。温病というものを註釈しますと、四季それぞれの温邪といわれる発病の外因に感じて起こされる多種類の急性病を指す言葉であって、熱病といわれる夏の暑気に応じて発病する熱性病に対応して設けられた言葉であります。
 原文に戻りますと、温瘧という病は関節が煩わしく、うずくというのが目標で、皮膚や筋肉の間に散らばっている邪気が、関節まできて、邪が外に出なくて煩わしくうずくので、辛く清涼の剤で邪を発散させる薬方に桂枝を加えて、体表に達する薬の力を強めているわけであります。ほかの病いであってものぼせがあって頭痛などの劇しいものには効果があります。
 ここで中風といっているのは脳出血、脳梗塞などで半身不随を起こしたものをいい、その類のものにも用いられるということであります。なお『傷寒論』に出てくる中風とは、良性の熱性病を指すもので、ここに出ている中風とは意味が違うものであります。
 「山脇東洋は、このよう場合に、白虎加黄連湯(ビャッコカオウレントウ)を与えるといっております」ということです。


『■類聚方広義解説(37)』 日本東洋医学会名誉会員 寺師睦宗

■白虎加桂枝湯
次に白虎加桂枝湯について述べます。

 白虎加桂枝湯 治白虎湯證。而上衝者。
   於白虎湯方内。 加桂枝二兩。
     知母五分 石膏一銭三分 親枝一分六厘 粳米一銭 桂枝二分五厘
    右五味。以水一斗五升。煮取八升。去滓。煮如白虎湯。
   「溫瘧者。其脈如平。』身無寒。但熱。骨節疼煩。時嘔。
   為則按。當有煩渇衝逆證。


 まず、吉益東洞先生は『方極』で、「白虎加桂枝湯。白虎湯の証にして、上衝するものを治す」といっています。
 煎じ方はまったく前方と同じです。

 「白虎湯方内に桂枝(ケイシ)三両を加う。
  知母(五分)、石膏(一銭三分)、甘草(一分六厘)、粳米(一銭)、桂枝(二分五厘)。
 右五味、水一斗五升をもって、煮て八升を取り、滓を去り、温服す(煮ること白虎湯のごとし)」とあります。
 白虎湯に桂枝を加えた薬方で、白虎湯の証でのぼせの甚だしいものに用います。条文は一つです。
 「温瘧は、その脈平のごとく、身に寒なく、ただ熱し、骨節疼煩し、時に嘔すは、(白虎加桂枝湯これを主る)」。
 これは『金匱要略』の瘧病篇に出ています。温瘧と呼ばれるマラリアは、脈が弦を帯びることは少かぬて平に似ています。身体には寒けがな決て、ただ熱だけがあって、関節が痛み、時に吐きけがあるのは白虎加桂枝湯の主治である、という意味です。
 「為則按ずるに、まさに、煩渇、衝逆の証あるべし」。
 為則、すなわち吉益東洞先生は煩渇と衝逆の症があるからだとまとめています。
 浅田宗伯先生は『薬室方函口訣』で、「この方は温瘧(マラリア)を治す。温は温病の温と同じく、悪寒なくして熱するを云う。この病は、骨節煩疼が目的にて、肌肉の間に散漫する邪が骨節まで迫り、発せずして煩疼するが故に、辛涼解散の剤に桂枝を加えて、表達の力を峻にするなり。他病にても、上衝して頭痛など劇しきものに効あり。中風たちにも用う。山脇東洋(やまわきとうよう)先生はこの処に白虎加黄連湯(ビャッコカニンジントウ)を与うると云う」といっています。

■白虎加桂枝湯による治験例
 次に『陰尚百問(いんしょうひゃくもん)』に載っている治験例を述べます。
 「一婦人、瘧を起こし、乾嘔して食することができない。悪心し、強いてこれを食すれば必ず吐く。発する時は身体疼痛して、寒が少なくして熱が多く、嘔吐ますます甚だし。試みに冷水を与えれば、嘔吐止む。ここにおいて白虎加桂枝湯を作り、熱服せしむ。忽ちにして振寒発熱し、大いに汗出で癒ゆ」とあります。
 次は大塚敬節先生の治験例です。一八歳の色白の男で、頑固な湿疹を治した症例です。幼少の頃から喘息の持病があり、近年になって湿疹に悩む。発疹は顔面、項に一番ひどく、赤みを帯び熱感があり、痒みがひどい。掻くために所々出血している。分泌物は少ない。発疹は四肢にもあって、皮膚は木の皮をさするような感じです。腹診すると、全体に緊張し、大便は一日一回あり、砂糖、コーヒー、牛乳を好みます。
 まず患者の好物を禁じ、消風散(ショウフウサン)を与えたが、七日間の服用で増悪してお化けのようになり、温清飲(ウンセイイン)を一ヵ月あまり与えたが治りません。患者は時々炎が顔に当たるような感じがするといいます。これは上衝の一種と考えて、桂枝湯(ケイシトウ)の入った薬を用いようと思いました。口渇の有無を尋ねると喉が乾くといいます。口渇と、顔に炎が当たるようだということを目標に白虎湯の証とし、これに桂枝を与えました。これがよく効いて、痒みは半減し、三〇日分飲むと八分通り軽快しました。
 しかしそれ以上はよくならないので、石膏の一日量を20gから30gに増しました。それで火のように燃えた感じはまったくなくなり、三ヵ月の服用で全治しました。ただ皮膚はまだ何となく光沢が足りない感じです、と。
 この石膏の量を20gから30gに増量されたところが、大塚先生の腕の切れ味でしょう。


【添付文書等に記載すべき事項】
 してはいけないこと 
(守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)
次の人は服用しないこと
生後3ヵ月未満の乳児。
〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕


 相談すること 
 1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。 
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)
(4)腸虚弱で冷え症の人
(5)高齢者。 
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕 
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。 
(7)次の症状のある人。
   むくみ 
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕 
(8)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病 
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること


関係部位症状
皮膚発疹・発赤、かゆみ
消化器食欲不振、胃部不快感


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。

〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

3.1ヵ月位(消化不良、胃痛、嘔吐に服用する場合には1週間位)服用しても症状がよくならな
い場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
  しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。

〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕
(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
  〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕
(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕
1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
 〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕
2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
 〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕
3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
 〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕

保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくて
もよい。〕


【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)
(4)腸虚弱で冷え症の人。
(5)高齢者。
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(6)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(7)次の症状のある人。
    むくみ
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(8)次の診断を受けた人。
   高血圧、心臓病、腎臓病
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕

2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕

〔効能又は効果に関連する注意として、効能又は効果の項目に続けて以下を記載すること。〕
  しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。

2013年11月11日月曜日

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

【白虎加人参湯】(びゃっこかにんじんとう)
白虎湯に人参一・五を加える。
こ れは白虎湯の證で、体液の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い、口渇を治する力が増強する。本方 の応用は諸熱病の他に日射病・糖尿病の初期で未ば甚しく衰弱しない者、精神錯乱して大声・妄語・狂走・眼中充血し、大渇引飲する者等である。




漢方精撰百八方


75.〔白虎加人参湯〕(びゃっこかにんじんとう)

〔出典〕傷寒論、金匱要略

〔処方〕知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参1.5

〔目標〕
 自覚的  寒熱去来し、汗出でて渇し、背部に悪寒甚だしく、尿利は頻繁で、大便には著変がなく、心窩部がつかえて、食欲は欠損する。
 他覚的  脈:洪大、洪数、滑数等  舌:乾燥した白苔又は黄苔又は焦黄苔  腹:腹力は中等度以上で、心窩部に抵抗があって、圧に対して不快感又は疼痛がある。 〔かんどころ〕寒熱去来し、汗が出て、のどが乾いて、脈洪大。

〔応用〕1.諸種の急性熱性疾患で、発病後数日を経て、悪寒と高熱とが交互に去来し、発汗甚だしく、のどまた大いに乾き、しかも排尿の回数も量も減ぜず、煩悶して、身の置きどころに苦しむような場合。
2.発汗の後、脱汗やまず、身体が痛んで屈伸し難く、渇して、小便自利する症状。
3.日射病又は熱射病。
4.糖尿病又は尿崩症。
5.皮膚炎、湿疹等でソウ痒の激しいもの。
6.夜尿症。

〔治験〕本方は陽実証でしかも津液亡失の状態を兼ねたものに用いる薬方である。
  急性熱性疾患は、太陽病期から少陽病期へ、ついで少陽病期から陽明病期へと、順次移行していくのを普通とするが、ときに順当な道を進まず、太陽病期からいきなり陽明病期へと突進し、しかも太陽、少陽の症状を僅かずつ残している場合がある。これが三陽の合病と称する病情であって、本方は白虎湯とともに、そのような状態を治する代表的な薬方である。両者の鑑別点は、白虎湯はより熱状のつよい場合に用い、本方はより煩渇状のつよ状態に応用するという所である。
  本方は、かつて私自身が、かぜのために高熱を発し、顔面や、胸、腹は暑くてだらだらと汗を流しているのに、背中の方は水の中につかっているように寒く、のどがかわいて、食欲が全くない、という状態を呈したときに用いて、劇的に効いた事がある。                                   
藤平 健


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
白虎湯の加減方
(1)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)  (傷寒論、金匱要略)
白虎湯に人参三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で体液の減少が高度で、口渇がはなはだしく冷水を多量に飲みたがるものである。したがって、悪寒、悪風(おふう、身体に不愉快な冷気を感ずる意、風にふれると寒を覚える)、発汗、心下痞硬、腹満、四肢疼痛、尿利頻数などを目標とする。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加人参湯證を呈するものが多い。
その他
一 脳炎、脳出血、胆嚢炎など。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.112
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) (傷寒論)
 処方内容 知母五・〇 粳米八・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参一・五(三一・五)
 
 必須目標 ①劇しい口渇(冷水を好む) ②口舌乾燥 ③自汗または尿量増大して、体液を喪失している ④便秘なし

 確認目標 ①手足冷 ②食味を感じない ③遺尿 ④譫語(うわ語) ⑤目眩 ⑥脉は滑脉または洪大脉

 初級メモ ①日射病のように、自汗多く出て体液欠乏し、なお熱あって汗を出そうとする状態にありながら汗の原料となる水分がないため、劇しい口渇を訴え、舌の乾燥している状態が、本方の目標である。
 ②重症では身熱(身体裏部の伏熱)が盛んで体表、四肢に熱を伝えないため厥冷状態になって、一見陰証に類似してくる。これを熱厥という。 熱厥と寒厥との区別点は、熱厥には伏熱があるため口舌乾燥し尿色赤く脉は滑脉(裏の伏熱による)を呈するが、寒厥は舌湿潤し芒刺なく、尿色清白で脉は弱いことで鑑別される。
 ③「食味なし」は舌乾燥の劇症で、同じく原因は裏の伏熱である。
 ④南涯「白虎湯症(類方の項参照)にして気のびて血滑って循らざる者を治す。その症に曰く汗出、身熱これ気のびるの症なり。曰く悪寒、これ血滞ってめぐる能わざるの症なり。」

 適応証 日射病。夜尿症。糖尿病。蕁麻疹。湿疹。

 類方白虎湯(傷寒論)
 これが原方で、加人参湯症に較べて体液は缺乏するも胃内までは枯燥には到らない者を目標にするが,殆んど用 いない。南涯「病、裏にあり。血気伏して熱を作し、水行く能わざる者をを治す。その症に曰く、以って転側し難し、口不仁、逆冷、遺尿、厥、背微悪寒の者は これ血気伏するの症なり。曰く譫語、燥渇心煩、渇して水を飲まんと欲す、口乾舌燥はこれ熱を作すなり。曰く腹満身重これ水行かざるなり。しかりと雖も水は その主病に非ず、自汗出るを以ってこれを示すなり。曰く渇して水を飲まんと欲す、煩渇の二症は五苓散に疑似す、何をもって之を別つか、五苓散は水行かずし て渇なり。この方伏熱甚しくして渇なり。故に五苓散症は発熱し、この症は発熱せず。五苓散は必ず汗出でて渇、この症は口乾燥、或は身熱して渇なり。五苓散 は脉浮数こ英方は脉洪大或は滑。五苓散の症は気急の状、白虎湯の症は気逆の状、これその別なり」。
 ②白虎加桂枝湯(金匱)
 白虎湯に桂枝四・〇を加えた処方で伏熱が上衝して起す頭痛、歯痛に用いる。裏熱の上衝故、痛む個所が深く骨節煩疼の形になる。

 文献 「白虎湯及白虎加人参湯について」 奥田謙蔵 (漢方と漢薬2、9、2)

 


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.518
122 白虎加人参湯 (びゃっこかにんじんとう) 〔傷寒・金匱〕
 知母五・〇 粳米一〇・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇 人参三・〇

応用〕 白虎湯証に似て、内外の熱甚だしく、さらに津液は欠乏し、渇して水を飲まんと欲し、転舌の乾燥の甚だしいものに用いる。
 本方は主として、(1)流感・腸チフス・肺炎・脳炎・中暑・熱射病等で高熱・煩渇・脳症を起こしたもの、(2)糖尿病・脳出血・バセドー病で煩渇し脈の洪大のもの等に用いられ、また、(3)等膚病のなかで、皮膚炎・蕁麻疹・湿疹・ストロフルス・乾癬等の瘙痒甚だしく、患部が赤く充血し、乾燥性で、煩渇をともなうものに応用される。さらに腎炎紙:尿毒症・胆嚢炎・夜尿症・虹彩毛様体炎・角膜炎・歯槽膿漏等にも転用される。

目標〕 熱症状と渇が主症状で、煩渇または口舌乾燥し、水数升を飲みつくさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。
 脈は多くは洪大で、大便硬く、腹部は大体が軟かで、心下痞硬し、表証としての汗出で、悪風・背寒・悪寒等があり、腹満・口辺の麻痺・四肢疼重・尿利頻数等のあるもの。

方解〕 白虎湯に人参三・〇を加えたもので、白虎湯の証に、体液の減少が高度とな責、口渇甚だしく疲労の状を呈したものを治すものである。すなわち知母は内熱をさまし、燥を潤し、石膏は内外の熱をさまし、鎮静の作用がある。粳米は補養の働きがあり、石膏の寒冷を緩和する。甘草は急迫を緩め、かつ粳米とともに表を補う。人参は一層裏を補い、滋潤の作用を加えたものである。
 白虎湯は、その主薬となっている石膏の色の白いことから名づけたといわれるが、本方の主体はこの石膏の解熱と鎮静にあることはうなずかれる。しかも石膏は大量でないと効かないといわれている。
 この石膏の有効成分について、中国において新しい研究の成果が発表されている。上海中医薬雑誌(一九五八、三号)に、郭参壎、陸汝陸遜両氏が、「天然石膏の初歩研究」を発表された。
 それによると、「石膏の効能は本草書の諸説を総合すると、清涼解熱、津液を生じ、煩を除くというにある。麻杏甘石湯を肺炎に、白虎湯を日本脳炎の高熱期に用いて著しい解熱作用を示している。
 石膏はCaSO4・2H2O すなわち硫酸カルシウムで、この溶解度を調べてみると、一八度では五〇〇ccの水にわずか一グラムしか溶けない。四〇度の水にはこれよりも多く溶けるが、四〇度を越すと溶ける量は減ってくる。一〇〇度の水では六五〇ccにやっと一グラム溶けるだけである。
 しかし天然の石膏には他の成分が含まれている。日本産のものには、硅酸・酸化アルミニウム・酸化鉄・炭酸カルシウム・硫酸マグネシウム等がある。上海の市場品の懸濁液中に硅酸、水酸化アルミニウム、溶液中に硫酸鉄、硫酸マグネシウム等があった。
 この天然石膏を用いてその煎汁をもって動物実験を行なってみると、明らかに解熱作用が認められた。一方九九・九%の純粋石膏を用いて同様の実験を試みたところ、解熱作用は現われなかった。これによって石膏の解熱成分は、天然石膏の夾雑物の中にあることが判明した。
 石膏の量は熱の軽重によって増減されるべきである。よく石膏は溶解度が少ないから効果がないといわれているが、実はその解熱成分は夾雑物の中に含まれていることが推定されるのである」というものである。
(漢方の臨床五巻一〇号、中国漢方医学界の動向)

主治
 傷寒論(太陽病上篇)に、「桂枝湯ヲ服シ、大イニ汗出デテ後、大煩渇解セズ、脈洪大ナルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
 同(太陽病下篇)に、「傷寒、若クハ吐シ、若クハ下シテ後、七八日解セズ、熱結ンデ裏ニ在リ、表裏倶ニ熱シ、時々悪風、大渇、舌上乾燥シテ煩シ、水数升ヲ飲マント欲スルモノノ、白虎加人参湯之ヲ主ル」
 また、「傷寒、大熱ナク、口燥渇、心煩、背微悪寒スルモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」「傷寒、脈浮、発熱、汗ナク、ソノ表解セズ、白虎湯ヲ与フベカラズ、渇シテ水ヲ飲マント欲シ、表証ナキモノハ、白虎加人参湯之ヲ主ル」とあり、
 金匱要略(暍病門)に、「太陽ノ中熱ナルモノハ暍(エツ)コレナリ。汗出テ悪寒、身熱シテ煩ス、白虎加人参湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ白虎湯ノ証ニシテ、胃中ノ津液乏クナリテ、大煩渇ヲ発スル者ヲ治ス。故に大汗出ノ後カ、誤下ノ後ニ用ユ。白虎ニ比スレバ少シ裏面ノ薬ナリ。是レヲ以テ表証アレバ用ユベカラズ」とあり、
 古方薬嚢には、「汗出で、さむけあり、大いに渇して水を呑みたがる者、熱なく唯背中ぞくぞくとして悪寒し、口中乾いて頻りに水を飲みたがる者、汗が出て悪寒するくせに、非常に熱がって水を呑む者、本方は渇が第一の証なり」とある。

参考
 奥田謙蔵氏、白虎湯及び白虎加人参湯に就て(漢方と漢薬 二巻九号)

鑑別
 ○白虎湯 121 (煩渇・高熱、津液欠乏は少ない)
 ○五苓散 41 (渇・小便不利、水逆、心下部拍水音)
 ○八味丸 116 (渇・小便不利または自利、少腹不仁、脈沈弦)

〔治例〕
 (一) 瘙痒疹
 一男子、物にかぶれたるものか、または毒虫などにさされしものか、本人もはっきり覚えざれども、急に全身に痒疹を生じ、掻くほどに、赤き斑点こんもりと持ち上り、全身汗ばみて悪寒し、全身汗ばみて悪寒し、忍ぶべからざる者、白虎加人参湯を服し、一回分にて癒えしことあり。
(荒木性次氏、古方薬嚢)

 (二) 夜尿症
 一〇歳の少年。毎夜遺尿をするという。体格、栄養、血色ともに普通である。床につく前にのどが乾くといって、水をがぶがぶのみ、どうしてもやめられないという母親の言葉にヒントを得て、白虎加人参湯を用いたところ、口渇がやみ、遺尿も治った。
(大塚敬節氏、漢方治療の実際)

 (三) 感冒
 一月一五日、発病後五日目、葛根湯・小柴胡湯加石膏・小柴胡湯合白虎加人参湯を服用したが好転せず、朝四時苦しさのため目をさます。非常にのどが渇き、コップ一杯の水を一口にのみほす。心臓部が苦しい。熱はまだ四〇度二分に昇っている。汗は顔といわず、からだといわず、沸々として流れ出て、しかも背中は水中にひたっているようにゾクゾクと寒い。心下は痞硬して苦しく、鳩尾(みぞおち)から臍にかけて盛り上がったような自覚があり苦しい。朝五時、夜明けを待ちきれず、奥田先生に電話をかけた。胸の中が何ともいえず苦しく、てんてん反側する。八時、熱は依然として三九度七分、ただのかぜか、チフスか、敗血症かと心は迷い乱れた。
 一〇時、奥田先生がおいでになった。脈洪大・煩渇自汗・背悪寒・心下痞硬等があった。
 まさきくこれは三陽の合病、白虎加人参湯証に間違いなしと、精診の後診断を下された。
 背微悪寒は、微は幽微の微で、身体の深い所から出てくる悪寒と考えるべきだとのお話。同方を服用して一時間、まず悪寒・心下痞硬は消退し、背中は温まり、みぞおちが軽くなってきた。三時半には体温も三七度五分に下がり、すべての症状が拭うがこどく消え去り、食欲が出て快く眠れた。
(藤平健氏、漢方の臨床、一巻四号)


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
66.白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう) 傷寒論
  知母5.0 粳米8.0 石膏15.0 甘草2.0 人参3.0

(傷寒論)
傷寒,若吐若下後、七八j日不解,熱結在裏、表裏倶熱時々悪風, 大渇,舌上乾燥而煩欲飲水数升者,本方主之(太陽下)
傷寒無大熱,口燥渇,心煩,背微悪寒者,本方主之(太陽)
傷寒脉浮、発熱無汗,其表不解,不可与白虎湯,渇欲飲水、無表証者,本方主之(太陽)
桂枝湯,大汗出後,大煩渇不解,脉洪大者,本方主之(太陽)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 むやみに咽喉がかわいて,水を欲しがるもの,あるいは熱感の劇しいもの。
 本方は体内水分が著しく不足するため、むやみに咽喉がかわき,しかも冷水を欲しがる症状,例えば糖尿病の初期で未だ利尿障害が著しくない時期に用いられる。八味丸適応症状では口渇は前者程でもなく,且つ尿量減少もしくは増大が著明となる。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 (白虎湯) 発熱して口渇があって水をのみたがり,煩躁したり,反対に身体が重くねがえりしにくくなり、自たに汗が出る。口,舌が乾燥して舌に白苔を生じ,食物の味がわからなくなる。また腹が張ったり,顔に垢がついてきたなくなったり,譫語や尿失禁をすることがある。
白虎湯証に準じ,表裏の熱甚だしく,体液の欠乏の微候を呈して,口舌が乾燥し,煩渇して大いに水を飲みたがるものである。大便は硬く,尿利は増加し,背部に悪風(風にあたると寒けがする)があり時に発汗のひどく多いものがある。
方輿輗 「白虎加人参湯の正証は,汗じたじたと出て,微悪寒ありながら,身は熱して大渇引飲(ひどくのどがかわいて水を大量にのむ)するものなり,愚案ずるに,凡そ白虎を与うべき症ならば脈長洪であるべきに,暍(日射病)では却って虚微の状多し。是れ暍の傷寒と異なる所なり」といっている。


漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○私の経験では白虎湯や白虎加人参湯を与えてよい患者の舌には厚い白苔のかかることは少い。苔があまりなくて,乾燥している事が多い。舌に白い厚い苔があって,口渇のある場合には,この苔が湿っている時はなお更のこと,乾いていても,うっかり白虎湯のような石膏剤は用いないがよい。これを与えると食欲不振,悪心などを起すものがある。これには半夏瀉心湯黄連解毒湯の証が多い。



漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
白虎湯) 本方は身熱,悪熱,煩熱等と称する熱症状に用いて解熱させる効がある。この場合脈は浮滑数乃至洪大で口中乾燥,口渇がある。身熱,悪熱,煩熱等と称する症状は自覚的に身体灼熱感があって苦しく,通常悪寒を伴わず,他覚的にも病人の皮膚の掌に明てると一種灼熱感があるものである。この熱状は感冒,肺炎,麻疹その他諸種の熱性伝染病に現われる。この熱状で便秘し,燥屎を形成し,譫語を発する場合は大承気湯を用いるべきである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべきに至らない場合に用いる。本方の薬物中,知母と石膏が主として清熱に働く,粳米は栄養剤で高熱による消耗を補う。甘草は調和剤で知母と石膏の協力を強化するものと考えられる。本方の応用としては感冒,肺炎,その他の熱性伝染病である。また皮膚病で瘙痒感の甚しい場合に用いて効がある。
(白虎加人参湯) これは白虎湯の証で,体赤の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い,口渇を治する力が増強する。本方の応用は諸熱病の他に日射病,糖尿病の初期で未だ甚しく衰弱しない者,精神錯乱して大声,妄語,狂走,眼中充血し,大渇引飲する者等である。


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
(構成) 白虎湯に人参を加えたもので此処方は頻用する。前に述べた白虎湯証の熱によって津液枯涸したものに対し人参を以て滋潤し血虚を補うのが本方である。
 運用 1. 熱症状と渇を呈するもの
 熱は熱発でもよい。体温計で測って体温が上昇していなくても漢方的熱症状でもよい。即ち口渇もその1つだし,陽脉(洪,大,滑,数等)熱感,身熱,心煩,煩躁,小便赤等のどれかが組合されておれば熱症状と判断できる。その中で最も主要なのは脉洪大,煩渇とは煩しい程劇しい口渇を覚えることをいう。「桂枝湯を服し,大いに汗出でて後,大いに煩渇し解せず,脉洪大なるものは白虎加人参湯之を主る。」(傷寒論 太陽病上)発汗過多のため胃内の水分が欠乏し胃熱を帯びて煩渇するというのである。「傷寒若くは吐し,若くは下して後七・八日解せず,熱結んで裏に在り,表裏倶に熱し,時々悪風,大いに渇し,舌上乾燥して煩し,水数升を飲まんと欲するものは白虎加人参湯之を主る。」(同太陽病下)熱結在裏が本で表裏倶に熱し大渇するのが狙いである。「傷寒,大熱無く,口燥渇,心煩,背微しく悪寒するものは白浜加人参湯之を主る。」(同右)この心煩は傷寒に続けて考えて行くべきもので,傷寒により寒が体内に侵入し,腎に迫り津液を亡わしめると共に腎虚により心熱を生じ心煩を起させる。一方熱は胃にも入り,亡津液と共に口燥渇を起す原因になる。ただ胃熱だけなら口渇だが津液が欠乏しているから燥が起るのでそれを人参が治すことになる。背微悪寒は陽虚ではなく内熱による虚燥のために起ったのだというのが定説のようだ。恐らくその通りであろう。附子湯の背悪寒と比べて考うべきは矢張り腎の虚寒である。全身の悪寒ではなくただ背に限定されているのは背の膀胱経を考えたい。即ち腎が症状として膀胱経に現われたと見たいのである。痰飲の所にも心下に留飲があると背部で手大の範囲に寒冷が起るというが,之を単に胃内だけの問題でなく腎を併せ考うべきであろう。その他当帰建中湯の痛引腰背なども傍証になるが,要するに背と腎膀胱とに一定の関係があると思われるのである。(中略)
 太陽の部位即ち表に原因としての熱邪が加わったものを暍と称する。然しこの熱は表にばかり留まらずに裏に侵入して行き,表裏倶に熱する状態になる。表部位の症状として汗出があるが之は陽明病の汗出や三陽合病白虎湯の自汗出と同じく実は裏熱によるものである。熱によって血傷られ汗出も悪寒も起る。身熱は部位は表でも深い所に在り裏に属する部位で身熱と云えば胃熱によって起るものである。汗出悪寒というと太陽病らしいが太陽病には身熱や渇はなく,此等は凡て裏熱症状である。以上各条の症状を拾上げると表症状としては汗出,悪寒,時々悪風,背微悪寒などがあるが,此等は実は裏の変化に版って起ったもので,裏の変化は胃熱,心熱が主で渇,口乾舌燥,身熱などとして現われている。以上の適応証に基いて本方を応用する対象になるのは熱病,例えば流感,肺炎,麻疹,日射病等で脉洪大,煩渇,下口唇鮮紅色乾燥,煩躁などのあるもの,糖尿病で脉洪大,煩渇,尿利に著しい増減のないもの,皮膚病で痒みの劇しいもの,矢張り脉大口渇を伴うことが多い。然し口渇に拘泥せずとも瘡面が充血性,熱感があるなどでも宜い。分俸は不定で,乾燥性のこともあり,湿潤性のこともある。白虎加桂枝湯とは口渇の程度で区別し得ることが多い。専門的には桂枝,人参,の性能,作用点などの相違を考えて使分くべきである。(後略)


 〈漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 熱症状と渇が級症状で,煩渇または口舌乾燥し,水数升を飲みつかさんと欲するほどの飽くことなき口渇である。脈は多くは洪大で,大便硬く,腹部は大体が軟かで,心下痞硬し,表証としての汗出で,悪寒,背寒,悪寒等があり,腹満,口辺の麻痺,四肢疼重,尿利頻数等のあるもの。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は白虎湯の証にして,胃中の津液乏くなりて,大煩渇を発する者を治す。故に大汗出の後か,誤下の後に用ゆ,白虎に比すれば少し裏面の薬なり,是れを以て表証あれば用ゆべからず。



『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
 次は白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)です。出典は『傷寒論』で、白虎湯方中に人参を加えたものです。
 この薬方は白虎湯の証、つまり三陽の合病で邪が表裏にまたがっているために発熱、口渇、煩躁、自然に起こる発汗、腹満などがあり、消化器管中の分泌液が欠乏しているために大いに劇しい口の渇きを起こすものを治す薬方であります。したがって大いに汗を出したあととか、誤って下したために体液が欠乏したものに用いるわけであります。この理由で表症すなわち熱、頭痛等の表の状態だけのあるものに用いる薬ではないということです。





【副作用】
重大な副作用と初期症

1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

理由
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

処置方法
  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。


その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
  本剤にはニンジンが含まれているため、発疹、瘙痒、蕁麻疹等の過敏症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されているため。
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。

肝臓:肝機能異常(AST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等
理由
 本剤によると思われるAST(GOT)、ALT(GPT)の上昇等の肝機能異常が報告されているため。
処置方法
 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。

消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等

理由
 本剤には石膏(セッコウ)・地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、
食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等があらわれるおそれがある。
また、本剤によると 思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

2013年11月9日土曜日

白虎湯(びゃっことう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

白虎湯(びゃっことう)
知母五・ 粳米八・ 石膏一五・ 甘草二・ 
本 方は身熱・悪熱・煩熱等と称する熱症状に用いて解熱させる効がある。この場合、脈は浮滑数乃至洪大で口中乾燥・口渇がある。身熱・悪熱・煩熱等と称する症 状は自覚的に身体灼熱感があって苦しく、通常悪寒を伴わず、他覚的にも軽人の皮膚に掌を当てると一種灼熱感があるものである。この熱状は感冒・肺炎・麻疹 その他諸種の熱性伝染病に現われる。この熱状で便秘し、燥屎を形成し、譫語を発する場合は大承気湯を用いるべきである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべ きである。本方は病状未だ大承気湯を用いるべきに至らない場合に用いる。本方の薬物中、知母と石膏が主として清熱に働く。粳米は栄養剤で、高熱による消耗 を補う。甘草は調和剤で知母と石膏の協力を強化するものと考えられる。
本方の応用としては感冒・肺炎・麻疹・その他の熱性伝染病である。また皮膚病で掻痒感の場合に用いて効がある。
白虎加人参湯】(びゃっこかにんじんとう)
白虎湯に人参一・五を加える。
こ れは白虎湯の證で、体液の減少が高度で口渇が甚しく脈洪大の者を治する。白虎湯に人参を加味することによって体液を補い、口渇を治する力が増強する。本方 の応用は諸熱病の他に日射病・糖尿病の初期で未ば甚しく衰弱しない者、精神錯乱して大声・妄語・狂走・眼中充血し、大渇引飲する者等である。




漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
1 白虎湯(びゃっことう)  (傷寒論)
〔知母(ちも)五、粳米(こうべい)八、石膏(せっこう)一五、甘草(かんぞう)二〕
本方は、三陽の合病に用いられる薬方である。すなわち、陽証で発熱、発汗など表証があり、しかも内に熱があり、煩熱または煩操するものに用いられる。悪寒、煩熱、身体灼熱感、身体重圧感、体液枯燥、口渇、自汗、多尿、尿失禁などを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、白虎湯證を呈するものが多い。
一 チフス、麻疹、その他の急性熱性伝染病。
一 感冒、気管支喘息、肺炎その他の呼吸器系疾患。
一 尿毒症、遺尿症、夜尿症、腎炎その他の泌尿器系疾患。
一 湿疹その他の皮膚疾患。
一 そのほか、糖尿病、角膜炎、日射病、火傷、精神病など。

白虎湯の加減方
(1)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔白虎湯に人参三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で体液の減少が高度で、口渇がはなはだしく冷水を多量に飲みたがるものである。したがって、悪寒、悪風(おふう、身体に不愉快な冷気を感ずる意、風にふれると寒を覚える)、発汗、心下痞硬、腹満、四肢疼痛、尿利頻数などを目標とする。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加人参湯證を呈するものが多い。
その他
一 脳炎、脳出血、胆嚢炎など。
〔白虎湯に桂枝三を加えたもの〕
本方は、白虎湯證で発熱などの表証が強く、上衝のいちじるしいものに用いられる。
〔応用〕
白虎湯のところで示したような疾患に、白虎加桂枝湯證を呈するものが多い。
その他
一 骨膜炎、関節炎、筋炎など。



明解漢方処方 (1966年) 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.113
類方①白虎湯(傷寒論)
 これが原方で、加人参湯症に較べて体液は缺乏するも胃内までは枯燥には到らない者を目標にするが,殆んど用いない。南涯「病、裏にあり。血気伏して熱を作し、水行く能わざる者をを治す。その症に曰く、以って転側し難し、口不仁、逆冷、遺尿、厥、背微悪寒の者はこれ血気伏するの症なり。曰く譫語、燥渇心煩、渇して水を飲まんと欲す、口乾舌燥はこれ熱を作すなり。曰く腹満身重これ水行かざるなり。しかりと雖も水はその主病に非ず、自汗出るを以ってこれを示すなり。曰く渇して水を飲まんと欲す、煩渇の二症は五苓散に疑似す、何をもって之を別つか、五苓散は水行かずして渇なり。この方伏熱甚しくして渇なり。故に五苓散症は発熱し、この症は発熱せず。五苓散は必ず汗出でて渇、この症は口乾燥、或は身熱して渇なり。五苓散は脉浮数こ英方は脉洪大或は滑。五苓散の症は気急の状、白虎湯の症は気逆の状、これその別なり」。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.514
121 白虎湯 (びゃっことう) 〔傷寒論〕
 知母五・〇 粳米八・〇 石膏一五・〇 甘草二・〇

 白虎は中国の四方を守る四獣神の一つで、西方を守る金神である。本方の主薬である石膏の色白きをもって名づけたものであるという。また西方は秋で解熱の意味も含んでいるといわれている。

応用〕 陽証で、表証、肌肉の間にある熱を解するものである。次のような類型に従って用いる(新撰類聚方参照)。
 (1) チフス・流感・麻疹・発疹性伝染病等で高熱・口渇・煩躁し、あるいは譫妄・脳症を発したもの。
 (2) 日射病・熱射病・尿毒症で高熱・口渇・煩躁するもの。
 (3) 喘息で夏に発するもの・遺尿・夜尿・歯痛・眼疾患・糖尿病等。
 (4) 精神病で眼中火のごとく、大声・妄語・放歌・高笑・狂走・大渇引飲のもの。
 (5) 皮膚病一般、湿疹でかゆみ激しく、安眠できず、汁流れ出るもの、手を水の中に入れると痺れるというもの等に応用される。

目標〕 発熱し、汗が出て煩渇し、煩躁するものを目標とする。
 患者は身熱、悪熱、煩熱し、脈は浮滑数または洪大で、悪寒をともなわず、自覚的に身体灼熱感があって暑苦しく、他覚的にも病人の皮膚に手を当てると灼熱感がある。口舌乾燥して大いに渇し、舌は乾いて白苔があり、自汗いでて尿利多く、ときに失禁し、体液枯燥の徴候がある。腹はそれほど充実せず、あるいは腹満を訴えることもある。

方解〕 石膏と知母が主薬で、ともに解熱の働きがある。石膏は清熱と鎮静の能があり、内外の熱をさまし、知母は熱をさまし、燥を潤し、主として内熱をさます働きをする。粳米は補養の薬で、石膏が裏を冷やしすぎないようにし、かつ高熱による消耗を補う。甘草は粳米に協力して裏を補い、急迫症状を緩和し、知母・石膏の働きを調和させるものである。
 以上諸薬の協力により、裏熱、肌肉の熱を清解し、身熱・悪感・煩躁を治するものである。

加減〕 白虎加人参湯は、白虎湯に人参三・〇を加えたものであり、白虎湯証が熱のため、津液枯燥甚だしきものを滋潤し補うものである。
 白虎加桂枝湯は、白虎湯に桂枝三・〇を加えたもので、白虎湯の証で表証が強く、上衝の著しいものに用いる。
 すなわち諸熱性病で高熱のもの・筋肉・骨膜炎・関節炎・湿疹・感染・ストロフルス・陰部瘙痒症・眼疾患等に用いられる。実際には白虎加人参湯白虎加桂枝湯の方が頻繁に用いられる。

主治
 傷寒論(太陽病下篇)に、「傷寒、脈浮滑ナルハ、此レ表ニ熱アリ、裏ニ寒アルニヨル、白虎湯主ヲ主ル」(表に寒あり、裏に熱ありの誤りとする説が多く、これをとる)とあり、
 同(陽明病篇)、「三陽ノ合病ハ、腹満シテ身重ク、以テ転倒シ難ク、口不仁シテ面垢(メンク)(顔に垢がつく)讝語遺尿ス。発汗スレバ則チ、之ヲ下セバ則チ額上汗ヲ生ジテ手足逆冷ス。若シ自汗出ル者ハ、白虎湯之ヲ主ル」とあり、
 同(厥陰病篇)に、「傷寒、脈滑ニシテ厥スル者ハ、裏ニ熱アルナリ、白虎湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ邪熱肌肉ノ間ニ散慢シテ大熱大渇ヲ発シ、脈洪大或ハ滑数ナルモノヲ治ス。成無已ハ此方ヲ辛涼解散静粛肌表ノ剤ト云テ、肌肉ノ間ニ散慢シテ汗ニ成ラントシテ今一イキ出キラヌ者ヲ、辛涼ノ剤ヲ用イテ、肌肉ノ分ヲ清粛シテヤレバ、ヒエテシマル勢ニ発シカケタル汗ノ出キルヤウニナルナリ。譬エテ言エバ、糟袋ノ汁ヲ手ニシメテ絞リキツテ仕舞フ道理ナリ。是ノ故ニ白虎ハ承気ト表裏ノ剤ニテ、同ジ陽明ノ位ニテモ、表裏倶ニ熱スルト云フ、或ハ三陽合病ト云ツテ、胃実デハナク表ヘ近キ方ニ用ユルナリ」とある。また、
 古方薬嚢には、「皮膚の内に熱あるため、身熱したり、身体痛みたり、のど渇きたり、皮膚に発疹したりする者」とある。

鑑別
 ○大承気湯 93 (発熱・腹堅満、燥屎、脈沈実)
 ○大青竜湯 94 (発熱煩躁・汗出でず、身痛、表実証、脈浮緊)
 ○五苓散 41 (・小便不利、心下部拍水音、水逆)
 ○八味丸 116 (・小便不利、臍下不仁、脈沈、弦)

治例
 (一) 湿疹
 一女児全身に湿疹を生じ、痒み劇しく、夜も眠れず、皮膚ぐちゃぐちゃとして汁流れ、瘉えざること数年、医薬温泉等に手を尽して効無かりし者、本方三分の一量にて数日を経ずして瘉えたるものあり。
(荒木性次氏、古方薬嚢)

 (二) 両眼の痒みと羞明
 一男子、二~三日前より両眼に痒みを覚えたるが、今朝に至り充血甚しく、目やに多量に出でて眼を閉じ、まばくゆして明るき方を見る能はざる者、白虎湯一日分を服して全く瘉えたり。 (荒木性次氏、古方薬嚢)

 (三) 九官鳥の熱病
 近藤頼母公は隠居して九官鳥を飼っていた。この九官鳥が病気になり、鳥の病学を治すのが上手だという人が手をつくしたが治らなかった。その病状は、人の熱病と同じて、水ばかりのみ、餌は少しも食わず、血液も枯燥し渇きたりとみえ、体すくんで死を待つのみという。よって白虎湯三貼を与え、冷服させたところ、元気となり、更に三貼服用して益々良好、余熱をとるべく竹葉石膏湯を三貼与えて平癒した。そこで松の木に吊ったところ、下で仕事をしていた植木屋の言葉の口真似をした。
(尾台榕堂翁、方技雑誌)

『勿誤薬室方函口訣(106)』 日本東洋医学会評議員 岡野 正憲
 白虎湯
 まず白虎湯(ビャッコトウ)です。出典は『傷寒論』です。内容は知母(チモ)、石膏(セッコウ)、甘草(カンゾウ)、粳米(コウベイ)の四味より構成されています。
 この薬方は、外からの邪気によって起こった邪気よって起こった熱が、皮膚や筋肉という体の表面の部分に広的広がっていて、そのために体表の熱や、劇しい喉の乾きを起こし、脈は大きく盛んな脈となったり、滑数という玉を転がすようで早い脈を示すような場合の治療に用います。ここに出ている大熱とは、高い熱という意味ではなく、体表に出てきた熱という意味だということです。
 金の時代に『註解傷寒論』を著した成無己は、この薬方を、辛くて熱を冷まし病邪を解き散ささばせて体表の邪を、またそれによって起こる熱という現象を含めて、邪熱を平らかに鎮静させる薬方と申していて、邪が皮膚や筋肉という体表の部分に広く広がっていて、発汗しようとしても少し手前で発汗の起こらないものに、辛くて熱を冷ます薬方を用いて、皮膚や筋肉に広がる邪熱を平らかに鎮静させてやると、体表の冷えてしまってくる勢いで、発汗しそうになっている状態の汗が外に出きってしまうようになるので、通俗的なたとえで申しますと、糠の入った袋を手で絞って汁を絞りきって出してしまうという理屈と同じてあります。
 こういうわけで、白虎湯というものは、承気湯(ジョウキトウ)とは表と裏の関係にあって、いずれも陽明の病位に用いますが、体表も裏(内臓)も、ともに邪熱があり、あるいは三陽の合病といわれる太陽病と少陽病と陽明病との同時に発したもの、具体的に申しますと、表証である脈浮、頭項胸痛して悪寒するというものと、表裏の間の口苦く喉乾き、めまいするものと、胃家実というものとが同時に存在するものに用いるわけですが、この場合の陽明の証は、胃実という内臓に邪の充満しているという状態ではなく、表証に近いような裏の熱証に用いるものと解釈していると『口訣』ではいっているわけです。


 


【副作用】
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

3)本剤にはセッコウが含まれているため、口中不快感、食欲不振、胃部不快感、軟便、下痢 等の消化器症状があらわれるおそれがある。




2013年11月4日月曜日

荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
1 柴胡剤
柴胡剤は、胸脇苦満を呈するものに使われる。胸脇苦満は実証で は強く現われ嘔気を伴うこともあるが、虚証では弱くほとんど苦満の状を訴えない 場合がある。柴胡剤は、甘草に対する作用が強く、解毒さようがあり、体質改善薬として繁用される。したがって、服用期間は比較的長くなる傾向がある。柴胡 剤は、応用範囲が広く、肝炎、肝硬変、胆嚢炎、胆石症、黄疸、肝機能障害、肋膜炎、膵臓炎、肺結核、リンパ腺炎、神経疾患など広く一般に使用される。ま た、しばしば他の薬方と合方され、他の薬方の作用を助ける。
柴胡剤の中で、柴胡加竜骨牡蛎湯柴胡桂枝乾姜湯は、気の動揺が強い。小柴胡湯加味逍遥散は、潔癖症の傾向があり、多少神経質気味の傾向が ある。特に加味逍遥散はその傾向が強い。柴胡桂枝湯は、痛みのあるときに用いられる。十味敗毒湯・荊防敗毒散は、化膿性疾患を伴うときに用いられる。
9 荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん) (万病回春)
〔荊芥(けいがい)、防風(ぼうふう)、 羗活(きょうかつ)、独活(どっかつ)、柴胡(さいこ)、前胡(ぜんこ)、薄荷(はっか)、連翹(れ んぎょう)、桔梗(ききょう)、枳殻(きこく)、川芎(せんきゅう)、金銀花(きんぎんか)、生姜(しょうきょう)各一・五、甘草(かんぞう)一〕
本方は胸脇苦満が認められず、肝臓の機能障害によって解毒作用がおちたため、体内にある毒素によって起こる各種の症状に用いられる。本方は、悪寒、発熱、頭痛、局部の発赤腫脹、疼痛とあるものを目標とする。すなわち、化膿性腫瘍の初期ないし最盛期に用いられる。
〔応用〕
次に示すような疾患に、荊防敗毒散證を呈するものが多い。
一 疥癬、湿疹、じん麻疹その他の皮膚疾患。
一 そのほか、よう、疔、癤、乳腺炎、乳癌、アレルギー体質、上顎洞化膿症など


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.654
33 荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん) 〔万病回春・癰疽門〕
 荊芥・防風・羗活・独活・柴胡・前胡・薄荷・連翹・桔梗・枳殻・川芎・金銀・茯苓 各一・五 甘草・乾生姜各一・〇
 「癰疽、疔腫、発背、乳癰等の症、増寒壮熱、頭痛拘急状のものを治す。」
 この方は化膿症で、初期悪寒発熱・発赤腫脹疼痛のものに用いる。
 癰疽・乳腺炎・乳癌・頭瘡・蕁麻疹・疥癬・上顎洞化膿症・湿疹・アレルギー性体質などに応用される。


『漢方処方 応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
81.荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん) (万病回春)
 羗活,独活,柴胡,前胡,枳実,川芎,桔梗,茯苓,荊芥,防風,連翹,忍冬,甘草,金銀花 各1.5 乾生姜 1.0

目標〕 諸種の化膿性の腫物によって,発熱,悪寒,頭痛,拘急(ひきつれ)などがおきて,傷寒(熱病)に似た症状を呈するのに用いる.

説明〕 この処方を用いるのは,化膿性腫物の初期から最盛期にかけて熱が高い場合である。この方は,敗毒散から人参を去り,荊芥,防風,連翹,忍冬を加えたものである。大便が秘結するときは大黄,芒硝を加え,熱が甚だしく,痛みが激しいときは黄芩,黄連を加えるとよい.

応用〕 癤,癰,面疔,乳腺炎 など.


『漢方治療の方証吟味』 細野史郎編著 創元社刊
p.525
 われわれが葛根湯を湿疹とか皮膚炎に用いてみて困るのは、これを一~二服飲むと、静(せい)の状態の病変が、花が咲いたようにパッと一見悪化したようになることです。これこそ瞑眩(めんげん)ですが、これは葛根湯の発表性によるものなのです。このようなことは、荊防敗毒散でも、また消風散でも起こることがあるのです。この葛根湯の場合も、投薬は二~三日分にして様子を見た上にした方が、少なくとも初学に近い人では、無難ではないでしょうか。


『改訂 一般用漢方処方の手引き』 財団法人 日本公定書協会 監修 日本漢方生薬製剤協会編集
荊防敗毒散
(けいぼうはいどくさん)

成分・分量
 荊芥1.5~2,防風1.5~2,羌活1.5~2,独活1.5~2,柴胡1.5~2,薄荷葉1.5~2,連翹1.5~2,桔梗1.5~2,枳殻(又は枳実)1.5~2,川芎1.5~2,前胡1.5~2,金銀花1.5~2,甘草1~1.5,生姜1

用法・用量
 湯

効能・効果
 比較的体力のあるものの次の諸症:急性化膿性皮膚疾患の初期,湿疹・皮膚炎

原典 万病回春
出典

解説

 化膿症で発熱,腫脹,疼痛を伴うものに使われる。


生薬名 荊芥 防風 羗活 独活 柴胡 薄荷葉 連翹 桔梗 枳殻 川芎 前胡 金銀花 甘草 乾生姜 茯苓 人参 忍冬
参考文献名

















処方解説 注1 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1 1 - - -
診薬医典
1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1 1 - - -
処方集 注2
2

2

-

2

2

2

2

2

2

2

2

2

1
生姜
2

2



応用の実際

注3

1.5

1.5

1.5

1.5

1.5

-

1.5

1.5
枳実1.5 1.5 1.5 1.5 1 1 1.5 1.5 1.5
診療の実際
1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1.5 1 生姜
1.5
- - -
処方分量集
2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 - 2 - -


注1 化膿症で初期悪寒発熱,頭痛,発赤腫脹疼痛のものに用いる。癰疽,乳腺炎,乳癌,頭瘡,蕁麻疹,疥癬,上顎洞化膿症,湿疹,アレルギー性体質などに応用される。

注2 化膿症で悪寒発熱,頭痛,発赤腫脹疼痛のものに用いる。

注3 諸種の化膿性腫物によって発熱,悪寒,頭痛,拘急(ひきつれ)などが起きて傷寒(熱病)に似た症状を呈するものに用いる。癤,癰,面疔,乳腺炎など。
(してはいけないこと)
  • (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用・事故が起こりやすくなります)
    次の人は服用しないでください
    生後 3ヵ月未満の乳児。
(相談すること)
  1. 次の人は服用前に医師、薬剤師または登録販売者に相談してください。
    • (1)医師の治療を受けている人
    • (2)妊婦または妊娠していると思われる人
    • (3)胃腸が弱くて下痢しやすい人
    • (4)今までに薬などで発疹・発赤、かゆみなどを起こしたことがあるひと。
  2. 服用後、次の症状があらわれた場合は複写王の可能性がありますので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師または登録販売者に相談してください。
    関係部位 症  状
    皮膚 発疹・発赤、かゆみ
    消化器 食欲不振、胃部不快感

  3. まれに次の重篤な症状が起こることがあります。  その場合は直ちに医師の診療を受けること。 
     [症状の名称:症状] 偽アルドステロン症:尿量が減少する,顔や手足がむくむ,まぶたが重くなる,手がこわばる,血圧が高くなる,頭痛等があらわれる。 

  1. 1週間くらい服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書をもって医師、薬剤師または登録販売者に相談してください

当帰飲子(とうきいんし) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
当帰飲子(とうきいんし)
当帰五・ 芍薬 川芎 蒺梨 防風各三・ 地黄四・ 荊芥 黄耆各一・五 何首烏二・ 甘草一・ 

本方は四物湯に瘡を治する薬剤を配したものて、血燥を治し、風熱を解するを目的とする。特に老人に多く、血燥により皮膚に種々の発疹を生じ、分泌物が少く、掻痒を主訴とするものに用いてよく奏効する。
方中の当帰・芍薬・川芎・地黄は四物湯で、血を潤じ血行をよくし、防風・荊芥は駆風瘡毒を解し、瘀熱を発散する。蒺梨子は皮膚掻痒を治し、黄耆・何首烏は皮膚の栄養強壮剤である。
以上の目標に従って本方は皮膚掻痒症・痒疹その他皮膚病で、膿疱や分泌物が少く、枯燥と掻痒を主訴とするものに応用される。


漢方精撰百八方

29.〔方名〕当帰飲子(とうきいんし)

〔出典〕済生方(宋・厳用和)

〔処方〕当帰5.0 地黄4.0 芍薬3.0 川芎3.0 蒺藜3.0 防風3.0 何首烏2.0 荊芥1.5 黄耆1.5 甘草1.0

〔目標〕激しいそう瘙痒、分泌物少なく、皮膚枯燥、発疹(慢性)、虚弱体質。

〔かんどころ〕老人や虚弱者の皮膚掻痒証、乾性であることが第一条件、胃腸虚弱で下痢気味のものには適さない。

〔応用〕本方は四物湯の加味方であるから、血虚枯燥がなければならない。類方の温清飲四物湯黄連解毒湯の合方)よりは一段と虚し、瘙痒の激しいものによい。しかし四物湯が主になっているので下痢の続いている胃弱のものには禁忌である。本方に苦参を加えるとさらによいことがある。これは苦芥散と合方したことになるからで、陰寒証を認めれば附子を加えるとよい。老人の瘙痒によく応用するが、逆に若年者で体格がよく、頑健で何らの症状がないのに夜間のみ瘙痒を訴え、脈浮なるものには大青竜湯が適する。  温清飲は本方よりも実証で、上衝多血の瘙痒によく、本方で効のないものは四物湯に荊芥、浮萍(ウキクサを乾燥したもの)を加えた薬方が奏効することもある。

〔治験〕七十四才の男性、発疹はないが皮膚に脂肪がなく、常に激しい瘙痒に悩んでいる。皮膚科専門医にも見放されたので、頼るところは漢方しかないと悲壮な面持ちで来診した。精査すると貧血があり口唇も亀裂して肌は粉をふいたよう。掻くとコケの如くに落屑する。時々掻きすぎて出血することもある。効ヒスタミン剤の軟膏でマッサージするが寸効もなく、石炭酸水の湿布をすると一時楽になるので続けたこともあるが、ネクローゼになると注意されて我慢しているという話である。食欲もあり胃はよいが常習便秘なのでセンナ葉をお茶代わりにしている由。当帰飲子を与え、苦参煎で湿布するように命じた。一ヶ月服薬したらかなり楽になったが、耐えられないほどではないがまだ相当痒いという。本方に苦参1.5を加味した処方に代え、八味丸を兼用とした。八ヶ月でほとんど全治。


明解漢方処方 (1966年)』 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.145
当帰飲子(とうきいんし) (済生方)
 当帰五・〇 芍薬 川芎 蒺藜(しつり) 防風各三・〇 地黄四・〇 荊芥 黄耆各一・五 何首烏二・〇 甘草一・〇(二七・〇)

 四物湯を基にした処方で,陰体質の老人や貧血症の慢性湿疹に用いる。陰証の通有性として冬になると悪化し局所には熱感なく足冷えを訴える者を目標にする。 局所の状態は滲出液多く(稀れに乾性のこともあるが)発疹は小さく痒みが劇しい。ことに瘀血性のもの故、夜間にはげしい。もし陽体質で痒み劇しく口渇あり乾性の場合は消風散を考える。老人性の慢性湿疹。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
104当帰飲子(とうきいんし)  別名 当帰飲(とうきいん) 〔済生方〕
 当帰五・〇 芍薬・川芎紙:蒺藜・防風各三・〇 地黄四・〇 何首烏二・五 荊芥・黄耆各二・〇 甘草一・〇

応用〕 貧血性のあるいは枯燥による慢性の皮膚瘙痒症に用いる。
 本方は主として皮膚瘙痒症・痒疹・瘡疥(ひぜん)その他乾燥性皮膚疾患・慢性湿疹等に用いられる。

目標〕 血虚・血燥・風熱による皮膚瘙痒が目標である。それゆえ貧血症で,皮膚枯燥があり、分泌物少なく,乾燥し,発赤も少なく,瘙痒を半訴とし、老人や虚弱の人に多く用いられるものである。

方解〕 四物湯が基本で、当帰・芍薬・川芎・蒺藜子は血虚と血燥を治すのが本旨である。蒺藜は諸瘡の瘙痒を治すもので,荊芥・防風は風熱を去り,諸瘡を治す。黄耆は肌表の栄養を高め、何首烏は滋養強壮の能がある。

主治
 済生方(疥癬門)に、「瘡疥、風癬、湿毒、燥痒等ヲ治ス」「心血凝滞、内瘟ノ風熱、皮膚ニ発見シ、遍身ノ瘡疥ヲ治ス」とあり、
 勿誤方函口訣には、「此方ハ老人血燥ヨリシテ瘡疥ヲ生ズル者ニ用ユ、若シ血熱アレバ温清飲ニ宜シ、又此方ヲ服シテ効ナキモノ、四物湯ニ荊芥・浮萍ヲ加エ長服セシメテ効アリ」とある。
 餐英館療治雑話には、「瘡疥(ヒゼン)ソノ他一切無名ノ小サキ出キモノ、半年、一年ノ久シキヲ経テ愈エヌ者、虚証ニテ此方ノ応ズル証多シ。総体ニ瘡疥ノ類、気血虚スルコト、其ノ形平塌(ヘイトウ)(平坦・扁平と同じ。平らで低い)ニシテ尖(トガ)ラズ、且ツ脂水ジトジトト出テ燥カズ、或ハ燥クカト思エバ、マタジンジント出タリ、痒ミ甚シキ者此方ヲ用ユベシ。形平塌ニシテ、尖ラズ、ジトジトト脂水出テ、乾キカネルヲ標準トスベシ。
 勿論、脈モ緊盛、又ハ数疾ナル者ハ、毒未ダ尽キザル者ニ用ユレバ、黄耆モ方中ニアルユエ、皮膚ヲ閉ヂテ、毒洩ルルコトヲ得ズ、内陥シテ水腫ヲナス、慎ムベシ。敗毒散、浮萍散ナド用イテ愈エズ、纏綿(テンメン)(からみあって)年ヲ経テ治セヌ証、並ニ虚人、老人此方ノ応ズル証多シ、熱ニ属スル痒ミト虚に属スル痒ミト、痒ミノ模様ニ心ヲ用ユベシ」とあるが,必ずしもこれにとらわれることはないようである。

鑑別
温清飲 6 (瘙痒枯燥・血熱、皮膚黄褐色)
消風散  66 (瘙痒・分泌物多く、痂皮形成、痒み強く、内熱)
黄連阿膠湯 14 (瘙痒乾燥・煩躁不眠、血熱、虚証)

治例
 (一) 慢性湿疹
 四〇歳の男子。幼少より湿疹が出て、冬になるとひどくなる。戦争中南方戦線にいたときは三年間すっかりよくなっていた。日本へ帰ってくると、その翌年からまた湿疹が出はじめた。
 患者は中肉中背で、頸部、手の肘関節、股関節、膝関節あたりに黒ずんだ発疹がむらがっている。表面は扁平であり、夜間はとくにかゆみが強い。分泌物は少ない。足が冷え、臍上で振水音をきく。当帰飲子を与えたとこ犯、尿量が増加し、かゆみが減じ、一ヵ月で七分どおりよくなり、三ヵ月ほどで全くきれいにとれ、その後二ヵ年再発しない。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(二)湿疹と腎炎
 二〇歳。幼少のころより湿疹があり、よくなったり、悪くなったりしていた。初診時には手と顔面に発疹がむらがり、乾燥してかゆみを訴えていた。蛋白尿は中等度であった。これに消風散を与えると、二週間で蛋白は陰性になったが、湿疹には変化がなかった。
 さらに四週間服用したが、あまり変わりがない。そこで当帰飲子に転方したところ、二週間後に蛋白は陰性で、湿疹も急速によくなり、その後四週間で湿疹はすっかりよくなった。
 このように消風散と当帰飲子との鑑別はむずかしいこ選がある。
 目黒道琢の口訣には、この二つの区別を次のように述べている。
 当帰飲子は血虚に用い、消風散は血熱に用いる。血虚の発疹は小さくて、長く治らない。
 発疹のさきが鋭からず扁平である。滲出液がじとじとと出て乾かない。乾くかと思うとまたじとじとと出てかゆみが強い。老人やからだの弱い人に見られることが多い。脈に力があって速い場合には用いない。
 消風散の場合は、これも長く治らないし、滲出液が出たり、乾いたりすることも同じであるが、発疹に何となく力があり、赤味を帯びて熱感がある。そして夜間とくにかゆみが甚だしい。舌が乾き、口渇を訴え、足がほてると訴えるものがある。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(三) 湿疹・皮膚炎
 三五歳の男子。終戦の年に召集されて、山で作業をしているとき、うるしにかぶれたのがもとらしいが、その後全身に湿疹が出るようになった。両手背と顔と首に最も多い。
 日光にあたったり、火にあたったりするとすぐに赤くなり、痒くなる。しかし、痒みはそれほどひどくはない。たびたび入院もしたが一〇数年間、消長常なく悩んでいるという。夜など床につくと、背中がムズムズして苦しくなり、じっとしていられなくなる。煩躁して眠れないという。体格、栄養は普通で、顔色は褐色で汚ない。脈は弱く、血圧は一一〇~七五であった。腹は右の胸脇苦満があり、左の臍傍に抵抗と圧痛が認められる。便通は一日一回、とくに口渇もない。
 そこで私は初め十味敗毒湯に茵蔯・山梔を一〇日間与えたが、少しもよくならない。煩躁して眠れないというので黄連阿膠湯にしてみたが、これも効果がなかった。患者またまた入院していろいろ加療、ステロイドホルモンなどを使ったが、いっこうに治らなかった。
 そして翌年四月、八ヵ月ぶりで再来したとき、皮膚の枯燥と、薄い皮がむけるのを目標として、当帰飲子にしてみた。すると一〇日分で効果顕著に現われ、痒みは全く消失し、睡眠がとてもよくとれ、火にあたっても太陽に照らされても赤くならないといって、たいへんよろこんでくれた。この処方を三ヵ月続服してほとんどよくなった。
 (著者治験)

(四) 湿疹
 三一歳の男子。子供のときから慢性湿疹で、発現の場所は、膝の裏から始まり、ここが震源地で、上膞・顔面・下肢等に及び、露出部がことにひどい。痒みが強く、これを掻くと稀汁が出る。夜間床に入り温まると痒い。鼻がつまり乾いてほとんど臭気を感じない。指の先が皸裂を生じてあれる。体格、栄養は普通で、便秘したり下痢したりする。腹は適当に膨満していて、抵抗や圧痛はない。
 血圧は一二〇~七〇であった。私は腹証に従って初め防風通聖散を与えてみたが、あまり効果がないという。いままで漢方の薬局で小青竜湯十味敗毒散消風散などものんでみたことがあるという。そこで全体として枯燥と血虚の状ありと認めて当帰飲子にした。すると一〇日間で今までの薬の中で最もよいように思うという。そこで本方だけにして五ヵ月続けているが、全く自覚症状を認めないまでに治癒した。
 消風散と当帰飲子の区別は、与えてみて初めて知られることがある。
(著者治験)


【副作用】
重大な副作用と初期症

1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

理由
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。



その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
 本剤によると思われる 発疹、発赤、 痒、蕁麻疹等が 報告されているため。
処置方法
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。


消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢
理由
本剤には地黄(ジオウ)・川芎(センキュウ)・当帰(トウキ) が含まれているため、
食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。
また、本剤による と思われる消化器症状が文献・学会で報告されている 。
処置方
原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行うこと
  

 

2013年11月1日金曜日

消風散(しょうふうさん) の 効能・効果 と 副作用

漢方精撰百八方
26.〔方名〕消風散(しょうふうさん)

〔出典〕外科正宗(明・陳実功)

〔処方〕当帰3.0 石膏3.0 地黄3.0 木通2.0 牛蒡子2.0 蒼朮2.0 防風2.0 知母1.5 胡麻1.5 甘草1.0 荊芥1.0 苦参1.0 蝉退1.0

〔目標〕慢性皮膚疾患、強い瘙痒、滲出物過多、夏季に悪化、痂皮形成、皮膚枯燥、便秘、偏食(酸性食)、口渇。

〔かんどころ〕患部はカサブタが厚いか滲出物が多く、臭気があったり汚くみえる。そして掻くと液が多く出る。患部以外の健康な皮膚も浅黒く荒れ性でカサカサしている。

〔応用〕慢性に経過して何年も再発を繰り返す蕁麻疹、頑固な慢性湿疹で手をかえ品をかえても処方無効のものに長服させると奇効を奏することがある。本方の適応は漢方的表現をとれば湿性の陽証に属する慢性皮膚疾患ということになる。患部がきたなく浸出液に臭気があり、カサブタの出来やすいのは陽に属する。しかし急性または亜急性の軽症の場合なら越婢加朮湯がよく、悪臭強く濃い浸出液が出てカサブタ厚くきたない場合は桃核承気湯が適することが多い。本方と鑑別を要する点である。
  また本方は長期間(半年以上)の連用によってはじめて効をみることが多いのと、処方に稀用生薬があるので煎剤とするよりも散剤またはエキス散剤を用いた方が便利であり、兼用方としても応用出来る。

〔治験〕四十五才の主婦、終戦直後から湿疹がひどく一時は全身にひろがったが、その後は手足の内側の軟部に限局した。冬の寒い季節には少しよいが四月頃から悪化し夏になると眠れないほどひどくなり、口渇と便秘を伴う。あらゆる治療も効なく副腎皮質ホルモンで一時好転したが、翌夏また再発した。そこで局部をみると新旧各病期の症状がいりまじっているので、腹証により桃核承気湯を主方とし、十味敗毒湯と本方エキス散を合方して兼用(一回量二グラム)した。一ヶ月で桃核承気湯が不要となったので中止。その後、散剤だけで八ヶ月連用したら昨年の春以来再発をみない。

〔附方〕消風敗毒散

〔処方〕消風散と人参敗毒散の合方。これは表に風水があり汗によって解すことを目的に中国でよく用いるが、私は十味敗毒湯をとり消風散と合方してエキス散を用い良結果を得ている。
石原 明



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
3 消風散(しょうふうさん)  (外科正宗)
〔当帰(とうき)、地黄(じおう)、石膏(せっこう)各三、防風(ぼうふう)、蒼朮(そうじゅつ)、木通(もくつう)、牛蒡子(ごぼうし)各二、知母(ちも)、胡麻(ごま)各一・五、蝉退(せんたい)、苦参(くじん)、荊芥(けいがい)、甘草(かんぞう)各一〕
 本方は亜急性または慢性の湿疹で内熱があり、分泌物が多く、瘙痒が非常に強いものに用いられる。本方證の湿疹は頑固な湿疹で、分泌物も多く、 痂皮のため患部はきたなく、地肌が見えるところは赤味を帯びており、痒みも強く、口渇を訴えるものに用いる。本方は秋から冬にかけては消失するが、夏にな り発汗すると悪化したり、うすい分泌物が止まらない湿疹を目標としたり、皮膚を爪で引っかくと、あとが丘状に盛りあがることを目標にすることもある。 
《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
41.消風散(しょうふうさん) 外科正宗

当帰3.0 地黄3.0 石膏3.0 防風2.0 蒼朮2.0 牛蒡子2.0 木通2.0 蝉退1.0 苦参1.0 荊芥1.0 知母1.0 胡麻1.0 甘草1.0

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
  長年瘉えない頑固な皮膚疾患で,患部が乾燥あるいは稀薄な分泌液があり,夏期もしくは温暖時に特に悪化しやすいもの。本方は10年,20年も治癒しない皮 膚病で十味敗毒湯などで効果がない場合に長期間服用させるとよい。特に夏期に患部が湿潤して稀薄な滲出液が止まらない湿疹に特効があるが,急性症状には無効でこの場合は越婢加朮湯が適する。



漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 本方は湿疹の病変が再発,軽快を反復している過程に,皮ふ深部に波及したいわゆる慢性の湿疹症候群を対象に,繁用され著効のある処方として重宝されている。すなわちその主たる目安には次のごときものがある。
①急性湿疹のそれと異り,慢性湿疹特有の炎症,湿潤,糜爛,結痂性湿疹などが患部に交錯成て認められるもの。したがって部分的に乾燥していたり,分泌物があったり,あるいは掻痒を自覚するなどの症候群があるもの。
②患部は一見乾燥しているかに見えるが,瘙痒があってかくと分泌物が出て,そのあとが湿潤して治りにくいものや,温暖時や夏季に発汗すると増悪するもの。
③秋から冬にかけて消失するが,暑気にあうと悪瘡を形成し,結痂や稀薄な分泌液があるもの。
④常時患部が湿潤して長年瘉えないもの。

<他処方との鑑別>
 本方症状に似た分泌物や湿潤を認めるもので,急性湿疹には本方よりも越婢加朮湯が適する。 越婢加朮湯は滲出液過多や,水疱性湿疹または湿潤性湿疹を対象にし,本方適応症に見られる結痂,膿疱などを認めない。患部が乾燥して炎症症状と瘙痒がある点で温清飲(黄連解毒湯四物湯)と類似するが、温清飲は望診上貧血の傾向があって,しかも患部は充血性の赤味をおび,灼熱様の瘙痒感があり,掻くと鱗屑様のものが落ち,ほとんど滲出液がない点で区別する。また丘疹性湿疹で,掻爬後に出血または出血痕を残すものにも温清飲がよい。湿潤と瘙痒で八味丸料と似ているが,八味丸が適応する慢性湿疹は,老人性のもので排尿異常,腰冷,腰痛,口渇などを伴うので本方と区別できる。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○亜急性,慢性の湿疹に用いる。その目標は,皮膚に丘疹が密生して癒合し,一面に発生,腫張し,滲出液が多くて湿潤し,瘙痒が甚だしいもので,あるいは口渇があり,あるいは厚い痂皮を生じて一見きたならしくみえる。活動的な病変のものである。大塚氏は「個々の発疹部が円形をなし,余り大きくなく,滲出液を生じるものに最もよい。」「夏期に増悪する経のが多い。」と述べている。
○本方の適応症は,漢方で陽証という場合で,若い元気な人に多く,患部の病変は顕著で,活動的である。もし病変がはっきりせず,丘疹は小さくて少なく,乾燥ぎみで,非活動的にみえるものには本方の適応症は少ない。このようなときは漢方では陰証とい感,当帰飲子などの適応症である。
○疎註要験に①頭部にふきでものが出て,熱感,瘙痒があり,ふけのでるものによい。
 ②風熱で赤の中が痒ゆく,頭痛するもの。濃く粘稠な鼻汁がでて長い間治らないもの。小児が生まれたてから赤くただれてなおらないものによい。



漢方治療の実際〉 大塚 敬節先生
○湿疹で分泌物が多く,痂皮を形成し,かゆみの強いものによい。口渇を訴えるものが多い。
○方函類聚「婦人年30ばかり,年々夏になれば惣身悪瘡を発し,肌膚,木皮の如く,痒搨時,稀水淋漓忍ぶべからず,諸医手を束て愈えず,余此方を用いること1月にして効あり,3月にして全く愈ゆ。」
○湿疹で分泌物が多く,貨幣状に痂皮をつくるものにこの方を用いてまことによ決きくことを知った。
○消風散のきく湿疹は夏期に増悪する傾向,分泌物が多い傾向がある。




漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 頑固な湿疹で,分泌物物く,痂皮を形成し,地肌が赤味を帯び,痒みが強く,口渇を訴えるものを目標とする。



外科正宗〉 陳 実 功 先生
 風湿,血脈に浸淫し,瘡疹を生ずることを致し,瘙痒

餐英館療治雑話〉 目黒 道琢先生
 此方,疥其の他一切の湿熱血脈に浸淫し,瘡疥を生じ,痒みつよみのをの治す。此方を亦,発表並びに土茯苓,大黄など用ひても愈えず,半年1年の久しきを歴て,痒みつよく,抓かねばd使ち没し(注蕁麻疹,皮膚紋画症などを含む)又はじとじと脂水出で,或は乾て愈ゆれば又跡より出で,或は病人腹内に熱あるを覚ゆ。時々発熱のように,ぐわっと上気し,夜に入れば別して痒み甚しきなどの証候此方を用ゆる標準なり。瘡疥の類,久しく愈え兼ぬるは血虚か血熱の2つに外ならず。血虚は当帰飲の血熱ならば此方の右に出るはなし。此方中にある苦参,別して血熱を去ること妙なり。虚人又は左程に熱深からざる者は石膏を去り用ゆべし。小児夏季に至ると疥の如き小瘡を発し,痒みつよく,夜寝かぬる者,世上多し。後世家は荊防敗毒散加浮萍,古方家は胎毒と云て紫円などにて下せども愈えず,斯様の証必ずしも胎毒ばかりに非ず。皮膚血脈の内に風湿を受けたる者を覚ゆ。此方に胡麻,石膏を去り用ゆべし。妙なり。


【副作用】
重大な副作用と初期症

1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等)を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。

理由
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

処置方法
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質 バランスの適正化を行う。


その他の副作用
過敏症:発疹、発赤、 瘙痒、蕁麻疹等
      このような症状があらわれた場合には投与を中止する。
理由
 本剤によると思われる 発疹、発赤、 痒、蕁麻疹等が 報告されているため。
処置方法
  原則的には投与中止にて改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行う。


消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等
理由
 本剤には石膏(セッコウ)・地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、
食欲不振、 胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等があらわれるおそれがある。
また、本剤によると 思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。
処置方法
 原則的には投与中止にて改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。