健康情報: 滋陰降火湯(じいんこうかとう) の 効能・効果 と 副作用

2013年12月22日日曜日

滋陰降火湯(じいんこうかとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
滋陰降下湯(じいんこうかとう)
本方は陰を肝腎 の火を降すを以て滋陰降火湯の名がある。腎陰の水虚乏するにより、肝火・腎火共に炎上して脾肺を薫灼するのを滋潤によって消炎させるとの謂である。これを 換言すれば人体根源の元気たる腎水枯れ、消耗熱を発し、体液の虚耗したのを滋潤によって解熱させるのである。肺結核の一症に用いられるときは、乾咳・喀痰 少くかつ切れ難く、皮膚は浅黒くて枯燥し、大便は硬く、胸部の聴診上乾性ラ音の場合によく奏効し、多くは増殖型の肺結核に効果があ識。もし熱が高く、自 汗・盗汗・咳嗽・喀痰が多く、食欲不振・下痢し易い滲出型の場合には禁忌である。
当帰・芍薬・熟地黄は肝火を潤し、天門冬・麦門冬は肺を潤し、生地黄・知母・黄柏は腎中の熱を清涼し、白朮・陳皮・甘草・大棗は消化機能を調和する。
以上の目標に従って、本方は肺結核の一症、乾性胸膜炎・急性慢性気管支炎・急性慢性腎盂炎・腎臓結核・糖尿病・腎膀胱炎・夢精・遺精等に応用される。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.139
27 滋陰降火湯(じいんこうかとう) (万病回春)
 当帰 芍薬 地黄 天門冬 麦門冬 陳皮各二・五  朮三・〇 知母 黄柏 甘草各一・五 大棗 生姜各一・〇(二三・〇)

 この方は後世方の大家、元の朱丹渓の唱えた“陽余りあり陰不足す”(冷えのぼせによる上半身の虚熱症状)の説の基いて創られた処方で、後世方では著名な肺結核の薬である。古方の麦門冬湯症に似ていて、それに貧血の薬を加えたもので、微熱、空咳、粘痰、口乾、呼吸困難、盗汗、皮膚枯燥などを目標にする。故矢数有道氏は「本方の適応者は色浅黒く、便秘しており乾性ラ音を聴診することが多い。もし本方を服して一服で下痢する場合は証が合わない者と思ってよい」と述べておられる。湿性肋膜炎には禁忌であろう。肺結核、乾性肋膜炎。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.209
51 滋陰降下湯(じいんこうかとう) 〔万病回春〕

 当帰・芍薬・地黄・天門冬・麦門冬・陳皮各二・五 白朮三・〇 知母・黄柏・甘草各一・五

 原方では当帰は酒に浸し、黄柏な蜂蜜に浸して炒り、甘草は炙ることになっている。また煎じたのち、竹瀝(真竹を切り火上に炙って流れ出た汁)と童便(一二歳以下の健康な男児の尿)、生姜の絞り汁を少量ずつ加えて服用することになっているが、一般にはこれらの修治と加味を省略している。


応用〕 方名の「陰を滋(うるお)し、火を降(くだ)す」というのは、泌尿器あるいは呼吸器における高熱疾患のため、津液枯燥した場合で、腎水の欠乏を滋潤し、胸部の熱を清解する意味である。多く肺結核・腎盂炎等の消耗性高熱時に用いられる。
 すなわち本方は増殖型肺結核・乾性肋膜炎・急性、慢性気管支炎、慢性腎盂炎・糖尿病・腎臓結核・淋疾等に応用される。但し現在では抗生物質の併用が望ましい。 

目標〕 回春の主治による症状のみによって用いるときは、往々下痢を起こして諸症悪化することがある。これを肺結核や慢性気管支炎に用いる場合、咳嗽はあるが、乾咳で痰は粘稠で切れがたく、皮膚は浅黒くて枯燥し、便秘の傾向があって、乾性「ラ」音のものによく効く。
 腎盂炎・腎結核・糖尿病等に用いる場合も、この皮膚枯燥、便秘がちのものを目標とすべきである。
 これに反して皮膚蒼白で、発汗があり、咳嗽や吐痰多く、胃腸の虚弱な下痢しやすいものには禁忌である。本方を服用して下痢するものは速やかに中止し、参苓白朮散に変方すべきである。すなわち肺結核の場合は、病状が進行性で滲出型のものには禁忌で、増殖型のものによく適応するもののようである。

方解〕 王節斎が「陰を補い、火を瀉す」目的をもって創方したもので、八珍湯を加減し、潤燥を主とし、瀉火を兼ねたものである。
 陰を滋し、火を降すという意味から滋陰降下湯と名づけ、労瘵(肺結核)の主方とした。
 火とは肝腎の火で、これが上炎して脾肺を薫灼するのを、腎の水を滋して消炎させるものである。結核等の熱性病のとき、いわゆる消耗熱のために体液が虚耗し、枯燥したものを潤す作用がある。
 当帰・芍薬・地黄は肝火を潤し、天門冬・麦門冬は肺を潤し、地黄・知母・黄柏は腎中の熱を清涼し、白朮・陳息・甘草・大棗は脾胃を補い、消化器の働きを助ける。


主治
 万病回春(虚労門)に、「陰虚火動・発熱・咳嗽・吐痰・喘息・盗汗・口燥ヲ治ス。此ノ方六味丸ヲ与ヘテ相兼ネテ之ヲ服ス。大イニ虚労ヲ補フ。神経アリ」とある。
 当荘庵家方口解には、「陰虚火動(インキョカドウ)ノ主薬ナリ。 薛己、張介賓ガ丹渓ヲ相手ニシテ、陰ノ誤リヲ叱ル剤也。(中略)此剤ハ労咳ニハ宜シカラザル也。大便結スル症ニ用ヒテモ後瀉スル也。(中略)発熱・咳嗽・吐痰・盗汗ト云フ病症ノ外ニ見ワルル様ニ成リテ降火湯ヲ与フルハ実々虚々ノ誤リトナル也。降火湯ハ腎一蔵ニ火有リテ脾胃全キ者ニヨシ。(後略)」とある。
 この説は最も傾聴に値するものである。
 漢方と漢薬(五巻八号、矢数有道)に、「滋陰降火湯は経験によると、気管支炎(急性慢性)・肺結核・胸膜炎・腺病質・腎盂炎・初老期の生殖器障害・腎臓膀胱結核の初期などに偉効があるが、処方するに際しては次の条件を不可欠とする。
 (1) 皮膚の色が浅黒いこと。
 (2) 大便秘結すること。硬いこと、服薬して下痢しないこと。
 (3) 呼吸音は乾性「ラ」音であるべきこと。
 皮膚は必ずしも浅黒くなくても効きめのあることもあるが、浅黒ければ申し分がない。服薬して下痢するかしないかは、本方の適応か不適応かを決定してよいくらいで、不適応のものは一服で下痢するから中止させるべきである。下痢しない者は安心して継続してよい。胸膜炎の場合は乾性胸膜炎に限るようである。すなわち滋陰降下湯の主治を次のように書き改める。
 「陰虚火動、咳嗽吐痰、皮膚浅黒く、大便硬、之を聴診して、乾性羅音の者、滋陰降火湯之を主る」とあるのは、新しい証の改革というべきものである。


鑑別
 ○柴胡姜桂湯46(発熱咳嗽・胸腹動、往来寒熱、心煩上衝)
 ○麦門冬湯115(久痰咽喉乾燥・大逆上気)
 ○清肺湯83(肺熱咳嗽・痰切れ難し)
 ○炙甘草湯60(虚労欬逆・心悸亢進、脈結滞)
 ○黄耆別甲散11(労咳・骨承熱)

参考
 矢数有道、滋陰降火湯に就て(漢方と漢薬 五巻八号)

治例
 (一)肺結核
 一七歳の男子職工。三ヵ月前に発病、母と妹とが肺結核で死亡している。医療を受けているが、咳嗽がどうしてもとれない。皮膚の色ドス黒く、ときどき血痰・微熱・脈緊数・腹筋少しく拘攣、食欲普通、大便硬く、両肺全面に乾性「ラ」音を聴く。
 初め四物解毒加減方を与えたが効なく、漸次悪化の傾向をたどってきた。試みに滋陰降火湯を与えてみると予想外の好結果で、咳嗽やみ、諸症好転し、本方服用後一ヵ年、風邪もひかず、一日も臥床せず、本年四月より勤務を開始した。この体験より同様の病状を呈する肺結核患者にはみな本方を用い、いずれも所期の効果を得るようになった。
(矢数有道、漢方と漢薬 五巻八号)


 (二)慢性腎盂炎
 二六歳の婦人。肋膜炎、肺尖カタルの既往歴がある。約一ヵ月前急性腎盂炎にて入院加療し、退院後微熱がとれない。わずかに悪寒があり、小便はやや白濁、大便は秘結、小柴胡湯・柴苓湯いずれも効がない。小柴胡湯は肝胆の瀉火剤である。 
 胆腎の瀉火剤を考えた滋陰降火湯を与えてみた。すると効果顕著で翌日から平熱となり、小便白濁もとれ、月余の服薬で、腎盂炎も、肺尖カタルも、肋膜炎の方もすっかりよくなった。
(矢数有道、漢方と漢薬 五巻八号)



副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等 により電解質 バランスの適正化を行う。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等
[理由]  本剤には地黄(ジオウ)・当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがある。また、本剤によると思われる 消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。