健康情報: 芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん) の 効能・効果 と 副作用

2014年1月28日火曜日

芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん) の 効能・効果 と 副作用

漢方一貫堂医学 矢数 格著 医道の日本社刊
p.128
第二章 後世方
一、芎帰調血飲第一加減
〔診 法〕 芎帰調血飲の腹証は、やわらかな腹証で腹内に瘀血の存在はほとんど認められない。しかし、産後悪露の排出不十分で瘀血溜滞を来すと、この芎帰調血飲 第一加減となるので、腹診上、七図に示したようにやや著明な瘀血の存在を認めることができるようになるのである。すなわち、腹内が一般にブワブワとして瘀 血膨満で、それていて腹筋の拘攣をふれないのを特徴とす識。下腹部において特に瘀血を認める。もし、瘀血過多のときはすなわち活血散瘀湯証となり、腹筋の 拘攣を認めるときは通導散またはその加減法となるのである。

〔解説〕
 芎帰調血飲
 当帰、川芎、熟地、白朮、茯苓、陳皮、烏薬、香附子、牡丹皮各二・五、乾姜、益母草、甘草、大棗各一・〇
以上十四味一日量。

 芎帰調血飲第一加減
 前方去熟地黄加芍薬、乾地黄、桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、玄胡索各一・五(童便、姜汁入るるも可)

 「万病回春」の産後門、芎帰調血飲の註に、
 「産後諸病、気血虚損、脾胃怯弱、悪露行らず、去血過多、飲食節を失し、怒気相冲し、以て発熱、悪寒、自汗、口乾、心煩、喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤不語、昏憒等の症を致すものを治す。」
 芎帰調血飲は産後の婦人に与えて気を順らし、血を補い、脾胃を益し、軽き悪露を去る処方である。そして瘀血を多く持つているときは、註に、
 「悪露尽きずして、胸腹飽満、疼痛、或は腹中に塊あり、悪寒、発熱し、悪血有るものは、桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡索を加うとなるのである。これ一貫堂の芎帰調血飲第一加減である」

  産後の諸病で七図に示すような腹証を呈するものは、みなこの方を与えて効果を得る。ふつう、軽い血脚気とか、産後の軽い腹膜炎、産後の血の道と言われるも のを初めとして、婦人瘀血に因る胃腸病、子宮内膜炎、肺結核等にも用いられる。また瘀血による頭痛、耳鳴、眩暈、動悸あるいは眼病にこの方で治しうるもの もある。




『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊
 芎帰調血飲第一加減
 前にも述べたように『万病回春』には、この方の後に三十の加減方が附されているが、その三番目 に、「産後悪露尽きず、瘀血は上衝し昏迷して醒めず、腹満硬痛するものは、当に悪血を去るべし、依って本方に桃仁、紅花、肉桂、牛膝、枳殻、木香、延胡 索に童便、姜汁を少し許り加え、熟地黄を去る」という加減方があり、これを一貫堂では、芎帰調血飲第一加減と称しているが、普通童便と姜汁は使用していな い。
 加味されている薬味の主な効能は、以下の如くである。
 桃仁・・・・・・・・・破血袪瘀、潤腸滑腸
 紅花・・・・・・・・・活血袪瘀、通経
 牛膝・・・・・・・・・活血袪瘀、強筋壮骨、引血下行
 延胡索・・・・・・・活血、利気、止痛
 木香・・・・・・・・・行気止痛
 枳殻・・・・・・・・・消積除脹、破気瀉痰
  桃仁・紅花は活血袪瘀の代表的なもので、これに牛膝を加えたのは、引血下行の意味をもたせたと思われる。延胡索は香附子や烏薬とともに肝腎に関連のある利 気止病矢で、一方木香、枳殻の方は脾胃への作用が主で、苓姜朮甘湯との組み合せで止痛以外に消積(食滞を除く)利湿の役割りを果していると考えられる。
 全体を今一度通覧してみると、
 四物湯去芍薬・熟地黄  活血
 牡丹皮・益母草・桃仁   化瘀
 紅花・牛膝          化瘀
 香附子・烏薬・延胡索   利気(肝腎)
 木香・枳殻          利気(脾胃)
 苓姜朮甘湯          利水
となり、血薬から気薬、利水薬に至る、きれいな配列で、この中に主な調経止痛薬はほとんど含まれている。例えば賀川玄悦の『産論』に見られる折衝飲も、四物湯にこの加減を行ったものとみなすこともできよう。
  重要なことは、一般に袪瘀剤には下剤が含まれていることが多く、一貫堂の常用処方でも通導散を初め、活血散瘀湯、柴胡疎肝湯等すべて大黄、芒硝が入ってい るのに対し、同じ活血化瘀剤でも、本方はあくまで産後の体虚を考えて組まれているため、強い瀉薬を嫌い、あくまで補剤の性格を残していることである。
  瘀血とは結局のところは全身的ないし局所的な循環障害といわれているが、女性の生理不順から出産等に関連する骨盤腔内の鬱血や慢性炎症、及びこれらに伴な うさまざまな身体的・精神的失調だけでなく、その他各種の慢性炎症から循環障害まで、いわゆる活血化瘀剤の適応は広く多種の方剤がある。しかし、その中で 補の性格をもつものは案外少なく、この意味からも本方は極めて利用価値が高いといえよう。


『衆方規矩解説(63)』 日本東洋医学会参事 山下廉平
芎帰調血湯
 芎帰調血飲(キュウキチョウケツイン)は、方名に示すごとく、血を調える方剤であります。
原典といわれる万病回春では芎帰補湯(キュウキホケツトウ)という名になっており、『衆方規矩』では芎帰調血湯(キュウキチョウケツトウ)となっています。
『衆方規矩』には「芎帰調血湯。産後の諸疾を治す。宜しく加減してこれを用ゆべし。 沂(当帰(トウキ))、芎(川芎(センキュウ))、汋(芍薬(シャクヤク))、(地黄(ジオウ))、伽(白朮(ビャクジュツ))、苓(茯苓(ブクリョウ)、陳(陳皮(チンピ))、莎(香附子)、甘(甘草(カンゾウ))。右、姜(乾姜(カンキョウ))、棗(大棗(タイソウ))を入れ、水煎して温服す」とあります。
 本方から芍薬を除き、烏薬(ウヤク)、牡丹皮(ボタンピ)、益母草(ヤクモソウ)を加えたものが、『万病回春』の芎帰補血湯、すなわち芎帰調血飲であります。『万病回春』の産後門、芎帰調血飲の註に、「産後諸病、気血虚損、脾胃祛弱、悪露行らず、去血過多、飲食節を失し、怒気相冲し、以て発熱悪寒、自汗、口乾、心煩、喘急、心腹疼痛、脇肋脹満、頭暈、眼花、耳鳴、口噤して語らず、昏憒などの症を致すものを治す」とあり、方後に三〇に及ぶ加減方が付されております。そしてこれらの加減方は、そのまま『古今方彙』に引き継がれ、あらゆる産後の病状に対し得るようになっております。念のために申し上げますと、『衆方規矩』には一七の加減方が記されております。
 また『牛山活套』産後門を見ますと、「産後には芎帰調血飲を用ゆべし。古芎帰湯(コキュウキトウ)(当帰、川芎の二味からなり、仏手散(ブッシュサン)とも言う)に陳皮、人参を加え、紅花(コウカ)を少し加えて一日の後、芎帰調血飲を用ゆべし。産後の諸病は、気血を補うを以て本とす。その中に保産湯(ホサントウ)は禀賦虚弱の婦人に宜し、調血飲(チョウケツイン)は実体の婦人に宜し」とあります。
 芎帰調血飲は一貫堂経験方の一つで、森道伯先生は産後の常用処方として、気血調理のため必ずこの方を服用させたと伝えられております。矢数道明先生も、産婦にはほとんど習慣的に十数日間服用させたといっておられます。
 薬能を申し上げますと、駆瘀血剤の牡丹皮、益母草、川芎、当帰と補血剤の熟地黄、当帰、そして気剤、健胃剤としての白朮、茯苓、陳皮、烏薬、香附子、乾姜、大棗、炙甘草(シャカンゾウ)から構成されております。駆瘀血剤と温剤とを組み合わせているところに意味があるのでありまして、当帰、川芎、烏薬、乾姜、白朮、大棗といったもので温めるのであります。
 牡丹皮、益母草、当帰、川芎は、血行を促進してうっ血を除き、悪露を排出させる働きをし、熟地黄、当帰には補血強壮作用があり、栄養をよくし、滋潤の効果果高める作用があります。白朮、茯苓は胃内の停水を去り、消化吸収の機能を強めて健胃作用を示し、さらに香附子、陳皮、烏薬は、気をめぐらすことにより胃腸の働きを促進して、これを補助するわけであります。
 白朮、茯苓、益母草には利尿作用があり、浮腫を去り、軟便を治します。また香附子、烏薬には鎮痛作用もあり、大棗、甘草は諸薬の調和に働くのであります。
 芎帰調血飲の腹証は真綿のように軟らかであり、腹内には瘀血の存在はほとんど認められないのであります。しかし、産後悪露の排出が不十分で、瘀血が留滞をきたしたり、日数を経過して下腹部に抵抗圧痛が認められたり、下肢血栓症の疑いのあるものには、第一加減といって、熟地黄を去って芍薬、乾地黄(カンジオウ)、桃仁(トウニン)、紅花、桂枝(ケイシ)、牛膝(ゴシツ)、枳殻(キコク)、木香(モッコウ)、延胡索(えんごさく)を加えて、瘀血を駆除するのであります。
 『万病回春』には、方後加減方の三番目に、「産後悪露尽きず、瘀血は上衝し、昏迷して醒めず、腹満硬痛するのは、まさに悪血を去るべし。よって本方に桃仁、紅花、肉桂(ニッケイ)、牛膝、枳殻、木香、延胡索に童便(ドウベン)、姜汁(キョウジュウ)を少しばかり加え、熟地黄を去る」という加減方があり、これを一貫堂では芎帰調血飲第一加減と称しております。しかし通常、童便と姜汁とは使用しておりません。
 芎帰調血飲第一加減は、芎帰調血飲の瘀血を除き、気のめぐりをよくし、気滞、気逆を治し円:痛みを鎮めて、裏を温め、寒を除くという作用を一段と強化したものであります。本方は産後の気力、体力低下を考慮して、処方が構成されているため、強い瀉剤を避けて、あくまで補剤の性格を残しているのであります。一般的に瘀血を除く方剤には下剤が含まれていることが多く、一貫堂の常用処方でも通導散(つうどうさん)をはじめ、活血散瘀湯(カッケツサンオトウ)、柴胡疎肝湯(サイコソカントウ)などには、すべて大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)などが入っているのであります。
 同じ瘀血を改善することを目標とする薬方でありながら、本方には瀉剤が入っていないというのが大きな特徴であります。それゆえ、体力の低下した瘀血状態にはよく奏効をしますが、熱感、ほてり、のぼせなどの熱症を呈するものには用いないのであります。熱証のものに用いますと、顔や身体が熱く、ほてり、のぼせなどを強く訴えることがあるからであります。
 芎帰調血飲第一加減の場合の腹診上の所見には、やや著明な瘀血の存在を認めることができるようになります。すなわち腹内がブワブワとして瘀血膨満を呈します。しかしそれでいて腹筋の拘攣を触れないのを特徴としております。そして下腹部において、特に瘀血を認めるのであります。もし瘀血過多の時は、すなわち活血散瘀湯証となり、腹筋の拘攣を認める時は、通導散またはその加減方の適応となるのであります。
 以上述べたごとく、芎帰調血飲は『万病回春』の諸病門にかかげられた処方で、産後一切の気血を調理するものであります。貧血を補い、悪露、瘀血を去り、気をめぐらし脾胃を益し、産後の肥立ちをよくするのに適しております。産後出血の止まった後に、本方を用いますと、数日して必ず再び出血を起こすといってもよいほど順血の能があります。
 芎帰調血飲およびその第一加減の運用に当たっては、必ずしも産後の諸症状に用いるばかりでなく、相当の年月を過ぎたさまざまな疾患に対しても、幅広く応用することができるのであります。すなわち産後の調理、産褥熱の軽症、産後の血脚気、乳汁不足、月経不順、産後悪露不足、血の道症、ヒステリー、産後の頭痛、めまい、耳鳴り、食思不振などに応用されるのであります。
 芎帰調血飲に似たものと成ては当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)がありますが、これは妊娠中に用いる薬でありまして、芎帰調血飲は産後の使用を目的としております。薬味の内容からしますと、冷え症や生理痛、あるいは駆瘀血といった点では、芎帰調血飲の方が当帰芍薬散よりやや効果が強いといえるのであり、特に芎帰調血飲第一加減は妊娠中の使用は禁忌であります。補気に対する補中益気湯(ホチュウエッキトウ)のごとく、さらまざまな血の道症に対して、調血、補血の代表的な方剤と形新使用されるのであります。