健康情報: 活血散瘀湯(かっけつさんおとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年2月7日金曜日

活血散瘀湯(かっけつさんおとう) の 効能・効果 と 副作用

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.645 子宮筋腫・骨盤腹膜炎・卵巣炎
12 活血散瘀湯(かっけつさんおとう) 〔外科正宗・腸癰門〕
 当帰・芍薬・川芎・牡丹・桃仁・瓜子 各三・〇  檳榔・蘇木 各二・〇  枳殻・大黄 各一・〇
「産後悪露尽きず、或は経後瘀血痛みを作(な)し、或は男子杖後(杖で叩かれた後)瘀血流注して腸胃痛みを作し、大便燥(かわ)く者」(中略)
 実熱症の子宮実質炎・卵巣炎・骨盤腹膜炎・虫垂炎・子宮癌・子宮筋腫・打撲傷による瘀血などに応用される。



漢方一貫堂医学 矢数 格著 医道の日本社刊
p.130
二、活血散瘀湯

〔診法〕 本方は大黄牡丹皮湯の変方であるから、腹証としても大黄牡丹皮湯証に近い症状を呈するのである。しかし、大黄牡丹湯証よりも下腹部における瘀血充満の程度は著明である。すなわち、第八図に示すように下腹部に瘀血が充満し、圧痛あるいは自発痛がある。
 また、卵巣炎、盲腸炎、卵管炎、子宮周囲炎等の場合の腹証でこの証を現わすものが多い。また急性炎性症状無くて、産後の瘀血が腹内全般に充満しているもので、この活血散瘀湯を用いるものがある。

〔解説〕
活血散瘀湯方
 当帰、川芎、芍薬、蘇木、牡丹皮、枳殻、瓜呂仁、桃仁各二・五、檳榔、大黄各二・〇以上一日量
「外家正宗」腸癰の項、活血散瘀湯条に、産後の悪露尽きず、或は経後瘀血痛を作し、或は暴急奔走、或は男子杖後、瘀血腸胃に流注し痛を作し、漸く内癰となる。及び腹痛し大便燥なる者を治す。並に宜しく之を服すべし。」
とあり、内癰とは現代の盲腸炎を指すと同時に卵巣炎をも意味し、活血散瘀湯応用上よりみれば、卵巣炎に該当することが多い。産後の悪露、月経後の瘀血、打撲傷等による瘀血が腸胃に流注して盲腸炎を起こすというのである。すなわち本方を用いるときは、産後の子宮の炎症、あるいは卵管炎、卵巣炎ならびに盲腸炎等にはみな用いられる。特に有利の点は虫垂炎と卵巣炎との鑑別診断に苦しんでいるときでも、その病名如何にかかわらず同一処方でともに治しうることである。



『漢方一貫堂の世界 -日本後世派の潮流』 松本克彦著 自然社刊

活血散瘀湯と柴胡疎肝湯

大黄牡丹(皮)湯から活血散瘀湯
 中島先生は若い頃のお話はめったにされず、私も何度か先生の昔話を引き出そうと試みたことがあるが、いつもうまくはぐらかされてしまった。しかし『古今方痿』の講義が腸癰の門にさしかかったときに、「最近では急性の虫垂炎に対して漢方を使う機会は殆どないので、ぜひ先生の昔のご体験を」とせがんでみた。
 先生はしばらく黙って考え込んでおられたが、やがてぽつりぽつりと話し出された。
 「盲腸炎といっても大黄牡丹皮湯だけではなかなかうまくいかないものです。大体盛期になれば少々大黄を増やしたって下らないもので・・・・・・甲字湯がよい場合もあるし・・・・・・難かしいものです。
 私の息子が盲腸炎になって、いろいろやっているうちに手足は干からびて肌はがさがさで骨と皮になり、そうなると何か焦げくさいような匂いがしてきて・・・・・・
 結局膿が腹壁から出て治りましたが、いやなものでした。・・・・・・」
 龍野一雄先生も、たしか御令息の虫垂炎を徹夜で漢方治療されたご経験を書いておられたように記憶するが、今日の漢方の隆盛はこれら先人達の血の出るようなご苦心の賜であることを、我々としては片時も忘れてはなるまい。
 この虫垂炎は古くは腸癰と呼ばれて人々の生命を脅かし、その診断治療にはさまざまな工夫がこらされてきたのであろうが、その筆頭として『金匱要略』には次のような記載がある。
 「瘡癰、腸癰、浸淫病の脈証併びに治、第十八、・・・・・・
 腸癰の病たる、その身は甲錯し(皮膚がガサガサになる)、腹は急にしてこれを按ずれば濡(軟)、腫状の如く、腹に積聚(しゃくじゅ)(しこりや塊)なく身に熱なし、脈は数、これ小腸内に癰膿ありとす。薏苡附子敗醤散これを主る。
 薏苡附子敗醤散
薏苡仁十分、附子二分、敗醤五分
 上三味、杵で末となし、方寸匕を取り水二升を以って煎じて半に減じ、頓服す、小便当に下るべし。

 腸癰の者は少腹腫痞し、これを按ずれば即ち痛み淋(膀胱炎等)の如く(しかし)小便自ら調う、時に発熱し、自汗出でまた悪寒す。
 その脈遅緊の者は膿未だ成らず、これを下すべし、まさに血あるべし。
 脈洪数の者は膿すでになる。下すべからざるなり。
 大黄牡丹湯これを主る。(膿未だ成らざる場合にか?)

 大黄牡丹湯方
大黄四両、牡丹一両、桃仁五十個、瓜子半升、芒硝三合
 上五味水六升をもって煮て一升を取り、滓を去り、芒硝を内(い)れて再び煎沸し、これを頓服す。
 膿あるはまさに下るべく、もし膿なきはまさに血を下すべし。」
 なお小腹とは臍以下の下腹部全般を指すのに対し、少腹とは臍の両傍を指すといわれるが、ここでは当然回盲部であろう。
 これらの方剤中の薬物で目新しいものをひろうと(中草学、上海中医学院)、
 薏苡仁・・・・・・利水滲湿、清肺排膿、健脾止瀉
 敗醤草・・・・・・清熱解毒、消癰排膿、活血行瘀
 瓜子(冬瓜子)・・・・・・清熱、袪痰、排膿
となっており、いずれの方剤も活血化瘀薬に加えて、これらの消腫、排膿の薬物が配合されている。これは虫垂炎ということから当然といえようが、また「小腸は水液を主る」といった漢方生理の考え方が影響しているようにも思われる。
 『金匱要略』の条文はやや前後矛盾し、薬方の使用基準が今一つはっきりしないが、龍野一雄先生は、急性虫垂炎に対する漢方治療のご経験が多く、種々の処方を用いられ、大よその処方運用基準として、実証には大黄牡丹皮湯、虚証には薏苡附子敗醤散、そして中間型には腸癰湯とまとめておられる。
 この腸癰湯という処方にはいくつか同名のものがあるが、龍野先生が使用されたのは
 丹皮、桃仁、薏苡仁、瓜子
という内容からなる虚実半ばした折衷的な方剤であるが、出典は『集験方』とあるだけで詳らかでない。
 さて現代では、抗生物質の出現と手術の普及によって、急性虫垂炎もそれ程問題とする疾患ではなくなったが、カタル性、化膿性、壊疽性とタイプはさまじまで、変化は速く、また体質の強弱によって経過もまちまちで、漢方薬のみを頼りとした往古にあっては、一つ間違えば生命にかかわる極めて危険な病気であったであろう。
 したがって本病に対しては、古来日中とも大黄牡丹皮湯を中心に多くの方剤が考案され、各各の運用法についてもよく研究されているが、明代の『外科正宗』(陳実功)にも次のような記載がある。
 「腸癰論 第二十八
 ・・・・・・・・初起(期)未だ(膿)成らざるときは、小腹殷々と痛みをなし、儼(壮んなる貌)にして奔豚(小腹から上に突き上げる症状)に似、小便淋濇なる者は、まさに大黄湯これを下すべし。瘀血去り尽さば自ら安んず。
 休虚にして脈細、敢えて下せざるものは、活血散瘀湯これを和利す。
 すてに(膿)成り、腹中疼痛、脹満して食せず、便淋にして利通するものは、薏苡仁湯これを主る。・・・・・・」
 ここでいう大黄湯とは、
  大黄、芒硝、丹皮、桃仁、白芥子
で、ほぼ大黄牡丹皮湯に等しく、また薏苡仁湯は、
  薏苡仁、瓜婁仁、丹皮、桃仁、白芍
で、これまた前に紹介した『集験方』の腸癰湯に一致する処方である。
 そしてこの「体虚にして下せざるもの」に対する活血散瘀湯こそ、森道伯が通導散と並んで、右の少腹痛に対する一般的袪瘀血方として選択愛用した処方なのである。
 『外科正宗』の条文は、
 「産後悪露つきず、或は経後瘀血痛みをなし、或は暴急奔走し、或は男子杖後瘀血腸胃に流注して痛みをなし、漸く内癰をなす。
 及び腹痛して大便燥くもの、併せて宜しくこれを服すべし。
 川芎・帰尾・赤芍・蘇木・牡丹皮・枳殻・瓜婁仁・桃仁各一銭、檳榔六分、大黄二銭
   水二鐘、八分に煎じて空心に服し、渣を再び煎じて服す。」
 渣を再び煎じて服用する方法は、現在でも中国で特に補剤に対してよく行われているが、ここでは大黄の瀉下作用を弱める意味も込められているように思われる。
 この方の構成は、
  当帰、川芎、芍薬・・・・・・・・補血
  蘇木、牡丹皮、桃仁・・・・・・袪瘀
  枳殻、檳榔、大黄・・・・・・・・行気
  瓜婁仁・・・・・・・・・・・・・・・・・袪痰
で、やはり大黄牡丹皮湯を基礎としているが、これに補血薬と理気薬を加え、しかもその比重が重いのが目立ち、原方の袪瘀排膿を活血化瘀理気の剤に転換したものといえよう。
 したがって条文にも見られるように、この方剤は単に虫垂炎だけでなく、さまざまな応用範囲をもつようで、矢数格先生は各種子宮附属器炎を挙げておられるが、一般の瘀血証に対しても広く利用し得るのであろう。

(※:ここの薏苡仁湯は、現在一般的に使われる明医指掌の薏苡仁湯とは異なる)


副作用
○甘草(かんぞう)を含むので、
低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症や脱力感、四肢痙攣・麻痺等のミオパシー(ミオパチー)が現われることがあ音¥
 また、甘草含有製剤・グリチルリチン酸及びその塩類を含有する製剤、ループ系利尿剤(フロセミド・エタクリン酸)・チアジド系利尿剤(トリクロルメチアジド)では、血清カリウムの低下が促進され偽あるデステロン症やミオパシーが現れやすくなるので併用には注意を要する。


○当帰(とうき)・川芎(せんきゅう)・地黄(じおう)を含むので、
食欲不振、胃部不快感、下痢などの消化器症状を来ることがある。

○牡丹皮(ぼたんぴ)を含むので、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人な服用しない方が望ましい。