健康情報: 調胃承気湯(ちょういじょうきとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年4月1日火曜日

調胃承気湯(ちょういじょうきとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
調胃承気湯(ちょういじょうきとう)
大黄二・ 芒硝 甘草各一・ 少量ずつ服用する。

本方は一種の緩下剤にして、胃の機能を調整する効がある。一般に本方證の患者は、大小承気湯を用いる程ではないが、腹部が充実して便秘の傾向がある。
本方は大黄・芒硝・甘草の三味からなり、大承気湯中の枳実・厚朴の代りに甘草を用いたものと見做すことが出来る。即ち本方中の甘草は枳実・厚朴の如く腹部膨満を治する効はないが、瀉下剤たる大黄・芒硝の働きを調整して徐々に効力を発揮させる効がある。急性熱性病の経過中に悪寒せずにただ発熱し、口舌が乾き、 便秘するものに頓服として用いることがあり、便秘殊に老人の便秘・小児の食傷・齲歯の疼痛にも用いられる。


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
9 承気湯類(じょうきとうるい)
腹部に気のうっ滞があるため、腹満、腹痛、便秘などを呈するものの気をめぐらすものである(承気とは順気の意味)。
承気湯類は下剤であり、実証体質者の毒を急激に体外に排出するものである。
各薬方の説明
3 調胃承気湯(ちょういじょうきとう)  (傷寒論)
〔大黄(だいおう)二、芒硝(ぼうしょう)、甘草(かんぞう)各一〕
本方は、大承気湯の枳実、厚朴を去り、甘草を加えたもので、一種の緩下剤であり、胃の機能を調整する。本方は、やや体力の衰えた人に用いられ、排便によって解熱、鎮静をはかるものである。嘔吐、譫語、腹満、便秘または裏急後重の下痢などを目標に頓服する。


明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.99
調胃承気湯(ちょういじょうきとう) (傷寒論)

 処方内容 大黄二・〇 甘草 芒硝各一・〇(四・〇) 
頓服一回分

 必須目標 ①便秘 ②舌は乾燥 ③脉緊張 ④悪寒なし ⑤軽度の腹満

 確認目標 ①譫語(うわ語) ②発熱 ③心煩 ④胸痛 ⑤口渇

 初級メモ ①本方の目標は便秘して、気症状(神経症状。うわ語、発熱、嘔吐感など)が強いにもかかわらず(甘草主之)、腹満が大承気湯に較べて軽度である場合に用いる。
 ②もし便秘して吐食する者は、芒硝を去った大黄甘草湯を用いる。吐食に下剤を用いる理由は、漢方特有の病理論で、“南風を得んと欲せば、先ず北窓を開く”(呉又可)の思想に基ずく。なお尿量減少に吐剤を用いたりするのも同じ理由による。

 中級メモ ①南涯「内病なり。熱実して心に迫る者を治す。その証、譫語、蒸々発熱、これ熱実の症なり。曰く心煩、鬱々微煩、これ心に迫るなり。その劇しき者は大便溏、下痢、腹微満、脹満、これ血気、心に迫るをもって、腹中の水を消化する能わざるなり」。
 ②本方の証、劇しいときに下痢になるのは南涯説のように、血気心に迫る勢強く、気症状の劇しいときに限られている。

 適応証 熱疾患に伴う便秘、下痢で、うわ語をいうとき。歯痛(歯痛には本方に桃仁、桂枝を加えた内容の桃核承気湯を繁用する)



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
調胃承気湯(ちょういじょうきとう) [傷寒論]

【方意】 裏の熱証による悪熱・潮熱・心煩等のあるもの。しばしば裏の実証による軽度の便秘・腹満等を伴う。
《陽明病.やや実証から実証》

【自他覚症状の病態分類】

裏の熱証 裏の実証

主証
◎悪熱








客証  蒸々とした発熱
 潮熱 身熱
 自汗 口臭
 口舌乾燥 口渇
○心煩 讝語
 尿赤濁
 下痢 渋痢
 局所の発赤


○軽度の便秘
○軽度の腹満
○腹痛
 食欲不振
 嘔吐
 吃逆
 局所の腫脹

 


【脈候】 沈実・沈数・遅実・数急・浮。すべて緊張の良いもの。

【舌候】 乾燥して白苔から黄苔。時に口内腫痛し口唇紅潮する。

【腹候】 腹力やや実。腹部は微満から軽度の腹満が多い。

【病位・虚実】 裏の熱証と軽度ながら裏の実証とがあるために陽明病に位置する。脈力も腹力もあり、また軽い便秘と腹満よりやや実証から実証である。

【構成生薬】 甘草3.0 芒硝3.0 大黄a.q.(0.5)

【方解】 芒硝は寒性であり裏の熱証の悪熱・潮熱を去る。大黄は裏の実証を瀉下作用により除去して便秘・腹満を治し、同時に裏の熱証にも有効に働く。大黄・芒硝の組合せは裏の熱証・裏の実証に対する作用を強化し、更に甘草はこれを補っている。小承気湯大承気湯と異なり、本方には裏の気滞に対応する枳実・厚朴が配合されておらず、このため気滞は軽度である。また「結実の毒」を主治する枳実がない分、裏の実証の程度は軽くなっている。

【方意の幅および応用】
 A1裏の熱証:悪熱・潮熱・心煩等を目標にする場合。
   赤痢、疫痢、急性大腸炎、ウイルス性口内炎、インフルエンザ、麻疹、肺炎
  2裏の熱証:口臭・局所の発赤等を目標にする場合。
   口角糜爛、鵞口瘡、咽喉腫痛、カルブンケル
   尋常性乾癬・疥癬等で局部の発赤・瘙痒の強いもの

 B1裏の実証:軽度の便秘・腹満・局所の腫脹等を目標にする場合。
   腎結石・糖尿病・歯痛・脚気・尿閉・夜啼症等で便秘・腹満するもの
   老人・病後の便秘の緩下剤
  2裏の実証:食欲不振・嘔吐等を目標にする場合。
   消化不良、食道狭窄症、妊娠中毒症、吃逆、自家中毒    

【参考】 *大黄甘草湯証にして実する者を治す。『方極』
* 案ずるに、但だ急迫して大便通ぜざる者、之を主る。『類聚方』
*此の方は承気中の軽剤なり。故に胃に属すと云い、胃気を和すと云い、大小承気湯の如く腹満
燥屎を主とせず、唯熱の胃に属して内壅する者を治す。雑病に用ゆるも皆此の意なり。

『勿誤薬室方函口訣』
*小児の高熱では、第2、3病日あたりで特に重症でなく、いまだ裏の実証がみられなくても用いることが少なくない。



【症例】 急性肺炎に麻疹が合併した少年
 小学校の1年生。突然悪寒戦慄で高熱が出た。この子供の家では、もう一人の子供を肺炎で死なせたばかりのときであったから、ひどく心配し、第2病日に私に往診を乞うてきた。
 この日も、体温は朝から40℃を上下していたが、数日前から学校で机を並べていた友人が、麻疹で学校を欠席しているということであったから、当然麻疹が考えられた。しかし、それにしては熱が突然出ているし、咳もくしゃみもないので、一応腸炎を考えたが、それらしい徴候もない。麻疹になるかもしれないことを、患家に告げて、小柴胡湯を与えた。ところが、この熱は3日たっても下がらず、それに便秘していたので調胃承気湯を与えたところ、下痢はしたが熱は下がらない。
 4日目になると咳が少し出るようになり、血痰が出てきた。のどが渇き出した。呼吸も苦しくなった。だんだん急性肺炎らしくなってきた。そこで竹葉石膏湯を与えたところ、下痢がひどくなり、1日に5~6回も下がり、元気が急に衰えた。しかしこれは急性肺炎だから、2~3日のうちに熱が下がるだろうといっておいた。7日目には37℃台に下がったが、その次の日はまた39℃に上がるという始末で、どうも変だと思っていると、顔にボツボツ発疹が現れはじめた。よくみると麻疹らしいのである。肺炎が治るのを待っていて、麻疹があとから追っかけて出てきたらしい。
 ところがどうも発疹の出方がよくない。色が黒味を帯びて何となく汚い。元気もない。脈は幅が広くて、何となく力がないのに、泡が浮び上がるような感じである。どうも予後が気づかわれる。脈をみても、発疹の色をみても、下痢がある点をみても、真武湯を用いるよりほかに仕方がない。そこで真武湯(附子0.3)を作って与えたところ、夕方から急に元気になって、発疹が一面に出てきた。発疹の色も赤味を帯びてきた。しかもこの方を2日飲んだだけで熱も下がり、たちまち良くなった。
大塚敬節『漢方診療三十年』211


『類聚方広義解説(46)』 日本東洋医学会会長 山田 光胤
 本日は類聚方広義の調胃承気湯(チョウイジョウキトウ)を読みます。大承気湯(ダイジョウキトウ)という処方がすでに出ましたが、これよりも薬力の少し弱い小承気湯(ショウジョウキトウ)があります。調胃承気湯は小承気湯よりもさらに薬力の弱い、おだやかな瀉下効果を現わす薬方であります。類聚方広義では大承気湯からずっと、大黄の入った処方が続いておりまして、ここで調胃承気湯が出てきたわけですが、大承気湯小承気湯、調胃承気湯を合わせて三承気湯といいます。また承気湯類といって、大体この三つの薬方と桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)を総称することもあります。その中で、この調胃承気湯が一番mildな瀉下効果を現わす処方であります。
 まず「大黄甘草湯の証にして、実する者を治す」という東洞先生のコメントで始まります。前回に大黄甘草湯が出ましたが、これは嘔吐をして便秘する場合に使うもので、体力中等、あるいは少し虚弱な人にも使える処方で、甚だしい虚弱の人には無理な処方です。それにさらに芒硝が加わって調胃承気湯になるわけで、大黄甘草湯よりも、もう少し体力がある場合に使うという意味です。
 次に処方の内容と薬の作り方を読みます。「大黄四両、甘草二両、芒硝(消)半觔」とありますが、『康平傷寒論』では芒硝半觔、甘草は炙る、大黄は皮を去るというようなことも書いてあります。
作り方は「右三味、咬咀(ふそ)し、水三升を以て、煮て一升を取り、滓を去り、芒硝を内(い)れ、さらに火に上せ、微しく煮沸せしめ、少々温め服す」とあります。
 咬咀というのは、元来は噛みくだくということですが、この場合は細かく刻むということです。大黄は人の頭くらいある塊りですし、甘草は拇指の太さくらいかもっと太いものもあります。芒硝も塊りですから、これら三種類の薬をくだいて使うわけです。これを水から煎じるわけです。ところがここでちょっとわからないのですが、三味を煮て滓を去りまた芒硝を内れとあるのはおかしいのです。これはたぶん右二味の間違いではないかと思います。大黄を甘草を先に煎じておいて、でき上がった煎じ液に芒硝を入れて、もう一度火にかけて芒硝が溶けるまで煮沸するということであろうと思います。
 「少々温服す」というのは、一度にたくさん飲まないで少しずつ飲めということです。というのは、下剤の働きをしますので、一度にたくさん飲んでひどく下痢をしてはいけないという配慮であろうと思われます。
 次は『傷寒論』の条文になります。「傷寒。脈浮、自汗出で、小便数、心煩(しんぱん)、微悪寒、脚攣急に、かえって桂枝湯を与え、その表を攻めんとするはこれ誤りなり。之を得てすなわち厥(けつ)し、咽中乾き、煩躁吐逆する者は、甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)を作り、之を与う。以てその陽を復す」。「以てその陽を復す」というところは康平本では傍註です。
 「もし厥愈え、足温なる者は、さらに芍薬甘草湯を作り、之を与うれば、その脚すなわち伸ぶ。もし胃気和せず、讝語するものは、少しく調胃承気湯を与え、もし重ねて発汗し、また焼鍼を加うる者は、四逆湯(シギャクトウ)之を主る」というもので、大変ややこしいところです。
 傷寒というのは熱の出る病気で、重い病気です。そして脈が浮で、自然に汗が出るのは、いわば桂枝湯の証です。ところがたびたび小便が出て、胸苦しく、少し寒気がし、足が痙攣しているというのは、一見桂枝湯証のように見えますが、心煩とか、脚攣急ということがあるのは、桂枝湯の証ではないのです。それなのに「その表を攻めんと欲するは誤りなり」 というのは説明文で、康平本では間註になっているところです。
 それで無理に桂枝湯を与えたところが、手足が冷えて、喉が乾き、体が苦しがってひどく嘔吐するようになってしまったのはなぜかというと、自汗が出ているのに、さらに桂枝湯を使ったために、体液が一層喪失し、体が衰え、喉が乾いたり苦しがったりするようになったわけです。そういう時 には甘草乾姜湯で、失った体の力(陽の気)を回復させます。そうすると足が温まって、具合がよくなるということです。「以てその陽を復せ」というのは説明文です。そして足が温まったならば、陽が復して、つまり体力が若干回復してきたことを意味しますので、さらに足がまだ痙攣していますから、芍薬甘草湯を作って与えなさいというわけです。
 芍薬というのは、筋肉の痙攣をゆるめる働きのある薬物ですので、それによって足の痙攣が治って足が伸びます。「胃気和せず」というのは大便が快通しない、便秘のことです。そうなっても、便秘をして、胃腸の中にものが停滞しているため意識がはっきりしないで、うわごとをいう場合は、調胃承気湯を少し使って下してみなさい。そして腸内の停滞物を取り去るといろいろな状況がよくなるであろうということを教えているわけです。もし重ねて、さらにそれ以上に発汗をしたり、焼き針を刺して、さらに熱を加える治療法をすると、一層汗が出ます。そうすると、ますます体液が少なくなり、体はすっかり弱ってしまって、陰証に陥って危急になりますので、四逆湯で危急を救わなければいけないということまでいっているわけです。
 次の条文は、「発汗後、悪寒する者は、虚する故なり。悪寒せず、ただ熱するは実なり。まさに胃気を和すべし。調胃承気湯を与う」という指示です。
 麻黄湯とか桂枝湯で発汗をしたあとで、当然表証が治っていいはずなのにまだ寒気がしているのは、体力が衰えてしまったからである。こういう時は四逆湯その他を使わなければいけないわけです。 けれども、もし悪寒しないで、熱感があるだけのものは、むしろ内実(裏実)で、腸の中に病邪が停滞して充実しているもので功。陽明病にあたりますので、そういう時は少し下してみなさい、それには調胃承気湯がよいのだということです。
 次の条文は、「太陽病、未だ解せず、陰陽の脈ともに停なるは、必ずまず振慄(しんりつ)し、汗出でて解す。ただ陽脈微なる者は、まず汗出でて解す。ただ陰脈微なる者は之を下して解す」とあり、この条文は『康平傷寒論』では間註になっておりまして、のちの人の註釈と考えられる部分です。「もし之を下せんと欲せば調胃承気湯に宜し」ということであります。
 これは、太陽病という熱の出た初期にこれがまだ治らないで、陰陽の脈ともに停なるとありますが、停の脈というのはよくわかりません。そしてふるえが出る場合には汗が出れば治るということですが、この条文はよくわかりません。
 次の条文は、「傷寒、十三日解せず、過経讝語する者は、熱あるを以てなり」と始まります。傷寒になって十三日経っても治らないというのです。過経というのは、十二経絡をすでに通り過ぎてしまったという意味です。経絡は十二ありまして、毎日一つの経絡に病状が進入するという思想が『素問』にありまして、そのことをいっているわけで、言葉の意味はそうですが、実際的には、大体十日以上たったということです。この時期は陽明病になる時期です。そういう時期でうわごとをいうものには裏に熱があるので、陽明病であるといっているわけです。
 つづいて「まさに湯を以て之を下すべし。もし小便利する者は、大便まさに鞕かるべし」とあり、陽明病だから承気湯類をもって下すがよろしい。小便がよく出れば水分が足らなくなっているのですから、大便は硬くなるだろうということです。
 またつづいて「しかるにかえって下利し、脈調和する者は、知る、医丸薬を以て之を下せるを」となり、大便は硬くなるはずなのにかえって下痢をし、しかも脈が調和している、つまり便秘している陽明の脈ではなくて、症状に矛盾があるのに脈が調和しているというのは、これは医者が丸薬ですでに下剤をかけているからであるというのです。丸薬の下剤はいくつかありますが、承気湯を使うべきところを、他の下剤になる丸薬で下痢させてしまっているからであるというわけです。
 「その治に非ざるなり。もし自下利する者は、脈まさに微厥すべし。今かえって和する者は、これ内実となすなり」とあり、これは説明に当たりまして、脈調和するというところひ関連があります。これは正しい治療法ではない、もし自然に下痢するものは、当然脈は微で、手足は冷えるはずである。しかし今は内実の症状に調和しています。そういう時には調胃承気湯を使ったらいいのであるという指示であります。要するに便秘している時に調胃承気湯を使う場合と、下痢をしている時に使う場合とを説明しているわけです。
 次を読まます。「太陽病、過経十余日、心下温々として吐せんと欲し、しかして胸中痛み、大便かえって溏(とう)、腹微満、鬱々微煩。この時に先だって自ら吐下をきわめし者は調胃承気湯を与う。もししからざる者は与うべからず(もし以下は康平本では間註になっています)。ただ嘔せんと欲し、胸中痛み、微溏する者は、これ柴胡の証に非らず。嘔を以てその故にきわめて吐下するを知るなり」とあります。
 太陽病にかかって、十余日をたっておりますので過経です。これを経て、心下がムカムカして吐きそうになる時に胸が痛み、十日以上たちますと、普通は陽明病で、大便が硬くなって便秘して腹が張ってくるところですが、それなのにかえって大便がゆるくて下痢状であり、腹は少しゆるく膨満し、うつうつとして苦しい状態がある。これらの諸症状が発現する前にすでに自然に吐いたり下したりひどくしてしまったものは、邪気が裏に入って裏実の証になっています。裏実は陽明病の状態です。これは大承気湯でどんどん下すほどの強い裏実ではないから、この際は吐下のために虚を挟んでいるので、つまり吐下のために体力が衰えているから大承気湯などで激しく下してはよくないので、一番mildな調胃承気湯で少し下痢させて、胃の機能を調和努せたらよいという意味であります。
 次の条文は「陽明病、吐せず、下らず、心煩する者」とあります。陽貝英画飛、自ずから吐下しそうでいて、しかもまだ吐下しないで、裏熱のために胸苦しいものは調胃承気湯がよろしいというわけです。
 次は「太陽病、三日汗を発して解せず、蒸々(じょうじょう)として発熱功る者は胃に属するなり」とあります。「胃に属す」ということは陽明病だということです。これは太陽病で三日くらいで、もう陽明病に入ってしまった状態をいっているわけです。「蒸々として発熱する」というのは、全身が熱くなって、熱感が強い場合です。これは簡単な文章の中にいろいろ広い意味合いをこめているものです。前の条文で発汗のことが書いてありますが、それに関連のあるところであります。
 次は「傷寒、吐して後、腹脹満する者」です。吐いてから腹が張っている場合ということです。
 次は「大便通ぜず、胃気和せざる者」であり、これは便秘をしているものということです。最後に東洞先生の結語があります。
 「為則按ずるに、ただ急迫して、大便通ぜざる者、之を主る」というもので、いろいろな急迫的な症状があって、便秘をしている場合にいいのであるということであります。
 熱病の時にこのような承気湯類を使用する機会は現今ではあまりありません。抗生剤その他が発達しましたので、昔のように、こういう典型的な裏実、陽明病の症状はなかなかみられませんが、もしそういう時があればこれを使ったらよろしいのですが、大体調胃承気湯を使うのは、むしろ熱の出ない雑病、慢性病の時に多く使います。いろいろな病気の際に便秘をし基時、強い下剤が使えないことがあります。それは慢性病の人は次第に体力が低下して衰弱してくるもので、そういう時に便秘が頑固で強い時で何とかして承気湯を使いたいという時、まず一番作用の弱い調胃承気湯を使ってみます。それで駄目なら小承気湯を使うというような使い方をすると非常に実用的であります。
 



『類聚方広義解説II(46)』 日本漢方医学研究所附属渋谷診療所副所長 稲木 一元
調胃承気湯①
■調胃承気湯

 次に調胃承気湯です。まず調胃承気湯の位置づけを考えてみたいと思います。
 調胃承気湯は大気甘草湯(タイキカンゾウトウ)に、塩類下剤といってもよい芒硝(ボウショウ)を加えた構成になっていますが、処方の名前が、承気(気をめぐらす)となっていて、精神神経症状に使うような様相を暗示させる名前になっています。また胃をととのえるという言葉にもそれが表れていると思います。『傷寒論(しょうかんろん)』「金匱要略』の中では、承気という言葉を使った処方は四つあります。この調胃承気湯のほかに小承気湯(ショウジョウキトウ)大承気湯および桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)です。これらの処方では大黄が重要で、下剤というよりは、何か中枢作用を期待して使うような記載になっています。
 調胃承気湯の本文を呼んでみます。

  調胃承氣湯 治大黄甘草湯證。而實者。
   大黄四兩一錢六分甘草二兩芒硝半觔各八分
   右三味。咬咀。以水三升。煮取一升去滓。内芒硝。
   更上火。微煮令沸。少少温服。以水一合八勺。煮取六勺。去滓。内芒硝。令消服。

 「調胃承気湯。大黄甘草湯の証にして、実するものを治す。
 大黄四両(一銭六分)、甘草二両、芒硝半斤(各八分)。
 右三味、咬咀(ふそ)(細かく砕く)し、水三升をもって、煮て一升を取り、滓を去り、芒硝を内(い)れ、さらに火に上げ、微(すこ)しく煮て沸せしむ。点々を温服す(水一合八勺をもって、煮て六勺を取り、滓を去り、芒硝を内れ、消せしめて服す)」。
 初めの部分の主な意味としては、調胃承気湯は、大黄甘草湯の適応症があって、しかも実の状態にあるものに用いるとして、吉益東洞は例によって処方の説明を、生薬の性質からいっているようです。「実する」という意味を知るために『薬徴』をみますと、芒硝の項に
「耎(ぜん)堅を主る。心下痞堅、心下石鞕、小腹急結、結胸、乾屎、大便鞕を治す。 旁ら宿食、腹満、小腹腫痞等を治す」(『近世漢方医学書集成』10巻34頁)とあります。
 「耎」は弱いとか軟らかいという意味で、「耎堅」はやや軟らかさを持った硬さのようです。芒硝を上腹部あるいは下腹部の腹壁の緊張が強くなるような硬さのようです。芒硝を上腹部あるいは下腹部の腹壁の緊張が強くなるような状態、腹部が膨満したような状態、あるいは便秘に使う、というようなことが書いてあります。これが恐らく「実する」という意味であろうと思います。
 芒硝は瀉利塩(シャリエン)という別名もあり、現在は一般に硫酸ナトリウムが当てられていますが、元々は硫酸マグネシウムであると考えられています。このことは正倉院に保存されている古い時代の芒硝を調査して確認されたことです。マグネシウム塩であれば、現在とは作用が異なっていて、瀉下作用も強くなると思います。臨床的には下剤、利尿薬、あるいは胸や腹がいっぱいになる、便秘、瘀血、黄疸などに有用とされていて、大承気湯桃核承気湯に含まれています。
 本文の後半は、薬の作り方です。大黄と甘草を煎じて滓を捨てた後、芒硝だけを加えて、弱火で芒硝を溶かすといっているわけです。
 次に『傷寒論』『金匱要略』から引用した文が列挙されています。

  『傷寒。』脈浮自汗出。小便數。心煩。微惡寒。脚攣急。
  反與桂枝湯。『欲攻其表。此誤也。得之便厥。咽中
  乾。煩躁吐逆。作甘草乾姜湯。與之。以『復其陽』
  若厥愈足温者。列作芍藥甘草湯。與之。其脚即伸。若
  『胃氣不和。』讝語者。少與調胃承氣湯。若重發汗復加
  燒鍼者。四逆湯主之。
   

 「傷寒、脈浮、自汗出で、小便数、心煩し、微悪寒、脚攣急するに、反って桂枝湯(ケイシトウ)を与え、その表を攻めんと欲す。これ誤りなり。これを得てすなわち厥し、咽中乾き、煩躁吐逆のものは、甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)を作りてこれを与え、もってその陽を復さしむ。もし厥愈え足温なるものには、さらに芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)を作りてこれを与う。その脚すなわち伸ぶ。もし胃気和せず、讝語するものには、少々調胃承気湯を与う。もし重ねて汗を発し、また焼鍼を加うるものには、四逆湯(シギャクトウ)これを主る」。
 これは『傷寒論』太陽病上篇の最後にある条文です。途中ですが、次回にこの条文の解釈からお話ししたいと思います。


※大気甘草湯(タイキカンゾウトウ)は、大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)の誤植?


『類聚方広義解説II(47)』 日本漢方医学研究所附属渋谷診療所副所長 稲木 一元
調胃承気湯②
■調胃承気湯
 前回に引き続いて、調胃承気湯(ちょういじょうきとう)の途中からお話しさせていただきます。テキストの88頁中程からです。
 この部分の条文は前回読みましたので、もう一度解釈をしながらみていきたいと思います。ここは『傷寒論』(しょうかんろん)太陽病上篇の最後にある有名な条文の一つです。
 傷寒で、脈が浮で、自然に発汗し、頻尿で、胸苦しく、悪寒がして、脚がひきつれる。脈浮と自汗は表証のようにみえますが、小便数、心煩、微悪寒といった裏証があって、太陽病の表証と少陰病の裏証が錯綜しているわけです。これは傷寒なわけですが、単純な太陽病の表証と思い、間違えて桂枝湯(ケイシトウ)を与えたというのです。これは表を攻撃するような治療になるわけです。
 桂枝湯を服用すると、すぐに手足が冷たくなって、喉が乾燥し、胸が苦しくなり、手足をしきりに悶え動かし、激しい嘔吐をするようになった。こういう場合は甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)を作って与える必要がある。これを服用すると冷えが治って足が温かくなり、咽中乾、以下の様々な症状が取れた。ところが桂枝湯甘草乾姜湯の服用以前からある、脚のひきつれるという症状はまだ残っている。これには芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)を作って飲ませる。すると脚の攣急も治って脚を伸ばせるようになる。もしこの後で胃腸の働きが悪くて、便秘したり、譫語(うわごと)をいったりするならば、今度は陽明病の裏実の証であって、大いに下すというほどの証ではないから、調胃承気湯を少しだけ与えて、胃腸機能を調整してやって、便通がつけばよくなる、というわけです。
 ところが桂枝湯を与えた後で、その誤りに気づかずに、さらに発汗作用のある薬を使ったり、あるいは焼鍼で発汗させたりすると、さらに悪化して脈が微弱になって、手足社厥冷状態になってしまう。こうなると甘草乾姜湯に附子(ブシ)を加えた四逆湯(シギャクトウ)と用いなければならない、ということになります。

                ○『發汗後。惡寒者。虚故也。
不惡寒。但熱者。實也。常和胃氣。』



 「発汗後、悪寒するものは、虚するが故なり。悪寒せず、ただ熱するものは、実なり。まさに胃気を和させしむるべし」。
 これも『傷寒論』太陽病中篇にある条文で、原典ではこの後に「調胃承気湯を与う」とあります。
 大体の意味は、発汗した後悪寒するのは、芍薬甘草附子湯(シャクヤクカンゾウブシトウ)の証であるけれども、悪寒しないでただ熱感が強いというのは、陽明病で内熱の証である。これは胃腸の機能を調整すればよいということで、調胃承気湯を与える、という趣旨になります。



○太陽病未解。
陰陽脈倶停。必先振慄。汗出而解。但陽脈微者。先汗出
而解。但陰脈微者。下之而解。若欲下之。』


 「太陽病、いまだ解せず、陰陽の脈ともに停なれば、必ずまず振慄し、汗出でて解す。ただ陽脈微なるものは、まず汗出でて解す。ただ脈微なるものは、これを下して解す。もしこれを下さんと欲すれば、(調胃承気湯に宜し)」。
 この条文も『傷寒論』太陽病中篇のものです。文中「停」という字を『宋版傷寒論』には、註釈として「一に微に作る」と書いてあります。後の部分では「陽脈微」、あるいは「陰脈微」と書いてありますので、微の方が妥当だと思います。
 意味は、太陽病がまだ治らないので、陰陽の脈が両方とも微である。陰脈、陽脈とは、脈を触る時に、表面的な脈が陽で、強く抑え込んだ脈が陰脈であるという解釈があります。
 両方とも微であれば、必ずまずガタガタと体が震えて、汗が出て自然に治る。陽の脈だけ微であれば、まず発汗して治る。陰脈だけが微であれば、これを下せば治る。下すには、調胃承気湯がよい、ということです。


                            ○『傷寒。
十三日不解。過經讝語者。以有熱也。當以湯下之
若小便利者。大便當鞕。而反下利。脈調和者。知醫以
丸藥下之。非其治也。若自下利者。脈當微厥。今反
和者。此爲内實也。

 「傷寒、十三日解せず、過経、讝語するものは、熱あるをもってなり。まさに湯をもってこれを下すべし。もし小便利するものは、大便まさに鞕かるべし。しかれども反って下利し、脈調和するものは、知りぬ、医、丸薬をもってこれを下せしを。その治にあらざるなり。もしおのずから下利するものは、脈まさに微厥なるべし。今、反って和するは、これ内、実するがためなり。」
 傷寒で、一三日目に入っても治らない。この一三日という数字は、経絡説で、病気が経絡の上を伝わって循環していくという説がありますが、一巡してしまっても治らないという意味です。そして、譫語をいう。これはまだ熱が残っているからである。これには煎じ薬を飲ませればよい。もし尿が多ければ大便は硬いはずである。しかし自然に下痢して、脈が調和すれば、医者が丸薬の下剤を使ったことがわかる。これは適当ではない。もし自然に下痢すれば、脈は微厥のはずである。今かえって調和していれば、これは胃腸機能が実しているからであって、調胃承気湯の適応である、という意味でしょう。



             ○『太陽病。過經十餘日。』心下溫
溫欲吐。而胸中痛。大便反溏。腹微滿。鬱鬱微煩。『先
此時。自極吐下者。』與調胃承氣湯。若不爾者。不
可與。『但欲嘔。胸中痛。微溏者。此非柴胡證。以
嘔。故知極吐下也。』

 「太陽病、質経十余日、心下温々吐せんと欲し、しかして胸中痛み、大便反って溏(ゆる)く、腹微満、鬱々微煩す。この時に先んじて、おのずから吐下を極むるものは、調胃承気湯を与う。もししからざれば、与うべからず。ただ嘔せんと欲し、胸中痛み、微溏のものは、これ柴胡の証あらざるなり。嘔するをもっての故に極吐下を知るなり」。
 これも太陽病中篇にある条文です。太陽病で発病後十数日たって、胃のあたりがムカムカして吐きそうになって、胸の中が痛み、大便はかえって軟らかい、腹が少し張って、鬱鬱として胸苦しい。もしその上に嘔吐や下痢がひどい状態であれば、調胃承気湯を用いるけれども、そうでなければ大柴胡湯(ダイサイコトウ)などを使う。ただ吐き気だけで胸の中が痛んで、便が軟らかいというのは柴胡剤(サイコザイ)の証ではない、と解釈するということです。

○『陽明病。』不吐。不下。心煩者。

 「陽明病、吐せず、下さず、心煩するものは、(調胃承気湯これを主る)」。
 これは陽明病篇の条文です。嘔吐も下痢もしないで、胸苦しいだけのものには調胃承気湯を使う、ということになります。
 これ以下はお読みになればわかると思いますので、読むだけにします。

 ○『太陽病。三日』發汗不解。蒸蒸發熱者。『屬胃
也。』○『傷寒。』吐後腹脹滿者。○大便不通。『胃氣不
和者。』
 爲則按。但急迫而大便不通者。主之。

 「太陽病、三日、発汗して解せず、蒸々として発熱するものは、胃に属するなり、(本方にて主治す)」。
 「傷寒、吐して後腹脹満するものは、(本方を与う)」。
 「大便通ぜず、胃気和せざるもの」。
 ここまでが『傷寒論』、『金匱要略(きんきようりゃく)』からの引用になります。次は東洞の意見です。
 「為解(ためのり)按ずるに、ただ急迫して、大便通ぜざるもの、これを主る」。
 大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ)との違いが、ここではあまりはっきりしていません。次に頭註をみていきたいと思います。

■調胃承気湯の頭註

 「東洞先生曰く、芒硝の分量は疑うべしと。今姑(しばら)く桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)に従い、二両となす」。
 ここはこのままでよいと思います。
 「傷寒脈浮云々は、桂枝加附子湯(ケイシカブシトウ)証なり」。
 前回の最後に読みました、「傷寒脈浮云々」とある部分は、処方でいえば、桂枝湯に附子を加えた桂枝加附子湯の適応状態であるということです。これはいろいろな人が賛同した意見で、大塚敬節らも同じ趣旨のことを書いています。
 「痘瘡、麻疹、癰疽、疔毒、内攻衝心し、大熱讝語、煩燥悶乱、舌上燥き烈しく、大便せず、あるいは下利、あるいは大便緑色なるもの、この方に宜し」。
 「痘瘡」は天然痘のこと、「癰疽」は皮膚の化膿性の疾患のうちでも、特に根が深くて悪性のものとされています。「疔毒」は小さな吹き出物程度の化膿瘡をいいます。「内攻」は体の表面にあった病気の毒が身体内部に入り込むことで、ここでは具体的にはよくわかりません。皮膚病が内攻するとむくむという俗説もあります。「衝心」は脚気などにみられる、急激に起こった心不全のことですが、ここでは動悸程度でしょうか。「讝語」はうわ言です。皮膚の化膿性の疾患、発熱による脳症状、舌の乾燥、便秘、場合によっては下痢、あるいは大便が緑色をしている、こういうものに使うとよいということです。
 「牙歯疼痛、歯齦腫痛、齲歯枯析、口臭等は、その人多くは平大大便秘閉して衝逆す。この方に宜し」。
 虫歯の痛み、歯槽膿漏のようなもの、虫歯があって、口臭があるのは、大体普段から便秘が形信飛のぼせ症である。こういう人にこの処方がよいということです。衝逆とは、突き上げてくるように息が上かってくるという意味ですから、のぼせて顔が赤いという様子があります。
 「発汗後、悪寒するものは、虚するが故なり。この症は芍薬甘草附子湯に宜し」。
 これは本文の註釈で、芍薬甘草附子湯の証であるということをいうだけです。
 「胃反、膈噎、胸腹痛、あるいは妨満して、腹中に塊あり、咽喉乾燥し、鬱熱、便秘するもの、消渇、五心煩熱、肌肉燥瘠、腹中凝結、二便利せざるもの、皆この方に宜し。あるいは兼用方となすも、また良し」。
 「胃反、膈噎」はすでに説明しましたが、通過障害や嘔吐を引き起こす疾患です。「消渇」とは強い口渇で、通常は糖尿病を指します。調胃承気湯を消化管の通過障害、嘔吐、胸腹部の痛み、膨満感、腹部の腫瘤のようなもの、喉の乾燥、手足のほてり、皮膚の乾燥、あるいは便秘に使う、ということです。
 「膈噎の症、その点少壮より腹裏に癥結を生じ、しかして年とともに長じて、常に胃府の消化、血精灌培の妨碍となる。積みて老境に至る。この症の始萌たり。けだし年歯漸く高ければ、すなわち癥結愈(いよ)いよ痼たり。血液よってもって涸れ、精神随って衰う。これ必然の勢なり。加うるに勤労、酒色の過度なるをもってせば、しかして後、この症始めて成る。しかれば初起によく薬餌に勤め、世紛を謝し、情欲を絶ち、もって治療に就く。なおあるいは一生を庶幾すべし。もし姑息にして治をなし、放恣縦情なれば、病勢星張、精気衰脱し、身体枯槁、飲食一切咽を下り難きに至る。決して救うべからず」。
 大変むずかしい文章ですが、膈噎という病気は、病人がごく若い頃から腹の中にしこりがあって年齢と共に大きくなっていき、常に消化や吸収を妨害している。年を経て老人の仲間入りをする頃に膈噎という症候が出始める。年齢が増すにつれて、治りにくい腫瘍性の病気となって、心身全体が衰える。それに加えて働きすぎ、あるいは酒色の過度で悪化しやすい。ごく初期に薬を飲んで節制をしなければ悪化する。食べ物や生活態度を改めなければ、病気は進行し、食道の通過障害などの症状がどんどん悪化していく、と書いてあります。昔の人の解釈ということです。
 「蒸々発熱とは、 なお釜甑の物を蒸して、熱気蒸騰して、内より外に達するがごときを謂うなり」。
 蒸々発熱ということは、入れ物の中に水を入れて蒸して、熱気が沸騰して、内側から外に達していくような状態であるということで、内側から外側に向かって熱が伝わっていく、ということがいいたいようです。
 以上で調胃承気湯の部分は終わりですが、この処方を臨床的にどのように使うのか考えてみます。

■調胃承気湯の治験例
 浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』では、この処方について「承気湯の軽剤なり。故に胃に属すといい、胃気を和すとい感、少々与うといい、大小承気のごとく腹満燥屎を主とせず。ただ熱の胃に属して内壅するものを治す。雑病に用うるも皆この意なり」とあります。
 大承気湯(ダイジョウキトウ)小承気湯(ショウジョウキトウ)よりもずっと軽い承気湯であって、腹が張る、乾燥した便があるとかいうことではない。ただ消化管の中に熱と呼ばれるようなものがあって、少し便秘がちなだけである。こういう時に使うという趣旨になっています。
 有持桂里(ありもちけいり)の『校正方輿輗(こうせいほうよげい)』の小児初生門、つまり乳幼児のことを扱った部に、調胃承気湯を子供の便秘に使った例が記載されています。「鴨東の五歳の男児が、一年くらい前から便秘になって、いろいろ治療したが薬が全然効かない。そこで有持桂里が調胃承気湯を与えると、たった二服を飲み終わらないうちに、排便するようになって、その後は数日おきに服用さえしていれば、便通がつくようになったが、さらにもう少し時間がたつと、この薬もいらなくなった」(『近世漢方医学書集成』85巻187頁)と書いてあります。子供の便秘に大黄製剤を使うことは、今はあまり行われないと思いますが、調胃承気湯はこういう場合にも使ってよいようです。
 大塚敬節、矢数道明、清水藤太郎の共著である『漢方診療医典』から一つ紹介します。
 「(調胃承気湯)一種の緩下剤で、胃腸の機能を調整する効がある。本方は大黄(ダイオウ)、芒硝(ボウショウ)、甘草(カンゾウ)の三味からなり、大承気湯の枳実(キジツ)、厚朴(コウボク)の代わりに甘草を用いたとみなすことができる。甘草には枳実、厚朴のように腹部膨満を治する効はないが、大黄、芒硝の働きを調整して、徐々に効力を発揮させる効がある。本方は、急性熱病の経過中に、便秘し、悪寒せずに発熱し、口舌が乾くものに頓服として用いる。その他、常習頭痛、ことに老人の便秘、小児食傷などに用いる」とあります。
 大塚敬節の『漢方治療の実際』では、吃逆(しゃっくり)、悪心・嘔吐、便秘、あるいは発熱悪寒の項に記載されています。
 調胃承気湯は以上で終わらせていただきます。




副作用
1) 重大な副作用と初期症状
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
2) ミオパシー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行う。
[理由]
 厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。
 [処置方法]
 原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度により適切な治療を行う。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質 バランスの適正化を行う。

2) その他の副作用
消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等[理由]
本剤には大黄(ダイオウ)・当帰(トウキ)・無水芒硝(ボウショウ)が含まれているため、 食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。
また、本剤によると思われる消化器症状が文献・学会で報告されているため。

[処置方法]
  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。