健康情報: 当帰建中湯(とうきけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年5月23日金曜日

当帰建中湯(とうきけんちゅうとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
小建中湯(しょうけんちゅうとう)
一 般に本方は太陰病または脾虚の證に用いられる。即ち患者は身体虚弱で、疲労し易く、腹壁が薄く腹直筋は腹表に浮んで、拘攣している場合が多い。脈は弦の場 合もあり、芤の場合もある。症状としては、屡々腹痛・心悸亢進・盗汗・衂血・夢精・手足の煩熱・四肢の倦怠疼痛感・口内乾燥等を訴え、小便は頻数で量も多 い。ただし急性熱性病の経過中に此方を用うべき場合があり、その際には以上の腹證に拘泥せずに用いてよい。本方は桂枝・生姜・大棗・芍薬・甘草・膠飴の六 味から成り、桂枝湯の 芍薬を増量して、膠飴を加えたもので、一種の磁養強壮剤である。膠飴・大棗は磁養強壮の効があるだけでなく、甘草と伍して急迫症状を緩和し、更にこれに芍 薬を配する時は、筋の拘攣を治する効がある。また桂枝は甘草と伍して、気の上逆を下し、心悸亢進を鎮める。以上に更に生姜を配すると薬を胃に受入れ易くさ せかつ吸収を促す効がある。小建中湯は嘔吐のある場合及び急性炎症症状の激しい場合には用いてはならない。小健中湯は応用範囲が広く、殊に小児に用いる場 合が多い。所謂虚弱児童・夜尿症・夜啼症・慢性腹膜炎の軽症、小児の風邪・麻疹・肺炎等の経過中に、急に腹痛を訴える場合等に用いられる。また慢性腹膜炎 の軽症、肺結核で経過の緩慢な場合、カリエス・関節炎・神経衰弱症等に応用する。時にフリクテン性結膜炎・乳児のヘルニア・動脈硬化症で眼底出血の徴ある 者に用いて効を得たことがある。

黄耆建中湯は此方に黄耆を加えた方剤で,小建中湯證に似て更に一段と虚弱の状が甚しい場合に用い、或は盗汗が止まず、或は 腹痛の甚しい場合、或は痔瘻・癰疽・慢性淋疾・慢性中耳炎・流注膿瘍・慢性潰瘍湯に応用することがある。

当帰建中湯は、小建中湯に当帰を加 えた方剤で、婦人の下腹痛・子宮出血・月経痛及び産後衰弱して下腹から腰背に引いて疼痛のある場合に用いられる。また男女を問わず、神経痛・腰痛・慢性腹 膜炎等にも応用する。当帰は増血・滋養・強壮・鎮痛の効がある。本方は小建中湯の膠飴を去って、当帰を加えたものであるが、衰弱の甚しい場合には、膠飴を 加えて用いる。
黄耆建中湯と当帰建中湯とを合して帰耆建中湯と名づけて、運用することがある。



漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊 
6 建中湯類(けんちゅうとうるい)
建中湯類は、桂枝湯からの変方として考えることもできるが、桂枝湯は、おもに表虚を、建中湯類は、おもに裏虚にをつかさどるので項を改めた。
建中湯類は、体全体が虚しているが、特に中焦(腹部)が虚し、疲労を訴えるものである。腹直筋の拘攣や蠕動亢進などを認めるが、腹部をおさえると底力のないものに用いられる。また、虚弱体質者の体質改善薬としても繁用される。

3 当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)  (金匱要略)
小建中湯より膠飴を去って、当帰四を加えたもの〕
小建中湯證に、さらに瘀血(血虚)の状が加わっているものに用いられる。したがって、おもに左側の腹直筋の拘攣があり、痛みが下腹から向かって痛むもの、四肢攣急、身体下部の諸出血などに用いられる。
〔応用〕
小建中湯のところで示したような疾患に、当帰建中湯證を呈するものが多い。
その他
一 小経痛、産後の腹痛その他の婦人科系疾患。
一 痔出血、子宮出血その他の各種出血。

臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.285
小建中湯(しょうけんちゅうとう) 〔傷寒・金匱〕
桂枝・生姜(乾生姜は一・〇)・大棗 各四・〇 芍薬六・〇 甘草二・〇
膠飴二〇・〇
五味を法のごとく煎じ、滓を去って膠飴を加え、再び火にのせて五分間煮沸して溶かし、三回に分けて温服する。
(中略)

p.287
〔加減方〕
 当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)。本方から膠飴を去って、甘草を少なくし、当帰四・〇を加えたもので、血虚貧血の甚だしいものである:当帰は増血・滋養・強壮・鎮痛の効がある。すなわちこの方は婦人の腹痛・子宮出血・月経痛・および産後の衰弱・または下腹より腰背に及ぶ疼痛によく用いられる。男女を問わず坐骨神経痛・腰痛・疝気・脊椎カリエス・遊走腎・腎臓結核・腎石症・痔核脱肛の疼痛・慢性腹膜炎・慢性虫垂炎・潰瘍等にも応用される。衰弱の甚だしいときは膠飴を加えて用いる。



明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊
p.48
小建中湯(しょうけんちゅうとう) (傷寒論,金匱)

処方内容 桂枝 大棗各四・〇 芍薬六・〇 甘草 生姜各二・〇(一八・〇) 以上の煎剤に膠飴二〇・〇を溶解する。

(中略)

類方 当帰建中湯(金匱)
 小建中湯に当帰四・〇を加える。小建中湯症に瘀血の証の加わったもので、直腹筋も左側が拘攣す識。やせた婦人の腹痛、腰痛、帯下を目標にする。帰耆建中湯で代用してもよい。小建中湯も本方も同じく腹痛であるが、小建中湯のように上逆の症(動悸、心煩、衂血)はない。



重要処方解説(103)』
 排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)・当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)
   北里研究所附属東洋医学総合研究所診療部長 石野尚吾

■当帰建中湯・出典・構成生薬・薬能薬理
 次は当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)です。この処方は『金匱要略』婦人産後病篇にあります。その内容は、当帰(トウキ),桂枝(ケイシ),生姜,大棗,芍薬,甘草です。すなわち小建中湯(ショウケンチュウトウ)の膠飴(コウイ)の代わりに当帰を入れた処方です。そして非常に虚している時には膠飴を加えて用います。
 出典では『金匱要略』産後病篇に「千金の内補当帰建中湯(ナイホトウキケンチュウトウ)は,婦人産後,虚羸不足,腹中刺痛止まず,吸々少気,或は少腹中急,摩痛を苦しみ,腰背に引き,食欲すること能わざるを治す。産後1ヵ月,日に四,五剤を服し得て善となす。人をして強壮ならしむるの方」とあります。
 『千金方』の内補当帰建中湯は,出産のあとで痩せて気力が衰え,腹が刺すように痛んで止まず,しきりに浅い呼吸をして,下腹部が突っ張り痛むのに苦しみ,その下腹の痛みは腰から背中にまで引っ張るようで,食べたり,飲んだりすることがむずかしいものを治す。こんな患者さんは,産後1ヵ月以内に1日4~5回飲むとよい。丈夫にする効きめがあるということです。
 また方のあとに,子宮出血や鼻血の止まらない時には地黄(ジオウ),阿膠(アキョウ)を加えるとあります。『勿誤薬室方函口訣』には「地黄,阿膠を加え出血の多い症に用いると十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)よりよく効くので,下半身の失血過多にはこの方がよい」と浅田宗伯は述べております。
 構成生薬の薬能は,当帰は甘・温で貧血を治し,出血を止め,体を温め,滋潤を与え,月経を整え,鎮痛・鎮静の効があります。
 桂枝は発表剤,温性,発汗,解熱,鎮痛の作用があり,体の表面の毒を去り,頭痛,発熱,逆上,悪風,体疼痛に用います。
 生姜は健胃,鎮吐剤で,嘔気,咳逆,悪心,噯気に用います。
 大棗は緩和,鎮静,強壮,補血,利水の作用があり,筋肉の急迫,牽引痛,知覚過敏を緩和します。咳,煩躁,身体疼痛,腹痛を治します。
 甘草は緩和,緩解,鎮咳,去痰作用があり,特に筋肉の急激な疼痛,急迫症状を緩解します。
 芍薬は収斂,緩和,鎮痙,鎮痛作用があり,腹直筋の攣急するもの,腹満,身体手足疼痛,下痢などに用います。
 膠飴は滋養,緩和,鎮痛作用で,急迫症状に用います。

■古典・現代における用い方
 先人,古典の論説, 知見としまして,有持桂里は『稿本方輿輗』で,「この方,産後悪露の滞りもなく,腹中軟弱で引っ張り痛むものに用う」とあります。永富独嘯庵(ながとみどくしょうあん)は『漫遊雑記(まんゆうざっき)』で,「一婦人あり,経水五十ばかりにして断たず,その至るや毎月十四,五日,血下ること尋常の人二、三倍す。面目黎黒にして肌膚甲錯,眩暈日に発すること四,五次,数歩すること能わず,徹夜眠らず,呻吟する声四隣に聞こゆ。その脈沈,細,その腹空脹,心下肚腹ともに各一塊あり。堅きこと石の如し,蓋し敗血凝結して,鮮血を震盪するなり。余一診して曰く,腹力虚竭す,積塊攻むべからず。滋潤の方を与えて動静を見んのみ。(略)すなわち当帰建中湯を作り,日に服せしむること二貼,(略)その後曲折あるも数百日,当帰建中湯を服用させて一年ばかりにして血来ること半を減じ,面目,肌膚津液を生じ,また1年を経て,徒歩して山河を渉る」とあります。
 実地臨床上の使用目標としては,この処方は婦人科疾患によく用います。女性の下腹部の痛みや,腰の痛みに用いられます。当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)を用いるような腹痛で,それよりも衰弱や疲労が強く,急迫的な痛みのある時は,当帰建中湯を用います。小建中湯証に当帰を加えたものですか,当帰の作用,すなわち強壮,止血,鎮痛および貧血を治す効果が加わるわけで,これを考えて用いるとよいでしょう。腹痛は下腹部が多く,虚証の人でも激しい痛みがあることがあり,そのような場合に用います。
 腹証は小建中湯証に似て腹力は弱く,腹直筋の攣急を認めます。また軟弱無力で,腹部が膨満していることもあります。脈証は沈,弱小などで虚脈,痛む時は弦脈となることもあります。冷えを随伴症状として訴えることが多いようです。
 応用としては,虚弱な婦人,衰弱した婦人の腹痛に用いることが多いのですが,男性に用いることも当然あります。まず月経困難症によく用いられますが,特に月経が終わったあとで腹痛がまだ続いているもの,あるいは月経の最後の方に痛みが強くなるものに本方は有効であります。そのほか子宮出血,鼻出血,腹膜炎,坐骨神経痛,腰痛,脱肛,ただれ目,不妊症,産後の腹痛などに用いられます。

 加減方としては、非常に虚している時には膠飴を加えます。地黄,阿膠は出血が多く,貧血の強い時に加えます。黄耆(オウギ)を加え黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)※とし,貧血がさらに強いものに用います。

 鑑別は,当帰芍薬散があげられますが,当帰芍薬散は腹部が軟弱で,心下部に振水音があり,腹直筋の攣急がありません。次に桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)ですが,虚実の違いがあります。腹部に弾力性があり,月経痛の場合には,月経開始時に痛みが起こることを目標として,桂枝茯苓丸を用います。芎帰膠艾湯(キュウキョウガイトウ)は,当帰建中湯の方が虚しておりますが,出血を目標として,痛みはあまりありません。当帰四逆湯(トウキシギャクトウ)あるいは当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキュウトウ)は,痛みが下腹部から始まり,上の方へ攻めあがるような疝痛が特徴であります。当帰四逆加呉茱萸生姜湯の場合には,しもやけも1つの目標となるでしょう。

■症例提示
 近年の治験例では,大塚敬節の症例で,32歳の女性,8ヵ月前に人工妊娠中絶の手術を受け,そのあと腹膜炎にかかり,血の塊りや下りものが下り,右の下腹も痛み,発熱が続き,入院してしまいました。現在は腹部は一帯に膨満し,圧迫感があり,寒い目に会うとその症状が激しくなります。この右下腹部は重苦しく,圧痛は著明で,右の腰から下肢にかけて冷えます。熱はほとんど平熱になりましたが,頭が重く,疲れやすく,動悸があり,安眠できません。食欲は普通で,大便は4~5日に1行。月経は少し遅れるが,毎月あります。加味逍遙散(カミショウヨウサン)服用1週間で変化なく,当帰芍薬散にするとかえって小便が詰まるというので,八味丸(ハチミガン)にすると小便の詰まるのはよくなりましたが,他の症状がよくありません。そこで当帰建中湯を与えたところ,4週間で全治しました。
 次も大塚敬節の症例です。当帰建中湯を大腸炎に用いた珍しい例を報告しております。患者は27歳の女性で,子供が3人あります。1年前から大腸炎が時々起きます。また38℃くらいに発熱しますが,平生は熱がなく,大腸炎が起こるとしぶり腹になり,たびたび便所に通います。粘液と,それに血が混じったものが少し下るだけで,快通しません。1年近く医師の治療を受けていますが,よくなりません。診察すると,腹直筋が拘攣し,左腸骨下に索状の抵抗と圧痛があります。月経は1年余りなく,月経に相当する時期になると,大腸炎が起こるといいます。これはただの大腸炎ではない,瘀血が原因に間違いないと判断し,当帰建中湯を与えたところ,大腸炎は起こらなくなり,翌月から月経が始まりましたという症例です。
 次は私の経験例です。23歳女性,主訴は月経痛,特に月経終了時の激痛です。大学を卒業し,中学校の教師になり,教壇に店って授業するようになり,さらに冷えも強く感じるようになりました。体格,体力は中等度です。最近肉体的にも精神的にも非常に疲れ,月経痛を強く感じるようになりました。腹は腹直筋が軽度緊張し,下腹部に圧痛が著明です。月経周期は28日,7日間の持続です。月経が終わりに近くなってから下腹部に劇痛が起こり,職場を休みたくなるほどです。そこで当帰建中湯を与えますと,数ヵ月で痛みを感じなくなりました。
 私は,月経開始時から直後の痛みに桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)を,痛みがさらに激しく便秘傾向のある症例には桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)を投与し,また本症例のように月経後半に痛みのある例には,当帰建中湯を用いてよい結果を得ております。

 本日は排膿散及湯と当帰建中湯の2処方の解説をいたしました。もう一度まとめますと,排膿散及湯は急性または慢性の炎症に用い,炎症の初期から排膿後まで広く用いられる処方であります。現在慢性副鼻腔炎,中赤炎などによく用いられているようです。
 また当帰建中湯は,虚弱な女性,衰弱した女性の腹痛によく用いる処方です。疲労しやすく,少し貧血気味で,冷え症があり,腹痛は下腹が中心で,腰や背中に及ぶことがあります。身体各部の長期出血にもよく,また月経の後半期の痛み,頭痛,偏頭痛などにも応用として用いてよいでしょう。特に産後あるいは人工妊娠中絶後の体調の悪い,原因のわからない腹痛などにも適応があります。



※黄耆(オウギ)を加え黄耆建中湯(オウギケンチュウトウ)?
当帰建中湯に黄耆を加えたものは、帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)



勿誤薬室方函口訣(90) 日本東洋医学会理事 矢野 敏夫 先生
 -当帰湯・当帰飲子・当帰鶴散・当帰建中湯-

 当帰建中湯

 次は当帰建中湯(トウキケンチュウトウ)です。これは『金匱要略』に記載されていて、婦人産後の病の脈証と治の項目に載っています。千金内補当帰建中湯(センキンナイホトウキケンチュウトウ)となつていますので、『千金方』が原典でしょう。
 では薬方内容と分量を『漢方処方分量集』に従って申しますと申しますと、当帰(トウキ)4g、桂枝(ケイシ)4g、芍薬(シャクヤク)5g、生姜(ショウキョウ)(これは八百屋の土生姜で4gです。生薬屋さんの乾した乾生姜(カンショウキョウ)なら1gです)。甘草2g、大棗(タイソウ)4g、膠飴(コウイ)が入っていますが,『金匱要略』では膠飴が入っていません。そして、その後の文章で大変弱っている時、膠飴を入れることになっています。分量は20gを先の生薬を煎じた後、滓(かす)をこして、その後膠飴を加えて5分位煮沸して止め、これを温かいうちに服用します。
 次を読みます。「小建中湯(ショウケンチュウトウ)を弁(べん)ずの条下に詳(つまびらか)にす。方後地黄(ジオウ)、阿膠(アキョウ)を加うる者、去血過多の症に用いて十補湯(ジュウホトウ)などよりは確当す。故に余は上部の失血過多に千金の肺傷湯(ハイショウトウ)を用い、下部の失血過多に此方を用いて内補湯(ナイホトウ)と名づく」。
 「使い方は小建中湯を弁ずの条下にくわしくのべている」とありますが、この『勿誤薬室方函』では、小建中湯の項にそのような説明はありませんので、他の浅田宗伯先生の著書を少し調べてみましたが見当たらず、どこに書かれているのか不明です。「この薬方に地黄と阿膠を加えと出血過多の症状に用いて十全大補湯(ジュウゼンダイホトウ)などよりずっとよく効く、故に宗伯は、上部すなわち鼻出血、吐血、喀血などには千金方の肺傷湯を用い、下部すなわち下血、子宮出血などには此の薬方を用いている」。失血により弱った内臓を補うという意味でしょうか、『金匱要略』の文章の千金内補当帰建中湯という名に従って内補湯と名づけたのでしょう。また『千金』の肺傷湯とは、テキストの213ページに記載されている薬方で、『千金翼方』が原典です。肺結核などの喀血に使われたものです。
 当帰建中湯は、割合よく使われる薬方で、数多くの報告があります。使い方は、いろいろな漢方の本に書かれていますが、竜野一雄先生の『新撰類聚方』に使い方が簡潔に記載されていますので、読み上げてみます。
 普通は飴を加えずに使うが、大虚のものは飴を加える。甘草の量は小建中湯より少ない。
 一、男女を問わず血虚証の腹痛、慢性虫垂炎、結核性腹膜炎などで痛みを訴えるもの。
 二、いわゆる疝気と称して、下腹から腰または股にかけて痛むもの。
 三、腰痛、坐骨神経痛で下腹部に牽引するか、背痛を伴うもの。
 四、脊椎カリエス、遊走腎などで腰脊痛する時。
 五、腎臓結核、腎臓結石などの虚証、腰痛、血尿のあるもの。
 六、婦人病、産後、骨盤腹膜炎などで、虚証で下腹部が痛み、あるいは腰に牽引し、あるいは子宮出血するもの。
 七、子宮出血、月経過多、月経困難、メトロパチー等で、下腹部から腰にかけて痛むもの、あるいは痛みなく虚証だけのもの。
 八、痔核、痔出血、腸出血、血尿などで虚証のもの。
 九、脊椎不全、疲労などで背痛するもの。
 十、潰瘍で肉の上がりの悪いもの(これは胃十二指腸潰瘍ではなく、下腿潰瘍などを指すものと考えられますが、陳旧性の胃潰瘍に使って、よく効いた例を経験したことがあります)
 十一、腰脚麻痺、腰脚攣急に使った例がある。
 十二、歯の痛みを陽明経拘攣意と見て使ったことがある。

 これでこの薬方の使い方がよくわかると思いますが、さらにこれとよく似た薬方で有名な当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)がありますので、これとの鑑別が大切です。山田光胤先生の著書『漢方処方応用の実際』にくわしく書かれていますので、読み上げます。
 「当帰建中湯は当帰芍薬散と体質や体力的に近似しているが、この当帰建中湯は痛みが強いものである。下腹部がひきつれたり、刺すように痛み、痛みは腰背にひびき、飲食することができない。婦人に多く、特に産後によくおこるが、男子にもこの証はある。この方は桂枝加芍薬湯(ケイシカシャクヤクトウ)に当帰を加えたもので、腹証として腹直筋の攣急がみられる。和田東郭の『百痰一貫』という本には、『当帰芍薬散を用いる場合は、当帰建中湯の腹のように腹全体にかからず、下腹に拘攣のきみがあり、圧迫すると真の拘攣より反って痛みをひどく訴える。この痛みは瘀血のせいである』とのべている。
当帰建中湯の腹証は腹直筋が全体に拘攣しているが、当帰芍薬散証は、腹直筋が臍より下の所でわずかに拘攣し、これを圧迫すると圧痛を訴えるものがあることをいっている」と書かれています。
 要するに当帰芍薬散は利水作用の強い薬方で、身体に水毒があり、めまい、頭が重いなどの症状がありますし、当帰建中湯の方は腹部の症状が主ですから、よく鑑別して下さい。
 


『新撰類聚方』では
※腰脊痛? 腰背痛
※婦人病、産後、骨盤腹膜炎?  婦人病・産後・骨盤腹膜炎
※七、子宮出血、月経過多、月経困難、メトロパチー等? 七、子宮出血・月経過多・月経困難・メトロパチー等
※九、脊椎不全、疲労? 九、脊椎不全・疲労
※十一、腰脚麻痺、腰脚攣急? 一一、腰脚麻痺・腰脚攣急
※ 十二、歯の痛みを陽明経拘攣意と見て使ったことがある。? 一二、歯痛を陽明経拘攣と見て使った例がある


※『百痰一貫』?  『百疢一貫』(ひゃくちんいっかん)の間違い




『類聚方広義解説(87)』           日本東洋医学会副会長 寺師 睦宗

 第七の当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)について述べます。処方の内容です。「当帰四両、桂枝、生姜各三両、大棗十二枚、芍薬六両、甘草二両。右六味、水一斗を以て三升を取り、分かち温めて三服し、一日に尽せしむ。もし大虚なれば飴糖(イトウ)六両を加え、湯成りて之を内れ、火上に於て煖め、飴を消さしむ。もし去血過多(月経過多など)、崩傷内衂(ほうしょうないじく)止まざれば、地黄六両、阿膠(アキョウ)二両を加え、湯成りてを内れる。もし当帰(トウキ)無くんば芎藭(川芎(センキュウ))を以て之に代える。もし生姜無くんば乾姜を以て之に代える」とあります。
 次に本文です。「千金の内補当帰建中湯(ナイホトウキケンチュウトウ)は婦人産後、虚羸(きょるい)不足、腹中刺痛止まず、吸吸少気、あるいは少腹拘急に苦しみ、痛み腰背に引き、食飲すること能わざるを治す。産後一ヵ月、日に四五剤を服し得て善しとなす。人をして強壮ならしむ」とあります。
 この条文は『金匱要略』の婦人産後病篇の付方として出ております。『千金方』に出てくる内補当帰建中湯は、婦人の産後に非常に衰弱して腹が刺すように痛いのが止まず、大きな呼吸をすると腹が痛いので浅い呼吸をし、あるいは下腹が突っ張って痛み苦しむ。それが腰や背中に放散して、飲み食いもすることができないものを治すという処方です。そして産後一ヵ月くらいの間は、日に四~五剤飲むとよい。そうすると人を強壮にする力があるということであります。この条文には尾台榕堂先生の頭註はありません。
 次に私の治験例を述べます。不妊症の例です。26才の主婦。結婚して二年になるが子供ができないといって昭和四十八年一月十六日来院しました。患者は55kgの体格ですが、冷え症で月経痛がひどく腰が痛みます。腹診すると腹直筋が緊張しております。当帰建中湯の証と診断して、これに附子を加えて与えました。五十四日分を服用すると、四月十九日に懐妊したとの知らせがあり、十一月二十三日に分娩の予定であるといいます。つわりのために小半夏加茯苓湯を七日分投与しました。その後順調に経過し、予定日より二日遅れて十一月二十五日に男子3000gを分娩しました。


『傷寒雑病論 要方解説』 大塚 敬節
p.32
(七) 当帰建中湯 小建中湯の膠飴の代りに当帰一・〇を加う。若し大虚の者には膠飴をも加う。
 [論]
(金) 婦人産後、虚羸不足、腹中刺痛止まず、吸々少気、或いは小腹拘急を苦しみ、痛み腰背に引き、食欲する能はず、産後一ヶ月、日に四五剤を服し得るを善しとなす、人をして強壮ならしむ。
 [的]
 当帰は血を正常の状態に復帰せしむるの効ありと云う。婦人の病に当帰を多く用いる所以なり。此方は小建中湯証にして、血証を帯ぶる者に用いる。故に産後に限らず、婦人の下腹痛、月経痛、骨盤腹膜炎等に広く応用す。予は華岡青洲の創意に従い、小建中湯に黄耆と当帰を加えて帰耆建中湯となし、痔瘻にて数年間癒えざる者三名を根治せしめたることあり。




副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパシーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2) その他の副作
過敏症:発赤、発疹、掻痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)が含まれているため、発疹、発赤、掻痒等の過敏症状があらわれるおそれがある。
また、本剤によると思われる過敏症状が文献・学会で報告されている。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。


消化器:食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等
[理由]  本剤には当帰(トウキ)が含まれているため、食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。