健康情報: 桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにん)の効能・効果と副作用

2014年7月2日水曜日

桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにん)の効能・効果と副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
桂枝加厚朴杏仁湯
本方は桂枝湯の證で喘咳する者を治する。また喘息患者で桂枝湯の證を具えている場合に用いてよく奏効する。厚朴・杏仁には喘咳を治する効がある。




 漢方精撰百八方 

5.〔方名〕 桂枝加厚朴杏子湯(けいしかこうぼくきょうしとう)

〔出典〕 傷寒論

〔処方〕 桂枝4.0 芍薬4.0 大棗4.0 甘草2.0 厚朴4.0 杏仁4.0 生姜

〔目標〕 桂枝湯の証のあるもので、喘家、つまりがぜを引くとゼいぜいした咳をする者には厚朴、杏仁を加える。太陽病をまちがって下すと病気が悪化して咳をするようになる、その一時にこの方を与える。

〔かんどころ〕 かぜをひくと喘息を起すようなものに本方が適する。

〔応用〕 かぜは大別して二種類に別けられる。その一つは熱を出しても汗をかかないで頭痛や肩こりを訴えるもので、これには葛根湯がよく、かぜを引いてもあまり高熱を出さないで汗をかくたちのも、これには桂枝湯がむく、その桂枝湯の証でぜいぜいと咳をする者には本方が適する。
 喘息には普通小青竜湯が用いられるが、小青竜湯には麻黄があるがら虚弱体質の者には向かない、肺結核でもありそうな人の喘息には本方が適する。
 厚朴は胸満を治すものという。胸満というと上腹部の膨満感であるが、胸元がつまる感じがしてぜいぜいいうものに本方がきくわけである。これは喘息の場合うようなもので、喘息患者でも夜も横になれず坐ったままでぜいぜいしている場合がこの胸満にあたるわけであるが、そんな場合には本方をやつて見るのもいいであろうが、むしろ喘息の発作の場合にアドレナリン、エフェドリン、あたりで応急的に発作をやわらげてから、本方を飲ませるようにした方がよい。
 アレルギー性喘息の場合は、気管、気管枝に分泌物がたまるものであるがら、杏仁の去痰作用がそんな場合に過当しているから本方を用いるとよい。
 桂枝加厚朴杏子湯の応用は常に桂枝湯の証を握んでいることが必要である。桂枝湯の作用をー口で言えば解肌(げき)つまり皮膚の作用をととのえるはたらきである。すなわち体内に熱をもっている場含には適当に発汗させて熱を下げ、まだ汗が出すぎるものは適当に肌を引きしめて体温の調節をはかることを促すのである。また桂枝湯の脈は浮いているが緊張は強くない、むしろ軟弱である。また上衝(のぼせ)の傾向のあるもので、頭痛発熱があって、汗が出て寒むけのするもの、腹証には取り立てて特徴はない、というわけは桂枝湯は太陽病の証だがらである。すなわち本方は桂枝湯の証があって咳をするものに適用されるのである。
相見三郎


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
4 表証
表裏・内外・上中下の項でのべたように、表の部位に表われる症状を表証という。表証では発熱、悪寒、発汗、無汗、頭痛、身疼痛、項背強痛など の症状を呈する。実証では自然には汗が出ないが、虚証では自然に汗が出ている。したがって、実証には葛根湯(かっこんとう)麻黄湯(まおうとう)などの 発汗剤を、虚証には桂枝湯(けいしとう)などの止汗剤・解肌剤を用いて、表の変調をととのえる。
4 桂枝湯(けいしとう)  (傷寒論、金匱要略)
〔桂枝(けいし)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)各四、甘草(かんぞう)二〕
本 方は、身体を温め諸臓器の機能を亢進させるもので、太陽病の表熱虚証に用いられる。したがって、悪寒、発熱、自汗、脈浮弱、頭痛、身疼痛な どを目標とする。また、本方證には気の上衝が認められ、気の上衝によって起こる乾嘔(かんおう、からえずき)、心下悶などが認められることがある。そのほ か、他に特別な症状のない疾患に応用されることがある(これは、いわゆる「余白の證」である)。本方は、多くの薬方の基本となり、また、種々の加減方とし て用いられる。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、桂枝湯證を呈するものが多い。
一 感冒、気管支炎その他の呼吸器系疾患。
一 リウマチ、関節炎その他の運動器系疾患。
一 そのほか、神経痛、神経衰弱、陰萎、遺精、腹痛など。
 
(4) 桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)  (傷寒論)
桂枝湯に厚朴、杏仁各四を加えたもの〕
桂枝湯證で、喘咳を伴うものに用いられる。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.140 
(5) 桂枝加厚朴杏仁湯
 桂枝湯の症で喘咳する者、また喘息の患者で桂枝湯の証のあるものによい。



和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう) [金匱要略]

【方意】 肺の水毒による咳嗽・微喘等と、表の寒証表の虚証による頭痛・悪風・発熱・自汗と、気の上衝のあるもの。時に痙攣脾胃の気滞を伴う。
《太陽病の虚証.時に太陰病の虚証》


【自他覚症状の病態分類】

肺の水毒 表の寒証・表の虚証 気の上衝 痙攣・脾胃の気滞
主証
◎喘咳
◎微端
◎頭痛
◎悪風 ◎発熱
◎自汗
◎のぼせ


客証  夜間咳逆
○胸満
 胸痛

 腹筋痛
 腰痛
 腹満


【脈候】 浮やや弱・浮弱数・やや軟。腹痛時には沈緊。

【舌候】 著変なし。

【腹候】 やや軟。

【病位・虚実】 肺の水毒が中心的な病態であるが、いまだ口苦・咽乾・目眩・心下痞硬・胸脇苦満等の少陽病の症状を現さず、一方表証と、表証にしばしばみられる気の上衝があるため太陽病位である。脈力および腹力は低下しており、自汗もあって虚証に位置する。脾胃の虚証が顕著な場合には太陰病の虚証に相当する。

【構成生薬】 桂枝4.5 大棗4.5 芍薬4.5 甘草3.0 生姜1.0 厚朴3.0 杏仁3.0

【方解】 本方は桂枝湯に厚朴・杏仁を加味したものであるために、桂枝湯証の表の寒証・表の虚証および気の上衝、時に脾胃の虚証を伴う。杏仁は肺の水毒を去る。麻黄湯の場合ののように麻黄と組合せると喘咳に有効であり,本方のように厚朴と組合せると主に胸満に対応する。更に厚朴は気滞と共に筋の痙攣にも有効であり、杏仁の鎮痛・鎮咳作用と協力して疼痛を去る。


【方意の幅および応用】
 A 肺の水毒:咳嗽・微端等を目標にする場合。
   感冒、気管支炎、管気支喘息、肺気腫、肺結核症
 B 痙攣脾胃の気滞:腹満・腹痛等を目標にする場合。
   寒冷や咳嗽で増悪する腹痛、腰痛

【参考】 *微喘し、表未だ解せざるは、桂枝加厚朴杏仁湯之を主る。
『傷寒論』
桂枝湯証にして、胸満し、微喘する者を治す。
『類聚方』
*此の方は風家(カゼを引きやすい人)喘咳する者に用ゆ。老人など毎(つね)に感冒して喘する者、此の方を持薬にして効あり。
『勿誤薬室方函口訣』
*本方はカゼ引きやすく、痰がからんでゼーゼーとなる者に持薬として用いると良い。本方意の伝成病態の表の寒証・表の虚証・気の上衝・脾胃の水毒はそのまま桂枝湯証である。そのため本方意は桂枝湯証に肺の水毒による咳嗽・微喘のあるものと考え現れる。
*本方意の腹痛はかなり激しいことがある。寒冷により誘発され、咳で増悪し、脈沈緊である。咳嗽も激しいことがいり、夜間の咳逆、時に犬の遠吠え状になる。

【症例】 治療に迷ったカゼ
 46歳、女性。患者は中肉中背の婦人。昨日からカゼ気味で頭痛と悪寒が強い。
 自覚症状としては、頭痛、悪寒、発熱のほかに腰が少し痛む。発汗傾向はない。食欲もあまりない。首は凝らない。
 他覚症状は脈として、浮数にして緊かつ硬。舌には乾燥した白苔が中等度。腹力中等度で心窩部、右肋骨弓下に抵抗並びに圧痛が強い。
 以上の諸症状から麻黄湯の正証と考えて、これをすすめたのであったが見事失敗、2日服して好転せず、咳嗽さえ加わって来た。電話でそれなら桂麻各半湯、桂枝二越婢一湯、小青竜湯をと次々とすすめたのであったが、依然として猛烈な咳に日夜悩まされているとのこと。行ってみると、脈は弦緊にしてやや浮。舌候、腹候は初診時と大差がない。この婦人は血圧が高く、数年前からこの腹候ぁあって、大柴胡湯または柴胡加竜骨牡蠣湯等を、その時々の症状に応じて飲んでいたのである。そてこうなると、こんがらかって来て証を決めるのに四苦八苦の有り様。脈になお浮状が残っているが、右側の胸脇苦満はもとからの旧病のそれか、それとも新たにカゼの経過中に現れて来たものが、それに重なったものであるか。何とも区別がつきかねる。そこで、カゼを引いてからすでに10日は経っている事ではあるし、新病によによって出現した胸脇苦満も、恐らく重なって来ているのではないかと一応判断して、柴胡桂枝湯の服用をすすめたのであった。しかし、これまたまんまと外れて、全く応じない。
 ここで思い出したのは、ずっと以前にも、このように一応実証にみえる患者で、1ヵ月近くカゼのあとの咳が治らず、困り果てて来って来た患者に、桂枝加厚朴杏仁湯を与えて奇効を奏した治験の事である。脈はなおまだ浮状を残すことではあるし、よく聞けば、胸の中がつかえたような感じ、即ち胸満もあるしで同方をすすめてみた。この1服が物の見事に命中して、その夜は久しぶりに咳の出ない一夜が迎えられたのであった。念のためもう1服を服して、以後は全く普通の体に戻ることができた。
藤平健 『漢方の臨床』 9・3・25


『健保適用エキス剤による 漢方診療ハンドブック 第3版』
桑木 崇秀 創元社刊


桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)
方剤構成
 桂枝 芍薬 生姜 大棗 甘草 厚朴 杏仁

方剤構成の意味
 桂枝湯に厚朴と杏仁を加えたものである。桂枝湯は,汗の出やすい,顔色のあまりよくない,虚証者向きの軽い発散剤であるが,これに降性薬の厚朴と杏仁を加えたものが本方剤である。
 杏仁は鎮咳・袪痰薬,また厚朴には胸腹部の膨満を下に押し下げるような作用があり,杏仁の鎮咳作用を強化する目的で,しばしば杏仁とペアで用いられる。
 したがって本方剤は,桂枝湯を用いたいような場合で,咳や喘鳴のある場合に用うべき方剤ということができよう。

適応
 自然に汗の出やすい体質の人のカゼや気管支炎で咳や喘鳴のある場合。ただし,顔が赤く,熱感のみあって悪寒を伴わない場合は不適である。


『健康保険が使える 漢方薬 処方と使い方』
木下繁太朗 新星出版社刊

桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)
 東
傷寒論(しょうかんろん)

どんな人につかうか
 桂枝湯(けいしとう)に厚朴(こうぼく)、杏仁(きようにん)を加えたもの。風邪(かぜ)をひき、ぜいぜい咳(せき)をする人に用います。鼻水や薄い痰(たん)のたくさん出る咳(せき)には不可。

目標となる症状
 ①軽い咳が長びく。②生気に乏(とぼ)しい。③微熱。④頭痛。⑤胸苦しい。⑥鼻水や薄い水様の痰(たん)が出ない。

  桂枝湯けいしとう)(72頁)に同じ。

 浮弱脈。


どんな病気に効くか(適応症) 
 身体虚弱なものの咳。老人の咳(せき)、喘息(ぜんそく)、慢性気管支炎、肺気腫(はいきしゆ)の喘咳(ぜんがい)、感冒、流行性感冒。

この薬の処方
 厚朴(こうぼく)1.0g 杏仁(きようにん)4.0g。桂枝(けいし)、芍薬(しやくやく)、生姜(しようきよう)、大棗(たいそう)各4.0g。甘草(かんぞう)2.0g。
 桂枝湯けいしとう)に厚朴(こうぼく)、杏仁(きようにん)を加味した処方。

この薬の使い方
前記処方を一日分として煎(せん)じてのむ。
東洋桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきようにんとう)エキス散、成人一日7.5gを2~3回に分け、食前又は食間にのむ。

使い方のポイント
体力のない人で、咳(せき)が長びいている時に用います。
傷寒論には「太陽病、之(これ)を下(くだ)して微喘(びぜい)する者、表(ひよう)未(いま)だ解決せざる故(ゆえ)也(なり)、桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきようにんとう)之(これ)を主(つかさ)どる」「喘家(ぜんか)、桂枝湯(けいしとう)に作る。厚朴(こうぼく)、杏仁(きようにん)を加ふる佳なり」とあります。

処方の解説
 桂枝湯(72頁)に厚朴(こうぼく)、杏仁(きようにん)を加えたもの。
 桂枝湯(けいしとう)は体表面の血管を拡張し、滋養強壮の作用があり、厚朴(こうぼく)は胸腹部の膨満を去り、咳(せき)、腹痛を治し、杏仁(きょうにん)は咳、呼吸困難、痛み、浮腫(ふしゆ)をとる作用があります。
 厚朴はモクレン科ホオノキの樹皮で、民間では腹痛、吐き気、下痢に煎じてのませます。杏仁はバラ科ホンアンズの種子で青酸配糖体(せいさんはいとうたい)を含有します。



『類聚方広義解説II(5)』 温知堂室賀医院院長 室賀 昭三-桂枝加黄耆湯桂枝加芍薬大黄湯・桂枝加芍薬生姜人参湯・桂枝加厚朴杏子湯-

   桂枝加厚朴杏子湯 治桂枝湯證。而胸滿微喘者。
     於桂枝湯方内。加厚朴二兩。杏子五十個。
       桂枝芍藥大棗生薑各六分甘草厚朴杏仁各四
      右七味。煮如桂枝湯
     喘家。作桂枝湯。加厚朴杏子佳。○『太陽病。下之』
     微喘者。『表未解故也。』
       爲則桉。當有胸滿證。

 「桂枝加厚朴厚朴杏子湯(ケイシカコウボクキョウシトウ)。桂枝湯の証にして、胸満微喘するものを治す。
 桂枝湯方内に、厚朴(コウボク)二両、杏子(キョウシ)五十個を加う。
 桂枝、芍薬、大棗、生姜(各六分)、甘草、厚朴、杏仁(キョウニン)(各四分)。
 右七味、桂枝湯のごとく煮る。
 喘家、桂枝湯を作り、厚朴、杏子を加えて佳なり。太陽病、これを下し、微喘するものは、表未だ解せざる故なり。
 為解按ずるに、まさに胸満の証あるべし」。

 この条文は、それほどむずかしくないのでおわかりいただけると思います。これは喘家ですから、もともと呼吸器が弱くて咳が非常に出やすい人です。
 頭註に、「本より喘の症あるを、これを喘家と謂う。喘家にして桂枝湯の症を見(あらわ)すものは、この方をもって発汗すればすなわち愈(い)ゆ。もし喘が邪によってしかしてその勢いの急なるか、邪の喘に乗じてしかしてその威盛んなるものは、この方を得てしかして治する所に非ざるなり。宜しく他方を参考にし、もって治を施すべし。拘々すべからず」とあります。
 桂枝加厚朴杏子湯は割合使いよい薬です。エキス剤はありませんが、もともと桂枝湯を使うような人ですから、それほど体は丈夫ではないわけですが、そういう人がかぜをひいたりして咳をする、あるいは以前から呼吸器系の疾患があって体があまり丈夫ではない人が、かぜをひいて咳が出るという場合に、桂枝加厚朴杏子湯を使うと非常に具合がよくなって楽になるということがあります。ですから子供あるいは乳幼児で虚弱な場合、かぜをひくとすぐにゼイゼイする、あるいは咳が出るというものに使います。
 こういう人は麻黄剤の小青竜湯(ショウセイリュウトウ)であるとか、麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)のようなものを使うと、体質が弱いわけですから、かえって具合が悪くなり、食欲がなくなる、ぐったりする、だるくなるというようなことがあります。このように麻黄剤が使えない子供とか、あるいは日頃から麻黄剤を使えない人に桂枝加厚朴杏子湯を使うと、安心して薬が飲めます。
 桂枝湯というのは、本来一種の強壮剤ですから、体が弱い人には証に応じて桂枝湯の加味方のようなものを飲ませておくとよいと思いますが、そういう人がかぜをひいた時には、厚朴、杏仁(杏子)を加えると食欲がなくならずに全身状態がよくなってきます。私も、自分の患者さんに一例使っていますが、この薬を服用していると非常に具合がよいといっています。
 しかし頭註にありますように、「本より喘の症あるを、これを喘家という。喘家にして桂枝湯の症を見すものは、この方をもって発汗すればすなわち愈ゆ。もし喘が邪によってしかしてその勢いの急なるか、邪の端に乗じてしかしてその威盛んなるものは、この方を得てしかして治する所に非ざるなり」ということです。
 つまり日頃から喘のある人が、もしもっとひどい病気になり、咳がひどくなるような場合には、必ずしもこの薬で治らない場合があります。そういう場合には小青竜湯とか、あるいは麻杏甘石湯五虎湯(ゴコトウ)、麦門冬湯(バクモンドウトウ)というようなもの、あるいは滋陰至宝湯(ジインシホウトウ)のようなものを使うというわけです。
 「この方を得てしかして治する所に非ざるなり。宜しく他方を参考し、もって治を施すべし。拘々すべからず」とありまして、必ずしもこの証にこだわってはいけない。もし桂枝加厚朴杏子湯で治らない場合はほかの処方を考えなさいといっています。
 「太陽病、これを下し」で、太陽病ですから先に表の邪を治すべきなのに、先に裏ん攻め下したために微喘を起こしたのであって、一つ誤治による喘です。したがって桂枝湯に厚朴、杏仁を加えて表邪を散じて上逆の嘔気を治めるのであるというのが、桂枝加厚朴杏子湯の本筋の治療です。
 太陽病を治療する場合にはまず先に表を治し、そして裏を後にしなければならないのが原則ですが、「これを下し」ですから、表証に対する治療を行わないで、逆に承気湯類のようなものを使ったと思いますが、そのために喘を起こしたものですが、「微喘」ですから、それほどひどくないといっています。咳が強くてもこの薬でよくなる方が結構あります。
 「喘は腹満のためでもなく、心下の水気のためでもなく、表邪のあるものを誤って下し、そのために気が上逆して胸に迫って喘を発したのである。胸に迫って喘を発するから桂枝湯に厚朴、杏仁を加えて表邪を散じて、上逆の気を治めるのが桂枝加厚朴杏子湯の解釈である」と大塚敬節先生はいっておられます。
 大塚先生の本では「体のブヨブヨの乳幼児」と書いてありますが、大人でもふだんから体の弱い人がかぜをひいて咳が出る場合には、桂枝加厚朴杏子湯を使ってみると効果が得られます。ぜひお使いになってみていただきたい処方の一つです。


副作用
1)重大な副作用と初期症
1) 偽アルドステロン症: 低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加等の偽アルドステロン症があらわれることがあるので、観察(血清カリウム値の測定等) を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
2) ミオパチー: 低カリウム血症の結果としてミオパチーがあらわれることがあるので、観察を十分に行い、脱力感、四肢痙攣・麻痺等の異常が認められた場合には投与を中止し、カリウム剤の投与等の適切な処置を行うこと。
[理由]
厚生省薬務局長より通知された昭和53年2月13日付薬発第158号「グリチルリチン酸等を含 有する医薬品の取り扱いについて」に基づく。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、血清カリウム値のほか血中アルドステロン・レニ ン活性等の検査を行い、偽アルドステロン症と判定された場合は、症状の種類や程度によ り適切な治療を行うこと。低カリウム血症に対しては、カリウム剤の補給等により電解質バランスの適正化を行う。

2) その他の副作
過敏症:発疹、発赤、瘙痒等
このような症状があらわれた場合には投与を中止すること。
[理由]
本剤には桂皮(ケイヒ)が含まれているため、発疹、発赤、瘙痒等の過敏症状があらわれるおそれがあるため。

[処置方法]
原則的には投与中止により改善するが、必要に応じて抗ヒスタミン剤・ステロイド剤投与等の適切な処置を行うこと。