健康情報: 3月 2015

2015年3月12日木曜日

続命湯(ぞくめいとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

続命湯(ぞくめいとう)
本方は大青竜湯に似て血虚のあるものに用いる。即ち表證があって、裏に熱があり、しかも血液が滋潤を失って枯燥の状あるものに用いる。従って脈は浮大にして、頭痛・喘鳴・身体痛・麻痺・身体拘急・口渇等のあるものを目標とする。
本 方は大青竜湯の生姜の代りに乾姜を用い、大棗の代りに当帰・人参・川芎のような強壮・補血・滋潤の効ある薬物を加えたものであるから、その応用は大青竜湯 に準ずるが、特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ、年月を経たものには用いる機会が少い。また神経痛・関節炎・ 喘息・気管支炎及び腎炎・ネフローゼ等で浮腫のあるものにも用いる。

漢方精撰百八方
71.〔続命湯〕(ぞくめいとう)

〔出典〕金匱要略

〔処方〕杏仁4.0 麻黄、桂枝、人参、当帰各3.0 川芎、乾姜、甘草各2.0 石膏6.0

〔目標〕自覚的 運動障害、言語障害、知覚障害等があって、ときに喘咳、浮腫等がある。
他覚的
脈 浮大、弦大、弦緊等
舌 燥した中等度以上の白苔又は黄苔
腹 腹力は充分で、心窩又は肋骨弓下にかなりの抵抗並びに圧痛があり、あたかも大柴胡湯の腹状を思わせる場合が多い。

〔かんどころ〕半身不随し、からだはがっちり。

〔応用〕 1.脳出血後の運動又は言語障害 2.高血圧症で口渇、頭痛を伴うもの 3.喘息 4.関節炎又は神経痛 5.腎炎、ネフローゼで浮腫のあるもの

〔治験〕本方は、ひとくちに言って、大柴胡湯証で運動又は言語障害をかねたようなものによく効く。半身不随では、発作後、日の浅いもの程よく応ずるが、ときにはかなりの年月を経たものでも、本方を長服して次第に好転してきているものがある。
  がっちりしたからだつきで、腹力もつよく、心窩は抵抗があって圧痛を訴え、しかも胸脇苦満が著明にあれば、このような患者の半身不随の場合には、誰しも大柴胡湯又は大柴胡湯加黄連、黄ゴン等を用いたいところであるが、それらを用いて効なく、続命湯を与えて俄に好転したといういくつかの治験を私はもっている。このような場合に、一度は試みる価値のある薬方であると思う。
  五十七才の男子。中肉中背で、顔面は何となく僅かにむくんだ感じ。約八ヶ月前に軽い脳出血の発作で倒れ、二ヶ月ほどの安静加療で外出も出来るようになったが、ロレツがよく廻らないのと、右上肢のシビレ感がとれず、歩行がぎこちないのが苦しい。診ると、外見の割に腹状はがっちりしていて、心窩部も、肋骨弓下も抵抗と圧痛があり、脈は弦やや浮大で、舌には乾燥した厚い白黄苔がある。本方を続服して、諸症状はほぼ正常に近いまでに好転した。
藤平 健



《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
46.続命湯(ぞくめいとう) 金匱要略

杏仁4.0 麻黄3.0 桂枝3.0 人参3.0 当帰3.0 川芎3.0 乾姜2.0 甘草2.0 石膏6.0

(金匱要略)
○治中風痱,身体不能自収,口不能言,冒昧,不知痛処,或拘急不得転側,伹伏不得臥,欬逆上気,面目浮腫(中風)

漢方研究〉 1969年11月号 薬学の友社
出典〕 金匱要略・附方。古今録験続命湯とも言う。
続命湯と称せられる処方は,上記のほか千金方,外台秘要方にも掲載されており、全部数えれば10数種ある。一般に使用されているのは,この処方で,「大続命湯」ともいう。もう1つ小続命湯(千金方)があってこれとは薬育の構成が違い、附子が配合されている。

処方の構成〕 杏仁,麻黄,桂枝,人参,当帰,川芎,干姜,甘草,石膏の9味から成る。大青竜湯の大棗を当帰,川芎,人参の三味に生姜を干姜に代えたもの。

目標〕 脳出血または脳軟化症による運動障害(半身不杯,四肢の不自由) や言語障害,知覚障害があるもの。頭痛,喘鳴,咳嗽,首や肩のこり,顔面神経麻痺,浮腫などの症状を伴う。

〔応用〕
①脳出血の後遺症,脳軟化症のはるべく初期に用いる。
②神経痛,関節炎,浮腫,顔面神経麻痺に応用する。
③高血圧,それに伴う首や肩の凝りにも応用する。
④気管支炎,気管支喘息,腎炎,ネフローゼに応用。

〔応適症〕 脳出血,脳軟化症,高血圧症,神経痛,関節炎,顔面神経麻痺,気管支喘息,気管支炎,腎炎,ネフローゼ,浮腫など。

〔参考メモ〕
◇本方は古来“中風(脳卒中)”のオーソドックスな処方とされてきた。
◇現代医家では大塚敬節,藤平健両先生が治験例をまとめて,詳細に発表されている。(大塚敬節先生著「漢方診療30年」「漢方治療の実際」「日本東洋医学会誌」第13巻第2号藤平先生論文)
大青竜湯と薬味の構成が類似していることから,大青竜湯のような表証(頭痛,首や肩のこり,発熱悪寒,咳嗽,喘鳴,身体痛など)を1つの目標とし,また人参,当帰,川芎が配されていることから,貧血虚弱をもう1つの目標にするという風に昔の人はこれを“発表補虚”の薬と考えていたようである。
◇しかし,藤平先生は大青竜湯の表証の存続は疑わしいといわれ,従来いわれた「脳卒中の比較的初期に伴われるべきだ」という説についても,矢数道明先生は必ずしも初期に限定せずに用いてもよいことがあるといわれている。
◇藤平先生はまた,半身不随がなくても奏効するので,脳出血に関係ある各種の場合に応用できるのではないかと示唆している。
◇尾台榕堂は,産後結核の前駆期に使うと述べ,浅田宗伯は婦人の産後中風やリウマチ様疾患で疼痛あるものに応用すると記し,五積散を用いるべき証で熱勢のあはげしいものに使うとも書いている。
◇藤平先生によると,続命湯の証は「卒中後の運動・知覚または言語障害があって,自覚的には項背が凝り,他覚的には,大柴胡湯類似の脈,舌,腹候を呈する場合がある」といわれている。そこで高血圧で上記の症状を呈するもの,脳軟化症,脳出血の前駆期で類似の症状があれば使用できるのではないかとも考える。

〔類方鑑別〕
◎小続命湯…脳卒中後の運動,言語,知覚障害に同じく用いるが,小続命湯は体質がより虚弱で陰証のもの。(これと大青竜湯はエキス剤はないが,鑑別上必要なので列記した)
大青竜湯…喘鳴が強く,発熱もより強く,煩躁が強い。脈は浮緊である。(続命湯は脈浮大)
五積散…身体の疼痛を感じ,発熱がなくて足が冷える。脈は沈である。
大柴胡湯…肩こり,心下痞,胸脇苦満などの先,舌の状態,脈弦数など似ているが,言語,運動知覚障害を伴わないし,その徴候もほとんどない。
〔注意〕 本方は麻黄・石膏が配されているので,体質の点で不適の者もあり得る。できるだけ陽実証の体質に使うことが望ましい。これよりも陰証は小続命湯,虚証は桂枝加朮附湯を与える。

漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は大青竜湯證に似て血虚の證あるものに用いる。即ち表證があって,裏に熱があり,しかも血液が滋潤を失って枯燥の状あるものに用いる。従って脈は浮大にして頭痛,喘鳴,身体拘急,口渇等のあるものを目標とする。本方は大青竜湯の生姜の代りに乾姜を用い,大棗の予りに 当帰,人参,川芎 のような,強壮,補血,滋潤の効ある薬物を加えたものであるから,その応用は大青竜湯に準ずるが,特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ,年月を経たものには用いる機会が少い。また神経浮腫のあるものにも用いる。

日本東洋医学会誌〉 第13号 第2号
藤平 健 先生

……ところで金匱には,本方の指示として,「中風痱,身体を自ら収むること能わず,口言うこと能わず,冒昧にして,痛む所を知らず,或は拘急転側すること能わざるを治す」と示されている。この指示からだけでは,本方が卒中後の運動麻痺,言語障害,知覚麻痺,痙攣性麻痺等に応用され得る事が判断せられるだけで,その応用の時期につ感ては知ることができない。けれども麻黄,桂枝,当帰,人参,石膏,乾姜,甘草,杏仁,川芎の9味からなるその薬方構成からみて,本方が一応大青竜湯の変方と考えられる所から,本方には表証乃至はそれに類似の症状があると考えられ,したがって古来,卒中発作直後の発熱して,半身が不随しているという時期に,主として用いられて来たわけである。
 即ち方輿輗には「この病(中風)は風に非ずといえども,熱盛んにして,脈浮なる者は,先ず之を表に取るも亦可と為すなり。かくの如きときは,続命湯を全く廃れたる方にも非ず。今脈浮ならず,熱盛ならざるに,なお此湯を用うるものあり,果して何の意に出づるぞや」内科秘録には「初発は三黄湯,参連湯,及び蘇合香円,熊胆の類を与え,小続命湯若くは,大続命湯を撰用すべし」
 金匱要略述義には「蓋し続命湯は,表を発し,虚を補う対待の方と為す,実に中風正治の剤たり」
 勿誤薬室方函口訣にな「此方は偏枯の初期に用いて効あり」
 皇漢医学には「本方は脳出血の貧血虚弱にして,表証を帯べるを治するに過ぎざれば,以て中風正治の剤と為すを得ず,丹羽氏の言悉く信ずべからず」
 漢方診療の実際には「その応用は大青竜湯に準ずるが,特に脳溢血からきた半身不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ,年月を経たるものに用いる機会が少ない
 漢方入門講座には「初期の表証又は上衝がある時期には昔から使われているが,麻痺そのものが器質的変化によって起るために,早急には恢復し難い憾みがあり,長期連用する患者が少ないためもあって,著効を奏した経験は私には殆んどない」等の記載があって,大体に於て,本方を用いる時期を表証もしくはそれ類似の症状の出ている時期に限定している。即ち卒中発作後なるべく早い時期に応用すべき薬方であるとする考えが,本方運用上の通念となっているように考えられる。(中略)
 勿論,往時から現代に至る多くの医家によって本方が卒中発作の初発時に用いられて,屢々顕著な効果を挙げ得た事があるのは疑いもない事実なのであるから,初発時という条件が本方の証の構成に一つの役割を演じているらしい事は推測出来る。しかし,だからといって,初発時という条件が絶対的に必要なそれであるか否かという事は既述したような理由からいっても疑いがある。たとえ一歩譲って,卒中の初発時で,表証類似の症候があることが,本方の証構成上の重要な条件の一つであるとしても,ちょうど葛根湯の場合に,表証という条件が,その証の構成に必要不可欠な重要条件であるにも拘らず,雑病の場合にはこれが無くても応用することができる,というのと同じような理由で,初発時という条件を除いても,本方を脳溢血に関係のある各種の場合に応用し得るのではなかろうか。(中略)
 6症例の自他覚症状を検討してみると,「項背が凝る」という症状が6例中6例に共通していて,圧倒的に多い。他覚症状では,脈は弦緊が4例,弦遅及び弦が各1例で,弦脈を呈することは共通している。舌候は,全例に乾燥した厚い又は中等度の白乃至は白黄苔をみている。腹力は,中等度が3例,それよりも充実しているのが3例で,いずれも実証の腹状を呈している。心窩部の抵抗並びに圧痛は,全例に中等度に認められている。
 以上からわかるように本方が奏効したこの6症例は,いずれも大柴胡湯証近似の症状を呈しているのである。(中略)
 以上から本方の証を補足してみると次のようになる。即ち,続命湯の証は,卒中後の運動,知覚,又は言語障害があって,自覚的には項背が凝り,他覚的には大柴胡湯証類似の脈,舌,腹候を呈する場合があると。(後略)

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は偏枯の初起に用て効あり。其他産後中風身体疼痛する者或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者又は後世五積散を用いる症にて熱勢劇者に用ゆべし。

類聚方広義〉 尾台 榕堂三先生
 婦人草蓐ニアリ風ヲ得テ頭痛発熱悪寒,身体痺痛。腹拘急,心下痞鞕,乾嘔微利,咽乾口燥シ,咳嗽訣シキ者ハ,速ニ治セザレバ必ズ蓐労ト為ル此方ニ宜シ。


臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p381 脳溢血・脳軟化症・神経痛・関節炎・喘息
88.続命湯(ぞくめいとう) 〔金匱要略〕
 杏仁 四・〇 麻黄・桂枝・人参・当帰 各三・〇 川芎・乾姜・甘草 各二・〇 石膏 六・〇

応用〕 大青竜湯証に似て、血虚のあるものに用いる。すなわち表証があって、しかも裏に熱があり、血液枯燥の状あ節ものであある。最もしばしば脳溢血による半身不随や言語障害の比較的初期に使われるが、相当列間経過したものに用いてもよい。
  本方は主として脳溢血・脳軟化症・高血圧症に用いられ、神経痛・顔面神経麻痺・関節炎・偏頭痛でよだれの出るもの・喘息・気管支炎・腎炎・ネフローゼ・頸項の凝り・浮腫・眼筋麻痺等にも応用される。


目標〕 本方は金匱の条文と、処方の構成から見ると、大青竜湯証に類似し、しかも血虚の証があり、裏に熱があって、血燥の状を認める。脈は浮大で、頭痛・喘鳴・身体痛・麻痺・身体拘急・口渇等があり、脳溢血または脳軟化症による半身不随や言語障害のある比較的初期に用いるのがねらいである。しかし必ずしも初期のみと限定せずに用いてよいかとがある。
 藤平健氏は、卒中後、運動・知覚また言語障害があって、自覚的には項背が凝り、他覚的には大柴胡湯証類似の脈・舌・腹候を呈する場合を主眼とし、ときに半身不随の有無にかかわらず奏効した諸例をあげている。

方解〕 本方は大青竜湯の生姜のかわりに乾姜を用い、大棗のかわりに当帰、人参、川芎のような強壮・諸血・滋潤の効のある薬物を加えている。

主治
 金匱要略(中風歴節病門)に、「古今録験、続命湯、 中風痱(ヒ)(中風の古名で麻痺)、身体自ラ収ムルコト能ハズ(ひとりで体を動かすことができない)、口言フコト能ワズ、冒昧(ボウマイ)(意識混濁していること)ニシテ、痛ム処ヲ知ラズ、或ハ拘急転側スルコト能ハザルヲ治ス」とあり、
 方後に、「並ビニ但伏シテ臥スルコトヲ得ズ、欬逆上気、面目浮腫スルヲ治ス」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ偏枯(半身不随)ノ初期ニ用テ効アリ。其他、産後中風、身体疼痛スルモノ、或ハ風湿ノ血分ニ渉リテ疼痛止マザルモノ、又後世五積散ヲ用ル症ニシテ熱勢劇シキ者ニ用ユベシ」とある。


鑑別
小青竜湯 70 (咳喘・心下水気、稀薄喀痰)
大青竜湯 94 (喘鳴・表実熱、煩躁、脈浮緊)
五積散 38 (身疼痛・熱なく足冷え、脈沈)
大柴胡湯 92 (心下痞硬・胸脇苦満、実熱、脈弦数)

参考
 本方は従来あまり使われなかった処方であるが、大塚敬節氏(漢方診療三十年)、藤平健氏(日本東洋医学会誌一三巻二号)等が臨床成績を詳報され、新しい応用面を開拓された。

治例
(一) 関節炎
 広尾の幕臣の妻が外邪に感じ、解熱の後に右脚がひきつり、腫れて痛み、歩行することが不可能となった。脈は浮んで頻数である。熱がなくなったのに脈が浮で頻数なのは、邪気が下の方に留注して筋脈の流通ができないためである。即ち金匱続命湯を与えたところ四~五日で治ってしまった。
 余は関節炎や脚の痛み、多発性関節リウマチ等で、越婢湯の証でしかも血虚のあるのは続命湯を用いて治している。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)
(二) 半身不随
 群山候の家臣、年七十余。平素肩や背がひどく凝り、ときどき上【月専】に痛みを訴えている。
 ある日、右の肩がひどく凝るので、按摩をさせていたら、急に言語障害を起こして右半身不随となって終った。四~五日医治を受けたが変化がない。飲食も普通である。右の脈は洪大である。ここで金匱続命湯を与えると、四~五日で言語障害は治り、半身不随も快方に向い、杖を以て歩行することができるようになった。
(浅田宗伯翁、橘窓書影)

(三) 高血圧と気管支喘息
 六二歳の婦人。かねて気管支喘息があり、のどがつまったようで息苦しく、眠れず、心下部がつまったようで苦しいという。血圧は一八〇~九六である。続命湯で呼吸が楽になり、血圧も下降して一五六~九〇となった。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(四) 顔面神経麻痺
 三五歳の男子。平素は頑健であったが、数日前突然左顔面半分がひきつれ、言葉がうまく出なくなった。脈浮大で、他に異状はない。続命湯を服用させたら一二日で平常に復した。
(大塚敬節氏、漢方診療三十年)

(五) 高血圧と項背の凝り
 五二歳の男子。数ヵ月来、頸のうしろや側頭部が凝り、血圧高く、治療をうけたが効かなかった。自覚症はほかに多少のぼせと頭痛があり、他覚症状としては中肉中背で血色がよく、脈は弦で緊、舌は乾いて白黄苔があり、腹力は充実して、心窩部右肋骨弓下に、中等度の抵抗と圧痛を認め、臍の左斜下にも中等度の抵抗と圧痛がある。以上の所見によって、葛根湯大柴胡湯桃核承気湯桂枝茯苓丸三黄瀉心湯等を単方または合方、あるいは兼用で約一ヵ年与えたが、一進一退で手を焼いていた。そこで続命湯に転方してみたところ、わずか一週間で、自由に首がまわって、頸項の凝りがとても軽くなった。触れてみると、首の後ろも横も凝りが全くなくなっていた。続命湯を四ヵ月服用し、血圧も一四五~八五となり廃薬した。
(藤平健氏、日東洋医会誌 一三巻二号)

(六)脳溢血
 六四歳の男子。数年前から血圧が高く、半年前に脳卒中発作を起こし、二ヵ月間入院治療をうけ、よくなり通荷していたところ、四日前から急に左上下肢に運動麻痺をきたした。自覚症は、頭が重く、首の後ろがひどく凝り、首があがらない。のどがかわき、口中がねばり、腹が張り、腰が痛む。体格は強大で、首が太く、赤ら顔である。腹は膨満し、腹力充実、心窩部には中等度の抵抗があり、血圧二一〇~九五。
 続命湯を与えると、三日目からわずかながら自動運動ができるようになり、一〇日目には普通に動動、首もあがるようになり、一ヵ月後にはバスで外出するまでになり知人を驚かせた。
(藤平健氏、日東洋医会誌 一三巻二号)




『漢方臨床ノート 治験篇』 藤平健著 創元社刊
p.18
 脳卒中
  高血圧と続命湯

まえがき
 続命湯は『金匱要略』所載の薬方で、脳卒中発作後の半身不随、言語障害、知覚障害等に用いるように指示されている。私はこの指示をやや広く解釈して、卒中前後の諸状態、すなわち血圧に関係する諸状態にこれを応用してみたところ、ときには見るべき効果を挙げ得る場合もあることを知った。また、この薬方の腹候等についても多少の知見を得たので、ここにこれを報告して、御参考に供するとともに、御批判を仰ぎたいと思う。

症例
 〔第1例〕 62歳男性。初診・昭和35年6月24日。
 昨年10月に卒中発作を起こして倒れた。安静と加療によって、四ヵ月ばかりで症状の大部分はとれたが、左側の手指と同側の下肢から足先にかけてのビリビリするしびれ感が残っており、かつその部分の知覚もやや鈍麻している。それにろれつがわずかにもつれ気味で、早口にしゃべることができない。現在も高血圧専門と称する某医の内服と注射による治療を受けているが、血圧は常態に復しても、上記の後遺症がとれなくて苦しんでいる。
 〔自覚症状〕 既述の症状以外には、多少汗をかきやすいという症状がある程度で、他にはこれという症状を見ない。大便は一日一回、小便は昼五~六回、夜はない。
 〔他覚症状〕 患者は小柄であるが、やや太り気味、短頸、赤ら顔という定型的な卒中体型を呈している。
 脈は弦にして、やや緊。舌は乾燥した厚い黄台で覆われている。
 腹はわずかに膨満の気味で、腹力は充実し、心窩部、右肋骨弓下に中等度の抵抗ならびに圧痛、左肋骨弓下には軽度の抵抗と圧に対する不快感とが認められる。腹直筋は左右ともに緊張を呈しており、臍の下二横指付近には中等度の抵抗と圧痛を証明する。
 血圧は一三四-八五。眼底所見K・W第Ⅱ群。
 〔経過〕 以上の自他覚症状によって、まず防風通聖散去大黄をAとし、桂枝加苓朮附湯(附子0.7)をBとして、これを隔日交互に服用させて様子を見ることにした。
 7月1日。服用後一週間。全く変化がない。そこで瘀血症状を目標に、Aを桂枝茯苓丸料、Bを前方として隔日交互に服用させることにした。
 7月8日。これまた、ほとんど変りがない。今度は心下痞硬、胸脇苦満、弦脈、乾燥した黄色舌苔、腹力実を目標として、Aを大柴胡福z去大黄、Bを前方として、様子を見る。
 9月2日。いくらか良いような気もするというので前方を持続したが、暑さ負けのせいか、最近根気がなくなり、咽も渇くという。腹診により、わずかながら臍下不仁が認められるので、Aを前方とし、Bを八味丸料(附子0.7g)として与えてみた。
 以上のような具合で、症状は良くなるかに見えて、良くならず、一進一退して、途中あるいはさらに黄解丸料を試み、あるいは四逆散料の転方し、さらに再び桂枝茯苓丸料に戻るなどして、四苦八苦したのであるが、一向に改善しない。そればかりか、翌年の3月には血圧が一九〇-一一〇と逆戻りして、再発作の危険すら起きてくるという始末。
 そこで続命湯に知覚障害の指示のあったことを思い出して、これを試みてみることにした。実は、続命湯は発作行pまだ日の浅い者にのみ有効と考えていたので、このように日数を経てしまった患者にはおそらく応ずることはあるまいが、窮余の一策、ものは試し、といった程度の気持で投じてみたのであった。ところが、これが意外に奏効した。
 36年5月12日。二週間分を持続して、服し終えた続命湯が、よく効を奏して、今度はじめて薬がよく効いたのがわかったという。しびれ感が急激に少なくなった。体も軽くなってきた。前方を投与。
 5月26日。手のしびれは完全に消失した。まだ足に少し残っている。
 6月16日。ますます具合がよい。今まで何を投じてもとれなかった舌の厚い黄苔が、ようやくとれて、薄い白苔となった。舌のもつれも感じなくなった。
 37年1月12日。用心のため天方を続服していたが、引き続いて好調なので、これで廃薬することとした。

 〔第2例〕 75歳の婦人。初診・昭和36年11月10日。
 昨年9月9日から、急に物が二重に見えるようになり、近くの眼科医に受診、眼筋麻痺といわれて治療を受けたが、好転しない。以来、諸所の病院や医院を歴訪したが、原因も判らず、良くもならずに、今日に至った。
 〔自覚症状〕 常に頭が重く、立ちくらみしやすい。のぼせは余りないが、動悸はしやすい。首の後ろや肩がよく凝る。朝、口中が苦いことがある。睡眠はあまりよくない。耳鳴、腰脚の冷えなどはない。大便は一日一回。小便は昼七~八回、夜二~三回。血圧一八〇-一〇五。眼底所見K・W第Ⅱ群。
 〔他覚症状〕 患者は顔面やや蒼白で、中肉中背の白髪の老女。
 右眼の外直筋の麻痺を認め、右眼の外方へ運動が妨げられている。脈は弦。舌は乾燥した厚痿白苔で覆われている。
 腹力は中等度よりはやや実しており、心窩部ならびに右肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛を認める。臍上にわずかに腹大動脈の動悸を触れる。臍の左右の斜下二横指付近に軽度の抵抗と圧痛を認める。
 〔経過〕 以上の自他覚症状にしたがって、Aを苓桂朮甘湯、Bを小柴胡湯として、隔日交互に服用することとして、一週間分を投与。
 11月24日。眼筋麻痺は変化しないが、頭重、頭眩は軽減してきた。そこで苓桂朮甘湯のみ一週間分を投与。
 12月1日。めまいはますますとれてきているが、眼筋の麻痺は依然として変化がない。高血圧があることではあるし、もしかすると、この外直筋麻痺は、脳内の小出血または軟化によるものであるかもしれない。とすれば、麻痺が発来してから、すでに一年余の日数を経てはいるが、前例のような事例もあることから、あるいはまた続命湯が応じないとも限らない。この例も、前症例と同様、一度は大柴胡湯を与えてみたいような諸症状を呈している点も甚だ前症例に似ている。そこで続命湯一週間分を投じて、様子やいかにと結果を待った。
 12月8日。驚いたことに、わずか一週間分の服用で、一年以上治療に抵抗した眼筋麻痺が全く消失している。慎重に検査をくりかえしてみても麻痺は全くない。もちろん自覚症状として複眼も完全にとれている。
 患者は今までは患眼を覆っていないと危なくて歩けないので、発病以来ずっと眼帯をしつづけていたのであったが、昨日からは、それをはずして歩いているが、全く何ともないという。
 12月29日。引き続き具合がよいので、三週間分の同方を与えて、これで廃薬することとした。
 ところが、翌年3月下旬、この患者と昨年はいつも連れ立って来ていた患者の話で、2月下旬に本患者が脳出血で倒れ、床に就く身となったことを知った。

 〔第3例〕 52歳の男性。初診・昭和35年5月26日。
 最近数ヵ月来、頸の後ろや側頸部が凝るので、受診したところ、血圧の高いためといわれ、治療を受けているが、症状がとれない。
 〔自覚症状〕 前記の症状のほかに、多少のぼせやすく、ときに頭痛がある。便通は一日一回。小便は昼四~五回。夜一回。
 〔他覚症状〕 患者は中肉中背で血色がよい。
 脈は弦、やや緊。舌には乾燥した中等度の白黄苔がある。
 腹力は中等度よりやや実しており、心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とを認める。臍の左斜下二横指の付近に中等度の抵抗と放散する圧痛がある。血圧は一八〇-一〇〇、K・W第Ⅱ群。
 〔経過〕 以上の自他覚症状にしたがって、葛根湯大柴胡湯桃核承気湯桂枝茯苓丸三黄瀉心湯などを、あるいは単方で、ときには合方または兼用で、投与すること約一年。この間、主訴がようやくとれたとみると、また逆戻りする、という状態をくりかえし、やや手を焼き気味であったが、前述の第Ⅰ症例の奏効ぶりのめざましかったのに刺激されて、この症例にもまた試みに続命湯を応用してみることにした。
 36年5月26日。一週間分の続命湯をのみ終って来院した患者が、初めて晴ればれとした顔で、「先生、効きましたよ。この通り頸(くび)が軽くなりました」と首を廻して見せる。首の後ろも横も全く凝っている感じがなくなったという。
 前方をさらに続服すること四ヵ月、血圧も一四五-八五と落ち着き、症状も引き続きおさまっているので、一応廃薬することにした。

 〔第4例〕 73歳の男性。初診・昭和36年11月30日。
 十数年前から血圧が高く、断続的にではあるが治療を受けていた。二十日前に卒中発作を起こして以来、左半身の不随を来たし、加療を続けているが、変化がない。
 〔自覚症状〕 首の後ろが凝る。口中がねばつき、腹が張る。頭痛、肩こり、のぼせ等はない。二便にも著変はない。
 〔他覚症状〕 患者は体格の大きい、がっちりした、やや赤ら顔の男子。
 脈は弦。舌には乾燥した厚い黄苔がある。
 腹はわずかに膨満気味で、腹力は中等度よりやや実。心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とがある。左上肢は完全な運動麻痺を呈している。血圧は一八五-九五。
 〔経過〕 一見、大柴胡湯の証であるが、続命湯による数例の治験を得て、いささか続命湯づいているので、また同方を投与。五日目から自動的にも、少しずつ動き始め、十日分を服し終るころには、上下肢とも、かなり動くようになった。二十日分を服し終って、物につかまりながら歩行練習ができるようになった。

 〔第5例〕 65歳の男性。初診・昭和36年11月16日。
 数年前から高血圧症に罹患していたが、36年5月に卒中発作を起こし、某国立病院に入院した。かなり良転したので、7月に退院し、通院していた。ところが、四日前の11月12日に、急に左上下肢に運動麻痺を来たして全く動かなくなってしまった。
 〔自覚症状〕 頭が重く、首の後ろがひどく凝り、首が上がらない。咽が渇き、口中がねばり、渇き、苦しい。腹が張り、腰が痛む。足がほてり、耳鳴りがし、嘔気がある。食欲はあまりなく、睡眠もあまりよ決ない。大便は一日一回あるが少ない。小便は昼一〇~一二回、夜三回。
 〔他覚症状〕 患者は体格が大きく、がっちりしていて、頸(くび)が太い。やや赤ら顔。
 脈は弦遅。舌には乾燥した白黄苔が厚い。
 腹はやや膨満しており、腹力は中等度よりはやや実。心窩部は中等度の抵抗と圧痛を示している。胸脇苦満は認められない。臍の左下二横指付近に中等度の抵抗と圧痛とが認められる。
 左下肢は全く麻痺していて、自動運動ができない。血圧は二一〇-一一〇。眼底所見はK・W第Ⅱ群。尿には蛋白・糖ともに陰性。
 〔経過〕 続命湯を投与。一週間分を服し終って来院。体が軽くなり、疲れなくなって、甚だ気持がよいという。血圧は一七〇-九五と下がっている。遠方の人なので、次には五週間分を服し終ってから来院した。ますます具合がよく、旅行をしても、孫のお守りをして、かなり無理をしても、疲れもせず、耳鳴もしなくなった。血圧は一七〇-九五に落ち着いている。

 総括ならびに考案

 続命湯と名づけられる薬方は、『千金方』『外台秘要方』 にも収録されているものを合わせると、約十数種類の多きに達する。かつ、その薬方構成の薬味の種類も延べ二十数味をかぞえ、そのうち九味ないし十四味をもって薬方が構成されている。『金匱』所載の続命湯と『千金』所載の二つの大続命湯のうちの一つとが、同一薬味で構成されているのを除けば、他はすべて若干の相違がある。
 また各薬方の指示も、『金匱』の続命湯と『千金』の西州続命湯と名づけるものが、ほぼ同じであるのを除けば、これまた他はすべて若干の相違がある。
 私が使用した続命湯はすべて『金匱』所載のそれであって、指示もまた『金匱』のそれにしたがった。
 とこで『金匱』には、本方の指示として「中風痱、身体を自ら収むること能わず、口言うこと能わず、冒昧にして、痛む所を知らず、或は拘急転倒すること能わざるを治す」と示されている。
 この指示からだけでは、本方が卒中後の運動麻痺、言語障害、痙攣性麻痺などに応用され得ることが判断さられるだけで、その応用の時期については知ることができない。けれども、麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾姜、甘草、杏仁、川芎の九味から成る薬方構成持ら見て、本方が一応、大青竜湯の変方と考えられるところから、本方には表証ないしは、それに類似の症状があることが考えられ、したがって古来、卒中発作直後の、発熱して、半身が不随しているという時期に、主として用いられてきたわけである。しなわち、
 『方輿輗』(有持桂里)には「この病(中風)は風に非ずといえども、熱盛んにして、脈浮なる者は、先ず之を表に取るも亦可と為すなり。かくの如きは、続命湯も全く廃(すた)れたる方にも非ず。今脈浮ならず、熱盛んならざるに、なお此の湯を用うるものあり、果して何の意に出ずるぞや。」
 『内科秘録』(本間棗軒)には「初発は三黄湯、参連湯、および蘇合、熊胆の類を与え、小続命湯もしくは大続命湯を撰用すべし。」
 『金匱要略述義』(多紀元堅)には「蓋し続命湯は、表を発し虚を補う対待の方と為す、実に中風正治の剤たり。」
 『勿誤薬室方函口訣』(浅田宗伯)には「此の方は偏枯の初期に用いて効あり。」
 『皇漢医学』(湯本求真)には「本方は脳出血の貧血虚弱にして、表証を帯べるを治するに過ぎざれば、以て中風正治の剤と為すを得ず、丹羽氏の言悉く信ずべからず。」
 『漢方診療の実際』(大塚・矢数・清水)には「その応用は大青竜湯に準ずるが、特に脳溢血から来た身半不随や言語障害に用いられる。多くは発病初期に用いられ、年月を経たものに用いる機会が少ない。」
 『漢方入門講座』(竜野一雄)には「初期の表証ある時期には昔から使わらているが、麻痺そのものが器質的変化よって起るために早急には恢復し難い憾みがあり、長期連服する患者が少ないためもあって、著効を奏した経験は私には殆んどない。」
などの記載があって、大体において、本方を用いる時期を表証もしくはそれ類似の症状の出ている時期に限定している。すなわち、卒中発作後なるべく早い時期応用すべき薬方であるとする考えが、本方運用上の通念となっているように考えられる。
 それでは、この通念はどこから来たかといえば、その一つは、前述したような大青竜湯の変方と見る薬方構成上からの判断であり、他の一つは、そのような判断ならびに本方の指示にもとづい仲、これを実地に応用し、実際に効験を見てきた古来からの臨床経験であろう。しかし、これからのみで、この通念が絶対的なものと考えるわけにはいかない。
 考えてみると、本方が大青竜湯の変方であるにしても、同湯の生姜の代りに乾姜が入り、大棗に代って当帰、川芎、人参が入ってきていることになるのであるが、このような大変革が行なわれても、なおかつ大青竜湯の表証という症候群が存続し得るものであろうか。桂枝湯にさらに桂枝の増強された桂枝加桂湯では、表証のある場合もあるが、表証はほとんどなくて、ただ上衝、頭痛の強い場合のみに用いられることのほうが多いし、桂枝湯に芍薬の増強されただけの桂枝加芍薬湯では、表証の残る余地はほとんどない。さらにこれに膠飴の加わった小建中湯に至っては、表証の存続する余地はなくなってしまっている。古方の薬方では、このような小さな変革ですらも、その方意は大きく方向を換えてしまうのである。ましてや続命湯のように、大青竜湯の面影(おもかげ)をわずかにとどめるに過ぎないような大きな変革が行なわれた場合にも、表証がなお存続しているものかどうかには、疑いをさしはさむ余地が多分にある。
 もちろん、往時から現在に至る多くの医家によって、本方が卒中発作の初発時に用いられて、しばしば顕著な効果を挙げ得たことがあるのは、疑いもない事実なのであるから、初発時という条件が、本方の証の構成に一つの役割を演じているらしいことは推測できる。しかし、だからといって、初発時という条件が絶対的に必要なそれであるか否かということは、既述したような理由からいっても疑いがある。たとい一歩ゆずって、卒中の初発時で表証類似の症候があることが、本方構成上の重要な条件の一つでもあるとしても、ちょうど葛根湯の場合に、表証という条件がその証の構成に不可欠な重要条件であるにもかかわらず、雑病の場合には、これがなくても応用することができる、というのと同じような理由で、初発時という条件を除いても、本方を脳溢血に関係のある各種の場合に応用し得るのではなかろうか。
 症例の少な過ぎる憾みはあるが、既述した第1~6例の治験は、このような推測を裏書きするのに多少は役立つものと考えられると思うのであるが、いかがなものであろうか。
 さて既述の六症例について、その自他覚症状を検討してみると、本方証として原典の条件に挙げられている症状以外にも、いくつかの共通している症状が見出される。
 すなわち自覚症状のうちでは「項背が凝る」というのが六例全部に共通していて圧倒的に多い。
 他覚症状では、脈の弦緊が四例、弦遅および弦が各一例で、弦脈を呈することが共通している。
 舌候は、全例に乾燥した厚い、または中等度の白ないし白黄苔を見ている。
 腹力は、中等度が三例、それよりも充実しているのが三例で、いずれも実証の腹状を呈している。
 心窩部の抵抗ならびに圧痛は、全例に中等度に認められている。
 胸脇苦満が認められないのは、六例中一例のみである。
 以上からもわかるように、本方が奏効した六症例は、いずれも大柴胡湯近似の症状を呈しているのである。しかも第1例ならびに第3例では、実際に大柴胡湯を長く応用してみて、はかばかしくいかず、本方に転方するに及んで急に好転している。他の四症例も、もし本方を応用しはじめる以前であったならば、いずれも一応は大柴胡湯を第一または第二候補として用いたに違いないのである。
 本方中に石膏が配剤されていて、渇のあることが考えられるが、実際には渇のはっきり出ているのは第5例の一個のみで、第6例にも、ときには咽が渇く程度の状態はあるが、大体において渇症状の存在は顕著ではないようである。
 また本方中には乾姜、当帰、川芎、人参というような温剤、治血虚剤、滋潤の剤が含まれているのではあるが、ほぼ全例に瘀血の存在が認められる以外には、少なくとも表面的には、これらの薬味から推測されるような症状は、あまりはっきりは出ていない。
 六症例中、第1,第2、第4、第5の四例には、運動麻痺、知覚異常等の条文明示の症候が存在するのではあるが、第3と第6の二例にはそれらを認めていない。この二例は、高血圧があって、大柴胡湯証類似の症候を呈し、かつ項背が凝る、ということのみを目標として本方を応用したのである。それも従来ならば、当然まず大柴胡湯を投じたであろうところを、本方による数例の治験があったあとであるために、第5例では、いきなり本方を投与することになったわけである。
 なお、本方を卒中発作後五日目の、脈・腹ともに力のない虚証の患者に投じて、二十日間様子を観察した第1例では、全く全化を見ることはできなかった。
 以上から、本方の証を補足してみると、次のようになる。すなわち続命湯の証は、卒中後の運動、知覚、または言語障害があって、自覚的に項背が凝り、他覚的には大柴胡湯証類似の脈・舌・腹候を呈する場合があると。

むすび

 少数例の治験をもとに、このような証の補足というような大それたことを言い出すことの危なさは、私もよく知っている。ただ本方が頻用される薬方でないために、条文記載以外の証についての記録があまりない。したがって、これを応用するに際して、拠り所が少なくて頼りない。たまたま私が遭遇し、本方を投じて奏効した例が以上のようであったために、一応拠り所と思われるものを補足してみたまでである。多数の人によって、より多数の経験が重ねられ、報告されるならば、あるいはもっと違ったものになってくるかもしれない。大方の御経験と御教示を待つ次第である。
(「日本東洋医学会誌」13巻2号、昭和37年9月)

※黄台? → 黄苔

p.30
脳卒中の治験例

 〔第1例〕 83歳の老婦人。初診・昭和58年4月21日。
 この患者は、老人性白内障で、以前から八味丸を投与していた人であるが、58年の4月21日、お嫁さんに連れられてフラリフラリと診察室に入ってきた。軽い脳卒中の発作を起こしたらしく、昨日の昼から、ろれつがおかしいという。なんとか話すことはできるが、ラリルレロ、パピプペポはほとんど言えない。右の手足に軽い運動麻痺があり、歩き方も、よったりよったりしている。
 そのほかこれという自覚症状はなく、他覚的には、脈は沈、緊。舌には乾燥した白苔が中等度に見られ、腹力は中等度よりわずかに実している。心下痞硬が中等度にある以外、腹部所見は特になし。
 そこで、三黄瀉心湯を朝一回振り出しで飲み(一回分は、大黄1g、黄連、黄芩、各2g)、続命湯エキス8gを二回に分けて昼と夜に服用するよう指示した。
 経過は非常に順調で、患者は日を追って回復に向かい、約二十日後の5月9日に来院したときには、ろれつも歩行もほとんど正常に近くなっていた。引き続き前方を投与。6月初旬には一人で外出できるまでに回復した。このころ偶然、道を歩いている患者に出会ったが、歩行は完全に正常化していた。
 その後 この患者は、非常に元気で、健常者と変らない生活をしていたが、患者の希望によって、念のため薬の服用を続け、61年4月に全治廃薬した。
 この症例に見るように脳半中の発作が軽い場合には、早い時期に漢方治療を行なうと予後が非常に良いことが多い。しかし、言語障害や運動麻痺が重い場合には、いうまでもなく、現代医学的な処置と平行して、漢方治療を行なうべきであろう。


※脳半中? → 脳卒中

 〔第2例〕 75歳の女子。
 昭和54年2月8日より、高血圧症、白内障、腰痛および外痔核の治療で通院していた患者である。腹がビール樽状に膨満した肥満女性。血圧は最小血圧が少し高い程度で、他に目立った自覚症状が見られないため、七物降下湯乙字湯のエキス剤の合方(各3g)を一日二回、そして八味丸(3g)を夕方に一回、という処方を、ここ四年来継続中であった。
 昭和58年8月22日、たまたま来院中、待合室で突然右半身にしびれと運動麻痺を起こして倒れてしまった。意識はハッキリとしていて、言語障害はないのだが、右の手足が完全に麻痺し、体を動かすことができない。居合わせた患者さんの報(し)らせで、急ぎ診察室に運じ込み、診察する。
 血圧は一八〇-一二二。脈は弦、緊。腹力は中等度。腹部は膨満しているほか、心窩部がかなり強く張り、右側の胸脇苦満も強く認められる。
 脳出血か脳梗塞か、いずれにしても脳血管障害の軽い発作と判断し、とりあえず六神丸を五粒服用させ、救急車で専門病院に送ることにする。一方、かけつけた患者の息子に、続命湯エキス8gと三黄瀉心湯の振り出し(黄連、黄芩、各2g、大黄1g)を一週間分渡して、病院で服用させるよう指示。
 8月30日、薬を取りにきた息子の話では、経過良好で、今日退院できた、という。前方を続けることとする。
 10月25日。患者本人が一人で来院。麻痺は完全になくなり、立居振舞は旧に復する。血圧一五四-九〇で安定している打:同方継続投与。
 12月16日、来院したときの様子では、以前より元気になり、体が軽くなったようだ、という。高血圧はむろんのこと、痔や腰痛などの症状にも好ましい好果があらわれているように判断されたため、同方をいましばらく継続することとする。
(未発表のカルテより、昭和58年12月)


漢方処方応用の実際』 山田光胤著 南山堂刊
154.続命湯(ぞくめいとう)大続命湯(だいぞくめいとう)(金匱)
 杏仁4.0 麻黄,桂枝,人参,当帰各3.0 川芎,乾姜,甘草各2.0,石膏6.0

目標〕 身体が麻痺して思うような体位がとれず,言語障害があって言葉がうまくしゃべれないもの,身体が痛んだりひきつれたりするが,知覚障害があるので痛む場所がよくわからないもの,あるいは 咳嗽や喘咳があって,のぼせて,頭が痛んだり,顔面に浮腫を生ずるもの などである.
 脈は浮大で,口渇のあることが多い.


説明〕 本方は金匱要略の 中風歴節病編 の処方で,大青竜湯の生姜を乾姜に代え,大棗の代りに人参,当帰,川芎を入れたものである.したがって 主剤は麻黄であって,本来 喘咳,咳嗽,浮腫 などが正面の目標になる。梧竹楼方函口訣では,「中風(脳卒中)初起熱強きに用ゆ」といい,小続命湯を「元気虚弱の人の中風初期に用ゆ」といって区別している.
 
応用〕 脳溢血,脳軟化症,気管支喘息,気管支炎 など. 
  〔鑑別〕 小続命湯,虚証の場合. 
 
症例〕 55歳の男子,建築業,初診 40・11・17. 1ヵ月前脳溢血で倒れ,右半身が麻痺した。麻痺はやや回復したが,右手先がしびれ,右下肢の動きがわるくて歩行に難渋する.両膝の力が脱け,右足の関節は曲らない.
 手が冷え,夜睡眠中2~4回排尿におきるという.
 中肉中背で,労働できたえた筋肉の硬い人である.顔色はわるく,歩行が困難で,奥さんに支えられれてようやく歩いて来た.
 脈はやや弦で遅.血圧144~94(降圧剤服用中と),上下肢の反射が亢進し,足搐搦が著明,腹部は全体に軟らかく,両腹直筋が拘攣し,左腹直筋の上部はことに緊張している.また 臍の左傍に腹動が中等度にみられる.なお 腰背部の志室の部分に圧痛がある.
 そこで腹部の動悸と夜間尿を目標に八味丸料を用いた.2週間ばかり後に,夜間尿が2回ぐらいに減り,階段を上がるとき足が軽くなったという.しかし 手先のしびれは変わらず,足が,左の良い方も冷えるという.これが,3週間後には,手のしびれが殆んど治ったといい,歩行も非常に楽になった.
 ところが,6週間後,自転車へ乗ったところ転倒して右腕を打撲し,そのまま晩から舌がもつれて言葉が一層不明瞭になったという.このとき,それまで 130~50 ないし 140~70 程度だった血圧が,150~80 になっていた.そこで,左腹直筋上部の抵抗を胸脇苦満かと考えて,大柴胡湯去大黄に変えてみた.ところが,1週間後に気分がわるく来れないといって,奥さんが薬をとりに来た.驚いてまた続命湯に転方し,安静とマッサージをすすめた.これで再び病気は快方に集かい,3週間後に患者が1人で来院するようになった.


和漢薬方意辞典 中村謙介著 緑書房
続命湯(ぞくめいとう) [金匱要略]

【方意】 虚証による精神神経症状としての運動知覚麻痺・項背強等のあるもの。しばしば気の上衝によるのぼせ等と、水毒による喘咳等と、血虚を伴う。
《少陽病から太陰病.虚実中間》

【自他覚症状の病態分類】

虚証による
精神神経症状
気の上衝 水毒

血虚
主証 ◎運動知覚麻痺







客証 ○項背強
 筋緊張亢進
 筋肉痛 身体痛
 知覚過敏
 言語障害
 練識混濁


○のぼせ
 頭痛

○喘咳
 浮腫
 口渇
 無汗
○血貧


【脈候】 浮大・浮数・洪大・弦やや緊・時に浮弱。

【舌候】 乾燥した白苔・黄苔。時に薄い墨色を呈することもある。 

【腹候】 腹力中等度。時に軟弱の場合もある。しばしば心下痞硬・胸脇苦満を伴い、大柴胡湯の腹候に類似することがある。

【病位・虚実】 精神神経症状は陰陽共に存在する。気の上衝の強い場合には発揚性で陽証、水毒の強い場合には沈滞下行性で陰証に傾き、これより少陽病より太陰病にわたって用いられる。虚実中間に幅広く応用できる。

【構成生薬】 石膏6.0 杏仁4.0 麻黄3.0 桂枝3.0 当帰3.0 人参3.0 乾姜2.0 甘草2.0 川芎2.0 
【方解】 当帰・川芎は温性の駆瘀血薬で血行を改善促進する。桂枝は気の上衝を主り、他方その温性により当帰・川芎の作用を助ける。人参は滋養・強壮作用がある。乾姜は大熱薬で機能亢進作用があり、乾姜・人参の組合せは全身の新陳代謝をたかめる。以上五味の働きにより虚証による全身の気の循環不全を改善し、麻痺・疼痛に対応する。麻黄の興奮作用もこれに協力する。石膏は本来強い清熱作用があるが、少量の場合には鎮静作用が主となり、知覚過敏・筋緊張亢進等に有効である。杏仁には鎮咳・去痰作用があり、麻黄と共に水毒による喘咳・浮腫を去る。

【方意の幅および応用】
 A1虚証による精神神経症状:運動知覚麻痺等を目標にする場合。
   脳出血による片麻痺、言語障害、顔面神経麻痺、眼筋麻痺、末梢神経麻痺
  2 虚証による精神神経症状:疼痛を目標にする場合。
   肩凝り、神経痛、関節炎

 B 気の上衝:のぼせ・頭痛を目標にする場合。
   高血圧、慢性頭痛
 C 水毒:喘咳・浮腫等を目標にする場合。
   気管支喘息、気管支炎、腎炎、ネフローゼ症候群


【参考】 *中風(脳卒中)、痱(手足の麻痺)、身体自ら收む能わず、口言う能わず、冒昧、痛処を知らず、或は拘急して転側するを得ざるを治す。并せて、但だ伏し臥するを得ず、欬逆上気、面目浮腫するを治す。
『金匱要略』
*此の方は偏枯(片麻痺)の初起に用いて効あり。其の他、産後中風、身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざる者、又は後世、五積散を用うる症にて熱勢劇しき者に用うべし。
*本方は大青竜湯の去加方とみなすことができるが、方意は全く別である。本方意の病態は水毒を伴う血流低下であって、その根元は気滞による体力の駆動不全によると考えられる。脳卒中の言語障害にも用いるが、本方は虚実中間に良く、より虚証には解語(げご)湯が良いとされる。
*『千金方』の小続命湯は本方より当帰・石膏・乾姜を去り、附子・防風・芍薬・防已・黄芩を加えたものである。『金匱』の続命湯である本方は陽証に用い、小続命湯は陰証に用いる。また本方より人参を去り黄芩を加えたものを西州続命湯といい、上気強く顔面浮腫するものに良いとされる。

【症例】 脳卒中後の左半身麻痺
 73歳の男性。10数年前から血圧が高く、断続的にではあるが治療を受けていた。20日前に卒中発作を起こして以来、左半身の不随を来たし、加療を続けているが、変化がない。
 首の後ろが凝る。口中が粘つき、腹が張る。頭痛、肩凝り、のぼせ等はない。大便にも小便にも著変はない。患者は体格の大きい、がっちりした、やや赤ら顔の男子。
 脈は弦。舌には乾燥した厚い黄苔がある。腹はわずかに膨満の気味で、腹力は中等度よりやや実。心窩部、HK肋骨弓下に中等度の抵抗と圧痛とがある。左上肢は完全な運動麻痺を呈している。血圧は185/95。
 一見して大柴胡湯の証であるが、続命湯による数例の治験を得ているので、また同方を投与。5日目から自動的に少しずつ動き始め、10日分を服し終わるころには上下肢ともかなり動くようになった。20日分を服し終わって、物につかまりながら歩行訓練ができるようになった。
藤平健『漢方臨床ノート・治験篇』23

脳出血
 55歳の婦人。
 かねて高血圧があったが、約4ヵ月前に脳出血におそわれた。初診時に口がゆがみ、よだれが垂れる。言語もはっきりしない。左半身に軽い不随があり、左腕が痛み、力がない。左脚も力が弱い。血圧162/100。大便1日1行、夜2行の尿がある。腹に力はあるが、どこにも圧痛はない。
 続命湯を与える。服薬4週間、よだれが流れなくなり、言葉がもつれない。8週間後には手足に力がつき、元気が出た。ただ左腕の痛みが残る。10ヵ月でやっと腕の痛みが去る。1年して麻痺がほとんどなくなった。
『大塚敬節著作集』 第四巻 196

 

『金匱要略解説(19)』 同仁堂診療所所長 稲木 一元

中風歴節病③-礬石湯・続命湯・三黄湯・朮附湯・八味丸越婢加朮湯

p.47
■続命湯(古今録験)
 次の続命湯(ゾクメイトウ)から先は、別の版本には、附方としてあります。すなわち宋の時代に林億(りんおく)らが『金匱要略』を編集した時に、たぶん張仲景(ちょうちゅうけい)の方に違いないと考えた処方を、他の本から持ってきてつけ足した部分です。最初の『古今録験(ここんろくけん)』続命湯は『外台秘要方(げだいひようほう)』からとったものです。
 「『古今録験』の続命湯は、中風、痱(ひ)にて身体自ら収むることあたわず、口言うあたわず、冒昧(ぼうまい)にして痛む処を知らず、あるいは拘急して転側することを得ざるを治す」。
 この後の細字割注の部分に、「姚(よう)云う、大続命と同じ、兼ねて婦人産後去血のもの、及び老人小児を治す」とあります。
 「麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)(各三両)、芎窮(キュウキュウ)、杏仁(キョウニン)(四十枚)。
 右九味、水一斗をもって、煮て四升を取り、一升を温服す。まさに小(すこ)しく汗すべし。薄く背を覆い、几に憑(よ)りて坐す。汗出ずればすなわち愈ゆ。汗せざれば更に服す。禁ずる所無し。風に当たることなかれ、并びにただ伏して臥すことを得ず、咳逆上気、面目浮腫するを治す」。
 『古今録験』というのは医学書の名前と思われます。『外台秘要方』の中に続命湯という処方が、『古今録験』という本からの引用と感う形で記載されているということです。「中風」は『傷寒論(しょうかんろん)」の中の中風とは違って、ここでは脳卒中という意味です。「痱」というのは中風の古い名前とされています。「拘急」は、筋肉がひきつれて突っ張った状態です。強直性の麻痺のことをいうのかと思いますが、あるいは痙攣性の収縮、間代性の痙攣のようなものをいうとも受けとれます。私としては、強直性の麻痺と解釈する方が妥当のように考えられます。
 全体の意味としては、続命湯は半身不随や麻痺で、自分で自分の体を思い通りに動かすことができない、言おうと思っても思い通りに話せない、意識がはっきりとせず、痛みの場所もよくわからない、あるいは手足がひきつれて突っ張ったような状態で、寝返りもできないものに用いるということと思います。要するに脳卒中の症状である運動麻痺とか知覚麻痺、あるいは言語障害といったものに続命湯を用いるといっているわけです。
 次の細注には姚という人が、この処方は大続命湯(ダイゾクメイトウ)と同じもので、婦人の産後で出血の多かったものや、老人や小児に使う場合があるといっています。この姚について、江戸時代の宇津木昆台(うつきこんだい)は『古訓医伝(こくんいでん)』で、「梁」の姚僧垣(ようそうえん)なり。字(あざな)は衛法(えいほう)、呉興武庸の人なり。『古今医統(ここんいとう)』に出でたり」(漢方医学書集成26巻410頁)といって、『古今医統』という本にこの人のことが書いてあると述べています。
 産後の出血過多に続命湯を用いる場合があるというのですが、これはともかくとして、若干似た記載が、幕末の浅田宗伯(あさだそうはく)の『勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)』にあります。それには「産後中風、身体疼痛するものに用いる」という説を述べており、ご参考までにご紹介いたします。
 構成生薬の中で、芎藭というのがありますが、これは現在の川芎(センキュウ)のことです。
 その後の服用法の部分の意味は、九種類の生薬を煎じて、温かいものを服用したあとで、何か薄い着物を背中に掛けて、机のようなものに寄りかかって座っていなさい。汗が出れば治るし、汗が出なければさらに服用する。食べ物は何を食べてもよいが、風に当たってはいけない。また、ただ腹ばいになることはできても、仰向けになって寝ることはできないで、咳込んで苦しく、顔がむくんだような状態のものに使ってもよいということのようです。
 ここで大事なのは最後の部分だと思います。これによりまして、続命湯を気管支端息や気管支炎に応用できる場合があるとされています。続命湯の内容には麻黄湯(マオウトウ)や麻杏甘石湯(マキョウカンセキトウ)が含まれ、また大青竜湯(ダイセイリュウトウ)にも近い内容と思われますので、こうした使用法も納得できるわけです。昔は脳卒中で気管支肺炎などを起こして状態に使用されたようです。
 続命湯の実際の使用法につきましては、残念ながらエキス製剤がありませんが、大塚敬節先生の『漢方治療の実際』によりますと、いわゆる比較的実証で、脳卒中後遺症によるいろいろな運動麻痺、知覚障害などのある人に使われたようです。そのほか顔面神経麻痺やある種の気管支炎、気管支喘息、また神経痛とか関節炎、浮腫などに用いてよいとも書かれています。現代でも一定の利用価値がある処方と思います。


『勿誤薬室方函口訣解説(78)』
日本東洋医学会評議員 藤平 健
p92
続命湯

次は続命湯(ゾクメイトウ)です。『金匱要略』に収載されています。
 「麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)、川芎(センキュウ)、杏仁(キョウニン)、右九味。人参を去り黄芩(オウゴン)を加え西州続命湯(セイシュウゾクメイトウ)と名づく。風湿腰脚攣急、痺疼を治す。
 此の方は偏古(へんこ)の初起に用いて効あり。その他産後中風身体疼痛する者、或は風湿の血分に渉りて疼痛止まざるもの、又は後世五積散(ゴシャクサン)を用うる症にて熱勢劇しきものに用うべし」とあります。
 「続命湯より人参を去り黄芩を加えて西州続命湯と名づけ、熱が出て、あちこち痛む、熱と水邪とが絡み合って関節その他腰、足がひきつって痛む、あるいはしびれて痛むというものを治す」というわけです。
 『金匱要略』の続命湯の条文としては「中風痱、身体自ら収むること能わず、口言うこと能わず、冒昧して、痛処を知らず。或は拘急して転側することを得ざるを治す」とあります。痱は、しびれて知覚がなくなることで、中風痱というと、それに運動麻痺も加わります。「体を自分で動かすことができず、言葉もいえず、頭がボケたようになって痛むところもわからず、あるいはひきつれがあって、寝返りをうつこともできない、というものを治する」ということです。
 また「並びに但だ伏して臥することを得ず。欬逆上気し、面目浮腫するを治す」ともあります。喘息様の状態も治するということです。
 「此の方は偏枯の初起に用いて効あり」とありますが、偏枯とは半身不随のことです。「その他産後の中風で体が痛むもの、あるいは熱邪と水邪が体の中でからみあって疼痛が止まないものを治す」ということです。そして、「五積散を用うる症で熱勢の劇しいものに用いてもよい」とあります。五積散は、上半身(臍から上)がほてって、下身半は冷え、そし関節が痛んだり、胃腸の具合が悪いというのが適応の目安です。
 実際にどんな時に続命湯の効果があるのかというと、脳血栓、脳出血など、中枢の異常で半身が不随になった場合に、「初起に用いて効あり」とありますように、早い時期に用いますと確かに効があります。しかき半年以上も経っていても、時に大変に効果があることもあります。昭和四十九年に脳出血を発病し、七年後の五十六年に私のところに診察に来院した人では、奥さんに支えられて足を引きずりながら来ましたが、今は、ほとんどよくなり、普通より少しまずいかな、と思うくらいに歩いております。ですから七年たっていてもこの例のようによくなる場合もあります。しかしできれば半年係内にこれを用いるとよいと思います。
 用い方は、薬方から見ますと、割合に虚した人に用いられると考えられますが、いろいろ用いてみて、この薬方の証は決してそんなには虚していないと思います。
 今から二十年くらい前に、この薬方で非常に効を得た経験がありました。それは、脳出血を起こしてから二年ほど経っていた五十五、六歳の体のがっちりした人でした。診察をすると脈もしっかりしており、腹力もあり、まさに陽実証の状態です。胸脇苦満は強く、心下痞硬も強いので、大柴胡湯(ダイサイコトウ)を出しました。二ヵ月ほど様子を見ましたが少しもよくなりません。それでもしやと思って続命湯に変方しましたところが、今度は大変に効きました。一ヵ月半か二ヵ月飲んだところでかなり働きがよくなってきて、当人も張り時りまして、十二畳の部屋の囲りに竹の棒をはりめぐらして、それを伝わって歩くというリハビリテーションを自分で始めました。ずっと以前の症例で、はっきり覚えておりませんが、約七、八ヵ月でほぼ正常の状態に戻ったと思います。
 これにヒントを得て、続命湯というのは相当使える薬方であるし、また相当実証の場合にこそよく効くのではないかと思うようになったのです。以後一見大柴胡湯証に見えるような人の半身不随を目標として使っておりますが、むろん効かない例もありますが、かなりよい例があります。これを日本東洋医学会の総会で、例をまとめて報告したことがありますが、相当実証度の強い人にも使える薬方であると考えてよいと思います。
 「伏して臥するを得ず、欬逆上気し、面目浮腫するを治す」というのは、まさに喘息などのひどい時の状態で、とくに実証度の強い人は顔を真赤にして顔にむくみのくることがあります。ですから喘息に使ってよいという人もおりますが、私は喘息に使ったことはありません。しかし相当に効果があるのではないかと思います。


『類聚方広義解説(87)』
日本東洋医学会副会長 寺師 睦宗

 第八の続命湯(ゾクメイトウ)について述べます。まず処方の内容です。「麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾姜、甘草各三両、杏仁(キョウニン)四十枚、芎藭(キュウキュウ)(川芎)一両五銭。右九味、水一斗を以て煮て四升を取り、一升を温服す。当(まさ)に小しく汗すべし。薄く背を覆い、几(き)(机)によりて坐し、汗出づれば則ち愈ゆ。汗出でざればさらに服す。禁ずるところ無し。風に当たるなかれ。並びにただ伏して臥するを得ず。欬逆上気(がいぎゃくじょうき)、面目浮腫するものを治す」とあります。
 次に本文です。「古今録験の続命湯は中風、痱にて、身体自ら収めること能わず、口言うこと能わず。冒昧(ぼうまい)にして痛むところを知らず。あるいは拘急して転側するを得ざるを治す」とあります。
 この条文は『金匱要略』の中風・歴節病篇の付方として出ております。『古今録験』の続命湯は半身不随で、運動麻痺し、自分で自分の身体が思うようにならず、言語障害があり、意識障害のために痛むところがどこであるか指摘することができない。あるいは筋肉がひきつれて回転したり寝返りすることができないものを主治するということです。
 尾台榕堂先生の頭註は「婦人草蓐(そうじょく)に在りて風を得、頭痛、発熱悪寒し、身体痺痛し腹拡急し、心下痞鞕し、乾嘔微利し、咽乾口燥しし、咳嗽の甚だしき者は速に治せざれば必ず蓐労(じょくろう)となる。この方に宜し」とあります。婦人が産蓐にある時に飲ませたらよいということでしょう。
 この方は脳出血、脳軟化等による半身不随、言語障害などに用いられ、また顔面神経麻痺にも効があります。また本方は気管支炎、気管支喘息、神経痛、関節炎、むくみなどにも用いられます。
 

『類聚方広義解説(106)』
日本東洋医学会理事 石川 友章

続命湯・烏梅丸・大黄蟅虫丸

 本日は、テキスト173頁の続命湯(ゾクメイトウ)から最後の大黄蟅虫丸(ダイオウシャチウガン)までの三処方を解説します。

■続命湯
  續命湯 麻黃桂枝當歸人參石膏乾薑甘草各三兩杏仁四十枚各三分五釐芎藭一兩五錢二分五釐
  右九味以水一斗。煮取四升。溫服一升。以水一合五勺。煮取六勺。
  當小汗。薄覆脊。憑几坐。汗出則愈。不汗。更服。無所禁。勿當風。幷治但伏不得臥。欬逆上氣。面目浮腫。
  中風痱 身體不能自收。口不能言。冒昧不知痛處。或拘急不得轉側。

 「続命湯。麻黄(マオウ)、桂枝(ケイシ)、当帰(トウキ)、人参(ニンジン)、石膏(セッコウ)、乾姜(カンキョウ)、甘草(カンゾウ)各三両、杏仁(キョウニン)四十枚(各三分五厘)、芎藭(キュウキュウ)(川芎(センキュウ))一両五銭(二分五厘)。
 右九味、水一斗をもって、煮て四升を取り、一升を温服す(水一合五勺をもって、煮て六勺を取る)。まさに少(すこ)しく汗すべし。薄き背を覆い、几(机)に憑(よ)りて坐し、汗出づればすなわち愈ゆ。汗出でざれば、さらに服す。禁ずる所なし。風に当たるなかれ。并びにただ伏して臥することを得ず。欬逆上気、面目浮腫するを治す」。
 小文字は尾台榕堂(おだいようどう)先生の分量を示しています。
 本文では、「中風痱にて、身体おのずから収めること能わず、口言うこと能わず、冒昧にして痛むところを知らず。あるいは拘急して転側しず」とあり、主治を示しています。
この条文は『金匱要略(きんきようりゃく)』中風歴節病脈証並治第五の附方にあります。
 概要としては、『古今録験(ここんろくけん)』の続命湯は、半身不随で運動麻痺にて、身体を自分自身で思うように動かせず、言語障害で喋ることもできず、意識が朦朧として、痛むところがどこかわからない(外台(げだい)には、「冒昧」の下に不識人の三文字があります)。あるいは筋肉がひきつれて寝返りも打てないものを治すとあります。姚(よう)という人がいうには、これは大続命湯(ダイゾクメイトウ)と同じで、婦人の産後で出血の多かったものや、老人、小児を治すとあります。このことから大塚敬節先生は、小児麻痺にもこの方が有効かもしれないと、『金匱要略講話』に書かれています。
 尾台榕堂先生の頭註では「婦人が、草褥(産褥)に在って風を得、頭痛、発熱、悪寒し、身体痺痛し、腹拘急し、心下痞鞕し、乾嘔、微利し、咽乾、口燥し、咳嗽の甚だしきものは、速やかに治せざれば、必ず蓐労(産後の肺結核)となる、この方が宜し」とあります。

■続命湯の加減方
 山場椿庭(やまだちんてい)の『傷寒類方弁書集(しょうかんるいほうべんしょ)』に、「青竜(セイリュウ)、白虎(ビャッコ)、竹葉(チクヨウ)の石膏を弁ず」という表題の中に『金匱』の小青竜湯加石膏(ショウセイリュウトウカセッコウ)と、厚朴麻黄湯(コウボクマオウトウ)および続命湯は、ともにわずかの異同あれども、皆青竜の流派となすなり」とあります。
 続命湯は、大青竜湯(ダイセイリュウトウ)に当帰、人参、川芎を加えて、生姜を乾姜に代えたものです。続命湯には、『金匱』の附方『古今録験』の続命湯、『千金(せんきん)』の小続命湯(ショウゾクメイトウ)、これには附子(ブシ:があり、大続命湯には石膏があります。また西州(せいしゅう)続命湯、排風(はいふう)続命湯などがあり、さらに加減方を加えると相当な数にのぼります。
 『医療手引草(いりょうてびきぐさ)』では百二十方加減と題して、この方の使い方を示しています。「精神恍惚には茯神(ブクシン)、遠志(オンジ)を加え、骨節痛には附子を去り、芍薬を倍量する。心煩して驚き動悸するものには犀角(サイカク)、羚羊角(レイヨウカク)を加える。また腰痛には、桃仁(トウニン)、杜仲(トチュウ)を加える」などとあり、続いて「加減続命湯をもって宜し。証に随ってこれを治せ」とあります。「中風汗なく、悪寒するものは麻黄続命湯(マオウゾクメイトウ)これを主る。中風汗あり、悪寒するものは桂枝続命湯(ケイシゾクメイトウ)これを主る」のごとく続き、附子続命湯(ブシゾクメイトウ)、羗活連翹続命湯(キョウカツレンギョウゾクメイトウ)などがあげられています。『千金方(せんきんほう)』の続命湯は三方ありますが、本方を指すものは「金匱要略』の『古今録験』続命湯であろうと述べられています。数ある続命湯には、すべて麻黄が含まれているのが特徴です。

■続命湯の治験例

 そこで、大塚敬節先生の治験からご紹介します。
 瞼の痙攣に続命湯を使用した例。明治四二年生まれの婦人。この患者は数年前に左上瞼が垂れ下がった目を開くことができず、指で開けようとすると痙攣を起こすので、抑肝散加芍薬厚朴(ヨクカンサンカシャクヤクコウボク)を与えて治したことがある。ところが四ヵ月前に風邪をひき、それを繰り返して、汗が止まらない、喉がゼイゼイいう、痰が絡まる、それに治っていた瞼がまた、軽症ではあるが痙攣を起こすようになった。続命湯を与えるのは、咳と痙攣を一緒に治すのが狙いであるが、果たして予想したとおり咳も止まり、瞼の痙攣もよくなった。
 次の症例は、脳出血に続命湯を使用したものです。患者は明治四三年九月三日に生まれた婦人。初診時には、口がゆるみ、涎が垂れ、言語もはっきりしない。左半身に病い不随があり、左腕が痛み、力がない。左脚も力が弱い。血圧は最高162/100。大便一日一行、夜二行の尿がある。腹に力はあるが、どこにも圧痛はない。続命湯を与える。
 服薬四週間で涎が流れなくなり、言葉がもつれない。八週間後には手足に力がつき、元気が出た。たた左腕の痛みが残る。今年の三月になって、やっと腕の痛みが去る。五月になって麻痺はほとんどなくなった。その間の血圧は次のとおりである。150/94、148/98、146/96、144/92、132/84、156/90、138/90、152/92、150/92と安定しています。
 次に半身不随、失語症に続命湯を用いた例です。大正元年生まれの僧侶。初診は昭和四五年一〇月三〇日。三年前に右下肢の麻痺が起こり、少し軽快したところ仲;、今年三月に右手に麻痺が起こり、七月下旬より言語障害が起こり、失語症に近い状態となった。医師は脳塞栓と診断して治療しているが、よくならないという。
 脈は浮大で、舌に苔はない。大便一日一行、夜間一行排尿がある。血圧130/80。腹診するに左右に胸脇苦満があり、臍下に正中芯がある。続命湯を与える。四週間の服用で言語がはっきりしてきたばかりでなく、麻痺も軽快してきたが、続服中である。
 次に蓄膿症に続命湯を用いた例です。患者は昭和三三年生まれの女子。初診は昭和四六年五月三〇日、今年三月一二日に眼底出血を起こした。その時血圧は180あり、医師から慢性腎炎で腎機能は60%と診断された。それに蓄膿症があるから手術をするように勧められたという。尿中蛋白(+)、血圧128/82、大便一日一行、月経順調、鼻が詰まり喉に鼻汁が流れる、頭が重い、食欲はある、悪心はない。続命湯を与える。
 六月二七日の診療では、鼻の方はとても気持がよいという。蛋白(±)、血圧は139/86。その直後、耳鼻科の医師の診察を受けたところ、蓄膿症は全治しているといわれた。血圧は128/88、116/80、132/84、120/86、蛋白(-)。このごろ自分でどこも何ともないといい、近く腎機能の検査を受けることになっているといっている。
 次に自験例をお話しします。大正八年生まれの婦人。高血圧症で当院に通院中でしたが今年一月二日の朝から、それまで痛んでいた足もよくなり、膝の方もよくなったと思ったのですが、左の関節が利かなくなり、足首と膝が返らない、左手が重いという訴えが、一月六日の来院時にありました。言葉もややろれつが回らない感じがしました。そこで金匱の続命湯を投与しました。二週間後いくらか歩けるようになり、それから六週間後には、何となくひき摺る程度になりました。この頃には言葉もはっきりして、三月頃には習っていた能の舞台は、六月にはできないのではないかと悩んでいましたが、今年の舞台は休みにして、来年からまた元気よく再開したというほど回復しました。現在はお稽古もやっているようです。


『金匱要略講話』 大塚敬節主講 財団法人 日本漢方医学研究所 編
p.121
 ここから先は附方となっていますが、附方というのは、宋の時代に林億等が校訂したときに、これは多分張仲景の方に違いないという薬方を、『千金方』とか『外台』とかのいろいろな本からもってきて附けたので附方と云うんで、原本にはなかったわけです。次の古今録験続命湯は『外台秘要』から取ったのです。

附方

古今錄驗續命湯 治中風痱身體不能自收。口不能言。冒昧不知痛處。○外臺。冒昧下。有不識人三字。或拘急不得轉側。姚云。與大續命同。兼治婦人產後去血者。及老人小兒。


  麻黃 桂枝 當歸 人參 石膏 乾薑 甘草各三兩 芎藭○原缺銖兩。外臺用一兩。千金用三兩。杏仁四十枚

 右九味,以水一斗,煮取四升,溫服一升。當小汗。薄覆脊。憑几坐。汗出則愈。不汗更服。無所禁。勿當風。幷治但伏不得臥。欬逆上氣,面目浮腫。

 〔訓〕
 附方(ふほう)
 古今録験(ここんろくけん)の続命湯(ぞくめいとう)は、中風(ちゅうふう)、痱(ひ)にて身体自(みずか)ら収(おさ)むること能(あた)わず、口(くち)言(い)う能(あた)わず、冒昧(ぼうまい)にして痛むところを知らず(外台には、「冒昧の下に「不識人」の三字あり)。或は拘急(こうきゅう)して転側(てんそく)するを得(え)ざるを治(ち)す。(姚云う。大続命と同じ。兼ねて婦人産後去血の者及び老人小児を治す)。
   麻黄、桂枝、当帰、人参、石膏、乾薑(かんきょう)(各三両)、芎藭(きゅうきゅう)(原、銖兩を欠く。外台は一両を用い、千金は三両を用う)、杏仁(四十枚)
  右九味(み)、水一斗(と)を以(も)って煮(に)て四升(しょう)を取り、一升を温服す。当(まさ)に小(すこ)しく汗(あせ)すべし。薄(うす)く脊(せ)を覆(おお)い、几(き)に憑(と)りて坐(ざ)す。汗(あせ)出(い)づれば則(すなわ)ち愈(い)ゆ。汗せざれば更(さら)に服(ふく)す。禁ずるところなし。風(かぜ)に当(あた)る勿(なか)れ。并(なら)びに但(ただ)伏して臥するを得ず、欬逆(がいぎゃく)上気、面目浮腫(めんもくふしゅ)するを治(ち)す。

 〔解〕
 大塚 非常に応用範囲が広い薬方です。『古今録験』という本の中の続命湯、命を続ける、死にそうな人の命を続けさせるという有難い薬です。中風ですから半身不随、「痱(ひ)」ということは半身不随でなくても麻痺だけでもいいでしょう。「身体不能自収」ですから、自分で自分の身体を動かすことができない。便所に行こうと思っても歩けないとか、御飯を食べようと思っても箸が持てないとかいうことです。「口不能言」は、言おうと思っても言葉が出ないこと。「冒昧」というのは、はっきりしないことで、痛いところもよくわからないということですね。「拘急」は手足がひきつれることで、手足がひきつれて「不得転側」、つまり寝返りもできないわけです。姚という人が云うのに、これは大続命湯と同じで、婦人の産後で出血の多かったものや、老人小児を治す、というのですから、小児麻痺も治すのかもしれませんね。
 水一斗というと今の一升くらいですから、九味の薬を水一升に入れて四合に煮て、温かいのを一合飲んで、何かうすい着ものを背中にかけて、机のようなものによりかかって坐っていると、汗が出て治る、というのですが、これはね、まさか中風で寝ているのにこんなことをさせるとは考えられないので、喘息のように苦しくて寝ていられなくて、机によりかかって起きているような状態のときではないかと思います。実際にこの薬方は喘息なんかにもよく効きます。汗が出なければまた飲むんです。食物は何を食べてもよろしい、風にあたってはいけない。ただ腹這いなることはできても仰向けになって寝ることはできなかったり、咳込んで苦しく、顔が咳のためにむくんでくるというところですね。
 『千金方』を見ると、大続命湯のほかに小続命湯、西州続命湯とあります。西州続命湯と古今録験続命湯との違いは、西州続命湯は人参がなくて黄芩が入っています。他は同じです。大続命湯は古今録験続命湯と同じです。このいろいろの続命湯は、主薬が全部麻黄になっています。ちょっと考えますと、麻黄にはエフェドリンがあるから高血圧なんかには悪いんじゃないかという風に考えていたのですが、続命湯、つまり命をながらえる薬方の主薬が麻黄であることを思いますと、なぜ麻黄が命をながらえる薬になるのかということを考える必要があるように思うのです。麻黄醇酒湯という薬方もありまして、麻黄は肝臓の薬にもなるので、黄疸に使っていますしね。
 木村 麻黄の主成分はたしかにエフェドリンですが、麻黄は利尿剤ですからね。必ずしもエフェドリンを云々するよりも利尿剤という見地から考えてみたらどうですかね。
  大塚 麻黄連軺赤小豆湯(まおうれんしょうしゃくしょうづとう)という薬方がありますが、これは黄疸に使っています。そうしますと麻黄というのは、そんなに簡単なものではないようですね。浅田宗伯は古今録験続命湯は中風にかかったばかりでないと効かないようなことを書いていますが、そんなことはなくて、五年も六年も経ったものにでも効果があるし、藤平先生がこれを用いる口訣のようなものを雑誌にお書きになられたので、私も真似して使ってみたのですが、かなりの実証、たとえば大柴胡でも使えるような人に使ってみて、言葉が出るようになったり、足が使えるようになった人がいます。だから何年もたった病気にも効くようです。特に面白いのは、脳出血じゃなくて、脳軟化の半身不随には、この薬方が効くということです。
 木村 麻黄には発汗作用もありますけど止汗作用もありますね。これなんかも考えねばなりませんね。
 大塚 一つの薬でまるきり違った作用があるということは面白いものですね。
 木村 ええ、そこに漢方薬の複雑性があるようです。
 大塚 そうそう、だから八味丸が小便の出ないのにも効くし、小便の出過ぎるのにも効くということになるのです。麻黄もだから血圧を下げる作用もあるのかもしれませんね。
 今から十年以上も前でしたが、八十くらいのおばあちゃんがね、孫がアメリカに行っているので帰ってくるまで生かしてほしいと云うのです。非常にいいおばあちゃんでしてね、高血圧とリウマチと喘息とをもっているのです。それで続命湯に大黄を入れてやったのです。そうしますと、喘息は治るし、血圧は下がるし、便通はつくしで、ずっと調子がよくて、もう九十になりますけど元気で、もうすぐ孫が帰ってくると大よろこびしています。こんな風に長く続けて服(の)んでも平気なんです。
 この続命湯は大青竜湯の加減方で、違うところは、人参、当帰、芎藭なんかが入っているところです。脳軟化症、喘息で夜眠れない人なんかにいいわけです。


【一般用漢方製剤承認基準】

続命湯
〔成分・分量〕 麻黄3、桂皮3、当帰3、人参3、石膏3-6、乾姜2-3、甘草2-3、川芎1.5-3、杏仁2.5- 4

〔用法・用量〕 湯

〔効能・効果〕 体力中等度以上のものの次の諸症 : しびれ、筋力低下、高血圧に伴う症状(めまい、耳鳴り、肩こり、 頭痛、頭重、頭部 圧迫感)、気管支炎、気管支ぜんそく、神経痛、関節のはれや痛み、頭痛、むくみ



『一般用漢方製剤の添付文書等に記載する使用上の注意』

【添付文書等に記載すべき事項】

 してはいけないこと 
  (守らないと現在の症状が悪化したり、副作用が起こりやすくなる)

 次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
   〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕

 相談すること 
1.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
(1)医師の治療を受けている人。
(2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
(3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
(4)胃腸の弱い人。
(5)発汗傾向の著しい人。
(6)高齢者。
  〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換
   算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
(7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
(8)次の症状のある人。
   むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)  含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
(9)次の診断を受けた人。
  高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕

2.服用後、次の症状があらわれた場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

関係部位 症状
皮膚 発疹・発赤、かゆみ
消化器 吐き気・嘔吐、食欲不振、胃部不快感、腹痛


まれに下記の重篤な症状が起こることがある。その場合は直ちに医師の診療を受けること。

症状の名称 症状
偽アルドステロン症、
ミオパチー
手足のだるさ、しびれ、つっぱり感やこわばりに加えて、脱力感、筋肉痛があらわれ、徐々に強くなる。
〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)
含有する製剤に記載すること。〕


3.1ヵ月位(頭痛に服用する場合には5~6回))服用しても症状がよくならない場合は服用を中止し、この文書を持って医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること

4.長期連用する場合には、医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕



〔用法及び用量に関連する注意として、用法及び用量の項目に続けて以下を記載すること。〕

(1)小児に服用させる場合には、保護者の指導監督のもとに服用させること。
   〔小児の用法及び用量がある場合に記載すること。〕

(2)〔小児の用法がある場合、剤形により、次に該当する場合には、そのいずれかを記載す
ること。〕

  1)3歳以上の幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく
注意すること。
  〔5歳未満の幼児の用法がある錠剤・丸剤の場合に記載すること。〕

  2)幼児に服用させる場合には、薬剤がのどにつかえることのないよう、よく注意すること。
  〔3歳未満の用法及び用量を有する丸剤の場合に記載すること。〕

  3)1歳未満の乳児には、医師の診療を受けさせることを優先し、やむを得ない場合にのみ
服用させること。
  〔カプセル剤及び錠剤・丸剤以外の製剤の場合に記載すること。なお、生後3ヵ月未満の用法がある製剤の場合、「生後3ヵ月未満の乳児」を してはいけないこと に記載し、用法及び用量欄には記載しないこと。〕


保管及び取扱い上の注意
(1)直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること。
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕
(2)小児の手の届かない所に保管すること。
(3)他の容器に入れ替えないこと。(誤用の原因になったり品質が変わる。)
  〔容器等の個々に至適表示がなされていて、誤用のおそれのない場合には記載しなくてもよい。〕
 

【外部の容器又は外部の被包に記載すべき事項】
注意
1.次の人は服用しないこと
  生後3ヵ月未満の乳児。
  〔生後3ヵ月未満の用法がある製剤に記載すること。〕
2.次の人は服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
 (1)医師の治療を受けている人。
 (2)妊婦又は妊娠していると思われる人。
 (3)体の虚弱な人(体力の衰えている人、体の弱い人)。
 (4)胃腸の弱い人。
 (5)発汗傾向の著しい人。
 (6)高齢者。
   〔マオウ又は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。〕
 (7)今までに薬などにより発疹・発赤、かゆみ等を起こしたことがある人。
 (8)次の症状のある人。
  むくみ1)、排尿困難2)
  〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
 (9)次の診断を受けた人。
   高血圧1)2)、心臓病1)2)、腎臓病1)2)、甲状腺機能障害2)
   〔1)は、1日最大配合量が甘草として1g以上(エキス剤については原生薬に換算して1g以上)含有する製剤に記載すること。2)は、マオウを含有する製剤に記載すること。〕
2´.服用が適さない場合があるので、服用前に医師、薬剤師又は登録販売者に相談すること
  〔2.の項目の記載に際し、十分な記載スペースがない場合には2´.を記載すること。〕
3.服用に際しては、説明文書をよく読むこと
4.直射日光の当たらない(湿気の少ない)涼しい所に(密栓して)保管すること
  〔( )内は必要とする場合に記載すること。〕























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