健康情報: 五苓散(ごれいさん) の 効能 と 副作用

2011年7月14日木曜日

五苓散(ごれいさん) の 効能 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊

五苓散(ごれいさん)
 本方は表に邪があり裏に水の停滞するものを治する方剤で、口渇と尿利減少を目標として諸種の疾患に応用される。脈は浮弱のことが多い。また口渇があって煩躁し水を飲まんと欲し、水が入れば則ち吐する者にも用いられる。熱の有無に関らない。
  本方の応用としては感冒或は諸熱病で、微熱・口渇・尿利減少の場合、胃アトニー・胃下垂・胃拡張等で胃腸内に拍水音があり、眩暈または嘔吐に苦しむ場合、 ネフローゼの浮腫、心臓弁膜症に伴う浮腫、急性胃腸カタル後の口渇、尿量減少・浮腫・水瀉性下痢・暑気当り・陰嚢水腫等である。
 本方の薬物中、 沢瀉・猪苓・茯苓・朮は何れも体液調整剤で、胃内停水を去り、尿利を良くし浮腫を去る。本方證の嘔吐・眩暈・口渇等は何れも体液の偏在によるものであるか ら、これらの薬物の協力作用によって体液が循流すれば自然消失するものである。桂枝は微熱を去る効があり、また他の諸薬の利水の効を助けるものである。
 加減方としては茵蔯五苓散がある。これは五苓散に茵蔯を加味した方で、カタル性黄疸にして口渇・尿利減少の者に用いる。また飲酒家の黄疸・浮腫にもよろしい。茵蔯は黄疸に対して特効のある薬物である。
 平胃散と五苓散の合方を胃苓湯と名づけ、水瀉性下痢または浮腫に用いる。小柴胡湯と五苓散との合方を、柴苓湯と名づけ、小柴胡湯の證で口渇・尿利減少の者に用いる。
 陰嚢水腫には五苓散に車前子・木通を加えて効がある。


『漢方精撰百八方』
54.〔方名〕五苓散(ごれいさん)
〔出典〕傷寒論、金匱要略。

〔処方〕沢瀉5.0g 猪苓、茯苓、朮各3.0g 桂枝2.0g

〔目標〕
1,汗が多く出て、のどが乾き、尿の出が少ないもの。
2,熱があって、のどが乾き、汗が出ず、尿のでもわるく、水を飲むとすぐ吐くもの。
3,吐いたり下したりして、のどが渇き、尿の出がわるく、からだの痛むもの。
4,のどが渇いて水を飲んでも尿の出が少なく、浮腫のあるもの。
5,動悸、息切れがあって、のどが渇き、尿の少ないもの。

〔かんどころ〕口渇と尿量の減少があれば先ずこの方を考える。

〔応用〕感冒。急性胃腸炎。腎炎。ネフローゼ。心不全。クインケの浮腫。頭痛。三叉神経痛。

〔治験例〕
1,感冒
 二歳の男児、感冒にかかり熱があったので、かぜ薬をのましたところ、汗が流れるように出て、くったりしてしまった。しばらくすると、水をほしがるので、お茶をのましたところ、お茶をのみこんだと思ったら、すぐに吐き、また水をほしがる。汗は全くやみ、尿も出ないという。五苓散末を重湯でのましたところ、一服で口渇がやみ、嘔吐もおさまり、三十分ほどたつと、汗ばみ、尿がどっさり出て、熱がさがった。

2,頭痛
 三十九才の婦人、常習頭痛があり、毎日頭痛止めの薬を飲んでいる。そのため胃の方もよくない。肩からくびにかけてこり、ひどく頭痛のする時には吐く。はじめ呉茱萸湯を与えて、軽快したかに見えたが、全治しない。口渇の有無をたずねたが、ひどくはないが、水っぽいものがほしいという。尿も少ないようである。検尿したが、蛋白はない。そこで五苓散にしたところ、さっぱりと頭痛がやんだ。

3,クインケの浮腫
 クインケの浮腫のある婦人に、越婢加朮湯、麻黄加朮湯、防已黄耆湯当帰芍薬散などを用いて効無く、最後に、五苓散で著効を得、また同病の患者にこの方を用いて著効を得た。口渇も尿の減少もなかったが、よくきいた。   大塚敬節




漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
11 駆水剤(くすいざい)
 
 駆水剤は、水の偏在による各種の症状(前出、気血水の 項参照)に用いられる。駆水剤には、表の瘀水を去る麻黄剤、消化機能の衰退によって起こ る胃内停水を去る裏証Ⅰ、新陳代謝が衰えたために起こった水の偏在を治す裏証Ⅱなどもあるが、ここでは瘀水の位置が、半表半裏または裏に近いところにある ものについてのべる。
 
 各薬方の説明
2 五苓散(ごれいさん)  (傷寒論、金匱要略)
 〔沢瀉(たくしゃ)五分、猪苓(ちょれい)、茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)各三分、桂枝(けいし)二分。湯の場合は、沢瀉六、猪苓、茯苓、朮各四・五、桂枝三〕
  表に熱、裏(胃部)に停水があるため、表熱によって瘀水が動き、それにつれて気の動揺をきたし、上衝するものに用いられる。したがって、発 熱、頭痛、めまい、口渇(本方證の口渇は、煩渇引飲といわれ、いくら飲んでも飲みたりないほど強いものである)、嘔吐(わりあい楽に吐くもの)、心下部振 水音、腹痛、臍下悸、尿利減少、下痢(水様便が多量に出る)などを目標とする。また、口渇のために水を飲みたがるが、飲むとすぐに飲んだ以上に吐くものを 目標とすることもある。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、五苓散證を呈するものが多い。
 一 胃拡張症、胃アトニー症、胃下垂症、胃腸カタルその他の胃腸系疾患。
 一 腎炎、萎縮腎、ネフローゼ、膀胱炎、陰嚢水腫、尿毒症、浮腫その他の泌尿器系疾患。
 一 カタル性結膜炎、仮性近視、角膜乾燥症、夜盲症その他の眼科疾患。
 一 宿酔、ガス中毒、船酔いその他。
 一 感冒、気管支喘息その他の呼吸器系疾患。
 一 そのほか、火傷、脱毛症、糖尿病、日射病など。
 
陰嚢水腫 五苓散加車前子木通
ヘルニア 五苓散加牡丹皮防風
痰喘煩操して眠らないもの 五苓散加阿膠
疝気(腰痛の時) 五苓散加小茴香
 
 五苓散の加味方
 (1) 胃苓湯(いれいとう)  (古今医鑑)
 〔五苓散と平胃散の合方〕
 本方は、五苓散證に平胃散證(前出、裏証Ⅰの項参照)をかねたもので、平素から水毒体質の人が胃腸をこわしたために、激しい腹痛を伴う水様性下痢や浮腫を起こすものに用いられる。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、胃苓湯證を呈するものが多い。
 一 大腸炎、胃腸カタル、食あたりその他の胃腸系疾患。
 一 ネフローゼ、腎炎その他の泌尿器系疾患。
 一 そのほか、神経痛、暑気あたりなど。
 
 (2) 柴苓湯(さいれいとう)
 〔五苓散と小柴胡湯の合方〕
 本方は、五苓散證に小柴胡湯(前出、柴胡剤の項参照)をかねたものに用いられる。本方と同様な目的で、他の柴胡剤も五苓散と合方される。
 
 3 茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)  (金匱要略)
 〔五苓散に茵蔯四を加えたもの〕
 本方は、五苓散證で黄疸の併発したものに用いられる。したがって、黄疸で発熱が少なく、口渇、浮腫、心下部膨満、振水音、尿量減少などを目標とする。
 〔応用〕
 つぎに示すような疾患に、茵蔯五苓散證を呈するものが多い。
 一 急性黄疸などの肝臓機能障害。
 一 腎炎、ネフローゼなどの泌尿器系疾患。
 一 そのほか、宿酔。


『《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集』 中日漢方研究会
24.五苓散 傷寒論
沢瀉5分 猪苓3分 茯苓3分 朮3分 桂枝2分 右細末として1回量1.0を重湯又は白湯にて服す。

(金匱要略)
○脈浮,小便不利,微熱,消渇者,宜利小便発汗,本方主(消渇)
○仮令痩人,臍下有悸,吐涎沫,而癲眩,此水也,本方主之(痰飲)
(傷寒論)
○太陽病,発汗後,大汗出,胃中乾,煩躁不得眠,欲得飲水者,少々与飲之,令胃気和則愈,若脈浮,小便不利,微熱消渇者,本方主之(太陽中)
○発汗巳,脈浮数,煩渇者,本方主之(太陽中)
○傷寒汗出而渇者本方主之(太陽中)
○霍乱,頭痛発熱,身疼痛,熱多欲飲水者,本方主之(霍乱)
○中風発熱六七日,不解而煩,有表裏証,渇欲飲水,水入則吐者,名日水逆,本方主之(太陽下)
漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 咽喉が渇いて尿量が減少し頭痛,頭重,頭汗,悪心,嘔吐などを伴い下痢するもの,あるいは浮腫があるもの。
 (1) 急性胃腸カタル(水当り,食当り,暑気当り,寝冷えまたは乳幼児吐き下し,吐乳を含む)本方が適する急性胃腸カタルは尿量減少,口渇,微熱を伴った水分,便量ともに多い水瀉性下痢が目安となる。平胃散証との鑑別は,無熱性で口渇や尿量減少の著しくないものに平胃散適応証が多いので区別できる。

 (2) 二日酔い 悪心,嘔吐,口渇,頭痛を訴えるものに本方を投与すると,不快症状を速やかに消失せしめる。また二日酔い癖あるものは,本方を飲酒前後に服用すると予防できるので,酒客に重宝されている。

 (3) 腎臓疾患 本方は古くから腎疾患に対する代表的処方として有名なもので,急,慢性を問わず試みるべき処方である。慢性に経過するものでアレルギー体質者には,本方と柴胡剤を合方して用いることが多い。

 (4) 肝臓疾患 この疾患に応用するときは,本方単独よりも前項同様に,柴胡剤または茵蔯蒿湯と合方する症例が多い。またかなり重い肝肥大,肝硬変あるいはこれに伴う心不全や腹水,浮腫を証明するものに,本方と柴胡桂枝干姜湯を合方して用い,治療効果のあがった例が少なくない。

 (5) 類証鑑別 白虎加人参湯は本方より熱感と口渇が激しいうえに,神経症状が著明である。八味丸料は口渇や利尿障害は類似するが,疲労倦怠感や手足の熱感,あるいは冷感を自覚し,高血圧症状などを随伴するので鑑別できる。猪苓湯も利尿障害,口渇、浮腫などの症候群が類似するが,排尿困難,排尿痛,残尿感などを訴えるものには,本方よりも猪苓湯が適応する。


漢方治療30年〉 大塚 敬節先生
○五苓散は口渇がひどくて水をたくさんのむのに,尿の出が少ないというところを目標にして用いる。この場合,浮腫が現われたり,嘔吐をともなったり,下痢をしたり,頭痛を訴えたり,腹痛を訴えたりすることがある。いずれにしても尿量が減少しているという点が大切である。
○五苓散を用いてよくなる嘔吐を「傷寒論」では水逆と呼んでいる。水逆の嘔吐では,のどがしきりに渇いて水をのみたがり,水をのむとしばらくして多量の水をどった1回に吐く。まるで水を投げ出すように勢いよく吐く,吐くとまたのどが渇く。のむとまた吐く,これをくり返す。この場合に五苓散を与えると,たちまち嘔吐がやみ,口渇もなくなり,もし熱のある場合だけ汗ばみ,尿がどんどん出る。熱のない場合だと,汗は出ないで尿がたくさん出てよくなる。
○五苓散は乳幼児の嘔吐に用いる場合が多い。
風邪の時に,葛根湯などを用いて,汗が出てから,五苓散の証になることが多い。また腎臓炎,ネフローゼ,膀胱炎,腎盂炎,偏頭痛,急性胃腸炎などにも用いられる。

漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
○口渇(のどのかわき)があって尿利が減少する場合で,あるいは嘔吐,下痢,頭痛,腹痛,浮腫などのいずれかを伴うもの,このとき熱が出る急性症もあり,無熱の慢性症もある。
○熱が出て汗をかいたあと,煩躁して眠れず,水をのみたがり,尿利が減少し,脈が浮いてふれやすいもの。
○下剤を用いたため,心下部が痞え,瀉心湯を飲んでも治らず,のどがかわき,口が乾燥して苦しく,尿利が減少するもの。
○心悸亢進や腹部動脈の拍動が亢進し,よだれを吐いたり,めまいがするもので,痩せた人に多くみられる。
○五苓散の病態を漢方では水毒,水飲,痰飲などという。これは科学的にいえば,水の代謝異常である。胃内の水分が吸収されずに停滞するので,血中の水分が減少する。そのため口渇もおきるし,尿利が減少するのであるし,尿利も減少するのである。胃内に水分が停滞しているところへ,更に水ものを飲むのだから水を吐出するのである。そのときは,それまでたまっていた水分もいっしょに吐き出されるので,飲んだ水の量より多い吐物が出るのであろう。


漢方診療の実際〉 大塚,矢数,清水 三先生
 本方は表に邪があり,裏に水の停滞するものを治する方剤で,口渇と尿利減少を目標として諸種の疾患に応用される。脈は浮弱のことが多い。また口渇があって煩躁し,水を飲まんと欲し,水が入れば則ち吐する者にも用いられる。熱の有無に関らない。 本方の応用としては感冒或は諸熱病で,微熱,口渇,尿利減少の場合,胃アトニー,胃下垂,胃拡張等で胃腸内に拍水音があり,眩暈または嘔吐に苦しむ場合。 ネフローゼの浮腫,心臓弁膜症に伴う浮腫,急性胃腸カタル後の口渇,尿量減少,浮腫,水瀉性下痢,暑気当り,陰嚢水腫等,本方の薬物中, 沢瀉,猪苓,茯苓,朮は何れも体液調整剤で,胃内停水を去り,尿利を良くし,浮腫を去る。本方証の嘔吐,眩暈,口渇等は何れも体液の偏在によるものであるか ら,これらの薬物の協力作用によって体液が循流すれば自然消失するものである。桂枝は微熱を去る効があり,また他の諸薬の利水の効を助けるものである。(後略)


漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 (構成) 桂枝は表証又は上衝を治すからその症状があり,他は全部利水剤だから停水症状があり,水分の分配障害によって水は胃内に停滞し,上部に欠乏して渇となり,下に出ずして小便不利となり,表に浮べば浮腫となる。上衝に伴い,或は臍下悸となり,熱を伴えば頭痛,発熱となる。

 運用 1. 煩渇,尿利減少,或は吐し,或は下るもの
 「太陽病,汗を発して後(中略)若し脉浮小便不利,微熱,消渇するもの」(傷寒論太陽病中篇)
 「もと之を下すを以ての故に心下痞す。瀉心湯を与えて痞解せず,その人渇して口煩躁,小便不利するもの」(同書太陽病下篇)
 「発汗巳脉浮数,煩渇」(同書太陽病上篇)などは煩渇,小便不利を主症状とし,「中風,発熱6,7日解せず,而して煩す,表裏の証あり而して水を飲まんと欲し,水入るときは則ち吐する者は名づけて水逆という」(同書太陽病中篇)
 「霍乱,頭痛発熱,身疼痛,熱多く水を飲まんと欲す」(同書霍乱病)は吐又は吐瀉を主症状としたものである。五苓散の渇は煩と云われる如く,いくら飲んでも切りがないように渇を覚えるのが特徴,小便不利は尿量減少のことが多い。吐はげえげえ苦しく吐くことは少く,割合楽にすうっと胃内容が多量に出て来る。下痢は水様便が多量に出るのが普通である。右の症状により五苓散は急性腸カタル,消化不良,コレラ及びコレラ様の吐瀉,胃拡張,胃アトニー,胃下垂,溜飲症,などの消化器疾患に際して煩渇,小便不利,或は吐瀉を目標にして使う。殊に夏季に水を飲過ぎたり暑熱中で働いて起るものにはよくこの症状が起る。口渇,小便不利により糖尿病,急性膀胱炎,尿毒症にもしばしば使う。これらの場合で類証鑑別を要するのは,煩渇では白虎加人参湯だがこれには小便不利がなく脉は洪大である。五苓散の脉は浮。八味丸は煩渇の時は小便自利だし,下腹部が弛緩している。吐瀉では小半夏湯小半夏加茯苓湯半夏瀉心湯などの吐や甘草瀉心湯,人参湯などの吐瀉はいずれも煩渇,小便不利がないので区別は容易である。

 運用 2. 眩暈や心悸亢進を目標にする。
 「もし痩人臍下に悸あり,涎沫を吐して癲眩するはこれ水なり」(金匱要略痰飲)いわゆる水てんかんにはかかる症状があると思うが,それに拘泥せず虚証の人で奏効した例があ識。臍下の悸は心悸亢進でも構わない。涎沫は泡を吹くことだが,胃内の停水が上に溢れて涎沫になると解すべきものだ。だから必ずしも涎沫を吐さなくても胃内停水と眩だけでも本方を使って宜い。胃内停水が口よりもっと上に昇って涙となったり,或は体表に浮んで浮腫となったりすると解釈するとカタル性結膜炎やフリクテン性結膜炎で羞明と涙の多いもの,尿毒症で眩暈,浮腫のあるもの,腎炎,ネフローゼで浮腫小便不利,口渇するもの,心臓機能不全による浮腫,心悸亢進,小便不利するものなどに用いることが出来る。「病陽に在り,まさに汗を以て解すべし。反って冷水を以て之にそそぎ,その熱,劫かされて去ることを得ず,いや更に益して煩し,肉上粟起し,意に水を飲まんと欲し,反って渇せざる者は文蛤散を服す。若し差えざるものは五苓散を与ふ」(傷寒論太陽病下篇)は煩渇と肉上粟起を目標にするが,肉上粟起は小水粟と思われるから之を浮腫に転用しても宜いのである。火傷の水泡や皮膚病の小水泡に五苓散を使うことがある。浮腫を転用して陰嚢水腫に使うことがある。涎沫については人参湯参照,眩は真武湯苓桂朮甘湯と区別すべきだが両者とも口渇はなく,且つ両者とも五苓散より虚証の状態で貧血も著明である。浮腫で煩渇のあるのは石膏剤(越婢加朮湯)と八味丸だが,前者は脉緊,本方は脉浮弱,後者は前述の通りで区別は容易。その他浮腫,口渇,小便不利があっても五苓散のように劇しい煩渇は他の処方にはない。結膜炎で羞明多涙するのに苓桂朮甘湯小青竜湯があるが,前者は脉沈緊で口渇はなく,後者は煩渇,小便不利がない点で本方と区別する。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 胃内(あるいはその他体腔内)に停水があって,気の上衝,あるいは表証をともなっているものである。口渇と小便不利があって,気の上衝のため嘔吐があり,または涎沫を吐し,激しい頭痛や眩暈のあることもあり,表熱の症状がある。脈は浮で,熱があれば浮数となる。あまり強い脈とはならないことが多い。腹は多くの場合,心下部に拍水音が認められる。腹壁は軟かい方で臍下悸のあることもある。



勿誤方函口訣>  浅田 宗伯先生
 此方は傷寒,渇して小便不利が正面なれども,水逆の嘔吐にも用い,また畜水の顚眩にも用い,其の用広し。後世にては加味して水気に活用す。此方は本法の如く新たに末にして与ふべし。煎剤にては一等下るなり。胃苓湯や柴苓湯を用ゆるは此例に非ず。又疝にて烏頭桂枝湯や当帰四逆湯を用いて一向に腰伸びず,諸薬効なきに五苓散に加茴香にて妙に効あり。是れ即ち腸間の水気を能く逐ふが故なり。


〈漢方と漢薬〉 第4巻第6号
            大塚敬節論文より
①髪の毛の抜け易いもの,又は禿頭病,○小児のヘルニア,○婦人膣より糞を出す者等に五苓散のよいのがある。(類聚方集覧)
②交陽病(腔門膣瘻)即ち膣より大便の出るものによいかとがある。(時還読我書)
③酒客病(二日酔)○夜盲症に桂枝を去り唐蒼朮を加えて用う。○白髪禿頭に用いてよい。(古方慢筆)
④労症の咳嗽は五苓散がよい。五苓散の嗽は多く嘔がある。手足厥冷の咳嗽に五苓散の症が多い。○頭痛によいことがある。五苓散の煩は頭痛である。至って重く手足厥冷,頭痛強きものである。(村井大年口訣抄)
⑤宝暦の年,東業に大疫流行し,自汗,壮熱煩渇,小便頻渇,小便頻数,淋痛短少,大便秘し或は下利し,甚しき者は頭眩,嘔逆,譫語,脈浮緩,五苓散を以て人を救うこと多し。(時還読我書)
⑥五苓散,乗物に酔うものによろしい。(袖珍方)
⑦霍乱吐下の後,厥冷煩躁,渇飲止まず,水薬共に吐する者,○眼疾を治す。発熱,消渇,目涙多く,小便不利を目標とする,○小児の陰頭,陰嚢水腫,小便短渋の者に奇効がある。(類聚方広義)
⑧五苓散,寒疝腰痛,陰嚢に引き,屈して伸びず,小便利せず,発熱微渇の者によい。○五苓加茴香湯,疝を治する妙剤なり,○舌病,黄連,石膏の治せざるもの。(方輿輗)
⑨霍乱吐瀉の翌日,からだだるく渇する者,○夏外に出て暑さに中りたる者。(方読弁解)
⑩喘欬煩躁して眠るを得ざる者に五苓散加阿膠。(医療手引草)
⑪1人口渇,心下悸,腹大いに痛むに与えて即ち痛み止む。(処方筌蹄)
⑫水気心下に停りて,短気,小便難き者は五苓散,呼気短気のものは苓桂朮甘湯,吸気短き者は腎気丸(加藤謙斎)
⑬発熱,汗出で,渇して下利後重,小便少き者。(禁方録)
⑭五苓散加牡丹皮,防風,小児のヘルニアによい。(瘍科方筌)
⑮水腫,下利,発熱,小便不利して渇する者。(水腫加言緩腫用方)
⑯平人無病,急に煩渇引飲すること2,3日,小便不利,一身悉く浮腫する者。(内科秘録)
⑰余幼時,感冒,必ず頭痛,目眩,寒熱,嘔吐,煩渇す。五苓散を以て癒ゆ。(宮地峴亭)
⑱老人弱者,暑さに中りて吐瀉後渇する者,○交腸沙は大小便位を変えて出ず此方に宜し,○渇して小便不利と云う者は必定の候なり,○湿に傷られて全身浮腫して下利する者,○小便通ぜず下腹痛み煩渇する者。(聖剤発蘊)
⑲癲癇,涎沫を吐し,水を見て発する者を治す。黄連湯は火を見て発する者を治す。(腹証奇覧翼)
⑳此方は傷寒渇して小便不利が正面なれども水逆の嘔吐にも用い,又蓄水の癲眩にも用いその応用広し。此方は新に末にして与うべし。又疝にて腰伸びず,諸薬効なきに五苓散に茴香を加えて妙効あり。これ腸間の水気を能く逐うが故なり。(勿誤方函口訣)


『薬事日報』第11073号(2012(平成24)年1月1日)
三宅
 水の偏在をなくす意味で使われている五苓散は、水チャンネルのAQ4Pを阻害するという機序が明らかになりました。五苓散の構成生薬で悪る蒼朮や猪苓に含まれる金属成分が関与しているらしいですが、詳細については未解明です。
 五苓散の使用機会は非常に多くて、二日酔いの時、暑気あたりなどに重宝します。また、脳浮腫や慢性硬膜下血腫(CSDH)の保存的治療などの脳神経外科の臨床で、数多く報告されていることに注目しています。

中川
近畿大学東洋医学研究所の故・遠田教授は、血管内脱水という言葉を使っていましたね。実際、効果がありますよね。

三宅
 過激な生薬が全く入っていないにも関わらず、著しい効果がありますよね。
 五苓散は漢方を知らない人には知名度が低いのですが、他の薬と併用しても調子がよくなることもありますし、体調管理するのに便利な漢方薬といえますね。







〔効能・効果〕
【ツムラ】
口渇、尿量減少するものの次の諸症。
浮腫、ネフローゼ、二日酔、急性胃腸カタル、下痢、悪心、嘔吐、めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病。


【クラシエ・他】
のどが渇いて、尿量が少なく、はき気、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症。
水瀉性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ。


【コタロー】
咽喉がかわいて、水を飲むにも拘らず、尿量減少するもの、頭痛、頭重、頭汗、悪心、嘔吐、あるいは浮腫を伴うもの。
急性胃腸カタル、小児・乳児の下痢、宿酔、暑気当り、黄疸、腎炎、ネフローゼ、膀胱カタル。


【三和】
口渇、めまい、頭痛、浮腫などのあるものの次の諸症。
 急性胃腸カタル、はきけ、ネフローゼ。

【一般用】
 体力に関わらず使用でき、のどが渇いて尿量が?ないもので、めまい、はきけ、嘔吐、腹痛、頭痛、むくみなどのいずれかを伴う次の諸症:
 水様性下痢、急性胃腸炎(しぶり腹注)のものには使用しないこと)、暑気あたり、頭痛、むくみ、二日酔
 注)しぶり腹とは、残便感があり、くり返し腹痛を伴う便意を催すもののことである。

〔副作用〕
・胃の不快感、食欲不振、軽い吐き気
・発疹、発赤、かゆみ


※そのため口渇もおきるし,尿利が減少するのであるし,尿利も減少するのである。
 そのため口渇もおきるし,尿利も減少するのである。 の誤植。
 

※時還読我書(じかんどくがしょ)  多紀元堅著
下巻に「延寿院玄朔の遺戒は至って深切なるものなり、げに篤志の人と思わる。貧賤の疾をも意を用いて治すべし、主君へ奉公と思うべし、といえるは最も感服に堪えたり」と記している。


※袖珍方(しゅうちんほう):袖珍はポケットサイズのこと。本書は、病門分類別の典型的な方論書で、巻一の風門から始まり、巻四の小児門で終わる。

※処方筌蹄(しょほうせんてい):中川修亭著
中川修亭は吉益南涯の高弟で、古方の大家であるが、後世方にも理解をもち、さらに華岡青洲を友とし、外科蘭方にも通じていた名医である。

※加藤謙斎:寛文9年(1670年)12月12日 三河(愛知県)蒲郡市で生まれ、京に出て医師となって多くの医学書を著すと共に、芭蕉の門に入って烏巣道人と号した俳人でもある。
享保9年(1724年)1月7日 56歳で没。

禁方録:華岡青洲編纂 諸家の薬方を整理したもの。中川修亭も編纂に協力。


※瘍科方筌(ヨウカホウセン) : 華岡青洲著 十味敗毒散も収載されている。