健康情報: 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) の 効能・効果 と 副作用

2014年2月25日火曜日

大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) の 効能・効果 と 副作用

漢方診療の實際 大塚敬節 矢数道明 清水藤太郎共著 南山堂刊
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)
本方は瀉 下によって下半身の諸炎症を消退させる効があり、その応用は頗る広い。その応用目標の第一は、腫脹・疼痛・発熱等すべて症状が激しく、実證で便秘の傾向が あり、自覚的にも苦痛が激しい場合で、元気はなお盛んな者である。二、三の例によって説明すれば、本方は虫垂炎に用いられる。虫垂炎で、疼痛が盲腸部に限 局し、発熱・口渇・便秘の者で、脈が遅緊の者に本方を用いれば下痢を来すと共に疼痛が去り、腫瘤は俄かに軟化縮小し、諸症は軽快する。また本方は淋毒性副 睾丸炎・肛門周囲炎に用いられる。いずれも腫脹・疼痛が激しく便秘の場合に用いる。
本方に於ける大黄と芒硝は瀉下剤である。瀉下によって病毒を腸管へ誘導し、炎症を消退させる。牡丹皮・桃仁・瓜子は何れも硬結・膿瘍を消散させる効があり、大黄・芒硝の瀉下の力を得てその効を全うするものである。
本方は応用としては、前記の他に、結腸炎・直腸炎・痔疾・子宮及び附属器の炎症・骨盤腹膜炎・横痃・淋疾・腎盂炎・腎臓結石等である。
虫垂炎の場合、本方を用いて却って疼痛が増し、硬結腫脹が増大する場合は不適応と認め、腸癰湯、または方向を変えて薏苡附子敗醤散の如き處方を用いなければならない。



『漢方精撰百八方』
13.[方名] 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)

[出典] 金匱要略

[処方] 大黄1.0 牡丹皮4.0 桃仁4.0 冬瓜子4.0 芒硝4.0

[目標] 腸癰(ちょうよう)とは腸に化膿巣が出来たり潰瘍が出来たりするもので、その場合には下腹部が腫れて抵抗を触れ、圧痛を訴える。その痛みは淋の如くで、尿道にまで放散する。しかし淋疾でないから尿利には異常がない。発熱、発汗、悪寒があっても、脈が遅くて緊張している場合には化膿性炎症が進んでいない時期だから本方で下せばよい。それによって血性便が下るかも知れないが心配はない。脈が洪数つまり頻数で大きくて力のないものは既に膿瘍をつくっている時用だがら下してはならない。
 本方の証はまさに虫垂炎の症状に一致している。すなわち急性発症の時用には本方で下せば治るが、化膿して腹膜炎を起こしたものには本方を用いてはならないのである。     [かんどころ] すべて下腹部殊に右側を触診して圧痛のあるものには本方を用いて大抵治効のあらわれるものである。
  
[応用] 虫垂炎。何と言っても本方の虫垂炎における効果は顕著である。わたし白身元来が外科専門医で虫垂炎は数百に及ぶ手術を経験しているが、虫垂炎そのものは殆んど手術しないでも治るものである。しかし西洋医学的には積極的な内科的治療法がないので、虫垂炎はすべて手術をすることになっているだけのことである。事実わたしの経験では虫垂炎で危篤に陥る例の大部分は、下剤の誤用(ヒマシ油など)で穿孔性腹膜炎を起こしたものであったが、本方で下す場合にはそのおそれがないから、頓挫的に虫垂炎を治すことが出来るのである。しかし激症の壊疽性虫垂炎や穿孔性腹膜炎は既に陰虚証になっているから本方を用いることは出来ない。しかし何といっても虫垂炎は外科的疾患であるから、手術の時用を失して後悔しないように注意すべきである。      本方は駆瘀血剤の代表的なもので、瘀血性体質の人の病気で本方で治すことの出来るものは頻る多い。胆石も漢方では瘀血の一種と認むべきものであって、本方で治すことの出来る場合が多い。潰瘍性大腸炎で腸出血を起こしているものに本方をやって頓挫的に出血を止めた例がある。慢性大腸炎には本方の適応症が多い。本方で重症リウマチが全治した例がある。
 其の他、月経困難症、肋膜炎、肩こり、下痢、顔面や頭部の湿疹や粃糠疹等本方で治る者は頗る多い。
相見三郎著


漢方薬の実際知識 東丈夫・村上光太郎著 東洋経済新報社 刊
3 駆瘀血剤
駆瘀血剤は、種々の瘀血症状を呈する人に使われる。瘀血症状 は、実証では便秘とともに現われる場合が多く、瘀血の確認はかんたんで、小腹急結 によっても知ることができるが、虚証ではかなり困難な場合がある。駆瘀血剤は体質改善薬としても用いられるが、服用期間はかなり長くなる傾向がある。
駆瘀血剤の適応疾患は、月経異常、血の道、産前産後の諸病その他の婦人科系疾患、皮下出血、血栓症、動脈硬化症などがある。駆瘀血剤の中で、 抵当湯(ていとうとう)抵当丸は陳旧性の瘀血に用いられる。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は瘀血の証と水毒の証をかねそなえたものであり、加味逍遙散はさらに柴胡剤、順気剤の証をかねそなえたものである。

各薬方の説明
1 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)  (金匱要略)
〔大黄(だいおう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芒硝(ぼうしょう)各四、冬瓜子(とうがし)六〕
駆瘀血剤の中で、もっとも実証の薬方であり、便秘、小腹急結などが著明であるものに用いられ、瀉下によって下半身(特に下腹部)の諸炎症を消退させる。したがって、本方は下腹の炎症(うっ血、充血)や化膿があり、発熱、腫痛、疼痛などのあるものを目標とする。
〔応用〕
つぎに示すような疾患に、大黄牡丹皮湯證を呈するものが多い。
一 子宮筋腫、子宮内膜炎、卵巣機能不全、卵巣炎、卵管炎、月経不順(過多、過少、困難、不順、閉止など)、血の道、更年期障害、乳腺炎その他の婦人科系疾患。
一 瘀血による各種出血、打撲による出血。
一 脳溢血、高血圧症、動脈硬化症、心臓弁膜症、静脈瘤、下肢静脈瘤その他の循環器系疾患。
一 急性膀胱炎、膀胱結石、腎臓結石、腎盂炎、前立腺肥大症、尿道炎その他の泌尿器系疾患。
一 湿疹、じん麻疹、肝斑その他の皮膚疾患。
一 そのほか、虫垂炎、直腸炎、急性(潰瘍性)大腸炎、直腸潰瘍、痔、肛門周囲炎、赤痢、よう、凍傷、冷え症など。


《資料》よりよい漢方治療のために 増補改訂版 重要漢方処方解説口訣集中日漢方研究会
47.大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) 金匱要略
  大黄2.0 牡丹皮4.0 桃仁4.0 芒硝4.0 瓜子6.0

(金匱要略)
腸癰者,少腹腫痞,按之即痛,如淋,小便自調,時々発熱,自汗出,復悪寒,其脈遅緊者,膿末成,可下之,当有血,脈洪数者,膿巳成,不可下也,本方主之(腸癰)

現代漢方治療の指針〉 薬学の友社
 上行結腸部に圧痛や宿便があり,大便は硬く,皮膚は紫赤色あるいは暗赤色を呈し,欝血または出血の傾向があるもの。本方は切らずに治す盲腸薬として知られ,腫瘍が限局的で元気が未だ衰えず,一般症状が良好な場合に用いられるが,本方を服用後先痛や不快感を増す場合は禁忌で,柴胡桂枝湯大建中湯真武湯などに転方すべきである。また本方を以上の目的に用いる時は薏苡仁を加えるとよい。桃核承気湯とは用途が類似するが両者の鑑別は本方適応症が上行結腸即ち右下腹部に圧痛や宿便があるのに対し,桃核承気湯適応症は下行結腸部即ち左下腹部に圧迫や宿便を認め,頭痛,のぼせを伴ない,下肢や腰が冷え易いものである。しかし多くの場合両者の鑑別は困難で,従って両者を合方して用いることが多い。
本方を服用後頭痛やのぼせを訴える場合は桂枝茯苓丸と合方するか,あるいは桃核承気湯に転方しなければならない。また腹痛や下痢が甚だしくなる場合は直ちに服用を中止し,柴胡桂枝湯平胃散半夏瀉心湯などで治療するとよい。


漢方処方解説シリーズ〉 今西伊一郎先生
 右下腹部に抵抗物を触知しらち圧痛があ改aて便秘し,皮膚や可視粘膜が暗赤色か暗紫色を呈するもので,出血の傾向やチアノーゼを伴うもの。本方は盲腸炎の内服治療薬として有名な処方であるが,本方をアッペに応用する場合は悪心や嘔吐があって,痛みが移動する初期症状には禁忌で,痛みや腫瘍が右下腹部腸骨窩に局限するもので,しかも体力があって便秘するものを目安に用いられるが,疾患の性格からその投薬には,かなりの熟練が要求される。虫垂炎又は虫垂炎様症状で,悪心,嘔吐が著しく腹痛部位が移動して限局しないものには柴胡桂枝湯が,劇的効果を持っている。移動性盲腸あるいは虫垂炎で,悪心や嘔吐がなく局部に抵抗物や圧痛,または自覚痛あるもので大黄配合剤が不適な者や慢性に経過するものには腸癰湯を考慮すればよい。本方を一般的に用いる場合は,壮実な体質者のがん固な常習性上行結腸便秘,あるいは,右下腹部に宿便や瘀血塊その他のシコリや痛みがあるものの,子宮内膜炎,卵巣炎,膀胱炎などに用いられる。
 投薬時の注意 本方は婦人科疾患や宿便を触知するがん固な便秘に用いる場合,元気が衰えず可視粘膜が暗紫色を呈し腹部の圧痛や,自覚痛ある点で桃核承気湯と類似するが桃核承気湯は左下腹部すなわち下行結腸部に前記抵抗物があって,のぼせ頭痛,神経症状を伴うので本方との区別ができる。便秘を訴えるもので腹部所見とまぎらわしい点は,腹部の下行大動脈と誤認しやすいので注意を要する。本方が適する腹証は緊張充実しているが,反対に腹満していても軟弱で,腹痛を自覚して便秘するものに大建中湯の適応するものがある。大建中湯はガスが充満して蠕動亢進や,蠕動不安があるので本方との区別ができる。


漢方処方応用の実際〉 山田 光胤先生
 体力が充実して元気のあるうちで,瘀血の腹証を呈し,下半身に炎症や化膿があって,発熱,腫張,疼痛などの症状を呈し,特に自覚的症状が激しく,便秘の傾向があるものに用いる。また虫垂炎の初期でまだ化膿性炎症が進んでいない時期によい。金匱要略には本方について「腸癰(虫垂炎など腸に化膿巣ができるもの)は下腹部が腫れて抵抗を触れ,圧痛を訴える。その痛みは淋の如くで尿道にまで放散する。しかし淋疾でないから尿利は正常である。時には発熱して汗が出たり,悪寒があるが(太陽病ではないので)脈が遅緊のものは化膿性炎症がまだ進んでいないのだから,本方で下せばよい。それによって血性便が出るかもしれないが,心配はない。もし脈が洪数(大きく力がなく頻数)のものは既に膿瘍になっているから下してはならない。」この記載はまさに虫垂炎と症状である。すなわち急性初期には本方で下せば治るが化膿して腹膜炎をおこしたものには本方を用いてはならないのである。
○方輿輗には「痔疾は腸胃間の悪血瘀汁を逐う(うっ血を去る)を以って上策とす。重き者は大黄牡丹皮,桃仁承気,軽き者は瓜子仁湯に宜し」とある。
○鍼術秘要-歯齦潰爛し,歯動いて時々血を出し,膿多き者を治す。」「耳孔より臭膿を出し,大便常に難く,少腹(下腹)攣痛急迫する者を治す。
○証治持要「乳癰,毒深く膿少なく(腫れ痛みの強いのに排膿が少ない)大便秘結す識者を治す。」古家方則「黒内障で身体実証の者を治す。」


漢方診療の実際〉 大塚 矢数,清水 三先生
 本方は瀉下によって下半身の諸炎症を消退させる効があり,その応用は頗る広い,その応用の第1は腫張,疼痛,発熱等すべて症状が激しく実証で便秘の傾向があり,自覚的にも苦痛がはげしい場合で,元気はなお盛んな者である。二・三の例によって説明すれば,本方は虫垂炎に用いられる。虫垂炎で疼痛が盲腸部に限局し,発熱,口渇,便秘の者で,脈が遅緊の者に本方を用いれば,下痢を来すと共に疼痛が去り,腫瘤は俄かに軟化縮小し,諸症は軽快する。また本方は淋毒性副睾丸炎,肛門周囲炎に用いられる。いずれも腫張,疼痛が激しく便秘の場合に用いる。
 本方に於ける大黄と芒硝は瀉下剤である。瀉下によって病毒を腸管へ誘導し,炎症を消退させる効があり,大黄,芒硝の瀉下の力を得てその効を全うするものである。
 本方の応用としては前記の他に結腸炎,直腸炎,痔疾,子宮及び附属器の炎症,骨盤腹膜炎,横痃,淋疾,腎盂炎,腎臓結石等である。虫垂炎の場合,本方を用いて却って疼痛が増し,硬結腫張が増大する場合は不適応症と認め,腸癰湯または方向を変えて薏苡附子敗醤散の如き処方を用いなければならない。


漢方処方解説〉 矢数 道明先生
 実証で主として下部に緊張性の炎症化膿症があり,腫張,疼痛,発熱があって,便秘の傾向がある。下腹部の腫瘤又は堅塊があって圧痛を訴え,自覚的に苦痛が激しく,体力の充実しているものを目標としる。脈は緊で,遅く,腹はやや膨満鼓張している。本方を用感てかえって疼痛を増し,硬結腫張し,腹部膨満を加える場合は禁忌証であるから他の処方を考えるべきである。薏苡附子敗醤散,腸癰湯などに転方しなければならないものがある。脈の洪数のものには用いられない。洪数のものはすでに化膿したものでこれを下すと腹膜炎を起すことがあるから注意を要する。

漢方入門講座〉 竜野 一雄先生
 桃仁牡丹皮は実証の循環障害を治し,大黄は骨盤内臓器に充血を起させ,併せて瀉下し,芒硝は寒剤で瀉下を助け,冬瓜子は排尿排膿に関するらしいがまだその作用は明かでない。本方は直接には殺菌作用は証明されていないが,化膿によって起った炎症に対して循環障害を除くことによって消炎作用を呈するものと推定される。
 運用 下部の実証の化膿症。
 実証だから体質的にも脈も緊張性で,例えば急性慢性の虫垂炎,肛周囲炎,尿道炎,睾丸炎,副睾丸炎,前立腺炎,子宮内膜炎,附属器炎,産褥熱,骨盤腹膜炎,バルトリン氏腺炎,臀部や下肢やそけい部の皮下膿瘍,癰,リンパ腺炎等に使うことが頗る多い。特に急性虫垂炎に対しては代表的に処方で金匱要略の腸癰病に「腸癰は少腹腫痞し,之を按ずれば即ち痛む,淋の如くなれども,小便自調す。時々発熱自汗出で復って悪寒す。その脈遅緊なるものは膿未だ成らず。之を下すべし。当に血あるべし。脈洪数なるものは膿已に成る。下すべからざるなり。」下腹部が自覚的に痞え,自覚的或は他覚的に腫れて疼痛及び圧痛がある。発熱,汗出,悪寒するのは化膿機転があるからで脈遅緊のものは本方で下す。
 鑑別 淋に似ているが,淋は小便淋瀝するが腸癰では自ら調う。脈が洪数なのは化膿症状が完成されて虚証になったものだから本方は禁忌である。急性虫垂炎に本方を使うことが多いが,必ず右の注意に従って脈の遅緊のときだけに使わないととんだ失敗をし,悪化させるから特に慎重を要する。虫垂の腫塊の大小には拘泥しなくてよいが腹撃の活性防禦に対しては強すぎるものや之を欠如するものには禁忌のことがある。この場合筋性防禦を腫痞の一つの現われと解釈するがよい。類証鑑別は一般化膿症では
(桃核承気湯) 化膿症や虫垂炎にも使うが,桃核承気湯は鬱血所見があり,上衝があるので区別される。
(桂枝茯苓丸) 急性症状の強いものには使わない。軽症や慢性虫垂炎では区別を要するが,桂枝茯苓丸では総腸骨窩動脈の搏動亢進が認められる。脈では両者の区別は困難。
(排膿散) 局所症状だけで他部に症状が認め現れない。病巣がしこって充血傾向が少く,排膿し難く吸収もされぬときに排膿散を使う。大黄牡丹皮湯はもつと充血性で炎症症状が著名である。(中略)腹痛に対しては桃核承気湯もほぼ同じ程度に痛むから他の所見によって区別すべきだ。桂枝茯苓丸は本方より一般に軽い。桂枝加芍薬湯は時には腹痛や硬結の程度が同じで,それたけでは鑑別が困難なことがある。しかし桂枝加芍薬湯は虚証だから必ず脈が弱い。
(大建中湯) 腹痛や硬結の程度では鑑別が困難なことがあるが,虚寒証で必ず蠕動不安があるので区別される。

勿誤方函口訣〉 浅田 宗伯先生
 此方は腸癰膿潰以前に用ゆる薬なれども,其の力桃核承気湯と相似たり,故に先輩は瘀血,衝逆に運用す。凡そ桃核承気湯の証にして小便不利する者に宜し。其他内痔淋毒,便毒に用いて効あり。皆排血,利尿の功あるが故なり。 又痢病,魚脳の如きを下す者に此方を用ゆれば効を奏す。若し虚するものは駐車丸(黄連,乾姜,当帰,阿膠)の類に宜し。凡そ痢疾,久しく痊えざる者は腸胃腐爛して赤白を下す者と見做すことは後藤艮山の発明にして,奥村筑其の説に本つき,陽症には此の方を用ひ,陰症には薏苡附子敗醤散を用ひて手際よく治すと云う。古来未発の見と云ふべし。



臨床応用 漢方處方解説 矢数道明著 創元社刊
p.349 虫垂炎・痔核・肛囲膿瘍・赤痢
47 大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) 〔金匱要略〕
大黄二・〇~五・〇 牡丹皮・桃仁・芒硝 各四・〇 瓜子六・〇

 芒硝以外の四味を規定のごとく煎じ、滓を去って芒硝を入れ、一分間沸騰させて分服する。(原方は大黄牡丹湯とあり、頓服薬である)


応用〕 実証で便秘の傾向があり、主として下半身、とくに下腹部の諸炎症に用いられる。
  すなわち、本方は主として虫垂炎・痔核・肛門周囲炎・淋毒性副睾丸炎・結腸炎・直腸炎・赤痢・子宮および附属器の炎症・卵巣炎・骨盤腹膜炎等に用いられ、 また横痃・腎盂炎・腎臓結石・淋疾、尿閉・前立腺炎・直腸膣瘻・尿道炎・産褥熱・産後諸病・帯下・腹部や下肢の瘍癤、皮下膿瘍、骨髄骨膜炎、また乳腺炎・ 皮膚病等に広く応用される。

目標〕 実証で、主として下部に緊張性の炎症化膿症があり、腫張・疼痛・発熱があって、便秘の傾向がある。下腹部に腫瘤または緊塊があって、圧痛を訴え、自覚的に苦痛が激しく、体力の充実しているものを目標とする。脈は緊で遅く、腹はやや膨満鼓脹している。
 本方を用いてかてって疼痛を増し、硬結斎張が増し、腹部膨満を加える場合は、禁忌証であるから他の処方を考えるべきである。薏苡附子敗醤散、腸癰湯などに転方しなければならないものがある。脈の洪数のものには用いられない。洪数のものはすでに化膿したもので、これを下すと腹膜炎を起こすことがあるから注意を要する。

方解〕 本方は瀉下によって下半身の諸炎症を消退させる効がある。大黄と芒硝は瀉下の効がすぐれ、病毒を腸管より排出し、炎症を消散させる。牡丹皮、桃仁、瓜子はいずれも硬結や膿瘍を消散させるものである。
 本方は駆瘀血と瀉下の剤によって構成され、化膿のために起こった瘀血循環障害を治すことによって炎症が治癒するものと思われる。


変方
 腸癰湯瓜子仁湯)。薏苡仁一〇・〇、瓜子六・〇、桃仁五・〇、牡丹皮四・〇。多くの場合これに芍薬五・〇を加え、腸癰湯加芍薬として用いるものである。本方は炎症や化膿機転が軽く、症状がそれほど激しくない場合に用いてよい。
 大黄牡丹皮湯去大黄芒硝加薏苡仁という方名を、千金方で腸癰湯または瓜子仁湯と名づけた。

主治
 金匱要略(瘡癰、腸癰、浸淫病門)に、「腸癰ハ、小腹腫痞シ、之ヲ按ズレバ即チ痛ミ淋ノ如ク、小便自調シ、時々発熱シ、自ラ汗出デ、復タ悪寒ス、其脈遅緊ノ者ハ、膿未ダ成ラズ、之ヲ下スベシ、当ニ血アルベシ、脈洪数ノ者ハ膿已ニ成ル。下スベカラザルナリ、大黄牡丹皮湯之ヲ主ル」とある。
 勿誤方函口訣には、「此方ハ腸癰膿潰以前ニ用ユル薬ナレドモ、其ノ方桃核承気湯ト相似タリ、故に先輩ハ瘀血衝逆ニ運用ス。凡ソ桃核承気湯ノ証ニシテ小便不利スル者ニ宜シ。其他内痔淋毒、便毒ニ用イテ効アリ。皆排血利尿ノ功アルガ故ナリ。又痢病,魚脳ノ如キヲ下ス者ニ此方ヲ用ユレバ効ヲ奏ス。若シ虚スルモノハ駐車丸(黄連・乾姜・当帰・阿膠)ノ類ニ宜シ。凡ソ痢疾、久シク痊エザル者ハ腸胃腐爛シテ赤白ヲ下ス者ト見做スコトハ後藤艮山ノ発明ニシテ、奥村良筑其ノ説ニ本ツキ、陽症ニハ此ノ方ヲ用ヒ、陰症ニハ薏苡附子敗醤散ヲ用ヒテ手際ヨク治スト云フ。古来未発ノ見ト云フベシ」とあり、
 勿誤方函口訣、腸癰湯条下に、「此方ハ腸癰ニテ大黄牡丹皮湯ナド用イテ攻下ノ後チ、精気虚敗四肢無力ニシテ余毒未ダ解セズ、腹痛淋瀝止マザル者ヲ治ス。此ノ意ニテ肺癰ノ虚症、臭膿未ダ已マズ、面色痿黄ノ者ニ運用シテヨシ。又後藤艮山ノ説ニ云フ如ク、痢病ハ腸癰ト一般ニ見倣シテ、痢病ノ余毒ニ用ユルコトアリ。又婦人帯下ノ証、疼痛已マズ、睡臥安カラズ数日ヲ経ル者モ腸癰ト一揆(同じ路)ト見倣シテ用ユルコトモアリ、其ノ妙用ハ一心ニ存スベシ」とある。



鑑別
 ○桃核承気湯 98 (臍下瘀血・上逆、小腹急結(左))
 ○桂枝茯苓丸 35 (下腹腫塊・軽症で慢性)
 ○薏苡附子敗醤散 140 (下腹腫塊・皮膚乾燥、膿成る、脈数)
 ○下瘀血湯 (臍下瘀血凝滞・経閉)
 ○桂枝加芍薬湯 32 (下腹腫塊・虚証、脈弱)
 ○大建中湯 87 (下腹腫塊・腹痛、蠕動不安、腹鳴、脈弱)


治例
 (一) 直腸膣瘻
 三十一歳の一婦人が、肛門が塞さがって、大便は膣より泄れ、十数年に及び諸薬を試みたが治らない。栄養衰え元気に乏しく、診すると脈は数で力がない、臍下に宿便がある。月経は十余年もない。大黄牡丹皮湯を与え、竜門丸(梅肉、山梔子、巴豆、軽粉、滑石)を兼用すること数十日にして正常に復し、肛門より排便するようになった。 
(中神琴渓翁、生々堂治験)

 (二) 月経閉止
 一婦人月経がなぬなって五ヵ月、医師も産婆も妊娠といって腹帯までしたが、十一ヵ月になっても出産がないという。
 そこで診すると妊娠の如く思えるが妊娠ではない。即ち月経閉止である。よって大黄牡丹皮湯を与うること日に四服ずつ、四五日服用すると、紫色の凝血を混えた下りものが沢山あって、二十日間も続いて止んだ。それで腹状は全く常態に戻って、翌月は月経があった。するとその月に妊娠し、翌年一子を生んだ。これは瘀血を残りなく排除したためである。
(尾台榕堂翁、方伎雑誌)

 (三) 腎臓結石
 大黄牡丹皮湯は虫垂炎の治療に用いられる処方であるが、近年は腸癰湯や桂枝茯苓丸、桂枝加芍薬湯などの証が多くなった。
 二〇歳の青年が、二年前から毎月のように四〇度近い高熱を出す。その熱は二~三日で下がる。その熱の原因は全くわからなかった。
 腹診してみると、右下腹廻盲部より脇腹にかけて軽い圧痛があり、大黄牡丹皮湯の腹証である。しかし、患者は虚証で、大黄や芒硝で下すことはできない。そこで大黄牡丹皮湯去大黄芒硝加薏苡仁一〇・〇として与えた。
 一〇日ほどすると小便のたびに小さい砂が出てきた。腎砂であった。この後この患者の高熱はやみ、すっかり健康体となった。
(大塚敬節氏、漢方治療三十年)

 (四) 肛門周囲炎と尿閉
 五七歳の男子。数日前より肛門に激痛を発し、夜も眠れないという。大便は四~五日間なく、小便が昨朝より一滴も通じない。そのため腹が張り裂けそうな痛みで苦しさのために呻っている。脈は沈遅で力があり、膀胱に尿が充満している。肛門から臀部にかけて一体に腫脹し、肛門の周囲は手をふれることもできないほどの痛みである。
 カテーテルで導尿の後、大黄牡丹皮湯を内服させたところ、一日三~四回の下痢があり、翌日多量の悪臭膿を下し、自然排尿ができるようになった。
(大塚敬節氏 漢方診療三十年)


 (五) 赤痢の裏急後重と排尿困難
 四一歳の男子。朝にライスカレー、昼にアサリ飯などを過食して後、その日の夕方悪寒・頭痛・嘔吐を起こし、四肢厥冷、次いで体温三九度に上昇した。ヒマシ油で下したところ、夜半大腹痛を発して血便となり、翌日より排便回数は日に一〇数回、次の日は八〇回に及んだ。
 本方芍薬湯(芍薬四・〇、黄連・黄芩・当帰各三・〇、桂枝・木香・枳殻・檳榔・甘草各二・〇)を与えたところ、翌第三日は八回に減少し、体温も下降したのでよろこんだ。
 すると夜半に及んで排便時裏急後重甚だしく、腹痛絞るがごとく、全身痙攣を発するほどで、切歯振顫、顔面蒼白、眼を吊りあげ、冷汗流れるほどの苦痛で、その後少量の血便を出す。かつ小便は渋痛、尿意逼迫し尿意を催して排尿するまで一五分間もかかり、地獄の苦しみをするという。そこで大黄牡丹皮湯の大黄・芒硝各二・〇を与えたが効がなかった。これは内熱いまだ去らないのに芍薬・黄連・黄芩などで下痢を止めたために起こったものと思われる。
 その後大塚氏の意見により、大黄・芒硝各六・〇としたところ、大黄快通し、尿利快通し、逼迫感は脱然として軽快し、ほどなく快癒した。

 (六) 痔核脱肛 
 四九歳の男子。(以下著者の体験記である)和昭三〇年二月一五日発病、すでに昭和五年に不明の熱病にかかり解熱後痔核を発し、排便後脱肛を起こし、その病苦は形容に耐えざるほどであった。苦しむこと一週間、甘草煎の温湿布によって卓効をおさめ、そのときは治癒した。昭和二〇年南方生活中、湿地帯のジャングル内の無理によって再発したことがあった。このたびに再燃は研究室通いの冷えと、診療の多忙と、集会の連続で、飲酒と厚味食摂取過剰によるものと思わ罪る。
 体重六〇キロ(一六貫)、ここ数年間は病苦を知らなかった。二月中旬排便時出血、排便後脱肛を起こし、乙字湯・清肺湯などを服用したが、病状ますます悪化した。
 便意を催して上圊するが快通せず、肛門部に密栓をつめたようで、張りさけるような苦痛を感じる。辛うじて排便すると脱肛し、これを挿入するときの苦しみは言語に絶する。冷汗を流してやっと納まると肛門が痛み再び脱肛しそうになる。
 脈は洪大で力がある。臍傍に拘攣を触れ、左右下腹部に抵抗と圧痛がある。
 このとこ初めて第五例のことを思い出し、この窘迫(くんぱく)した下腹部の炎症と充血を瀉下するのは大黄牡丹皮湯以外にないと悟り、大黄・芒硝・瓜子各六・〇、牡丹皮・桃仁各四・〇を煎じて、一回に服用した。夜の十一時ごろである。翌朝七時に腹痛あり、上圊すると、肛門に堅く密栓を打ち込んでいたように思われていたものが一時に飛び出したという感じで、脱然として爽快を覚えた。この日二回の排便があり、痔核脱肛の苦痛から全く解放された。
 大黄・芒硝を二・〇とし、大黄牡丹皮湯を一週間続けて廃薬した。その後痔疾が根治したわけではないが、日常生活に支障なきまでになっている。
(著者体験、漢方の臨床 二巻五号・六号、誌上診察室)


漢方治療百話 第一集 矢数道明著 医道の日本社刊
p.84
赤痢様疾患に現われた大黄牡丹皮湯証

患者は○門 ○ 四十一襲、強壮の男子。
初診は昭和十二年十二月十日であるから、既に二十数年前のことである。
既往歴は患者は生来強健で、陸軍予備少尉である。約七年外に強行なる登山を敢行して風雨に遭い、それが動機で左側滲出性肋膜炎を発し、私が治療の任に当たって非常に短時日の間に全快したことがある。以来すこぶる健康で棒軍事研究所に勤務している。
現在症は約一ヵ月前に肉類の過食によって腸加答児を起こす、二、三日休養したことがある。昨日の夕方、大好物のライスカレーが大変上出来だったので、心行くまで満腹して寝に就き、今朝再びその料理を満喫して出勤した。昼食前に胃部の不快を覚えたが、食堂において当日の定食アサリ飯を普通に平げたという。その時いかにも不快な思いがあったという。ところが午後三時になるとにわかに悪寒ゐ覚え、また割れるような頭痛、そのうてひどい嘔吐を数回繰り返した。顔面は蒼白、四肢厥冷し、悪寒冷水を浴びるがごとくで、医務室に引き籠って軽快を待ったが、嘔き気と胃部の不快はなお去らず、体温は急に三十九度一分に昇り、すぐには快癒の見込みがつかなくなった。眼窩は陥み、顔色は土のようで、口唇の色も全く消え、疲労困ぱいの態で、軍医に送られ自動社で帰宅した。軍医は病因、病名全く不明なりと告げて去ったという。
 初診当時、私が往診した時は、頭痛は大分落ち付いて来たというところであった。検温してみると依然として三十九度を越えている。脈は沈んでいて力強く、緊脈である。体温の割に数は多くはない。舌は白苔乾燥し、心下を按ずれば痛み嘔き気を催す。自ら腹痛はさほど感じない。帰宅後ヒマシ油を飲み、灌腸をしたそうで大便は二回あった。腹満は大して著明でない。私は急性食餌中毒の診断を下し、大勢は数日を出でずして快癒すべきものと予測した。
 私はまず差し当たって、「嘔止まず、心下急鬱々微煩」によって大柴胡湯を処方し、大黄一・〇とし、残毒一掃を企てた。ところが私が帰った後で、家人はヒマシ油はいくら与えてもよいとて再び大量のヒマシ油を与えたとのことである。ところが夜半二時になると果然腹痛がはげしく、血便を排出したので非常に驚いたが、熱は翌朝までに三十七度二分に下降した。
 翌十一日、発病二日目には、排便回数一時間に十数回で、一日中には実に七~八十回、数え難いほどの猛烈な下痢血便となった。同時に腹痛はなはだしく、あるいは生姜汁の腰湯を使い、芥子の温湿布等で裏急後重を凌いだ。私は午後往診して思わぬ悪性な血便に驚き、隔離消毒を行い、処方を本方芍薬湯に変じ、この方を二日服用してしかも血便が去らなければ入院の必要があることをさとした。(本方芍薬湯の処方 芍薬四・〇 黄連 黄芩 当帰各二・〇 桂枝 木香 檳榔 甘草 枳殻 各一・〇 以上一日量)
 翌十二日、第三病日、午前中往診、本方芍薬湯を昨日午後より三貼服用したところ、朝九時にはほとんど血便を認めず、やや普通便に近いものが出た。回数も一日中に八回となったので、私は心中快哉を叫んで、入院の必要なしとて辞去した。ところがその夜の十一時頃、血便少量を排出し、ひどい腹痛で、全身痙攣を発し、歯を喰い絞り、手をわなわなと震わせて、顔面蒼白、両眼つりあがり、冷汗をびっしょりと流し、脈も絶え、心臓が止まるかと思われたという。この恐怖すべき排便腹痛の後患者は気持よく寝入ったとのことである。発病以来三日間食事は番茶に林檎汁、玄米スーブだけにした。患者は林檎汁を飲むときは生きかえったように思うという。この日の夜からは黄芩湯加大黄とした。熱は全く平常に近い。
 翌十三日の午前九時に至って、患者は再び昨夜よりさらに猛烈なる腹痛とともに血便を少し出し、続いて真黒い便を認めた。この時は全く、四肢厥冷、心臓が破裂し、いまにも呼吸が止み、五臓が働きを休止してしまうかと思われたと述懐している。この日の排便回数は十二回、黒便と同時に魚脳のようなものを下した。脈は沈遅で力は相当にあり、舌は黄苔厚く、腹はやや陥没して来たが、底に拘攣緊張が強く抵抗がある。この日二度往診。夕方腹痛はだんだん減少の気味であったが、左臍傍を按ずると痛み、拘攣はなはだしく、大便時の腹痛よりも、小便渋痛で、尿意逼迫の苦痛が顕著となり、尿意を催してから排尿の始まるまでに十五分から三十分もかかり、その間患者はまことに地獄の苦しみで、全身に冷汗を流し、咬牙上吊の態である。
 「類聚方広義」の桃核承気湯条に
 「血行利せず、上衝心悸、少腹拘急、四肢窘痺、或は痼冷の者を治す。淋家少腹拘急結、痛み腰腿に連り、茎中疼痛、小便涓滴通ぜざる者、利水剤の能く治する処に非ず、此方を用ゆれば則ち二便快利、苦痛立ちに除く」
 とある。また「方輿輗」の痢疾門、桃核承気湯条に
 「痢疾腹痛甚しく、裡急後重常ならずして、紫黒色のものを下すは瘀血なり、此症桃仁承気湯に非ざれば功を立つること能はず、其質実を認めて、初中末を問わず、下り物の紫黒或は魚脳髄の如きを下すを此れ瘀血の所為なりと知つて此湯を用ゆべし」
 とある。この二条文に照らせばまさに桃核承気湯の世面の証に疑いなしと、すなわち本方を調剤、大黄の量一回一・〇瓦とした。ところがこの方を服すること三貼、翌日の小便渋痛の様は大効ありとも覚えない。例の大腹痛はないが、この小便時の苦痛はまたそれち匹敵する苦しみであるという。
 そこで私は少からず焦慮を感じていたが、たまたま所用あって大塚敬節氏に面会し、右の経過の大要を語ったところ、氏の言われるには「か改て痔疾肛門周囲炎を病むものがあり、激痛で数夜寝られず号泣していた。下焦の病毒閉塞緊迫し、その尿意を催して苦しむ様、あたかもこの患者によく似ている。本痔疾患者には大黄牡丹皮湯で大いに下したらその苦痛脱然として霧散したことがある。私は未だ痢疾に大黄牡丹皮湯を与えた経験はないが、異病同証で試みに本方で大いに下したらよいのではないか」とのことであった。それで大黄牡丹皮湯、大黄芒硝の量各二・〇瓦として二貼を与え、翌日の午後になったが未だ大効があったとも思えない。そこでついに大塚氏に往診をねがった。これは正しく実証であるから大いに下すほどよい。大黄、芒硝各五乃至六瓦とすればかえって苦痛は速かに治るであろうと。同時に下腹および肛門部、腰部を充分に温めさせた。懐炉がいちばん気持がよいという。すなわちその指示のようにしたところ、翌日小便時の不快は七割を減じ、二日にしてほとんど排尿は意のごとしという。本方を服して三日目には膿血全く去り、十八日には病苦一掃し食欲進み、二十日には全く普通便となった。食事も次第に普通食とし、二十六日、すなわち発病以来十八日目に起床出勤することができた。この激症十八日間の臥床呻吟にもかかわらず悠々闊歩して出勤しえて、その後なんら支障がなかったのはまことに幸というべきである。
 「漫游雑記」に
 「一医一男子の下痢に桂枝附子湯を与えて、下痢益々多く独嘯庵先生にはかる。先生其の脈腹を按じて、この証極めて附子に宜し。附子を与えて利止まざるの理なし。抑々附子の量如何と、一医毎貼或は六分或は七分と答えたるに、先生是れ過用其毒に耐えず、よろしく毎貼二分或は三分とすべしと。一医先生の言の如くして二日にして下痢止み数日にして平常に復した」
 というのがある。独嘯庵の言、大塚氏の言共にその軌を一にし、病状と薬量の間にはこのような微妙な関係があるのである。本患者の大黄牡丹皮湯は逆に大黄芒硝を各六瓦として初めて所期の効を得たのであった。
※『類聚方広義』の桃核承気湯条の「~苦痛立ちに除く」は、「~苦痛立どころに除く。」
 淋家=淋病の人。あるいは小便の出が細く、タラタラと長くかかる人。
  小便涓滴(しょうべんけんてき)=小便の出が悪く、したたること。

明解漢方処方 西岡 一夫著 ナニワ社刊 
p93
大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう) (金匱)

 処方内容 大黄二・〇 牡丹皮 桃仁 芒硝各四・〇 冬瓜子六・〇(二〇・〇) 大黄、芒硝の量は大便快通する程度に加減して用いる。

 必須目標 ①下腹部に化膿性の腫瘍、または凝結を認める(押えると劇痛を訴える) ②便秘 ③小便快通せず ④脉は遅緊脉 ⑤壮実体質 

 確認目標 ①脉は絶対数(さく)ではない。(もし数(さく)のときは陽証なら排膿散及湯、陰証なら薏苡附子敗醤散を考える) ②発熱 ③自汗出 ④悪寒 ⑤血便


 初級メモ ①本方の凝結は瘀血塊ではなく、腫痞である。その区別は、瘀血塊は押えても痛み左程強くないが腫物は押えると劇痛する。また血塊は触れてみると、皮膚と塊がハダハダの感じだが、腫物は塊と皮膚とが一体になって離れた感じがない(南涯説)。
 ②誰の説であったか、「瘀血に実熱が乗じると膿を生じる」と古人の書にあった。即ち本方の薬理がよくそれを示している(牡丹皮、桃仁は駆瘀血剤。大黄、芒硝は実熱を瀉す薬)
 ③急性虫垂炎に用いるときは、相当増量して頓服する方がよい。ただし初期であることが絶対必要である。

 中級メモ ①原典にある腸癰を腸内の化膿と狭く解釈せず、少腹内の腫物と広く採る方が応用が効いて便利である。そうすると腫痞の個所も虫垂炎のように右下腹に局限せず、下腹部の何処であっても良いことになる。
 ②化膿症に用いる場合、既に潰れて膿の出ているときは伯州散の兼用を考える。という説もある、ただし伯州散は陰証に用いる湿薬である点で少しためらいを感じさせる。
 ③鼓脹して青筋を現わす腹証は本方の適応証(静脉鬱血)が多い。
 ④本方と桃核承気湯の区別は、本方は小便快通せず、桃核承気湯は快通するの点にあり(浅田宗伯) また先述の腫痞と瘀血塊の触診でも区別出来る。また本方は桂枝ないため上衝がない。
 ⑤一般説に従って、目標に数脉は用いない、としたが南涯の説によると、たとえ 「洪数脉で膿すでに成る」場合でも膿潰していないときは本方を用い、膿潰した場合に限り薏苡附子敗醤散を与える、という。果してこの説が正しいかどうか不明だが、盲腸医師の異名ある安西安周氏の治験例をみても、どうも南涯説が妥当のようである。
 ⑥南涯「裏より内までなり。血滞って熱を作し、外に水ある者を治す。その症に曰く、小腹腫痞は水あるをもってなり。之を按じて則ち痛み淋の如くは血滞るなり。発熱自汗出る者は熱となす。この方鼓脹青筋出る者を治す、小便快利すれば則ち愈ゆ」。

 適応証 虫垂炎の初期。痔疾。化膿症(腹部が多い) 無月経による腹満(青筋鼓脹)。 淋疾。子宮及附属炎。


 類方 腸癰湯(集験方)
 本方より大黄、芒硝を去って、薏苡仁九・〇を加えた処方で、陽虚証体質の慢性盲腸炎に用いる。

文献 「大黄牡丹皮湯について」 竜野一雄 (漢方と漢薬 10、12、34。11、2、1。11、3.、19)
「大黄牡丹皮湯の腸癰における私考」 高橋道史 (漢方の臨床4、8、22)
「化膿甚しき盲腸炎治験」 多々良素 (同10、3、55)


副作用
 1) 重大な副作用と初期症状
   特になし
 2) その他の副作用
   消化器:食欲不振、腹痛、下痢等
   [理由]  本剤には大黄(ダイオウ)・芒硝(ボウショウ) が含まれているため、食欲不振、腹痛、 下痢等の消化器症状があらわれるおそれがあるため。 
  [処置方法]  原則的には投与中止により改善するが、病態に応じて適切な処置を行う。


 

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